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重工業セグメント分析

【経済・輸送用機器】輸送用機器セグメント分析更新 2026-06-10

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目次
  1. 1. Executive Summary
  2. 2. 市場定義とスコープ
  3. 2-1. 対象範囲
  4. 2-2. セクターの本質 — 受注産業という時間構造
  5. 3. 市場規模と成長予測
  6. 3-1. 主要市場の規模感
  7. 3-2. 防衛 — 最大かつ最も確実性の高い需要源
  8. 3-3. エネルギー — データセンターが火を点けたガスタービン
  9. 3-4. 民間航空・造船
  10. 4. バリューチェーン分析
  11. 5. 競争構造
  12. 5-1. 5フォース分析
  13. 5-2. ポジショニングマップ(2軸: 航空・防衛・宇宙比率×エネルギー事業比率)
  14. 5-3. 世界での立ち位置
  15. 6. 上場企業財務比較
  16. 6-1. 最新期(FY2025相当)サマリー
  17. 6-2. 5か年推移ハイライト
  18. 6-3. セグメント別売上構成
  19. 6-4. EV/EBITDA 中央値
  20. 6-5. 受注高・受注残高 — 受注産業の「ダムの水位」
  21. 7. FP&A断面(共通スキーマ7項目)
  22. 7-1. 収益ドライバー式
  23. 7-2. コスト構造原型
  24. 7-3. 運転資本論点
  25. 7-4. 資本集約度
  26. 7-5. 適切な評価手法
  27. 7-6. 経営の打ち手
  28. 7-7. 規制・産業政策
  29. 8. 規制・技術トレンド
  30. 8-1. 規制・政策(直近2年の確定事項)
  31. 8-2. 技術トレンドと今後3年の展望
  32. 9. 投資視点
  33. 9-1. なぜ今・誰が勝つ・何がリスクか
  34. 9-2. 注目銘柄候補
  35. 10. 用語集・出典
  36. 専門用語集
  37. 出典
  38. 11. 関連レポート・データ取得検証
  39. 関連レポート

重工業セグメント分析

TOPIX-17: 輸送用機器(サブ業界: 重工業) | 対象3社 | 財務基準日: 各社FY2025有報(period_end=2025-03-31) | 株価基準日: 2026-05-01 関連: 重工業業界基礎ガイド / 輸送用機器業界基礎ガイド / 輸送用機器セグメント分析


1. Executive Summary

重工業3社(三菱重工業・川崎重工業・IHI)は、自動車のような「量産・見込み生産」ではなく、受注してから数年かけて作り、引き渡して売上になる「受注産業」 である。
したがって業績の先行指標は今期の売上ではなく受注高と受注残高(将来の売上のストック。ダムの貯水量にあたる)であり、FY2025はこの貯水量が3社とも歴史的水準に積み上がった。
三菱重工業は「受注高、売上収益、事業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益のいずれも、過去最高を更新した」(三菱重工業 mda, FY2025)と明言し、EDINET MCP集計の期末受注残高は10兆2,363億円(百万円開示値を÷100で億円換算)に達する。
IHIはPW1100G-JM問題による前期営業赤字から一転、営業利益1,435.2億円・ROE23.4%へV字回復した。

需要の二大エンジンは 防衛(2023〜27年度総額約43兆円の防衛力整備計画、2026年度予算案は初の9兆円台)と、生成AI・データセンター起点の発電用ガスタービン需要 である。
前者は国家予算という極めて確実性の高い財源に裏打ちされ、後者は三菱重工業が世界シェア首位(2023年出力ベース36%と報じられている)。
一方で、川崎重工業・IHIの品質不正事案、H3ロケット8号機の打ち上げ失敗、脱炭素の揺り戻しリスクなど、受注産業特有の「一発の損失・信用毀損」リスクも顕在化している。

キーメッセージ:

  1. 重工3社は防衛×エネルギーの国策二本柱で受注残が空前の水準。報道ベースで三菱重工業10兆7,000億円・川崎重工業2兆7,000億円・IHI1兆5,000億円超(2026年2月時点)とされ、数年分の売上の可視性が高い
  2. 収益性は営業利益率6.7〜8.8%(算出値※)と改善途上。各社とも利益率目標(三菱重工業: 事業利益率8%以上、川崎重工業: 2027年度8%、IHI: 7.5%)を公式に掲げ、防衛調達の利益率引き上げ(最大15%)が追い風
  3. リスクは品質不正(川崎重工業・IHI)、PW1100G-JM損失の残存、脱炭素前提の変化、そしてバリュエーション(IHIのEV/EBITDA15.3倍は1社のみの参考値ながら期待の織り込みを示唆)

※営業利益率=営業利益÷売上高(Fact Sheet掲載の2値からの算出値)。


2. 市場定義とスコープ

2-1. 対象範囲

本分析はTOPIX-17「輸送用機器」(companies/transport.yaml 正典)のうち、subcategory=重工の3社を対象とする。重工大手3社で上場重工セクター売上の大半を占める
三井E&SはTOPIX-17で機械分類のため対象外であり、造船専業の今治造船(非上場)・JMU(非上場、2026年1月に今治造船の連結子会社化)も上場会社でないため対象外とした。

