運転資本・キャッシュコンバージョン
目次
運転資本・キャッシュコンバージョン
1. 定義と本質
運転資本(Working Capital: WC)は、企業の日常的な事業活動に必要な短期資金であり、流動資産から流動負債を控除した額である。
ただし、FP&Aではより狭義に「営業運転資本」を重視する。
営業運転資本 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は、企業が現金を支出してから現金として回収するまでの日数である。
CCC = DSO + DIO − DPO
本質: 「1円の売上を生み出すために、何日分の現金を寝かせているか」。CCCが短い企業ほど、少ない運転資本で多くの売上を回せる=資本効率が良い。
FP&A視点での重要性:
- 営業CFと利益の乖離要因の特定(利益は出ているのにCFが悪い → WC増加が原因か)
- 運転資本最適化によるキャッシュ創出(「見えない設備投資」の削減)
- 増収時の資金 need 予測(売上増 → WC増 → 追加資金必要)
2. 計算式
DSO(Days Sales Outstanding: 売上債権回転日数)
DSO = 売上債権 ÷ 売上高 × 365
- 売上債権 = 受取手形 + 売掛金(+ 完成工事未収入金、建設業の場合)
- 意味: 売上を計上してから現金を回収するまでの平均日数
- 短いほど良い(回収が早い)
DIO(Days Inventory Outstanding: 棚卸資産回転日数)
DIO = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365
- 意味: 商品・原材料を仕入れてから売上に計上するまでの平均日数
- 短いほど良い(在庫回転が速い)
- 受注生産の場合は「仕掛品」の滞留期間
DPO(Days Payable Outstanding: 仕入債務回転日数)
DPO = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365
- 仕入債務 = 支払手形 + 買掛金(+ 工事未払金、建設業の場合)
- 意味: 仕入先に代金を支払うまでの平均日数
- 長いほど良い(支払いを先延ばしにできる)
CCC(Cash Conversion Cycle)
CCC = DSO + DIO − DPO
- 意味: 現金を支出してから現金として回収するまでの日数
- 短いほど良い(マイナスなら最強: 他人資本で事業を回している)
運転資本回転期間
運転資本回転期間 = DSO + DIO − DPO (= CCCと同値)
運転資本回転率 = 売上高 ÷ 営業運転資本
データソース
| データ | EDINET DB項目 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上債権 | get_financials (tradeReceivables) |
受取手形+売掛金 |
| 棚卸資産 | get_financials (inventories) |
|
| 仕入債務 | get_financials (tradePayables) |
支払手形+買掛金 |
| 売上高 | get_financials (revenue) |
|
| 売上原価 | get_financials (costOfSales) |
3. 業界別レンジ
DSO / DIO / DPO / CCCの典型レンジ
| 業界 | DSO | DIO | DPO | CCC | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| SaaS | 30-60日 | 0日 | 30-60日 | 0-30日 | 在庫なし、CCC極短 |
| 小売 | 5-15日 | 30-60日 | 30-45日 | 0-30日 | 現金商売、在庫回転速い |
| 製造業(一般) | 60-90日 | 60-90日 | 45-60日 | 60-120日 | 在庫・債権とも長い |
| 建設 | 90-150日 | 極長 | 45-90日 | 極長 | 完成検査後回収、在建工事 |
| 商社 | 30-60日 | 30-60日 | 30-45日 | 15-75日 | 回転重視 |
| 不動産(分譲) | 長期 | 極長 | 30-60日 | 数年 | 開発中不動産の滞留 |
CCCがマイナスの企業
CCCがマイナス = DPO > DSO + DIO。つまり「仕入先への支払いより、顧客からの回収が早い」。 これは強力な競争優位性の指標であり、Amazon、通販大手などに見られる。
4. 実例
既存レポートへの適用状況
銘柄レポートの「財務分析 > 運転資本分析」セクションでDSO/DIO/DPOを計算・記載している。 以下の点に注目:
- 建設業の場合は「完成工事未収入金」と「工事未払金」をDSO/DPOに含める必要がある
- 受注産業では「受注残高/売上」が先行指標としてCCCと併記される
- 季節性が強い業界は四半期BSベースの計算が理想だが、年次BSから概算することも多い
簡易計算例(架空)
企業E(精密部品メーカー):
売上高: 200億円
売上原価: 150億円
売上債権: 45億円
棚卸資産: 35億円
仕入債務: 30億円
DSO = 45 ÷ 200 × 365 = 82.1日
DIO = 35 ÷ 150 × 365 = 85.2日
DPO = 30 ÷ 150 × 365 = 73.0日
CCC = 82.1 + 85.2 − 73.0 = 94.3日
営業運転資本 = 45 + 35 − 30 = 50億円
運転資本回転率 = 200 ÷ 50 = 4.0回
分析:
- CCC 94日は製造業として標準的
- DSO 82日はやや長い → 与信管理の改善余地
- DIO 85日は受注生産のため仕掛品滞留が主因
- 売上10%増 → 運転資本5億円増の追加資金が必要
5. 自分への問い
- CCCが年々長くなっている企業は、何を疑うべきか? 成長の健全な結果か、回収悪化のシグナルか?
- DPOを意図的に長くする(支払いサイトの延長)ことのメリットとデメリットは? サプライヤーとの関係にどう影響するか?
- 「利益は出ているのに営業CFが悪い」という状況で、まずどの運転資本項目を確認するか? その項目が増加している理由として何が考えられるか?
関連
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