「儲け」より「受注の山」で株価が1割上がった日 — ロッキードの受注残が過去最高34兆円に達し、世界の再軍備が数字になって表れた
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「儲け」より「受注の山」で株価が1割上がった日 — ロッキードの受注残が過去最高34兆円に達し、世界の再軍備が数字になって表れた

決算発表の日にいちばん大きく動いた数字は、その四半期に稼いだ利益ではありませんでした。
米ロッキード・マーチンが2026年7月23日に出した4-6月期決算で、株価を約1割押し上げたのは、手元に積み上がった「受注残」——これから作って納める分の注文の山——が過去最高に膨らんだことです。
同じ日、同業のRTX(旧レイセオン)の株も約7%上がりました。二社に共通していたのは、四半期の売上や利益の伸びよりも、受注残が記録を更新したという一点です。
売上や利益は「もう済んだ商売」の結果です。受注残は「これから確実に売上になる商売」の量を映します。防衛大手の決算では、後者のほうが会社の数年先を語る——その構図が、この日はっきりと数字に出ました。
いま何が起きたか — 主役は四半期の利益ではなく「受注残」
決算そのものは堅調でした。
4-6月期の売上高は200億ドル(約3.0兆円、前年比+11%)。
会計上の希薄化後EPSは$7.94で、市場予想の$7.09を上回りました。
純利益は18.4億ドル(約2,750億円)です。
ただし、前年同期のEPSは$1.46でした。
EPSが5倍以上に跳ねたように見えますが、これは前年に一時的な損失で利益が大きく削られていた反動で、伸び率は実力以上に膨らんで見えます。
この四半期のクリーンな成長は、売上の+11%と、次に述べる受注残のほうに表れています。
投資家がこの日いちばん反応したのは、受注残でした。
総受注残は2,304億ドル(約34.6兆円)と過去最高。
2025年末の1,936億ドルから、半年で約370億ドル増えています。
押し上げたのは当四半期の新規受注で、その額は650億ドル(約9.75兆円)に達しました。
四半期の売上200億ドルに対して、新規受注が650億ドル。受け取った注文が、売り上げた分の3倍を超えています。作って納めるより速いペースで、新しい注文が積み上がった四半期でした。
内訳を見ると、ミサイル部門の伸びが際立ちます。
| 部門 | 四半期売上 | 前年比 | 受注残 |
|---|---|---|---|
| ミサイル&火器管制(M&FC) | $4.101B | +19% | $87.882B |
| 航空(Aeronautics・F-35等) | $8.112B | +9% | — |
| 全社合計 | $20.063B | +11% | $230.416B |
ミサイル&火器管制の受注残は879億ドル(約13.2兆円)まで膨らみ、前四半期比でほぼ倍増しました。
中心にあるのが、四半期中に結んだミサイル防衛庁(MDA)とのTHAAD迎撃システムの複数年契約350億ドル(約5.25兆円)です。
1本の契約が、部門の注文の山を一気に押し上げました。
航空部門はF-35の増産で売上+9%、四半期のF-35納入は19機でした。
会社は通期の見通しも引き上げました。
売上は797.5億〜817.5億ドル(従来775億〜800億ドル)へ、希薄化後EPSは29.95〜30.65ドルへ、フリーキャッシュフローは約70億〜72億ドルへ。
決算の合格・不合格ではなく、受注残の記録更新と見通しの引き上げが重なったことが、この日の株価反応を作りました。
なぜ「受注残」が効くのか — 「注文が先、売上は後」という時間差の商売
防衛大手の商売は、注文と売上のあいだに長い時間差があります。
ミサイルや戦闘機は、契約してから数年かけて作り、納めるたびに売上を立てる。
だから今期の売上は、多くが数年前に受けた注文の「答え合わせ」です。
逆に、いま受けた注文は、これから数年の売上として姿を現します。
この時間差を測る物差しが、受注残と、その増減を映す「ブックトゥビル(book-to-bill)」です。

ブックトゥビルは、その期間の新規受注を売上で割った比率です。
