📚 業界ノート

住友不動産株式会社

【経済・不動産業】不動産業企業バリュエーション分析更新 2026-09-17

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 収益ドライバーとコスト構造
  3. 開発ポートフォリオ
  4. 2. 財務の実力
  5. 5期のPL・BS・CF
  6. 財務健全性
  7. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  8. 現値データの整合性
  9. NCの2軸とCN-PER
  10. 倍率ベース感応度
  11. 4. 同業比較 — 差分の論点
  12. 5. リスクと論点
  13. 6. バリュエーション統合と論点整理
  14. 乖離の構造
  15. 条件分岐シナリオ
  16. 監視ポイント
  17. M&A・出資検討の論点
  18. 7. 学びのポイント
  19. 📚 着眼点1: 高い賃貸利益率と回収期間を同時に見る
  20. 📚 着眼点2: NCが負の不動産会社では倍率の分母を意識する
  21. 📚 着眼点3: 指標ポジショニング
  22. 参考情報
  23. ガバナンスとデータ時点
  24. 大株主構成
  25. 出典一覧

住友不動産株式会社(8830)銘柄分析レポート

SUMMARY

住友不動産は、東京都心のオフィス賃貸を利益の中核とし、不動産販売、ハウジング、仲介を組み合わせる総合不動産会社である。
FY2026/3通期実績は売上高 1,057,765百万円、営業利益 299,155百万円。
FY2027/3の会社予想は売上高1,070,000百万円、営業利益320,000百万円であり、通期実績とは区別する。
2026-09-17時点の株価は 3,193円、時価総額は 2,949,106.9百万円(29,491.1億円)。
予想PER13.32倍に対し予想EV/EBITDAは17.20倍で、資産収益力と負債を併読する必要がある。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 不動産業業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは住友不動産固有の事業構造に絞る。

収益の核は、東京都心に集中するオフィスを長期保有・運営する不動産賃貸である。
FY2026/3の賃貸売上高458,075百万円、営業利益210,181百万円は、連結売上高の43.31%、連結営業利益の約7割に当たる。
東京23区に賃貸オフィスの95%、都心7区に84%を置き、約1,800社のテナントを抱える。
多数の顧客による分散効果がある一方、東京の需給、賃料改定、災害への地域感応度は高い。

セグメント(FY2026/3通期実績) 売上高(百万円) 構成比 営業利益(百万円) 営業利益率
不動産賃貸 458,075 43.31% 210,181 45.88%
不動産販売 323,174 30.55% 76,223 23.59%
ハウジング 188,702 17.84% 13,420 7.11%
ステップ 74,607 7.05% 23,601 31.63%
その他 13,205 1.25% 5,452 41.29%
連結合計 1,057,765 100.00% 299,155 28.28%

(出典: EDINET開示のFY2026/3セグメント情報。最新開示基準日 はこの最新通期実績の期末日を示す。)

収益ドライバーとコスト構造

賃貸は稼働面積×賃料、不動産販売は計上戸数×販売単価、ハウジングは受注から引渡しまでの進捗で動く。
FY2026/3末の既存ビル空室率は4.3%で、FY2025/3末の5.8%から低下した。
既存ビルの賃料改定、新規竣工物件の通年寄与、分譲の引渡し時期を分けて確認することが、連結利益の継続性を読む基本となる。

賃貸は減価償却、修繕、管理費を抱える固定費型で、稼働率と賃料の変化が利益率に表れやすい。
不動産販売とハウジングは、土地・建築費、施工能力、工期の影響が相対的に大きい。
FY2026/3の減価償却費76,342百万円、設備投資141,888百万円は、物件完成から賃料回収までの長さを示す。
一般的な棚卸資産フィールドは販売用不動産を十分に表さないため、単純なCCCは主要判断材料にしない。

