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「市場で少しずつ売ります」が、朝8時45分の1回で終わった — 相手の自社株買いに乗せた60億円の持ち合い解消

深堀投資-決算2026-09-21

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#アルプスアルパイン#日本精機#政策保有株#持ち合い解消#ToSTNeT-3#自己株式取得#特別利益

目次
  1. 出口は、取引所が開く15分前の1回だった
  2. 5%を市場で売ると、値段が壊れる
  3. 5年前の値段が、今期の利益として一度に出てくる
  4. 見立てと監視ポイント
  5. 腹落ち確認の問い
  6. もっと詳しく知りたい人へ

「市場で少しずつ売ります」が、朝8時45分の1回で終わった — 相手の自社株買いに乗せた60億円の持ち合い解消

アルプスアルパインが政策保有株の出口に相手の自社株買いを選んだ理由と仕組みを示す概要図

2026年1月の発表では「順次市場にて売却する予定」と書いてありました。
それから8か月近くたって実際に選ばれたのは、相手の会社がその日の朝に始めた自社株買いへ、持っていた300万株をまるごと渡す方法でした。

出口は、取引所が開く15分前の1回だった

アルプスアルパインは2026年9月18日、日本精機の株式3,000,000株を売却したと発表しました。
同社が持っていた日本精機株のすべてです。
売った先は市場ではなく、日本精機自身が同じ日に実施した自己株式立会外買付取引、いわゆるToSTNeT-3でした。

日本精機は前日の9月17日に取締役会で自己株式の取得を決め、9月17日の終値2,764円で、9月18日午前8時45分のToSTNeT-3に買付けを委託しています。
取得枠は上限3,610,000株、発行済株式総数(自己株式を除く)に対して6.27%、取得価額の総額は上限で9,979,000,000円でした。

アルプスアルパインが見込む利益は、投資有価証券売却益(特別利益)で約60億円です。
計上は2027年3月期第2四半期の連結および個別決算。
前日17日の開示では「約50億円」としていたので、約定を挟んで見込みが10億円ほど動いたことになります。

5%を市場で売ると、値段が壊れる

両社の持ち合いは2021年1月28日に始まりました。
統合コックピット製品の共同開発などを目的に、アルプスアルパインが日本精機株を、日本精機がアルプスアルパイン株を持つ形です。
それを解消すると決めたのが2026年1月27日で、理由は「コーポレートガバナンスにおける政策保有株式の縮減の重要性が増してきている」ことでした。
業務提携そのものは今も続いています。

問題は、売り方でした。
1月の開示時点でアルプスアルパインが持っていた日本精機株3,000,000株は、2025年9月30日時点で日本精機の5.22%にあたります。
この規模を市場でさばこうとすると、売り注文が出るたびに値が下がり、下がった値でさらに売ることになります。
1月の開示に書かれた「順次市場にて売却」は、時間をかけて需給への影響を薄める方法でしたが、それでも数か月は株価に売り圧力が残ります。

市場での分割売却と相手の自社株買いへの売付けの違いを比べた構造図

ToSTNeT-3は、そこを一度に抜けられる仕組みです。
前日の終値という決まった価格で、取引所が開く前の午前8時45分に1回だけ行われる立会外の取引で、買い手は自社株を買う会社だけ。
売りたい株主が出した注文を、会社が決めた上限の範囲で引き取ります(上限を超える注文が集まれば比例配分になります)。
値段は動かず、売り手は1回で持ち分を現金に換えられます。

買う側にも理由があります。
日本精機は取得の目的を「経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行及び資本効率の向上を通じて株主利益還元の強化」と説明しました。
自己株式を買えば発行済株式が減り、1株あたりの利益や純資産が上がります。
手元の現金を使って、株主に返す形をつくる打ち手です。

つまり同じ1回の取引が、売り手には「政策保有株の処分」、買い手には「株主還元」として成立しています。片方の出口が、もう片方の還元策の受け皿になった構図です。

5年前の値段が、今期の利益として一度に出てくる

数字を分解すると、この取引が決算に落ちる形が見えます。
売却代金は3,000,000株×2,764円で約82.9億円。
ここから見込みの売却益60億円を引くと、帳簿に載っていた金額は約22.9億円、1株あたり約763円という計算になります(いずれも公表された2つの数字からの筆者の算出で、開示値ではありません)。

