📚 業界ノート

博報堂DYホールディングス

【経済・サービス業】サービス業企業バリュエーション分析更新 2026-09-26

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 2. 財務の実力
  3. 5期の業績・財政状態
  4. 収益性・安全性・効率性と9項目チェック
  5. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  6. 4. 同業比較 — 差分の論点
  7. 5. リスクと論点
  8. 6. バリュエーション統合と論点整理
  9. 評価差の構造
  10. 条件分岐シナリオ
  11. 監視ポイント
  12. M&A・出資を検討する買い手の論点
  13. 7. 学びのポイント
  14. 📚 着眼点1: 広告仲介の総額売上と純額収益
  15. 📚 着眼点2: CCCのマイナスを運転資金の強さと即断しない
  16. 📚 着眼点3: 標準NCと広義NCAVは違う安全性を測る
  17. 指標の相場観
  18. 参考情報
  19. 出典一覧

博報堂DYホールディングス(2433)銘柄分析レポート

SUMMARY

博報堂DYホールディングスは企画、広告運用、制作、調査、デジタル支援を束ねる持株会社で、457社・従業員28,921人のグループを持つ(グループ概要)。
FY2026/3は収益 8,610億円が前年比9.7%減となる一方、営業利益 447億円は18.9%増え、営業利益率は5.2%に改善した(FY2026/3業績予想と実績の差異)。
最大論点は、広告仲介から「クリエイティビティ・プラットフォーム」への転換が国内外の利益率を持続的に高めるかである(有価証券報告書・S100YHXU)。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

同社は顧客のマーケティング課題を起点に企画・媒体運用・制作を束ねるサービス会社である。 2003年に博報堂・大広・読売広告社の統合を基礎に発足した持株会社である。
博報堂、大広、読売広告社、Hakuhodo DY ONE、ソウルドアウト系、kyuなど国内外の事業会社を傘下に持ち、 2026年3月末のグループ従業員は28,921人。
企業のマーケティング課題を起点に、広告企画、媒体運用、クリエイティブ制作、リサーチ、PR、販促、イベント、 デジタル施策やコンサルティングを組み合わせる。
単純な広告枠の再販売だけでなく、顧客企業と生活者の接点を設計し、制作・実行まで束ねる点が事業の骨格である(会社概要)。

価値の流れ 主な収益・費用要因 分析上の確認点
顧客課題の発見・企画 マーケティング設計、調査、ブランド戦略、コンサルティング 案件の継続率、企画単価、顧客の予算決定への関与度
媒体・制作の実行 テレビ、インターネット媒体、屋外・交通、制作・PR、イベント 媒体構成、外部仕入れを除いた粗利、媒体社・制作会社との精算条件
データ・技術・海外展開 デジタル運用、データ活用、コンテンツ、現地顧客・拠点 買収連結分と既存事業の区別、地域別採算、専門人材の維持
主なコスト・資本 人件費、外注制作費、媒体仕入れ、技術投資、M&A後の統合費用 稼働率と人件費の調整、取得対価の回収、顧客・人材の離脱

FY2026/3の法定報告セグメントは単一で、事業領域ごとの売上・利益は細かく分かれない。
したがって、会社が目指すコンサル、テクノロジー、コンテンツなどの成長を、投資家が利益率や資本効率で個別に測るための開示は限定的である。
FY2027/3 Q1の地域情報では、国内の営業利益が162億円、海外が38億円の営業損失だった。
国内が黒字であることだけで、グループ全体の転換が進んだとは判断できない(FY2027/3 Q1決算短信)。

収益を読む際は「売上高」と財務諸表上の「収益」を分ける必要がある。
媒体費や制作費を顧客から受け取り、外部へ支払う取引が大きいため、総額に近い売上高と純額表示の収益に差が生じる。
FY2026/3は売上高1兆5,805億円に対し収益8,610億円、FY2027/3 Q1は売上高3,643億円に対し収益1,762億円だった。
Q1の前年比は売上高+7.5%、収益+3.8%、営業利益+19.4%だった(FY2027/3 Q1決算短信)。
年次比較や同業比較では、同じ定義の指標を使うことが大切である(決算短信注記)。

