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エーザイ株式会社

【経済・医薬品】医薬品企業バリュエーション分析更新 2026-10-30

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 地域別の事業構成
  3. 収益ドライバーとコスト構造
  4. 2. 財務の実力
  5. 5期の業績・財務推移
  6. 財務指標と健全性チェック
  7. 運転資本と業績予想の確認
  8. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  9. 4. 同業比較 — 差分の論点
  10. 5. リスクと論点
  11. 6. バリュエーション統合と論点整理
  12. 評価倍率の差を生む条件
  13. 条件別シナリオ
  14. 監視ポイント
  15. M&A・出資検討の論点
  16. 7. 学びのポイント
  17. 着眼点1: 新製品売上と利益化を分けて読む
  18. 着眼点2: 製薬会社のNCは事業資産の代わりにならない
  19. 指標ポジショニング
  20. 参考情報
  21. 会社・ガバナンス
  22. 大株主(FY2026/3有価証券報告書)
  23. データ基準日の違い
  24. 出典

エーザイ株式会社(4523)銘柄分析レポート

エグゼクティブサマリー
  • 何で稼ぐ会社か: FY2026/3の売上収益は8,254億円。Lenvimaが3,425億円、Leqembiが880億円を占め、がん・神経領域の製品を世界各地で販売する(FY2026/3通期決算短信(資料名FY2025Q4))。
  • 財務の要点: FY2026/3は営業利益441億円、営業CF613億円、自己資本比率62.0%。有利子負債を引いた現金余剰は593億円だが、営業利益率は5.35%に留まる(EDINET DB、FY2026/3)。
  • 分析上の最大論点: Leqembiの患者導線が診断・投与・安全管理を通じて整い、成長売上が営業利益とキャッシュへ転換するかである。

注: 株価は未取得。倍率はFY2026/3期末基準で、2026-10-30の市場評価ではない。

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 医薬品業界基礎ガイド を参照。本レポートはエーザイ固有の製品構成、研究開発費、地域別販売と評価論点に絞る。

エーザイは認知症・神経領域とがん領域を柱に、医薬品の研究開発、製造、販売を行うグローバル製薬会社である。
FY2026/3売上収益8,254億円のうち、Lenvimaは3,425億円(前年比+4.3%)、Leqembiは880億円(+98.7%)、Dayvigoは643億円(+19.6%)、Fycompaは333億円(+11.6%)だった。
LenvimaとLeqembiの合計は売上の約52%に相当する。
販売数量・治療継続に加え、各国の承認、薬価、保険償還、共同開発先との商業条件が収益を動かす(出典: FY2026/3通期決算短信(資料名FY2025Q4))。

地域別の事業構成

地域 FY2026/3売上(億円) 構成比 売上前年比 セグメント利益(億円)
Americas 3,004 36.40% +7.97% 1,744
Japan 2,292 27.77% +5.99% 730
China 1,307 15.84% +13.16% 593
EMEA 815 9.88% +2.69% 304
East Asia Global South 688 8.34% +15.56% 302
Other 146 1.77% — 45

出典: EDINET DB「地域別セグメント」FY2026/3。
売上合計は丸めにより連結売上収益との差が生じる。
報告セグメント利益合計は3,718億円で、連結営業利益441億円とは一致しない。
連結調整・全社費用を含むため、各地域の利益率を連結利益率として読んだり、単純に連結営業利益へ足し引きしたりしない。

FY2026/3は中国とEast Asia Global Southの売上伸長率が高く、売上規模ではAmericasが最大である。地域分散は需要源を広げる一方、薬価・償還・為替・供給条件の差が残る。

収益ドライバーとコスト構造

主要販売先ごとの売上比率は確認した開示抜粋から特定できない。卸売業者・医療機関への供給や共同開発・販売契約があるが、社名や集中度は推定しない。

特許は期限付きの通行証に似る。満了後は後発品や薬価交渉で収益が細るため、次の製品候補は承認に加え、患者への到達、治療継続、利益・キャッシュへの寄与まで見て既存製品の代替力を測る。

2. 財務の実力

FY2026/3は売上収益が4.6%増えた一方、営業利益は18.8%減、親会社帰属利益は17.0%減だった。
売上拡大と利益成長が一致しない点が財務分析の入口となる。
営業利益率は5.35%で医薬品中央値を下回る。