1を超えていれば、売った分より多く注文を受けた——つまり受注残は増え、将来の売上の土台が厚くなったことを意味します。
1を下回れば、食いつぶしが始まっています。
この四半期のロッキードは、新規受注650億ドル÷売上200億ドルで、比率はおよそ3.2。
売った分の3倍を超える注文を受けた計算です。
THAADの350億ドルという大型の複数年契約が一度に載ったことが大きく、毎期この水準が続くわけではありません。
それでも、受注残が過去最高を更新したという事実は、これから数年ぶんの売上が「見える」状態になったことを示します。
背景にあるのは、世界的な再軍備です。
ミサイル&火器管制の売上が+19%と全社を大きく上回ったのは、PAC-3、THAAD、精密攻撃ミサイル(PrSM)といった迎撃・攻撃ミサイルの増産が動いているからです。
各国が防空とミサイルの在庫積み増しを急ぐ動きが、注文となって特定の部門に集中して表れている——受注残の中身は、そのまま需要の地図になっています。
F-35に象徴される戦闘機も、欧州やアジアの同盟国が調達を積み増す流れが続いており、航空部門の売上+9%を支えています。
受注残には「質」の面もあります。
総受注残2,304億ドルのうち、すでに政府の予算が付いて資金が確定している分と、複数年契約の枠だけ決まって各年度の予算措置を待つ分とでは、売上に変わる確実性が違います。
THAADのような複数年契約は枠が大きい一方、実際の売上は各年度に配分される予算に沿って刻まれていく。
だから受注残の額面だけでなく、そのうちどれだけが資金の裏づけを持つかも、変わりやすさを左右します。
防衛の売上は、契約の進み具合に応じて少しずつ計上する会計(進捗基準)で立つため、大型契約を取った四半期に一気に売上が跳ねるわけではなく、数年かけてならされて表れます。
受注を現金と将来売上にどう変えるか
受注残の膨張と並んで、この四半期でもう一つ方向が変わった数字があります。
現金です。
営業キャッシュフローは32.4億ドル、フリーキャッシュフローは29.2億ドル(約4,375億円)。
前年同期のフリーキャッシュフローはマイナス1.5億ドルでしたから、赤字からプラスへ大きく振れました。

この振れは、防衛ビジネスの入金の仕組みが効いています。
大型の複数年契約では、政府が製造の進み具合に応じて前もって代金の一部を払う。
作っている最中に現金が入ってくるので、受注残が厚くなる局面では、運転資金の重さが和らぎ、手元現金が増えやすくなります。
前年に現金が出ていく側に振れていたのは、その裏返しの局面だったからで、今期はそれが反転しました。
この現金があるから、通期のフリーキャッシュフロー見通しを約70億ドル超へ引き上げられます。
現金が厚くなることには、もう一つの意味があります。
防衛大手は、稼いだ現金の多くを配当と自社株買いで株主に返してきた会社です。
フリーキャッシュフローがマイナスから約29億ドルへ反転し、通期でも70億ドル超が見込めるなら、その原資が厚くなる。
受注残という将来の売上の見通しと、いま手元に増えている現金の両方がそろったことが、この決算が「注文も現金も上向いた」四半期として受け止められた理由です。
ただし、増産のための設備投資や部品在庫の積み増しにも現金は要るため、株主還元と能力増強のどちらにどれだけ回すかは、受注残を利益に変える速さを左右する配分の判断になります。
一方で、この数字を来期以降の計画に置くなら、注意したいことが一つあります。受注残は「見える売上」ですが、それを実際の売上に変える速度には上限があるという点です。
受注残34兆円は、放っておけば毎年一定額が売上に落ちるわけではありません。
ミサイルや戦闘機を作るには工場・治具・熟練工・部品供給網が要り、その処理能力を超えては納品できない。
だから会社は、過去最高の受注残を抱えながらも、通期売上の見通しは前年比8%程度の引き上げにとどめています。
注文の山が3倍で積み上がっても、それを売上に変える速さは、能力の増強ペースで頭打ちになる。
受注残の大きさと、来期の売上の伸びは、同じ速さでは動きません。
どれくらい先まで売上が見えているのかは、ざっくり測れます。
