第6号2026-08-01
フィジカルAIの利益は、どこに溜まるのか——13社の決算で描く4層マップ

前回、日本の国家プロジェクトFRONTiaとNoetraの発足を追いました。
その記事の最後で、次はNVIDIAのプラットフォーム戦略、米中日のプレイヤー勢力図、そしてバリューチェーンのどこに利益が溜まるのかを一段深く解剖する、と予告しました。
今回がその本編です。
私は普段、事業の数字を分解して、どこにいくら張るかを決める仕事(FP&A=経営企画・財務計画)をしています。技術の目新しさではなく、その技術で誰がいくら稼いでいるのかを見る立場です。
フィジカルAIについて、よく見かける対立があります。半導体を握るNVIDIAが総取りするという読みと、ロボットの実体を作れる日本の部品メーカーが最後に勝つという読みです。
先に結論を置きます。
どちらでもありません。利益は層では決まっていません。決めているのは、その会社が値付けを握れているかどうかです。
そしてもうひとつ。今この瞬間、市場が「ここに利益が溜まる」と賭けている場所と、実際に利益が出ている場所は、ほとんど重なっていません。
この記事では、上場している10社の有価証券報告書・10-K・年報に加えて、これまで「非開示」とされてきた未上場3社の数字を、官報の決算公告と上場申請書類から引き出して並べます。合計13社です。
ここは少し補足させてください。
フィジカルAIの記事の多くが、技術発表と資金調達額の紹介で終わってしまうのは、書き手が怠けているからではありません。
財務が本当に手に入らないからです。
米国の未上場企業には開示義務がなく、中国の新興も価格すら公表しない会社がほとんどです。
ただ、抜け道はありました。
日本の株式会社には会社法440条の決算公告義務があり、大会社なら損益計算書まで官報に載ります。
中国企業でも上場を申請すれば招股説明書で全部が見えます。
ノルウェーのように全法人へ年次決算の提出を義務づけている国もあります。
その結果、これまで数字がなかったL2の基盤モデル層とL4の現場実装層に、初めて実測点が入りました。
そして時期の巡り合わせもあります。
世界最大のヒューマノイド出荷企業である中国の宇樹科技が、2026年8月10日に上海の科創板で申購を迎えます。
この分野の会社の中身が決算で検証できるようになる、その直前の地図がこの記事です。
この記事で読めること
- フィジカルAIを4層に割る地図と、米中日およそ37社がどこに立っているのか
- NVIDIAが本当に握っているものは何か(チップではありません)
- 基盤モデル層でいま何が起きているか——売上76億円の会社が最終利益1,000万円だった話
- 各社が公表している量産計画の合計と、実際の生産実績のあいだにある桁の違い
- 世界一のヒューマノイド出荷企業の販売先の内訳が示す、実装フェーズの本当の進捗
- 「上流の部品なら高収益」という通説が、日本の3社で成立していないこと
- 現場実装層が9期連続で赤字を出し続けている構造的な理由
- 同じ減速機なのに市場が5倍以上ちがう値付けをしている理由
- このフレームを自分の事業や関心領域に当てるための転用チェックリスト
本文の数値は、市場データが2026年7月31日終値時点、財務が各社の直近通期開示時点のスナップショットです。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
まず地図を引く——フィジカルAIの4層
比べる前に、言葉を揃えます。
フィジカルAIという言葉は、画面の中で完結していたAIが、身体を持って現実世界で動くことを指します。ただ、この一語で語ると、まるで違う商売をしている会社が同じ袋に入ってしまいます。
そこで4つの層に割ります。
L1は計算基盤です。学習用のGPU、シミュレーション環境、ロボットに載せるエッジ用コンピュータ。NVIDIA、Qualcomm、AMD、中国のD-Roboticsなど。
L2は基盤モデルです。
ロボットが見て、考えて、動くための頭脳にあたるソフトウェア。
Physical Intelligence、Skild AI、Google DeepMind、Figure、そして日本のPreferred Networksなど。
L3は本体です。
実際に動くロボットそのもの。
産業用ロボットのファナック、安川電機、川崎重工業。
ヒューマノイドのTesla、Figure、Agility Robotics、Boston Dynamics、1X。
中国の宇樹科技、UBTECH、Galbot、AgiBot、Fourier。
L4は現場実装です。ロボットを実際の倉庫や店舗で動かし続ける層。Mujin、Telexistence、ラピュタロボティクス、そして内製のAmazon Robotics。
この4層に加えて、L3の周辺に精密部品があります。
減速機のナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズ、直動案内のTHK、センサのキーエンス。
ロボットの関節と目にあたる部分で、日本勢が強いと言われてきた領域です。

地図を引く前に、正規化しておくこと
ここで、この記事を通じて効いてくる前提を3つ置きます。
一つ目。「フィジカルAIの売上」を開示している会社は、ひとつもありません。
これは大事な点です。
今回13社の財務を並べますが、そのほとんどは全社の数字です。
NVIDIAの営業利益率60.38パーセントは、データセンター向けGPUを含む全社の値であって、ロボット事業の利益率ではありません。
ファナックの21.42パーセントも同じです。ロボット部門の売上比率は分かりますが、その部門だけの利益率は開示されていません。
ロボット関連の売上比率を単独開示している会社は、13社のうち6社しかありませんでした。ファナック、安川電機、川崎重工業、ナブテスコ、UBTECH、宇樹科技です。
キーエンス、ハーモニック、THK、Teslaは、有価証券報告書や10-Kのセグメント情報を確認しても、ロボットやフィジカルAI向けの区分が存在しません。
推測で配賦することもできます。
しかしそれをやると、自分で作った数字を自分で検証することになるので、やりません。
つまり私たちは、直接測れないものを、代理の数字で挟み撃つしかない。この限界を最初に認めたうえで進めます。
二つ目。市場が伸びることと、その会社が儲かることは別物です。
ロボット市場が年率で何パーセント伸びる、という予測はいくらでもあります。
しかし市場の拡大がそのまま利益になるかは、その会社が価格を決められるかどうかで変わります。
市場が2倍になっても、供給者が3倍に増えれば単価は落ちます。
この記事はそこだけを見ます。
三つ目。PERには2種類あります。
株式情報サイトが表示するPERの多くは、会社が今期の予想として出した利益をもとにした予想PERです。この記事で使うのは、確定済みの直近通期実績にもとづく実績PERです。
両者は大きくずれます。
ファナックの場合、予想ベースが33.50倍に対し、実績ベースは39.98倍でした。
ハーモニックに至っては、予想ベース136.10倍に対し実績ベース361.28倍です。
どちらが正しいという話ではなく、混ぜてはいけないという話です。
L1——NVIDIAが握っているのは、チップではない
NVIDIAの直近通期(2026年1月25日終了)の数字から入ります。
売上高は2,159億ドル、前期比プラス65.47パーセント。営業利益率60.38パーセント、売上総利益率71.1パーセント。今回並べる13社のなかで、断トツの収益性です。
ただし、この数字の大半はデータセンター向けであって、ロボットではありません。
自動車・自動運転向けのAutomotive売上は23.49億ドルで、全社のわずか1.09パーセントです。
ロボティクス単独の区分は開示されていません。
では、なぜNVIDIAをこの地図の中心に置くのか。
売上ではなく、開発の入口を握っているからです。

3つのコンピュータという囲い方
NVIDIAは自社の戦略を3つのコンピュータと説明しています。
学習するコンピュータ(DGX)、シミュレーションするコンピュータ(Omniverse、Cosmos)、ロボットに載るコンピュータ(Jetson)です。
具体的な製品を並べます。
2025年8月25日、エッジ側のJetson AGX Thor開発者キットを3,499ドルで一般提供開始。
128GBメモリ、最大2,070 FP4 TFLOPS、消費電力枠130ワット。
同日、初期採用企業8社と評価中の企業4社を公表しています。
2026年3月16日には、ロボット基盤モデルGR00T N1.7を商用ライセンス付きで早期提供開始しました。
同日、世界基盤モデルCosmos 3と、DGXクラス基盤上での大規模ロボット学習に対応するIsaac Lab 3.0も公開しています。
ここまでなら、良いツールを揃えた、で終わります。効いているのは次の一手です。
同じ2026年3月16日、NVIDIAはHugging FaceとIsaac・GR00TをLeRobotへ統合する提携を発表しました。
NVIDIAのロボティクス開発者200万人と、Hugging FaceのAI開発者1,300万人を接続する、と説明しています。
ロボットを作りたい人が最初に触る場所そのものを、取りにいっています。
シミュレーションが効く理由
