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利益が倍になった決算、その4割は税関からの返金だった — 米最高裁が関税を違法と判じ、小売4社に入った一度きりの益

深堀FP&A2026-08-20

【国際・海外企業】連載・FP&A米国【国際・通商】【政治・財政税制】【経済・百貨店GMS】

#関税#IEEPA#最高裁#決算の質#一過性利益#調整後EPS#小売#ターゲット#ロウズ#TJX#ホームデポ#予算編成

目次
  1. 同じ四半期に、4社が同じ一行を書き込んだ
  2. 返ってきたのは、違法と判じられた関税
  3. 調整後利益からも、除かれていなかった
  4. 来期の計画を、どの数字から積むか
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. 関連リンク

利益が倍になった決算、その4割は税関からの返金だった — 米最高裁が関税を違法と判じ、小売4社に入った一度きりの益

米国の小売4社の2026年4-6月期決算に計上されたIEEPA関税還付の因果を一本で示す概要図。米最高裁が2026年2月20日にIEEPA関税を違法と判断したため、企業が過去に払った関税が税関から戻り、その返金が四半期の利益として計上されたこと、ターゲットでは税引前9億9,400万ドル・1株あたり1.65ドルが入り報告利益4.11ドルの40%を占めたこと、ただしこれは商品を売って得た利益ではなく一度きりであること、さらに4社が同じ性質の利益をそれぞれ違う開示の仕方で処理したため横並び比較が壊れることを、9億9,400万ドル・1株1.65ドル・報告利益の40%という根拠数値で示し、来期の計画は報告値ではなく還付を除いた数字から積む必要があると結論づける図

決算で利益が前の年の2倍になっていたら、本業が伸びたのだと考えるのが普通です。

米ターゲットの2026年4-6月期は、そうではありませんでした。
1株利益は4.11ドルで前年の2.05ドルからちょうど倍増しています。
しかしそのうち1.65ドルは、商品を売って稼いだ利益ではありません。
過去に払った関税が、税関から戻ってきた分です。

金額にして税引前9億9,400万ドル
会社はこれを売上総利益と営業利益の中に計上し、純利益への寄与は7億5,200万ドルだったと明記しています。
報告された1株利益の40%が、返金でできていたことになります。

同じ四半期に、4社が同じ一行を書き込んだ

これはターゲット1社の事情ではありません。 8月18日から19日にかけて決算を出した米小売大手4社が、そろって同じ性質の利益を計上しています。

会社 発表日 還付の開示 1株利益への寄与
ターゲット 8月19日 税引前9億9,400万ドル(純利益ベース7億5,200万ドル) 1.65ドル
TJX 8月19日 受領額3億3,100万ドル・税引前純額2億1,900万ドル 0.14ドル
ロウズ 8月19日 金額の記載なし(1株あたりのみ) 0.11ドル
ホームデポ 8月18日 金額を開示せず(通期見通しに含むとのみ記載) 非開示

TJX の書き方がとりわけ示唆的です。
同社は過去に払った IEEPA 関税の一部として3億3,100万ドルを受け取ったと書いたうえで、税引前利益への純額の寄与は2億1,900万ドルだったと分けて記しています。
差額の1億1,200万ドルは、還付を受けたことで従業員の賞与引当を積み増したためです。

つまり、戻ってきた金額と、利益として残った金額は違います。
ホームデポにいたっては金額そのものを書いていません。
通期見通しに IEEPA 関税の還付を含めており、それが計画外の燃料費・エネルギー費や商品原価の上昇を一部相殺する、と述べるにとどめています。

用語の補足
  • IEEPA(国際緊急経済権限法) — 米大統領が国家的な緊急事態に際して経済取引を規制できるとする法律。2025年以降、この法律を根拠に広範な関税が課されていました。
  • 輸入者(importer of record) — 税関に対して輸入申告と納税の責任を負う当事者。関税の還付はこの立場の者に支払われます。小売業では自社が輸入者になっている場合と、仕入先が輸入者になっている場合があります。
  • 調整後1株利益(adjusted EPS) — 会計基準どおりの利益から、経営陣が本業の実力を表さないと判断した項目を除いた指標。何を除くかは各社の裁量です。
  • セクション232/301/122 — IEEPA とは別の法的根拠に基づく米国の関税制度。232は安全保障、301は不公正貿易慣行、122は国際収支上の理由による暫定的な措置を扱います。

