カネコ種苗
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- まず見る1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
- 次に読む水産・農林業 の業界ハブ
目次
- 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
- 農業資材の販売網に、種苗と設備を組み合わせる
- 収益ドライバー、コスト、運転資本
- 2. 財務の実力
- 売上は伸びたが、利益率は3%前後
- 収益性・安全性・効率性の確認
- 配当と会社計画
- 3. 市場評価を読む — バリュエーション
- 株価、倍率、NC 2軸
- EV/EBITDAと倍率感応度
- 4. 同業比較 — 差分の論点
- 5. リスクと論点
- 最大のリスク — 低い利益率のまま投資負担が続くこと
- リスクマトリクス
- 6. バリュエーション統合と論点整理
- (a) 市場評価と事業の接点
- (b) 前提で分けた3つのシナリオ
- (c) 監視ポイント
- (d) M&A・出資を検討する際の論点
- 7. 学びのポイント
- 📚 着眼点1: 利益とキャッシュの差は投資期に大きくなる
- 📚 着眼点2: NCAVは換金価格ではなく資産構成の点検指標
- 📚 着眼点3: CCC短縮を、事業構造と開示条件に分けて読む
- 相場観テーブル
- 参考情報
- ガバナンス
- 大株主
- データ時点と出典
カネコ種苗は、農業資材の卸売を収益の土台に、種苗・施設材・花きまでを組み合わせて農業現場へ供給する会社です。
FY2026の営業利益率は2.58%で、売上高の拡大を持続的な利益成長へつなげられるかが主要な評価点です(EDINET提出資料)。
分析の最大論点は、売上の拡大を利益率・資産回転・投資後のキャッシュ創出へつなげられるかです。
カネコ種苗(1376)銘柄分析レポート
1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
農業資材の販売網に、種苗と設備を組み合わせる
カネコ種苗は1947年に設立され、種苗の開発・生産・販売、肥料・農薬などの農材、温室等の施設材、花き、造園・法面緑化を手掛ける。
種苗では市場調査から育種、採種、生産、販売までをつなぎ、農材では仕入先と農家・販売店を結ぶ販売網を持つ。
施設材は温室や栽培環境を整える設備、花きは生産・卸売などの商品を扱う。
業界の構造・制度の全体像は水産・農林業業界基礎ガイドを参照。
FY2026の連結売上高は677.3億円。
農材が51.0%を占めて売上規模を支え、施設材が22.5%、種苗が14.1%、花きが12.3%を構成する。
農材と施設材は合計で売上の73.6%となり、種苗専業ではなく複数の農業関連需要にまたがる。
以下の営業利益は各セグメントの開示値であり、全社調整・消去を含む連結営業利益と単純合算できない。
| セグメント | FY2026売上高(億円) | 売上構成 | FY2026営業利益(億円) | セグメント利益率 | 売上高成長率(FY2026/FY2025) |
|---|---|---|---|---|---|
| 農材 | 345.5 | 51.01% | 16.3 | 4.72% | +8.13% |
| 施設材 | 152.6 | 22.54% | 4.9 | 3.20% | +4.13% |
| 種苗 | 95.7 | 14.13% | 5.3 | 5.54% | +0.98% |
| 花き | 83.5 | 12.32% | 0.7 | 0.82% | −0.86% |
(出典: カネコ種苗 FY2026有価証券報告書・セグメント情報。FY2026営業利益のFY2025比は農材+11.72%、施設材+30.50%、種苗−2.99%、花きは赤字から黒字。百万円開示値を億円へ換算し小数1桁に丸めた。)
農材はFY2026に増収増益で、規模と利益の両面から業績を支えた。
施設材も売上を上回る利益成長となった。
種苗は売上がほぼ横ばいで、営業利益がFY2025を下回った。
花きは営業黒字に戻ったが、利益率は0.82%にとどまる。売上構成の大きさと利益への寄与は同じではないため、伸びた事業の売上だけでなく、事業別の利益率や全社調整の動きを追う必要がある。
