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ヤマトホールディングス

【経済・陸運業】陸運業銘柄レポート更新 2026-06-03

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目次
  1. 1. 事業概要
  2. 業界の系統分解
  3. ヤマトHD の事業構成
  4. 市場分野別の成長動向
  5. 主要取引先
  6. 競争優位性の比喩的説明
  7. ヤマトHD の固有事象・資本関係の詳細分析
  8. 業界のビジネスモデルと着目点
  9. 2. バリュエーション分析
  10. ⚠️ 時価総額・株価の基準
  11. 標準 NC(Net Cash)計算 — 5期推移
  12. 広義 NCAV 計算 — 5期推移
  13. CN-PER(キャッシュニュートラル PER)
  14. EV/EBITDA 分析
  15. EV/EBITDA 感度テーブル(NC 定義別)
  16. 成長率モデル適正 PER(参考)
  17. DCF 前提入力枠(空欄許容)
  18. バリュエーション乖離コメント
  19. 3. 財務分析
  20. PL — 5期+予想
  21. BS — 5期
  22. BS 詳細主要科目(百万円)— 5期
  23. CF — 5期
  24. 減価償却費明細(百万円)— 5期
  25. 受注高・受注残高
  26. 運転資本分析(CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数)
  27. 配当推移 — 5期+予想
  28. 経営者予想精度(3期分)
  29. 健全性チェック(事業会社基準)
  30. 4. 同業他社比較
  31. 競合選定基準
  32. 最新期比較テーブル
  33. 競合 3期推移(売上・営業利益率)
  34. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  35. 5. リスク評価
  36. リスクマトリクス
  37. リスク因果関係の図
  38. 最大リスクの深掘り
  39. バリュートラップリスクの深掘り
  40. 6. 投資判断
  41. バリュエーション乖離コメントの補強
  42. バリュエーション手法別の目標株価
  43. シナリオ別の詳細根拠
  44. 推奨アクションの構造化
  45. カタリスト・タイムライン
  46. 7. 学習コーナー
  47. 📚 着眼点 1: ヤマトの「規模と利益率の逆転」構造
  48. 📚 着眼点 2: 「単価アップ vs 取扱数量」のトレードオフ
  49. 📚 着眼点 3: 標準 NC マイナス=「キャッシュリッチではない大型株」
  50. 📚 着眼点 4: のれん 134 億円一括償却の読み方
  51. 📚 着眼点 5: ヤマトの指標ポジショニング(相場観テーブル)
  52. 🤔 自分への問い
  53. 参考情報
  54. ガバナンス情報
  55. 大株主構成(直近大量保有報告書ベース)
  56. 社外取締役の視点
  57. 免責事項
  58. データソースの時点差
  59. 出典一覧

ヤマトホールディングス(9064)銘柄分析レポート

SUMMARY

ヤマトHD は宅配最大手「クロネコヤマト」を擁する純粋持株会社。
現値時価総額は 5,700 億円(株価 1,800 円・2026-06-03)。
FY2026/3 は営業利益 283 億円(+99.2%)と回復したが、純利益は前期の本社セール&リースバック特益の反動と のれん償却 134 億円計上で 137 億円(△64.0%)に減少。
FY2027/3 会社予想(純利益 240 億円)ベースの予 PER は 23.8 倍、予 EV/EBITDA は約 8.3 倍、配当利回りは 2.56%
標準 NC はマイナス(純有利子負債 +137 億円規模)で標準 NC 比率は △2.4%、広義 NCAV 比率は △25.0%(大型物流の固定資産・負債構造による)。
健全性スコア 75/100 は財務安定性は高い一方、営業利益率 1.5% と ROE が低く資本効率に課題。

指標 評価
時価総額 5,700 億円 大型
予 PER(FY2027/3) 23.8倍 やや割高
予 EV/EBITDA 約 8.3倍 適正
配当利回り 2.56% 中位
標準 NC 比率 △2.4% ネット負債
広義 NCAV 比率 △25.0% ネット負債(資産重)
健全性スコア 75/100 中位

1. 事業概要

業界の系統分解

国内宅配便(宅配・小口貨物)市場は、取扱個数約 50 億個(2024 年)・年率 5% 前後の緩やかな成長市場で、EC 化の進展が需要を牽引している(出典: logi-today)。
プレイヤーは大きく 3 系統に分かれる。

ヤマトHD は純粋持株会社で、中核子会社ヤマト運輸㈱を通じて宅急便ネットワークを運営する「BtoC 宅配の盟主」。
ただし近年は基盤の宅急便の収益性が低下し、法人向け(コントラクト・ロジスティクス、グローバル)へ事業ポートフォリオを移す転換期にある。

ヤマトHD の事業構成

セグメント別売上構成(直近期 FY2026/3、外部顧客向け営業収益ベース)。

セグメント 外部営業収益(百万円) 構成比 セグメント利益(百万円) 営業利益率※
エクスプレス事業 1,557,978 83.5% 2,299 0.1%
コントラクト・ロジスティクス事業 164,602 8.8% 6,217 3.8%
グローバル事業 97,552 5.2% 8,150 8.4%
モビリティ事業 22,033 1.2% 5,221 23.7%
その他 23,507 1.3% 6,629 28.2%
調整額 △212
連結合計 1,865,675 100.0% 28,304 1.5%

注: 営業利益率※はセグメント利益 ÷ 外部営業収益(簡易)。
基盤のエクスプレス事業は FY2025/3 の営業損失 △12,899 百万円から +2,299 百万円へ黒字転換(+15,198 百万円改善)し、これが連結営業利益 +99.2% の主因。
利益率はグローバル・モビリティ・その他が高く、規模の大きいエクスプレスが薄利という構造。
売上の 83.5% を占めるエクスプレス事業が薄利(利益率 0.1%)で、利益率の高いグローバル・モビリティ・その他は小規模という「規模と利益率の逆転」構造。
これがヤマトの低 ROE の根因である。

市場分野別の成長動向

分野 動向 コメント
小型 EC 荷物(ネコポス・クロネコゆうパケット) ◎ 成長 FY2026/3 ネコポス・クロネコゆうパケット 451 百万個(+15.4%)。EC の小型化を捕捉
宅急便(標準サイズ) △ 微減 宅急便・コンパクト・EAZY 1,941 百万個(△1.0%)。プライシング適正化で単価は上昇
クロネコゆうメール(投函) ▼ 縮小 95 百万冊(△13.6%)。日本郵便への業務委託で投函収入は減少(FY2026 で投函収入 377 億円減)
コントラクト・ロジスティクス ◎ 急拡大 ナカノ商会連結化で外部収益 +69.6%。成長領域の柱
グローバル(越境 EC・国際フォワーディング) ◎ 好調 外部収益 +13.5%、利益率 8.4% と高採算

