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FP&Aの勘所

【経済・石油・石炭製品】石油・石炭製品CFO・FP&A視点

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目次
  1. 1. 収益ドライバー式
  2. 石油精製・元売り(中・下流統合型)
  3. コークス・石炭製品
  4. SAF・新エネルギー(投資先行期)
  5. 業態別収益ドライバー比較
  6. 2. コスト構造原型
  7. 石油精製・元売り(装置産業型の典型)
  8. コークス・石炭製品
  9. SAF・新エネルギー(投資先行期)
  10. 3. 運転資本論点
  11. 石油・石炭製品の典型的 CCC とその論点
  12. 4. 資本集約度
  13. 石油・石炭製品業界の典型的資本集約度
  14. 5. 適切な評価手法
  15. 石油精製・元売り
  16. コークス・石炭製品
  17. SAF・新エネルギー(投資先行期)
  18. 6. 経営の打ち手
  19. 石油精製・元売り
  20. コークス・石炭製品
  21. 7. 規制・産業政策
  22. GX(グリーントランスフォーメーション)
  23. 航空脱炭素(SAF 義務化)
  24. 石油業法・石油備蓄法
  25. 経済安全保障・地政学
  26. コークス・石炭関連規制
  27. 参考: 業態別 FP&A カード 7 項目まとめ

石油・石炭製品業界 FP&Aの勘所

共通スキーマ7項目に基づくFP&A視点の業界カード。
業態は「石油精製・元売り(中・下流統合)」「コークス・石炭製品」「SAF・新エネルギー(投資先行期)」の3タイプを並記する。
1-B素材・資源型の装置産業として記述。
関連: FP&Aカード共通スキーマ / 石油・石炭製品業界基礎ガイド / 石油・石炭業界基礎ガイド_詳細版 / 石油・石炭製品セグメント分析_1_業態区分と市場規模


1. 収益ドライバー式

石油精製・元売り(中・下流統合型)

精製売上 = 原油処理量(千 bbl/日) × 365 × 製品歩留 × 製品単価
         = 製油所稼働率 × 精製能力 × スプレッド × 為替
販売売上 = 元売り直販量 + 特約店向け卸売量 + 工業用大口販売量
        = SS 数 × 1SS あたり販売量 × 単価 + 卸単価 × 数量

成長レバー:
  - スプレッド改善(原油安・製品価格高の局面)
  - 製油所稼働率の維持(需要縮退下で 80% 維持が課題)
  - 高付加価値製品ミックス(潤滑油・特殊化学品・SAF への転換)
  - 海外調達多元化と長期契約による調達優位
  - 元売り直販シフト(特約店経由から直販へ)

国内ガソリン需要は構造的減衰(2004 年ピークから半減基調)であり、「数量×単価」の数量側は中長期で縮小トレンド。
したがって短期業績はスプレッド(原油価格と製品価格の差額)の変動と為替変動、中期業績は製油所稼働率の維持と高付加価値ミックスシフト、長期業績は SAF・水素・再エネ等の新領域投資の収益化にかかる。

スプレッド 1 ドル/バレルの変動で、ENEOS HD(精製能力約 170 万 bbl/日)の年間営業利益は約 600〜700 億円規模で変動する感応度(公表 IR 資料の感応度分析より)。

コークス・石炭製品

売上 = コークス生産量(万トン) × 単価(円/トン) + 化工品(タール・ベンゼン等)売上

成長レバー:
  - 国内製鉄業の生産量(高炉粗鋼生産量に直結)
  - 原料炭価格と製品価格の相対関係(製鉄業との価格交渉)
  - 化工品(タール・ベンゼン)の市況連動収益
  - 海外向け輸出(限定的)

コークス需要は国内製鉄業の生産量と高炉比率に直結する。高炉脱炭素(電炉化・水素還元)の進展でコークス需要は中長期で大きく縮小する見込み。価格は製鉄大手との長期契約・相対交渉で決まる。

SAF・新エネルギー(投資先行期)

SAF 売上 = 供給量(KL) × 単価
水素売上 = 供給量(Nm3) × 単価
再エネ売上 = 発電容量(MW) × 稼働率 × FIT/PPA 単価

成長レバー:
  - SAF 義務化(2030 年航空燃料の 10% を SAF 化)
  - 水素ステーション網拡張・大口工業需要
  - 再エネ FIT/PPA の価格・容量拡大
  - GX 補助金活用(製油所跡地・既存インフラ転用)

各社が事業ポートフォリオ転換の柱に据えるが、収益化までのリードタイムは 5〜10 年。SAF は 2030 年義務化が制度的な需要保証となる一方、技術・原料調達・採算性の不確実性が高い。