収益ドライバー、コスト、運転資本
収益を動かす要素は、農材の販売数量・取扱商品構成、採用される種苗品種と採種量、施設材の案件数と施工採算、花きの商品ミックスである。
種苗の育種は品種によって10年を超えることがあり、研究・育成費用が先行する。
FY2026の研究開発費は9.7億円。
開発した品種が登録・採用され、品質を保ちながら生産・販売へ移るまでの時間が、種苗事業の投資回収を左右する。
農材の主なコストは商品仕入、物流、人件費であり、取扱高が伸びても仕入価格や販売構成次第で利益率は変わる。
施設材は資材価格、工期、施工費が案件採算に影響する。
花きは需要や出荷時期に加え、単価の低い商品が増えると利益率を押し下げやすい。
全社粗利率はFY2026に14.59%、営業利益率は2.58%で、粗利から販売費・一般管理費を差し引いた後に残る幅が大きくない。
**1ポイントの利益率変化は、FY2026売上高に対して約6.8億円の営業利益感応度となる。
**これは感応度の算術であり、実際の価格改定やコスト削減効果の予測ではない。
会社の事業紹介は、国内に15支店・3営業所、フィリピンとタイに拠点を掲載する。
地域を分散した生産・調達は供給網の選択肢になりうるが、拠点別の生産量や利益寄与は抽出資料で未確認。
FY2026有報は地域分散した種子生産、在庫確保、品質検査をリスク対応として説明する。
供給を守る在庫は欠品への備えとなる一方、滞留・品質劣化・運転資金の負担にもなる。
FY2026の売上債権は199.1億円、棚卸資産は108.4億円、仕入債務は227.8億円。
CCC(売上債権÷売上高×365+棚卸資産÷売上原価×365−仕入債務÷売上原価×365)は32.0日で、FY2025の43.7日から短くなった。
卸売型の仕入債務が債権回収を支える構造が見える。
ただし、種苗の季節在庫、請求条件による債権回収時期、期末の売上計上も含めて解釈する。
直接出荷の比率が4割を超えるため、出荷証憑や納品・検収を売上認識と照合することも重要となる。
2. 財務の実力
売上は伸びたが、利益率は3%前後
金額は連結ベースの億円。FCFは営業CF+投資CFで統一し、設備投資だけを差し引いた数値とは区別する。FY2027は会社予想であり、実績と同じ列にあるが予想であることを明記した。
| 項目 | FY2022 | FY2023 | FY2024 | FY2025 | FY2026 | FY2027予想 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 606.9 | 621.8 | 616.0 | 645.1 | 677.3 | 700.0 |
| 売上高成長率(FY2023/FY2022〜FY2027予想/FY2026) | — | +2.5% | −0.9% | +4.7% | +5.0% | +3.3% |
| 営業利益 | 18.4 | 17.9 | 14.8 | 15.1 | 17.5 | 20.0 |
| 営業利益率 | 3.02% | 2.87% | 2.40% | 2.34% | 2.58% | 2.86% |
| 営業利益成長率(FY2023/FY2022〜FY2027予想/FY2026) | — | −2.7% | −17.2% | +2.2% | +15.7% | +14.3% |
| 純利益 | 13.0 | 14.3 | 11.8 | 12.0 | 13.3 | 16.5 |
| EPS(円) | 111.83 | 123.63 | 103.28 | 107.01 | 120.07 | 150.46 |
| 総資産 | 489.3 | 467.1 | 486.8 | 493.2 | 541.9 | — |
| 純資産 | 226.5 | 235.1 | 244.4 | 250.1 | 267.5 | — |
| 自己資本比率 | 46.3% | 50.3% | 50.2% | 50.7% | 49.4% | — |
| 営業CF | 5.7 | −15.9 | 22.4 | 2.1 | 19.2 | — |
| 投資CF | −7.5 | −5.0 | −4.9 | −12.3 | −19.9 | — |