5期の業績・財務推移

指標(百万円、EPS・DPSは円) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上収益 756,226 744,402 741,751 789,400 825,378
売上成長率 — −1.6% −0.4% +6.4% +4.6%
営業利益 53,750 40,040 53,408 54,378 44,138
営業利益率 7.11% 5.38% 7.20% 6.89% 5.35%
親会社帰属利益 47,954 55,432 42,406 46,432 38,558
EPS 167.27 193.31 147.86 163.76 136.78
総資産 1,239,315 1,263,350 1,393,799 1,386,547 1,449,113
親会社持分等 748,821 799,959 875,614 841,417 898,992
自己資本比率 60.4% 63.3% 62.8% 60.7% 62.0%
現金及び現金同等物 309,633 267,350 304,678 265,561 245,423
有利子負債 — 126,105 159,405 187,523 186,081
営業CF 117,590 −1,772 55,993 30,117 61,323
投資CF −28,848 −22,723 −25,321 −10,097 −41,795
フリーCF(営業CF+投資CF) 88,742 −24,495 30,672 20,020 19,528
研究開発費 171,738 172,999 169,021 171,633 158,662
減価償却費 38,398 39,981 39,398 39,906 39,550

出典: EDINET DB財務時系列(IFRS)。
フリーCFは営業CFと投資CFの合計として定義し、設備投資後営業CFと混同しない。
FY2026/3の営業CFはFY2025/3から増えたが、フリーCFは195億円であった。
FY2024/3〜FY2026/3の営業CFは3期連続でプラス。

財務指標と健全性チェック

指標・チェック FY2026/3値 比較基準 判定・読み方
ROE 約4.4% 医薬品中央値4.43%、目安8%超 業界中央値並みだが資本効率目標未満
営業利益率 5.35% 医薬品中央値6.92% 中央値を下回る
自己資本比率 62.0% 医薬品中央値68.36%、目安40%超 財務耐久力は基準を上回る
流動比率 2.24倍 医薬品中央値2.76倍、目安1.5倍超 短期支払余力は基準超
ROA 約2.66% 医薬品中央値1.99% 総資産利益率は中央値超
総資産回転率 0.57回 医薬品中央値0.53回 中央値をやや上回る
営業CFの連続性 FY2024/3〜FY2026/3黒字 3期連続黒字 合格
配当の連続性 FY2024/3〜FY2026/3は年160円 3期継続 合格
EPS前年比 136.78円、前年比−16.5% プラス成長 未達
現金と有利子負債 現金2,454億円、負債1,861億円 現金>負債 合格、把握した借入金・社債の範囲
利益剰余金 5,109億円 正数 合格
配当性向 実績117.0%、FY2027/3予想86.5% 医薬品中央値48.26% 利益に対する還元負担を確認
CCC 447.1日 業界中央値は未取得 在庫中心に長い

出典: EDINET DB FY2026ベンチマーク(医薬品50社)。
流動比率は流動資産761,637÷流動負債340,254百万円。
ROEは親会社帰属利益を期首・期末親会社持分の平均で除した概算。
健全性スコア83/100はEDINET DB会社概要の情報値であり、信用格付ではない。
別方式の分析スコア78とは別指標のため混ぜない。

運転資本と業績予想の確認

DSO=売上債権÷売上収益×365、DIO=棚卸資産÷売上原価×365、DPO=仕入債務÷売上原価×365、CCC=DSO+DIO−DPO。
FY2025/3の370.6日からFY2026/3の447.1日へ長期化した。
内訳はDSO101.7→100.4日、DIO466.8→491.6日、DPO198.0→144.9日で、主因は在庫日数の増加と支払期間の短縮である。

予想実績差の一例として、FY2026/3 Q3短信時点(2026-02-09)の会社予想は売上収益7,900億円、営業利益545億円、親会社帰属利益415億円だった。
FY2026/3実績との差は売上+4.5%、営業利益−19.0%、利益−7.1%。
売上は予想を上回ったが利益は下回った。
これは1時点の比較で、複数年度の予想精度を示すものではない。

FY2027/3 Q1は売上収益2,343億円(前年同期比+15.6%)、営業利益247億円(+19.2%)、親会社帰属利益182億円(+26.0%)。
3か月実績を年間計画の進捗率と同一視せず、FY2027/3予想の売上収益8,835億円、営業利益700億円、EPS185円との距離を、後続四半期の費用・製品別売上と合わせて確認する(出典: FY2027/3 Q1短信(資料名FY2026Q1))。