# 社名 EDINET 証券コード 業態 会計基準 決算月 特色
1 三菱重工業 E02126 7011 総合重工(エナジー・防衛・プラント) JGAAP表記 3月 国内防衛調達最大手。発電用ガスタービン世界首位級。原子力・H3ロケット
2 川崎重工業 E02127 7012 総合重工(航空宇宙・車両・パワースポーツ) JGAAP表記 3月 防衛2位(潜水艦・P-1/C-2)。二輪等パワースポーツという民生消費財を併有。水素に先行投資
3 株式会社IHI E02128 7013 航空エンジン軸の総合重工 JGAAP表記 3月 日本のジェットエンジン生産の約7割。防衛省航空エンジンの主契約者。民間エンジンのアフターマーケットが成長軸

会計基準の表記はCLIスナップショット由来(JGAAP)。
ただし3社の有報本文は「売上収益」「事業利益」「親会社の所有者に帰属する当期利益」というIFRSベースの用語を用いている(qual抜粋のMD&A引用参照)。
本レポートの財務数値はスナップショット(Fact Sheet)の値をそのまま用いる。

2-2. セクターの本質 — 受注産業という時間構造

重工業の本質は 「個別受注生産×長期工期」の時間構造 にある。
ガスタービン・艦艇・航空エンジン・プラントは受注から引き渡しまで数年を要し、売上は工事の進捗に応じて計上される(工事進行基準。マラソンの通過タイムごとに賞金が分割払いされるイメージ)。
このため、(1)今期のP/Lは数年前の受注の結果であり、(2)将来のP/Lは受注残高にほぼ書き込まれており、(3)見積りを誤れば工事損失引当という形で一括で損失が噴出する。
本レポートが受注高・受注残高(§6-5)を財務比較の中核に据えるのはこのためである。
例外は川崎重工業のパワースポーツ&エンジン事業(二輪等)で、これは見込み生産の消費財ビジネスであり、受注高≒売上収益となる(有報注記)。


3. 市場規模と成長予測

3-1. 主要市場の規模感

市場 規模 成長見通し 出典
世界軍事支出 2024年に名目2兆7,182億ドル(約388兆円) 実質前年比+9.4%で冷戦終結後最大の伸びとされる [R1][M19]
日本の防衛関係費 2026年度予算案9兆353億円(初の9兆円台、前年度当初比+3.8%) 12年連続で過去最大。2023〜27年度の防衛力整備計画は総額約43兆円 [G1][G2][M1][M2]
重工3社の防衛事業売上 2024年度に3社合計1兆3,786億円(前年度比+35%)と報じられている 各社とも2030年度に向けた拡大目標を公表 [M3][M4]
発電用ガスタービン世界市場 2026年は70〜100GW程度との三菱重工業社長見通し(2026年5月12日) データセンター電力需要・老朽火力建て替えで高水準継続と見られる [M13][M14]
航空機アフターマーケット部品 2025年543.4億ドル 2032年935.2億ドル・CAGR8.0%と予測される [R2]
国内造船 2035年までに建造量を2024年比で倍増の1,800万総トンへ引き上げる政府目標 民間主要造船は3,500億円の設備投資を検討 [G6]

3-2. 防衛 — 最大かつ最も確実性の高い需要源

防衛力整備計画(2022年12月16日閣議決定)は2023〜2027年度の5年間で総額約43兆円の防衛力整備を定めた[G2][G3]。
2025年度当初予算の防衛力整備計画対象経費は8兆4,748億円(前年度比+9.7%)、2026年度予算案の防衛関係費は9兆353億円と初の9兆円台に乗った[G1][G2][M1]。
GDP比2%目標は2025年度に前倒しで達成されたと報じられ、高市政権は2026年中に安保3文書を改定予定で2027年度以降も拡大見通しとされる[M2]。
需要の確実性が国家予算で担保される点が、民需主体の他の機械セクターとの決定的な違いである。

この需要は3社のP/Lに直接表れている。
主な相手先別販売実績として「防衛省 704,181百万円、割合14.0%(前期489,778百万円、10.5%)」(三菱重工業 mda, FY2025)、「防衛省 400,890百万円、割合18.8%(前期288,510百万円、15.6%)」(川崎重工業 mda, FY2025)と、いずれも防衛省向けが急増した。
各社の防衛事業計画は、三菱重工業が2024〜26年度に年間1兆円規模、川崎重工業が2030年度に5,000億〜7,000億円、IHIが2030年度に2,500億円とされる[M3]。

3-3. エネルギー — データセンターが火を点けたガスタービン

生成AIの普及によるデータセンター電力需要の急増と老朽火力の建て替えにより、発電用ガスタービンは世界的な争奪戦になっていると報じられている[M12][M15]。
納期は2030年代まで延びるケースがあり、JERA社長の「納期が長期化するだけでなく、価格が跳ね上がっている」との発言が伝えられる[M15]。
三菱重工業の2024年度GTCC事業は大型ガスタービン25台を受注し受注高1兆4,744億円と過去最高を更新[M29][C2]、生産能力を2年で倍増する方針と報じられている[M12]。
米McCoy社調査の二次引用では世界の年間発注量は2024年57.4GW、2025年は年間70GW程度と予測される(要一次確認)[M14]。

3-4. 民間航空・造船

民間航空エンジンは新製よりもスペアパーツ・整備(アフターマーケット)が成長の主戦場で、世界の旅客需要はコロナ禍以前を上回って拡大を継続している(IHI統合報告書2025)[C9]。
造船は国土交通省「造船業再生ロードマップ」(2026年1月)が2035年建造量倍増目標を掲げ[G6]、日米造船協力覚書(2025年10月28日)で対米協力の枠組みが立ち上がった[G4]。
米国造船力は中国の500分の1と報じられ、日韓を巻き込んだ再建競争が始まっている[M22]。