| FCF(営業CF+投資CF) | −1.8 | −20.9 | 17.5 | −10.2 | −0.7 | — |
(出典: EDINET提出資料 E00004、FY2022〜FY2026有価証券報告書およびFY2027会社予想。金額は億円、EPSは円。)
FY2022〜FY2026のCAGRは売上高+2.8%、営業利益−1.2%、EPS+1.8%。
売上が拡大した一方、営業利益はFY2022の18.4億円からFY2026の17.5億円にとどまる。
FY2024の営業利益率は2.40%、FY2025は2.34%、FY2026は2.58%。
FY2027会社予想は営業利益20億円、利益率2.86%。
FY2028/5の中期目標は売上高712億円、営業利益27億円、利益率3.8%で、利益成長が条件となる。
FY2026の営業CFは19.2億円と、FY2025の2.1億円から回復した。
投資CFは本社再構築などの支出で−19.9億円となり、定義をそろえたFCFは−0.7億円。
会計利益や営業CFがプラスでも、投資支出の時期次第で株主に残る現金の流れは異なる。
FY2026設備投資は約20.6億円、減価償却費は5.1億円、期末の建設仮勘定は21.527億円で、設備投資が償却を上回る。
投資CFには固定資産取得以外の項目も含まれるため、FCFと設備投資差引後のキャッシュを混同しない。
収益性・安全性・効率性の確認
| 指標・健全性チェック | FY2026の値 | 目安・確認内容 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 営業利益率 | 2.58% | 水産・農林業10社の中央値3.2%(年度差あり) | ❌ |
| ROE | 5.1% | 8%超を一つの目安とする | ❌ |
| 自己資本比率 | 49.4% | 40%超を一つの目安とする | ✅ |
| 流動比率 | 155.7% | 150%超を一つの目安とする | ✅ |
| 有利子負債と現預金 | 全借入内訳不足 | 確認済み短期借入800百万円、現預金1,583百万円。他項目は未確認 | 未判定 |
| 利益剰余金 | 222.7億円 | プラスを確認 | ✅ |
| 営業CF | FY2024〜FY2026の3期連続黒字 | 3期連続の黒字を確認 | ✅ |
| 配当継続 | FY2022〜FY2026の5期支払い | 3期連続を確認 | ✅ |
| EPS成長率 | FY2026/FY2025 +12.2% | プラスを確認 | ✅ |
| CCC(FY2022→FY2026) | 36.0→57.8→44.4→43.7→32.0日 | 同一算式で比較 | 短縮 |
(出典: EDINET提出資料、セグメント・財務データ。業界営業利益率中央値はEDINET DBの2026年10月27日時点集計を参照。未取得の借入・有価証券項目はゼロとせず、負債と現預金の優劣を未判定とした。)
自己資本比率と流動比率は基礎的な安全余力を示し、営業CFはFY2024〜FY2026の3期連続で黒字、配当もFY2022〜FY2026に支払われた。
一方、利益率とROEは業界目安・社内基準を下回り、運転資本だけでなく資本の稼働率が課題として残る。
有利子負債はFY2026の短期借入金800百万円を確認したが、他の負債内訳が揃わず、全額と現金の比較は結論を保留する。
データベースの健全性スコアは70/100だが、借入内訳の欠測を埋めるものではないため補助指標として扱う。
FY2026末の投資有価証券簿価は34.9億円、政策保有株の開示簿価は約34.0億円。
FY2025の開示簿価約21.3億円から増えたが、評価差額、取得・売却の影響を分解しないまま「余剰資金」とは扱えない。
取締役会が資本コストと保有便益を検討するという説明に対し、売却・保有の判断が投資収益や資産回転にどう反映されたかが次の確認点となる。
配当と会社計画
1株配当はFY2022の29円、FY2023の31円、FY2024の33円、FY2025の38円、FY2026の48円へ増え、FY2027会社予想は48円。
FY2026の配当性向は約40%で、FY2026純利益を基準に計算した。
中期計画は配当性向30%以上を掲げ、会社は安定配当と成長投資の両立を示す。