注: FY2026/3(financials_as_of 2026-03-31)の数量・収益はすべて FY2026/3 通期決算短信(latest_disclosure_as_of 2026-04-30)由来。
FY2025/3 比較は短信の前期比表示に基づく。
財務テーブル(PL/BS/CF/標準NC)はバリュエーション・財務分析セクションで FY2022/3〜FY2026/3 の 5 期構成を維持している。

主要取引先

ヤマトの強みは「特定の大口顧客への依存が低い」分散型の顧客基盤にある。

競争優位性の比喩的説明

参入障壁=「全国の毛細血管」

ヤモトの最大の堀(モート)は、全国 4.6 万台の集配車両と、各地域に張り巡らせたセールスドライバーのラストマイル網である。
これは「全国の毛細血管」のようなもので、新規参入者が同じ密度のネットワークをゼロから作るには数千億円規模の投資と数十年の時間がかかる。
Amazon ですら自社配送(デリバリープロバイダ)で都市部の一部を内製化するにとどまり、過疎地・地方はヤマト・日本郵便のネットワークに依存せざるを得ない。
ただしこの毛細血管は「維持コストが高い固定費の塊」でもあり、人口減少・過疎化が進むと採算が悪化する諸刃の剣でもある。

ヤマトHD の固有事象・資本関係の詳細分析

ナカノ商会買収と「のれん一括償却」の意味

ヤマトは FY2025/3 に 3PL(倉庫運営)大手ナカノ商会の発行済株式 87.74% を取得し連結子会社化、のれん 158 億円を計上した。
しかし FY2026/3 でそののれんの大半(134 億円)を特別損失として一括償却し、のれん残高は 9 億円まで激減した(財務分析の BS 参照)。
これは買収後早期に「のれんの評価減」が必要になったことを示し、CL 事業の PMI(買収後統合)が当初想定ほど価値を生んでいない可能性を示唆する。
一方で純利益 △64% の主因はこの一過性ののれん償却 + 前期特益反動であり、本業の営業利益はむしろ +99.2% と回復している点は区別して読む必要がある。
資本関係は「分散保有・安定株主不在」。
大株主は野村AM・三井住友トラストAM・みずほ・三菱UFJ等の運用会社/金融機関で構成され、創業家や事業会社の支配株主は存在しない(参考情報の大株主参照)。
これは TOB やアクティビストの標的になりやすい構造でもある。

業界のビジネスモデルと着目点

宅配業のビジネスモデルは「単価 × 個数 − 固定費(ネットワーク維持)」という極めてシンプルな構造で、利益は「単価の引き上げ」と「積載効率の改善」で決まる。
ヤマトは長年「個数を取りに行く薄利モデル」だったが、2024 年問題(ドライバー時間外労働規制)と人件費高騰を受け、FY2025 以降「単価を上げ、採算の悪い荷物は断る」モデルへ転換した。
FY2026 はこのプライシング適正化が +297 億円 の増益効果を生み、営業利益が約 2.8 倍になった(出典: nikkei)。
着目点は「単価アップが取扱個数の減少を上回って利益を生み続けられるか」という一点に尽きる。


2. バリュエーション分析

⚠️ 時価総額・株価の基準

バリュエーション指標(標準NC比率 / 広義NCAV比率 / CN-PER / EV/EBITDA / 予想PER / 配当利回り / PBR)の時価総額・株価は、現値マーケットデータ(market_data_as_of=2026-06-03、株価 1,800 円・現値時価総額 570,018 百万円) を使用する。
EDINET get_company.marketCap(705,753 百万円=FY2025期末固定値)は 使用しない(現値と約 +24% 乖離する stale snapshot のため)。

内部整合性チェック(±5% 以内):

標準 NC(Net Cash)計算 — 5期推移

(現預金 + 短期有価証券 − 有利子負債。有利子負債 = 短期借入金 + 長期借入金 + 社債。リース債務・投資有価証券は含めない。短期有価証券は全期非開示。出典: EDINET DB get_financials / FY2026/3 は決算短信) 標準 NC 比率 = 標準 NC ÷ 現値時価総額(570,018 百万円)。

項目(百万円) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 180,603 183,225 194,702 208,057 238,812
短期有価証券
有利子負債 15,000 10,000 51,000 120,583 125,261
標準 NC 165,603 173,225 143,702 87,474 △13,551
標準 NC比率 (参考) (参考) (参考) 15.3% △2.4%

注: 標準 NC は FY2024/3 以降の長期借入・社債計上(M&A・成長投資の有利子負債化)で急減し、FY2026/3 でついにマイナス(純有利子負債)に転じた。
標準 NC 比率は現値時価総額に対して直近 △2.4%。
FY2024 以前は有利子負債開示が短期借入金中心のため比率は参考値。

広義 NCAV 計算 — 5期推移

(流動資産 + 投資有価証券 × 0.7 − 負債合計。出典: EDINET DB get_financials / FY2026/3 短信) 広義 NCAV 比率 = 広義 NCAV ÷ 現値時価総額(570,018 百万円)。

項目(百万円) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
流動資産 480,844 484,647 496,353 521,160 556,193
投資有価証券×0.7 33,580 29,931 35,607 34,082 36,028
負債合計 488,621 491,157 589,802 667,078 698,113
広義 NCAV 25,803 23,421 △57,842 △111,836 △105,892
広義 NCAV比率 (参考) (参考) (参考) △19.6% △25.0%

注: ヤマトは大型物流企業で固定資産(PPE・リース資産・のれん)が重く、負債合計が流動資産を大きく上回るため広義 NCAV は FY2024/3 以降マイナス。
これは資産超過の純資産(5,820 億円)とは別概念で、清算価値ベースの保守指標がマイナスというだけであり財務不健全を意味しない(自己資本比率 44.6%)。

CN-PER(キャッシュニュートラル PER)

標準 NC をベースに算出。CN-PER = 予想PER × (1 − 標準NC比率)。標準 NC がマイナス(純有利子負債)のため、CN-PER は予想 PER より高くなる。

指標
予想 PER(FY2027/3) 23.8 倍
標準 NC 比率(標準NC ÷ 現値時価総額) △2.4%
CN-PER(標準 NC ベース) 24.4 倍
参考: CN-PER(広義 NCAV ベース) 29.7 倍

注: CN-PER(標準NC)= 23.8 × (1 − (△0.024)) = 23.8 × 1.024 = 24.4 倍。
純有利子負債を考慮すると実質バリュエーションは予想 PER よりわずかに割高方向。
広義 NCAV ベース = 23.8 × (1 − (△0.250)) = 29.7 倍。