返ってきたのは、違法と判じられた関税

還付の源は、企業側の努力ではなく司法判断です。 米最高裁は2026年2月20日、6対3で、IEEPA は大統領に無期限かつ広範な関税を課す権限を与えていないと判断しました。
対象になったのは2025年2月の対中関税、同年3月のカナダ・メキシコ向け関税、そして同年4月の相互関税です。

規模は小さくありません。
2025年1月から2026年1月までに徴収された IEEPA 関税は約1,647億ドルで、還付の見込みは最大1,750億ドルと見積もられています。
IEEPA 関税は米国の関税収入全体のおよそ半分を占めていました。

実務の流れはこうです。
税関当局が2026年4月20日に還付処理専用の仕組みを稼働させ、輸入者に対して払い戻しを始めました。
審査には60日から90日を要するとされ、企業の手元に現金が届くまでには時間差があります。
4-6月期に各社の損益へ一斉に現れたのは、この時間差が明けたためです。

ここで見落とされやすいのが、関税そのものは消えていないという点です。
IEEPA を根拠とする関税は否定されましたが、セクション232に基づく品目別の関税、セクション301に基づく調査、そしてセクション122に基づく暫定的な10%の一律関税は残っています。
仕入原価が2024年の水準に戻ったわけではありません。

実際、8月19日に公表された7月28〜29日の FOMC 議事要旨には、関税の価格への転嫁は概ね完了したという見方が複数の参加者から示された一方、取引先企業が上昇した仕入コストを利益率の圧縮によって吸収してきたという報告も記録されています。
コストは企業の利幅の中に残ったままだという認識です。

調整後利益からも、除かれていなかった

この四半期でもっとも実務に効くのは、金額の大きさではなく開示の不揃いです。 同じ性質の一度きりの利益を、4社が3通りに扱いました。

TJX は還付を調整後の数字から除いています。
GAAP の1株利益は1.36ドルで前年比24%増ですが、還付を除いた調整後は1.22ドルで11%増です。
読者が「本業でどれだけ伸びたか」を知りたければ、後者を見ればよい設計になっています。

ターゲットとロウズは、そうしていません。
ターゲットは還付の1.65ドルが「GAAP と調整後の両方の1株利益に寄与した」と明記しています。
ロウズも「希薄化後1株利益と調整後希薄化後1株利益の両方に、IEEPA 関税還付による0.11ドルの寄与が含まれる」と書いています。

この差が何を生むかは、ロウズの数字をたどると分かります。
同社の調整後1株利益は4.40ドルで、前年の4.33ドルから1.6%増えました。
ところが還付の0.11ドルを引くと4.29ドルになり、前年の4.33ドルを下回ります。

会計基準どおりの数字はさらに明確です。
GAAP の1株利益は4.27ドルで前年と同額ですが、今期にはそこに0.11ドルの還付が入っています。
それを除けば4.16ドルで、実質的には前年から減っています。
既存店売上高が0.2%増にとどまったことを踏まえれば、こちらのほうが実態に近い姿です。

率で見ても同じことが起きています。
ターゲットの営業利益率は9.6%ですが、会社自身が還付による押し上げを3.7ポイントだと開示しており、還付を除けば5.9%です。
TJX の税引前利益率は13.3%で前年から1.9ポイント改善したものの、還付を除いた調整後では11.9%、改善幅は0.5ポイントにとどまります。
金額を引くだけでなく率も引き直さないと、改善の大きさを4倍近く読み違えます。

「調整後」という語は、一過性の項目を除いた数字だと受け取られがちです。
しかし何を除くかは各社の裁量であり、今回は最大級の一過性項目が、会社によって除かれたり除かれなかったりしました。同業4社の調整後利益の伸びを並べて比べる作業が、この四半期については成立しません。

比較を成立させるには、各社の開示から還付額を拾い、自分で引き直すしかありません。
ターゲットは還付を除いた伸びが20%だと自ら開示していますが、これは親切な部類です。
ホームデポのように金額を出さない会社では、そもそも引き算ができません。

米小売4社が同じIEEPA関税還付を3通りに開示したことを示す比較図。TJXは調整後1株利益から還付を除いており、GAAP 1.36ドル・24%増に対し調整後1.22ドル・11%増と実力が分けて示されている。ターゲットは還付1.65ドルがGAAPと調整後の両方に含まれると明記し、報告値4.11ドルは還付を除くと2.46ドルで前年2.05ドル比20%増になる。ロウズも0.11ドルが両方に含まれ、調整後4.40ドルは還付を除くと4.29ドルとなり前年4.33ドルを下回る。ホームデポは金額を開示していないため引き算そのものができない。4社を横並びにすると、同じ性質の一度きりの利益が3通りに扱われた結果、調整後利益の伸び率を各社間で比較する作業が成立しなくなるという一文の答えに着地する比較図

