📚 業界ノート

最新の製造装置は買えない。だから4回に分けて焼いた — 中国CXMTの第5世代DRAMと「ウエハ1枚5割増し」の但し書き

深堀AI・イノベ2026-09-22

【国際・海外企業】連載・AI・イノベ中国【科学・半導体】【経済・半導体電子部品】

#CXMT#長鑫存儲#DRAM#半導体#露光#輸出規制#メモリ市況

目次
  1. 発表された数字
  2. 一度に描けない線を、4回に分けて描く
  3. 「1枚から5割増し」をそのまま読んではいけない
  4. 4番手が増えると、部材費の前提が変わる
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. もっと詳しく知りたい人へ

最新の製造装置は買えない。だから4回に分けて焼いた — 中国CXMTの第5世代DRAMと「ウエハ1枚5割増し」の但し書き

最新の露光装置なしで微細化を進めた仕組みと、その但し書きを示す概要図

半導体の微細さは、長いあいだ「どれだけ細い光を当てられるか」で決まってきました。
その一番細い光を出す装置はオランダのASML1社しか作っておらず、中国には1台も入っていません。
中国最大のメモリメーカーが2026年9月20日に出した発表は、その装置を使わずに第5世代の製品を量産に乗せた、という報告でした。

発表された数字

CXMT(長鑫存儲)は2026年9月20日、合肥で開かれた2026世界製造業大会で、第5世代のDRAM技術プラットフォーム「G5」の量産開始を発表しました。
DRAMは、パソコンやスマートフォンが計算の途中経過を一時的に置いておくメモリです。

公式発表に並んだ数字は、次のとおりです。
記憶素子が並ぶ領域の線の細かさ(ハーフピッチ)は11.95ナノメートル。
電気を溜めるコンデンサの縦横比(アスペクト比)は45対1。
素子が詰まったコア領域の高さは6,762ナノメートル。
そして、直径300ミリのウエハ1枚から取れるチップの数が、前の世代より「最低50%多い」と書かれています。

製品としては、24ギガビットのLPDDR5Xがすでに量産に入っています。
スマートフォンや携帯機器向けに、496ボールと245ボールの2つのパッケージ形状で出荷しており、1チップあたりの容量は前世代の1.5倍です。

使った技術は、四重露光と、DRAM工程に合わせたHKMG(高誘電率メタルゲート。絶縁膜の材料を替えて電気の漏れを抑える作り方)です。この2語に、この発表のほぼすべてが入っています。

一度に描けない線を、4回に分けて描く

半導体の回路は、光をあてて感光材に模様を焼き付けて作ります。
細い線を描くには波長の短い光がいる。
最先端のEUV(極端紫外線)装置は波長13.5ナノメートルの光を使い、細い線を一度に描けます。
この装置はASMLだけが作っていて、オランダ政府が2019年から中国への輸出を認めていません。
中国に納入された実績はゼロです。

EUVがないと、波長193ナノメートルのArF液浸装置で描くことになります。
細い線を一度には描けないので、少しずつ位置をずらして何回かに分けて描き、重ね合わせて細かい模様を作ります。
2回に分ければダブルパターニング、4回に分ければ四重露光です。
「一番いい筆がないので、細い筆で4回なぞる」に近い作業だと考えると近いです。

ただし、この回り道には値札がついています。
工程が増えれば、その分だけ装置を占有する時間が延び、マスク(模様の原版)も増え、1枚のウエハが工場を出るまでの日数が長くなります。
さらに厄介なのが誤差です。
4回に分けて描くと、1回ごとのわずかな位置ずれや線幅のばらつきが積み重なり、線の間隔が均一にならない現象(ピッチウォーク)が起きやすくなります。
EUVを使う競合は、この積み重ねを最初から背負っていません。

もう1つの数字、アスペクト比45対1も、同じ制約から出てきています。
DRAMは電荷を溜めて情報を保つ仕組みなので、面積を詰めていくとコンデンサの容量が足りなくなる。
横に広げられないなら、縦に掘るしかありません。
直径1に対して深さ45の穴を、崩さず均一に開ける——コア領域の高さ6,762ナノメートル(約6.8マイクロメートル)という数字は、その垂直方向への逃げ道を選んだ結果です。

一度に描けない線を4回に分けて描く仕組みと、その代償を示す図

「1枚から5割増し」をそのまま読んではいけない

この発表でいちばん経済に効くのは、ハーフピッチではなく「ウエハ1枚あたりのダイ数が最低50%増」のほうです。
ウエハ1枚を流すのにかかる費用はおおむね決まっているので、そこから取れるチップが増えれば、チップ1個あたりの原価は下がります。

ただし、この50%は歩留まり選別の前、つまり切り出す前に図面上で何個取れるかという粗い数です。
実際に売れるのは、電気的な検査を通った良品だけです。
CXMTは歩留まりも月産枚数も公表していません。
したがって「供給量が5割増える」とも「原価が3分の2になる」とも、この発表からは読めません。

しかも、四重露光は工程を増やすので、ウエハ1枚あたりの費用そのものを押し上げます。
増えたチップ数と増えた工程費、どちらが勝つかは歩留まり次第です。
取れる数が5割増えても、良品率がそれ以上に落ちれば原価は下がりません。
逆に、歩留まりが競合並みに乗ってくれば、装置のハンデを工程の工夫で埋めたことになります。
この発表は、その勝負がまだ途中だという報告として読むのが正確です。