3つのうち、外から見えにくいのがシミュレーションです。ここが最も効いています。
NVIDIA Researchは2025年6月16日、合成訓練データを使ってロボット基盤モデルGR00T N1.5を36時間で開発したと報告しました。
人手でデータを集めていれば約3か月かかった工程だとしています。
同じ発表で、AeiRobot、Foxlink、Lightwheel、NEURA Roboticsの4社を初期採用企業として公表しました。
2025年10月28日には、Amazon RoboticsがOmniverseとJetsonを使って操作・搬送ロボットの開発期間を年単位から月単位へ短縮し、BlueJayという機体を構想から量産まで1年強で進めたと公表しています。
ロボットの学習は、実機を動かしてデータを取るのが本来です。それには時間と場所と人手が要ります。シミュレーションはその時間を買う手段で、時間を買える環境を持っている側が、開発速度そのものを規定します。
開いた部分と、閉じたままの部分
ここが最も示唆的です。
2025年8月11日、NVIDIAはIsaac Sim 5.0の固有拡張をGitHubでオープンソース化しました。
一方で、その土台であるOmniverse Kitの構成要素は非公開のままで、外部からのコントリビューションも受け付けないと明言しています。
同じ年の9月29日には、Google DeepMind、Disney Research、NVIDIAの3者が共同開発した物理エンジンNewtonのベータ版が公開されました。
こちらはLinux Foundationが管理するオープンソースです。
開けるところは開き、土台は閉じる。CUDAで起きたことと同じ形です。
2026年6月22日には、Halos for Roboticsという共通安全アーキテクチャも発表されました。自動運転で積んだ1万8,600エンジニア年相当の安全開発を基礎にしている、という説明です。
安全の枠組みを提供する側になると、そこに準拠することが業界の前提になります。性能ではなく規格の側から囲う動きです。
囲いは、すでに大手に及んでいる
2026年3月16日の発表によれば、世界の設置ベース200万台超を持つファナック、ABB Robotics、安川電機、KUKAの4社が、OmniverseとIsaacを仮想コミッショニングへ、Jetsonを制御装置へ統合中とされています。
2025年10月28日には、Agility Robotics、Amazon Robotics、Figure、Skild AIの4社が3コンピュータ・アーキテクチャでロボット群を開発・展開していると公表されました。
産業用ロボットの老舗も、ヒューマノイドの新興も、同じ環境の上に乗り始めています。
代替は存在するのか
反対側も見ておきます。
Qualcommは2026年1月5日、産業用の自律搬送ロボットと大型ヒューマノイド向けにDragonwing IQ10シリーズを発表しました。
AMDは2026年3月9日、Zen 5コアを8から12基積み最大80 TOPSのRyzen AI Embedded P100系を発表し、生産出荷を2026年7月開始予定としています。
同時に、オープンソースのHIPがGPUプログラミングをハードウェアから切り離し、ソフトウェアスタックとハードウェアのあいだのベンダーロックインを解消する、と説明しています。
中国のD-Roboticsは、8コアArm Cortex-A55と10 TOPSのBPUを積んだ開発キットRDK X5を出しています。
チップ単体で見れば、代替はあります。ただし、学習環境とシミュレーションと基盤モデルと開発者コミュニティと安全規格まで含めた一式で並ぶものは、現時点では見当たりません。
NVIDIAが握っているのはチップではなく、そこに至るまでの導線です。
L2——基盤モデル層は、まだ誰も儲かっていない
ここからが、この記事でいちばん報われなかった調査領域です。
L2の主要プレイヤーの財務は、ほとんど手に入りません。
Physical Intelligenceの年間売上高と営業利益は、公式サイトと主要報道を確認した範囲で開示が見つかりませんでした。
Figure AIも同じです。
Skild AIについては、2025年の数か月でライブ売上がゼロから約3,000万ドルへ増えたという自社発表が2026年1月にあるだけです。
監査済みの数字ではありませんし、その後の推移も分かりません。
未上場の米国企業には、日本の決算公告にあたる制度がありません。売上を出す義務がないので、出さない。それだけです。
ところが、ひとつだけ全部が見える会社がありました。
Preferred Networksの決算公告が示すもの
日本の株式会社には、会社法440条にもとづく決算公告の義務があります。資本金5億円以上などの大会社は、貸借対照表だけでなく損益計算書も公告しなければなりません。
株式会社Preferred Networksの官報決算公告を追うと、こうなります。
2023年1月期。売上高76億5,500万円、当期純損失30億6,600万円、利益剰余金はマイナス34億4,700万円、総資産201億6,100万円。
翌2024年1月期。当期純利益1,000万円。黒字転換です。
ここで立ち止まってください。売上76億円規模の会社の最終利益が1,000万円。純利益率0.1パーセントです。黒字転換という言葉の見た目に対して、中身はほぼトントンでした。
そして2025年6月期。決算期を1月から6月へ変更した変則決算で、当期純損失78億4,300万円。
注意が要る点を3つ書いておきます。
これは単体の数字です。同社はAI基盤モデル事業をPreferred Elementsへ、自律移動ロボット事業を別会社へ移管しており、この損益はグループ全体でも基盤モデル事業単独でもありません。
決算期変更をまたいでいるので、前期比で語ることもできません。
そして期間の長さです。報道では5か月の変則期間とされていますが、官報の原本で期間を確認できていません。12か月分の損失として読むことも、年率に引き伸ばすこともしないでください。
それでも言えることがあります。日本で最も名の通ったAI企業が、基盤モデルに張り続けながら、最終損益では黒字を安定して積み上げられていない。米国勢が数字を出さないなかで、これは貴重な実測点です。
なお同社は2026年6月、トヨタ未来創生センターとの共同研究を開始しました。
ロボット向けフィジカルAIのオンプレミス推論を自社設計のMN-Core Lシリーズで高速化する取り組みです。
自社でチップまで持つ体制は、費用が先に出る構造でもあります。
誰に売るのか、という問題
L2の収益構造には、もうひとつ厄介な点があります。
基盤モデルは、最終顧客に直接売るものではありません。ロボットメーカーに売ります。あるいはロボットメーカーの内側で使われます。
Google DeepMindは2025年9月、Gemini Robotics 1.5を選定パートナー向けに提供開始しました。
推論用のGemini Robotics-ER 1.5は、Gemini APIとGoogle AI Studioで提供されています。
2025年3月にはApptronikと次世代ヒューマノイドの開発で提携し、Agile Robots、Agility Robotics、Boston Dynamics、Enchanted Toolsを信頼済みテスターに指定しました。
Skild AIは2026年3月、ABB RoboticsおよびUniversal Robotsとの提携で、自社モデルを産業ロボットへ統合・展開する計画を発表しました。
売り先はいずれもL3です。つまりL2の取り分は、L3の懐から出ます。
そしてこの記事の後半で見るとおり、L3の本体メーカーの営業利益率は、高くて21.42パーセント、低いほうはマイナス38.94パーセントです。薄い相手から厚く取るのは、構造的に難しい。
一方で、Preferred Networksは2025年5月にPLaMo 2 8Bを商用利用可のオープンライセンスで公開し、PLaMo 2.0 Prime APIを入力100万トークン60円、出力100万トークン250円で提供すると発表しました。
無償公開と従量課金を組み合わせる形です。
モデルそのものを無料で配り、使われた分だけ課金する。ソフトウェアとしては自然な形ですが、単価はこの水準です。
開示しないことが、それ自体の情報になる
L2で確認できたのは、こういう景色です。
技術発表は非常に濃い。
Physical Intelligenceのπ0は8種類のロボット由来データで学習し、30億パラメータのVLMを使って最大50Hzで行動を出力します。
2025年2月にはコードと重みをopenpiリポジトリで公開しました。
π0.6は2026年2月時点で、Ultraという顧客の拠点にある受注梱包ロボットに実装され、1勤務シフトを96.4パーセントの自律率で稼働したと両社が報告しています。
Figureが2026年1月に公表したHelix 02は、食器洗浄機のタスクで4分間に61件の移動・操作行動を順序立てて実行しました。
1組のニューラルネットワークの重みで複数ロボット・複数操作を扱い、タスクごとの微調整を不要にする設計です。
1Xは2026年1月、動画で事前学習した世界モデルを家庭用ヒューマノイドNEOのロボット方策として統合したと発表しています。