開発ポートフォリオ

東京では八重洲、六本木、東池袋、築地などの再開発を進め、既投資を含め2.6兆円超を投じる計画である。
既存の土地・物件、長期の権利調整、行政協議、テナント誘致の蓄積が参入障壁となる一方、工程遅延は資金回収も遅らせる。第十次中期経営計画

ムンバイでは今後概ね10年で総事業費1兆円を投じる計画である。
会社は2026年5月時点でBKC第1号のテナントの7割が契約・内定済みと説明し、公式事業ページでは竣工を2026年9月末予定としている。
レポート基準日の2026-09-17には竣工完了を確認できる時点に達しておらず、本稿では「予定」のまま扱う。
第1号の稼働は、第2号以降の許認可、調達、テナント誘致を検証する最初の実績となる。ムンバイ事業の進捗開示・BKC第1号公式ページ


2. 財務の実力

5期のPL・BS・CF

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高(百万円) 939,430 939,904 967,692 1,014,239 1,057,765
営業利益(百万円) 233,882 241,274 254,666 271,516 299,155
純利益(百万円) 150,452 161,925 177,171 191,681 212,535
営業利益率 24.90% 25.67% 26.32% 26.77% 28.28%
EPS(円、分割調整済み) 158.73 170.83 186.92 202.56 228.42
総資産(百万円) 5,806,040 6,365,436 6,678,390 6,722,422 7,185,691
流動資産(百万円) 941,534 1,086,872 1,070,877 1,117,715 1,227,086
流動負債(百万円) — — — — 934,237
負債合計(百万円) 4,171,991 4,566,064 4,627,808 4,554,315 4,714,979
純資産(百万円) 1,634,049 1,799,372 2,050,582 2,168,107 2,470,712
利益剰余金(百万円) — — — — 1,848,307
BPS(円、分割調整済み) 1,723.91 1,898.32 2,163.35 2,303.22 2,675.04
有利子負債(標準NC構成科目合計、百万円) 3,333,137 3,713,436 3,706,149 3,689,163 3,928,575
営業CF(百万円) 192,967 165,112 232,033 253,171 127,287
投資CF(百万円) ▲209,984 ▲489,799 ▲310,694 ▲143,616 ▲154,387
FCF(百万円) ▲17,017 ▲324,687 ▲78,661 109,555 ▲27,100
DPS(円、分割調整済み) 22.5 26.0 30.0 35.0 44.0

(出典: EDINET DB 5期財務時系列。PL・BS・CFの最終歴史列は、財務データ基準日: 2026-03-31 と一致するFY2026/3である。)

2025-10-01の株式分割をまたぐ比較であるため、FY2022/3〜FY2025/3のEPS・BPS・DPSは調整後の値を使い、FY2026/3も同じ株式単位で表示した。
FY2026/3の原データにあるDPS65円は分割前後が混在するため採用せず、調整済み44円を使う。
FY2027/3の会社予想は売上高1,070,000百万円、営業利益320,000百万円、純利益223,000百万円、EPS239.67円、DPS52円であり、歴史列には含めない。

FY2027/3第1四半期は、2026-06-30までの3か月を対象として2026-08-06に開示された四半期情報である。
売上高281,016百万円、営業利益102,846百万円であり、FY2027/3通期実績ではない。
セグメント表や5期財務表の最新通期実績をFY2026/3から置き換えない。

財務健全性

チェック項目 FY2026/3の値 比較基準 判定
自己資本比率 34.4% 40%超 ❌
現預金と標準NC用有利子負債 58,286対3,928,575百万円 現預金が上回る ❌
流動比率 131.3% 150%超 ❌
利益剰余金 1,848,307百万円 0超 ✅
営業CF FY2024/3〜FY2026/3は黒字 3期連続黒字 ✅
配当 FY2024/3〜FY2026/3は支払い 3期連続支払い ✅
EPSのFY2025/3比 228.42円、+12.77% 増加 ✅
ROE 9.2% 8%超 ✅
営業利益率 28.28% 同業2社平均16.78%超 ✅
FCF ▲27,100百万円 正値 ❌
健全性スコア 85/100 情報提供用 参考

