📚 業界ノート

第2号 日本のワインは本当に縮んでいるのか — FP&A目線で『数量・金額・人』を分解する

第1章まず結論:異なる数字を、同じ市場の成長率として読まない

メルシャンの2024年12月17日公表資料は、国税庁の消費数量系列に基づく2022年のワイン消費数量を前年比99%、2012年比約110%と説明しています。
同じ資料の2023年スティルワイン輸入数量は前年比約90%です。
両者は対象年も、国内消費と輸入という段階も違います。
足し合わせたり、同一系列の連続した減少と読んだりしないことが出発点です。メルシャン公表資料「消費数量」「スティルワイン」節

一方、国税庁の令和6年調査では、ワイナリー数は493場です(2023年中に生産又は出荷実績がある製造場)。
これは人の数や市場金額ではなく、製造場の数です。
数量が伸びない局面でも供給拠点が増えることはありえますが、それだけで全社の採算や消費者の高級化を結論づけることはできません。

ここからは、何を測るとどんな判断ができるのかを分解します。

視点2:金額 — 値上がりと高付加価値化を分ける

売上はP(平均単価)×Q(数量)です。
ただし輸入金額を輸入数量で割った単価と、店頭販売額を販売本数で割った単価は別物です。
前者を国内市場全体の売価として扱うと、卸・小売マージン、酒税、在庫の時間差が抜け落ちます。

仮に数量が10%減り、平均単価が15%上がれば、金額は0.9×1.15=1.035で3.5%増えます。
これは計算例であり、日本の市場実績値ではありません。
数量と金額の線が離れることは、必ずしも需要の強さを意味しません。

分析では単価上昇を三つに分けます。
為替や仕入原価の上昇、同じ商品の価格改定、高価格商品の構成比上昇です。
最初の二つなら売上が増えても粗利が減る場合があります。
三つ目にも、安価な商品の買い手が離脱した結果、平均だけが上がる場合があります。
「単価が上がったからプレミアム化に成功」と結論せず、同一商品の価格、価格帯別数量、粗利額を併せて追います。

旧版の「数量減・金額増」を示す実績グラフは、比較期間と金額系列の原表を固定できなかったため掲載を取り下げました。市場全体が金額増という断定は採用せず、この分解方法を事業分析に使います。

視点3:輸入国 — 数量シェアと金額シェアを分ける

国別の競争を見るには、同じ品目コード・年・容量区分で数量と金額を揃える必要があります。
ボトルワインとスパークリングを混ぜれば、価格差によって国の順位も変わります。
旧版の国別シェア比較図は、数量と金額の抽出条件を固定できなかったため不採用としました。

数量シェアと金額シェアが違う理由は、平均単価にあります。
仮にA国が数量20%、金額40%なら、A国の平均単価は市場平均の2倍です。
これは定義を揃えた場合の算式であり、特定国の実績ではありません。
産地名だけでなく、商品構成、容量、発泡性の有無を分けて読むことが肝心です。

通商条件も変化します。
日EU・EPAでEU産ワインの関税は2019年2月の発効時に即時撤廃されました。
旧版の「段階的撤廃」は訂正します。東京税関「ワインとウイスキーの輸入」2019年10月30日、冒頭・日EU EPAの説明

ただし、関税変更だけで国別首位の変化を説明することはできません。
為替、収穫量、輸送費、販売施策も価格と数量に影響します。
関税が下がった期間に、対象国と対象外の国で輸入単価と数量がどう変わったかを比較し、単一原因への飛躍を避けます。