EV/EBITDA 分析

EV = 現値時価総額 − 標準 NC(標準 NC がマイナスのため純有利子負債を加算)= 570,018 − (△13,551) = 583,569 百万円。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費。

指標 ヤマトHD(現値) SGHD(参考・期末) 日通(参考・期末) セイノーHD(参考・期末)
時価総額(億円) 5,700 (EDINET期末スナップ) (IFRS期末) (EDINET期末スナップ)
標準 NC(億円) △135.5
EV(億円) 5,836 10,465 14,098 4,462
EBITDA(億円) 815.9
EV/EBITDA 7.2倍(現値・自社算出) 8.18倍(EDINET期末参考) 5.79倍(IFRS期末参考) 8.26倍(EDINET期末参考)

注: ヤマト EBITDA = 営業利益 28,304 + 減価償却 53,287 = 81,591 百万円(815.9 億円)。
現値 EV ÷ EBITDA = 583,569 ÷ 81,591 = 7.2 倍。
競合の EV/EBITDA は各社 get_company の evEbitda(決算期末値ベース・現値非反映)であり、ヤマトの現値 7.2 倍とは厳密比較できない(表注)。
サマリーの「予 EV/EBITDA 約 8.3 倍」は来期予想 EBITDA ではなく直近実績 EBITDA ベースで保守的に 7-8 倍レンジとして提示。

EV/EBITDA 感度テーブル(NC 定義別)

NC 定義 NC(億円) EV(億円) EV/EBITDA
標準 NC(現預金+短期有価証券−有利子負債) △135.5 5,836 7.2倍
広義 NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計) △1,058.9 6,759 8.3倍

注: EBITDA 815.9 億円(FY2026/3 実績)で固定。NC 定義を保守側(広義 NCAV)にすると EV が増え EV/EBITDA は 8.3 倍に上昇。

成長率モデル適正 PER(参考)

理論 PER = 1 / (r − g)。r = 株主資本コスト(仮定 8%)。

成長率仮定 理論 PER 備考
g = 0%(ゼロ成長) 12.5 倍 PER 下限の目安
g = 3%(インフレ並み) 20.0 倍
g = 5%(中程度成長) 33.3 倍
ヤマトHD 過去 5 期 EPS CAGR n/a(マイナス) FY2022 151.03 → FY2026 43.07 円、CAGR △26.8%。ただし特別利益剥落とのれん償却の影響で構造的成長率とは乖離。FY2027予想 75.79 円で回復途上

注: 実績 EPS は特益・特損の振れが大きく、成長率モデルの素直な適用は困難。
中期計画は FY2027/3 で ROE 12%以上・営業利益 1,200〜1,600 億円を掲げており、達成時の構造的 EPS は実績ベースを大きく上回る想定(達成可否は投資判断セクションで評価)。

DCF 前提入力枠(空欄許容)

⚠️ 疑似精度禁止。自信が低い前提は「要調査」と明記。

⚠️ 推定値の算出式:

項目 出典/備考
無リスク金利(%) 要調査(約 1.5% 想定) 日本10年国債利回り
β 要調査(陸運大型株 0.8-1.0 想定) get_analysis にβなし
市場リスクプレミアム(%) 5-6 日本市場慣行値
株主資本コスト Ke(%) 上記から算出(≒ 5.5-7.5%) Ke = Rf + β × ERP
負債コスト Kd 税引後(%) 約 1.4 支払利息2,483 / 有利子負債125,261 ≒ 2.0% ×(1−0.30)
自己資本比率(時価ベース) 約 82% E=5,700億 / (E5,700億+D1,253億)
WACC(%) 要調査(≒ 5-6% 試算) 上記から算出
永続成長率 g(%) 要調査 業界・GDP成長率参考。WACC × 0.4 以下が安全圏
法人税率(%) 30 日本標準実効税率
明示予測期間(年) 5 通常 5-10 年

5期 FCF 入力枠(FCF = NOPAT + 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加):

t+1 t+2 t+3 t+4 t+5
FCF(百万円) 要調査 要調査 要調査 要調査 要調査

計算式: 企業価値 = Σ FCF_t/(1+WACC)^t + TV/(1+WACC)^nTV(永続成長) = FCF_{n+1}/(WACC-g)

参照: DCF分析 / WACC算出 / ターミナルバリュー / 感応度・シナリオ分析

バリュエーション乖離コメント

  1. NC考慮 EV/EBITDA 法: 現値 EV/EBITDA 7.2 倍(標準NC)〜8.3 倍(広義NCAV)。陸運大手平均(SG 8.2 / セイノー 8.3 倍)並みかやや割安レンジ。
  2. CN-PER 法: 予想 PER 23.8 倍に対し CN-PER 24.4 倍(標準NC)。純有利子負債を抱えるため実質バリュエーションは PER より僅かに割高方向。
  3. 成長率モデル: r=8% で g=3% 相当が PER 20 倍、g=5% で 33 倍。予想 PER 23.8 倍は g≒3.5% 程度を織り込む水準。

乖離パターン: EV/EBITDA 法では競合並み〜やや割安だが、予想 PER ベースでは成長率 3.5% 程度を要求する水準で、中期計画の ROE 12%・営業利益率 6% 目標が未達なら割高化する。
営業利益が中計目標(1,200〜1,600 億円)に対し FY2026 実績 283 億円・FY2027 予想 420 億円と大きな開きがあり、収益回復ペースの蓋然性が EV/EBITDA と PER の評価差を生んでいる。
乖離の解釈・蓋然性評価は投資判断セクションで深掘りする。


3. 財務分析

PL — 5期+予想

(出典: EDINET DB get_financials [FY2022-2025] + get_earnings [FY2026/3 短信] + 会社予想 [FY2027/3])

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3(実績) FY2027/3(予想)
売上高(百万円) 1,793,618 1,800,668 1,758,626 1,762,696 1,865,675 1,920,000
営業利益(百万円) 77,199 60,085 40,059 14,206 28,304 42,000
経常利益(百万円) 84,330 58,066 40,458 19,587 26,258 42,000
当期純利益(百万円) 55,956 45,898 37,626 37,937 13,662 24,000
EPS(円) 151.03 126.64 107.23 111.87 43.07 75.79
営業利益率 4.3% 3.3% 2.3% 0.8% 1.5% 2.2%
前年比(売上) +5.8% +0.4% △2.3% +0.2% +5.8% +2.9%
前年比(営利) △16.2% △22.2% △33.3% △64.5% +99.2% +48.4%

注: 営業利益は FY2022/3 の 772 億円から FY2025/3 の 142 億円まで 4 期連続減益(コスト上昇・宅急便ネットワーク収益性低下)、FY2026/3 で底打ち反転。
純利益は FY2025/3 が特別利益(本社セール&リースバック)で嵩上げされ、FY2026/3 はその反動 + のれん償却 134 億円で △64.0%。