4. バリューチェーン分析

graph LR
    subgraph 需要側_国策と社会インフラ
        MOD[防衛省・防衛装備庁]
        UTIL[電力会社・データセンター]
        AIR[エアライン・エンジンOEM]
        GOV[政府・自治体・海運]
    end
    subgraph 重工3社
        MHI[三菱重工業<br/>GTCC・原子力・防衛・宇宙]
        KHI[川崎重工業<br/>航空宇宙・潜水艦・車両・水素・二輪]
        IHI[IHI<br/>航空エンジン・防衛・社会基盤]
    end
    subgraph 供給側
        MAT[素材・鍛造・電子部品]
        TIER[協力会社・サプライヤー網]
    end
    MAT --> MHI & KHI & IHI
    TIER --> MHI & KHI & IHI
    MHI --> MOD & UTIL & GOV
    KHI --> MOD & AIR & GOV
    IHI --> MOD & AIR & UTIL

付加価値の源泉は3層に分解できる。
第1層は 設計・インテグレーション能力(ガスタービンの高温燃焼技術、潜水艦の静粛性、ジェットエンジンの推力技術など、数十年の蓄積が参入障壁となる擦り合わせ技術)。
第2層は 長期アフターマーケット(エンジンのスペアパーツ・MRO、プラントの保守。機体・設備を納めた後に数十年続く消耗品ビジネスで、利益率が新製より高いとされる[C9][R2])。
第3層は 国との関係資本(防衛調達の主契約者地位、原子力・宇宙の国家プログラム参画)。
川崎重工業のパワースポーツ&エンジンだけは例外的にB2C消費財の量産バリューチェーンであり、北米市場のオフロード四輪が主力とされる[M39]。


5. 競争構造

5-1. 5フォース分析

要因 防衛 エネルギー(GT・原子力) 民間航空エンジン 造船・社会基盤
新規参入脅威 極めて低(国家認証・機密・長期実績) 低(技術蓄積・実績障壁) 低(OEM寡占への参画障壁) 中(中韓勢の規模攻勢)
供給者交渉力 中(素材・部品の供給制約) 中(鋳鍛造・素材逼迫[M28]) 中(粉末金属等の品質問題[C5])
買手交渉力 高→中(防衛省一社購買だが利益率算定見直しで改善[M23]) 中(売り手市場化[M15]) 高(OEM主導のリスクシェア) 高(船主・国際競争)
代替品脅威 中(再エネ・蓄電池の長期代替)
競争激化度 低(国内3社の住み分け) 中(GE・シーメンスと世界3強、斗山が参入を図ると報じられる[M16][M17]) 中(国際コンソーシアム内の地位争い) 高(中韓との価格競争)

国内防衛は 3社の住み分けがほぼ固定された寡占構造 である。
三菱重工業が艦艇・戦車・ミサイル・戦闘機機体の最大手、川崎重工業が潜水艦・P-1哨戒機/C-2輸送機・ヘリコプターの2位、IHIが航空エンジン(戦闘機用は全機種担当、日本のジェットエンジン生産の約7割)とされる[M3][M27][C10]。
買い手は事実上防衛省一社だが、調達利益率の算定見直し(一律約8%→企業の取り組み評価に応じ最大15%)により、長年の「儲からない防衛事業」からの構造転換が制度面で進む[M23][G5]。

5-2. ポジショニングマップ(2軸: 航空・防衛・宇宙比率×エネルギー事業比率)

セグメント構成比(§6-3のEDINET MCP値)に基づく定性マップ。quadrant図の代わりに表形式で示す。

航空・防衛・宇宙比率\エネルギー比率 エネルギー比率 低〜中(〜25%程度) エネルギー比率 高(30%超)
高(30%超) IHI — 航空・宇宙・防衛が構成比約38%(FY2020 MCP値)の航空エンジン特化型。民間AM×防衛エンジンの二毛作 —(該当なし)
中(20〜30%) 川崎重工業 — 航空宇宙26.67%に加えパワースポーツ&エンジン28.62%という民生消費財を併有する多角型 三菱重工業 — エナジー35.88%が最大セグメント。GTCC・原子力×航空・防衛・宇宙20.47%の国策二本柱

読み方: 右上(防衛×エネルギー両睨み)に近いほど現在の国策需要の二本柱を同時に取り込める。
三菱重工業は規模とエネルギーで突出し、IHIは防衛・航空への集中度で突出する。
川崎重工業は分散が最も広く、消費財(二輪)と受注産業の混成という特異なポートフォリオを持つ。

5-3. 世界での立ち位置

発電用ガスタービンは2023年出力ベースで三菱重工業36%・GEベルノバ27%・シーメンス・エナジー25%、大型機に限ると三菱重工業56%と報じられ、世界首位グループにある[M16]。
造船は今治造船によるJMU子会社化(2026年1月5日付で出資比率60%、IHIは35%→20%に低下)で国内集約が進み[M20][M21]、米国市場を巡っては韓国がMASGAプロジェクト(総額1,500億ドルの対米造船投資)で先行し、日本は日米造船協力覚書で対抗・協調する構図とされる[R4][M22][G4]。
GCAP(日英伊次期戦闘機)では三菱重工業がJAIEC経由で機体合弁Edgewingに、IHIがロールス・ロイス等とのエンジンコンソーシアムに参画し、国際共同開発の中核に位置する[M6][C11]。