業態別収益ドライバー比較

業態 主収益ドライバー 市況感応度 為替感応度
石油精製・元売り 処理量×スプレッド×為替 極高(原油価格・石油製品市況連動) 高(USD建て原油輸入)
コークス・石炭製品 出荷量×単価(製鉄業連動) 中(原料炭市況) 中(USD建て原料炭輸入)
SAF・水素・再エネ 供給量×単価(制度連動) 低(FIT/PPA・制度保証) 低〜中(バイオマス輸入分)

DCF分析 感応度・シナリオ分析


2. コスト構造原型

石油精製・元売り(装置産業型の典型)

精製事業のコスト構造

製油所は装置産業の典型で、原油処理能力に対するフル稼働前提の原価設計となっている。
稼働率が 80% を割り込むと固定費吸収が困難となり営業損失リスクが高まる。
需要縮退下では複数製油所の集約・休止により残存設備の稼働率向上を図る戦略が中核。

販売事業のコスト構造

コークス・石炭製品

コークス製造のコスト構造

コークス炉は装置産業の典型で、1 炉あたり数百億円規模の設備投資が必要。
耐火物更新サイクル(5〜10 年)と炉体寿命(30〜50 年)が固定費構造を規定する。
日本コークス工業の 2025 年コークス炉休止(1B 炉・2B 炉)は約 50 億円の減損損失を計上し、構造改革の経済的負担を顕在化させた。

SAF・新エネルギー(投資先行期)

化石燃料賦課金・GX-ETS コストの内生化

2026 年 GX-ETS 本格稼働・2028 年化石燃料賦課金導入により、化石燃料の社会的コスト(炭素価格)が原料費・燃料費に内生化される。
製油所 CO2 排出量に応じた排出枠購入コスト、原油・重油・石炭輸入時の賦課金コストが新たな固定的負担となり、業態転換の経済合理性を強める制度設計。

限界利益と損益分岐点 DCF分析


3. 運転資本論点

石油・石炭製品の典型的 CCC とその論点

業態 DSO(売掛) DIO(棚卸) DPO(買掛) CCC 主論点
石油精製・元売り 30〜60日 30〜60日(備蓄義務含む) 30〜45日 30〜75日 原油在庫評価損益・備蓄義務の固定負担
コークス・石炭製品 60〜90日 30〜60日 30〜60日 60〜90日 製鉄業との長期契約・原料炭在庫評価
SAF・新エネルギー (投資先行期。要調査) (投資先行期。要調査) (投資先行期。要調査) 投資 CF と将来 CF のタイムラグ

1-B 素材・資源型の在庫評価論点(石油精製の核心)

石油精製の在庫評価には以下の重要論点がある:

論点1: 原油在庫の評価方式と市況連動の評価損益

論点2: 石油備蓄義務(民間 70 日分)の固定的運転資本負担

論点3: 為替ヘッジの管理

論点4: コークス業界の運転資本

運転資本・キャッシュコンバージョン


4. 資本集約度

石油・石炭製品業界の典型的資本集約度

業態 設備投資/減価償却比 固定資産回転率 ROIC水準 主な投資先
石油精製・元売り 1.0〜1.5 1.0〜2.0倍 3〜8%(スプレッド連動) 製油所更新・SAF/水素設備・SS 改修
コークス・石炭製品 0.6〜1.0(縮退期) 0.5〜1.0倍 0〜5%(低い) 設備老朽化対応・休止判断
SAF・新エネ(投資先行期) 2.0 超(成長投資) 0.1〜0.5倍 (投資先行期。マイナス〜低水準) 新工場・再エネ発電所・水素ステーション

製油所の資本集約度の核心論点

製油所 1 基の建設費は 3,000〜5,000 億円規模で、耐用年数は 30〜40 年。
日本国内では新規製油所建設は実質ない(需要縮退局面)が、既存設備の老朽化対応・脱硫装置更新・自家発電設備更新等の維持投資は継続。

製油所統廃合・減損リスク

SAF・新エネルギー投資のキャッシュフロー特性

コークス事業の減損リスク(最大の構造リスク)

DCF分析 WACC算出


5. 適切な評価手法

石油精製・元売り

第一指標: EV/EBITDA(正常化ベース)

補助指標: PBR(資産下値メド)

注意点: 在庫評価損益と減損損失

コークス・石炭製品

第一指標: PBR + 配当利回り

補助指標: EV/EBITDA(縮退後の安定 EBITDA で評価)

SAF・新エネルギー(投資先行期)

