ターミナルバリュー
目次
ターミナルバリュー(TV: Terminal Value)
1. 定義と本質
ターミナルバリューは、DCF 分析の明示的予測期間(通常 5-10 年)の末尾において、それ以降の永続的なキャッシュフローを現在価値に集約した数値である。
本質: DCF の企業価値の 60-80% を占めることが多く、TV の前提が DCF 評価を実質的に決定する。「TV は DCF の本体である」と言っても過言ではない。
FP&A視点での重要性:
- 中期計画(5年)の末尾以降を「定常状態」と仮定する前提 = 永続成長率 g の妥当性
- 設備投資・運転資本投資が定常化する前提(投資 = 減価償却)
- M&A 価格交渉での最大の論点(売り手は g を高く、買い手は低く主張)
2. 計算式・データソース
手法A: 永続成長モデル(Gordon Growth Model)
TV_n = FCF_{n+1} / (WACC − g)
PV(TV) = TV_n / (1 + WACC)^n
FCF_{n+1}= 予測最終年(n年目)の翌年 FCFg= 永続成長率(通常 0-3%、長期 GDP 成長率を上限)WACC= 加重平均資本コスト → WACC算出
手法B: Exit Multiple法
TV_n = EBITDA_n × Exit Multiple
PV(TV) = TV_n / (1 + WACC)^n
- 同業他社の EV/EBITDA 中央値(類似企業比較分析(CCA))または取引倍率(取引事例比較分析(CTA-PTA))を適用
- 8-10 倍が製造業の典型値
検算: 手法AとBの整合性
両手法で算定した TV が大きく乖離する場合、g または Exit Multiple のどちらかが業界実態と離れている。必ず両方計算してクロスチェック。
3. 業界別の典型レンジ・落とし穴
永続成長率 g の業界別目安
| 業界 | g レンジ | 根拠 |
|---|---|---|
| SaaS / 成長IT | 3-5% | 市場拡大が長期化 |
| 半導体・電子部品 | 1-3% | サイクル平均化 |
| 製造業(成熟) | 0-2% | GDP 成長並み |
| 公益・インフラ | 0-1% | 規制下で成長限定 |
| 商社・卸 | 0-1% | 低成長セクター |
| 医薬(後発) | 0-2% | 価格下落圧力 |
| 不動産 | 0-2% | インフレ程度 |
落とし穴
- g を WACC に近づけすぎる: g = 4%, WACC = 5% にすると分母が小さくなり TV が爆発的に膨らむ → g は WACC × 0.4 以下 が安全
- GDP 成長率超過は厳禁: g > 長期 GDP 成長率 = 永続的に経済全体を上回る = 数学的におかしい
- 明示予測期間が短すぎる: 5年では未到達なまま定常化 → 7-10 年が無難
- FCF_{n+1} の正規化: 最終年が一時的な大型投資・資産売却を含む場合は補正が必要
- Exit Multiple の時期選定: バブル期の倍率を使うと過大評価
4. 実例(既存業界レポートとリンク)
- DCF分析 §2 計算式 — TV を含む DCF 全体構造
- タツモ — 半導体装置の DCF で TV 占有率と g の感応度
- 感応度・シナリオ分析 — g と WACC の組み合わせ感応度
5. 自分への問い(理解度確認 3問)
- TV が DCF 価値の 60-80% を占めるとはどういう意味か? これが意味するリスクは何か?
- g = 2%, WACC = 8% で TV を計算せよ。次に g = 3% にすると TV はどう変化するか? 実際の数値で確認。
- 手法A(永続成長)と手法B(Exit Multiple)で TV が 30% 乖離した場合、どちらを採用すべきか? その判断基準は?
関連
- DCF分析 / WACC算出 / 類似企業比較分析(CCA) / 取引事例比較分析(CTA-PTA)
- 感応度・シナリオ分析 / バリュエーション乖離の解釈
- FP&Aカード共通スキーマ §5 適切な評価手法