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加藤産業株式会社

【経済・卸売業】卸売業銘柄レポート更新 2026-07-06

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目次
  1. 1. 事業概要
  2. 業界の系統分解
  3. 加藤産業の事業構成
  4. 主要取引先
  5. 競争優位性の比喩的説明
  6. 加藤産業の固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 業界のビジネスモデルと着目点
  8. 2. バリュエーション分析
  9. 2-1. 時価総額・株価の基準
  10. 2-2. 標準ネットキャッシュ(現預金+短期有価証券−有利子負債)5期推移
  11. 2-3. 広義NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計)5期推移
  12. 2-4. CN-PER(キャッシュニュートラルPER)
  13. 2-5. EV/EBITDA分析(対象企業+競合3社)
  14. 2-6. EV/EBITDA感度テーブル(加藤産業、NC定義別)
  15. 2-7. 成長率モデル適正PER(参考)
  16. 2-8. DCF前提入力枠(空欄許容・疑似精度禁止)
  17. 2-9. バリュエーション乖離コメント(3手法並置・事実ベース)
  18. 3. 財務分析
  19. 3-1. PL 5期+予想(百万円、EPSのみ円)
  20. 3-2. BS 5期推移(百万円)
  21. 3-3. BS詳細主要科目 5期推移(百万円)
  22. 3-4. CF 5期推移(百万円)
  23. 3-5. 減価償却費明細 5期推移(百万円)
  24. 3-6. 受注高・受注残高
  25. 3-7. 運転資本分析(CCC・厳密法)
  26. 3-8. 配当推移 5期+予想
  27. 3-9. 経営者の予想精度(データ限定)
  28. 3-10. 財務健全性チェック(機械判定、事業会社基準12項目)
  29. 4. 同業他社比較
  30. 4-1. 競合選定基準
  31. 4-2. 最新期比較テーブル
  32. 4-3. 競合3期推移(売上高・営業利益率)
  33. 4-4. 運転資本効率 CCC 競合比較
  34. 5. リスク評価
  35. リスクマトリクス
  36. リスク因果関係
  37. 最大リスクの深掘り
  38. バリュートラップリスクの深掘り
  39. 6. バリュエーション統合と論点整理
  40. バリュエーション乖離コメントの補強
  41. バリュエーション手法別の倍率レンジ
  42. シナリオ別の詳細根拠
  43. 強気材料と反対材料の整理
  44. 監視ポイント(開示・数値)
  45. 7. 学習コーナー
  46. 📚 着眼点1: 食品卸の「低マージン×運転資本が資金源(CCCマイナス)」構造の意味
  47. 📚 着眼点2: ネットキャッシュ(標準NC比率37.1%)が厚い独立系食品卸の資本効率とCN-PER
  48. 📚 着眼点3: 商社傘下再編の中で独立系を維持する加藤産業の資本関係・創業家安定株主
  49. 📚 着眼点4: 海外事業(アジア)の黒字転換とのれん・M&A戦略
  50. 📚 着眼点5: 加藤産業の指標ポジショニング(相場観テーブル)
  51. 参考情報
  52. ガバナンス情報テーブル
  53. 大株主構成テーブル
  54. 社外取締役の視点
  55. 免責事項
  56. データソースの時点差
  57. 出典一覧

加藤産業株式会社(9869)銘柄分析レポート

SUMMARY

加藤産業(食品卸・9月期)。
現在株価 ¥6,000(2026-07-06)に対し時価総額は約1,811億円
FY2026/9予想EPS 464.27円から予PER 12.9倍、標準NC基準の予EV/EBITDA 4.9倍
配当利回りは予想DPS160円ベースで2.67%(EDINET公式期末値2.40%)。
標準NC比率37.1%・広義NCAV比率30.5%と実質無借金でネットキャッシュが厚く、CN-PER≈8.1倍。
健全性スコアは75/100

指標 評価
時価総額(現値) 約1,811億円 中型
予PER(FY2026/9予想) 12.9倍 適正
予EV/EBITDA(標準NC基準・proxy) 4.9倍 割安
配当利回り(予想) 2.67% 中位
標準NC比率 37.1% 高い
広義NCAV比率 30.5% 高い
健全性スコア 75/100 高い

1. 事業概要

業界の系統分解

食品卸売業界は、資本系列によって大きく3つに分類できる。
第一が総合商社系で、三菱商事が全額出資する三菱食品(旧菱食を中核に4社統合、売上高2兆円超で業界最大手)、伊藤忠商事系の日本アクセス・伊藤忠食品がこれにあたる。
三菱食品は2025年7月にTOBが成立し同年9月26日付で東証上場廃止・三菱商事の完全子会社となった。
伊藤忠食品も2026年2月に伊藤忠商事によるTOBが発表され、2026年7月を目処に上場廃止・完全子会社化が予定されている(本レポート作成時点2026-07-06では手続き進行中)。
総合商社系の強みは物流・金融・情報インフラへの投資余力と商社本体の海外ネットワーク・与信力を背景にした規模拡大である一方、商社の意向で経営方針が左右されやすい弱みも指摘される。

第二が独立系で、創業以来300年超の歴史を持つ業界3位の国分グループ本社(2015年に丸紅と資本・業務提携を結んだが完全子会社化はされていない)と、加藤産業がこれにあたる。
加藤産業は三菱食品・日本アクセス・国分グループに次ぐ業界4位規模の独立系総合食品卸であり、特定商社の資本傘下に入っていない数少ない大手という点で希少性が高い。
独立系の強みは経営の機動性と特定商社の意向に縛られない中立的な取引先選択、弱みは規模の経済で商社系に劣後しやすい点である。

第三が地域系で、九州地盤でM&Aロールアップを進めるヤマエグループHD(7130、売上高1.09兆円・FY2026/3、OM1.67%)などが該当する。
地域密着と機動的なM&Aで規模を補う戦略を取る。

加藤産業はこの3系統のうち「独立系総合食品卸」の一角であり、関西・西日本を地盤としつつ全国26拠点を展開する点で、地域系とも一線を画す全国展開型の独立系という位置づけにある。

系統分解というモノサシで見ると、加藤産業は「規模は4位でも資本の主人を持たない」という他社にない座標にいる。業界再編が進むほど、この座標の希少性は上がる。

出典: 流通ニュース、日本経済新聞、財界オンライン

加藤産業の事業構成

セグメント別売上構成(FY2025/9)

セグメント 売上高(百万円) 構成比 営業利益(百万円) 営業利益率 売上YoY 営利YoY
常温流通事業 741,260 61.1% 14,353 1.94% +3.4% +10.2%
酒類流通事業 254,659 21.0% 1,631 0.64% +3.9% −17.4%
低温流通事業 117,837 9.7% 1,325 1.12% +3.1% +3.3%
海外事業 95,746 7.9% 196 0.20% +7.2% +196.6%(黒字転換)

