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先端チップを作る装置は、ほぼ世界で1社の独占だった — その牙城に、中国が国産の露光装置で穴を開け始めた

トピック分析AI・イノベ2026-07-29

【国際・通商】連載・AI・イノベ中国欧州(EU)【経済・半導体電子部品】【科学・半導体】

#AI・イノベ#半導体#露光装置#液浸DUV#ASML#輸出規制#中国#サプライチェーン#半導体自給率

目次
  1. 何が起きたか
  2. なぜ露光装置が「急所」なのか
  3. 輸出規制が国産化を押した
  4. 「5台」をどう評価するか
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. 関連リンク
  8. 🖼️ 画像生成 handoff seed(C3契約・queue 正本)
  9. 図1: china_duv_litho_overview_1.png
  10. 図2: china_duv_litho_positioning_2.png

先端チップを作る装置は、ほぼ世界で1社の独占だった — その牙城に、中国が国産の露光装置で穴を開け始めた

overview

半導体づくりで最後まで他国が真似できなかった工程が、光で回路を焼き付ける「露光」です。その心臓部の装置は、実質的に世界で1社が握ってきました。オランダのASMLです。

2026年7月28日、その牙城に中国が国産機で穴を開け始めた、という報道が流れました。
中国が自前の露光装置の量産を始めたというものです。
ただし焼き付ける精度は最上位ではなく、台数もごくわずか。
これは「中国が追いついた」話ではなく、「締め出されても自分で作れる道を確保し始めた」話です。
過大にも過小にも読まず、何がどこまで変わったのかを分けて見ていきます。

何が起きたか

中国が、国産の液浸DUV露光装置の量産を限定的に始めた、とロイターが報じました。 生産の主体は、2023年8月に設立された国有企業・上海愛晟納電子科技集団(Shanghai Aishengna)です。
登録資本は7億元(約10億ドル)で、株主は上海電気集団などの国有勢です。

この会社は、中国が長年開発してきた露光装置メーカーSMEE(上海微電子装備)と、新興のYuliangsheng(上海宇量昇)の技術陣を統合してできました。
バラバラだった国産露光の開発力を、一つの国有の器に束ねた形です。
台数の計画は下表のとおりで、まだ試作から量産へ移る入り口の規模です。

項目 内容
生産主体 上海愛晟納(国有・2023年8月設立・登録資本7億元)
生産計画 2026年に約5台、2027年に約20台
初期納入先 SMIC・Hua Hong・CXMT(いずれも中国の主要チップメーカー)
装置の種類 液浸DUV(レンズとウェハーの間に水を挟む方式)
精度 28nm級を単一露光、7nmはマルチパターニングで到達

初年の量産は約5台、翌2027年で約20台にとどまります。
しかも一部の主要部材はいまも日本から輸入しており、部材の遅れが今年の生産を抑えたと報じられています。
性能や仕上がりの品質はASML機に及ばず、追加の検証が要る段階だとされます。
「作れる」段階に入ったが、「大量に安定して作れる」段階ではない——ここが出発点の事実です。

なぜ露光装置が「急所」なのか

半導体の製造装置の中でも、露光装置だけは1社にほぼ握られていて、そこを止められると先端チップが作れなくなります。 だからこの工程は、供給網の急所と呼ばれます。

露光は、回路のパターンを光でウェハーに焼き付ける工程です。
どこまで細かい線を描けるかが、そのままチップの世代を決めます。
この装置の市場は、金額ベースでASMLが約94%を占め、日本のニコンとキヤノンが残りを分け合うだけの、極端に偏った構造です。

さらに世代別に見ると、偏りはもっと深くなります。
最先端の回路を描くEUV(極端紫外線)露光装置は、ASMLが事実上100%を独占し、他社は作れません。
その一段下の液浸DUVでも、ASMLのシェアは85%を超えます。
今回中国が作り始めたのは、この液浸DUV——先端の最上位ではなく、その手前の主力装置です。

positioning

装置の値段も桁違いです。
液浸DUV1台がおおむね数千万ドル、最先端のEUVは1台150〜380億円規模とされます。
1社が、これだけ高価で代替のきかない装置を握っている——この事実が、半導体を「誰に作らせ、誰に作らせないか」を国が左右できる理由になっています。露光装置は、チップ産業ののど元を押さえる蛇口なのです。