2024年9月には、100時間超のベクトル量子化ロボット動画と事前学習済み基準モデルをApache 2.0で公開しました。
この層の歴史も、それなりに長くなってきました。
Covariantは2024年3月に商用ロボット向けのRobotics Foundation ModelとしてRFM-1を発表し、同社の事例ではRadialがAI搭載ロボットのputwallを12台導入して1台あたり月約10万ピックを処理したと報告されています。
Sanctuary AIは2023年3月、Canadian Tire傘下のMark's店舗で1週間の商用パイロットを行い、110件の小売関連タスクを正しく完了したと発表しました。
2024年5月にはMicrosoftと協業し、学習と推論にAzureを使うとしています。
一方で、その事業がいくら稼いだのかは、誰も言いません。
FP&Aの見方をすると、これは示唆的です。誇れる数字があれば普通は出します。出ないということは、まだ出す段階にないと解釈するのが素直です。断定はしませんが、留保もしません。
唯一この層で売上らしき数字を出したSkild AIの約3,000万ドルも、規模で言えばPreferred Networksの2023年1月期の売上76億円の半分程度です。
そしてPreferred Networksは、その売上規模で純利益率0.1パーセントでした。
L2の中で最も数字を出している会社ですら、この水準です。ここに巨額の評価額がついているのは、現在の収益ではなく、ロボットが普及したあとに頭脳を握っている状態への賭けだと理解するほかありません。
L3——本体層を、決算で三極に並べる
ここが米中日の勢力図です。まず日本から。
日本勢——実績はあるが、フィジカルAIの取り分は見えない
ファナックの2026年3月期は、売上高8,578億円、営業利益率21.42パーセント、前期比プラス7.62パーセント。ロボット部門の売上高は3,786億円で、全社の44.1パーセントを占めます。
同社は2026年5月13日、2025年12月の国際ロボット展でフィジカルAIシステムを公開して以降、フィジカルAI関連用途向けのロボットを1,000台超出荷したと発表しました。
同じ月には、Google CloudのGemini Enterpriseを使って人の指示理解・物体認識・ロボット自律操作を行う産業用フィジカルAIエージェントの開発を公表しています。
5月15日には、NVIDIA GR00T Nと模倣学習で2台のCRXロボットがカメラで対象を認識しながらTシャツを自律的に畳むシステムを公開しました。
安川電機の2026年2月期は、売上収益5,421億円、営業利益率8.73パーセント、前期比プラス0.83パーセント。ロボット事業は2,470億円で全社の45.56パーセントです。
同社は2026年7月13日、ソフトバンクとの検証で、形状が一定しないワイヤーハーネスをMOTOMAN NEXTで安定して操作できたと発表しました。
7月15日にはGoogle DeepMindのGemini Robotics ER 1.6を統合し、現場状況を判断して作業手順を立案・自律実行するAgentic Robot Systemを公表しています。
2026年6月の長期経営計画「Dash 35」では、方針の筆頭にフィジカルAI市場の開拓を置き、製造現場の外まで自動化領域を広げる方針を示しました。
川崎重工業の2026年3月期は、売上収益2兆3,113億円、前期比プラス8.54パーセント。精密機械・ロボット事業は2,591億円で全社の11.21パーセントです。
同社の営業利益率は算定していません。
決算短信と有価証券報告書に出てくる1,451億円は会社定義の事業利益であり、IFRSの営業利益と同一ではないためです。
読み替えて比率を出すと、他社と比べられない数字ができてしまいます。
川崎重工業は2026年5月21日、米国カリフォルニア州サンノゼにKawasaki Physical AI Center San Joseを開設しました。
7月16日には、NVIDIAのOmniverse・Isaac・Cosmosと自社の造船データ・ロボット技術を組み合わせ、坂出工場で商船設計から建造現場までを接続する次世代デジタルシップヤード・プロジェクトを開始しています。
3社に共通するのは、フィジカルAIへの投資を明確に表明している一方で、その取り分が財務諸表のどこにも分離されていないことです。
トヨタとウーブン・バイ・トヨタも2026年4月22日、映像と環境情報から実世界の事象を言語化して理解・判断する大規模基盤AIモデル「Woven City AI Vision Engine」を公開しました。
同日、AIロボット協会をWoven City Inventorsへ迎え、住民約100名が暮らすPhase 1を含む3環境でロボット社会実装の課題抽出を進めると発表しています。
ソニーAIは2026年4月23日、実世界の自律システムAceがエリートおよびプロ級の卓球選手と競える水準に到達し、その研究がNatureに掲載されたと発表しました。
グローバルシャッターセンサーとイベントベースビジョンセンサーで高速球の軌道と回転を計測しています。
日本勢の技術発表は、密度で言えば米中に劣りません。
米国勢——TeslaのPERが語ること
Teslaの2025年12月期は、売上高948億ドル、前期比マイナス2.93パーセント、営業利益率4.59パーセント。当期純利益は37.94億ドルです。
同社は2026年1月29日提出の10-KでOptimusを含むAIロボットを開発・商用化する事業として自らを位置づけ、4月22日のQ1アップデートでは、フリーモントの第1世代ラインを年100万台、テキサスの第2世代ラインを長期で年1,000万台向けに設計する計画を公表しました。
一方で、Optimusの外部商用顧客名や外部実証先は、公式IR資料を確認した範囲では開示が見つかりませんでした。ロボット関連の売上区分も存在しません。
そのTeslaの2026年7月31日終値時点の実績PERは323.97倍です。
売上が前期比で減り、営業利益率が4.59パーセントの会社に、この倍率がついています。
市場がEVの現在ではなく、その先に賭けていることの表れと読めます。
未上場勢も見ておきます。
Figure AIは2024年2月のシリーズBで6.75億ドルを調達し、当時の評価額は26億ドルでした。
2025年3月にはBotQ第1世代ラインの年産能力を最大1万2,000台とする計画を公表しています。
Agility Roboticsは2026年6月24日、Churchill Capital Corp XIとの企業結合をpre-moneyで25億ドルと合意し、取引総収入を6.20億ドル超と見込みました。
同社は2024年6月、GXOが運営するジョージア州施設でDigitを複数年契約にもとづく日常商用オペレーションへ投入しています。
2025年11月にはFlowery Branch施設で、稼働中に累計10万個超のトートを移動したと公表しました。
Boston Dynamicsは2020年12月、ソフトバンクグループからヒュンダイ自動車グループへの株式売却時に11億ドルと評価されました。
2026年1月5日には製品版Atlasの生産をボストン本社で開始し、2026年配備分をHyundai RMACとGoogle DeepMindへ出荷する計画を発表しています。
DHLとは2025年5月、Stretchを世界で追加1,000台超配備するMOUを締結しました。
Apptronikは2026年2月、TechCrunchの報道でシリーズA-Xの調達額5.20億ドル、ラウンド後評価額約53億ドルとされています。
2024年3月にメルセデス・ベンツの製造施設でApolloを試験する初の公表済み商用配備契約を結び、2025年2月にはJabilと生産・組み込みのパイロット協業を発表しました。
そしてAgility Roboticsについては、2026年7月13日にForm S-4の草案がSECへ提出されました。
ただし非公開提出です。
監査済みの財務諸表がここに入りますが、公開時期は未定です。
公開されているのは、7月上旬にSECへ提出されたForm 425に載った情報です。
企業価値25億ドル、調達見込み6.20億ドル超、そして受注済みの複数年RaaS契約が約1,000台分で3億ドル超。
生産拠点はオレゴン州セイラムの7万平方フィートの施設です。
ここで注意が要ります。
この書類に売上高は書かれていません。
一部の報道は直近12か月の売上を約3,700万ドルとしていますが、これはSEC提出書類に出てくる数字ではなく、報道側の推計です。
受注残3億ドルと売上高を並べて倍率を出すと、分母の性質が違うものを混ぜることになります。
参考までに、ノルウェー登記の1X Technologies ASは、全法人に年次決算の公開提出義務がある国にあるため数字が出ます。
2024年12月期の売上高は1,520万ノルウェークローネ、およそ2億円強、従業員98名。
家庭用NEOのEarly Access価格2万ドル、優先配送2026年開始という計画の、その前年の姿です。
計画と実績を、必ず分けて読む
ここで、この分野を読むときにいちばん事故が起きる場所を潰しておきます。
各社が公表している量産計画を合計してみます。
Teslaが第1世代ライン年100万台、第2世代ライン長期年1,000万台。
Figure AIがBotQ第1世代ライン年1万2,000台。