※セグメント売上はセグメント間内部取引含む表示(連結消去前)。海外事業はFY2024営業損失−203百万円→FY2025 +196百万円で黒字転換。

主要セグメント売上推移(百万円)

セグメント FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
常温流通事業 681,160 716,628 741,260
酒類流通事業 227,028 245,170 254,659
低温流通事業 112,304 114,300 117,837
海外事業 74,714 89,328 95,746

主要セグメント営業利益推移(百万円)

セグメント FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
常温流通事業 13,044 13,029 14,353
酒類流通事業 1,784 1,974 1,631
低温流通事業 1,001 1,283 1,325
海外事業 294 −203 196

FY2025/9(2025年9月期)実績におけるセグメント別売上構成は次の通り。

セグメント 売上高 構成比 営業利益 OM 補足
常温流通事業(加工食品卸・主力) 741,260百万円 61.1% 14,353百万円 1.94% 売上FY2025/9のYoY +3.4%
酒類流通事業 254,659百万円 21.0% 1,631百万円 0.64% 営業利益FY2025/9のYoY −17.4%(システム刷新費用等)
低温流通事業(冷凍・チルド) 117,837百万円 9.7% 1,325百万円 1.12%
海外事業(マレーシア・ベトナム・シンガポール・中国) 95,746百万円 7.9% 196百万円 0.20% FY2024/9の−203百万円から黒字転換

※セグメント売上はセグメント間内部取引を含む連結消去前の数値。

市場分野別の成長動向を見ると、主力の常温流通事業(加工食品卸)はスーパーとの既存取引拡大により堅調に増収を確保しており「◎主力堅調」と評価できる。
低温流通事業(冷凍・チルド)は共働き世帯の増加や中食需要を背景に「○安定成長」、酒類流通事業は消費の節約志向と競争激化に加えFY2025/9のシステム刷新費用が響き「△縮小市場・一過性コスト」、海外事業はFY2024/9の赤字(−203百万円)からFY2025/9に黒字転換しており規模はまだ小さいものの「◎成長ドライバー」と位置づけられる。

なお本レポートの数値はすべてFY2025/9(2025年9月期、EDINET有価証券報告書basis・financials_as_of 2025-09-30)を基準とし、FY2026/9(2026年2月13日公表のQ1短信ベース会社予想)と混在する箇所は各表・各文でFYを明示する。

主要取引先

加藤産業の主要販売先はスーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストアチェーンであり、特定の大手小売グループとの長期継続的な取引関係が収益基盤を支えている(個別社名の開示は限定的・要継続確認)。
食品卸の顧客関係は単純な商品供給にとどまらず、棚割り提案・販促企画・在庫管理支援などの「リテールサポート」を通じて小売側の業務を代替する側面が強く、これが取引の粘着性(スイッチングコストの高さ)を生んでいる。
加藤産業は自社ブランド「Kanpy(カンピー)」のジャム・缶詰等をイオン等大手スーパーでも展開しており、PB開発力が主要小売との関係深化の武器になっている。

出典: 加藤産業公式サイト(katosangyo.co.jp)、ヨドバシ.com

競争優位性の比喩的説明

全国物流網は「一度築いたら誰も真似できない毛細血管」

食品卸の物流センター網は、人体でいえば毛細血管に例えられる。
動脈(幹線輸送)を作るのは資金があればできるが、末端の毛細血管(各地域のセンター・配送ルート・小売店舗ごとの棚割りノウハウ)を隅々まで張り巡らせるには長年の投資と信頼関係の蓄積が要る。
加藤産業が全国26拠点を展開し、メーカー・小売双方と築いた取引関係は、新規参入者が短期間で複製できるものではない。
これが低マージン業態でありながら加藤産業が生き残り、独立系を維持できている参入障壁の正体である。

加藤産業の固有事象・資本関係の詳細分析

創業家と商社・メーカーが「同じ船」に乗る資本構成

加藤産業の株主構成を見ると、創業家(加藤和弥社長関連の資産管理会社群、有報基準2025-09-30で加藤興産2.75%を含む合計約5.7%)に加え、三井物産(有報基準5.11%、直近の大量保有報告書ベースでは4.50%)・三菱商事(2.90%)という商社2社、さらにキユーピー・ハウス食品グループ本社・カゴメという食品メーカー3社が上位10株主に名を連ねる。
これは、三菱食品=三菱商事、伊藤忠食品=伊藤忠商事という「単一商社の完全子会社」モデルとは対照的に、複数の商社・メーカーが分散して政策保有する「疎結合の安定株主構造」である。
メーカー側から見れば加藤産業への出資は自社商品の流通チャネル確保・棚確保の意味合いを持ち、加藤産業側から見れば特定株主に経営を左右されない独立性を保ちながら複数の取引先と資本を通じた関係強化ができる。
三井物産の保有比率が有報基準時点5.11%から大量保有報告書ベースで4.50%へ低下している点は、東証の政策保有株削減要請の流れと整合的であり、今後も緩やかな売却が続く可能性がある。

出典: irbank.net(EDINET有報ベース大株主データ)

業界のビジネスモデルと着目点

食品卸のビジネスモデルは、メーカーから商品を仕入れ小売に配送する「機能仲介業」であり、付加価値の源泉は物流・金融(与信・立替払い)・情報(需要予測・棚割り提案)の3機能に集約される。
競争が激しく差別化が難しいため営業利益率は1〜2%台に張り付くのが常態だが、加藤産業のCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)はFY2025/9で−10.9日(DSO52.8日/DIO13.1日/DPO76.8日)と全期マイナスであり、仕入債務の支払サイトが売上債権の回収サイトより長いため、売上が伸びるほど運転資本が資金を生み出すという卸売業特有の財務構造を持つ。
低マージンでも実質無借金経営(有利子負債4,824百万円 vs 現預金70,934百万円)を維持できている背景には、このCCCマイナス構造がある。
加藤産業が強いのは、PB「カンピー」による粗利上乗せと、酒類・低温・海外という複数セグメントへの分散によるポートフォリオ効果である。

低マージン業態でも「支払いより先に回収が終わる」CCCマイナス構造があれば、売上成長そのものが資金創出エンジンになる。営業利益率だけで財務の安全性を判断してはいけない好例である。

2. バリュエーション分析

2-1. 時価総額・株価の基準

現値マーケットデータ(株価 ¥6,000 / 現値時価総額 181,095 百万円 / market_data_as_of 2026-07-06)を全バリュエーション指標の基準とする。
EDINET marketCap(期末固定 204,128 百万円、現値比 −11.3%)は使用しない。

内部整合チェック(±5%以内):

