📚 業界ノート

藻がCO₂を吸う瞬間を追えるようになった — 最大3300%の測定誤差を8%まで縮めた補正式

深堀AI・イノベ2026-09-16

【経済・通信】連載・AI・イノベ【科学・エネルギー技術】【科学・ライフサイエンス】

#NTT#微細藻類#CO₂#溶存無機炭素#DIC#バイオマス#養殖飼料#環境技術#センサー

目次
  1. 最大3300%の誤差を約8%まで縮めた
  2. 「点」で採る測定を「線」で見る運転へ変えた
  3. 育種だけでは見えなかった「よい育て方」を探せる
  4. 商用化で必要なのは「8%」の先にある原価データ
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. もっと詳しく知りたい人へ

藻がCO₂を吸う瞬間を追えるようになった — 最大3300%の測定誤差を8%まで縮めた補正式

藻類のCO₂吸収を連続測定できるようになった因果を示す概要図

藻がCO₂を吸うことは知られていても、「いつ、どれだけ吸ったか」を途中で止めずに測るのは難題でした。
NTTは、水中の炭素をセンサーで追う計算にpH補正を加え、従来の基準測定に対する最大誤差を約3300%から約8%へ縮めました。
派手な炭素削減量ではなく、育て方を改善するための計器ができたという発表です。

最大3300%の誤差を約8%まで縮めた

**今回の成果は、藻の吸収能力そのものではなく、吸収の時間変化を測る精度です。
**NTTは2026年9月15日、微細藻類(肉眼では一つひとつ見えにくい小さな藻)の培養中に、DIC(溶存無機炭素、水中にある無機炭素の合計)を連続的に算出する技術を公表しました。

水に入ったCO₂は、そのままのCO₂だけではありません。重炭酸イオンや炭酸イオンへ姿を変えます。藻が使える炭素の全体像を見るには、この3つをまとめたDICを追う必要があります。

正確な基準は滴定法(濃度が分かった試薬を加えて成分量を測る方法)です。
ただし、測るたびに培養液を採り、手間と時間をかけます。
連続センサーの値からDICを計算すると、培養が進むにつれて基準値との最大相対誤差が約3300%まで広がりました。

原因は培養液のpH変化でした。
光合成で藻がDICを使うと、実験中のpHは約8.4から10.0へ上昇します。
水中でCO₂、重炭酸イオン、炭酸イオンが占める割合も変わるため、一定条件を前提にした計算が崩れます。

NTTは、滴定値とセンサー由来の計算値の差をpHごとに分析し、補正式を作りました。適用後の最大相対誤差は約8%です。発表の根拠は、5Lの培養瓶、25℃、pH8〜10という実験室条件で得られています。

「点」で採る測定を「線」で見る運転へ変えた

**連続測定の価値は、平均値では消える吸収の波を見つけられることです。**研究では、12時間の明るい時間と12時間の暗い時間を交互に置き、藻が入った培養区と入っていない対照区を比べました。

明るい時間には光合成と整合する炭素量の減少が見え、暗い時間には呼吸などを含む別の動きが現れました。
1日1回の採取だけなら、測る時刻によって評価がぶれます。
連続データなら、吸収が増える時間、鈍る時間、条件変更の直後を同じ線上で比較できます。

滴定の点測定からセンサーの連続測定へ変わる仕組みを示す構造図

ここで重要なのは、センサーが滴定を完全に不要にしたわけではないことです。
原著は、離散的な滴定値を高精度の基準として使い、連続センサーの値を補正しています。
たとえるなら、毎回ものさしで測る代わりに常時カメラで追い、ときどきものさしを当ててカメラのずれを直す方式です。

論文が扱うのは、培養液中のDICと容器内の気相CO₂を足し、藻なしの対照区との差を見た「見かけの無機炭素差」です。
藻の体内に固定された炭素を直接すべて数えた値ではありません。
吸収量という言葉を、製品の炭素固定量や排出権にそのまま置き換えることはできません。

育種だけでは見えなかった「よい育て方」を探せる

**NTTの研究は、藻を改良する段階から、改良した藻をどう運転するかへ進んでいます。
**2023年には、藻のCO₂利用効率の向上に関わる遺伝子を特定しました。
2024年には中性子線を使う育種技術を発表し、2026年7月には養殖飼料に使う珪藻でDHAやEPAなど5種の機能性脂肪酸を同時に増やしました。