6. 上場企業財務比較

財務数値はCLIスナップショット(Fact Sheet、market_data_as_of=2026-05-01)の値をそのまま掲載しており、LLMによる再計算・換算は行っていない(営業利益率のみ算出値として脚注付きで別掲)。
provenanceタグ付きの原本は文末のdetailsブロックに収録。

6-1. 最新期(FY2025相当)サマリー

EV/EBITDA 凡例 †: EDINET DB APIがIBD(短期借入金・長期借入金・社債・リース負債)を返さない社につき算出不可。
推測値で補完しない(v2.5 ibd_source=unavailable)。

企業 FY 売上高(億円) 営業利益(億円) ROE(%) EV/EBITDA(x) 会計基準
川崎重工業 FY2025 21,293.2 1,431.2 12.5 -† JGAAP
株式会社IHI FY2025 16,268.3 1,435.2 23.4 15.3 JGAAP
三菱重工業 FY2025 50,271.8 3,832.0 10.5 -† JGAAP

参考: 営業利益率(算出値※)

企業 営業利益率(%)※
三菱重工業 7.6
川崎重工業 6.7
株式会社IHI 8.8

※営業利益÷売上高(Fact Sheet掲載の営業利益・売上高からの算出値。小数第2位四捨五入)。
各社の利益率目標は三菱重工業「事業利益率8%以上」(policy, FY2025)、川崎重工業「2027年度までに8%」(policy, FY2025)、IHI「営業利益率7.5%」(policy, FY2025)。

興味深いのは、売上規模が3社で約3倍違う(5.0兆円/2.1兆円/1.6兆円)にもかかわらず、営業利益の絶対額では川崎重工業1,431.2億円とIHI1,435.2億円がほぼ並び、IHIの利益率が最も高いことである。
民間航空エンジンのアフターマーケットという高採算ストック収益の寄与が、規模の差を補っている構図と見られる[C9][C13]。

6-2. 5か年推移ハイライト

三菱重工業(E02126)

FY 売上高(億円) 営業利益(億円) 純利益(億円) 営業CF(億円) ROE(%) 自己資本比率(%)
FY2021 36,999.5 540.8 406.4 -949.5 3.0 28.4
FY2022 38,602.8 1,602.4 1,135.4 2,855.6 7.2 30.8
FY2023 42,028.0 1,933.2 1,304.5 808.9 7.5 31.8
FY2024 46,571.5 2,825.4 2,220.2 3,311.9 9.9 35.9
FY2025 50,271.8 3,832.0 2,454.5 5,304.6 10.5 35.2

売上はFY2021の36,999.5億円からFY2025の50,271.8億円へ、営業利益は540.8億円から3,832.0億円へと、5年間で利益体質が一変した。
注目は FY2025の営業CF5,304.6億円が純利益2,454.5億円の2倍超 に達している点で、受注産業特有の前受金(顧客からの着手金)流入が受注拡大局面でキャッシュを先に運んでくる構造を示す。
自己資本比率も28.4%→35.2%へ着実に厚みを増し、「ROE10.7%」(三菱重工業 mda, FY2025)と2024事業計画の目標(ROE12%以上)に接近している。

川崎重工業(E02127)

FY 売上高(億円) 営業利益(億円) 純利益(億円) 営業CF(億円) ROE(%) 自己資本比率(%)
FY2021 14,884.9 -53.0 -193.3 346.0 -4.2 22.1
FY2022 15,008.8 303.7 126.4 1,568.9 2.5 23.2
FY2023 17,256.1 823.5 530.3 236.2 9.2 23.4
FY2024 18,492.9 462.0 253.8 316.6 4.0 23.7
FY2025 21,293.2 1,431.2 880.0 1,489.4 12.5 23.3

FY2021のコロナ禍赤字(営業-53.0億円・純損失-193.3億円)から回復したが、FY2024はPW1100G-JM関連損失等で462.0億円へ落ち込むなど、回復経路は3社で最も凸凹している。
FY2025は「連結受注高は前期比5,472億円増加の2兆6,307億円、連結売上収益は前期比2,800億円増収の2兆1,293億円、事業利益は前期比969億円増益の1,431億円」(川崎重工業 mda, FY2025)と過去最高圏に到達。
ただし 自己資本比率は5年間23%前後で横ばい であり、三菱重工業(35.2%)との資本の厚みの差が成長投資・リスク許容度の制約になり得る。
同社は「事業利益率は6.7%、税後ROICは8.0%、ROEは13.2%となりました。資本コスト(WACC)は7%台と算出しています」(mda, FY2025)と資本コスト対比の開示を行う。

株式会社IHI(E02128)

FY 売上高(億円) 営業利益(億円) 純利益(億円) 営業CF(億円) ROE(%) 自己資本比率(%)
FY2021 11,129.1 279.6 130.9 363.8 4.3 16.4
FY2022 11,729.0 815.0 660.6 1,141.5 17.3 20.3
FY2023 13,529.4 819.9 445.4 541.2 10.3 22.2
FY2024 13,225.9 -701.4 -682.1 621.2 -18.1 17.9
FY2025 16,268.3 1,435.2 1,127.4 1,776.3 23.4 21.5