輸出規制が国産化を押した

中国が国産機を急ぐのは、ASML製の装置を段階的に締め出されてきたからです。 追いつくための挑戦というより、断たれても困らないための備えという性格が濃くなっています。

対中規制は、上位の装置から順に降りてきました。時系列で見ると、締め付けが液浸DUVの下位機種にまで及んできた流れがわかります。

時期 内容
2019年〜 EUVは対中輸出を禁止(ASMLの対中EUV出荷は実績ゼロ)
2024年1月 オランダが高性能液浸DUV(NXT:2050i/2100i)のライセンスを撤回、米はNXT:2000iを規制対象に
2024年9月 規制をNXT:1970i/1980iへ拡大(液浸DUVの下位機種まで許可制に)
2024〜25年 既設装置の保守・サービスにも制限が及ぶ

止められて痛いのは、新規購入だけではありません。
すでに中国の工場に入っている装置も、保守や部品供給を断たれれば、やがて動かせなくなります。
「買えない」だけでなく「直せない」リスクが、自前の装置を持つ動機を押し上げました。

規制の効果は、ASML側の数字にも表れています。
ASMLの売上に占める中国向けの比率は、2024年の約36%(一部四半期ではピーク約41%)から2025年に約33%へ下がり、2026年は約20%へ落ちる見通しです。
世界最大の顧客だった中国市場が、規制で細っていく——その裏側で、中国は国産化の速度を上げています。

「5台」をどう評価するか

この国産化は、過大評価も過小評価もすべきではありません。 「中国がASMLに追いついた」でもなければ「たいしたことはない」でもない、その中間に本当の意味があります。

まず、過大評価を戒める側から。
今回作られたのはEUVではなく液浸DUVで、先端の最上位ではありません。
台数も年5台で、ASMLが年に約130台の液浸DUVを出荷するのと比べれば、試作に毛が生えた規模です。
主要部材は日本頼みのままで、独立系の分析は中国が商用規模の液浸DUVを持つのは2030年代半ばと見ています。
中国のこれまでの国産露光(SMEE)は90nm級の量産にとどまり、28nmは長く「開発中」のままでした。
一足飛びの逆転ではありません。

規模の差も直視すべきです。
中国の一つの大型工場だけでも、露光装置は数十台単位で必要になります。
年5台では、まず1ラインを部分的に賄うのがやっとで、国全体の需要を置き換える水準には遠く及びません。
しかもASML機は1台数千万ドルと高価なぶん、性能・稼働・保守までを含めた「使い倒せる完成度」で長年鍛えられてきました。
台数だけでなく、その完成度に追いつくにはさらに時間がかかります。

一方で、過小評価も禁物です。
液浸DUVでも、露光を複数回に分けるマルチパターニングを重ねれば7nm級まで届きます。
実際、SMICはEUVを使わずにDUVとマルチパターニングで既に7nmを量産し、Huaweiの最新スマホ向けチップに載せています。
先端の入り口である7nmは、EUVなしでも作れることが実証済みなのです。
ただしマルチパターニングは、同じ層を何度も露光して細い線を作る力業で、工程数が増え、時間もコストもかさみ、歩留まりも落ちます。
5nmへ進むほどこの負担は重くなり、EUVの代わりを完全には務められません。

背景には、中国の半導体自立がまだ道半ばである現実もあります。
「Made in China 2025」は半導体の自給率70%を掲げましたが、実際の自給率は約30%にとどまります。
製造装置の国産化率も、2023年の約9.6%から足元で約35%へ上がってきたとはいえ、露光装置のような急所ほど輸入依存が残ります。
今回の国産機は、その最後の空白を自前で埋めにいく一手という位置づけです。

