第1号 半導体は「どの工程」が一番儲かるのか — FP&A目線で読む半導体バリューチェーン
第2章利益が貯まる場所を決める「3つの条件」
この章の目次
- 条件1:価格決定力(替えがきくか)
- 条件2:資本集約度(儲けを生むのに、どれだけ設備が要るか)
- 条件3:シクリカル耐性(景気と投資サイクルの波に強いか)
- 工程別に、利益率を解剖する
- 材料:寡占ブランド品か、コモディティかで二極化
- 前工程装置:投資サイクルの波が±50%
- 後工程装置:最強の利益プール
- パワー半導体:投資先行で、今は谷
- アナリスト/FP&Aの「読み方」5つの着眼点
- 着眼点1:PER単独で見ない(特にシクリカル)
- 着眼点2:受注残は「未来の売上」の先行指標
- 着眼点3:CapEx/売上 と FCFイールド(現金を生む効率)
- 着眼点4:棚卸資産(仕掛品)の増減とCFのタイミング
- 着眼点5:TAM(狙える市場の大きさ)=ニッチトップの天井
利益率の差は、偶然ではありません。FP&Aの目で見ると、稼ぐ力は次の3条件の掛け算でほぼ説明できます。
条件1:価格決定力(替えがきくか)
その会社の製品が「他に替えがきかない」ほど、値段を自分で決められます。
- レーザーテックはEUV(最先端の露光)用マスク検査で事実上の独占。だから48.8%という製造業离れした利益率が出る
- ディスコはチップを切る・削る装置で世界トップ。これも替えがきかない
- 逆にSUMCOのウェーハは「規格品」。同じ品質なら安いほうが買われるので、市況が崩れると価格を維持できず、利益が0.3%まで蒸発した
替えがきく=コモディティは、どれだけ市場が大きくても価格競争で利益が薄くなります。
条件2:資本集約度(儲けを生むのに、どれだけ設備が要るか)
同じ利益でも、それを生むのに巨大な工場が必要かどうかで「手元に残る現金」が変わります。設備投資が売上に占める比率(CapEx/売上、FY2025)を見ると差は歴然です。
- レーザーテック 約2.0%、アドバンテスト 約2.7%、タツモ 約4.2%(装置メーカーは「組み立て」中心で、競争力の源泉は設計力という無形資産)
- 一方ローム 約29.7%(SiCの量産ラインに巨額投資。減価償却が利益を食う)
設備が軽い会社は、利益がそのまま現金になりやすい。
実際、タツモはFCF(自由に使える現金)の利回りが20.5%と、小型ながら極めて現金効率が高い会社です。
逆に投資先行のロームは、FCFがマイナスに沈みます。
条件3:シクリカル耐性(景気と投資サイクルの波に強いか)
半導体は「シクリカル(景気循環)」産業の代表格です。同じ装置メーカーでも、波の受け方が違います。
- 投資サイクルの谷(FY2024)では、前工程装置の東京エレクトロンも一時減収に振れた
- それでも検査・テスト系(レーザーテック、アドバンテスト)はEUVやAIという「構造的な追い風」を持つため、波に対して相対的に強い
つまり「価格決定力が高く・設備が軽く・構造需要に支えられている」会社ほど、利益率もFCFも高く安定します。後工程の検査・計測が上位を独占する理由は、この3条件をすべて満たしているからです。

工程別に、利益率を解剖する
3条件を踏まえて、層ごとに「なぜこの利益率なのか」を読み解きます。
材料:寡占ブランド品か、コモディティかで二極化
同じ「材料」でも信越化学29.0%とSUMCO0.3%に割れます。信越はウェーハで世界42%の寡占に加え、塩ビなど多角化で価格決定力を持つ。SUMCOはウェーハ専業ゆえ市況の単価下落が直撃しました。
ここでのFP&Aの読み筋は「P×Q」です。
素材型は単価(P)の変動がそのまま利益に響く。
売上(P×Q)が横ばいでも、Pが下がればQを増やしても利益は消えます。