受注残2,304億ドルを、通期売上の見通し(約800億ドル)で割ると、およそ2.9年分。
いまの生産ペースで消化しても、3年近い売上があらかじめ埋まっている計算です。
多くの製造業が数か月先の受注しか見通せないなかで、この可視性の高さが、防衛大手の株が景気の波に対して底堅く評価される理由の一つになっています。
だからこそ、能力を増やして変換の速さを上げられるかが、受注残の厚みを実際の成長に変える鍵になります。
増産のために工場や人を増やす投資は、当座は費用として利益を圧迫しますが、それをためらえば、せっかくの受注残が寝たままになります。
見るべきは、受注残の絶対額だけではなく、それが「どれだけの速さで、どれだけの利幅で」売上に変わるかです。
ミサイル部門は増産の初期に薄い利幅で数を作る局面があり、量が出るほど利幅が戻る。
受注残という将来の売上を、どの部門が、どの利益率で、いつ現金に変えるか——この3つの角度で読むと、記録的な受注残が数年後の利益にどう効くかの輪郭が見えてきます。
ただし、可視性が高いことは、リスクがないことを意味しません。
防衛大手は過去、固定価格で請け負った開発プログラムで想定を超えるコストが出て、大きな損失を計上したことがあります。
前年同期のEPSが$1.46まで沈んでいたのも、この種の一時費用が響いた四半期でした。
今期のEPSが$7.94へ跳ねて見えるのは、裏を返せば、前年がそれだけ特殊な低い基準だったということです。
受注残が厚くても、その中に採算の読みにくい固定価格の開発案件がどれだけ混じっているかで、将来の利益のぶれ方は変わります。
受注残の額と並べて、契約の型——実費を積み上げて精算するコスト精算型か、あらかじめ値段を決める固定価格型か——まで見ておくと、記録的な注文の山が素直に利益へ変わるかの確度が測れます。
あわせて、政府予算という一つの財布に需要が集中している構造も、裏側のリスクです。
予算の削減や優先順位の変更が起きれば、受注残の一部は絵に描いた餅になり得ます。
見立てと監視ポイント
この先は、受注残の厚みそのものより、それを売上・利益・現金に変える「変換の質」で評価が定まります。次の数四半期で輪郭が出るのは、以下の3点です。
- ブックトゥビルの推移 — 今期はTHAADの大型契約で3倍超に跳ねました。次の焦点は、大型契約の一過性を除いても比率が1を上回り続けるか。1を割り込む四半期が続けば、受注残の食いつぶしが始まった合図になります。
- ミサイル部門の利益率 — 売上が+19%と全社をけん引する一方、増産初期は利幅が薄くなりがちです。数量が伸びるにつれて営業利益率が戻るか、それとも薄いまま張り付くかで、受注残が利益に変わるかが決まります。
- フリーキャッシュフローの変換 — 前受金で潤う局面が続くか。受注残の増加が止まったとき、現金の出入りがどちらに振れるかが、決算の質を映します。あわせて、F-35の生産量と単価交渉の行方も、航空部門の売上の伸びを左右します。
腹落ち確認の問い
ロッキードの株価は、四半期の利益そのものよりも「受注残が過去最高を更新した」ことに強く反応しました。
売上や利益はすでに確定した結果なのに、なぜ市場は、まだ売上になっていない受注残のほうを重く見たのでしょうか。
防衛大手の「注文が先、売上は後」という時間差をふまえて、考えてみてください。
考え方
鍵は「決算の数字が語る時制」の違いです。
四半期の売上200億ドルや利益は、多くが数年前に受けた注文を作り終えて納めた結果——つまり過去の商売の答え合わせです。
一方、受注残2,304億ドルは、これから数年かけて売上に変わる商売の量を示します。
会社の価値は、過去に稼いだ額よりも、これから稼げる額の見通しで決まる。
だから、いま受けた注文が売った分の3倍を超え、受注残が過去最高を更新したという事実は、「向こう数年ぶんの売上が見えるようになった」という将来情報として、確定済みの四半期利益より重く扱われます。
加えて、大型の複数年契約は製造中に前受金が入るため、受注残が厚くなる局面では現金も増えやすい。
実際この四半期は、前年のマイナスから29億ドルのプラスへ現金が反転しました。
ただし受注残は「見える売上」ではあっても、工場や熟練工の能力を超えては納品できないため、売上への変換速度には上限があります。