つまり今回の一歩の意味は、性能で並んだことではなく、供給を断たれても回路を焼き続けられる「代替の蛇口」を中国が国内に持ち始めたことにあります。
細くて質の劣る蛇口でも、ゼロと1では意味がまったく違います。
規制で締め上げるほど国産化を促す——この皮肉な循環が、数字になって現れ始めた瞬間です。

この構図は、日本にも直接効いてきます。
ニコンとキヤノンは、ASMLが握れない液浸DUVの隙間で存在感を持つ数少ないメーカーです。
中国が国産機を育てれば、まず影響を受けるのはASMLより、この下位・中位市場を分け合ってきた日本勢かもしれません。
同時に、中国国産機がなお日本製の部材に頼っている点は、日本の部材・部品メーカーにとっては当面の商機でもあります。規制と国産化のはざまで、日本の立ち位置は「装置の競争相手」と「部材の供給者」に割れている——そこを分けて見るのが、この報道の実務的な読み方になります。

見立てと監視ポイント

「国産化がどこまで進むか」を追うなら、見出しの台数ではなく次の3点が動くかを見ます。

腹落ち確認の問い

同じ「国産化に成功」という見出しでも、産業構造を実際に動かす一歩と、象徴的なだけで実力は伴わない一歩があります。
中国の今回の液浸DUV量産は、どちらに近いでしょうか。
台数・精度・部材の3点を思い出して考えてみてください。

考え方

実力を測る鍵は「性能」だけでなく「代替できるか」です。
今回作られたのはEUVではなく液浸DUVで、年5台・主要部材は日本頼みという点だけを見れば、性能でASMLに並んだわけではなく、象徴的な一歩に見えます。
しかし意味は別のところにあります。
露光装置は供給網の急所で、そこをASML1社に握られ、規制で段階的に締め出されてきたのが中国でした。
そこへ、細くて質は劣っても「自前で回路を焼ける装置」を持ち始めたことが本質です。
しかもSMICはEUVなしのDUV+マルチパターニングで既に7nmを量産しており、装置さえ国内で確保できれば先端の入り口までは自力で届く土台があります。
だから今回は「追いついた」でも「無意味」でもなく、供給を断たれても止まらない代替経路を確保し始めた一歩、と読むのが妥当です。
数字の大小より「止められたときに代わりがあるか」を見ることが、供給網ニュースを読む出発点になります。

関連リンク

出典
  • 一次(報道) — Reuters 独自報道『China starts production of home-grown immersion DUV chipmaking tools – source』/掲載日 2026-07-28 /公式発表ではなく関係者取材ベース /AOL/Kathmandu Post/Business Day/WTVB等の同日ワイヤ配信で照合
  • 二次 — Tom's Hardware・TrendForce・The Next Web・自由財経(LTN)・観点網(生産主体=上海愛晟納、5台/20台、SMIC/Hua Hong/CXMT、SMEE+宇量昇の統合、28nm単一露光/7nmマルチパターニング、部材の日本依存)/TechInsights(SMICのEUVなし7nm量産)/ASML市場シェア・対中売上比率・輸出規制時系列は Counterpoint・SCMP・CNBC・TrendForce・ASML開示で補完
  • confidence: Medium — 公式発表のない関係者取材ベースの独自報道のため。多重の報道照合で核心事実は一致。反証1パス:(a)EUVではなく液浸DUVで先端最上位ではない、(b)年5台はプロトタイプ〜パイロット規模でHVM能力とは別物、(c)主要部材は依然日本依存、を本文で明示し過大評価を戒めた。金額シェア94%・液浸85%超・ASML対中比率は二次の概数、液浸DUV価格($50-80M)はアナリスト推計で公式値でない点も本文・note で注記。

🖼️ 画像生成 handoff seed(C3契約・queue 正本)

(図ごとに。codex が走査→PNG生成→反映→本セクション除去)

図1: china_duv_litho_overview_1.png

図2: china_duv_litho_positioning_2.png