SUMCOは売上ほぼ横ばい(FY2023 4,259億→FY2025 4,097億)なのに、営業利益が731億→13億へ激減した。
これが「単価で利益が決まる」素材型の怖さです。
前工程装置:投資サイクルの波が±50%
東京エレクトロン28.7%、SCREEN21.7%。
高収益ですが、顧客(メモリ/ロジックメーカー)の設備投資サイクルに業績が大きく揺れます。
TELはFY2024にメモリ投資の一時停止で減収、FY2025にV字回復(売上1.83兆→2.43兆)しました。
読み筋は「サイクルの今どこにいるか」。好況の利益で割安に見えても、それが頂点なら割高かもしれません(この読み方は後述)。
後工程装置:最強の利益プール
レーザーテック48.8%、ディスコ42.4%、アドバンテスト29.3%。3条件をすべて満たす「ニッチ独占×低資本集約×AI/EUV構造需要」の組み合わせです。
特にアドバンテストは、AIチップの検査需要で営業利益が816億(FY2024)→2,282億(FY2025)へ急回復。
AIの恩恵が「設計や製造」だけでなく「検査」にも、しかも高い利益率で落ちることを示しています。
パワー半導体:投資先行で、今は谷
ローム▲8.9%。
SiC(次世代パワー半導体)の量産ラインへ巨額投資した減価償却が、利益を一時的に赤字へ沈めています。
SiC市場自体は27億ドル→84億ドル(CAGR25%)と急成長見込みですが、「市場が伸びる」のと「今、儲かる」のは別。
投資の回収が始まるまでは利益は出ません。
三菱電機は総合電機の連結なのでパワー半導体単体の収益は埋もれて見えません(7.1%は連結値)。
アナリスト/FP&Aの「読み方」5つの着眼点
ここからは、これらの会社の決算を読むときに私が実際に使う着眼点です。そのまま他社の分析にも転用できます。
着眼点1:PER単独で見ない(特にシクリカル)
景気循環株は、利益が膨らむ好況期にPERが低く(割安に見え)、利益が縮む不況期にPERが高く(割高に見え)なります。
これが「PERの罠」。
谷で高PER・頂点で低PERは、しばしば逆張りシグナルです。
シクリカルはPER単独ではなく、サイクルを通した平均(中央値)のEV/EBITDAで見るのが定石です。
着眼点2:受注残は「未来の売上」の先行指標
装置メーカーは「受注→受注残→売上→売掛回収」と進み、受注から売上計上まで6〜18か月かかります。
だから足元の売上より、受注残の増減のほうが半年先の業績を語ります。
決算で売上が良くても受注残が細っていれば、来期は失速のサインです。
着眼点3:CapEx/売上 と FCFイールド(現金を生む効率)
利益が「現金」になっているかを見ます。
設備が軽い会社(レーザーテックCapEx比率2.0%)は利益=現金になりやすく、FCFイールドが高い。
タツモはFCFイールド20.5%、EV/EBITDA4.3倍と、小型ながら現金効率と割安さが際立ちます。
逆にロームのように投資期はFCFがマイナスになり、利益が出ても現金は出ていきます。
着眼点4:棚卸資産(仕掛品)の増減とCFのタイミング
受注生産の装置メーカーは、作っている間は現金が出ていくだけ(仕掛品が膨らむ)。
納品・検収で一気に回収します。
タツモが2021〜2023期に営業CF赤字だったのは大型案件の仕掛品が膨らんだため、2024〜2025期に黒字化したのは納品・回収が完了したから。
「棚卸資産が増える時期は一時的なCF悪化を許容し、減り始めたら回収局面」と読みます。
着眼点5:TAM(狙える市場の大きさ)=ニッチトップの天井
シェアが高くても、市場(TAM)自体が小さければ成長の天井は低い。
逆にシェアが低くても市場が巨大なら伸びしろは大きい。
「シェア×TAM×TAM内での自社の位置」をセットで見ます。
次のケースが、その典型です。