経営陣は、FY2025/3からFY2027/3までを収益性改善と成長オプション創出の期間と位置づけ、広告会社から「クリエイティビティ・プラットフォーム」への転換を掲げる。
マーケティング、コンサルティング、テクノロジー、コンテンツ、インキュベーション、グローバルの6領域を組み合わせる構想である。
広告市場では2025年の国内インターネット広告費が4兆459億円、前年比10.8%増となった一方、同社国内売上高の約3割はマス媒体が占める。
FY2027/3 Q1の従来基準の国内インターネット媒体売上高は前年比+17.0%だったが、一部には新規連結の影響が含まれる(FY2027/3 Q1決算短信)。
市場のデジタル成長をそのまま同社の成長率とみなさず、既存事業の採算と新領域の売上・利益寄与を確かめたい(中期経営計画、電通「2025年 日本の広告費」)。
サービス業全体の構造はサービス業業界基礎ガイド、プレイヤー横断の論点はサービス業主要プレイヤー比較を参照。


2. 財務の実力

FY2026/3は営業採算が回復した一方、純利益率・ROE・短期支払余力に課題が残る。

5期の業績・財政状態

FY 収益(億円) 前年比 営業利益(億円) 営業利益率 純利益(億円) 総資産(億円) 純資産(億円) 営業CF(億円) FCF(億円)
FY2022/3 8,950.8 — 716.4 8.0% 551.8 10,530.2 3,874.1 208.5 95.6
FY2023/3 9,911.4 +10.7% 554.1 5.6% 310.1 10,264.2 3,898.1 380.4 52.4
FY2024/3 9,467.8 -4.5% 342.9 3.6% 249.2 10,350.1 4,092.0 98.8 162.1
FY2025/3 9,533.2 +0.7% 375.8 3.9% 107.7 10,501.9 4,136.8 824.5 689.2
FY2026/3 8,610.0 -9.7% 446.8 5.2% 167.8 10,811.3 4,025.2 683.6 542.8

出典: EDINET有価証券報告書・S100YHXU。
百万円から億円へ換算。
FCFは営業CF+投資CFで算定。
純資産は非支配株主持分を含む連結純資産であり、自己資本比率やBPSの分母とは一致しない。

収益の減少には連結範囲の変化や中国・ASEAN需要の弱さが影響し、営業利益は採算改善と費用管理が支えた。
純利益は168億円で、収益に対する比率は1.9%にとどまる。
営業段階の改善が最終利益や資本効率にどこまで届くかを分けて読む必要がある(FY2026/3業績予想と実績の差異)。

収益性・安全性・効率性と9項目チェック

指標・チェック項目 FY2026/3実績 サービス業FY2025中央値 判定・見方
自己資本比率 40%以上 36.0% 54.2% ❌ 基準未達。資本の厚みは業種中央値より低い
標準ネットキャッシュがプラス +1,142.8億円 — ✅ 現預金・短期有価証券が有利子負債を上回る
流動比率 150%以上 138.7% 204.4% ❌ 短期支払余力は基準未達
利益剰余金がプラス 3,211.1億円 — ✅ 累積利益は正
営業CFが直近5期すべてプラス 5/5期 — ✅ キャッシュ創出は継続
1株配当が直近5期維持 32円/株 — ✅ FY2022/3–FY2026/3を通じて32円
EPSが前年比増加 46.09円、+57.2% EPS成長率+9.1% ✅ FY2025/3の29.32円から回復
ROE 8%以上 4.3% 11.3% ❌ 資本効率は業種中央値を下回る
営業利益率 5%以上 5.2% 7.3% ✅ 簡易基準は満たすが、業種中央値未満
純利益率 1.9% 5.0% — 最終利益への転換率に課題
総資産回転率 0.81回 1.04回 — 資産効率は業種中央値より低い
キャッシュ・コンバージョン・サイクル -19.0日 — — 広告業特有の総額・純額差が比較を難しくする