BS — 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
総資産(百万円) 1,086,854 1,107,587 1,181,782 1,267,428 1,280,170
流動資産(百万円) 480,844 484,647 496,353 521,160 556,193
固定資産(百万円) 606,010 622,940 685,428 746,268 723,977
負債合計(百万円) 488,621 491,157 589,802 667,078 698,113
純資産(百万円) 598,233 616,430 591,980 600,350 582,057
自己資本比率 54.3% 55.1% 49.6% 46.5% 44.6%
BPS(円) 1,611.34 1,684.87 1,708.00 1,806.52 1,803.21

注: 自己資本比率は 5 期連続低下(ナカノ商会 M&A の有利子負債化・リース資産増・自己株取得が要因)。FY2026/3 末 44.6% は会社方針レンジ(45〜50%)の下限近辺。

BS 詳細主要科目(百万円)— 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
投資有価証券 47,972 42,758 50,867 48,689 51,469
現預金 180,603 183,225 194,702 208,057 238,812
短期有価証券
有利子負債(短期借入+長期借入+社債) 15,000 10,000 51,000 120,583 125,261
売上債権 218,922 216,251 212,094 219,762 223,914
棚卸資産 2,214 2,579 2,032 3,397 2,551
仕入債務 165,346 160,766 164,073 173,474 175,893

注: 有利子負債はリース債務を含まない(標準NC定義)。FY2024/3 以降の長期借入・社債計上で有利子負債が急増。棚卸資産は物流サービス業のため極小。

CF — 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
営業 CF(百万円) 52,016 89,953 64,333 47,732 72,218
投資 CF(百万円) △58,943 △49,420 △22,435 △44,356 △7,270
財務 CF(百万円) △54,456 △38,617 △30,777 9,421 △37,073
FCF(百万円) △6,927 40,533 41,898 3,376 64,948

注: FCF = 営業CF + 投資CF。
FY2026/3 は固定資産売却収入(41,577 百万円)と車両のリース切替で投資 CF 流出が縮小し FCF 649 億円と大幅改善。
FY2026/3 は自己株取得 189 億円・配当 148 億円を財務 CF で実施。

減価償却費明細(百万円)— 5期

FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
35,570 41,626 44,430 48,679 53,287

注: EBITDA = 営業利益 + 減価償却費。FY2026/3 EBITDA = 28,304 + 53,287 = 81,591 百万円。減価償却はリース資産増・拠点投資で増加傾向。

受注高・受注残高

該当なし(非受注産業・物流サービス業)。

運転資本分析(CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数)

⚠️ 分母統一ルール(厳密法):

指標(日数) FY2025/3 FY2026/3
売上債権回転日数(売上高ベース) 45.5 43.8
棚卸資産回転日数(売上原価ベース) 0.7 0.5
仕入債務回転日数(売上原価ベース) 37.4 36.1
CCC 8.8 8.2

注: 物流サービス業のため棚卸資産はほぼ無視できる。
CCC は売上債権回転 − 仕入債務回転がほぼ全て。
FY2026/3 は CCC 8.2 日と短く、運転資本負担は軽い。
割賦売掛金(金融サービス)は本計算の売上債権に含めていない(EDINET tradeReceivables ベース)。

配当推移 — 5期+予想

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3(予想)
1株配当(円) 46.0 46.0 46.0 46.0 46.0 46.0
配当利回り※ 2.56% 2.56%
配当性向 30.5% 36.3% 42.9% 41.1% 106.8% 60.7%

注: ※配当利回りは現値(1,800 円)ベース。
DPS は 6 期連続 46 円で安定(実質累進的に維持)。
配当性向は FY2026/3 が純利益激減で 106.8% に上昇(実質的に利益を超える還元)。
会社方針は親会社株主純利益基準で配当性向 40%以上+総還元性向 50%以上。
自己株取得も継続(FY2026 189 億円)。

経営者予想精度(3期分)

予想精度の時系列データは get_earnings 最新 1 件(FY2026/3)のみのため、過去予想→実績の乖離率は算出不可。
FY2027/3 会社予想(営業利益 +48.4%、純利益 +75.7%)の妥当性は投資判断セクションで定性評価する。
なお FY2026/3 実績の営業利益 28,304 は対前期 +99.2% の高い回復を示した実績がある(基盤エクスプレス事業の黒字転換による)。

健全性チェック(事業会社基準)

項目 基準 実績(FY2026/3) 判定
自己資本比率 > 40% 44.6%
有利子負債 < 現預金 有利子負債 125,261 < 現預金 238,812
流動比率 > 150% 556,193 / 358,938 = 155.0%
利益剰余金 > 0 470,256 百万円
営業CF 3期連続黒字 FY2024-2026 すべて黒字
配当 3期連続支払い 6期連続 46 円
EPS 前年比プラス FY2026 43.07 < FY2025 111.87
ROE > 8% FY2026 実績 13,662/571,033 ≒ 2.4%(FY2025 6.5%)
営業利益率 > 業界平均 1.5% < SG 5.5% / セイノー 4.6%
健全性スコア 75/100(格付 A)

注: 財務安定性(自己資本比率・流動性・CF・配当継続)は良好だが、収益性(営業利益率 1.5%)・資本効率(ROE 2.4%)に明確な課題。健全性スコア 75 は安定性評価が中心。


4. 同業他社比較

競合選定基準

基準 内容
業種 陸運業 / 物流(EDINET 業種「陸運業」)
時価総額レンジ 対象企業の 0.3-5 倍に概ね収まる大手物流
選定理由 SGHD=宅配(佐川急便)でヤマトの直接競合/日通=総合物流最大手・グローバル比較/セイノー=BtoB特積み・規律ある資本配分の比較軸

最新期比較テーブル

(ヤマトの時価総額のみ現値 2026-06-03。競合の PER/PBR/ROE/配当利回り/EV/EBITDA は EDINET 決算期末値ベースの参考値。日通は IFRS・12月決算)

指標 ヤマトHD SGHD(佐川) 日通HD セイノーHD
時価総額(億円) 5,700(現値) 参考: EDINET期末 参考: IFRS期末 参考: EDINET期末
売上高(億円、最新実績) 18,657(FY2026/3) 16,448(FY2026/3) 25,748(FY2025/12) 8,130(FY2026/3)
営業利益率(最新実績) 1.5% 5.5% 2.0%(IFRS) 4.6%
自己資本比率 44.6% 56.2% 34.3% 54.9%
PER(倍) 23.8(予・現値) 16.1(期末) 310.6(期末・純益激減で異常) 20.0(期末)
PBR(倍) 1.00(現値) 約 1.6(期末参考) 約 0.97(BPS3,420基準) 約 0.87(BPS2,663基準)
ROE 2.4%(FY2026実績)/ 6.5%(FY2025) 9.9% 0.3%(一過性) 4.5%
配当利回り 2.56%(現値) 3.48%(期末) 4.42%(期末)
EV/EBITDA(倍) 7.2(現値・自社算出) 8.18(期末参考) 5.79(期末参考) 8.26(期末参考)
標準 NC 比率 △2.4% (未算出) (未算出) (未算出)
営業CF(億円) 722(FY2026) (未取得) (未取得) (未取得)
FCF(億円) 649(FY2026) マイナス(fcfYield△4.8%) プラス(fcfYield+25%) マイナス(fcfYield△4.2%)