3. 市場評価を読む — バリュエーション

EDINET FY2026/3期末の時価総額は1兆4,205億円。
株価相当値はこれを期末発行済株式数291,649,149株で割った約4,871円で、実勢株価ではない。
約4,871円×291,649,149株は1兆4,205億円に一致する。
自己株式9,190,146株を除いた株数は282,459,003株。
時価総額基準とEPS・BPS基準には自己株式や加重平均株式数の差が残る。

指標・感応度 エーザイ 第一三共 大塚HD 基準・注記
時価総額 14,205億円 約51,200億円 約47,200億円 エーザイFY2026/3期末、競合は既存資料の期末概算
FY2027/3予想PER 27.2倍 19.7倍 13.0倍 エーザイ時価総額÷会社予想利益。競合値は既存資料
PBR 1.53倍 3.03倍 1.55倍 エーザイは期末株価相当値÷BPS
EV/EBITDA 16.3倍 16.3倍 7.6倍 競合は既存資料の参考値で同日再計算なし
配当利回り 3.28% 未取得 未取得 エーザイはFY2027/3予想DPS160円÷期末価格相当値
標準NC FY2025/3末780億円 → FY2026/3末593億円 — — 現金−把握した有利子負債。短期有価証券は未取得
標準NC比率 4.18%(FY2026/3末) — — 標準NC÷時価総額
広義NCAV FY2025/3末1,825億円 → FY2026/3末2,115億円 — — 投資有価証券を加算しない下限値
広義NCAV比率 14.89% — — 広義NCAV下限÷時価総額
CN-PER(標準NC控除) 26.03倍 — — (時価総額−標準NC)÷FY2027/3予想純利益
広義NCAV控除後の参考PER 23.12倍 — — NCAVはEV・利益倍率の通常定義ではない
EV/EBITDA参照レンジ 7.6〜16.3倍 16.3倍 7.6倍 既存比較資料の参考値。エーザイはレンジ上端
倍率感応度:低位参照 PER 13〜14倍 — — 大塚HD倍率13.0倍付近を基準とする比較軸
倍率感応度:現状参照 PER 約27倍 — — FY2026/3期末スナップショットでの予想倍率
倍率感応度:成長参照 PER 30倍台前半 — — Leqembiの成長と利益転換を強く織り込む仮定。市場予測ではない

出典: EDINET DB財務時系列・期末時価総額、既存のアステラス製薬レポート(株価取得日 2026-08-21)。
同資料のEV/EBITDA表は競合時価総額を「期末概算」と記載。
競合比較は基準日・計算定義の差があり、倍率レンジの参考に限定。
競合配当利回り、自社の過去5期PER、全製薬会社PER中央値、短期有価証券、投資有価証券の独立値は確認できず、推定していない。

標準NC=現金及び現金同等物+短期有価証券−有利子負債。
短期有価証券が未取得のため現金−有利子負債の下限は、FY2022/3算定不可(負債欠測)、FY2023/3から1,412億円、1,453億円、780億円、593億円、直近期時価総額比4.18%。
広義NCAV=流動資産+投資有価証券×70%−負債合計。
投資有価証券未取得の下限はFY2022/3から1,501億円、1,588億円、2,048億円、1,825億円、2,115億円、FY2026/3比14.89%。

FY2027/3予想純利益52,300百万円を分母にすると予想PERは27.16倍、標準NC控除後CN-PERは26.03倍、広義NCAV下限控除後の参考値は23.12倍となる。
期末価格相当値4,871円÷予想EPS185円では26.3倍で、時価総額÷予想利益との差は約3.2%。
予想PER27.2倍×予想EPS185円は約5,032円となり、価格相当値との差も3.3%である。
PBR1.53倍×BPS3,189円は約4,879円、価格相当値との差は0.2%。
いずれも5%以内だが、株数分母の違いを残したまま併記する。

EVは時価総額1,420,546百万円−標準NC59,342百万円=1,361,204百万円。
EBITDA代理値は営業利益44,138百万円+減価償却費39,550百万円=83,688百万円、EV/EBITDAは16.27倍。
会社概要の同倍率16.265倍と丸めの範囲で一致する。
広義NCAV下限を差し引いた参考倍率は14.44倍だが、NCAVは通常のEV定義ではないため資産スクリーンとしてのみ扱う。