利益が計画どおり伸びなければ配当性向が上がるため、配当額だけでなく営業利益とキャッシュ創出を併せて確認する。
予想達成精度は過去3期比較データを抽出できず、定量化していない。
3. 市場評価を読む — バリュエーション
株価、倍率、NC 2軸
市場データは2026年10月28日終値1,404円。
発行済株式11,772,626株から自己株式806,577株を控除した10,966,049株を用い、時価総額は153.96億円となる。
自己株式数・期末基準日には開示資料間で端数差があるため、最新の株式数スナップショットに基づく控除後株数で統一した。
株価×株数の計算値は約153.96億円で市場データと整合する。
| 指標 | カネコ種苗 | 算式・基準 |
|---|---|---|
| 株価・時価総額 | 1,404円・153.96億円 | 2026-10-28終値×自己株控除後株数 |
| FY2027予想PER | 9.33倍 | 1,404円÷会社予想EPS150.46円 |
| PBR | 0.576倍 | 1,404円÷FY2026 BPS2,438.93円 |
| 予想配当利回り | 3.42% | 会社予想48円÷1,404円 |
| 標準NCの確認済み構成項目 | 7.83億円 | 現預金15.83億円+短期有価証券未確認−確認済み短期借入8.00億円 |
| 暫定標準NC比率 | 5.09% | 7.83億円÷時価総額153.96億円 |
| 広義NCAV | 154.53億円 | 流動資産404.50億円+投資有価証券34.92億円×0.7−負債合計274.41億円 |
| 広義NCAV / 時価総額 | 100.37% | 広義NCAV÷時価総額 |
| 標準NCベースCN-PER | 8.86倍 | 予想PER×(1−暫定標準NC比率) |
(出典: EDINET FY2026財務・株式データ、FY2027会社予想、2026-10-28終値。株価: 農業関連銘柄一覧。)
標準NCは本来、現預金+短期有価証券−短期借入金−1年内返済予定長期借入金−長期借入金−社債で計算する。
FY2026に確認できる現預金15.83億円と短期借入金8.00億円だけを使った7.83億円は暫定値であり、未抽出の有利子負債や短期有価証券をゼロとは置いていない。
標準NC比率とCN-PER、これを控除したEV/EBITDAも同じ暫定性を引き継ぐ。
広義NCAVは流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計であり、FY2026の値154.53億円は時価総額をわずかに上回る。
FY2025も155.56億円で、FY2026の154.53億円と近い水準だった。
投資有価証券に30%の一律控除を置く帳簿ベースの計算で、在庫の季節性、債権の回収、仕入先への支払い、資産処分費用を織り込んだ回収価値ではない。
広義NCAVベースのCN-PERは算術上マイナスとなり、通常の利益倍率として解釈できない。
EV/EBITDAと倍率感応度
暫定標準NCを控除した企業価値は146.13億円。
FY2026実績EBITDA(営業利益17.49億円+減価償却5.13億円)は22.63億円で、EV/EBITDAは6.46倍。
FY2027会社予想営業利益20.00億円にFY2026減価償却費5.13億円を加えた参考EBITDA25.13億円を使うと、現行EVの倍率は5.82倍となる。
後者は会社公表のEBITDA予想ではなく、減価償却が同水準という単純な参考計算である。
| 倍率の見方 | PER | EV/EBITDA | 前提 |
|---|---|---|---|
| 収益ストレス例 | 8.0倍 | 7.3倍 | PERは自社の過去レンジ下限を下回る例。EBITDAがFY2027参考値から20%低下しEV一定と置く |
| 現状の会社予想 | 9.3倍 | 5.8倍 | 報告日株価、FY2027会社予想EPS、FY2026減価償却費による |
| 利益改善の算術例 | 13.0倍 | 4.9倍 | PERは自社5期実績レンジ内。EBITDAがFY2027参考値から20%増えEV一定と置く |