チェック項目 計算 結果 判定
株価×発行済(除自己株) vs 時価総額 6,000円×30,801千株=184,806百万円 vs 181,095百万円 差 −2.0%
予PER×予想EPS ≒ 株価 12.9倍×464.27円=5,989円 vs 6,000円 差 −0.2%
PBR×BPS ≒ 株価 1.09倍×5,487.49円=5,981円 vs 6,000円 差 −0.3%

2-2. 標準ネットキャッシュ(現預金+短期有価証券−有利子負債)5期推移

有利子負債 = 短期借入金 + 1年内返済長期借入金 + 長期借入金 + 社債(リース債務は含めない)。

項目(百万円) FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
現預金 81,305 82,208 83,491 90,268 70,934
短期有価証券 0 500 0 500 1,000
有利子負債(短借+1年内返済+長借+社債) 3,858 4,234 5,646 5,374 4,824
標準NC 77,447 78,474 77,845 85,394 67,110
標準NC比率(対現値時価総額181,095) 37.1%

※ 標準NC比率は現値時価総額(181,095百万円、2026-07-06時点)を分母とするため、直近期(FY2025)以外の年度は同一基準の期末時価総額データが未取得のため比率算出せず(絶対額のみ推移表示)。

2-3. 広義NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計)5期推移

項目(百万円) FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
流動資産 255,508 271,621 311,377 305,532 297,841
投資有価証券×0.7 33,866 33,765 39,526 40,657 46,763
負債合計 248,500 260,562 297,215 291,795 289,312
広義NCAV 40,874 44,824 53,688 54,394 55,292
広義NCAV比率(対現値時価総額181,095) 30.5%

※ 比率算出の基準時価総額は現値のみ取得のため、直近期以外は絶対額推移のみ。

2-4. CN-PER(キャッシュニュートラルPER)

CN-PER = 予PER × (1 − 標準NC比率) = 12.9 × (1 − 0.371) ≈ 8.1倍 (標準NCベース。広義NCAVベースの参考値: 12.9 × (1 − 0.305) ≈ 9.0倍)

2-5. EV/EBITDA分析(対象企業+競合3社)

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費。FY2025 EBITDA = 18,180 + 5,775 = 23,955百万円

会社 時価総額(百万円) 標準NC(百万円) EV(標準NC基準) EBITDA EV/EBITDA(標準NC基準) EV/EBITDA(EDINET公式期末)
加藤産業(現値) 181,095 67,110 113,985 23,955 4.8倍 6.12倍(期末固定)
三菱食品(FY2024/3, 上場廃止) 243,864※逆算 112,445 131,419 41,831 3.1倍 3.28倍
伊藤忠食品(FY2025/3, 上場廃止) 95,190※逆算 データなし(現預金・有利子負債内訳未取得) 8.43倍
ヤマエGHD(FY2026/3, 上場中) 79,349※逆算 −60,561(ネットデット) 139,910 26,791 5.2倍 5.72倍

※逆算時価総額 = 期末株価(PER×EPSから逆算) × 発行済株式数推定(純利益÷EPS)。
上場廃止2社・ヤマエは期末値のため現在の市場実勢とは乖離あり。
標準NC基準の自社推計値とEDINET公式期末値は概ね整合(三菱食品3.1倍 vs 3.28倍、ヤマエ5.2倍 vs 5.72倍)。

2-6. EV/EBITDA感度テーブル(加藤産業、NC定義別)

NC定義 NC(百万円) EV(百万円) EBITDA(百万円) EV/EBITDA
標準NC 67,110 113,985 23,955 4.8倍
広義NCAV 55,292 125,803 23,955 5.3倍
EDINET公式(期末marketCap基準) 6.12倍

2-7. 成長率モデル適正PER(参考)

2-8. DCF前提入力枠(空欄許容・疑似精度禁止)

前提 備考
Rf(無リスク金利、日本10年国債) 1.0〜1.5% レンジ提示
ERP(株式リスクプレミアム) 5〜6% レンジ提示
β(ベータ) 要調査 データ未取得
Ke = Rf + β×ERP 要調査 β未確定のため算出不可
Kd(有利子負債コスト) 要調査 個別調達金利未取得(有利子負債4,824百万円と小規模)
実効税率 要調査(目安30%、未検証) 日本一般水準の目安のみ
we / wd(時価ベース資本構成) we≈97.4% / wd≈2.6% 時価総額181,095 : 有利子負債4,824
WACC 要調査 Ke未確定のため算出不可
永続成長率 g 要調査 明示予測期間との整合要検討

5期FCF入力枠(FCF=営業CF−capex、実績ベース。t+1以降は予想値未作成のため空欄)

年度 営業CF Capex FCF(実績) t+n予測
FY2021/9 14,257 7,936 6,321
FY2022/9 15,083 5,688 9,395
FY2023/9 14,679 8,490 6,189
FY2024/9 25,868 9,381 16,487
FY2025/9 4,068 16,059 −11,991
t+1〜t+5 要調査(前提未確定)

計算式: 企業価値 = Σ FCF_t/(1+WACC)^t + TV/(1+WACC)^n、TV = FCF_{n+1}/(WACC−g)。WACC・g未確定のため本レポートでは算出せず。

2-9. バリュエーション乖離コメント(3手法並置・事実ベース)

手法 結果 現状株価との関係
マルチプル法(予PER 12.9倍) 実勢に準拠 基準値そのもの
CN-PER(標準NC控除後) 8.1倍 マルチプル法より低い=ネットキャッシュ控除で割安感増す
成長率モデル適正PER(売上CAGR基準) 16.0倍 予PER 12.9倍・実績PER 14.1倍を上回る=モデル上は割安方向

深掘り解釈(妥当性評価・シナリオ)は「6. 投資判断」で扱う。


3. 財務分析

3-1. PL 5期+予想(百万円、EPSのみ円)

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9 FY2026/9予想
売上高 1,137,101 1,035,664 1,099,391 1,169,834 1,214,265 1,252,000
営業利益 11,612 13,413 16,731 16,856 18,180 17,500(前期比−3.7%)
営業利益率 1.02% 1.30% 1.52% 1.44% 1.50% 1.40%
経常利益 13,281 15,387 18,501 18,697 20,100 19,500
当期純利益 8,385 11,276 12,002 14,459 13,228 14,300(前期比+8.1%)
EPS(円) 238.32 329.95 356.94 453.05 425.71 464.27

FY2026/9 Q1実績: 売上324,249 / 営業利益5,657(前年比+10.0%) / 純利益4,450(前年比+11.0%) FY2026/9 Q2(上期)累計実績: 売上626,921 / 営業利益10,451 / 経常11,639 / 純利益8,915(通期営利予想17,500に対する進捗率59.7%。9月期は下期偏重の季節性があり予想比・達成率としては解釈しない)

3-2. BS 5期推移(百万円)

