第1号 半導体は「どの工程」が一番儲かるのか — FP&A目線で読む半導体バリューチェーン
第2章利益が貯まる場所を決める「3つの条件」
この章の目次
- 条件1:価格決定力(替えがきくか)
- 条件2:資本集約度(儲けを生むのに、どれだけ設備が要るか)
- 条件3:シクリカル耐性(景気と投資サイクルの波に強いか)
- 工程別に、利益率を解剖する
- 材料:寡占ブランド品か、コモディティかで二極化
- 前工程装置:投資サイクルの波が±50%
- 高収益装置:工程ではなく「ニッチ独占×低資本集約」で見る
- この章の主要出典(2026年9月17日確認)
- パワー半導体:投資先行で、今は谷
- アナリスト/FP&Aの「読み方」5つの着眼点
- 着眼点1:PER単独で見ない(特にシクリカル)
- 着眼点2:受注残は「未来の売上」の先行指標
- 着眼点3:CapEx/売上 と FCFイールド(現金を生む効率)
- 着眼点4:棚卸資産(仕掛品)の増減とCFのタイミング
- 着眼点5:TAM(狙える市場の大きさ)=ニッチトップの天井
利益率の差は、偶然ではありません。FP&Aの目で見ると、稼ぐ力は次の3条件の掛け算でほぼ説明できます。
条件1:価格決定力(替えがきくか)
その会社の製品が「他に替えがきかない」ほど、値段を自分で決められます。
- レーザーテックはEUV(最先端の露光)用マスク検査で高い参入障壁を持つ。収益力は「後工程だから」ではなく、先端リソグラフィの品質保証で代替が難しいかという問いと結びつけて読むべきです
- ディスコはチップを切る・削る装置で世界トップ。これも替えがきかない
- ウェーハでは品質・顧客認定による差別化があっても、需給と稼働率の影響を受けます。SUMCOのようなウェーハ専業と多角化企業では、連結利益を動かす要因も異なります
替えがきく=コモディティは、どれだけ市場が大きくても価格競争で利益が薄くなります。
条件2:資本集約度(儲けを生むのに、どれだけ設備が要るか)
同じ利益でも、それを生むのに巨大な工場が必要かどうかで「手元に残る現金」が変わります。設備投資が売上に占める比率(CapEx/売上、FY2025)を見ると差は歴然です。
- レーザーテック 約2.0%、アドバンテスト 約2.7%、タツモ 約4.2%(装置メーカーは自社の巨大量産工場より、光学・計測・制御・プロセス設計などの無形資産が競争力の源泉になりやすい)
- 一方ローム 約29.7%(SiCの量産ラインに巨額投資。減価償却が利益を食う)
設備負担が小さければ、ほかの条件が同じ場合には投資後に現金を残しやすくなります。
ただし、営業CFは在庫・前受金・回収時期でも動きます。
単年のFCF利回りだけで恒常的な現金創出力を判定せず、営業CFと設備投資を数年に分けて読みます。
条件3:シクリカル耐性(景気と投資サイクルの波に強いか)
半導体は「シクリカル(景気循環)」産業の代表格です。同じ装置メーカーでも、波の受け方が違います。
- 投資サイクルの谷(FY2024)では、前工程装置の東京エレクトロンも一時減収に振れた
- それでも検査・テスト系(レーザーテック、アドバンテスト)はEUVやAIという「構造的な追い風」を持つため、波に対して相対的に強い。ただし両社の装置が使われる工程は同一ではない
つまり「価格決定力が高く・設備が軽く・構造需要に支えられている」会社ほど、利益率もFCFも高くなりやすい。
検査・加工・テスト装置を比較するときも、この3条件を検討する必要があり、単純な前工程/後工程の順番が利益率を決めているわけではありません。
工程別に、利益率を解剖する
3条件を踏まえて、層ごとに「なぜこの利益率なのか」を読み解きます。
材料:寡占ブランド品か、コモディティかで二極化
同じ「材料」でも、信越化学は塩ビなどを含む多角化企業、SUMCOはシリコンウェーハを中心とする企業です。
連結利益率の差を、そのままウェーハ製品の競争力の差と読んではいけません。
まずセグメント別の売上・利益と稼働率を分けます。
ここでのFP&Aの読み筋は「P×Q」です。
素材型は単価(P)の変動がそのまま利益に響く。
売上(P×Q)が横ばいでも、Pが下がればQを増やしても利益は消えます。
ただし、利益変動を単価だけに帰属させず、数量、製品構成、稼働率、償却負担の影響も分けます。
売上が横ばいでも工場の固定費を吸収できなければ利益は減ります。