FY2022〜FY2026期末実績PERは11.48〜16.15倍で、FY2027予想PERとは株価日・利益基準が異なる。
8倍・13倍は倍率比較軸であり、株価には換算しない。
EVの4.9〜7.3倍はEV固定でEBITDAだけを動かした算術例で、市場評価の予測ではない。
広義NCAVはEVの負債調整に使わず、別の資産指標として扱う。
標準NCの完全な負債内訳、株主資本コスト・負債コスト・長期成長率、5年の将来FCFを同じ根拠で確定できないため、DCFによる企業価値は示さない。
会社の中期計画には株主資本コスト約4.8%との推計があるが、単独ではWACCや将来FCFの前提を完成させない。
4. 同業比較 — 差分の論点
同日株価と各社開示を使った比較。
カネコ種苗はFY2026実績、サカタのタネはFY2026実績、ベルグアースはFY2025実績を中心にしている。
PERはカネコ種苗・サカタのタネのFY2027およびベルグアースのFY2026会社予想、EV/EBITDAはカネコ種苗・サカタのタネのFY2026、ベルグアースのFY2025通期実績を使うため、年度と利益基準の差に注意する。
事業内容も、農材卸・施設材を含むカネコ種苗、グローバル種苗企業のサカタのタネ、野菜苗生産を主力とするベルグアースで異なる。
| 指標 | カネコ種苗 | サカタのタネ | ベルグアース |
|---|---|---|---|
| 時価総額(億円) | 153.96 | 1,756.9 | 49.13 |
| 比較対象年度売上高(億円) | FY2026 677.3 | FY2026 1,042.8 | FY2025 73.0 |
| 比較対象年度営業利益率 | FY2026 2.58% | FY2026 12.58% | FY2025 −0.45% |
| 自己資本比率 | 49.4% | 82.3% | 34.9% |
| 予想PER | 9.33倍 | 17.58倍 | 90.06倍 |
| PBR | 0.576倍 | 0.985倍 | 2.322倍 |
| ROE | 5.1% | 7.2% | 2.3% |
| 予想配当利回り | 3.42% | 2.04% | 0.33% |
| 標準NC比率 | 暫定5.09% | 9.67% | −31.24%(純有利子負債) |
| EV/EBITDA | 6.46倍 | 8.53倍 | 24.83倍 |
| CCC | 32日 | 626日 | 44日 |
| 3期売上高推移(億円) | FY2024 616.0 / FY2025 645.1 / FY2026 677.3 | FY2024 886.8 / FY2025 929.2 / FY2026 1,042.8 | FY2023 70.6 / FY2024 70.9 / FY2025 73.0 |
(出典: 各社EDINET提出資料・会社予想、2026-10-28株価。カネコ種苗・サカタのタネ株価、ベルグアース株価。EV/EBITDAはカネコ種苗・サカタのタネがFY2026、ベルグアースがFY2025の実績EBITDA。)
サカタのタネは種苗の比較対象だが、FY2026営業利益率12.58%とカネコ種苗の2.58%には大きな差がある。
品種構成、海外販売、規模、研究開発の回収期間などが異なるため、差を単一要因には帰せない。
ベルグアースは売上規模が小さく、FY2025は営業赤字で、予想PERは小さな予想利益を分母とするため倍率が高く見える。
カネコ種苗の低PERを優位性と即断するより、各社の利益水準、事業の広さ、自己資本、成長投資後のCFを併せて見る。
CCCは売上債権÷売上高×365+棚卸資産÷売上原価×365−仕入債務÷売上原価×365で算出した。
サカタのタネは種子の生産・販売サイクルと海外在庫が反映され、卸売中心のカネコ種苗と日数だけでは比較できない。
勘定定義や海外拠点をそろえた比較ではなく、各社内の推移を優先する。
5. リスクと論点
最大のリスク — 低い利益率のまま投資負担が続くこと
FY2026営業利益率は2.58%、ROEは5.1%。
中期計画はFY2028営業利益率3.8%を掲げる一方、FY2026の売上高は計画を超え、営業利益は計画を下回った。
利益率が持ち直さなければ、売上規模の増加が資本コストを上回る収益へ結び付きにくい。