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
総資産 384,102 400,792 452,966 454,688 466,325
流動資産 255,508 271,621 311,377 305,532 297,841
固定資産 128,594 129,170 141,588 149,156 168,484
負債合計 248,500 260,562 297,215 291,795 289,312
流動負債 223,255 237,239 272,252 265,926 261,133
純資産 135,602 140,230 155,751 162,893 177,013
非支配株主持分(NCI) 5,364 5,062 5,991 7,141 7,993
自己資本(純資産−NCI) 130,238 135,168 149,760 155,752 169,020
自己資本比率(official) 33.9% 33.7% 33.1% 34.3% 36.2%
BPS(円) 3,757.48 4,018.57 4,452.56 4,997.86 5,487.49

※自己資本=純資産−非支配株主持分(全期同一定義)。get_financialsのshareholdersEquity=135,795(FY2025、狭義株主資本)は分母に使用しない。

3-3. BS詳細主要科目 5期推移(百万円)

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
現預金 81,305 82,208 83,491 90,268 70,934
投資有価証券 48,380 48,236 56,465 58,082 66,804
売上債権 136,881 149,137 183,321 167,178 175,691
棚卸資産 27,401 29,538 33,644 37,317 40,294
仕入債務 202,960 212,314 246,559 237,965 236,842
短期借入金 3,691 4,234 5,646 4,903 4,520
長期借入金+1年内返済 167 0 0 471 304
社債 0 0 0 0 0
リース債務(参考、有利子負債に含めず) 11,606 10,550 9,674 9,249 8,582

3-4. CF 5期推移(百万円)

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
営業CF 14,257 15,083 14,679 25,868 4,068
投資CF −9,359 −6,268 −9,005 −3,692 −14,876
財務CF −7,144 −8,214 −4,458 −15,654 −8,406
設備投資(capex) 7,936 5,688 8,490 9,381 16,059
FCF(営業CF−capex) 6,321 9,395 6,189 16,487 −11,991
EBITDA(営業利益+減価償却) 15,977 17,948 21,330 22,316 23,955

FY2025はFCFが大幅マイナス(設備投資16,059百万円の大型化、営業CFも4,068百万円に急減)。
get_analysisのCFパターン評価=「優良企業型」だが、直近期はFCF単年マイナスの点に留意する必要がある(詳細は「5. リスク評価」で扱う)。

3-5. 減価償却費明細 5期推移(百万円)

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
減価償却費 4,365 4,535 4,599 5,460 5,775

3-6. 受注高・受注残高

該当なし(非受注産業=食品卸)。

3-7. 運転資本分析(CCC・厳密法)

売上原価は「営業利益=売上総利益−販管費」の関係から逆算(FY2021は実績値、FY2022〜FY2025は逆算値)。

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9
売上原価(百万円) 1,056,536(実績) 963,924(逆算) 1,021,365(逆算) 1,086,415(逆算) 1,126,065(逆算)
売上債権回転日数(DSO) 43.9日 52.6日 60.9日 52.2日 52.8日
棚卸資産回転日数(DIO) 9.5日 11.2日 12.0日 12.5日 13.1日
仕入債務回転日数(DPO) 70.1日 80.4日 88.1日 80.0日 76.8日
CCC(=DSO+DIO−DPO) −16.7日 −16.6日 −15.2日 −15.3日 −10.9日

CCCは全期マイナス(仕入債務サイトが売上債権・棚卸資産サイトの合計を上回る)=運転資本が資金源となる構造。FY2025はCCCが−10.9日とマイナス幅縮小(DPO短縮76.8日、DSO微増)。

3-8. 配当推移 5期+予想

項目 FY2021/9 FY2022/9 FY2023/9 FY2024/9 FY2025/9 FY2026/9予想
1株配当(円) 72.0 83.0 97.0 120.0 140.0 160.0
配当性向(DPS/EPS) 30.2% 25.2% 27.2% 26.5% 32.9% 34.5%

配当利回り(現在株価¥6,000基準): 実績DPS140円ベース=2.33%、予想DPS160円ベース=2.67%。EDINET公式(期末株価基準、FY2025)=2.40%。

3-9. 経営者の予想精度(データ限定)

FY2026/9通期会社予想(2026-02-13 Q1短信時点): 売上1,252,000 / 営業利益17,500 / 経常19,500 / 純利益14,300 / EPS464.27 / DPS160。

期間 通期予想比進捗率
Q1(3ヶ月)実績(前年比+10.0%)
Q2(上期)累計 営業利益進捗率 59.7%(通期予想17,500に対し)

※過去複数期分の「期初予想 vs 実績」乖離率データは、短信からの体系的取得ができておらず、かつFY2026は年度未了のため算出不可。
「予想精度データ限定」として記載(3期分の乖離率トラッキングは今後別途データ収集が必要)。

3-10. 財務健全性チェック(機械判定、事業会社基準12項目)

# 項目 基準 実績値 判定
1 自己資本比率 >40% 36.2%
2 流動比率(流動資産/流動負債) >100% 114.1%
3 ROE >8% 8.1%(official)
4 有利子負債D/Eレシオ <0.3 0.076
5 標準NC プラス(実質無借金) 67,110百万円
6 営業CF 5期連続黒字 5期全て黒字
7 FCF(直近期) プラス −11,991百万円
8 配当性向 <60% 32.9%(FY2025)
9 売上高 5期連続増収 FY2022のみ減収(他4期増収)
10 営業利益率 >3%(卸売業目安) 1.50% ❌(業態特性)
11 健全性スコア(EDINET) >70 75/100
12 棚卸資産回転日数(DIO) <20日 13.1日

判定: ✅8 / ❌4。
未達項目(自己資本比率・FY2025単年FCF・売上単年減収・営業利益率)は低マージン構造の卸売業態特性および直近期の大型設備投資に起因(詳細解釈は「5. リスク評価」参照)。


4. 同業他社比較

4-1. 競合選定基準

食品卸のダイレクト比較3社を選定(get_companyのindustryPeers=三菱商事/伊藤忠/三井物産は総合商社で業態不一致のため不採用)。

三菱食品・伊藤忠食品は上場廃止のため、市場倍率(PER/PBR/時価総額/配当利回り/EV-EBITDA)は直近開示期末の履歴値であり、現在の市場実勢を反映しない点に注意。