流動比率は流動資産1,227,086百万円÷流動負債934,237百万円で131.3%となる。
負債合計4,714,979百万円を分母にした26.0%は流動比率ではない。
利益剰余金は1,848,307百万円で正値であり、未確認値として扱わない。

有利子負債には定義差がある。
標準NCは短期借入金、1年内返済予定長期借入金、長期借入金、社債、CP等の構成科目合計3,928,575百万円を用いる。
一方、会社定義の連結有利子負債は3,975,920百万円であり、範囲が異なる。
両数値を置換せず、標準NCの計算と会社開示のレバレッジ確認を分ける。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

現値データの整合性

すべての時価総額・株価連動倍率は2026-09-17時点の現値データを使う。
株価3,193円×発行済株式数923,616,325株は2,949,106,892,725円、すなわち2,949,106.9百万円であり、取得時価総額と丸め差の範囲で一致する。
決算期末固定の時価総額は使わない。

予想PER13.32倍×FY2027/3会社予想EPS239.67円は3,192.4円、PBR1.19倍×FY2026/3 BPS2,675.04円は3,183.3円で、いずれも株価3,193円との差が5%以内である。
FY2027/3会社予想DPS52円÷3,193円は予想配当利回り1.63%となる。

NCの2軸とCN-PER

指標・定義 FY2025/3(百万円) FY2026/3(百万円) FY2026/3時価総額比
標準NC = 現預金+短期有価証券−有利子負債 ▲3,590,929 ▲3,870,289 ▲131.23%
広義NCAV = 流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計 ▲2,847,112.5 ▲2,704,162.5 ▲91.69%

(出典: EDINET DB。百万円から億円への換算は÷100。FY2026/3の標準NCは▲38,702.9億円、広義NCAVは▲27,041.6億円。短期有価証券は開示値がなく、標準NCでは算式上の加算をしていないが、残高ゼロとは断定しない。)

標準NCベースのCN-PERは、予想PER13.32倍×(1−標準NC比率▲131.23%)で30.80倍となる。
広義NCAVベースは25.53倍である。
どちらもNCが負であるため、現金控除ではなく負債等の加算が利益倍率を押し上げる。

予想EBITDAはFY2027/3会社予想営業利益320,000百万円にFY2026/3減価償却費76,342百万円を加えた396,342百万円である。
標準NCベースのEVは6,819,395.9百万円(68,194.0億円)、予想EV/EBITDAは17.20倍となる。
広義NCAVベースのEVは5,653,269.4百万円(56,532.7億円)、同倍率は14.26倍である。

倍率ベース感応度

評価軸 レンジ下限 中央参照 レンジ上限 根拠
予想PER 13.32倍 13.93倍 18.37倍 住友不動産、三井不動産、三菱地所の2026-09-17現値予想PER
EV/EBITDA 14.26倍 15.93倍 17.20倍 住友不動産の広義NCAV基準、三菱地所、住友不動産の標準NC基準

この表は倍率の置き方だけを比較する。PERは利益、EV/EBITDAは負債を含む事業価値、PBRは簿価純資産という異なる面を測るため、単一倍率だけで結論を固定しない。


4. 同業比較 — 差分の論点

三井不動産と三菱地所は、賃貸・開発を含む総合不動産会社であり、事業構造と規模の比較対象となる。
時価総額と株価連動倍率は2026-09-17現値、業績はFY2026/3通期実績、予想値はFY2027/3会社予想でそろえる。