FY2024はPW1100G-JM追加検査プログラム関連でROE-18.1%まで沈んだが、FY2025は「営業利益は…民間向け航空エンジンの大幅な増収により、2,136億円増益の1,435億円となりました」(IHI mda, FY2025)とV字回復した。
ROE23.4%は3社最高だが、前期損失で自己資本が圧縮された後の回復(equity 3,759.9億円→4,817.3億円)という分母効果も含む点に注意。
自己資本比率21.5%は3社で最も低く、財務レバレッジが高めの収益構造である。
2025年度(2026年3月期)は受注高・売上収益・営業利益・当期利益のいずれも過去最高となる見通しと会社側が説明している(推定調・Fact Sheet外につき金額は記載しない)[C13][M41]。

6-3. セグメント別売上構成

セグメント別売上はEDINET MCP get_segments の百万円開示値を÷100で億円換算した値(換算注記)。
構成比・前年比はAPI返り値。
三菱重工業・川崎重工業はAPIがセグメント利益を返却しないため「—」と表記し、利益の定性情報はMD&A引用で補う。
対応するmcp_factタグは文末detailsブロックに収録。

三菱重工業(FY2025)

セグメント 売上収益(億円) 構成比(%) 前年比(%) セグメント利益
エナジー 18,038.8 35.88 +5.21 —(API未返却)
物流・冷熱・ドライブシステム 13,026.7 25.91 -0.59 —(API未返却)
航空・防衛・宇宙 10,292.9 20.47 +30.23 —(API未返却)
プラント・インフラ 8,061.8 16.04 +1.19 —(API未返却)

百万円開示値を÷100で億円換算。航空・防衛・宇宙が前年比+30.23%と突出 し、防衛費増額の取り込みが最も速い。
エナジーは最大セグメントとして「受注高は、エナジーセグメントをはじめ全てのセグメントで増加し、前連結会計年度を3,872億24百万円(+5.8%)上回る7兆712億59百万円となった」(mda, FY2025)受注拡大の中核。

川崎重工業(FY2025)

セグメント 売上収益(億円) 構成比(%) 前年比(%) セグメント利益
パワースポーツ&エンジン事業 6,093.6 28.62 +2.86 —(API未返却)
航空宇宙システム事業 5,678.4 26.67 +43.33 —(API未返却)
エネルギーソリューション&マリン事業 3,981.4 18.70 +12.71 —(API未返却)
精密機械・ロボット事業 2,415.0 11.34 +5.95 —(API未返却)
車両事業 2,223.1 10.44 +13.46 —(API未返却)

百万円開示値を÷100で億円換算。
MD&A記載のFY2025事業利益率は「航空宇宙9.8/車両3.8/エネルギー&マリン11.1/精密機械・ロボット2.9/パワースポーツ&エンジン7.9/全社6.7」(%、mda, FY2025。get_segmentsの返り値ではない)。
航空宇宙が+43.33%と急伸し防衛・民間航空の回復を映す一方、見込み生産のパワースポーツ&エンジンが依然最大セグメントで、受注産業と消費財の混成構造がわかる。

株式会社IHI(FY2020 — API最新収録年度)

IHIはFY2025指定でget_segmentsが返却なし(FY2021以降の構造化データがAPI未収録)のため、最新収録年度の FY2020(2020年3月期)値 を掲載する。
FY2025の構造は表直下のMD&A引用で補足する。

セグメント 売上収益(億円) 営業利益(億円) 利益率(%) 構成比(%) 前年比(%)
航空・宇宙・防衛 4,788.4 403.5 8.43 37.91 -2.31
産業システム・汎用機械 3,960.1 114.5 2.89 31.35 -8.21
資源・エネルギー・環境 3,238.6 47.2 1.46 25.64 -13.59
社会基盤・海洋 1,423.8 135.0 9.48 11.27 +7.24

百万円開示値を÷100で億円換算(営業利益も同様)。
利益率・構成比・前年比はAPI返り値。
FY2025の最新構造はMD&Aに「FY2025セグメント別売上収益/営業損益(億円): 資源・エネルギー・環境4,114/161、社会基盤1,623/94、産業システム・汎用機械4,848/108、航空・宇宙・防衛5,557/1,227」(mda, FY2025)と開示されており、FY2020時点から一貫して航空・宇宙・防衛が最大かつ利益の大半を稼ぐ構造が強まっている。

6-4. EV/EBITDA 中央値

項目
利用可能社と倍率 株式会社IHI 15.3x
中央値 15.3x(1社のみのため参考値)
除外社(-†) 三菱重工業・川崎重工業

6-5. 受注高・受注残高 — 受注産業の「ダムの水位」

EDINET MCP get_order_backlog(FY2025)の百万円開示値を÷100で億円換算した値。対応するmcp_factタグは文末detailsブロックに収録。

三菱重工業(FY2025)

セグメント 受注高(億円) 受注残高(億円)
エナジー 26,224.7 49,184.4
プラント・インフラ 10,002.1 17,053.6
物流・冷熱・ドライブシステム 13,305.3 793.6
航空・防衛・宇宙 21,001.4 35,145.8
その他 846.3 182.4
合計 70,712.6 102,363.0

川崎重工業(FY2025)

セグメント 受注高(億円) 受注残高(億円)
航空宇宙システム 8,829.0 13,019.4
車両 2,515.7 5,197.9
エネルギーソリューション&マリン 5,420.7 8,253.6
精密機械・ロボット 2,492.8 914.1
パワースポーツ&エンジン 6,116.0 22.4
その他 933.3 419.9