PER感応度の13〜14倍は大塚HD13.0倍という比較値に近く、30倍台前半はLeqembi成長・利益化を強く織り込む上側の検討条件である。
市場価格の時点差、製薬会社の製品構成、利益定義の違いがあるため、適用倍率は事実値ではなく評価条件として示した。
WACC、永久成長率、5期の予測フリーCFが揃わないためDCFは掲載しない。

4. 同業比較 — 差分の論点

大塚HDと第一三共のFY2025/3売上収益・営業利益率・ROEは、既存の医薬品プレイヤー比較資料から転記した。
エーザイはFY2025/3実績でそろえ、単年度差だけでなくFY2023/3〜FY2025/3の動きを並べる。

指標 エーザイ 第一三共 大塚HD
FY2023/3 売上(億円) 7,444 12,785 20,186
FY2024/3 売上(億円) 7,418 16,017 23,299
FY2025/3 売上(億円) 7,894 18,863 24,689
FY2023/3 営業利益率 5.4% 9.4% 6.9%
FY2024/3 営業利益率 7.2% 13.2% 13.9%
FY2025/3 営業利益率 6.9% 17.6% 19.4%
FY2025/3 ROE 5.5% 18.2% 12.0%
FY2025/3自己資本比率 60.7% 47.0% 72.3%
FY2025/3営業CF(億円) 301 538 4,036

出典: 既存「医薬品主要プレイヤー比較」2026-06-20版。
会計基準・収益構造に差がある。
FY2026/3エーザイの営業利益率5.35%はFY2025/3からさらに低下しており、売上成長と収益性の差が続く。

第一三共はエンハーツを軸にFY2023/3〜FY2025/3の利益率を高め、大塚HDもFY2024/3以降に上昇した。
エーザイは同じ期間に売上を伸ばしたが、利益率はFY2025/3の6.9%からFY2026/3に5.35%へ低下した。
研究開発費の吸収、主力品の特許期間、薬価・提携条件が収益化を分けるため、中外製薬など突出した利益率を単純な業界基準にしない。

5. リスクと論点

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的な影響シナリオ 開示済みの対応・確認事項
Leqembiの診断・投与・安全性 高 中〜高 患者導入が伸びない、ARIA対応やMRI・投与施設が制約となれば、FY2027/3計画の成長源が細る 皮下注導入製剤、各地域の承認・販売体制。実処方と継続、安全性管理を確認
Lenvimaの薬価・競争・特許 高 中〜高 FY2026/3売上3,425億円(全社の約41.5%)に対し、Medicare交渉や後発品・訴訟が利益寄与を減らす 有報は米国特許訴訟の和解と継続中の上訴を記載。薬価交渉と販売量を確認
臨床開発・資産減損 高 中 主力試験の失敗や開発中止で将来収益見込みが下がり、研究開発費やのれん・無形資産の回収に影響する 臨床結果、開発中止、減損テストの前提を開示で確認
在庫・価格・為替・中国事業 中〜高 中 在庫2,575億円・CCC447日を抱え、需要・供給・為替や各国薬価が変化すると現金化と利益率が振れる 地域売上、在庫回転、営業CF、薬価・供給情報を同じFYで照合

有報はLeqembiについて診断・治療経路、患者アクセス、安全性を挙げ、Lenvimaについて競争・臨床試験・米国訴訟・特許を含むリスクを開示している。
薬価制度、研究開発の失敗、製品品質・安定供給、提携先、経営者後継、のれん・無形資産の減損も主要論点である(出典: FY2026/3有価証券報告書・S100YB05)。

Leqembiの成長は患者導線と安全性管理が条件

FY2026/3売上880億円からFY2027/3会社予想1,435億円への伸長計画は大きい。
FDAは2026-07-13にLEQEMBI IQLIK皮下注製剤を初回投与用として承認し、Eisaiは2026-08-24に米国でオートインジェクターの提供開始を発表した。
投与負担の軽減はアクセスを支える要素だが、患者選択、ARIAリスク、MRIモニタリング、保険償還、医療機関の運用負荷は残る。
承認と実処方の拡大を分けて追う(FDA承認、Eisai提供開始、FDA製品ラベル)。