4社の開示を並べると、還付を除いた実力の姿がようやく見えてきます。
ターゲットは還付前でも20%増と力強く、TJX も調整後で11%増と堅調です。
一方でロウズは還付を除けば前年割れ、ホームデポは判断材料そのものが足りません。
報告値だけを眺めていたときの印象とは、順序が変わります。

還付が何に充てられたかも見ておく必要があります。
ホームデポは通期見通しについて、IEEPA 関税の還付が計画外の燃料費・エネルギー費や商品原価の上昇を一部相殺すると説明しています。
還付は増益要因として単独で立っているのではなく、上がり続けたコストの穴埋めに回っている、という位置づけです。
TJX が受け取った3億3,100万ドルのうち1億1,200万ドルが賞与引当の積み増しに消えたのも、同じ性質の話です。
戻ってきた現金がそのまま株主の取り分になるとは限りません。

来期の計画を、どの数字から積むか

この還付が実務に効いてくるのは、来期の計画を立てる場面です。 一度きりの利益は、翌年に同じ額が入らないという意味で、翌年の減益要因になります。

ターゲットの通期見通しは1株利益9.90〜10.90ドルで、ここには約1.65ドルの還付が含まれています。
還付を除いた実力は8.25〜9.25ドルという水準です。
来期の成長率を報告値の9.90〜10.90ドルから積み上げれば、出発点が2割ほど高いところに置かれます。

しかも還付は、ほぼ終わっています。
ロウズは下期の追加還付を通期見通しに織り込んでいないと明記しました。
TJX の通期見通しに含まれる還付は1株あたり0.16ドルで、そのうち0.14ドルはすでに4-6月期に計上済みです。
下期に残るのは0.02ドルにすぎません。

この構図は、米国から商品を輸入している日本企業にも同じ形で降りてきます。
取引先の米国法人が輸入者になっているなら還付はその法人に入り、連結の中で一度きりの利益として現れます。
来期の予算をその子会社の当期実績から積むと、戻らない利益を前提に目標を置くことになります。

もうひとつ、還付を利益として確定してよいのかという論点があります。
米国では、関税分を価格に転嫁されたとして消費者側が集団訴訟を起こす動きが出ており、取引先が還付の一部は自社に帰属すると主張する例も指摘されています。
還付を受け取る権利が確定しているかどうかは、受領のタイミングと係争の状況によって変わります。

計画に置くなら、扱いを分けるのが安全です。
すでに現金として受領し、返還請求の対象になりにくい分は当期の実績として確定させ、まだ債権にとどまる分と係争リスクのある分は別枠で管理する。
予実差異を見るときも、還付を含んだ実績と含まない実績の2本を持っておけば、翌期に「何もしていないのに減益」という説明をせずに済みます。

見立てと監視ポイント

米国の小売決算はこの数四半期、関税コストに押されて利幅が削られてきました。
今回の還付はその揺り戻しですが、恒久的な改善ではありません。
関税は別の法的根拠のもとで残り、還付は今期でほぼ出尽くします。
見るべき点を3つ挙げます。

腹落ち確認の問い

TJX は関税還付を調整後1株利益から除き、ターゲットとロウズは除きませんでした。
どちらも会計基準に違反したわけではありません。
同じ性質の項目で処理が分かれたとき、開示を受け取る側は何を手がかりに数字を作り直せばよいのでしょうか。
「調整後」という語を信用できないとすれば、代わりに何を軸に置けば同業を比較できるのかを考えてみてください。