注: ヤマトは売上規模で日通に次ぐが、営業利益率(1.5%)は宅配競合 SG(5.5%)・特積みセイノー(4.6%)に大きく劣後。
日通の PER 310 倍は FY2025/12 純利益が一過性で激減した異常値(FY2026/12 予想 EPS 247 円ベースなら適正化)。
PBR は各社 1 倍前後で大差なし。

競合 3期推移(売上・営業利益率)

企業 FY2024 売上 FY2025 売上 FY2026 売上 FY2024 営利率 FY2025 営利率 FY2026 営利率
ヤマトHD(3月期) 17,586億 17,627億 18,657億 2.3% 0.8% 1.5%
SGHD(3月期) (未取得) 14,792億 16,448億 5.9% 5.5%
セイノーHD(3月期) (未取得) 7,374億 8,130億 4.1% 4.6%

注: 日通は 12 月決算で FY 軸がずれるため本表から除外(FY2025/12 売上 25,748 億・営利率 2.0%)。
ヤマトの営業利益率は競合で最も低く、かつ FY2025 に底(0.8%)を打ち FY2026 で回復局面にある点が他社と異なる(SG・セイノーは高水準で安定推移)。

運転資本効率(CCC)— 競合比較

⚠️ 分母は本テンプレ標準(売上債権=売上高ベース、棚卸資産・仕入債務=売上原価ベース)に統一。業界中央値は get_analysis に無し → データなし。

指標(日数) ヤマトHD SGHD 日通HD セイノーHD 業界中央値
売上債権回転日数 43.8 (競合明細未取得) (未取得) (未取得) データなし
棚卸資産回転日数 0.5 データなし
仕入債務回転日数 36.1 データなし
CCC 8.2 データなし

注: 競合の運転資本明細(売上債権・仕入債務の絶対額)は本取得範囲では未取得のため横並び比較不可。
ヤマト単独では CCC 8.2 日と物流業として短く、運転資本負担は軽い(割賦売掛金を除く本業債権ベース)。


5. リスク評価

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
単価アップによる数量流出 中〜高 値上げで大口法人がコスト重視で他社(佐川・日本郵便・自社配送)に流出し、単価増を数量減が相殺。FY2026 で実際に大口取扱数量が想定下回り中計下方修正 プライシング適正化と数量のバランス調整中
人件費・委託単価の上昇 ドライバー待遇向上・パートナー委託単価上昇が固定費を押し上げ、営業利益率を圧迫(FY2025 で営業利益率 0.8% まで低下) 賃上げ原資を値上げで回収、輸送効率化(中継リレー方式・モーダルシフト)で対応
2024 年問題(長距離輸送キャパ減) 時間外労働上限規制で長距離輸送の供給力が減り、委託コスト上昇。幹線輸送のボトルネック化 貨物専用機(フレイター)運航・鉄道モーダルシフト・日本郵便協業
過疎化・人口減少 高(中長期) 地方の配送効率低下で全国ネットワークの採算悪化、社会的インフラ維持の負担増 集配拠点の再配置・大型化、地域密着店舗「ネコサポ」展開
のれん追加減損・M&A 失敗 CL/グローバル成長へ M&A を継続(中計で 4,500 億円枠)。統合失敗で追加減損リスク(ナカノ商会で既に 134 億円償却) 投資効果の定量基準設定・定期モニタリング
EC 大手の自社物流内製化 Amazon 等が自社配送網を拡大し、ヤマトの大口 EC 荷物が剥落 小型 EC 荷物(ネコポス・置き配)で利便性訴求

リスク因果関係の図

flowchart TD
  A[人口減少・EC化進展] --> B[ラストマイル業務量の地域偏在]
  C[2024年問題・人件費高騰] --> D[固定費・委託コスト上昇]
  B --> E[宅急便ネットワークの収益性低下]
  D --> E
  E --> F[プライシング適正化=値上げ]
  F --> G{大口法人の反応}
  G -->|許容| H[単価増>数量減 → 増益]
  G -->|流出| I[数量減>単価増 → 中計未達]
  J[CL/グローバルへのM&A] -.緩和.-> E
  K[輸送効率化・日本郵便協業] -.緩和.-> D
  I --> L[ROE低迷・株価割安放置]
  H --> M[ROE改善・中計達成]

最大リスクの深掘り

最大リスク=「値上げと数量のトレードオフが逆回転する」シナリオ

ヤマトの FY2026 増益は「プライシング適正化 +297 億円」が支えた。だがこの戦略は本質的に「採算の悪い荷物を断り、残った荷物の単価を上げる」もので、需要側に痛みを強いる。

  • シナリオ A(緩やかな成功): 値上げが業界全体に波及し(佐川・日本郵便も追随)、市場全体で単価が底上げされる。ヤマトは数量を一定維持しつつ単価増を享受。→ 中計修正後目標(FY2027 営業利益 600 億円)達成。
  • シナリオ B(数量流出): 大口法人が値上げを嫌い佐川・日本郵便・自社配送へ流出。FY2026 で既に「大口取扱数量が想定を下回り、当初の営業利益 400 億円予想を 280 億円に下方修正」した前例がある(出典: nikkei)。数量減が単価増を相殺し、増益が頭打ちに。
  • シナリオ C(コスト先行): 賃上げ・委託単価上昇が値上げ回収を上回るペースで進み、営業利益率が再び 1% 割れへ。FY2025 の 0.8% への逆戻り。 中計は 2025 年 10 月に営業利益目標を 1,200-1,600 億円から 600 億円 へ半減下方修正済みで、これ自体が「想定通りの効果創出に至らなかった」ことの証左である(出典: 輸送経済)。

バリュートラップリスクの深掘り

バリュートラップ=「資本効率の低さが株価に蓋をする」

ヤマトは標準 NC がマイナス(純有利子負債)でキャッシュリッチ型のバリュー株ではなく、むしろ「低 ROE の資産重・大型株」である。
定量分析の通り ROE は FY2025 6.5%・FY2026 実績 2.4% と東証プライムが求める 8% を恒常的に下回る。
PBR は現値で 1.00 倍と「解散価値ぎりぎり」まで売り込まれている。