現金余剰だけでは資本効率の課題を解かない

標準NC593億円は時価総額の4.2%で、現預金を根拠とする評価の下支えは限定的である。
広義NCAVも投資有価証券を含めない下限値で、製品権利や研究開発資産の現金同等性を示さない。
FY2026/3 ROE約4.4%、営業利益率5.35%、実績配当性向117%を合わせると、研究開発の成果を利益・営業CFへ転換しながら配当を維持できるかが資本効率の論点となる。

6. バリュエーション統合と論点整理

評価倍率の差を生む条件

FY2026/3期末スナップショットのFY2027/3予想PER約27倍は、既存比較資料の第一三共19.7倍、大塚HD13.0倍、アステラス14.3倍を上回る。
Leqembiの成長期待を映す一方、営業利益率5.35%、ROE約4.4%、Lenvima依存、研究開発費、安全性・薬価リスクも抱える。

標準NC比率4.2%、CN-PER26.0倍であり、評価の中心は現金より製品の成長持続性にある。
EV/EBITDA16.3倍は既存資料の第一三共16.3倍と同水準、大塚HD7.6倍を上回るが、競合倍率の基準日・定義差を残す。

条件別シナリオ

上方条件

FY2027/3会社予想のLeqembi売上1,435億円・営業利益700億円が実現し、米国皮下注製剤の利用拡大、各国の患者導線、安全性管理が両立する条件である。
成長製品の売上が営業利益と営業CFへ転換すれば、同業参考倍率より高いPERを維持する説明力が増し、30倍台前半の倍率水準が検討対象になりうる。

基本条件

会社予想の売上収益8,835億円、営業利益700億円、親会社帰属利益523億円、EPS185円、DPS160円に近い着地を想定する。
期末スナップショットの予想PER約27倍近辺では、低ROEと大規模研究開発費を織り込みつつ、Leqembiの成長・継続率を評価の中心に置く構図が続く。

下方条件

Leqembiの患者導入や治療継続が計画を下回る、ARIA対応・償還制度で投与が制約される、またはLenvimaの価格交渉や競争が想定より厳しくなる条件である。
売上成長が利益へつながらなければ成長期待の上乗せは後退し、PERは同業参照の13〜20倍付近、EV/EBITDAは7.6〜16.3倍の範囲へ評価軸が近づき、既存製品の持続収益と資本効率を重く見ることになる。

監視ポイント

以下の暦日は制度上の期限または会計期間末である。
決算公表日は2026-10-30時点で会社から未発表のものを含む。
配当権利付き最終日はFY2027/3の3月31日基準日に対する日本市場営業日カレンダーから算出した。

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026-11-01 CMS薬価交渉期間の終了予定 Lenvima交渉の終了、結果公表時期
2026-11-30 CMS交渉価格の公表期限 Lenvimaの対象条件、価格、説明資料
2026-12-31 FY2027/3 Q3期末 Leqembi・Lenvima売上、通期計画、在庫、営業CF
2027-03-01 CMS交渉価格の説明公表期限 Lenvimaの交渉経緯と償還条件
2027-03-29 FY2027/3期末配当の権利付き最終日 配当予想の変更有無、基準日の最終確認
2027-03-31 FY2027/3期末 会社計画に対する売上・営業利益・EPS・DPSの着地
2027-06-30 FY2028/3 Q1期末 Leqembi導入後の販売と地域別伸長、安全性関連情報
2027-09-30 FY2028/3上期末 Lenvima販売・薬価、臨床結果、CCCの変化
2028-01-01 Medicare交渉価格の適用開始予定 Lenvimaの実現価格、米国販売と会社見通しへの反映

CMSは2026年中の交渉、2026-11-01の交渉終了、2026-11-30の価格公表、2027-03-01の説明公表、2028-01-01の適用開始を示している(CMS公式日程、Lenvima選定発表)。

M&A・出資検討の論点

買い手から見たEVの許容水準は、対象薬の権利範囲・特許残存期間・臨床データ・開発費の残額と、開発後に販売網を使って生み出す現金で決まる。
エーザイの神経領域の研究知見、グローバル営業・薬事網、既存のがん製品群は協業候補になりうる一方、試験・製造・品質管理の統合負担や共同販促契約上の利益配分がディスシナジーになる場合がある。