第一指標: DCF(事業別 SOTP)

全社評価としての SOTP

類似企業比較分析(CCA) DCF分析 WACC算出


6. 経営の打ち手

石油精製・元売り

1. 製油所統廃合・集約(最重要)

2. SAF・水素・再エネへの事業ポートフォリオ転換

3. 高付加価値製品ミックスシフト

4. 株主還元の強化

5. 海外事業展開(限定的)

コークス・石炭製品

1. コークス炉休止・集約

2. 化工品(タール・ベンゼン等)への重心シフト

3. 事業ポートフォリオ転換

DCF分析 感応度・シナリオ分析


7. 規制・産業政策

GX(グリーントランスフォーメーション)

規制・制度 石油・石炭製品業への影響 実施時期
GX-ETS(排出量取引制度) 製油所・コークス炉が主対象。年間 10 万 tCO2 以上の事業所が参加 2026 年 4 月本格稼働
化石燃料賦課金 原油・石炭・天然ガス輸入業者から徴収。燃料コスト押上要因 2028 年度〜
GX 経済移行債 脱炭素投資の財源。SAF・水素・CCS 等への補助金原資 2023 年発行開始(10 年で 20 兆円規模)
カーボンリサイクル 製油所 CO2 を回収・再資源化(燃料・化学品原料)。政府補助金スキーム 2026〜2030 年実証期

石油・石炭製品業界は日本の産業 CO2 排出量の約 20% を占める最大排出セクターの 1 つで、GX コスト(ETS・賦課金)の主要負担者となる。
一方で GX 経済移行債を財源とする補助金スキーム(SAF・水素・CCS)の受給者でもあり、GX 制度は「コスト負担と補助金受給の両面」で各社の財務に影響する。

航空脱炭素(SAF 義務化)

規制・制度 影響 時期
SAF 国内供給目標 2030 年に約 171 万 KL(航空燃料の約 10%)を SAF 化 2030 年目標
航空燃料供給における SAF 混合義務 国際線・国内線で段階的に SAF 混合比率を引き上げ 2030 年〜
SAF 製造設備への投資補助 経産省・国交省共同で SAF 工場建設に補助金 2024〜2030 年

SAF 国内供給目標 171 万 KL は元売り 3 社の SAF 事業の制度的需要保証として機能する。CORSIA(国際民間航空機関の炭素削減・相殺制度)も国際線の SAF 需要を喚起。

石油業法・石油備蓄法

規制・制度 影響 時期
石油業法 製油所建設・閉鎖の許可制。元売り業の参入規制・備蓄義務 1962 年制定・継続
石油備蓄法 民間元売り 70 日分・国家 90 日分の備蓄義務 現行
灯油・ガソリン等価格激変緩和対策補助金 燃料価格高騰時に国が補助金を交付(需要家負担軽減)。元売り財務に間接影響 2022 年〜継続

製油所の新設・閉鎖は国の許可が必要。元売り 3 社の寡占構造維持に寄与する一方、需要縮退局面での集約スピードを制約する要因にもなる。備蓄義務は固定的な運転資本負担。

経済安全保障・地政学

コークス・石炭関連規制

規制・制度 影響 時期
石炭鉱業保安規則 石炭鉱山の安全管理コスト規定 現行
高度石炭利用総合戦略 石炭ガス化複合発電(IGCC)等のクリーンコール技術支援 現行
製鉄業の脱炭素化(高炉→電炉・水素還元) コークス需要の長期構造変化 2030〜2050 年

感応度・シナリオ分析 DCF分析


参考: 業態別 FP&A カード 7 項目まとめ

項目 石油精製・元売り コークス・石炭製品 SAF・新エネルギー
収益ドライバー 処理量×スプレッド×為替 出荷量×単価(製鉄業連動) 供給量×単価(制度連動)
コスト構造 原油 60〜75%+固定費 15〜25% 原料炭 60〜70%+固定費 15〜25% 投資先行期(要調査)
運転資本論点 原油在庫評価損益+備蓄義務 製鉄業長期契約・原料炭在庫 投資 CF と将来 CF のラグ
資本集約度 高(製油所更新+新エネ投資) 縮退期(休止判断) 極高(成長投資)
評価手法 EV/EBITDA 正常化+PBR PBR+配当利回り DCF(事業別 SOTP)
経営の打ち手 製油所統廃合・SAF/水素転換 コークス炉休止・化工品シフト 設備建設・補助金活用
主要規制 GX-ETS・化石燃料賦課金 製鉄脱炭素・石炭規制 SAF 義務化・GX 補助金