投資有価証券や本社再構築への資金配分が増える局面では、営業CFに加え投資後のFCF、借入の全内訳、政策保有株の便益を見ていく必要がある。
この銘柄のバリュートラップ論点は、低PBR・予想PERと帳簿資産・利益の持続力を同一視すること。
広義NCAVは時価総額を上回るが、在庫や債権の短期換金価値とは異なる。
標準NCの負債内訳も不足し、FY2026 FCFは小幅マイナスだった。
利益率・資本回転が停滞する可能性を、CFと資本配分で確かめる。
リスクマトリクス
| リスク要因 | 影響度 | 発生可能性 | 業績への経路 | 開示上の対応・確認点 |
|---|---|---|---|---|
| 気象・災害・採種品質 | 高 | 中〜高 | 供給不足、仕入価格・在庫評価、販売機会に影響 | 生産地分散、在庫確保、検査を記載。品質損失の実績は別途確認 |
| 農業人口・農産物価格 | 高 | 中 | 販売量、商品ミックス、農家の支払余力へ波及 | 作物・地域の分散効果はあるが、感応度は未開示 |
| 商品仕入・物流・為替 | 中〜高 | 中 | 粗利率、納期、調達・在庫負担を変える | 仕入先・地域分散の具体的効果、ヘッジ状況は未確認 |
| 信用・債権・直接出荷 | 中 | 中 | 回収遅延、貸倒、期末の売上認識に影響 | 与信管理と出荷証憑確認。顧客集中は未確認 |
| 本社再構築・資本配分 | 中〜高 | 中 | 投資CF、短期借入、償却・固定費の増加 | 完成後の効率改善、設備稼働、全借入内訳を追跡 |
(出典: カネコ種苗FY2026有価証券報告書、事業リスク・経営者による分析。影響度・発生可能性は開示内容と事業構造に基づく定性的整理で、発生確率を数値化したものではない。)
農林水産省は種苗法改正の一部規定を2026年12月1日に施行する。
品種登録、育成者権、種苗流通の管理に関係する制度変更であり、同社の登録品種・海外権利管理が実務上どう対応するかは会社開示の確認が必要となる。
スマート農業技術活用促進法は2024年10月1日に施行済みで、施設材や省力化設備に関連するが、同社の売上効果を公表資料なしに推定しない。
6. バリュエーション統合と論点整理
(a) 市場評価と事業の接点
市場評価の低さは一つの原因に還元できない。
FY2026営業利益率は2.58%、ROE5.1%、定義統一FCF−0.7億円で、設備投資は減価償却を上回った。
会社はFY2026–FY2028計画で株主資本コストを1.50%+0.55×6.09%=約4.8%と推計し、資産回転率・利益率の改善を課題に置く。
低PBRには利益率、資本効率、投資後CF、政策保有株や開示への評価が関係しうるが、寄与を切り分けるデータはない。
会社はFY2026に売上高計画を超過しながら営業利益計画に届かなかった。
FY2027予想は売上高700億円、営業利益20億円、FY2028目標は売上高712億円、営業利益27億円である。
FY2027予想からFY2028目標へ進むためには、売上の追加拡大以上に利益率を高める必要がある。
農材・施設材の利益率と販売費、種苗の品種ミックス、花きの採算、本社再構築後の固定費・生産性を一緒に追うことが、倍率の背景を理解する材料となる。
(b) 前提で分けた3つのシナリオ
利益率改善ケース
農材・施設材の採算改善、種苗の品種構成向上、花き黒字の定着でFY2028計画に近づくケース。低利益率への評価負担が和らぎ、利益成長・ROE・投資後FCFに評価軸が移る余地があるかを確認する。
売上成長・利益率横ばいケース
売上高が伸びても費用や商品構成が利益を吸収するケース。評価は増収より低い利益率・資本効率に重心が残るため、増収分が粗利・営業利益へ移ったかを確認する。
供給・採算悪化ケース
天候・採種品質・物流・仕入価格が悪化し、欠品や在庫負担、本社投資負担が増すケース。
利益倍率の比較可能性が下がり、短期資金・現金創出・資産の質へ評価軸が寄るおそれを踏まえ、通期着地と在庫・債権を確認する。
これらは前提を整理する条件分岐であり、確率や株価水準を置くものではない。
FY2027第1四半期は売上高156.95億円、営業利益4.12億円、純利益5.35億円。
純利益はFY2026第1四半期比+77.5%で、投資有価証券売却益が寄与した。
