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第7号 日本の年金は、なぜAIに張れないのか——294兆円の配分表から、フィジカルAIの遅れまでを一本の線でつなぐ

第3章AIとフィジカルAIへの資金——桁が2つ違う

ここまでの線をAIまで延ばします。

スタンフォード大学のAI Index 2026(2026年4月公表)によると、2025年の民間AI投資は米国が2,859億ドル、2位の中国が124億ドルでした。米国は2位の23倍です。

累積(2013年から2024年)では米国4,710億ドル、中国1,190億ドル、英国280億ドルに対し、日本は60億ドルで世界12位です。
経産省は2026年2月の資料で、日本のAI投資を「米国の100分の1以下」と表現しています。

基盤モデル企業の1回の調達額を並べると、差はさらに開きます。
OpenAIは2026年3月に1,220億ドル(評価額8,520億ドル)、Anthropicは2026年5月に650億ドル(評価額9,650億ドル)、xAIは2026年1月に200億ドルを調達しました。

欧州のMistralは2025年9月に17億ユーロ、中国のDeepSeekは約74億ドルの初回外部調達が報じられています。

日本で最大のSakana AIは、2025年11月のシリーズBで320億円(約2億ドル)、評価額4,320億円です。OpenAIの1回の調達額は、その約570倍です。

計算資源への投資でも同じです。
米国のハイパースケーラー(Amazon、Microsoft、Alphabet、Meta、Oracle)の2025年の設備投資は合計で約4,000億ドル、2026年は上位4社だけで7,200億ドルから7,450億ドルのガイダンスです。
1社あたり年間2,000億ドル前後を投じています。

日本政府のAI関連予算は、令和8年度当初で5,027億円(約34億ドル)です。
うち3,873億円が、経産省のフィジカルAI向けマルチモーダル基盤モデル開発、つまり2026年7月に始動した国家プロジェクトFRONTiaの初年度分です。
政府全体のAI予算が、Amazon1社の年間設備投資の60分の1という規模です。

もちろん、政府予算と民間の設備投資を単純に足し引きすべきではありません。ただ、計算資源の総量で見ても差は歴然です。

米連邦準備制度理事会の分析(2025年10月)では、設置サーバー台数は米国3,340万台、中国2,120万台、日本217万台で、AIスーパーコンピュータ容量の74パーセントを米国が持ちます。

AI計算基盤系スタートアップへの累積VC投資(2012年から2024年)は、米国519億ドル、中国408億ドル、日本6.38億ドルでした。

フィジカルAIも見ておきます。
2025年のヒューマノイド関連VC投資は世界で61億ドル、139件で、2024年の4倍でした。
Figure AIは2025年9月に10億ドル超を評価額390億ドルで、Skild AIは2026年1月に14億ドルを評価額140億ドルで調達しています。
中国は2025年のヒューマノイド出荷の約9割を占め、宇樹科技は上場で約9億ドルを集めました。

日本は、FRONTia(5年で最大1兆円)と、経産省の官民10.5兆円構想(2040年度まで)で対抗しようとしています。
ただ、これは政府主導の予算であり、年金からVC、VCからスタートアップという民間の管は依然として細いままです。

ヒューマノイド1分野の世界VC投資61億ドル(約9,150億円)は、日本のスタートアップ調達総額7,613億円を上回ります。

8. 反証——「日本には金がない」は正しいか

一見すると、ここまでの話は「日本には資金がない」という結論に見えます。しかし、それは誤りです。

日本の家計金融資産は2026年3月末で2,386兆円、うち現金・預金が1,126兆円(47.2パーセント)です。
年金資産はGPIFだけで300兆円超、企業年金が約88兆円、生命保険会社の総資産は418兆円です。
資本の総量では、日本は世界有数です。

しかも、日本の資本は海外のAIには流れています。
ソフトバンクグループはOpenAIへの出資を累計646億ドル(10兆円超)まで積み上げ、2026年3月の1,220億ドルの調達にも300億ドルを拠出しました。
日本最大のAI投資家は、日本のスタートアップではなく米国の基盤モデル企業に張っているのです。

つまり問題は「量」ではなく「経路」です。日本の資本が、日本の年金からVCを経て日本のスタートアップへ流れる管が細い。その一方で、事業会社や個人の資本は、海外の受け皿に直接流れている。

ここで、もうひとつの反証も置いておきます。米国のVC投資3,200億ドルの65.4パーセントはAI関連で、その大半はOpenAIやAnthropicなど数社のメガラウンドです。

NVCAの年鑑自身が、2025年の投資額はファンドレイズ(670億ドル)を大きく上回り、「資本枯渇への道」の懸念を書いています。
米国の数字は、数社の評価額が膨らんだ結果でもあり、これが健全な資金循環かどうかは別の問いです。

それでも、この反証は本記事の主張を弱めません。
バブルかどうかにかかわらず、基盤モデルとヒューマノイドの開発には、量産前に数千億円から数兆円の資金が必要です。
その資金を供給できる管が国内に無いなら、日本の企業は海外の資本に頼るか、政府予算に頼るか、参入を諦めるかしかありません。

9. 転換点——2025年から2026年に何が動いたか

変化は始まっています。公表日つきで並べます。

日本側の転換点は、いずれも「5パーセント上限に向けて」という方向です。
5パーセントは、2026年3月末の資産で14.7兆円に相当します。
現状の5.2兆円との差は9.5兆円です。
これは日本のスタートアップ調達総額の12年分にあたります。

ただし、この9.5兆円がそのまま国内VCに来るわけではありません。GPIFのオルタナティブはインフラと不動産が中心で、PEも海外バイアウトが主体です。日本向けPE・VCは、PEの約3パーセントです。

5パーセント上限に達しても、国内VCへの配分が現状の比率のままなら、流入は数百億円規模にとどまります。