出典: EDINET有価証券報告書・S100YHXU、EDINET DBサービス業中央値(FY2025、561社)。
チェック基準は表記の通りで独立に確認した簡易スクリーニングで、6/9項目を満たす。
EDINET DBの健全性スコア68/100は別の集計指標である。
CCCは売掛債権÷収益、棚卸資産・仕入債務÷売上原価の各日数を使った計算値。

FY2026/3末の現金及び現金同等物は2,331億円、短期有価証券は67億円、有利子負債は1,255億円で、標準NCは1,143億円。
営業CFは684億円と正だが、FY2025/3の824億円から減少した。
流動比率は138.7%であり、表面上のネットキャッシュと運転資本の余裕は別の問いである。
FY2027/3 Q1末の現金残高は提供済みパックで確認できなかった。
売掛金・流動負債なども動くため、四半期末と年度末の現金を単純比較して流動性悪化と判断せず、運転資本全体を確認する。

経営者予想の誤差は利益項目で異なる。

収益・営業採算・再編損益を一つの成長率にまとめない。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

株価ベースの予想PERと、ネットキャッシュを差し引くCN-PERは異なる評価軸を示す。

報告日2026-09-26は土曜日のため、株価基準日は直近取引日の2026-09-25(1,330.5円)。
時価総額はFY2027/3 Q1(2026-08-05開示)の自己株式控除後株数359.032百万株を掛けた4,776.9億円である(株価時系列)。

指標 値 算定時点・定義
株価 / 時価総額 1,330.5円 / 4,776.9億円 2026-09-25終値 × 自己株式控除後株式数359.032百万株
予想EPS / 予想PER 72.42円 / 18.37倍 FY2027/3会社予想、予想PER=株価÷予想EPS
BPS / PBR 1,083.83円 / 1.23倍 FY2026/3実績、PBR=株価÷BPS
予想DPS / 配当利回り 32円 / 2.41% FY2027/3会社予想DPS÷株価
標準NC(FY2025/3 → FY2026/3) 969.4億円 → 1,142.8億円 現預金+短期有価証券−有利子負債
標準NC比率 23.9% FY2026/3標準NC÷時価総額
広義NCAV(FY2025/3 → FY2026/3) 1,655.5億円 → 1,622.0億円 流動資産+投資有価証券×70%−負債合計
広義NCAV比率 34.0% FY2026/3広義NCAV÷時価総額
EV / FY2026/3 EBITDA 3,634.1億円 / 589.4億円 EV=時価総額−標準NC、EBITDA=営業利益+減価償却費
EV/EBITDA 6.17倍 FY2026/3実績EBITDAに対する倍率
標準CN-PER / 広義CN-PER 13.98倍 / 12.13倍 (時価総額−各NC指標)÷FY2027/3会社予想純利益260億円

標準NCは現預金・短期有価証券から有利子負債を控除する現金余力、広義NCAVは流動資産と投資有価証券の70%から全負債を引く保守的資産尺度である。
FY2026/3はそれぞれ1,143億円、1,622億円。
どちらも顧客・ブランド・人材の簿外価値は測らず、CN-PERは時価総額からNCを差し引いた後の利益倍率を示す。

比較対象・感応度 指標 倍率 読み方
博報堂DY・FY2026/3実績 EV/EBITDA 6.17倍 現値EVとFY2026/3 EBITDAの組合せ
電通グループ・FY2025/12実績 EV/EBITDA N/M 大型減損を含む営業損失でEBITDAがマイナス
サイバーエージェント・FY2025/9実績 EV/EBITDA 5.70倍 現値EVとFY2025/9実績EBITDA
低位のPER感応度 PER 13.4〜15.5倍 比較2社の会社予想PER。事業構成差がある参考値
中心のPER感応度 PER 18.4倍 FY2027/3会社予想EPSに対する2026-09-25の市場倍率
EV/EBITDA感応度 EV/EBITDA 5.5〜7.0倍 同社現値6.17倍とサイバーエージェント5.70倍を挟む比較帯