パワースポーツ&エンジンは主として見込み生産(受注高≒売上収益)。当期に個別受注案件を獲得したため受注残高を初表示(有報注記)。APIに合計行なし。

株式会社IHI(FY2025)

セグメント 受注高(億円) 受注残高(億円)
資源・エネルギー・環境 3,703.1 4,376.2
社会基盤 1,667.6 2,170.5
産業システム・汎用機械 4,844.0 2,061.4
航空・宇宙・防衛 7,200.0 6,059.3
合計 17,511.4 14,873.5

合計には「その他」「調整額」を含む(有報注記)。航空・宇宙・防衛の受注高+69.9%はPW1100G-JM追加検査プログラム影響による前年度受注減の反動(有報注記)。

読み解き: 三菱重工業の受注残高10兆2,363億円は売上収益(50,271.8億円)のおよそ2年分に相当する規模 で、エナジー(4.9兆円)と航空・防衛・宇宙(3.5兆円)に厚く積まれている。
これはGTCC・原子力・防衛という長納期案件の塊であり、数年先までの売上の可視性が極めて高いことを意味する。
一方、物流・冷熱・ドライブシステムの受注残793.6億円が受注高13,305.3億円に対して薄いのは、短サイクルの量産品(フォークリフト・空調等)中心で受注がすぐ売上化するためである。
川崎重工業は航空宇宙1.3兆円・車両0.5兆円など受注残合計が年間売上を上回り、IHIは受注高1兆7,511億円が「前期の一時的な減少の反動もあり、前期比27.2%増」(IHI mda, FY2025)と回復した。
受注残は将来の売上を保証する一方、インフレ局面では「想定を超える価格の上昇や部品供給の不足が当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります」(川崎重工業 risks, FY2025)とされる通り、固定価格契約のコスト超過リスクの貯蔵庫でもある。


7. FP&A断面(共通スキーマ7項目)

重工業はFP&Aカードの「個別受注生産型製造業」原型に該当する。量産製造業との最大の違いは、損益の確定が「受注時の見積り」に大きく依存する点である。

7-1. 収益ドライバー式

売上収益 ≒ 期首受注残高×当期進捗率(工事進行基準)+短サイクル品売上(見込み生産・AM部品) 先行KPI: 受注高 → 受注残高 → 進捗 → 売上収益

受注高・受注残高が売上の1〜2年先行する(§6-5)。
加えてアフターマーケット(IHIのスペアパーツ、川崎重工業のMRO参入[C4][C9])はストック型収益として変動を均す。
川崎重工業のパワースポーツ&エンジンのみ消費財型(台数×単価)で為替・北米景気に連動する。

参照: KPIツリー 製造業

7-2. コスト構造原型

区分 内容
固定費 工場・ドック・試験設備、設計・エンジニア人件費、R&D(GCAP・水素・SRZ-1200等の先行開発)
変動費 素材(鋳鍛造・特殊金属)、外注・協力会社費
特有項目 工事損失引当金(見積原価超過を認識した時点で一括計上)、品質問題引当(PW1100G-JM等)

長期固定価格契約では、インフレ・サプライチェーン制約がそのまま粗利を侵食する。
FY2024のIHI営業赤字(-701.4億円)と川崎重工業の約580億円損失[C5][M33]は、この「見積りと現実の乖離が一括で噴出する」典型例である。

参照: 固定費構造とオペレーティングレバレッジ

7-3. 運転資本論点

参照: 運転資本・キャッシュコンバージョン

7-4. 資本集約度

CAPEX特性
三菱重工業 ガスタービン生産能力を2年で倍増する方針と報じられる[M12]。原子力・防衛の試験設備
川崎重工業 MRO参入に約70億円投資[C4]、水素サプライチェーン(液化水素運搬船)の先行投資[C7]
IHI 航空エンジン増産・AM整備能力。造船はJMU株式譲渡で資本を回収[M20]

業界としては装置産業だが、防衛は国の利益率算定見直し(最大15%)や防衛生産基盤強化法の財政支援が実質的に資本コストを補助する構造になりつつある[G5][M23]。

参照: WACC算出 DCF分析

7-5. 適切な評価手法

第一指標はEV/EBITDA+PER+ROEだが、受注産業では 受注残高の質(採算・キャンセル条項・インフレ条項)を加味した将来収益の割引評価 が不可欠。
川崎重工業自身が「税後ROICは資本コスト(WACC)+3%以上を目標としています」(policy, FY2025)とROICスプレッド経営を掲げており、ROIC-WACC比較が社内外共通の物差しになっている。
本サブ業界のEV/EBITDA中央値はIHI1社のみの15.3x(参考値)で頑健性がなく、個社分析では受注残の消化スケジュールに基づくシナリオ評価を推奨する。

参照: DCF分析 WACC算出

7-6. 経営の打ち手

打ち手
三菱重工業 2024事業計画でGTCC・原子力・防衛を伸長事業に位置付け[C1][M36]。データセンター向け「電源・冷却・制御」統合ソリューション(policy, FY2025)
川崎重工業 不正事案を受けた「不正ができない仕組みの構築」等3本柱のガバナンス再建(policy, FY2025)。MRO参入・水素・防衛輸出
IHI 「航空エンジン・ロケット分野は、当社グループの成長を牽引する事業と位置付けました」(policy, FY2025)。JMU株譲渡によるポートフォリオ入替、アンモニアバリューチェーン構築

