第4号 ティアフォーIPOを読み解く——日本の自動運転はどこまで来たのか、投資家は何を確認すべきか
第2章世界の中で見た日本の位置
世界の主要プレイヤーを、順位ではなく「型」で整理します。
自前運行型の筆頭はWaymo(Alphabet傘下)です。
週40万回超の有料運行(2026年2月会社公表)を続けながら、同月160億ドルを調達し評価額は1,260億ドルに。
7月にはラスベガスで完全無人運行を始めたと報じられ、展開は米国約10都市圏に広がっています。
中国勢ではBaiduのApollo Goが27都市・累計2,200万回超(2026年4月時点)で、アブダビ・ドバイにも進出。
Pony.aiとWeRideはともにNasdaq上場済みで、車両1,700台超・約1,300台と規模を追っています。
Teslaは2025年6月にオースティンでロボタクシーを開始し、2026年4月からダラス・ヒューストン、7月にはマイアミへ拡大中です。
ただし第三者集計で車両は都市あたり数台〜20台規模とまだ小さく、台数や利用回数の定期開示はありません。
これに対し供給特化型がMobileye(ADAS・自動運転チップとソフトをメーカーに供給)や英Wayve(AIドライバーを日産などに供給)。
自分では運行せず、量産車に技術を売るモデルです。
トラック特化のAuroraも含め、世界の再編は「自前で運行するか、技術を供給するか」の二極に進んでいます。
では日本はどこにいるか。
冷静に言えば、ロボタクシーの商用運行では米中に3〜5年遅れています。
Waymoが週40万回を運ぶ間、日本のレベル4は実績8件です。
ただし、レベル3市販車の型式指定は日本が世界初でしたし、許可制度・責任制度は整備済み。
つまり「走らせる制度はあるが、走らせて儲ける事業者がまだいない」市場であり、そこに米国の勝者Waymoが入り始めた——これが2026年7月の構図です。
資本力の差も直視が必要です。
Waymoの直近調達160億ドル(約2.6兆円)に対し、ティアフォーの創業来調達は約381億円(2024年6月時点)+今回IPOで会社に入る手取り約193億円。2桁違う資本を相手に、同じ土俵で戦わない戦略が問われます。
5. ティアフォーは何をしている会社か
ティアフォーの出発点は、創業者の加藤真平氏(CEO)が2015年に公開したオープンソースの自動運転ソフト「Autoware」です。
ソースコードは無償公開され、知的財産権は国際団体のAutoware Foundationに帰属します。
コード貢献者の68%は社外で、加盟企業は100社超。
世界中の企業や大学が育てるエコシステムそのものが、この会社の土台です。
無償のソフトで、どう稼ぐのか。
届出書が描く収益モデルは3階建てです。
車載ソフト「Pilot.Auto」、開発・運用クラウド「Web.Auto」、センサー一式の「Edge.Auto」という製品群がその土台になります。
稼ぎ方は、①国や自治体の実証・技術支援(Solution)、②自動運転バスなどの車両販売と運行支援(Mobility)、③自動車メーカー向けの量産開発(Development)の3本です。
2025年9月期の売上構成はSolutionが43.9%、Mobilityが35.4%、Developmentが20.8%。現状の収益は公的案件と実証フェーズが中心です。
会社が目指すのは、車種ごとの「リファレンスデザイン」を整備し、量産車に技術が採用されたら販売台数に連動するライセンス・ロイヤルティを受け取る姿です。
ヤマハ発動機・KDDI・いすゞ・スズキと資本業務提携し、協業する完成車・部品メーカーは18社(2026年5月時点)。
KDDIとは「2030年までに累計1,000台の商用導入」という目標も掲げます(会社側目標です)。
競争優位になり得るのは、オープンソースゆえの採用のしやすさ、国内の制度対応と実証の先行実績(2024年10月には長野県塩尻市で、歩行者混在の一般道では全国初のレベル4認可)、そして保険のSOMPO・通信のKDDI・地図のアイサンテクノロジーまで含む「ティアフォー経済圏」の厚みです。
ただし、同じ構造が弱点にもなります。
オープンソースは競合も無償で使えるため、ソフトそのものでは課金しにくい。
中核IPが自社でなくFoundationに帰属する点も、技術の独占を難しくします。
NVIDIAやWayveのような資本力のあるAI企業が量産車向けソフト供給で先行すれば、Developmentの成長シナリオは細ります。
さらに、最大顧客のアイサンテクノロジー(売上の19.9%)は株主でもあり、売上の一部が経済圏内の取引で成り立っている点は割り引いて見る必要があります。
そして本記事のテーゼに戻ります。
仮に日本でロボタクシーが普及しても、それがWaymoや完成車メーカーの内製システムで実現するなら、ティアフォーの売上にはなりません。市場の成長は、この会社の利益成長の必要条件であって、十分条件ではないのです。
6. 財務分析——「営業赤字105億円」の中身を分解する
数字を見ます。
売上高は2024年9月期38.7億円から2025年9月期64.1億円へ65.6%増。
単体ベースでは5年で約8倍と、成長率は本物です。
2026年9月期上期(2025年10月〜2026年3月)も43.7億円と伸びています。
損益はどうか。
2025年9月期の営業損失は105.1億円。
売上64億円の会社が105億円の営業赤字と聞くと身構えますが、ここで費目の腑分けが要ります。
同期の研究開発費は85.5億円と売上の1.3倍あり、赤字の主因は先行投資です。
しかもその約65%(55.3億円)は国の補助金対象で、補助金収入55.3億円が営業外収益に計上される結果、経常損失は55.0億円まで縮みます。
当期純損失は48.0億円でした。
つまり「営業損失105億円」だけ見ると実力より悪く、「経常損失55億円」だけ見ると補助金頼みの構造を見落とします。
NEDOのグリーンイノベーション基金(総額約254億円・2031年3月まで)をはじめ公的事業が研究開発を支えており、届出書自身が「補助金の交付が減少すれば研究開発に重大な支障」と明記しています。
売上側も、NEDOと経産省で30%を占め、上位3販売先への集中度は50.2%。この会社の現在の損益は、良くも悪くも国策と一体です。
キャッシュはどうか。
営業キャッシュフローは年73億円の流出で、現金は2024年9月末の144億円から2025年9月末に69億円へ半減しました(2026年3月末は借入と増資で88億円に回復)。
ここにIPOの手取り約193億円が加わり、単純計算では現在の消費ペースで3年強の資金です。
ただし資金使途は研究開発87億円・量産投資72億円・組織拡張34億円と開示されており、支出はむしろ加速する計画です。黒字化前に追加調達(=希薄化)の可能性は頭に入れておくべきでしょう。
なお借入には手元資金を一定以上に保つ財務制限条項が付いています(閾値金額は本稿では未確認)。
黒字化の条件は、①Development(量産開発)が育ち、台数連動ロイヤルティという粗利の高い収益が立つこと、②自動運転バス(累計販売26台)や実装地域(50地域)が「実証の点」から「運行の面」に変わること、③それまで補助金と手元資金が持つこと。
この3つが揃う時期を、会社は開示していません(黒字化時期は未開示)。