13〜15倍台は比較会社の予想倍率、18.4倍は現行評価である。
利益倍率には純利益の再現性と海外採算が必要で、利益転換率・資本効率・新領域の収益寄与が定着すれば、従来型広告会社との差を説明しうる。
5期予想FCF・WACC・永久成長率をそろえられず、DCFは掲載しない。


4. 同業比較 — 差分の論点

博報堂DYの予想PERは比較2社より高いが、収益性はサイバーエージェントとサービス業中央値を下回る。 比較対象は博報堂DY(FY2026/3実績・FY2027/3予想)、電通(FY2025/12実績・FY2026/12予想)、サイバーエージェント(FY2025/9実績・FY2026/9予想)。

指標 博報堂DY 電通グループ サイバーエージェント
時価総額(億円) 4,776.9 9,306.2 6,336.2
最新実績収益(億円) 8,610.0 14,352.5 8,740.3
予想PER 18.37倍 13.35倍 15.45倍
PBR(株価ページ表示) 1.24倍 2.19倍 3.09倍
最新実績ROE 4.3% -61.1% 12.0%
営業利益率 5.2% -20.1% 8.2%
自己資本比率 36.0% 11.7% 49.5%
予想配当利回り 2.41% 0.00% 1.60%
実績EV/EBITDA 6.17倍 N/M 5.70倍
NC比率 23.9% N/D 27.3%

出典はEDINET DB各社の最新通期実績・会社予想と2026-09-25終値(博報堂DY、電通、サイバーエージェント)。

電通FY2026/12 Q2(2026-08-14開示)とサイバーエージェントFY2026/9 Q3(2026-08-07資料)も参照。

時価総額は終値×自己株控除後株数、予想PERは会社予想EPS。
表のPBRは3社の株価ページ表示値。
別掲表の博報堂DY PBR1.23倍は終値÷FY2026/3 BPSで算定し、株価ページ表示は1.24倍。
その他は最新年次実績。
会計基準・決算期・開示時点が異なる。

電通のFY2025/12には海外事業の大型減損が含まれ、同社のROE・営業利益率は正常収益力の比較に向かない。
サイバーエージェントは広告以外にゲーム・メディア等を持つため、利益源の構成も異なる。
自己資本比率は博報堂DYが電通を上回る一方、サイバーエージェントを下回る。
ROEもサイバーエージェントを下回るが、電通の減損影響を含む値とは単純な順位比較ができない。
博報堂DYの約1,143億円の標準NCは財務の支えだが、資本効率や利益成長の持続性を代替しない。
電通の有利子負債・現金項目は取得した構造化データに欠落があり、NC比率を推定せずN/Dとした。


5. リスクと論点

広告需要とデジタル競争が粗利を押し下げ、海外採算・人材・買収統合が転換を遅らせる経路が主なリスクである。 下表は業績への波及経路と開示上の確認点を整理する。

リスク要因 影響度 発生可能性 業績への経路 現在の対応・開示状況
国内景気、広告予算、主要顧客の支出変動 高 中~高 顧客の予算縮小・代理店見直しで案件、媒体運用量、稼働率が同時に低下する。上位10広告主はFY2026/3国内売上高の約18%。 顧客・業種を広げるが、大口顧客依存を定量的に継続確認する必要がある。
デジタル媒体・プラットフォーム競争と生成AI 高 高 マス媒体の比重低下、デジタル運用の単価競争、自動化で、取扱高が伸びても付加価値・粗利が下がる可能性。 中計はテクノロジー、コンサル等への事業転換を掲げる。領域別利益は非開示。
海外景気・為替・地政学 中~高 中 ASEAN等の顧客需要や通貨換算が利益に影響。FY2027/3 Q1の海外営業損失は38億円。 地域別情報は公表するが、地域別の継続収益力や回復時期の予想は限定的。
人材獲得・定着、組織再編 高 中 クリエイティブ、データ、技術、コンサル人材の流出や再配置の遅れで、顧客維持と新領域の立上げが停滞。 人的資本方針を開示。職種別の離職や一人当たり採算の定量情報は限られる。
M&A・投資回収、資本配分 中~高 中 買収後の統合や人材維持が進まなければ、投資回収遅延・減損・ROE低迷につながる。大株主は資本政策・事業構造等に関する提案方針を保有目的に記載。 2026-08-20提出の大量保有報告でSilchesterは5.07%(EDINET提出書類)。
取扱高と単一セグメント開示には読み取りの限界がある