その珪藻は、元の株に比べて細胞当たりの機能性脂肪酸が最大1.8倍でした。
遺伝子組み換えを使わず、養殖飼料で求められる脂肪酸のバランスを保つ設計です。
改良株ができても、光、温度、pH、CO₂供給をどう組み合わせれば最も効率よく育つかは別の問題でした。

今回の計測は、その間をつなぎます。
光を長く当てればよいとは限りません。
照明の電力代が増え、pHが適用範囲を外れ、呼吸を含む炭素収支が悪化する可能性があります。
吸収の時間変化を見ながら条件を変えれば、収量だけでなく投入電力やCO₂利用率との釣り合いを探れます。

藻由来のバイオマスは、飼料、燃料、化学品の原料になり得ます。
ただし、用途ごとに必要な品質と単価が違います。
燃料は大量・低価格が必要で、機能性飼料は量が小さくても品質で単価を上げやすい商材です。
同じ培養設備でも、目標とする製品によって最適な運転条件は変わります。

商用化で必要なのは「8%」の先にある原価データ

**研究室で測れることと、工場で利益が出ることの間には、まだ大きな距離があります。
**確認済みの範囲は5L、25℃、pH8〜10です。
屋外の大型培養では、日射、気温、塩分、藻種、汚染、撹拌状態が動きます。
NTTも、異なる藻種と商用生産に近い条件で追加評価するとしています。

設備計画では、次の数字を同時に取る必要があります。

測定誤差が8%まで下がっても、売上や削減クレジットが自動的に生まれるわけではありません。
ただ、運転条件AとBの差が誤差に埋もれず見えるようになれば、改善サイクルは速くなります。
どの条件変更が収量を増やし、どれが電気代だけを増やしたかを日次で切り分けられるためです。

予算に置くなら、まず小規模実証で「センサー・補正・制御にかかる追加費用」と「収量改善・作業削減の効果」を分けます。
次に、効果を半分にした場合、電力単価を2割上げた場合、商用品質に届く歩留まりが下がった場合を並べます。
今回の発表だけでは、その感度分析に必要な商用数値はまだ埋まりません。

見立てと監視ポイント

**この技術の次の勝負は、測定精度ではなく、連続データが生産原価をどこまで下げるかです。
**5Lでの補正が大型設備でも再現し、制御条件の変更が製品収量につながれば、計測は研究機器から生産設備の一部へ進みます。

腹落ち確認の問い

最大相対誤差が約3300%から約8%へ下がったことを、なぜ「藻のCO₂吸収量が大幅に増えた」と読み替えてはいけないのでしょうか。

考え方

改善したのは測定値と滴定による基準値のずれです。
藻そのものの吸収能力を何倍にしたという結果ではありません。
精度の高い連続データがあれば培養条件を改善できますが、吸収量の増加、正味の炭素削減、商用原価は今後の実証で別々に確かめる必要があります。

出典(一次/二次の切り分け)
  • 一次・当日発表 — NTT、2026年9月15日。誤差、補正式、実験条件、明暗サイクル、今後の検証範囲を日本語版と英語版で直接照合。
  • 一次・原著 — Algal Research掲載論文、DOI 10.1016/j.algal.2026.104893。ScienceDirect本文は403、Jina再試行も不達。検索結果で研究設計と「見かけの無機炭素差」という限界を照合し、主要数値はNTT公式発表に限定。
  • 一次・研究の前段 — NTTの2023年2月9日付遺伝子研究と2026年7月7日付珪藻育種発表を直接照合。脂肪酸最大1.8倍、遺伝子組み換え不使用、養殖飼料用途を確認。
  • 二次照合 — Impress Watch、2026年9月15日。連続測定の意味、pH8.4から10.0への変化、明暗条件を独立記事で照合。
  • 反証1パス — 8%は吸収量の改善率ではなく測定誤差です。5Lの実験室条件を商用設備へ外挿せず、正味削減量と採算は未提示としました。

もっと詳しく知りたい人へ