第2号 日本のワインは本当に縮んでいるのか — FP&A目線で『数量・金額・人』を分解する
第1章まず結論:これは「縮小」ではなく「ピークアウト後の再編」
先に答えを置きます。
日本のワインの「飲まれる量」は、2015年あたりをピークに頭打ちになり、いまは微減・横ばいです。
国税庁のデータでは、国内ワイン消費は2015年の約38万kLをピークに、近年は36万kL台で推移しています(2023年は約36.3万kL)。
成人1人あたりにすると年間およそ3リットルです。
ただし「量は頭打ち」なのに、国産ワイナリーの数は2015年の約280場から2024年には約493場へと、ほぼ倍増しています。
量は伸び悩み、造り手は急増する。一見矛盾するこの2つが同時に起きているのが、いまの日本ワイン市場です。だから「縮んでいる/伸びている」の二択で語ると、必ず読み違えます。

では、なぜ「量」だけ見ると読み違えるのか。ここから、5つの断面を1つずつ分解していきます。最初の「数量」はここまでで見たとおり、ピークアウトして横ばい。問題は、その先です。
視点2:金額 — 「数量減・金額増」のワニの口
FP&Aで市場を見るとき、最初にやるのは売上を「P(単価)×Q(数量)」に割ることです。ワイン市場のいまは、このP×Qがきれいに分かれています。
- Q(数量):ピークアウトして微減・横ばい
- P(単価):円安(2022年以降の急速な円安)と高級化で上昇
つまり、飲まれる本数が増えなくても、1本あたりの値段が上がることで「金額ベースの市場」は数量ほどは縮まない、むしろ膨らむ局面があります。
数量の線と金額の線が、上下に開いていく。
私はこれを「ワニの口」と呼んでいます。
これは事業の打ち手に直結します。
数量(Q)が頭打ちの市場で売上を伸ばすなら、レバーは単価(P)――すなわちプレミアム化です。
安いワインを多く売る戦略から、価値の高い1本を選んでもらう戦略へ。
市場全体がこの転換期にあります。

視点3:輸入国の地殻変動 — 首位を決めたのは“関税”
日本で飲まれるワインの多くは輸入です。そして、その「どの国から来るか」は、この10年で大きく入れ替わりました。主役はチリとフランスの首位攻防です。
- かつてはチリが長く数量1位(チリとのEPA=経済連携協定が2007年に発効し、関税撤廃が先行したため、低価格で一気にシェアを取った)
- 2019年に日欧EPAが発効し、欧州産ワインの関税が段階的に撤廃。フランスなど欧州勢が巻き返す
- 2021年はフランスが7年ぶりに数量1位へ返り咲き(約3割)。2023年はチリが再び1位(約3割)に逆転と、首位が毎年のように入れ替わる
- 欧州産(仏・伊・西など)を合計すると、輸入の約6割を占める
ここで効くのが「数量と金額のねじれ」です。
チリは数量こそ多いものの、1本あたりの単価はフランスのほうが高い。
だから「数量シェアではチリが上、金額シェアではフランス(や、ある年はイタリア)が上」という逆転が起きます。
FP&Aの読み筋はシンプルです。関税(規制・コスト構造)が、価格を動かし、価格が数量シェアを動かす。需要の地図は、消費者の好みだけでなく、通商政策で書き換わるということです。