「売上高」は取扱規模、「収益」は会計上の収益で、総額増加だけでは付加価値・利益率の改善はわからない。 単一セグメントでは新領域の利益が見えにくい。進捗は利益率、地域採算、買収後の連結効果で測る。


6. バリュエーション統合と論点整理

高PERには、利益率改善と新領域の採算化の継続が条件となる。

評価差の構造

2026-09-25時点のFY2027/3予想PERは18.37倍(電通13.35倍、サイバーエージェント15.45倍)。
FY2026/3 ROE4.3%・営業利益率5.2%はサービス業FY2025中央値(11.3%、7.3%)を下回る。
市場倍率には顧客関係、企画・制作能力、デジタル運用基盤と事業転換への期待が含まれると考えられ、標準NC・広義NCAVも財務面の支えとなる。

FY2026/3の収益縮小、FY2027/3 Q1の最終赤字と海外営業損失、単一セグメントによる採算の見えにくさ、低い自己資本比率・ROEは、利益の質と資本配分への割引要因である。
現金保有や低PBRだけで回復を想定するとバリュートラップの可能性が残るが、利益率・ROEの持続的上昇が実績で確認されれば、従来型広告会社との倍率差を見直す根拠となる。

FY2026/3末の博報堂教育財団は19.77%を保有し、支配株主ではないが大口株主である。
Silchester International Investors LLPは2026-08-20提出の大量保有報告で5.07%を保有し、資本政策・資本効率・事業構造・ガバナンス等の提案方針を記載した(大量保有報告書)。
会社の資本配分説明と提案への対応・対話の状況も評価要因となる。

条件分岐シナリオ

  1. デジタル・コンサル領域の採算が上がる: 顧客のデータ活用、CX、技術支援が継続収益となり、デジタル成長が新規連結の効果だけに依存しないと確認されれば、 従来型広告仲介より高い利益率を前提とするPER・EV/EBITDA評価が正当化されやすい。 焦点は取扱高でなく、既存事業の粗利と領域別利益の開示である。
  2. FY2027/3会社予想に近い利益回復を実現する: 収益9,100億円、営業利益467億円、純利益260億円という会社予想に近づき、国内外の利益差が縮まれば、 現行の18倍台の予想PERは回復利益を基礎に維持されうる。 FY2027/3 Q1が最終赤字であるため、上期の利益進捗と通期予想の整合を確認する必要がある。
  3. 海外赤字や国内顧客予算の弱さが続く: 収益停滞、営業利益率低下、配当性向上昇が重なると、成長領域への期待は剥落し、評価はネットキャッシュや純資産を重視する軸へ移る。 デジタルの取扱いが伸びても、旧来領域の粗利低下を補えなければ、同業中央値を下回る収益性が長期化する。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認する点
2026年11月頃・FY2027/3第2四半期決算 上期決算 収益・営業利益・純利益の進捗、Q1純損失の要因、通期会社予想を維持する根拠。
FY2027/3各四半期 地域別業績 国内・海外の収益と営業利益、海外赤字の縮小・拡大。
FY2027/3各四半期 媒体・サービス構成 インターネット媒体とマス媒体の売上高、買収連結分と既存事業の寄与。
FY2027/3第2四半期以降 顧客・業種別需要 上位広告主、金融・情報通信等の予算推移、顧客離反や契約縮小の有無。
2027年5月頃・FY2027/3通期決算 年度実績と次期計画 収益・営業利益・EPSの予想誤差、利益率改善の再現性、FY2028/3のガイダンス。
2027年6月頃・株主総会資料 株主還元・資本政策 年間配当、自己株式取得、政策保有株式、資本コストを意識した説明。
次回有価証券報告書 人的資本・連結範囲 人員・人件費・主要子会社の変化、新規連結分と既存事業の成長、海外人材の定着。
適時開示・大量保有報告 大株主・提案 Silchester等の保有比率、提案内容、会社側の検討と対話の状況。
FY2027/3各四半期・中計進捗説明 M&A・新領域 投資額、買収先の利益貢献、シナジー、のれんの減損兆候。