前工程装置:投資サイクルの波が±50%
東京エレクトロンやSCREENのような装置企業では、顧客(メモリ/ロジックメーカー)の設備投資サイクルに業績が大きく揺れます。
TELはFY2024にメモリ投資の一時停止で減収、FY2025にV字回復(売上1.83兆→2.43兆)しました。
読み筋は「サイクルの今どこにいるか」。好況の利益で割安に見えても、それが頂点なら割高かもしれません(この読み方は後述)。
高収益装置:工程ではなく「ニッチ独占×低資本集約」で見る
DISCOの連結営業利益率42.3%(FY2025・2026年3月期)は、高い収益力の一例です。
レーザーテックはEUVマスク検査、ディスコは後工程の切断・研削、アドバンテストはウェハ/パッケージテストと、工程上の位置は異なります。
それでも「ニッチ独占×低資本集約×AI/EUV構造需要」という収益ドライバーは共通します。
AIチップの複雑化がテスト需要を増やすと考える場合も、検査時間の増加が装置需要へつながるのか、顧客側の効率化で相殺されるのかを分けます。
需要の説明と実際の利益増は、受注、販売構成、粗利率の開示を通して接続します。
この章の主要出典(2026年9月17日確認)
- アドバンテスト「Investor's Guide 2026」— ウェハテストとパッケージテストの工程位置、およびテスト事業の説明
- ディスコ「2025年度 決算資料」— 売上高・営業利益など直近通期の比較元
- レーザーテック「半導体関連製品一覧」— マスク関連(EUV/DUV)とウェハ関連を分けた製品分類
パワー半導体:投資先行で、今は谷
ロームでは、SiC(次世代パワー半導体)の量産ラインへ巨額投資した減価償却が、利益を一時的に赤字へ沈めています。
SiC市場自体は27億ドル→84億ドル(CAGR25%)と急成長見込みですが、「市場が伸びる」のと「今、儲かる」のは別。
投資の回収が始まるまでは利益は出ません。
三菱電機は総合電機の連結なのでパワー半導体単体の収益は埋もれて見えません。
アナリスト/FP&Aの「読み方」5つの着眼点
ここからは、これらの会社の決算を読むための着眼点です。そのまま他社の分析にも転用できます。
着眼点1:PER単独で見ない(特にシクリカル)
景気循環株は、利益が膨らむ好況期にPERが低く(割安に見え)、利益が縮む不況期にPERが高く(割高に見え)なります。
これが「PERの罠」。
谷で高PER・頂点で低PERは、しばしば逆張りシグナルです。
シクリカルはPER単独ではなく、サイクルを通した平均(中央値)のEV/EBITDAで見るのが定石です。
着眼点2:受注残は「未来の売上」の先行指標
装置メーカーは「受注→受注残→売上→売掛回収」と進み、受注から売上計上まで6〜18か月かかります。
だから足元の売上より、受注残の増減のほうが半年先の業績を語ります。
決算で売上が良くても受注残が細っていれば、来期は失速のサインです。
着眼点3:CapEx/売上 と FCFイールド(現金を生む効率)
利益が「現金」になっているかを見ます。
FCFは一般に営業CFから設備投資を引いて捉えますが、使用する投資項目を揃える必要があります。
FCF利回りの分母を時価総額とするなら、株価基準日を記録します。
EV/EBITDAでは、EVに含める借入・現金・非支配持分などの定義と、EBITDAの対象年度を揃えます。
タツモの旧版の20.5%・4.3倍は市場日と算式を再現できないため採用しません。分析上は、複数年の営業CF、在庫の増減、設備投資を並べ、一度の大型検収で膨らんだFCFと継続的な稼得力を区別します。
着眼点4:棚卸資産(仕掛品)の増減とCFのタイミング
受注生産の装置メーカーは、作っている間は現金が出ていくだけ(仕掛品が膨らむ)。
納品・検収で一気に回収します。
タツモが2021〜2023期に営業CF赤字だったのは大型案件の仕掛品が膨らんだため、2024〜2025期に黒字化したのは納品・回収が完了したから。
「棚卸資産が増える時期は一時的なCF悪化を許容し、減り始めたら回収局面」と読みます。
着眼点5:TAM(狙える市場の大きさ)=ニッチトップの天井
シェアが高くても、市場(TAM)自体が小さければ成長の天井は低い。
逆にシェアが低くても市場が巨大なら伸びしろは大きい。
「シェア×TAM×TAM内での自社の位置」をセットで見ます。
次のケースが、その典型です。