Agility RoboticsがRoboFabで初年度数百台、将来は年1万台超。
ヒュンダイはBoston Dynamics向けに年産3万台の新工場を計画し、グループ工場へ数万台を配備する方針です。1Xはカリフォルニア州ヘイワードのNEO工場で年1万台の能力を備えるとしています。
合計すれば、年間数百万台から1,000万台規模の計画が並びます。
では実績はどうか。
Figure AIは2026年4月29日時点で、BotQでのFigure 03の累計生産が350台超。
1Xは2026年4月30日にフル生産を開始したものの、生産中の機体は社内テストを優先していると自ら述べています。
Agility RoboticsのGXO案件は累計10万個超のトート移動という稼働実績で、台数規模は公表されていません。
そして中国側で最も出ている宇樹科技が、2025年の年間5,511台です。
計画は年間数百万台、実績は年間数千台。桁が3つ違います。
計画は「そういう設備を設計した」という意味であって、その台数を売る契約があるという意味ではありません。ここを混ぜると、市場規模の見積もりが丸ごとずれます。
MOUについても同じです。1XとEQTの枠組みは2025年12月の報道で、2026年から2030年に最大1万台をEQT投資先が利用可能にするものであって、個社の導入確約ではないと明記されています。

中国勢——量産で先行、しかし需要の中身が違う
ここが今回いちばんの発見でした。
UBTECH(優必選)から見ます。
2025年12月期の売上収益は20.0億元、前期比プラス53.29パーセント。
フルサイズの具身知能ヒューマノイド製品・サービスが8.21億元で、全社の41.01パーセントを占めます。
同社は2023年12月に香港証券取引所メインボードへ公募価格1株90香港ドルで上場しました。
Walker S2は3分以内の自律電池交換と二重電池構成による24時間連続運転を仕様として掲げ、2025年に1,000台規模で小規模量産・納入したと年報で報告しています。
2026年7月には日立中国と組み、日立エレベーターの製造現場へ導入して現場検証を開始しました。
ただし営業利益率はマイナス38.94パーセント。当期の親会社株主帰属損失は7.03億元で、実績PERは算出できません。
対照的なのが宇樹科技(Unitree)です。
同社は上海証券取引所の科創板に上場を申請しており、招股説明書が2026年3月20日に開示されました。上場申請企業なので、財務が全部見えます。
2025年12月期の営業収入は16億9,927万元。2023年が1億5,913万元、2024年が3億9,277万元だったので、2年で約10.7倍です。
そして親会社株主帰属純利益は2億7,821万元。純利益率16.4パーセントで黒字です。
主営業務の売上総利益率は60.13パーセントで、2023年の44.22パーセント、2024年の56.74パーセントから上がり続けています。
ヒューマノイドの売上は8.68億元で主営業務収入の51.78パーセント、四足ロボットが6.98億元で41.62パーセントでした。
そして2025年のヒューマノイド出荷台数は5,511台です。
2024年は412台だったので、1年で13倍以上に増えました。
出荷台数の世界1位という位置づけは、公開資料と第三者データを総合した判断とされています。
同じ中国のヒューマノイド企業が、片方は営業赤字38.94パーセント、片方は純利益率16.4パーセントの黒字。層でひとくくりにできないことが、ここだけでも分かります。
上場が変えるのは、議論の土台です
宇樹科技の発行条件も見ておきます。
新株4,044万6,434株を公開発行し、発行後の総株本は4億446万4,340株。
公開比率はちょうど10パーセントです。
募集資金は42億171万元の予定。
初歩询価が2026年8月5日、ネットとオフラインの申購が8月10日、払込期限が8月12日。
証券コードは688836です。
予定募集額と公開比率から逆算すると、発行価格は1株あたり約104元、発行時価総額は約420億元になります。
ただしこれは予定額からの逆算であって、確定値ではありません。
機関投資家の予測では1,000億元規模に届く可能性があるとも報じられています。
ここで大事なのは株価そのものではありません。
これまで中国のヒューマノイドについて語られてきたことの大半は、伝聞と推計でした。
安いらしい、速いらしい、たくさん作っているらしい。
価格を公開しているのはUnitreeだけで、他社は製品ページにも年報にも載せていません。
上場すれば、四半期ごとに監査済みの数字が出ます。売上、原価、粗利、用途別構成。中国のヒューマノイド事業が本当に儲かるのかどうかを、決算で検証できるようになります。
この記事で使えた宇樹科技の数字も、上場申請という制度がなければ手に入りませんでした。制度開示は、議論の土台を変えます。
中国勢はほかにも動いています。
Galbot(銀河通用)は2025年9月時点で北京の店舗に150日超常駐して数万件の配送注文を処理し、同年6月にはBosch系のBoyuan Capitalと精密組立などの産業用途で合弁を発表しました。
AgiBot(智元機器人)は2025年1月に累計生産1,000台へ到達しました。
2026年4月にはLongcheerのタブレット量産ラインへG2を複数導入し、1時間最大310台、連続運転成功率99パーセント超を記録したと共同発表しています。
同社は2025年8月、LG ElectronicsとMirae Assetを投資家に含む戦略的資金調達を完了しましたが、調達額と評価額は開示していません。
2024年10月には29関節と2グリッパーを持つX1について、BOM・CAD図面・学習推論コードをオープンソースとして公開しています。
Fourier(傅利葉)は2025年8月、身長165センチ・最大55自由度の介護・対人サービス志向ヒューマノイドGR-3を発表しました。
TrendForceは2026年4月、中国のヒューマノイド年間生産量が2026年に最大94パーセント増え、宇樹科技とAgiBotが合計出荷の約80パーセントを占めると予測しています。
5,511台の中身——ここで通説が崩れます
しかし、招股説明書にはもうひとつ数字がありました。
2025年1月から9月までのヒューマノイド製品の売上を用途別に見ると、科研教育が4.38億元で73.60パーセント、商業消費が17.39パーセント、そして行業応用、つまり実際の産業現場への導入が9.01パーセントです。
台数ではなく金額の内訳です。
世界最大のヒューマノイド出荷企業の売上の7割超が、研究機関と教育機関から来ていました。
商業消費の17.39パーセントも、店頭展示や文化観光イベントでの展示利用が多いとされます。
工場や倉庫で実際に働かせるために買われた分は、金額で1割に届きません。
中国が量産で先行しているというのは事実です。
ただしその量産は、現時点では研究用途に向いた量産です。
フィジカルAIの実装フェーズは、まだ始まっていない。
世界一の出荷実績を持つ会社の内訳が、それを示しています。
この一点は、L4の赤字とも整合します。実装が始まっていないなら、実装層が回収に入れていないのは当然です。

なお、この用途分類は同社の定義であり、他社と同じ基準ではありません。それでも、業界全体の需要構成を推し量る手がかりとしては、現時点でほぼ唯一の公開データです。
価格は、一方向に下がっていない
中国勢の話でもうひとつ、よく誤解される点があります。価格破壊です。
Unitreeは2024年7月にG1を1万6,000ドルからで出し、2025年7月にはR1 AIRを4,900ドル、R1を5,900ドルから販売しました。
1年で入門価格帯が半額以下になった計算です。
いずれも税・送料は含みません。
ここまでを見ると、ヒューマノイドの価格は急速に下がっているように読めます。
ところが同じ会社が、2026年6月にH2 Plusを発表し、公式ストアでの表示価格は10万ドルです。
R1の10倍を超えます。
NVIDIA Isaac GR00T開発基盤上の初のヒューマノイド参照設計という位置づけで、購入には営業担当への連絡を求めています。
つまり起きているのは全製品の値下がりではなく、価格帯の拡張です。下に伸ばして裾野を取り、上に伸ばして研究用途の単価を確保する。
なお中国のヒューマノイド各社の販売価格は、UBTECHのWalker S2もGalbotのG1もAgiBotの各シリーズもFourierのGR-2・GR-3も、公式製品ページで確認できませんでした。
価格を出しているのはUnitreeだけです。
「中国勢が安い」という一般化は、公開情報の範囲では1社の話です。
日本の生産シェアは、45パーセントから38パーセントへ
前回の記事で、日本が世界のロボット生産の45から46パーセントを占めると書きました。
今回あらためて国際ロボット連盟(IFR)の公表を追ったところ、45パーセントというのは2020年実績にもとづく2022年3月10日のリリースの数字でした。
2025年7月15日の最新リリースでは38パーセントです。
つまりこれは矛盾ではなく、低下です。
台数そのものは出ています。日本ロボット工業会は2026年6月1日、サービスロボットを除く2025年暦年の会員・非会員合計の生産実績を20万7,004台、9,453億円と公表しました。