M&A・出資を検討する買い手の論点

買い手は顧客契約・更新率、クロスセル、顧客重複、クリエイティブ人材・運用データ、継続契約できる技術・調査・コンサル能力を評価する。

許容価値には人材維持・技術投資・統合費用・退職/減損リスクを織り込み、顧客接点・データ・制作連携のシナジーと、ブランド・チームの独立性を損ねる逆効果を比べる。

DDでは契約譲渡・更新、機密・個人データ権利、キーマン依存、簿外債務、追加投資と利益寄与までの期間を確認し、広告取扱高を自社の付加価値と混同しない。


7. 学びのポイント

同社の財務を読むには、取引規模・収益・運転資金・現金余力を分ける。

📚 着眼点1: 広告仲介の総額売上と純額収益

FY2026/3は売上高1兆5,805億円に対して、財務諸表の収益は8,610億円だった。
顧客から受け取って媒体社や制作会社へ支払う金額と、自社のサービス対価が別の線で表れるためである。
FY2027/3 Q1でも売上高3,643億円、収益1,762億円と大きく異なる。
売上高は取引規模、収益は会計上認識された収益の大きさを伝えるが、どちらか一方だけでは利益の源泉が見えにくい。
前年と同じ線を比較し、収益成長と営業利益率を合わせて読むことが、広告会社の成長を理解する基本になる。

📚 着眼点2: CCCのマイナスを運転資金の強さと即断しない

FY2026/3の売掛債権日数180.1日、棚卸資産日数18.1日、仕入債務日数217.3日から算出するCCCは-19.0日である。
売掛金を回収するまでに、媒体・制作会社への支払いが先行しないように見えるが、この計算は売掛金を純額収益で割り、棚卸資産・仕入債務を売上原価で割る。
同社には総額の売上高と純額の収益が併存し、請求・支払条件も顧客や媒体ごとに異なる。
マイナスのCCCは決済構造を調べる手掛かりであって、どの案件でも資金回収が早いことを証明する数字ではない。

📚 着眼点3: 標準NCと広義NCAVは違う安全性を測る

標準NCと広義NCAVは異なる問いを測る

FY2026/3の標準NCは1,143億円(現預金+短期有価証券−有利子負債)、広義NCAVは1,622億円(流動資産+投資有価証券×70%−負債合計)。
前者は負債返済後の資金余力、後者は運転資産を含む保守的な資産余力をみる。
FY2027/3会社予想純利益に対するCN-PERは標準ベース14.0倍、広義ベース12.1倍。
ただし、いずれも顧客・人材価値や変革投資を直接測らず、貸借対照表の安全性と将来利益を作る力は分けて考える。

指標の相場観

サービス業中央値はFY2025の561社による広い業種参考値で、広告会社固有の水準ではない。
EDINET DBの集計に全上場中央値はない。
比較2社の参考値は電通とサイバーエージェントの単純平均で、決算期・事業構成の違いがある。