4番手が増えると、部材費の前提が変わる

背景には、2026年のメモリ市況があります。
TrendForceの2026年9月7日の集計では、2026年4〜6月期のDRAM業界全体の売上は1,547.3億ドルで、前の四半期から59.5%増えました。
サムスンが39.4%、SK hynixが24.9%、マイクロンが23.3%と、上位3社で87.6%を占めます。
AIサーバー向けの需要が強く、価格が上がったことで業界全体の売上が膨らんだ四半期でした。

その上位3社が高収益のAI向けメモリに生産を寄せるほど、パソコンやスマートフォンに載る汎用のDRAMは手薄になります。
CXMTが伸びているのは、ちょうどこの空いた場所です。
Counterpoint Researchの2026年8月4日の分析では、同社の同期の売上は前年同期比で716%増え、最も伸びた供給者になりました。
同社は7月27日に上海の科創板へ株式を上場し、発行価格8.66元で約579億元を調達しています(発行時の時価総額は約5,792億元)。
設備と研究に投じる現金を、市場から確保したばかりです。

ここから先は、メモリを買う側の話になります。
同じTrendForceの見通しでは、7〜9月期の汎用DRAMの契約価格の伸びは前四半期比13〜18%へ鈍ります。
上がり続ける前提で組んだ部材費の予算は、上げ幅が半分以下に落ちる局面に入るということです。
一方で、4番手の供給量がどこまで実際に増えるかは歩留まり次第で、そこは公表されていません。

来期の原価計画にこの数字を置くなら、置き方は2つに分かれます。
価格の伸びが鈍る前提だけを取り込んで部材費を緩めると、供給側の増産が遅れたときに足元をすくわれます。
逆に、二社購買の相手として新しい供給者を組み込むかどうかは、価格ではなく品質認定と地政学的な条件で決まる話です。
CXMTは米商務省のエンティティリスト(取引に許可が要る企業の一覧)には、本稿時点で正式掲載が確認できません。
ただし国防総省が別に持つ「中国軍事企業」リストには2026年6月に再掲載されたと報じられており、両者は制度が別です。
調達先として評価するなら、この2つを分けて確認する必要があります。

見立てと監視ポイント

この発表の意味は「中国が最先端に追いついた」ではなく、「最先端の装置なしでどこまで押せるかの、現時点での到達点が公開された」ことにあります。
ハーフピッチの数字が競合の世代と近いことは、性能・消費電力・信頼性が同等であることを意味しません。
装置のハンデは、工程数と時間とばらつきという別の形で残っています。

腹落ち確認の問い

CXMTは「ウエハ1枚から取れるチップの数が前世代より最低50%多い」と発表しました。この一文を「チップ1個あたりの原価が約3分の2になった」と読み替えるのは、なぜ危ういのでしょうか。

考え方

危うい理由は2つあります。
1つ目は、50%が「切り出す前に何個取れるか」という図面上の数であることです。
売れるのは検査を通った良品だけで、その割合は公表されていません。
取れる数が増えても、良品率が落ちれば1個あたりの原価は下がりません。
2つ目は、分母も動いていることです。
四重露光は描く回数を増やす作り方なので、工程数・装置の占有時間・マスクの枚数が増え、ウエハ1枚を流す費用そのものが上がります。
原価は「ウエハ1枚の費用 ÷ 良品の数」で決まるので、分子が上がり分母の実数が不明なままでは、方向すら確定できません。
発表の数字が「良品」と「月産枚数」で語られ始めたとき、初めて原価の話ができるようになります。

出典(一次/二次の切り分け)
  • 一次・CXMT(2026年9月20日) — 第5世代DRAM技術プラットフォームG5の量産開始、有効領域ハーフピッチ11.95ナノメートル、蓄電容量のアスペクト比45対1、コア機能領域の高さ6,762ナノメートル、ウエハあたりダイ数が前世代比で最低50%増、四重露光技術、DRAM工程に適合させたHKMG、24GbitのLPDDR5Xを496Ball・245Ballの2パッケージで量産中・容量は前世代比50%増、発表の場が合肥の2026世界製造業大会であることを原文で照合しました。
  • 二次・TechNode(2026年9月21日) — 同一の技術数値と製品仕様を独立に確認しました。
  • 二次・TrendForce(2026年9月7日) — 2026年4〜6月期のDRAM業界売上1,547.3億ドル・前四半期比59.5%増、Samsung 39.4%・SK hynix 24.9%・Micron 23.3%、7〜9月期の汎用DRAM契約価格の伸びが前四半期比13〜18%へ鈍る見通しを照合しました。同リリースにCXMTの数値は含まれません。
  • 二次・Counterpoint Research(2026年8月4日) — CXMTの4〜6月期売上が前年同期比716%増で最も伸びた供給者であること、伸びの中身が国内向けの汎用DRAMであることを確認しました。
  • 二次・IT之家(2026年7月23日) — 2026年7月27日の科創板上場、発行価格8.66元、発行市値約5,791.88億元、調達額579.19億元を照合しました。
  • 反証1パス — ウエハあたりダイ数50%増は歩留まり選別前の粗ダイ数で、良品数でも供給量でもありません。ハーフピッチが競合の世代と近いことは、性能・消費電力・信頼性・HBM対応力の同等性を意味しません。歩留まりと月産枚数はCXMT未公表です。エンティティリストへの正式掲載は本稿時点で確認できず、国防総省の別リストの件と混同されやすい点を切り分けました。発行市値と調達額を取り違えた二次要約があったため、原文で確認し直しています。

もっと詳しく知りたい人へ