それでも世界に占める比率は下がりました。
同じ期間に、中国国内の産業用ロボット販売で中国メーカーのシェアは2023年の47パーセントから2024年の57パーセントへ上がり、初めて外資を上回っています。
中国の年間設置台数自体も2024年に29万5,000台の過去最高を記録し、前年比プラス7パーセントでした。
市場が縮んだから外資のシェアが落ちたのではありません。市場が広がるなかで、現地勢に取られています。

L3周辺——「上流の部品だから高収益」は成立しません
ここが本記事の反証パートです。
半導体の世界では、スマイルカーブという言い方をします。バリューチェーンの上流(設計・材料)と下流(サービス・ブランド)に利益が溜まり、中流の組立は薄くなるという形です。
フィジカルAIでも同じことが起きる、という読みは自然です。ロボット本体の組立は競争が激しくなり、上流の減速機やセンサに利益が残る。日本勢が強いのはまさにその上流だ、と。
数字で確かめます。日本の精密部品3社の直近通期の営業利益率です。
ナブテスコ(2025年12月期、IFRS)が6.73パーセント。
THK(2025年12月期、IFRS)が6.00パーセント。
ハーモニック・ドライブ・システムズ(2026年3月期、日本基準)が4.31パーセント。
同じ期間の本体メーカー、ファナックは21.42パーセントです。
3社とも、本体メーカーを下回っています。
売上総利益率で見ても同じです。
ナブテスコ30.46パーセント、THK29.32パーセント、ハーモニック30.45パーセント。
3社はほぼ同じ水準に固まっています。
そしてNVIDIAは71.1パーセント、キーエンスは83.02パーセントです。
上流にいるかどうかは、利益率を決めていません。
しかも、この3社が弱い会社だというわけでもありません。
ナブテスコは統合報告書で、中大型産業用ロボットの関節用途の精密減速機について世界シェアを自社推計約60パーセントと開示しています。
精密減速機の売上は786億円で、全社の25.53パーセントです。
世界シェア6割を持ちながら、営業利益率は6.73パーセント。シェアと利益率は、別の話です。
では何が決めているのか——キーエンスという反例
同じロボットの周辺部品の枠にいながら、まったく違う数字を出している会社があります。
キーエンスの2026年3月期は、売上高1兆1,693億円、営業利益率50.95パーセント、売上総利益率83.02パーセント、前期比プラス10.40パーセント。
今回の13社でNVIDIAに次ぐ収益性です。
キーエンスもロボットやフィジカルAI向けの売上を分離開示していません。
有価証券報告書のセグメント情報を確認しても、その区分は存在しませんでした。
つまり、この83パーセントがロボット由来だとは言えません。
それでも比較の意味はあります。減速機3社とキーエンスの違いは、層ではないからです。
どちらもロボット本体には入らない部品側にいます。違うのは商売の形です。
キーエンスはファブレスで自社生産設備を持たず、代理店を挟まない直販で、顧客の課題に合わせて値付けをします。
減速機とLMガイドは、ロボットメーカーの設計に組み込まれる部品で、量産品として単価が決まっていきます。
同じ上流でも、値段を自分で決められる側と、相手の設計に従う側では、粗利が50ポイント以上ちがう。これが今回の数字が示していることです。
利益は層では決まりません。値付けを握れるかどうかで決まります。

THKの赤字を誤読しないために
ここでひとつ、注記が要ります。
THKの2025年12月期は、親会社の所有者に帰属する当期損失が698億91百万円で、実績PERは算出できません。この一点だけを見ると、経営が傾いているように読めます。
実際は違います。
同社は輸送機器事業を非継続事業に分類し、連結子会社の株式譲渡と債権譲渡にともなう事業整理損失816億39百万円を計上しました。
継続事業の営業利益は144億36百万円で、営業利益率は6.00パーセントの黒字です。
一過性の事業整理による最終赤字であって、本業が赤字なのではありません。
数字を並べるときは、こういう範囲の違いを潰しておかないと、まるごと誤読します。
同じことはナブテスコにも当てはまり、同社は売上高と営業利益が継続事業ベース、親会社利益が継続事業と非継続事業の合算なので、利益率とPERで分母の範囲が違います。
過去の類推——EVとスマートフォンでは何が起きたか
いま起きていることが初めてなのかどうか、2つの先例を置きます。ただし類推であって証明ではありません。
ひとつはEVです。
Teslaの営業利益率は4.59パーセントで、NVIDIAの60.38パーセントとキーエンスの50.95パーセントを大きく下回ります。
完成車という最も目立つ位置にいる会社より、そこに部品を供給する半導体とセンサの会社のほうが高収益でした。
もうひとつはスマートフォンです。
世界銀行が2014年に公表した推計では、iPhone 5sの平均小売価格649ドルのうち、中国での組立費は8ドルにとどまり、ソフトウェア・ライセンス・流通などを担う米国側の捕捉額は450ドルとされています。
これは旧世代のスマートフォンについての推計で、現在のiPhoneやロボットの原価構成を直接示すものではありません。企業の財務ではなく製品の価値配分の推計です。
それでも、組み立てる場所と価値が溜まる場所は一致しないという構図は、繰り返し観測されています。
L4——現場実装層は、9期連続で赤字です
最後の層です。
最終的に儲かるのは現場のデータを握った会社だ、という読みがあります。ロボットを売って終わりではなく、動かし続けて、そこで生まれるデータで賢くしていく。だから運用層が長期の利益源泉になる、と。
実績のほうは、確かに積み上がっています。
ラピュタロボティクスは、2020年7月のPA-AMR商用化以降の累計出荷支援数が2024年5月末時点で5,000万ピースを突破したと公表しました。
2025年10月には、NX小牧流通センターで稼働3か月後に出荷工程の生産性が1時間あたり42.9件から110.8件へ上がったと発表しています。
ハマキョウレックス高丘西センターでは従来のカートピッキング比で約1.5倍でした。
Mujinは2024年12月、混載ケースのデパレタイズ設備が持続処理能力500ケース毎時を達成したと公表しました。
2024年9月には大手小売業者の物流拠点で、ロボットセル1基あたり最大660ケース毎時を処理したとしています。
同社は2024年1月、アクセンチュアと合弁会社Accenture Alpha Automationを設立しました。
持分はアクセンチュア70パーセント、Mujin30パーセントです。
コンサルティング会社が7割を持つ座組みは、この層の商売の本体が機械ではなく統合であることを示しています。
Telexistenceは2022年8月、AIロボットTX SCARAをファミリーマート300店舗へ量産導入し、1店舗1台が人手作業を1日1から3時間代替できると公表しました。
2025年6月にはPhysical Intelligenceと組み、店舗稼働ロボットのテレオペレーションデータでVLAモデルを学習して、例外復旧を自律化する提携を開始しています。
Amazonは2025年6月、世界300超の施設で稼働するロボット群の100万台目を日本のフルフィルメントセンターへ配備し、生成AI基盤モデルDeepFleetがロボット群の移動時間を10パーセント改善すると発表しました。
ここで、見落とされがちな数字を挟みます。
同社は同じ2025年6月、2024年に開設した米シュリーブポートの次世代物流拠点について、高度なロボティクスにより信頼性・保守・技術職が30パーセント多く必要になったと公表しています。
ロボットを入れると人が減る、という単純な話にはなっていません。動かし続けるための人が、別の職種として必要になります。この人件費もまた、実装層の費用です。
では、利益はどうか。
官報が答えを持っていました
RaaS事業の粗利率を公式に開示している会社は、確認した範囲でありませんでした。Telexistenceもラピュタロボティクスも、そこは出していません。
ただし日本の会社なので、最終損益は決算公告に出ます。
ラピュタロボティクス株式会社の第12期、2025年12月期。
当期純損失15億1,107万円。
利益剰余金はマイナス127億9,958万円。
総資産75億2,960万円。
官報掲載日は2026年6月5日です。
そして各期をさかのぼると、こうなります。
2017年12月期からマイナス6億3,781万円、5億6,628万円、6億3,877万円、6億8,389万円、12億834万円、23億6,703万円、20億5,588万円、24億7,548万円、そして2025年12月期の15億1,107万円。
確認できる9期すべてが当期純損失でした。
Telexistence株式会社は、官報決算データベースで確認できる最新が2022年8月期で、当期純損失5億2,905万円、利益剰余金マイナス18億3,593万円です。
それ以降の期は確認できませんでした。
電子公告へ移行している可能性があるので、公告していないと断定はしません。
導入実績は本物です。生産性が2.6倍になった現場も、5,000万ピースの出荷支援も、実際に起きています。それでも最終損益は9期続けて赤字でした。