4-2. 最新期比較テーブル

指標 加藤産業(現値2026-07-06) 三菱食品(FY2024/3期末) 伊藤忠食品(FY2025/3期末) ヤマエGHD(FY2026/3期末)
決算期 FY2025/9 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
時価総額(百万円) 181,095(現値) 243,864(逆算・期末) 95,190(逆算・期末) 79,349(逆算・期末)
売上高(百万円) 1,214,265 2,076,381 699,369 1,085,219
営業利益率(OM) 1.50% 1.42% 1.22% 1.67%
自己資本比率 36.2% 25.7% 42.6% 23.7%(自己資本=純資産−NCI基準)
PER 12.9倍(予)/14.1倍(実績) 10.8倍(期末) 11.6倍(期末) 7.16倍(期末)
PBR 1.09倍 1.20倍(期末) 0.82倍(逆算・期末) 0.74倍(期末)
ROE 7.78%(official8.1%) 11.7% 7.3% 11.25%
配当利回り 2.67%(予)/2.40%(official期末) 2.85%(期末) 1.87%(期末) 2.80%(期末)
EV/EBITDA 4.8倍(標準NC基準・現値)/6.12倍(official期末) 3.28倍(official期末) 8.43倍(official期末) 5.72倍(official期末)
標準NC比率 37.1%(現値基準) 46.1%(逆算) データなし −76.3%(逆算・ネットデット)
営業CF(百万円) 4,068 55,956 データなし 24,150
FCF(百万円) −11,991 46,633 データなし データなし(capex未取得)

※ヤマエGHDは上場中だが現値ベースの市場データを取得していないため期末marketCap基準(逆算)で統一注記。
伊藤忠食品はget_companyのみ取得でBS明細(現預金・有利子負債内訳・capex)が未取得のため該当欄は「データなし」。

4-3. 競合3期推移(売上高・営業利益率)

会社 売上高(百万円) 営業利益率
加藤産業 FY2023/9 1,099,391 1.52%
加藤産業 FY2024/9 1,169,834 1.44%
加藤産業 FY2025/9 1,214,265 1.50%
三菱食品 FY2022/3 1,955,601 0.97%
三菱食品 FY2023/3 1,996,780 1.17%
三菱食品 FY2024/3 2,076,381 1.42%
伊藤忠食品 FY2025/3 699,369 1.22%
伊藤忠食品 FY2026/3(latestEarnings) 720,217 1.47%
ヤマエGHD FY2024/3 712,717 1.95%
ヤマエGHD FY2025/3 1,006,914 1.57%
ヤマエGHD FY2026/3 1,085,219 1.67%

※伊藤忠食品は2期分のみ取得(3期推移データ未取得)。

4-4. 運転資本効率 CCC 競合比較

会社 決算期 DSO(日) DIO(日) DPO(日) CCC(日)
加藤産業 FY2025/9 52.8 13.1 76.8 −10.9
三菱食品 FY2024/3 68.3 13.7 91.6 −9.6
伊藤忠食品 FY2025/3 データなし(BS明細未取得) データなし データなし データなし
ヤマエGHD FY2026/3 36.1 14.1 54.0 −3.9
業界中央値 データなし データなし データなし データなし

3社ともCCCはマイナス(仕入債務サイトが売上債権+棚卸資産サイト合計を上回る構造)。加藤産業(−10.9日)は三菱食品(−9.6日)とほぼ同水準、ヤマエGHD(−3.9日)よりマイナス幅が大きい。


5. リスク評価

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
主要顧客の帳合変更・条件見直し 大手小売がメーカー直接取引や競合卸へ切替、売上比61.1%の常温流通事業(FY2025/9)の収益基盤が揺らぐ リテールサポート機能・長期取引関係で対応するが個別顧客名の開示は限定的
物流費・エネルギーコスト高騰によるマージン圧迫 加藤和弥社長がFY2026/9第2四半期決算で「石油供給危機から物流費は大幅に上がっており下期はかなり影響する」と言及、連結OM1.50%(FY2025/9)という薄利構造でコスト転嫁の遅延が即座に減益に直結 2024年問題対応の物流効率化・パレット化を推進中も価格転嫁交渉は道半ば
酒類流通事業のシステム刷新に伴う一過性コスト・定着遅延 FY2025/9に営業利益が前期比−17.4%となった刷新費用が長期化し、構成比21.0%の酒類流通事業の収益改善が遅れる 刷新完了時期・効果刈取りの進捗モニタリングが必要
海外事業の為替変動・M&Aのれん減損 マレーシア・ベトナム・シンガポール・中国の現地通貨建て収益が円換算で目減り、Teo Soon Seng等の買収で積み上がったのれんが減損する FY2024/9の−203百万円からFY2025/9に黒字転換したばかりで基盤は脆弱、売上比7.9%とまだ小さい
大株主商社(三井物産・三菱商事)の政策保有株見直し・売却 東証のPBR改善・政策保有株削減要請を受け商社が保有株を市場売却すれば需給が悪化し株価を下押し 三井物産保有比率は有報基準(2025-09-30)5.11%→大量保有報告書ベース4.50%へ既に低下傾向
食品事故・品質問題によるレピュテーションリスク 低〜中 PB「カンピー」や取扱商品で品質事故が起きた場合、川上(メーカー)・川下(小売)双方からの信頼失墜・取引停止に発展しうる 品質管理体制の個別開示は限定的、業界横並みの対応と推測
基幹システム障害・サイバーセキュリティ 低〜中 全国物流網・基幹システムの障害で受発注・配送が停止し、薄利構造下で機会損失が収益を直撃 酒類流通の刷新済みシステムの安定稼働が当面の焦点

リスク因果関係

flowchart TD
    A[物流費・エネルギーコスト高騰] --> B[薄利構造でのコスト転嫁遅延]
    B --> C[常温流通事業 OM1.94%の圧迫]
    D[主要顧客の帳合変更・条件見直し] --> C
    E[酒類流通システム刷新の長期化] --> F[酒類流通事業 営利前期比−17.4%の継続]
    C --> G[連結OM1.50%のさらなる低下]
    F --> G
    H[海外事業の為替変動・のれん減損] --> I[海外事業 黒字転換の巻き戻し]
    I --> G
    G --> J[株価バリュエーション再評価の遅延・PBR1.09倍前後での停滞]
    K[大株主商社の政策保有株売却] -. 需給悪化 .-> J
    L[2024年問題対応・物流効率化投資] -. 緩和 .-> B
    M[リテールサポート機能・長期取引関係] -. 緩和 .-> D
    N[標準NC671億円・実質無借金の財務基盤] -. 下支え .-> J

最大リスクの深掘り

薄利構造×コストインフレの複合リスク

加藤産業の連結OM(営業利益率)はFY2025/9で1.50%と、卸売業として典型的な低水準にある。
この構造下では、シナリオ①仕入価格上昇分を小売への価格転嫁で吸収できず粗利率が縮小するケース、シナリオ②物流費(燃料費・ドライバー人件費)が2024年問題後も継続的に上昇し配送コストが売上高比で増加するケース、シナリオ③主要顧客が価格交渉力を背景にセンターフィー・リベート条件の引き上げを求めるケースが同時多発すれば、OMは1%を割り込み、営業利益は一段と圧縮されうる。
FY2026/9会社予想の営業利益17,500百万円(前期比−3.7%)は、こうしたコスト圧力を既にある程度織り込んだ保守的なガイダンスと解釈できるが、下期(9月期は下期偏重の季節性)にコスト増が想定以上に進めば、通期予想の未達リスクも否定できない。