第1四半期は季節的に売上・利益が小さく、FY2026営業利益の72.8%が第4四半期に集中した。
四半期純利益の伸びだけから通期利益の質が改善したとは判断せず、営業利益、売却益を除く利益、受注・出荷、在庫を分けて確認する。
(c) 監視ポイント
| 時期 | イベント | 開示で確認する点 |
|---|---|---|
| 2026-11-30 | 中間配当の基準日(定款上) | 配当額は未公表。配当決議と基準日の確認 |
| 2026-12-01 | 種苗法改正の一部規定施行 | 品種権利、表示、流通管理への対応 |
| 2027-01-07頃(推定・未公表) | 第2四半期決算公表時期 | 営業利益進捗、セグメント別採算、通期予想 |
| 2027-02-28 | FY2027第3四半期末 | 棚卸資産、売掛債権、季節性の確認 |
| 2027-04-03頃(推定・未公表) | 第3四半期決算公表時期 | 第4四半期への利益偏重、予想変更 |
| 2027-05-31 | FY2027通期末 | 本社投資、借入、営業CF・投資CFの着地 |
| 2027-07-13頃(推定・未公表) | 通期決算公表時期 | FY2028計画と実績の差、利益率・配当 |
| 2027-08月頃(推定・未公表) | 定時株主総会・CG報告更新時期 | 取締役会実効性、資本コスト、政策保有株 |
公表時期の推定は2026年の開示日程を参考にした目安で、正式な会社発表日ではない。改正法の施行日・FY2027の期末は公表済み日付、配当の金額や決算公表日は未確定のものを分けて記載した。
(d) M&A・出資を検討する際の論点
買い手が事業価値を検討する際は、農材の販売網、地域顧客との関係、品種権利、採種・品質管理、施設材の設計・施工力、花きの流通網を分けて評価する必要がある。
販売網や共同物流には重複費用を抑える余地がありうる一方、品種開発の長い期間、採種リスク、登録権利の範囲、品種を継続生産する技術は単純な販売網統合では代替できない。
設備案件は施工責任・保証・稼働後の保守がディスシナジーとなる場合もある。
検討時は、登録品種・国別権利、研究開発から採用までの歩留まり、在庫年齢と評価、債権回収、直接出荷の検収証跡、政策保有株の取得原価・評価、本社工事の総投資額と完成時期、全有利子負債、季節運転資金を確認する。
簿価や時価総額をそのまま事業価値とせず、利益・必要運転資本・維持投資を分けて考える。
7. 学びのポイント
📚 着眼点1: 利益とキャッシュの差は投資期に大きくなる
FY2026は営業利益17.5億円、営業CF19.2億円、投資CF−19.9億円で、営業CF+投資CFのFCFは−0.7億円。
投資CFには設備投資以外に有価証券取得・売却等も含まれるため、固定資産取得、本社再構築、金融資産を分けて読む。
設備投資が減価償却を上回るなら、完成後の売上・効率・維持費が投資回収を測る材料となる。
利益、営業CF、投資CFを同期間で並べると現金の流れを追いやすい。
📚 着眼点2: NCAVは換金価格ではなく資産構成の点検指標
FY2026の広義NCAVは流動資産404.5億円+投資有価証券34.9億円×70%−負債274.4億円で154.5億円。
時価総額153.96億円をわずかに上回るが、流動資産には季節在庫・売掛金が含まれ、帳簿価格どおり短期間で現金化できる意味ではない。
短期借入金以外の負債・短期有価証券も未確認で、標準NCは暫定値。
欠測をゼロとせず、二つの指標を別に読む。
📚 着眼点3: CCC短縮を、事業構造と開示条件に分けて読む
FY2026 CCCは32.0日で、FY2025の43.7日から11.7日短縮した。
FY2022〜FY2026は36.0日、57.8日、44.4日、43.7日、32.0日。
FY2026内訳は売上債権107.3日、在庫68.4日、仕入債務143.7日で、式は売上債権÷売上高×365+棚卸資産÷売上原価×365−仕入債務÷売上原価×365。
短いCCCは拘束日数の目安だが、季節在庫や請求条件、直接出荷の売上認識を検証するものではない。
企業間では作物、海外比率、販売時期、決算月の違いが残るため、自社の複数年推移と債権・在庫の実額を先に見る。
相場観テーブル
市場中央値は母集団・決算期が異なる公開統計。