指標 住友不動産 三井不動産 三菱地所
時価総額(億円) 29,491.1 39,669.3 43,207.6
売上高(億円、FY2026/3) 10,577.7 27,097.5 17,461.5
営業利益率(FY2026/3) 28.28% 14.68% 18.88%
自己資本比率(FY2026/3) 34.4% 32.4% 31.4%
ROE(FY2026/3) 9.2% 8.7% 8.5%
予想PER(FY2027/3) 13.32倍 13.93倍 18.37倍
PBR(2026-09-17) 1.19倍 1.22倍 1.62倍
予想配当利回り(FY2027/3) 1.63% 2.51% 1.36%
予想EV/EBITDA 17.20倍 14.57倍 15.93倍
営業CF(億円、FY2026/3) 1,272.9 1,452.7 5,089.2
FCF(億円、FY2026/3) ▲271.0 ▲337.4 674.6

(出典: EDINET DB、各社決算短信、2026-09-17現値市場データ。)

住友不動産は営業利益率とROEが比較2社を上回る一方、EV/EBITDAは比較2社より高い。
これは賃貸の高収益性だけでなく、標準NCが大幅な負値となる資本構成がEVに反映されるためである。
PER13.32倍だけを見ると三井不動産13.93倍、三菱地所18.37倍より低いが、負債を含む評価では位置関係が変わる。
比較では、都心賃貸の利益率、開発工程、資金回収期間を同時に見る必要がある。


5. リスクと論点

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的な経路 開示で確認する点
金利・資金調達 高 中 借換え利率や支払利息が上がり、開発投資の資金配分が制約される。 固定・変動比率、平均調達年限、支払利息、D/E
東京オフィス需給 高 中 大型解約や面積縮小が賃料改定と稼働率を押し下げる。 既存ビル空室率、更新賃料、解約面積、新規供給
建築費・工期 高 中 資材・労務費と施工遅延が販売採算、総事業費、竣工時期を変える。 工程、完成原価、販売価格への転嫁、引渡し時期
ムンバイ開発 高 中 許認可、建設、リーシング、為替が投資回収の時期と規模を変える。 BKC第1号の竣工・稼働、契約率、後続案件の工程
災害・サイバー 中 低〜中 都心資産の毀損、業務停止、顧客情報事故が事業継続性を損なう。 BCP、保険、復旧計画、重大事故の有無

最大の論点は、投資先行の開発モデルと金利環境の組合せである。
FY2026/3の会社定義連結有利子負債は3,975,920百万円、長期比率94%、固定金利比率81%とされる。
固定化は短期的な感応度を抑える一方、借換え局面では新しい金利条件が反映される。
賃貸NOIの増分が利息と開発資金をどの程度吸収するかを確認する必要がある。

標準NCと広義NCAVがともに負であるため、論点は余剰現金の滞留ではなく、長期資産投資を賃貸キャッシュフローで回収できるかにある。
政策保有株式の縮減は資金源の一つだが、その資金が開発、負債管理、配当、自己株式取得へどう配分されるかで資本効率の読み方は変わる。第十次中期経営計画


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造

予想PER13.32倍に対し、標準NCベースの予想EV/EBITDAは17.20倍、CN-PERは30.80倍である。
広義NCAVを用いるとEV/EBITDA14.26倍、CN-PER25.53倍へ変わる。
この差は、現預金、流動資産、投資有価証券、有利子負債をどこまで相殺するかという定義の違いから生じる。
不動産会社をPERだけで比較すると、保有資産とレバレッジの重さが見えにくい。

同社には、賃貸の高い利益率と都心開発の将来NOIを評価する軸がある。
同時に、開発中資産の資金需要、東京・ムンバイへの集中、借入条件を評価する軸もある。
資産の増加が賃料、営業利益、営業CFへ接続しているかを追うことが、開発期間に伴う一時的な負担と資本効率の停滞を区別する鍵となる。

条件分岐シナリオ

収益基盤が進展する条件

前提: 都心賃貸で低い空室率と賃料改定が続き、八重洲・六本木等の工程とBKC第1号の稼働が会社の想定に沿う。

市場評価の変化: 賃貸NOIの持続性と開発資金の回収が確認されれば、PERは比較2社の13.93〜18.37倍を参照する軸が強まり、EV/EBITDAでは将来NOIの寄与を反映する見方が強まりうる。