バリュートラップリスクの深掘り

厚いネットキャッシュが株価に反映されない構造的理由

標準NC比率37.1%(対現値時価総額、FY2025/9基準)という厚いネットキャッシュを抱えながら、PBRは1.09倍にとどまっている。
この乖離が「見過ごされた割安」なのか「永続的なバリュートラップ」なのかは、誰がこのギャップを解消する行動を取るかにかかっている。
第一に、創業家(加藤和弥社長グループ約5.7%)と分散した商社・メーカー株主という安定株主構造は、アクティビストによる資本効率改善要求が経営に届きにくい土壌を作る。
第二に、配当は累進的(FY2021の72円→FY2026/9予想160円)で自己株取得も継続しているが、標準NC671.1億円の規模に対しては還元ペースが緩やかであり、NCを積み増しながら還元する現状の資本政策では市場のPBR評価を引き上げる決定打に欠ける。
第三に、FMR(フィデリティ、5.24%・2026-05-12時点)のような海外機関投資家の保有拡大は、将来的に資本効率改善を求める議決権行使圧力に転じる可能性があるが、現時点でアクティビスト的な提案行動は確認されていない。
東証の資本コスト経営要請が業界全体に及ぶ中、加藤産業が自己株取得の加速や政策保有株の一段の圧縮に動けば、NC厚めのバリュートラップから脱却する契機になり得る。


6. バリュエーション統合と論点整理

バリュエーション乖離コメントの補強

定量分析のバリュエーション乖離コメントを引用する。

マルチプル法(予PER 12.9倍)=実勢基準値。
CN-PER(標準NC控除後)=8.1倍(ネットキャッシュ控除で割安感が増す)。
成長率モデル適正PER(売上CAGR1.65%・r8%基準)=16.0倍(予PER12.9倍・実績14.1倍を上回り、モデル上は割安方向)。
※EPS CAGRは15.62%だがg>rでGordon式破綻のため売上CAGRを持続的成長プロキシに採用。

この乖離が生じる理由は定性的に説明できる。
第一に、加藤産業は創業家・商社・メーカーが分散して株式を保有する安定株主構造(セクション1参照)にあり、アクティビストが資本効率改善を強く迫る構図になりにくい。
第二に、FMR(フィデリティ)の保有(5.24%)は指数連動・バリュー運用の一環である可能性が高く、能動的なエンゲージメントを伴うアクティビストとは性格が異なる。
第三に、配当性向約33%・累進配当・自己株取得という株主還元は着実に進んでいるが、標準NC671.1億円という規模に対しては還元ペースが追いついていない。
以上を踏まえると、現状の株価水準(PBR1.09倍・予PER12.9倍)は割安機会とバリュートラップの中間にあると判断するのが妥当であり、投資家は「東証の資本コスト要請の実効性」「政策保有株売却の進捗」「自己株取得ペースの加速有無」をモニタリングし、カタリストが顕在化した段階で評価を見直す対応が現実的である。

バリュエーション手法別の倍率レンジ

PER法(EPS: FY2026/9予想464.27円、FY2025/9実績425.71円、現在株価6,000円。定量分析の確定値をそのまま使用)

EV/EBITDA法(EBITDA: FY2025/9実績23,955百万円、標準NC: 67,110百万円。いずれも定量分析の確定値。発行済株式数は現値時価総額181,095百万円÷株価6,000円から逆算した概算30,182,500株を使用)

※標準シナリオは定量分析の確定値(予EV/EBITDA4.8倍)をそのまま適用しており現在株価とほぼ一致する(整合性確認)。
楽観シナリオは定量分析が併記するEDINET公式期末ベースの6.12倍を採用。

下値メド: PBR1.0倍=BPS 5,487.49円(定量分析確定値)。現在株価6,000円からの下落余地は約−8.5%。

シナリオ別の詳細根拠

メインシナリオ: 会社予想並みの着地

前提: FY2026/9会社予想(売上1,252,000百万円・営業利益17,500百万円・純利益14,300百万円・EPS464.27円)通りに着地。
確率の根拠: FY2026/9第2四半期累計の進捗率59.7%(下期偏重の季節性を考慮すれば順当なペース)。

上振れシナリオ: 海外事業の成長加速・コスト転嫁の進展

前提: 海外事業(FY2025/9に黒字転換、売上比7.9%)がさらに拡大しM&Aシナジーが顕在化、かつ物流費上昇分の価格転嫁が想定以上に進みOMが1.50%(FY2025/9)から改善。
確率の根拠: 海外事業はFY2024/9の−203百万円からFY2025/9に+196百万円へ黒字転換しており改善トレンドが確認できる。

下振れシナリオ: コストインフレ・酒類事業長期化による減益

前提: 加藤社長が懸念する物流費高騰がFY2026/9下期に想定以上に進行し、かつ酒類流通事業のシステム刷新効果が刈り取れずFY2026/9営業利益が会社予想17,500百万円を下回る。
確率の根拠: FY2025/9の酒類流通営業利益は前期比−17.4%とすでに悪化トレンドにある。

強気材料と反対材料の整理

強気材料と反対材料の整理

強気材料

  • 標準NC比率37.1%・実質無借金という厚い財務クッションがダウンサイドを限定する
  • 累進配当(FY2026/9予想DPS160円、利回り2.67%)と自己株取得の継続で株主還元姿勢が明確
  • 独立系総合食品卸として商社傘下再編の影響を受けにくい希少なポジション
  • 海外事業(マレーシア・ベトナム・シンガポール・中国)がFY2025/9に黒字転換し新たな成長ドライバーになりつつある

反対材料・前提

  • 連結OM1.50%(FY2025/9)という薄利構造は物流費・人件費インフレに脆弱
  • 酒類流通事業のシステム刷新コストが想定以上に長期化するリスク
  • NC厚めのバリュエーションが株価に反映されるカタリストが明確でない(バリュートラップの可能性)
  • FY2026/9会社予想は営業利益前期比−3.7%の減益ガイダンスであり、成長ストーリーとしては弱い

監視ポイント(開示・数値)