事業部別の採算管理では、共通R&D・本社費の配賦が事業利益率目標(8〜10%)の達成判定を左右する。

参照: 配賦ロジック

7-7. 規制・産業政策

制度 影響
防衛力整備計画(43兆円)・防衛生産基盤強化法 需要の量と質(利益率最大15%)を同時に底上げ
防衛装備移転三原則・運用指針改定(2024年3月) GCAP第三国輸出容認。輸出市場という新たな成長余地
GX推進法・GX脱炭素電源法・水素社会推進法 原子力60年超運転・次世代炉、水素値差支援が中長期需要を制度化
日米造船協力覚書(2025年10月) 造船・艦艇の対米協力枠組み

詳細は§8参照。データが取れない項目はなし(7項目すべて一次資料・MCP抜粋で実証)。

参照: FP&Aカード共通スキーマ


8. 規制・技術トレンド

8-1. 規制・政策(直近2年の確定事項)

制度・政策 時期 内容と影響
安保3文書(防衛力整備計画) 2022年12月16日閣議決定 2023〜27年度に総額約43兆円。スタンド・オフ防衛能力等7分野に重点投資[G2][G3]
防衛生産基盤強化法 2023年6月成立・10月1日施行 サプライチェーン強靱化等への直接財政支援、装備移転支援。調達利益率を一律約8%→最大15%へ見直し[G5][M23]
GX推進法 2023年5月12日成立 20兆円規模のGX経済移行債で先行投資支援[G10][G11]
GX脱炭素電源法 2023年5月31日成立(60年超運転部分は2025年6月6日施行) 原発の60年超運転を可能化。次世代炉開発の政策的追い風[G12][M25]
防衛装備移転三原則・運用指針改定 2024年3月26日閣議・NSC決定 GCAPの第三国直接輸出を容認(移転協定締結国に限定)[G9][M5]
水素社会推進法 2024年5月成立・10月施行 低炭素水素の値差支援・拠点整備支援[G13][G14]
日米造船協力覚書 2025年10月28日署名 日米造船作業部会を設置、5分野で協力。第1回会合2026年2月17日[G4][G7]
2026年度防衛予算案 2025年12月26日閣議決定 防衛関係費9兆353億円で初の9兆円台[G1][M1]

8-2. 技術トレンドと今後3年の展望

GCAP(日英伊次期戦闘機): 政府間機関GIGOが2025年7月発足、産業側合弁Edgewing(三菱重工業が中核のJAIEC・BAE・レオナルド)が2025年6月設立。
2026年4月に約6億8,600万ポンドの設計契約を締結し、2030年めど初飛行・2035年配備開始目標とされる(進捗はやや遅れ気味との指摘あり)[M6][M7][M8]。
IHIはロールス・ロイス等とのエンジンコンソーシアムで実証エンジンXFP30の燃焼器試験に成功したと報じられる[C11][M9]。
日本の関連支出は2026年度予算案までの累計約6,739億円規模とされる[M8]。

ガスタービン・原子力: 三菱重工業は生産能力倍増方針[M12]に加え、革新軽水炉SRZ-1200(電源喪失時も自然力のみで冷却継続できる静的安全システム採用)の基本設計をほぼ完了し、関西電力の美浜建て替え候補となっている[C3][G15][M30]。
2026年の世界ガスタービン市場は70〜100GW程度・高水準継続の社長見通し[M13]。

水素・アンモニア: 川崎重工業はタンク容量4万m³級(「すいそ ふろんてぃあ」の32倍)の大型液化水素運搬船を開発中で2030年商用化計画[C7][M32]。
IHIは「アンモニアの燃焼技術において世界をリードする位置にありますが、今後は、貯蔵や輸送も含めたアンモニアバリューチェーン全体を構築」(policy, FY2025)と位置付ける。
ただし両社とも脱炭素の揺り戻し・前提変化を有報リスクに明記しており(川崎重工業 risks, FY2025/IHI risks, FY2025)、技術オプションの収益化時期は不確実である。

民間航空エンジン(GTF問題とMRO): PW1100G-JMの品質問題による検査・整備滞留は継続中で、川崎重工業は2024年11月にMRO事業参入を発表(2031年度までに年間50台以上の整備体制目標)[C4]。
アフターマーケット部品市場はCAGR8.0%成長が予測され[R2]、「壊れたから直す」需要が新製より安定した収益源になる。

宇宙(H3ロケット): 7号機成功(2025年10月)→8号機失敗(2025年12月、第2段エンジン早期停止)→6号機が2026年6月10日に復帰飛行予定[G16][M35]。
打ち上げ業務のJAXAから三菱重工業への移行は、成功率の安定が前提条件となる。


9. 投資視点

9-1. なぜ今・誰が勝つ・何がリスクか

なぜ今か: ①防衛費がGDP比2%へ前倒しで拡大し2026年度に9兆円台へ乗ったこと[G1][M2]、②データセンター電力需要でガスタービンが売り手市場化したこと[M12][M15]、③その結果として受注残高が3社とも歴史的水準(報道ベースで三菱重工業10兆7,000億円・川崎重工業2兆7,000億円・IHI1兆5,000億円超、2026年2月時点)に積み上がり[M4][M18]、数年分の売上の可視性が確保されたこと。
受注産業の業績は受注残から遅れて顕在化するため、FY2026以降の増収増益経路がすでに「予約」されている点が現在の局面の特徴である。