現場データを握る層が長期の利益源泉になるという読みは、少なくとも現時点の日本のRaaS事業者の損益では、裏づけられていません。
なぜ費用が先に出るのか——SIerという構造
この赤字には、構造的な理由があります。
経済産業省は2018年版のものづくり白書で、産業用ロボットは単体では自動化できず、ハンド・プログラム・センサー・周辺設備を統合するロボットSIerが必要だと整理しました。
同白書に載ったロボットSI業務144社の回答では、90パーセント以上がロボットシステムエンジニアの不足を感じ、約60パーセントが採用状況に不満を感じています。
ロボットを現場で動かすには、必ず人が要ります。そしてその人が足りません。
RaaSモデルは、この統合コストを顧客ではなくサービス提供者が引き受ける形です。
ラピュタロボティクスは2021年10月、初期費用なしでPA-AMRを使い始められるプログラムを開始し、有料の初期検証には投資対効果を保証するオプションまで付けました。
顧客のリスクを引き取るということは、自社が先に払うということです。累積損失127億9,958万円は、その構造の帰結です。
導入が増えるほど、先に費用が出ます。累積損失が128億円まで膨らんだのは、実装が進んでいないからではなく、進めているからだとも読めます。
その回収が始まるのかどうかは、この記事の時点では分かりません。分からないと書いておきます。
なおTelexistenceは2025年8月、顧客仕様のロボット動作データセット生成サービスを2026年1月に開始すると発表しました。
料金はデータセット時間数とタスク複雑度の積にもとづきます。
現場を持つ側がデータを商品化する動きで、これが回収の入口になるかは今後の開示待ちです。

13社を1枚に並べる
ここまでの数字を、収益性の順に並べます。すべて全社の値であり、フィジカルAI事業単独の利益率ではありません。会計基準と決算期も社ごとに異なります。
| 層 | 会社 | 決算期 | 営業利益率 | 売上総利益率 |
|---|---|---|---|---|
| L1 | NVIDIA | 2026年1月期 | 60.38% | 71.1% |
| L3周辺 | キーエンス | 2026年3月期 | 50.95% | 83.02% |
| L3 | ファナック | 2026年3月期 | 21.42% | 開示なし |
| L3 | 安川電機 | 2026年2月期 | 8.73% | 開示なし |
| L3周辺 | ナブテスコ | 2025年12月期 | 6.73% | 30.46% |
| L3周辺 | THK | 2025年12月期 | 6.00% | 29.32% |
| L3 | Tesla | 2025年12月期 | 4.59% | 開示なし |
| L3周辺 | ハーモニック | 2026年3月期 | 4.31% | 30.45% |
| L3 | 川崎重工業 | 2026年3月期 | 算定不能 | 開示なし |
| L3 | 宇樹科技 | 2025年12月期 | 非開示(純利益率16.3%) | 約60% |
| L3 | UBTECH | 2025年12月期 | -38.94% | 開示なし |
| L2 | Preferred Networks | 2025年6月期 | 非開示(最終損失78億円) | 開示なし |
| L4 | ラピュタロボティクス | 2025年12月期 | 非開示(最終損失15億円) | 開示なし |
川崎重工業の営業利益率が算定不能なのは前述のとおりです。
宇樹科技、Preferred Networks、ラピュタロボティクスは営業利益率が開示されていないため、代わりに確認できた最終損益を括弧で示しました。

この表を層の順に並べ替えても、きれいな山にはなりません。
L1が一番上にいるのは確かですが、2位はL3周辺のキーエンスで、同じL3周辺の3社は下から数えたほうが早い。L3のなかでも21.42パーセントからマイナス38.94パーセントまで開いています。
層で説明できていません。
市場が賭けている場所と、利益が出ている場所
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
同じ2026年7月31日終値時点で、バリュエーションを並べます。時価総額は同日終値ベース、PSRとPERは直近通期の実績で計算した参考値です。
用語だけ先に。
PSRは時価総額を売上高で割った倍率です。
PERは時価総額を最終利益で割った倍率で、利益がまだ小さい会社や赤字の会社では使えないため、売上で割るPSRのほうが比較しやすい場面があります。
どちらも「市場がこの会社にいくら払っているか」を、売上または利益の何倍かで表したものです。
| 会社 | 時価総額 | PSR | 実績PER | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| NVIDIA | 4兆8,624億ドル | 22.52倍 | 40.50倍 | 60.38% |
| キーエンス | 19兆6,809億円 | 16.83倍 | 44.21倍 | 50.95% |
| ファナック | 6兆6,581億円 | 7.76倍 | 39.98倍 | 21.42% |
| 川崎重工業 | 2兆4,126億円 | 1.04倍 | 22.31倍 | 算定不能 |
| Tesla | 1兆2,291億ドル | 12.96倍 | 323.97倍 | 4.59% |
| 安川電機 | 1兆2,623億円 | 2.33倍 | 35.82倍 | 8.73% |
| THK | 7,509億円 | 3.12倍 | NM | 6.00% |
| ハーモニック | 5,813億円 | 9.76倍 | 361.28倍 | 4.31% |
| ナブテスコ | 5,499億円 | 1.79倍 | 35.04倍 | 6.73% |
| UBTECH | 410億香港ドル | 算定不能 | NM | -38.94% |
NMは最終赤字のため算出しないという意味です。
UBTECHのPSRを算定不能としたのは、時価総額が香港ドル建て、売上が人民元建てで、両者を同じ通貨に揃えるための市場日の為替を一次資料で確定できなかったためです。
割り算自体はできますが、それはPSRではありません。
減速機2社の、5倍以上の差
この表でいちばん奇妙な組み合わせを取り出します。
ナブテスコとハーモニック・ドライブ・システムズ。どちらも産業用ロボットの関節に入る精密減速機のメーカーです。
ナブテスコは、中大型産業用ロボットの関節用途の世界シェアを自社推計約60パーセントと開示しています。営業利益率6.73パーセント。そのPSRは1.79倍です。
ハーモニックの営業利益率は4.31パーセント。ナブテスコより低い。世界シェアについては、同社の一次資料で数値を確定できませんでした。そのPSRは9.76倍、実績PERは361.28倍です。
同じ減速機で、市場の値付けは5倍以上ちがいます。
理由は用途です。ナブテスコの主戦場は中大型の産業用ロボット、つまり既存の成熟した市場です。ハーモニックの波動歯車減速機は小型・協働ロボット向けで、ヒューマノイドの関節に使われるのはこちら側です。
市場は「フィジカルAIの利益は小型減速機に来る」と賭けています。実績営業利益率4.31パーセントの会社に、PSR9.76倍という値段をつけて。
これが賭けとして正しいかどうかは、私には分かりません。分かるのは、その値付けが実績ではなく期待にもとづいているということだけです。
そしてもうひとつ。
中国メーカーの現地シェア上昇は、減速機側にも及びつつあります。
ハーモニックが自社の投資家向け資料でMIRの推計を引用し、中国の産業用ロボット出荷に占める現地メーカー比率が2023年から2024年に過半へ上昇したと示しています。
関節部品の需要が伸びる場所と、それを取る会社が同じとは限りません。
3つのグループに分かれます
同じ見方を13社に広げると、はっきり3つに分かれます。
利益が実際に出ている場所。
NVIDIAとキーエンス。
営業利益率50パーセント超、粗利率70パーセント超。
そして両社ともフィジカルAI専用の売上を開示していないので、この利益がフィジカルAI由来だという証拠もありません。
期待だけが先に値付けされている場所。
ハーモニック(PSR9.76倍、営業利益率4.31パーセント)、Tesla(実績PER323.97倍、営業利益率4.59パーセント)、そして営業赤字38.94パーセントで時価総額410億香港ドルがついているUBTECH。
宇樹科技もこの群に入ります。募集予定額42億171万元を公開比率10パーセントで逆算した発行時価総額が約420億元で、これに対する2025年の売上が16億9,927万元だからです。
期待も実績も乗っていない場所。
ナブテスコ(PSR1.79倍)、川崎重工業(PSR1.04倍)、安川電機(PSR2.33倍)。
そして数字が出ないL2のPreferred Networksと、L4のラピュタロボティクスです。
この3つのグループは、4層のどれとも一致しません。
L3周辺の精密部品は、期待群のハーモニックと冷めている群のナブテスコに割れました。L3の本体は、期待群のTesla・UBTECH・宇樹科技と、冷めている群のファナック・安川・川崎重工に割れました。
層は、利益の在りかを説明していません。
この分かれ方には、もうひとつ読みどころがあります。3つのグループの境目が、フィジカルAIへの関与度と一致していないことです。