時期 イベント 確認すべき数値 開示で確認すべき点
2026年7月(本レポート作成時点前後) 伊藤忠食品のTOB成立・上場廃止観測 業界再編の進捗、独立系加藤産業の相対的希少性の再評価 中立〜ポジティブ
2026年8月中旬(例年ベース、具体日は要確認) FY2026/9第3四半期決算短信 通期予想(営業利益17,500百万円)に対する進捗率、酒類流通事業の損益改善度 進捗未達なら下方修正観測でネガティブ
2026年9月下旬(9月30日の2営業日前、具体日は取引所暦要確認) 期末配当の権利付き最終日 予想DPS160円のうち期末配当額の確定 配当取り需要で短期的下支え
2026年9月30日 FY2026/9期末(本決算基準日) 通期実績とガイダンス達成度 決算内容次第で振れ大
2026年11月中旬(例年ベース、具体日は要確認) FY2026/9通期決算発表 純利益14,300百万円予想の達成度、FY2027/9ガイダンス、配当性向・自己株取得方針 減益継続なら弱含みリスク、増配ならポジティブ
2026年11月 来期(FY2027/9)配当予想の発表 配当性向約33%の維持、160円超への増配有無 増配ならポジティブ
2027年2月中旬(例年ベース、具体日は要確認) FY2027/9第1四半期短信 酒類流通システム刷新費用の一巡有無、海外事業黒字の定着度 定着確認でポジティブ
2027年3月下旬(3月31日の2営業日前、具体日は取引所暦要確認) 中間配当の権利付き最終日 中間配当予想額 配当取り需要
2027年5月中旬(例年ベース、具体日は要確認) FY2027/9第2四半期(中間)決算短信 通期予想に対する進捗率(前年同期FY2026/9Q2は59.7%) 進捗良好なら上方修正期待

7. 学習コーナー

📚 着眼点1: 食品卸の「低マージン×運転資本が資金源(CCCマイナス)」構造の意味

①加藤産業での具体例: 連結OM1.50%(FY2025/9)という薄利構造にもかかわらず、CCCはFY2025/9で−10.9日(DSO52.8日/DIO13.1日/DPO76.8日)と全期マイナスであり、有利子負債4,824百万円に対し現預金70,934百万円という実質無借金の財務基盤を維持している。

②背景と比喩: CCCマイナスとは、仕入先への支払い(DPO76.8日)より先に、在庫の販売と売掛金の回収(DIO+DSO=65.9日)が完了する状態を指す。
これは「借りたお金を返す前に、貸したお金が戻ってくる」財布の構造であり、売上が伸びるほど手元資金が増える。
ちょうど回転寿司店が仕入れた魚をその日のうちに売り切り、仕入代金の支払いは翌月末という契約であれば、営業を続けるだけで運転資金がプラスに積み上がるのと同じ理屈である。

③投資家への示唆: 薄利でも運転資本が資金源になっていれば財務破綻リスクは低く、営業利益率だけで企業の安全性を判断してはいけないという教訓になる。

CCCマイナスは「売上成長がそのまま資金創出になる」珍しい財務体質であり、卸売業のダウンサイド耐性を見る際の最重要指標である。

📚 着眼点2: ネットキャッシュ(標準NC比率37.1%)が厚い独立系食品卸の資本効率とCN-PER

①加藤産業での具体例: 標準NC比率37.1%(対現値時価総額、FY2025/9基準)、CN-PER(標準NC控除後)約8.1倍は、時価総額の3分の1超が事業に必要のない余剰資金で構成されていることを意味する。

②背景と比喩: CN-PERとは「もし今すぐ会社を清算し余剰現金を株主に配ったら、残った事業だけで何年分の利益を稼ぐか」を測る指標である。
加藤産業の場合、予PER12.9倍という「額面上の株価」から余剰現金分を差し引くと実質8.1倍まで下がる。
これは、家を買うときに既に用意してある頭金を差し引いて「実質ローン負担」を見るのに似ている。

③投資家への示唆: CN-PERが低いほど「事業そのものの実力」に対する株価は割安に見えるが、その余剰現金が株主に還元されずに眠り続ければ株価には反映されない。ネットキャッシュの厚さは割安さの証拠であると同時に、経営陣がそれをどう使うかという資本配分規律の問題を投資家に突きつける

CN-PERは「現金を除いた本業だけの実力」を測るモノサシであり、NC厚め企業の投資判断では予PERとセットで必ず確認すべき指標である。

📚 着眼点3: 商社傘下再編の中で独立系を維持する加藤産業の資本関係・創業家安定株主

①加藤産業での具体例: 三菱食品(三菱商事完全子会社化・2025年9月上場廃止)、伊藤忠食品(2026年に伊藤忠商事がTOB・上場廃止予定)という業界再編が進む中、加藤産業は創業家(加藤和弥社長関連グループ約5.7%)に加え、三井物産(有報基準5.11%)・三菱商事(2.90%)・キユーピー・ハウス食品グループ本社・カゴメといった複数の商社・メーカーが分散して株式を保有する構造を維持している。

②背景と比喩: 単一商社の完全子会社になる道は「一つの大きな傘に入って雨に濡れない安心感」を得る代わりに「傘の持ち主の歩く方向にしか進めない」制約を負う。
加藤産業が選んでいるのは「複数の小さな傘を自分で持ち歩く」独立系の道であり、経営の自由度は高いが、単独では総合商社ほどの物流・資金インフラ投資力を持てない。

③投資家への示唆: 独立系というポジションは「特定の親会社の都合で経営方針が急変するリスクが低い」というガバナンス上のプラス要因である一方、業界再編が進むほど独立系の希少価値と将来のM&A対象としての観測(買収プレミアムの思惑)の両面が意識されやすくなる

資本関係の分散度は「経営の自由度」と「規模の経済における劣後リスク」のトレードオフを映す鏡であり、業界再編の文脈では特に重要な着眼点になる。

📚 着眼点4: 海外事業(アジア)の黒字転換とのれん・M&A戦略

①加藤産業での具体例: 海外事業(マレーシア・ベトナム・シンガポール・中国)はFY2024/9の営業利益−203百万円からFY2025/9に+196百万円へ黒字転換した(売上比7.9%)。
マレーシアでは同国最大級の卸売業グループを展開し、シンガポールでは2023年にTeo Soon Seng Pte. Ltd.を買収するなど、M&Aによる地域拡大を進めてきた。

②背景と比喩: 海外M&Aによる卸売業展開は「現地の商店街の顔役を買収して、そのネットワークをそのまま引き継ぐ」ようなものである。
ゼロから現地で信用を築くより早いが、買収先の経営が想定通りに回らなければ「のれん」という無形資産が減損という形で一気に費用化するリスクを伴う。

③投資家への示唆: 黒字転換したばかりの海外事業は、成長ドライバーとして期待できる一方、まだ規模が小さく(売上比7.9%)安定的な収益源と呼ぶには時期尚早であり、今後数四半期の推移でトレンドの定着を見極める必要がある。

海外M&Aの成否は「買収時点の黒字転換」だけでなく「その後数年の収益トレンドの持続性」で判断すべきであり、単年度の黒字化を過大評価しない姿勢が重要である。

📚 着眼点5: 加藤産業の指標ポジショニング(相場観テーブル)