デューデリジェンスでは、特許・知的財産、試験データと患者選定、安全性、共同開発・販売契約、米国訴訟・和解、各国薬価、製造品質、在庫評価、減損テスト、研究開発継続費、偶発債務を確認する。
FY2026/3末の現金と有利子負債の差は593億円だが、短期有価証券等の未確認項目が残る。
のれん2,592億円と無形資産881億円は、過去の取得価額ではなく将来キャッシュ創出の前提に照らして評価する必要がある。

7. 学びのポイント

着眼点1: 新製品売上と利益化を分けて読む

FY2026/3のLeqembi売上は前年比98.7%増の880億円、FY2027/3会社予想は1,435億円である。
一方、FY2026/3全社営業利益は18.8%減、研究開発費は1,587億円。
売上の伸びだけでなく、共同販売条件、導入・継続患者数、販売費、開発費、営業CFを合わせて利益への寄与を読む。

着眼点2: 製薬会社のNCは事業資産の代わりにならない

標準NCは593億円、時価総額比4.2%。広義NCAVは投資有価証券を含まない下限値で、製品権利・臨床開発・特許の将来価値を表さない。負債耐久力と研究開発の利益化は別軸で見る。

指標ポジショニング

指標 エーザイ 全上場中央値 良い目安・医薬品中央値 評価の読み方
FY2026/3売上成長率 4.6% 未取得 医薬品5.94% 医薬品中央値をやや下回る
FY2026/3営業利益率 5.35% 未取得 医薬品6.92% 研究開発費負担を含め中央値未満
FY2026/3 ROE 約4.4% 未取得 医薬品4.43%、目安8%超 中央値並みだが資本効率目標に届かない
自己資本比率 62.0% 未取得 医薬品68.36%、目安40%超 財務耐久力は基準超、中央値未満
流動比率 2.24倍 未取得 医薬品2.76倍、目安1.5倍超 短期余力は目安超
ROA 約2.66% 未取得 医薬品1.99% 総資産利益率は中央値超
EPS成長率 −16.5% 未取得 医薬品+3.03% FY2026/3は利益減を反映
総資産回転率 0.57回 未取得 医薬品0.53回 資産回転は中央値をやや上回る
配当利回り 3.28% 未取得 医薬品2.54% FY2026/3期末値による参考値
配当性向 117.0% 未取得 医薬品48.26% FY2026/3は利益を上回る配当
FY2027/3予想PER 27.2倍 未取得 参照企業13.0〜19.7倍 Leqembi成長の実現を評価に織り込む
CCC 447.1日 未取得 医薬品中央値は未取得 在庫日数を中心に現金化が長い

出典: EDINET DB FY2026医薬品ベンチマーク(n=50)、既存医薬品プレイヤー比較資料、既存アステラス製薬レポート。
全上場中央値およびPER・CCCの業界中央値は取得できず、推定していない。

参考情報

会社・ガバナンス

エーザイは1941年設立、本社は東京都文京区、代表執行役CEOは内藤晴夫氏である。
FY2026/3末の従業員は連結10,543人、個別2,979人。
研究所・生産拠点・海外営業拠点を複数地域に持つ(会社情報)。
監査法人と主要取引銀行は本レポートで確認できた一次資料抜粋から特定できず、記載を保留した。

大株主(FY2026/3有価証券報告書)

順位 株主名 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18.55% 信託銀行
2 日本カストディ銀行(信託口) 9.99% 信託銀行
3 非表示(取得データで匿名化) 5.31% 個人・不詳
4 JPMorgan Securities 2.67% 金融機関
5 日本生命保険 2.30% 生命保険会社

出典: EDINET DB「FY2026/3有価証券報告書の大株主」。
3位株主は原資料取得データで氏名が伏せられており、推測による補完をしていない。
大量保有報告の提出比率は有報の大株主表とは対象日・集計方法が異なる。

データ基準日の違い

データ 基準日 出典・扱い
連結財務諸表・地域別事業 2026-03-31 EDINET有価証券報告書、FY2026/3
通期決算短信 2026-03-31 TDNet、2026-05-15開示
最新四半期業績 2026-06-30 FY2027/3 Q1、2026-08-03開示
株価取得日 2026-03-31 EDINET FY2026/3期末値を倍率に使用
価格取得試行日 2026-10-30 市場値は取得できず、期末値で代用
競合の倍率参照 おおむね2026-08-21 既存アステラス製薬レポート。エーザイと同日比較ではない

出典