集計日はPER 2026-10-26、PBR 2026-10-28、ROE 2026-10-27、配当利回り2026-10-23。
比較できる年度や算式が揃わない場合は補完せず、参考目安として読む。
| 指標 | カネコ種苗 | 水産・農林業中央値 | 全上場中央値 | 参考目安 | 読み方 |
|---|---|---|---|---|---|
| 予想PER | 9.33倍 | 13.06倍 | 13.76倍 | 利益基準と算定日をそろえる | 対象はFY2027予想、中央値は実績系集計 |
| PBR | 0.576倍 | 0.95倍 | 1.17倍 | ROEと資産の収益性を併読 | 低倍率だけでは資産価値を示さない |
| ROE | 5.1% | 7.83% | 8.21% | 資本コストとの比較 | 会社推計資本コスト約4.8%に近い |
| 配当利回り | 3.42% | 2.64% | 2.90% | 予想・実績の基準日をそろえる | 対象は予想配当、中央値の集計日は異なる |
| 営業利益率 | 2.58% | 3.2% | 6.2% | 同業中央値との幅を確認 | 全上場値はFY2025集計で期間差あり |
| 自己資本比率 | 49.4% | 41.4% | — | 40%超を一つの目安とする | 同業集計は業界利用例の中央値 |
| 売上成長率 | 4年CAGR 2.78% | 4.1% | — | 期間をそろえて比較 | 業界値はFY2025〜FY2026の1年成長率 |
| CCC | 32.0日 | — | — | 同一分母・同一業態で比較 | 業界中央値の公開値は確認できず |
| FCF利回り | −0.46% | — | — | 営業CFと投資内容を分解 | FY2026 FCF÷報告日時価総額 |
| 営業CF/純利益 | 145.2% | — | — | 複数年の現金化を確認 | FY2026は本社投資の影響と併読 |
(出典: EDINET DB PER、PBR、ROE、配当利回り、業界分析指標、FY2025営業利益率分布、企業分析指標。母集団と基準日は指標ごとに異なる。)
参考情報
ガバナンス
2026年8月27日付のコーポレートガバナンス報告書によると、取締役会は9名(うち社外取締役3名)、監査役会は4名(うち社外監査役3名)。
任意の指名・報酬委員会は3名で、独立社外取締役が2名、社内取締役が1名、委員長は社長である。
2026年5月に取締役会の実効性アンケートを行い、7月の取締役会で機能しているとの評価をまとめた一方、概要開示を今後の課題として挙げた。
親会社はなく、外国人持株比率は10%未満。
取締役会の構成に加え、評価結果と改善内容の開示が続くかを確認する。
大株主
FY2026末基準のコーポレートガバナンス報告書・有価証券報告書に記載された上位株主。持株比率は自己株式を除く発行済株式を基準とする。
| 株主 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 6.55% |
| 株式会社あかぎ興業 | 5.36% |
| 株式会社群馬銀行 | 4.43% |
| カネコ種苗従業員持株会 | 4.29% |
| 株式会社東和銀行 | 2.81% |
データ時点と出典
財務の基準日はFY2026末の2026年5月31日、最新開示の対象期間末はFY2027第1四半期の2026年8月31日、公表日は2026年10月5日。
株価・時価総額の基準日は2026年10月28日。
株価倍率は会社予想と実績が混在するため、表中で対象年度を区別した。
- カネコ種苗 有価証券報告書・決算短信・決算資料: IR・財務情報
- FY2026有価証券報告書: EDINET提出書類
- 事業紹介: 種苗事業等
- 中期経営計画: 2026–2028中期経営計画
- コーポレートガバナンス報告書(2026-08-27): 提出資料PDF
- 種苗法改正・Q&A: 農林水産省、改正Q&A
- スマート農業技術活用促進法: 農林水産省
- 株価: カネコ種苗・サカタのタネ、ベルグアース
- 水産・農林業の市場中央値: PER、PBR、ROE、配当利回り
- 比較会社データ: EDINET提出書類(サカタのタネ E00006、ベルグアース E25969)および各社決算短信