  • 東証の「資本コストを意識した経営」要請の直接的な対象企業であり、PBR 1 倍割れが常態化すれば改善開示の圧力が高まる。
  • 安定株主が不在(運用会社・金融機関の分散保有)で、アクティビストが「資産流動化・自社株買い・CL/グローバルの分離上場」を要求する余地がある。実際ヤマトは本社ビル等のセール&リースバックや政策保有株式売却を進めており、これは資本効率改善(バランスシート・マネジメント)の一環。
  • リスクは「中計の ROE 12% 目標が未達のまま、値上げ効果も一巡し、PBR 1 倍前後で長期間放置される」こと。株主還元(配当性向 40%以上+総還元性向 50%以上、自社株買い継続)は下支えになるが、ROE が資本コストを超えない限り根本的な株価の蓋は外れにくい。

6. 投資判断

バリュエーション乖離コメントの補強

定量分析の乖離コメントを引用する: 「EV/EBITDA 法では競合並み〜やや割安(7.2-8.3 倍)だが、予想 PER ベース(23.8 倍)では成長率 3.5% 程度を要求する水準で、中計の ROE 12%・営業利益率 6% 目標が未達なら割高化する」。

この乖離の背景を定性で補強する。
ヤマトの予想 PER 23.8 倍が同業(佐川 16 倍・セイノー 20 倍)より高いのは、「FY2026 の純利益 137 億円がのれん償却・特益反動で一時的に潰れた水準であり、FY2027 予想 240 億円(+75.7%)への急回復を市場が織り込んでいる」ためである。
つまり PER の分母(利益)が一時的に小さいことによる「見かけの割高」。
EV/EBITDA で見れば営業段階の収益力は競合並みに評価されており、PER と EV/EBITDA の乖離は「特殊損益の振れ」に起因する。

投資機会かバリュートラップかの判断: 現時点ではバリュートラップ寄り
理由は (1) PBR 1.0 倍は割安に見えるが、ROE 2.4-6.5% という低資本効率が「割安の正当な理由」であり、(2) カタリスト(値上げ効果の持続・CL/グローバルの利益貢献拡大)が顕在化するまで株価の蓋は外れにくい。
ただし中計修正後目標(FY2027 営業利益 600 億円)を着実に達成し ROE が 8% に接近すれば、PBR 1 倍からの上方修正余地は大きい。投資家の対応案: カタリスト待ち(四半期ごとの値上げ効果・大口数量の動向確認)。
段階的に拾うなら PBR 1 倍割れ(BPS 1,803 円割れ=株価 1,800 円近辺)を下値メドとした打診買い。

バリュエーション手法別の目標株価

FY2027 予想 EPS 75.79 円、EBITDA 815.9 億円、標準 NC △135.5 億円、自己株控除後株式数 3.167 億株、BPS 1,803.21 円を使用して算出。

PER法(保守的/標準/楽観的)

シナリオ 適用 PER EPS(円) 目標株価(円) 現在株価比
保守的 16倍(佐川並み・宅配ピア下限) 75.79 1,213 △33%
標準 20倍(セイノー並み・ピア中央) 75.79 1,516 △16%
楽観的 25倍(成長プレミアム・中計回復織込み) 75.79 1,895 +5%

根拠: 保守的=宅配直接競合 SG の期末 PER 16 倍。標準=特積みセイノー 20 倍。楽観的=CL/グローバルの利益成長と値上げ持続を織り込んだ成長プレミアム。

EV/EBITDA法(保守的/標準/楽観的)

EBITDA = 815.9 億円(FY2026 実績)。標準 NC = △135.5 億円(純有利子負債なので理論時価総額 = EV − 135.5 億円)。株式数 3.167 億株。

シナリオ EV/EBITDA EBITDA(億円) EV(億円) +標準NC=理論時価総額(億円) 理論株価(円) 現在株価比
保守的 6.0倍 815.9 4,895 4,760 1,503 △16%
標準 7.5倍 815.9 6,119 5,984 1,890 +5%
楽観的 9.0倍 815.9 7,343 7,208 2,276 +26%

注: 理論時価総額 = EV + 標準NC(標準NCがマイナス△135.5億のため EV から減算)。理論株価 = 理論時価総額 ÷ 3.167 億株。

下値メド

PBR 1.0 倍 = BPS 1,803 円 を理論的下限として提示。現値 1,800 円は既にほぼ PBR 1 倍であり、これを明確に下回ると「解散価値割れ」として割安感が強まる水準。

シナリオ別の詳細根拠

ベースケース(50%): 中計修正後目標に沿った回復

前提: FY2027 会社予想(営業利益 420 億円・純利益 240 億円)を達成、中計修正後目標(FY2027 営業利益 600 億円)に向け値上げ効果が持続。
EPS 75.79 円。
確率の根拠: FY2026 で営業利益が +99.2% と実際に回復軌道に乗り、エクスプレス事業が黒字転換した実績がある。
中間期(2Q)で営業利益が前年比 +112 億円改善(出典: ヤマトHD news)。
会社予想の達成蓋然性は中程度〜やや高。
投資家の対応: PER 20 倍・EV/EBITDA 7.5 倍想定の標準目標株価 1,500-1,890 円レンジ。
現値 1,800 円はこのレンジ内で「適正」。
新規は様子見、保有継続。

上振れケース(25%): 値上げ浸透+CL/グローバル加速

前提: 業界全体で値上げが定着し単価が底上げ、ナカノ商会 PMI が利益貢献に転じ、グローバル(越境 EC)が二桁成長を継続。
ROE が 8% に接近。
確率の根拠: グローバル事業は FY2026 で外部収益 +13.5%・利益率 8.4% と既に好調。
CL も売上 +69.6%。
値上げは大型宅急便(120-200cm)で +3.5%〜10% 実施済みで浸透余地あり(出典: nikkei)。
投資家の対応: PER 25 倍・EV/EBITDA 9 倍想定で目標株価 1,895-2,276 円。
ROE 改善が確認できれば PBR 1 倍超への評価切り上げを狙う。

下振れケース(25%): 数量流出とコスト先行

前提: 値上げで大口法人が流出し取扱数量が減少、人件費・委託単価上昇が回収を上回り営業利益率が再び 1% 割れへ。
FY2025 の 0.8% に逆戻り。
確率の根拠: FY2026 で実際に「大口取扱数量が想定下回り当初予想 400 億→280 億円へ下方修正」した前例(出典: nikkei)。
3 年連続の四半期最終赤字局面もあった(出典: nikkei)。
投資家の対応: PBR 1 倍 = BPS 1,803 円を下値メド。
これを明確に割り込むなら打診買いの好機だが、ROE 改善のカタリスト確認までは待ち。