指標 博報堂DY 比較2社の参考値 サービス業中央値
予想PER 18.37倍 14.40倍 —
PBR 1.23倍 2.64倍 —
EV/EBITDA 6.17倍 5.70倍※ —
ROE 4.3% -24.6% 11.3%
営業利益率 5.2% -6.0% 7.3%
自己資本比率 36.0% 30.6% 54.2%
流動比率 138.7% — 204.4%
配当利回り 2.41% 0.80% 2.8%
収益成長率 -9.7% — 8.2%

出典: EDINET DB会社データ・サービス業ベンチマークFY2025、2026-09-25株価。
注: 「—」は提供資料に該当する比較値がないことを示す。
全上場中央値はEDINET DB集計に含まれない。
EV/EBITDAの比較値は電通のFY2025/12 EBITDAがマイナスのため、サイバーエージェントのみ。

予想PER18.37倍は比較2社平均14.40倍を上回る一方、PBR1.23倍は2.64倍を下回る。
倍率に共通の合格線はなく、成長率やROEと組み合わせて読む。
EV/EBITDAは事業の安定度を踏まえた5〜8倍を一般的な確認帯とするが、個別会社に一律で当てはめる基準ではない。

ROE4.3%はサービス業中央値11.3%を下回り、比較2社平均-24.6%は電通の大型減損に強く左右される。
ROEの8〜10%超、自己資本比率40%以上、流動比率150%以上はそれぞれ一つの確認線であり、同社の営業利益率5.2%もサービス業中央値7.3%には届かない。
FY2025/3からの利益率改善は続いているが、ネットキャッシュと短期負債への支払余力は分けて見る。

配当利回り2.41%はサービス業中央値2.8%を下回る。
FY2027/3会社予想のDPS32円と配当性向44.2%を、配当の持続性と合わせて確認する。
収益成長率-9.7%とサービス業中央値8.2%を読む際は、広告売上高と財務諸表上の純額収益を混ぜず、既存事業と連結範囲変更の影響も分ける。


参考情報

博報堂DYホールディングスは2003年10月1日設立の持株会社である。
2026年6月26日現在、取締役会長は水島正幸氏、代表取締役社長は西山泰央氏。
FY2026/3末のグループ従業員は28,921人、会計監査人は有限責任 あずさ監査法人である。
監査役会設置会社で、独立社外取締役が委員長を務める任意の指名・報酬委員会を設ける。
2026年7月1日改定のガバナンス指針と2024年度の実効性評価では、中長期議論の充実や社外役員の事業理解が論点となった。
国内外に複数の事業会社を持ち、アジア・欧米等に展開する。
主要取引銀行は今回確認した開示資料から特定できなかった(役員一覧、 ガバナンス)。

FY2026/3末の大株主と、別時点のデータ基準日を併記する。
FY2026/3末の上位株主は有価証券報告書、株価は2026-09-25、最新四半期開示は2026-08-05である。
表の外に示したSilchesterの5.07%保有は2026-08-20提出の大量保有報告に基づき、FY2026/3末の持株比率と混同しない。

データ種別 順位・株主名 保有比率 区分 基準日 出典
大株主 1 公益財団法人博報堂教育財団 19.77% 財団 2026-03-31 有価証券報告書・S100YHXU
大株主 2 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.31% 信託銀行 2026-03-31 有価証券報告書・S100YHXU
大株主 3 一般社団法人博政会 5.03% 関係団体 2026-03-31 有価証券報告書・S100YHXU
大株主 4 株式会社朝日新聞社 3.12% 事業法人 2026-03-31 有価証券報告書・S100YHXU
大株主 5 個人(氏名非開示) 3.08% 個人 2026-03-31 有価証券報告書・S100YHXU
年次財務 — — FY2026/3実績 2026-03-31 EDINET有価証券報告書・S100YHXU
最新決算・会社予想 — — FY2027/3 Q1・通期予想 2026-08-05 FY2027/3 Q1決算短信(通期会社予想)
株価・時価総額 — — 東証終値・株数基準 2026-09-25 株価時系列

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