誰が勝つか: 構造的には 国策2本柱(防衛・エネルギー)の両方で首位級の地位を持つ三菱重工業が最も広い勝ち筋 を持つ。
ガスタービン世界首位級[M16]・国内防衛最大手[M3]・原子力(SRZ-1200)・宇宙(H3)と、政策テーマのほぼ全てに主契約者として露出する。
IHIは航空エンジンへの集中度が強みで、防衛エンジン(国内約7割)と民間AMの二毛作により利益率は3社最高(8.8%・算出値)。
川崎重工業は潜水艦・P-1/C-2という独占的装備に加え水素という長期オプションを持つが、ガバナンス再建が前提条件となる。

何がリスクか(業界共通リスク):

  1. 品質・不正リスク: 川崎重工業の潜水艦修繕・舶用エンジン不正(policy, FY2025)、IHI原動機の試運転記録不適切修正(risks, FY2025)と、直近2年で2社が品質不正を開示した。防衛・官需は信頼が参入資格そのものであり、再発は受注資格・利益率優遇の両方を毀損し得る
  2. 長期固定価格契約のインフレ・損失リスク: 受注残は将来売上の保証であると同時に、コスト超過の貯蔵庫でもある(§6-5)。PW1100G-JM・H3 8号機失敗のような一発の損失が単年度損益を覆す
  3. 脱炭素前提の変化: 水素・アンモニアの普及前提が変われば先行投資の回収シナリオが崩れる(IHI risks, FY2025)。逆に「天然ガスの役割が増加し、GTCC等で当社にとっての事業機会が生じている」(三菱重工業 risks, FY2025)と、揺り戻しが追い風になる事業もあり、社内でも方向の異なるエクスポージャーが混在する
  4. バリュエーションと政治依存: EV/EBITDAが算出可能なIHIで15.3倍(参考値)と期待は相応に織り込み済み。防衛需要は政権・財政方針に依存し、安保3文書改定(2026年中予定[M2])の内容次第で前提が変わる

9-2. 注目銘柄候補

推奨観点 主要リスク
三菱重工業(7011) 受注残10兆円超で売上可視性最高。GTCC世界首位級×防衛最大手×原子力の国策フルライン。営業CF創出力(FY2025: 5,304.6億円) H3失敗等の宇宙リスク、大型案件の工事損失、期待の織り込み
株式会社IHI(7013) 利益率3社最高(8.8%・算出値)。防衛エンジン約7割×民間AMのストック収益。FY2025にV字回復しROE23.4% EV/EBITDA15.3倍と高め。自己資本比率21.5%と財務余力薄。PW1100G-JM・不正事案の残存影響
川崎重工業(7012) 潜水艦・哨戒機の独占的地位、MRO参入、水素の長期オプション。ROIC-WACC経営の規律。詳細は川崎重工業株式会社 不正事案のガバナンス再建途上、自己資本比率23.3%、PW1100G-JM返金負債の評価替え影響[C6]

本セクションは分析教材であり、投資推奨ではない。受注産業の評価は「受注残の質」の検証(採算条項・進捗・引当の十分性)を有報セグメント注記レベルまで掘ることが学習上の要点である。


10. 用語集・出典

専門用語集

用語 読み/略 定義
受注残高 じゅちゅうざんだか 受注済みで未引き渡しの契約金額。将来売上のストック(バックログ)
工事進行基準 こうじしんこうきじゅん 長期契約の売上を工事の進捗度に応じて計上する会計処理(収益認識基準では履行義務の充足に係る進捗度)
事業利益 じぎょうりえき IFRS任意適用企業が独自に定義する利益指標。日本基準の営業利益と範囲が完全には一致しない点に注意
GTCC ジーティーシーシー ガスタービン・コンバインドサイクル発電。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた高効率火力
GCAP ジーキャップ Global Combat Air Programme。日英伊共同の次期戦闘機開発計画。2035年配備目標
MRO エムアールオー Maintenance, Repair and Overhaul。航空エンジン等の整備・修理・分解点検事業
アフターマーケット(AM) 製品納入後のスペアパーツ・整備等の事後市場。新製より利益率が高いとされるストック収益
PW1100G-JM エアバスA320neo向けGTF(ギアード・ターボファン)エンジン。粉末金属部品の品質問題で世界的な検査・整備滞留が発生
SRZ-1200 三菱重工業が電力4社と開発中の革新軽水炉(PWR、出力約120万kW)。静的安全システムを採用
前受金(契約負債) まえうけきん 顧客から工事着手前後に受け取る代金。受注産業の運転資本を軽くする
工事損失引当金 こうじそんしつひきあてきん 受注契約の見積総原価が契約金額を上回ると判明した時点で、将来損失を一括計上する引当金
ROIC ロイック 投下資本利益率。川崎重工業はWACC+3%以上を目標に掲げる
CCC シーシーシー キャッシュ・コンバージョン・サイクル。運転資本が現金化するまでの日数。IHIは100日目標
防衛装備移転三原則 防衛装備の海外移転を律する政府方針。2024年3月の運用指針改定でGCAPの第三国輸出を容認
スタンド・オフ防衛能力 相手の脅威圏外から対処する長射程火力。防衛力整備計画の重点7分野の一つ

出典

レベル1(官公庁・企業IR・公式統計)

レベル2(調査会社・シンクタンク・研究機関)

レベル3(メディア報道)

URL一覧はリサーチパック(.out/transport_subsegment/research_heavy.md)の出典リストに完全収録。


11. 関連レポート・データ取得検証

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