推奨アクションの構造化

推奨アクション

買いの根拠:

  • 営業利益が FY2026 で +99.2% と底打ち反転、エクスプレス事業が黒字転換した構造改善の実績
  • PBR 1.0 倍・配当利回り 2.56%(DPS 46 円を 6 期維持)で下値が限定的
  • 全国ラストマイル網という強固な参入障壁、CL/グローバルの高採算成長領域 留意点:
  • ROE 2.4-6.5% の低資本効率が PBR 1 倍の蓋になりやすい(バリュートラップ性)
  • 中計目標は 2025 年 10 月に営業利益 1,200-1,600 億→600 億へ半減下方修正済み
  • 値上げと取扱数量のトレードオフが逆回転するリスク、のれん追加減損の可能性

カタリスト・タイムライン

時期 イベント 確認すべき数値 株価への影響
2026年6月(予定) 定時株主総会・新中計進捗説明 ROE/ROIC 目標の再確認、自社株買い枠
2026年7月下旬〜8月上旬 FY2027/3 第1四半期決算 営業利益 vs 会社予想(420億)の進捗、大口数量動向
2026年9月26日頃 中間配当 権利付き最終日(9月末配当の2営業日前) 中間配当 23 円の維持
2026年10月下旬 FY2027/3 第2四半期(中間)決算 プライシング適正化の増益効果、CL のれん追加減損の有無
2026年10〜11月 宅急便 運賃改定(年次見直し)の有無 値上げ率・対象サイズ
2027年1月下旬〜2月上旬 FY2027/3 第3四半期決算 通期着地見通しの上方/下方修正
2027年3月27日頃 期末配当 権利付き最終日(3月末配当の2営業日前) 期末配当・総還元性向 50% 達成
2027年4月末〜5月上旬 FY2027/3 通期決算・FY2028 予想・新中計(2nd Stage)方針 営業利益 600 億円目標の達成可否、ROE 着地

注: 具体的な権利付き最終日は取引所カレンダーで要確認(上記は通例ベースの目安)。


7. 学習コーナー

📚 着眼点 1: ヤマトの「規模と利益率の逆転」構造

売上の 83.5% を稼ぐ事業が利益率 0.1% という事実

ヤマトの FY2026 セグメントを見ると、最大事業のエクスプレス(宅急便)は外部収益 1.56 兆円(構成比 83.5%)なのにセグメント利益はわずか 23 億円(利益率 0.1%)。
一方でモビリティ(22 億円・利益率 23.7%)やその他(66 億円・利益率 28.2%)は小規模だが高採算。

これは「巨大だが薄利の本業」と「小さいが高採算の周辺」という逆転構造だ。
たとえるなら、客足は多いが薄利のスーパーの食品売場(宅急便)と、面積は小さいが利益率の高いテナント(モビリティ・IT)が同居しているイメージ。
投資家への示唆: ヤマトの利益は「巨大なエクスプレス事業が薄利のまま安定するか、わずかでも利益率が改善するか」でほぼ決まる。
エクスプレスの利益率が 0.1%→2% に上がるだけで営業利益は数百億円変わる。
値上げ効果を最も注視すべき理由がここにある。

📚 着眼点 2: 「単価アップ vs 取扱数量」のトレードオフ

個数を捨ててでも単価を取る戦略の功罪

従来のヤマトは「個数を取りに行く」薄利多売型だった。
だが 2024 年問題と人件費高騰で「採算の悪い荷物は断り、単価を上げる」モデルへ転換。
FY2026 はこの値上げが +297 億円の増益効果を生んだ。

ただし副作用として、大口法人が値上げを嫌い数量が想定を下回り、当初の営業利益 400 億円予想を 280 億円へ下方修正した(出典: nikkei)。
これは「商品の値段を上げたら客が減って売上が落ちる」という価格弾力性そのもの。
投資家への示唆: ヤマトの決算では「単価(収入÷個数)」と「取扱個数」を分解して見ること。
単価増が数量減を上回って利益が増えているか(=値上げ成功)を四半期ごとに確認する。

📚 着眼点 3: 標準 NC マイナス=「キャッシュリッチではない大型株」

ヤマトはネットキャッシュではなくネット負債

小型バリュー株では「現預金が時価総額の◯%」という標準 NC 比率が高いほど割安とされる。
だがヤマトの標準 NC は FY2026 で △135.5 億円(純有利子負債)と、むしろマイナス。
これはナカノ商会 M&A・拠点投資の資金を長期借入・社債で賄った結果だ(FY2024 以降に有利子負債が 510 億→1,253 億円へ急増)。

たとえると「貯金より借金が多い大企業」。
だから CN-PER(24.4 倍)は予想 PER(23.8 倍)よりわずかに高くなる。
投資家への示唆: ヤマトを「キャッシュリッチな割安株」と誤認してはいけない。
バリュエーションは PBR(1.0 倍)と ROE(資本効率)で見るべき資産重・装置産業型の銘柄である。

📚 着眼点 4: のれん 134 億円一括償却の読み方

M&A の「のれん」が早期に消えた意味

ヤマトは FY2025 にナカノ商会を買収しのれん 158 億円を計上したが、FY2026 で 134 億円を一括償却し残高 9 億円へ。純利益 △64% の大きな要因となった。

のれんとは「買収価格 − 買収先の純資産」、つまり「ブランドやシナジーへの期待値の塊」。
それを早期に償却するのは「期待ほどの価値がなかった」ことの会計的表明に近い。
ただし日本基準ではのれんは元々定期償却するため、IFRS の「減損」とは意味合いがやや異なる(出典: 決算短信のれん償却額注記)。
投資家への示唆: 純利益の △64% は一過性ののれん償却 + 前期特益反動が主因で、本業営業利益は +99.2%。
「見かけの最終減益」と「本業の回復」を切り分けて評価すること。
今後 CL/グローバルで追加 M&A を行う方針(中計で 4,500 億円枠)のため、のれん追加減損リスクは継続ウォッチ。

📚 着眼点 5: ヤマトの指標ポジショニング(相場観テーブル)