会社予想に沿う条件

前提: FY2027/3会社予想の売上高1,070,000百万円、営業利益320,000百万円の範囲で、賃貸の増益を販売・ハウジングの変動が大きく損なわない。

市場評価の変化: 予想PER13.32倍を基礎にしつつ、標準NCベース17.20倍と広義NCAVベース14.26倍のEV/EBITDA差を併読する評価が続きやすい。
資本配分の具体化が倍率差を説明する主要軸となる。

開発・金利の前提が崩れる条件

前提: 金利上昇、建設費の再上昇、東京オフィス需要の減少、ムンバイ案件の工程遅延が重なり、借入コストまたは竣工後の収益化が会社想定から外れる。

市場評価の変化: 賃貸資産の収益性より負債と資金回収期間の比重が高まり、PERよりEV/EBITDA、D/E、PBRを重視する評価軸へ移りうる。

監視ポイント

日付 イベント 開示で確認すべき点
2026年8月6日(開示済み) FY2027/3第1四半期決算 3か月実績と通期会社予想を混同せず、賃貸・販売・ハウジングの進捗を確認する。
2026年9月17日(基準日・会合初日) 日本銀行金融政策決定会合(17〜18日、初日進行中) 基準日時点では結果未公表。会合後の金融市場調節方針を確認する。
2026年9月18日(予定) 日本銀行会合結果・総裁会見 政策金利、金利見通し、借入・社債の調達環境への含意を確認する。
2026年9月28日(予定) FY2027/3中間配当の権利付き最終日 9月30日の権利基準日から2営業日前という計算と、会社・取引所の確定日程を照合する。
2026年9月30日(会社予定) BKC第1号の竣工予定、FY2027/3第2四半期末・中間配当の権利基準日 竣工完了、引渡し、テナント稼働時期、四半期進捗を確認する。基準日時点で竣工完了は未確認である。
2026年10月28日・29日 日本銀行金融政策決定会合 金融環境の更新と会社の借入条件への波及を確認する。
2026年12月16日・17日 日本銀行金融政策決定会合 短期金利、長期金利、資金調達方針の変化を確認する。
2027年3月29日(予定) FY2027/3期末配当の権利付き最終日 3月31日の権利基準日から2営業日前という計算と、会社・取引所の確定日程を照合する。
2027年3月31日 FY2027/3期末・期末配当の権利基準日 通期の部門別実績、借入残高、政策保有株式の縮減資金の配分を確認する。

(日本銀行の日程は公式一覧による。2026-09-17より後の結果は本レポートに織り込んでいない。)

M&A・出資検討の論点

取得・出資を検討する主体にとって、EVの許容範囲を規定するのは、賃貸資産のNOI、開発中資産の完成原価、会社定義の有利子負債、政策保有株式の換金可能性、追加設備投資である。
既存の都心賃貸、住宅、仲介へ接続する用地・開発能力・テナント基盤、インドでの現地運営能力はシナジー候補となる。
一方、重複する管理費、資金調達条件の悪化、組織統合による意思決定の遅れはディスシナジーとなりうる。

DDでは、販売用不動産・仕掛販売用不動産の評価、竣工遅延時の追加費用、借入の固定・変動条件、担保・財務制限条項、テナント解約条項、環境・土壌・災害リスク、ムンバイの土地権利と許認可、施工会社やキーパーソンへの依存を優先して確認する。
簿価だけでなく、案件別の完成時期と安定稼働後NOIを対応させる必要がある。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 高い賃貸利益率と回収期間を同時に見る

FY2026/3の不動産賃貸は営業利益率45.88%で、連結営業利益の約7割を生んだ。
これは賃料改定と稼働率改善が固定費を上回って寄与する構造を示す。
同時に、減価償却費76,342百万円、設備投資141,888百万円、会社定義有利子負債3,975,920百万円という資本集約性がある。
高い利益率だけを抜き出さず、竣工時期、借入条件、営業CFを同じ時間軸で追うことが収益の持続性を理解する型となる。