だから読むときは、受注残の大きさだけでなく、それが「どの速さで・どの利幅で」売上と現金に変わるかまで見る。
市場が受注残に反応したのは、それが会社の数年先を最もよく語る数字だからです。
関連リンク
- 一次情報(決算リリース): Lockheed Martin Reports Second Quarter 2026 Financial Results(PR Newswire, 2026-07-23)
- 一次情報(IR): Lockheed Martin Reports Second Quarter 2026 Financial Results(investors.lockheedmartin.com)
- 二次情報(株価反応・受注残): Lockheed Martin Rockets 10%, RTX Jumps 7% on Beat-and-Raise Quarters and Record Backlogs(24/7 Wall St.)
- 関連の既出深掘り(AI防衛スタートアップの資金調達): helsing-series-e-defense-ai
- 関連の既出深掘り(据付基盤と受注残の決算読解): ge-aerospace-q2fy26-installed-base-economics
- 関連業界レポート: 重工業業界基礎ガイド
出典
- 一次(決算) — Lockheed Martin「Second Quarter 2026 Financial Results」(2026-07-23, PR Newswire転載=Lockheed IR一次)。売上$20.063B(+11%)・GAAP希薄化EPS$7.94(市場予想$7.09)・純利益$1.836B・営業CF$3.235B・フリーCF$2.917B・総受注残$230.416B(過去最高、2025年末$193.6B)・当四半期新規受注$65B・THAADのMDA複数年契約$35B・M&FC売上$4.101B(+19%)/受注残$87.882B/営業益$594M・航空$8.112B(+9%)/F-35四半期納入19機/営業益$760M・通期2026ガイダンス上方修正(売上$79.75-81.75B〈従来$77.5-80.0B〉・希薄化EPS$29.95-30.65・FCF約$7.0-7.2B)。WebFetch照合: https://www.prnewswire.com/news-releases/lockheed-martin-reports-second-quarter-2026-financial-results-302833219.html
- 二次(株価反応・文脈) — 24/7 Wall St.(2026-07-23)ほかBenzinga・Seeking Alpha・gurufocus。LMT約+10%、RTX約+7%、record backlog、PAC-3/THAAD/PrSMの増産、global rearmamentの文脈を確認。https://247wallst.com/investing/2026/07/23/lockheed-martin-rockets-10-rtx-jumps-7-on-beat-and-raise-quarters-and-record-backlogs/
- source_confidence: High(Q2 2026の主要数値を決算リリース一次でWebFetch照合。株価反応・文脈は複数二次で一致)
- 反証1パス — 前年同期EPS$1.46は一時費用で圧縮された低い基準で、EPSのYoY急伸は実力以上に見える。クリーンな伸びは売上+11%と受注残の記録更新で読む、と本文で明記。ブックトゥビル約3.2倍はTHAAD$35B複数年契約の一括計上を含む一過性の高さである点も本文で注記。
- 注記: 円換算は1ドル=約150円で概算($230.4B受注残≒34.6兆円、$65B≒9.75兆円、$35B≒5.25兆円、$20.06B≒3.0兆円、$2.917B≒4,375億円)。RTXは旧レイセオン・テクノロジーズ。THAAD=終末高高度防衛ミサイル、PrSM=精密攻撃ミサイル、MDA=米ミサイル防衛庁。