ファナックはフィジカルAI関連用途向けのロボットを1,000台超出荷し、GR00T NもGemini Enterpriseも実装しています。
安川電機は長期経営計画の方針の筆頭にフィジカルAI市場の開拓を置きました。
川崎重工業は米国に専用拠点を作りました。
3社とも、この分野に明確に張っています。
それでもPSRは1.04倍から2.33倍です。市場は、この3社の張りをフィジカルAIの成長として評価していません。既存の産業用ロボット企業として値付けしています。
逆に、ハーモニックはフィジカルAI向けの売上を1円も分離開示していません。それでもPSR9.76倍です。
同じ現象を、別の角度から言い換えます。
市場が高く買っているのは、フィジカルAIで実際に稼いでいる証拠ではなく、稼ぐ余地がまだ数字に現れていないことのほうです。
既存事業が大きい会社は、その既存事業の利益率で評価されてしまう。
FP&Aの実務では、これは新規事業を既存事業の中に埋めておくか、切り出すかという論点そのものです。切り出せば評価は変わりますが、切り出せるほどの規模になるまでは切り出せません。

では、何が利益を決めているのか
3つの条件に絞れました。
条件1——値付けを自分で握れるか
いちばん効いています。
キーエンスは直販で顧客ごとに値付けし、粗利83.02パーセント。
NVIDIAは開発環境ごと押さえ、粗利71.1パーセント。
ハーモニックとTHKとナブテスコは、ロボットメーカーの設計に組み込まれる部品として量産単価が決まり、粗利は30パーセント前後で3社ともほぼ同じところに落ちています。
同じ上流の部品でも、この差です。上流か下流かではなく、値段を言い出す側にいるかどうか。
では、値付けを握るとは具体的に何をしていることなのか。今回の13社を見ると、3つの型がありました。
ひとつめは、顧客の課題ごとに値段を変える型です。キーエンスの直販がこれにあたります。同じ製品でも、それが顧客のどんな損失を防ぐかで価値が変わるので、原価の積み上げから離れた値付けができます。
ふたつめは、環境ごと押さえる型です。
NVIDIAの3コンピュータがこれです。
単体のチップなら比較され値切られますが、学習環境とシミュレーションと基盤モデルと安全規格まで含めた一式には、比較対象がありません。
Isaac Simを開いてOmniverse Kitを閉じたのは、この構造を作るための線引きです。
みっつめは、仕様そのものを規定する型です。
ナブテスコが中大型産業用ロボットの関節で世界シェア約60パーセントを持つのは、実質的にこれに近い。
ただし同社の営業利益率は6.73パーセントで、シェアが値付け力に変換できていません。
3つめの型が効かないのは、相手が寡占のロボットメーカーだからだと考えられます。買い手が少なく、しかも大きい。シェアを持っていても、交渉の相手が数社しかいなければ価格は削られます。
上流にいることと、値段を言い出せることは別です。この記事で繰り返し出てきた30パーセント前後の粗利率は、その帰結として読めます。
L2の基盤モデル層が苦しいのも、同じ理屈で説明がつきます。売り先がL3で、そのL3の利益率が薄いからです。薄い相手から厚く取る商売は成立しにくい。
条件2——需要が研究段階か、実装段階か
宇樹科技の用途別内訳が示したのがこれです。ヒューマノイド製品売上の73.60パーセントが科研教育で、行業応用は9.01パーセント(2025年1月から9月)。
研究向けの需要は、台数は出ますが単価と継続性が実装用途とは違います。そして研究予算は景気と政策で動きます。5,511台という世界一の数字を、実装が始まった証拠として読むと、見誤ります。
実際の商用オペレーションに入っている事例はあります。
Agility RoboticsのGXO案件、Boston DynamicsのDHL向けStretch、UBTECHと日立エレベーターの製造現場、AgiBotとLongcheerのタブレット量産ライン。
ただし規模はまだ小さい。Boston DynamicsとDHLが2025年5月に締結したのも、追加1,000台超の配備に向けたMOUです。
条件3——費用を先に引き受けているのは誰か
L4の9期連続赤字が示したのがこれです。
ロボットを現場で動かし続けるコストは、誰かが持ちます。RaaSモデルでは、それを引き受けるのがサービス提供者です。SIerの人材が構造的に不足しているぶん、その負担はさらに重くなります。
同じことは基盤モデル層でも起きています。Preferred Networksの2025年6月期の最終損失78億4,300万円は、モデルと専用プロセッサに先行投資している姿です。
利益がまだ出ていない層は、怠けているのではありません。実装の費用を先に引き受けている層です。
そして投資家の値付けは、この構造を必ずしも反映していません。
費用を先に払っている層は未上場で、値付けの対象になっていないからです。
上場している会社だけを見て利益プールを語ると、この部分が視野から落ちます。
この見立てが外れるとしたら
自分の読みに反証条件をつけておきます。つけない主張は、あとから何とでも言えてしまうからです。
この記事の見立ては2つです。フィジカルAIの利益プールはまだ形になっていない。そして利益を決めるのは層ではなく値付けの主導権である。
これが崩れる筋は、3つ考えられます。
ひとつめ。
本体層の利益率が上がる場合です。
宇樹科技の純利益率16.4パーセントが一過性ではなく、規模の拡大とともに他社も追随するなら、本体組立に利益が残ることになります。
中流は薄いという前提そのものが変わります。
ふたつめ。
基盤モデル層が課金の形を見つける場合です。
いまはロボットメーカーへの提供が中心で、単価も従量課金の水準です。
もしロボット1台あたりの継続課金が定着し、稼働台数に比例して積み上がるなら、L2は薄利の相手からでも面で取れるようになります。
みっつめ。
現場実装層が黒字転換する場合です。
ラピュタロボティクスの累積損失が減り始めるか、Telexistenceのデータ販売のような二次収益が立ち上がれば、費用を先に払う層が回収に入ったことになります。
逆に、この見立てが強まるのは次のときです。
宇樹科技の用途別構成で行業応用の比率が上がらないまま台数だけ伸びる場合。
そして精密部品3社の粗利率が30パーセント前後に張りついたまま、ハーモニックのPSRだけが上がり続ける場合です。
どちらに転ぶかは、これから数四半期の決算で分かります。この記事は、その答え合わせのための定点にしてください。
日本勢は、どこに立っているのか
日本の読者として、いちばん知りたいのはここだと思います。整理します。
持っているものは3つあります。
産業用ロボットの実績(ファナックのロボット部門3,786億円、安川のロボット事業2,470億円)、関節と目にあたる部品(ナブテスコの世界シェア約60パーセント)、そして現場のオペレーション(ラピュタ、Telexistence、Mujin)。
4層のうち3層に、実物を持っています。これは米中を含めても多いほうです。
持っていないものは2つです。
ひとつは値付けの主導権。部品3社の粗利率が30パーセント前後に揃っているのは、価格が相手の設計で決まっているからです。実績も技術もあるのに、利益率がそこで頭打ちになります。
もうひとつは基盤モデル層の厚み。Preferred Networksという実力のある会社はありますが、単体の最終損益は安定していません。
そして前回の記事で見たFRONTiaとNoetraは、まさにここを国として埋めにいく取り組みです。
前回の要点だけ振り返ります。
FRONTiaは経済産業省とNEDOの「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」で、開発枠を担うNoetraには44社が出資し、Preferred Networksの岡野原氏が共同研究開発を統括します。
初年度の予算計上は3,873億円です。
この地図で言えば、国が張ろうとしているのはL2です。日本が持っていない層に、公的資金で厚みを作ろうとしている。
そして今回の数字は、その判断が的を外していないことを示しています。
L2は世界的にまだ誰も儲かっていない層で、だからこそ民間だけでは張りにくい。
Preferred Networksの2025年6月期の最終損失78億円は、そのことを日本の会社の決算で示した数字でした。
ただし、国が埋められるのは層の存在であって、値付けの主導権ではありません。基盤モデルが出来上がったあと、それを誰にいくらで売るのかは、また別の設計が要ります。
では、日本の部品勢が値付けの側に回る道はあるのか。今回の数字から言えることは限られますが、ひとつだけ手がかりがあります。
ナブテスコの精密減速機は、中大型産業用ロボットという買い手が寡占の市場で世界シェア約60パーセントを取りました。
一方、ヒューマノイドの関節に使われる小型・協働ロボット向けは、買い手がまだ定まっていません。
米国にも中国にも新興が乱立しています。
買い手が分散している市場のほうが、供給側の値付け力は残ります。
ハーモニックにPSR9.76倍がついているのは、市場がその可能性を織り込んでいるからだと読むこともできます。
実績営業利益率4.31パーセントとの落差は、その賭けがまだ検証されていないことを示しています。