📚 着眼点2: NCが負の不動産会社では倍率の分母を意識する

標準NC▲3,870,289百万円、広義NCAV▲2,704,162.5百万円という負値は、余剰資金型企業のNC控除とは逆にEVを増やす。
その結果、PER13.32倍に対して標準NCベースのCN-PER30.80倍、EV/EBITDA17.20倍となる。
PERは株主に帰属する利益、EV/EBITDAは負債を含む事業価値を基礎とするため、両者の差そのものが資本構成を読む教材となる。

📚 着眼点3: 指標ポジショニング

指標 住友不動産 同業比較 分析上の位置づけ
予想PER 13.32倍 三井13.93倍、三菱18.37倍 同業より低いが、負債を含む尺度も必要
PBR 1.19倍 三井1.22倍、三菱1.62倍 三井に近く、資産簿価と開発工程の差を確認
ROE 9.2% 三井8.7%、三菱8.5% 同業2社を上回るが、レバレッジを併読
営業利益率 28.28% 三井14.68%、三菱18.88% 賃貸構成と部門収益性が寄与
賃貸営業利益率 45.88% 同一定義値は未取得 賃料改定と稼働率への感応度が高い
自己資本比率 34.4% 三井32.4%、三菱31.4% 同業より高いが、絶対額の負債も確認
予想EV/EBITDA 17.20倍 三井14.57倍、三菱15.93倍 比較2社より高く、資本構成が反映される
標準NC比率 ▲131.23% 同一定義値は未取得 負のNCで、現金控除型の見方は不適切
広義NCAV比率 ▲91.69% 同一定義値は未取得 投資有価証券を含めても負値
予想配当利回り 1.63% 三井2.51%、三菱1.36% 比較2社の中間に位置する

(出典: 2026-09-17現値データ、FY2026/3通期実績、FY2027/3会社予想。)


参考情報

ガバナンスとデータ時点

代表取締役社長は仁島浩順である。
FY2025/3有報では連結従業員13,844名、提出会社5,773名と開示されている。
会社は2027年定時株主総会を念頭に監査等委員会設置会社へ移行し、社外取締役を過半数とする構想を開示している。
海外の主要な開発拠点はインド・ムンバイである。

財務データ基準日 と 最新開示基準日 はいずれも最新通期実績FY2026/3の期末日2026-03-31を示す。
FY2027/3第1四半期は対象期間末2026-06-30、開示日2026-08-06の四半期情報であり、FY2026/3の通期実績を置き換えない。株価取得日 は株価・時価総額・倍率の基準日2026-09-17である。
大株主名簿の基準日は2025-09-30で、これらの時点差を維持する。

大株主構成

順位 株主名 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 13.88% 信託銀行
2 株式会社日本カストディ銀行(信託口) 5.11% 信託銀行
3 ELLIOTT INTERNATIONAL LP 3.51% 投資ファンド
4 株式会社三井住友銀行 1.88% 金融機関
5 ダイキン工業株式会社 1.79% 事業会社

(出典: 住友不動産「株式・株主概要」、2025-09-30現在。上表は株主名簿上の比率である。野村アセットマネジメント共同保有5.95%、ブラックロック共同保有5.54%などの大量保有報告は、基準日・名義・共同保有の集計範囲が異なり、株主名簿順位とは別の情報である。)


出典一覧

  1. 住友不動産 IR情報
  2. FY2026/3 決算短信
  3. FY2027/3 第1四半期決算短信(2026-08-06開示)
  4. FY2026/3 有価証券報告書(EDINET)
  5. 第十次中期経営計画
  6. ムンバイ事業の進捗開示
  7. BKC第1号公式ページ
  8. 住友不動産「株式・株主概要」
  9. 日本銀行 金融政策決定会合の日程
  10. 三鬼商事 東京オフィス統計