持ち合いを組んだ5年前の取得価格と、今の株価の差が、2027年3月期第2四半期に一括で特別利益として出てくるわけです。
ここを来期の予算に置くときは、2つに分けて扱う必要があります。
現金は約82.9億円が実際に入りますが、利益のほうは今期限りで、来期には消えます。
営業利益の水準が変わったわけではないので、この60億円を含んだ純利益で成長率を引くと、翌期は自動的に大きな減益に見えます。

買う側の日本精機では、逆の動きになります。
上限まで買えば現金が99.79億円出ていき、株数が6.27%減ります。
1株あたりの利益は上がりますが、その原資は手元資金です。
設備投資や研究開発に回すはずだった現金と、どちらを優先したのかは、次の決算での投資計画と並べて読む話になります。

見込み額が50億円から60億円へ動いた点も、そのまま鵜呑みにはできません。
18日の開示には「最終的な計上額は、売却に係る諸費用等の確定に伴い変動する可能性があります」とあるだけで、17日との差が何によるものかは書かれていません。
約60億円もまだ見込みです。

見立てと監視ポイント

政策保有株の解消は「市場で売る」と発表した時点では終わらず、どの経路で抜けるかまで決まって初めて金額が固まります。
今回は、相手の資本政策と時期を合わせることで、値崩れを避けながら1日で片付きました。
持ち合い解消が増えるほど、この「相手の自社株買いに乗る」型は使われやすくなります。

腹落ち確認の問い

アルプスアルパインは1月に「市場で順次売る」と書きながら、9月には相手の自社株買いへ一括で売りました。開示した方針を変えたように見えますが、株主にとってどちらが望ましいかを決めるのは、何でしょうか。

考え方

見るべきは「いくらで売れたか」と「その間に株価がどう動いたか」です。
市場で少しずつ売れば、売り圧力が続くぶん平均売却価格は下がりやすく、その損は売り手の株主が負います。
前日終値での一括売却は、値崩れを避けて売却代金を最大化しやすい経路です。
一方で、受け皿になった側の株主から見れば、会社の現金で特定の大株主の持ち分を引き取った形にも見えます。
方針との違いそのものより、価格と手数、そして買う側が同じ金額を別の使い道に回せたかどうかで評価が分かれます。

出典(一次/二次の切り分け)
  • 一次・アルプスアルパイン(2026年9月18日) — 「(開示事項の経過)日本精機株式会社株式の売却結果及び投資有価証券売却益(特別利益)の計上に関するお知らせ」。3,000,000株、約定日、売却益見込み約60億円、計上期、変動可能性の注記を照合。
  • 一次・アルプスアルパイン(2026年9月17日) — 売付け予定の開示。売却理由の原文、見込み約50億円、計上期を照合。
  • 一次・日本精機(2026年9月17日) — 「自己株式の取得および自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の買付けに関するお知らせ」。上限3,610,000株(6.27%)、上限9,979,000,000円、2,764円、9月18日午前8時45分、取得理由を照合。
  • 一次・アルプスアルパイン(2026年1月27日) — 「資本業務提携解消・業務提携へ移行のお知らせ」。提携開始日2021年1月28日、3,000,000株(2025年9月30日時点で5.22%)、日本精機保有の2,600,000株(1.29%)、「順次市場にて売却する予定」の記述、解消理由を照合。
  • 筆者の算出(開示値ではありません) — 売却代金約82.9億円、簿価概算約22.9億円、1株あたり約763円、アルプスアルパイン分が取得上限の約83%。いずれも上記の公表数値からの計算です。
  • 反証1パス — 約60億円は確定額ではなく見込みです。17日の約50億円との差の理由は開示に記載がありません。日本精機が上限3,610,000株まで買い付けたかどうかは、本件の各開示からは確認できません。

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