キーエンスという例外が、示唆を与えてくれます。
同社はロボット向けの売上を開示していないので、フィジカルAIの会社として扱うことはできません。
それでも、日本の会社が粗利83パーセントを出せることを証明しています。
違いは技術ではなく、売り方でした。作ったものを相手の設計に納めるのではなく、相手の課題に対して自分で値段をつける。この差が50ポイントです。
日本勢がフィジカルAIで利益を取れるかどうかは、より良い部品を作れるかではなく、値付けの側に回れるかで決まります。少なくとも今回の13社の数字は、そう言っています。
調査を締めた週に、何が起きていたか
ここまでの数字は、2026年7月20日までに公開された情報で組み立てました。その最後の4日間だけを取り出すと、この分野の速さが分かります。
7月17日。
ABEJAが、Noetraらが進める国産マルチモーダル基盤モデルの研究開発への参画と、自社データサイエンティストのNoetraへの出向を発表しました。
前回の記事で追った国家プロジェクトに、実務者が入り始めています。
同じ日、ソニーグループが東京大学とカリフォルニア大学バークレー校の研究室へ、研究開発用aiboの試作機とベータ版開発ツールを提供すると発表しました。
同じ日、AgiBotが豪州とニュージーランドの現地パートナーとRaaSを共同で開始しました。対象は鉱業、商業清掃、研究教育、文化娯楽です。中国勢が中国国外で運用サービスを始めた点が新しい。
同じ日、米Hyperscale Dataが子会社のOPR-R2を143台発注済みで、うち最大100台をミシガン州のAI施設へ設置する見込みと発表しました。最初の1台は前日に組み立てられています。
同じ日、Walden Roboticsが3億ドルを調達し、評価額11億ドルとなったことが法律事務所の公表で明らかになりました。Samsung Venturesが投資家に入っています。
7月18日。
AgiBotがWAIC 2026でA3 Ultra、X2 Edu、G2 Max、OmniHand 3 Ultra-Mの4製品を発表しました。
同日、Longcheer南昌工場のタブレット量産品質検査ラインについて、G2の統合を36時間で完了し、1シフト約3,000台、累計64時間超の連続稼働、停止時間損失4パーセント未満を記録したと発表しています。
7月20日。
Generative Bionicsが、触覚・近接・力・温度を検知する全身分布型の触覚皮膚を備えた完全機能型ヒューマノイドGene.01を発表し、ロボットモデルのオープンソース化を表明しました。
4日間で、国家プロジェクトへの企業参画、大学との共同研究、海外でのRaaS展開、新製品4種、量産ラインでの実運用データ、11億ドルの新ユニコーン、新しいセンシング方式のヒューマノイドが並びます。
発表の密度は、間違いなく高い。
ただし、この7件のうち収益に直結する数字が出ているものは、ひとつもありません。ラインの稼働率も、設置予定台数も、評価額も、すべて「これから」の話です。
この記事で見てきた構造が、そのまま繰り返されています。
前回の予告への回答
第1弾の末尾で3つ約束したので、それぞれ短く答えます。
NVIDIAのプラットフォーム戦略は、チップの性能勝負ではありませんでした。
学習環境とシミュレーションとエッジを一式で押さえ、Isaac Simは開いてOmniverse Kitは閉じ、Hugging Faceと組んで開発者1,300万人への入口を取りにいき、安全規格まで用意する。
CUDAで起きたことの再演を、ロボットで狙っています。
米中日の勢力図は、三極が同じ土俵で競っている図ではありませんでした。
日本は産業用ロボットの実績と部品供給を持ちながら、世界生産シェアが45パーセント(2020年実績)から38パーセント(2025年7月公表)へ下がりました。
中国は出荷台数で世界一に立ちながら、その7割超が研究教育向けです。
米国は数字を出さないまま、巨額の評価額がついています。
同じ市場を三極で分け合っているのではなく、それぞれ違うフェーズにいます。
利益がどこに溜まるのかは、まだ溜まっていない、が現時点の答えです。
溜まっているように見えるNVIDIAとキーエンスの高収益は、フィジカルAI由来だと証明できません。
両社ともその区分を開示していないからです。
いちばん正直な言い方をすると、こうなります。フィジカルAIの利益プールは、まだ形になっていません。今あるのは、そこに向けた値付けだけです。
だからこそ、これから数年のあいだに、どの会社が値付けの側に回るのかを見ておく価値があります。
まとめ:自分の事業に当てるための転用チェックリスト
このフレームは、フィジカルAIに限らず、新しい技術領域の利益構造を読むときにそのまま使えます。転用のためのチェックリストに落とします。
- その市場の売上を開示している会社が何社あるか数える。ゼロに近いなら、そこから先の議論はすべて全社値の代理でしかない。今回は13社中6社だった
- 層ではなく値付けの主導権で並べ替える。上流・下流の位置ではなく、価格を言い出す側かどうかで分類すると、粗利率の説明力が上がる
- 公表された計画と実績を、必ず別の列に置く。今回は計画の合計が年間数百万台、実績が年間数千台で、桁が3つ違った
- 需要の中身を用途別に割る。台数や導入社数の総量ではなく、研究向けと実装向けの比率を探す。この比率が実装フェーズの本当の進捗を示す
- 未上場企業でも制度開示を疑う。日本なら会社法440条の決算公告、上場申請中なら目論見書、SPACならS-4、ノルウェーなど登記所提出が義務の国なら年次決算。「非開示」で止めない
- 一過性損益と本業を分ける。最終赤字の理由が事業整理なのか本業なのかで、意味は正反対になる
- PSRと営業利益率を同じ表に並べる。期待だけが先に乗っている場所と、実績が出ている場所が一目で分かれる
- 費用を先に引き受けているのが誰かを特定する。その層の赤字は、失敗ではなく構造かもしれない
この8項目のうち、いちばん効いたのは5つめでした。
今回の調査で、当初はL2とL4の財務が手に入らず、「測れないので結論を保留する」と書くつもりでいました。
ところが官報の決算公告と上海の招股説明書を当たったところ、Preferred Networksも、ラピュタロボティクスも、宇樹科技も、数字が出てきました。
「非開示」は、その会社が発表していないという意味であって、どこにも存在しないという意味ではありません。
制度が開示を強制している経路が、必ずどこかにあります。
日本なら官報、上場申請中なら目論見書、SPACならS-4です。
新しい分野を追うとき、この差は決定的です。数字がないから語れないのか、探し方を知らないから語れないのかで、書けることの深さが変わります。
最後にひとつだけ、問いを置いて終わります。
あなたが見ている業界で、いちばん高い値段がついている会社と、いちばん利益を出している会社は、同じ会社ですか。
違うなら、その差額は誰が払うことになるのでしょうか。
この地図は、これから数四半期で答え合わせができます。
見るべき定点は3つです。
宇樹科技の上場後の決算で用途別構成がどう動くか。
日本の精密部品3社の粗利率が30パーセントの壁を超えるか。
そしてラピュタロボティクスの累積損失が減り始めるか。
そのどれかが動いたときに、また数字を並べ直します。
数値の前提と免責
本記事の市場データ(株価・時価総額・PSR・PER)は2026年7月31日終値時点のスナップショットです。
財務数値は各社の直近通期開示にもとづき、決算期・会計基準・連結範囲は社ごとに異なります。
営業利益率・売上総利益率・セグメント比率はいずれも全社または報告セグメントの値であり、フィジカルAI事業単独の収益性を示すものではありません。
未上場企業の数値は、日本の会社法440条にもとづく官報決算公告(単体)、上場申請書類、および各国の登記制度による開示にもとづきます。連結値ではないため、グループ全体の規模を示すものではありません。
PSRとPERは直近通期の実績値をもとにした参考計算であり、株式情報サイトが表示する予想ベースの数値とは一致しません。
最終赤字の企業についてはPERを算出せずNMと表記しています。
宇樹科技は本記事執筆時点で上場申請中であり、記載した発行条件は確定値ではありません。
時価総額はデータ提供者の取得値です。
このうち川崎重工業とTeslaについては、提供者が用いている株式数が、直近の提出書類にある自己株控除後の株式数よりそれぞれ約4.5パーセント、約5.3パーセント多くなっています。
提出後の発行によるものと考えられますが確認できていないため、この2社の時価総額とPSR・PERは他社よりやや高めに出ている可能性があります。
本文での位置づけ(川崎重工業は期待も実績も乗っていない群、Teslaは期待が先行している群)は、この幅では変わりません。
本記事に出てくる数値は、収集元・一次資料・照合ソース・算式まで台帳に記録したうえで、営業利益率や倍率の計算を独立に再検算してから使っています。
その過程で見つかった読み違えの危険(THKの最終赤字の要因、実績PERと予想PERの違い、日本のロボット生産シェアの年次)は、本文中でそのつど注記しました。
本記事は特定の有価証券の取得・売却を推奨するものではなく、投資助言を目的としたものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。