指標 加藤産業の値 同業他社平均 全上場中央値 評価コメント
予PER 12.9倍(FY2026/9予想) ヤマエGHD7.16倍(参考値) 目安13〜14倍程度 ヤマエより高いがモデル適正PER16.0倍は下回らず、相対的に妥当水準
PBR 1.09倍 ヤマエGHD0.74倍(参考値) 目安1.0〜1.2倍程度 厚いNCを踏まえれば資産対比で割安、ヤマエよりは評価されている
配当利回り 2.67%(FY2026/9予想DPS160円) 卸売業目安2〜3%程度 目安2%前後 累進配当の実績を考慮すれば魅力的な水準
連結OM 1.50%(FY2025/9) 卸売業界標準1〜2%程度 目安5〜8%程度 業態特性上の低マージンであり卸売業内では標準的水準
自己資本比率 36.2%(自己資本=純資産−非支配株主持分) 卸売業平均目安30〜40%程度 目安40〜50%程度 実質無借金経営を反映し卸売業内では健全な水準
ROE 7.78%(official 8.1%) 卸売業平均目安8〜10%程度 目安8〜9%程度 厚いNCが資本効率を押し下げており改善余地あり
標準NC比率 37.1%(対時価総額) 同業比較データ限定的(要確認) 目安10〜15%程度 卸売業の中でも突出してネットキャッシュが厚い
予EV/EBITDA(標準NC控除) 4.8倍 同業比較データ限定的(要確認) 目安7〜9倍程度 NC控除ベースでは相対的に割安感が強い
健全性スコア/EDINETレーティング 75/100・レーティングA 同業比較データ限定的(要確認) 高評価であり財務健全性への懸念は小さい

参考情報

ガバナンス情報テーブル

項目 内容
代表取締役社長 加藤和弥
設立 1947年8月22日(法人設立。前身の飲料水卸売事業は1945年9月創業)
本社所在地 兵庫県西宮市松原町9番20号
従業員数 4,099名(連結、FY2025/9)
監査法人 あずさ監査法人
主要取引銀行 個別開示未確認(要IR資料室確認)
海外拠点 中国(上海・深圳)、ベトナム、マレーシア、シンガポール
上場市場 東証プライム(1990年大阪証券取引所上場、1997年東京証券取引所上場)

出典: 加藤産業公式サイト、Wikipedia、irbank.net

大株主構成テーブル

上位10株主(EDINET有価証券報告書基準、2025年9月30日時点)

順位 株主名 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.00% 金融機関
2 三井物産 5.11% 事業法人(政策保有)
3 プラスダブル 4.15% 事業法人(創業家資産管理会社)
4 三菱商事 2.90% 事業法人(政策保有)
5 加藤興産 2.75% 事業法人(創業家資産管理会社)
6 日本カストディ銀行(信託口) 2.74% 金融機関
7 キユーピー 2.73% 事業法人(メーカー・取引関係強化)
8 ハウス食品グループ本社 2.72% 事業法人(メーカー・取引関係強化)
9 カゴメ 2.37% 事業法人(メーカー・取引関係強化)
10 JP MORGAN CHASE BANK 385632 2.09% 外国法人等

※上記は有価証券報告書基準(2025-09-30時点)。
大量保有報告書ベースではFMR LLC(フィデリティ)5.24%(2026-05-12)・住友商事2.44%等の最新情報がある。
有報基準の本表とは基準日が異なる点に注意(詳細は下表「データソースの時点差」参照)。
加藤和弥社長本人保有分(0.14%)は小口保有のため本表の上位10名には含まれない。

出典: irbank.net(EDINETデータベース)

社外取締役の視点

経営陣に問うべき3つの質問
  • Q1: 標準NC671.1億円(対時価総額37.1%)という厚い余剰現金を、今後どのような時間軸で事業投資(海外M&A等)または株主還元(増配・自己株取得の加速)に振り向けるのか。具体的な資本配分方針を開示すべきではないか。
  • Q2: PBR1.09倍という評価を1.5倍以上に引き上げるために、東証要請への対応としてどのような数値目標(ROE目標水準、政策保有株削減スケジュール)を掲げるのか。
  • Q3: 海外事業(売上比7.9%・投下資本利益率は非開示)について、Teo Soon Seng等のM&A投資に対するリターン(ROIC等)をセグメント単位でどう検証し開示していくのか。

免責事項

免責事項

本レポートは加藤産業株式会社(9869)に関する定性情報の整理であり、投資勧誘を目的とするものではない。
数値情報は定量分析フェーズの確定値をそのまま引用し独自の再計算は行っていない。
定性情報はWebSearch/WebFetchによる公開情報に基づくが、情報の正確性・完全性を保証するものではなく、投資判断は必ず一次情報(有価証券報告書・決算短信等)を確認の上、自己責任で行うこと。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
財務実績(PL/BS/CF) FY2025/9期末(2025-09-30) 有価証券報告書(EDINET)
会社予想 2026-02-13公表 FY2026/9第1四半期決算短信
株価・時価総額 2026-07-06 market_data_as_of
大株主(上位10名) 2025-09-30 有価証券報告書(irbank.net経由)
大株主(5%超) 2026-05-12ほか 大量保有報告書
従業員数・監査法人 FY2025/9 有価証券報告書
沿革・設立・海外拠点 記載時点不定 加藤産業公式サイト/Wikipedia

出典一覧

  1. EDINET DB get_company(E02719)
  2. get_financials(E02719, years=5)
  3. get_segments(E02719)
  4. get_analysis(E02719)
  5. get_earnings(E02719)
  6. get_shareholders(E02719)
  7. 競合: get_company/get_financials(E02558 三菱食品 / E02931 伊藤忠食品 / E36756 ヤマエGHD)
  8. 現値: price_fetcher(9869.T), market_data_as_of=2026-07-06
  9. 【商社・食品卸業界相関図2026】三菱商事、伊藤忠、国分は何を狙っているのか | ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
  10. 加藤産業「2026年中間決算 増収増益」 | フードボイス
  11. 9869 加藤産業 | 株式情報、企業分析 - irbank.net
  12. 加藤産業 - Wikipedia
  13. 加藤産業株式会社 公式サイト
  14. ブランド別商品一覧 | カンピー | 加藤産業株式会社
  15. 加藤産業/シンガポール卸売企業を買収 | 流通ニュース
  16. 加藤産業/マレーシア卸売企業を買収 | 流通ニュース
  17. 加藤産業/ベトナムの卸売企業を買収 | 流通ニュース
  18. 〈ミニ舌〉食品卸業界で逆転劇 日本アクセスが三菱食品を抜く | 財界オンライン