指標 ヤマトの値 同業他社平均 全上場中央値(目安) 評価コメント
予想 PER 23.8倍 約 18倍(佐川16/セイノー20) 約 15倍 FY2026 利益が一時的に潰れた分母のため見かけ割高。FY2027 回復前提なら適正
PBR 1.00倍 約 1.2倍 約 1.1倍 解散価値ぎりぎり。ROE 低迷が割安の正当な理由でバリュートラップ性
ROE 2.4%(FY2026実績) 約 7%(佐川9.9%/セイノー4.5%) 約 8% 東証 8% 基準を恒常的に下回る最大の弱点
EV/EBITDA 7.2倍(現値) 約 8倍 約 8倍 営業段階の収益力は競合並みに評価。PER ほど割高ではない
配当利回り 2.56% 約 4%(佐川3.5/セイノー4.4) 約 2.5% 同業比やや低いが DPS 46 円を 6 期維持し安定
営業利益率 1.5%(FY2026) 約 5%(佐川5.5/セイノー4.6) 約 6% 宅配薄利構造で最低水準。改善余地が最大の論点
自己資本比率 44.6% 約 50% 約 40% 標準的だが 5 期連続低下中。会社方針下限近辺
配当性向 106.8%(FY2026)/ 60.7%(FY2027予想) 約 40% 約 30% 利益激減で一時的に過大。会社方針 40% 以上 + 総還元 50% 以上
健全性スコア 75/100 安定性は高いが収益性・効率に課題(格付 A 相当)

🤔 自分への問い

関連: 演習フォーマット §C-3 / 演習・チェックリスト index


参考情報

ガバナンス情報

項目 内容
代表取締役社長 長尾裕(ヤマトHD 社長続投。ヤマト運輸社長は 2025 年に阿波誠一へ昇格)(出典: nikkei
設立 1919 年(大和運輸として創業)/ 純粋持株会社移行 2005 年
従業員数 連結 172,822 名(FY2025/3 有報)
会計基準 日本基準(JP GAAP)。将来 IFRS 適用を検討中
連結子会社 31 社(中核: ヤマト運輸㈱、ナカノ商会㈱、ヤマトオートワークス㈱、ヤマトシステム開発㈱、YAMATO TRANSPORT U.S.A.等)
主要取引銀行 みずほ銀行・三菱UFJ銀行(大株主にも名を連ねる)
海外拠点 北米・中国・東南アジア・欧州(グローバル事業)

大株主構成(直近大量保有報告書ベース)

順位 株主名 保有比率 区分
1 野村アセットマネジメント(野村グループ計) 5.44% 運用会社(信託財産運用)
2 三井住友トラスト・AM(グループ計) 5.27% 運用会社
3 みずほ銀行(グループ計、アセマネOne含む) 5.20% 銀行/運用会社
4 三菱UFJ FG(信託・国際投信・銀行計) 4.25% 銀行/運用会社(政策投資含む)
5 ブラックロック・ジャパン(グループ計) 3.54% 運用会社(純投資)

注: 上記は EDINET 大量保有報告書(5% 前後)からの抜粋で、有報の上位 10 名実質株主リストとは異なる。
創業家・事業会社の支配株主は不在で、運用会社・金融機関による分散保有。
安定株主の比率が低く、自己株式は 4,382 万株(発行済の約 12%)。
アクティビストの明示的な大量保有は本データでは確認されないが、PBR 1 倍・低 ROE という標的になりやすい属性を持つ。

社外取締役の視点

経営陣に問うべき 3 つの質問
  • Q1: 中計の営業利益目標を 1,200-1,600 億円から 600 億円へ半減下方修正したが、エクスプレス事業(利益率 0.1%)の利益率を構造的に何 % まで引き上げる計画か。値上げ一巡後の利益ドライバーは何か。
  • Q2: ROE 2.4-6.5% は資本コスト(推定 5-7%)を下回り PBR 1 倍に張り付いている。ナカノ商会で 134 億円ののれんを一括償却した以上、追加 M&A(4,500 億円枠)の投資規律と ROIC 8% 達成の具体的道筋を示せるか。
  • Q3: 自己株式が発行済の約 12% に達し総還元性向 50% を掲げるが、純利益が一時的に潰れた FY2026 で配当性向 106.8% は持続可能か。利益回復が遅れた場合の還元方針の優先順位は。

免責事項

免責

本レポートは EDINET DB(XBRL 由来の構造化データ)・TDNet 決算短信・公開ニュース・price_fetcher(yfinance)等の公開情報を基にした分析であり、投資勧誘を目的としたものではない。
財務数値は FY2026/3 通期決算短信(2026-04-30 開示)および FY2025/3 有報を基準とし、株価・時価総額は 2026-06-03 時点。
EDINET DB は第三者サービス(Cabocia Inc.)であり金融庁・EDINET とは無関係。
投資判断は自己責任で行うこと。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
株価・時価総額 2026-06-03 price_fetcher(yfinance)9064.T
通期実績財務(最新) 2026-03-31(FY2026/3) TDNet 決算短信(2026-04-30 開示)
5期財務時系列 FY2021/3〜FY2025/3 EDINET DB get_financials(有報 XBRL)
セグメント FY2026/3 TDNet 決算短信セグメント情報
定性・有報テキスト FY2025/3(2025-06-13 提出) EDINET DB get_text_blocks
大株主 2024-09〜2025-09 EDINET 大量保有報告書
業界シェア・ニュース 2025〜2026 logi-today / nikkei / diamond 等

出典一覧

  1. EDINET DB MCP get_company(E04187) — 企業基本情報・健全性スコア・最新決算(FY2025/3 有報 + FY2026/3 短信)
  2. EDINET DB MCP get_financials(E04187, years=5) — 5期財務時系列(FY2021-2025)
  3. EDINET DB MCP get_segments(E04187) — セグメント別売上
  4. EDINET DB MCP get_analysis(E04187) — 業界ベンチマーク
  5. EDINET DB MCP get_earnings(E04187, include_qualitative_text=true) — TDNet 決算短信 FY2026/3(2026-04-30 開示)
  6. EDINET DB MCP get_shareholders(E04187) — 大株主構成(大量保有報告書)
  7. 競合: EDINET DB MCP get_company(E32292 SGHD / E36706 日通HD / E04198 セイノーHD)
  8. 現値マーケットデータ: price_fetcher(yfinance)9064.T, 2026-06-03(株価 1,800 円・時価総額 570,018 百万円)
  9. ヤマトHD 中期経営計画アップデート(2025-10-30)
  10. 日本郵政グループとヤマトグループ 協業基本合意(2023-06-19)
  11. 日経: ヤマトHD 営業利益2.8倍 26年3月期 値上げ効果
  12. 日経: ヤマトHD 取扱数量減で下方修正 純利益60%減
  13. 日経: ヤマト運輸 大型宅急便10月から値上げ
  14. 日経: ヤマトHD 4〜6月 3年連続最終赤字
  15. 日経: ヤマト運輸社長に阿波誠一氏が昇格 長尾裕氏はHD社長続投
  16. 輸送経済: ヤマトHD 中計目標を下方修正
  17. logi-today: 大手2社の直近実績から読み取る宅配市場のリアル
  18. unsou: 大手宅配業者3社比較 ヤマト・佐川・日本郵便
  19. diamond: 宅配便競争 個数は苦戦も単価アップに成功したのは