考え方

出発点は、調整後利益が会計基準に定められた指標ではないという事実です。
何を除くかは経営陣の判断であり、その判断には「本業の実力を見せたい」という動機と「良い数字を見せたい」という動機の両方が働きます。
今回のように一過性の項目が利益を押し上げる方向に働くとき、それを除けば数字は小さくなります。
除かない選択には理由があるはずで、ターゲットの場合は還付を除いた伸び率20%を自ら開示しているので、隠す意図があったとは読めません。
むしろ「還付は営業利益の中に入っているので、除いた数字を別に作らない」という一貫性の表明に近い。
一方で、除いた数字を自分では示さない会社があれば、そこは読み手が作るしかありません。
ここから導ける実務の軸は2つあります。
ひとつは、比較の基準を「各社が調整後と呼ぶ数字」ではなく「自分が定義した一貫の基準」に置くことです。
今回であれば、全社について報告値から還付額を引いた数字を作り直す。
各社の開示粒度がばらつくので、金額を出していない会社は比較対象から外すか、注記付きで扱う。
手間はかかりますが、これをやらないと順位そのものが入れ替わります。
ロウズの調整後が増益に見えて実は減益だった例が、まさにそれです。
もうひとつは、損益計算書の中でその項目がどこに入ったかを確かめることです。
今回の還付は売上原価や売上総利益の中に入っています。
営業利益より上に入る項目は、営業利益率や売上総利益率といった「本業の効率」を測る指標を直接歪めます。
営業外や特別損益に入る項目より厄介なのはこのためで、率で見ている限り気づけません。
だから確認の順序は、まず還付のような項目がどの段階に計上されたかを押さえ、次にその段階より下の指標をすべて引き直す、という形になります。
そして最後に、その項目が来期も発生するかを問う。
発生しないなら、来期の計画の出発点は報告値ではなく引き直した数字のほうです。
この3つ、すなわち計上された段階・自分の基準での引き直し・翌期の再現性を順に確かめる作業は、関税還付に限らず、保険金の受取、訴訟の和解金、資産売却益、補助金といったあらゆる一度きりの項目に同じ形で使えます。

関連リンク

出典(一次/二次の切り分け)
  • primary_source: ターゲット「Target Corporation Reports Second Quarter Earnings」(2026年8月19日)/ロウズ「Lowe's Reports Second Quarter 2026 Sales and Earnings Results」(2026年8月19日)/ホームデポ「The Home Depot Announces Second Quarter Fiscal 2026 Results」(2026年8月18日)/FOMC議事要旨(2026年7月28〜29日会合分・2026年8月19日公表)
  • primary_source_url: https://corporate.target.com/press/release/2026/08/target-corporation-reports-second-quarter-earnings
  • primary_source_checked_at: 2026-08-20
  • secondary_source: ペンシルベニア大ウォートン校バジェットモデル(最高裁判決と還付規模)/全米小売業協会(還付処理の実務と残る関税制度、2026年4月30日)/モーガン・ルイス(還付の計上判断と訴訟リスク、2026年3月)/TJX の四半期リリース転載
  • secondary_source_url: https://budgetmodel.wharton.upenn.edu/p/2026-02-20-supreme-court-tariff-ruling/
  • source_confidence: High
  • factcheck: ターゲットの一次リリースを直接取得し、税引前9億9,400万ドルの還付が売上総利益と営業利益に含まれること、純利益への寄与7億5,200万ドル、GAAP と調整後の両方の1株利益への寄与1.65ドル、還付を除いた1株利益の伸びが20%であること、営業利益率9.6%のうち3.7ポイントが還付によることを原文照合した。ロウズは還付0.11ドルが GAAP と調整後の両方に含まれること、調整後1株利益4.40ドルに対し前年が4.33ドルであること、下期の追加還付を見込まないことを原文照合し、還付を除くと4.29ドルで前年割れになる計算は本文に過程を明示した。ホームデポは還付の金額を開示せず通期見通しに含むとのみ記載していることを原文で確認した。TJX は受領額3億3,100万ドルと税引前純額2億1,900万ドル、1株あたり0.14ドル、調整後1株利益が還付を除いた1.22ドルであることを公式リリース本文(転載)で確認した。最高裁の判断(2026年2月20日・6対3)、徴収額約1,647億ドル、還付見込み最大1,750億ドル、IEEPA が関税収入の約半分を占めることは公開分析による二次。CAPE の2026年4月20日稼働、処理に60〜90日、還付先が輸入者であること、セクション232・301・122が残ることは業界団体の解説による二次。消費者集団訴訟と顧客からの分配請求のリスクは法律事務所の解説による二次。FOMC 議事要旨の関税転嫁に関する記述は原文照合。反証1パス:(1)『4社とも還付で増益』と書きかけたが、ホームデポは金額非開示で寄与度を特定できないため事実の記述にとどめた。(2)『調整後は一過性を除いた数字』という一般論を前提にしかけたが、実際には3通りに分かれたため各社の処理を並べる構成に変えた。(3)ロウズの前年割れは GAAP と調整後で結論が異なるため、両方の計算を本文に明示した。(4)『関税がなくなった』と書きかけたが、セクション232・301・122は残るため明記した。(5)還付見込み1,750億ドルを実際の支払済額と混同しないよう、徴収額と見込み上限を区別した。(6)FOMC 議事要旨は7月会合分で8月19日は公表日である点を本文で明確にした。