📚 業界ナレッジ

第1号 半導体は「どの工程」が一番儲かるのか — FP&A目線で読む半導体バリューチェーン

第3章ケース:世界シェア9割でも、なぜ減益なのか

最後に、3条件と5着眼点を1社で総合演習します。題材はタツモ(パワー半導体向けの貼合・剥離装置で世界シェア約9割のニッチトップ)です。

数字はきれいに見えます。FY2025は売上354億円、営業利益48億円(13.5%)、PER8.4倍、EV/EBITDA4.3倍、FCFイールド20.5%。割安で現金効率も高い。

ところが会社はFY2026に減益を予想しています。
営業利益は48億円→36億円(▲24.5%)。
売上はほぼ横ばい(354億円→355億円)なのに利益だけ減る。
これは「不採算事業を抱えたまま、成長事業の伸びが鈍る」ときの典型的な兆候です。
実際、成長部門(半導体装置)の急拡大が、縮小部門(洗浄・コーター)の落ち込みをかろうじて埋めていた状態でした。

ここでTAM(着眼点5)が効きます。
タツモの主戦場(パワー半導体向けTBDB)は350〜600億円。
9割シェアでも理論上限は300〜540億円で、現状売上は約90億円。
一見「3〜6倍の余地」ですが、その伸びは「市場が大きくなれば自社も大きくなる」という受動的成長にすぎません。
しかも一番速く伸びる次世代市場(Hybrid Bonding、CAGR21%)はEV Groupが82%を握り、タツモは未参入です。

FP&Aの結論はこうです。
割安に見える小型ニッチトップは、「替えがきかない強さ(条件1)」と「市場の天井(着眼点5)」を必ずセットで評価する。
強い堀(モート)があっても、堀の内側の土地が広がらなければ収穫は増えません。
「9割」という数字の“何の9割か”を問うことが、過大評価を避ける鍵になります。

まとめ:このフレームは半導体以外でも使える

今日の3条件と5着眼点は、半導体に限らず、あらゆる業界の「利益の地図」を描くのに使えます。気になる会社があれば、次のチェックリストで読んでみてください。

「市場が伸びる会社」と「儲かる会社」は違う――この一点を分解できるだけで、ニュースの見え方が変わります。

最後に質問です。あなたが今いちばん気になっている会社は、3条件のうちどれが強く、どれが弱いでしょうか。コメントで教えてください。次回は、この読み方を別の業界(たとえば食品や商社)に当てはめてみます。


本記事は公開情報(各社の有価証券報告書・決算説明資料、SEMI等の市場調査)に基づく分析教材であり、特定銘柄の投資を推奨するものではありません。
投資判断はご自身の責任でお願いします。
財務数値は各社FY2025実績(EDINET)、市場規模・成長率は各種調査機関の2025〜2030年見通しに基づきます。

出典
  • 各社有価証券報告書(EDINET)FY2025 — 信越化学、SUMCO、東京応化工業、JSR、東京エレクトロン、SCREEN HD、ディスコ、アドバンテスト、レーザーテック、TOWA、タツモ、ローム、三菱電機
  • SEMI — 半導体製造装置市場予測(2026年+9%/2027年1,560億ドル)、World Fab Forecast
  • TSMC — CoWoS生産能力計画(2026年末 月13万枚)
  • MarketsandMarkets — Hybrid Bonding Market(CAGR21%)
  • SUSS MicroTec/EV Group 開示 — 先端パッケージング向けボンディング市場シェア
  • Statista/Mordor Intelligence/GII ほか — 半導体市場・HBM・SiC・OSAT市場規模と成長率

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