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野村不動産ホールディングス株式会社

【経済・不動産業】不動産業企業バリュエーション分析更新 2026-11-04

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 分譲・開発を軸に、運用・仲介・管理を重ねる
  3. FY2026/3の売上・利益構成
  4. 在庫と継続収入が同じグループに併存
  5. 国内外の展開と資本関係
  6. 2. 財務の実力
  7. 5期の損益・財政状態・キャッシュフロー
  8. 借入構成と流動性
  9. 営業キャッシュと不動産在庫
  10. FY2027/3会社予想と進捗
  11. 定量的な健全性の確認
  12. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  13. 株価と時価総額の基準
  14. NCとNCAVの2軸
  15. 予想利益倍率と企業価値倍率
  16. 4. 同業比較 — 差分の論点
  17. 時価総額レンジを揃えた2社
  18. 業界・市場の参照値
  19. 5. リスクと論点
  20. 金利・借入と不動産評価
  21. 在庫の質と現金化
  22. 建築費・人材・工程
  23. 海外案件の売却時期と回収
  24. 資本配分と株主還元の持続性
  25. 災害・環境・規制・品質
  26. 6. バリュエーション統合と論点整理
  27. (a) 倍率差を生む要因
  28. (b) 条件分岐シナリオ
  29. (c) 監視ポイント
  30. (d) M&A・企業取得・出資を検討する側の論点
  31. 7. 学びのポイント
  32. 着眼点1 — 不動産在庫は資産と資金拘束の両面で見る
  33. 着眼点2 — セグメント利益と連結営業利益の定義を揃える
  34. 着眼点3 — 高配当利回りと資本余力を同時に読む
  35. 参考情報 — 株主構成とガバナンス
  36. 経営目標とデータの時点
  37. 出典一覧

野村不動産ホールディングス株式会社(3231)銘柄分析レポート

エグゼクティブサマリー
  • 何で稼ぐ会社か: 住宅分譲と都市開発を中心に、賃貸・資産運用・仲介・運営管理を組み合わせる総合不動産グループです。
  • 財務の要点: FY2026/3は売上高9,425億円、営業利益1,382億円、ROE10.7%でしたが、有利子負債1兆5,994億円に対し現金同等物は368億円で、簡便FCFはマイナス142億円でした。
  • 分析の最大論点: FY2027/3第2四半期累計の営業利益がFY2026/3第2四半期累計比18.7%減となる一方、通期営業利益予想は1,460億円へ引き上げられ、下期の利益回復と在庫回収を両立できるかが焦点です。
指標 値 評価の読み方
時価総額 7,685億円 自己株式控除後株数を使用
FY2027/3予想PER 8.93倍 過去5期の8.0〜11.2倍の範囲
FY2026/3 EV/EBITDA 13.91倍 標準NCを反映
FY2027/3予想配当利回り 4.91% 予想DPS44円を使用
標準NC比率 △203.3% 有利子負債が現金等を大きく上回る
広義NCAV比率 △24.6% 流動資産を含めても負の値
健全性スコア 63/100 ルールベース参考値。信用格付けではない

株価は2026年11月4日終値895.7円。
時価総額は自己株控除後857,981,965株を使用(発行済917,942,685株、自己株59,960,720株、5分割後)。
倍率にはFY2027/3予想EPS100.35円・DPS44円、FY2026/3 BPS938.08円を用います。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

分譲・開発を軸に、運用・仲介・管理を重ねる

野村不動産ホールディングスは住宅分譲を中核に、オフィス・物流・商業施設の開発と賃貸、資産運用、仲介、施設管理を展開する総合不動産グループです。
2004年6月設立。
FY2026/3の連結従業員は9,043人、代表取締役社長は新井聡、会計監査人はEY新日本有限責任監査法人です。

不動産開発は用地取得から引渡しまで時間がかかり、売上より先に資金を投入します。住宅分譲は引渡し時期に利益が左右され、竣工や引渡しの遅れは売上と営業キャッシュの後ずれにつながります。

FY2026/3の売上・利益構成

以下は会社開示のセグメント別売上高と事業利益です。売上高には社内取引と調整が含まれ、事業利益は持分法投資損益等を含む会社定義の指標です。連結営業利益とは定義が異なります。

セグメント FY2026/3 売上高/事業利益(億円) FY2027/3 H1 売上高/事業利益(億円)
住宅 4,334 / 617 1,954 / 268
都市開発 3,248 / 540 949 / 97
海外 37 / 28 18 / △3
資産運用 163 / 106 82 / 54
仲介・CRE 644 / 190 318 / 96
運営管理 1,299 / 135 593 / 36
その他・調整 △300 / △142 △131 / △39
合計 9,425 / 1,474 3,784 / 509

**住宅・都市開発はFY2026/3売上高の約80%、事業利益の約78%を占め、引渡し・竣工・賃貸稼働・売却が業績を左右します。
**資産運用と仲介は収益源を広げますが、海外の事業利益は小規模な単年度実績です。

在庫と継続収入が同じグループに併存

FY2026/3末の販売用・仕掛販売用・開発用不動産は合計1兆3,111億円でした。将来の販売・賃貸の基礎である一方、現金化までの期間や工事費、販売条件、引渡し時期に左右される資金拘束でもあります。

賃貸・運営管理は保有物件や管理受託から、資産運用はファンド運用等のフィーを、仲介・CREは取引仲介や法人向けサービスを提供します。
収入源は分譲販売と異なりますが、連結の資金需要と営業キャッシュは開発用地・販売用不動産に左右されます。

国内外の展開と資本関係

海外事業はシンガポール、香港、タイ、ベトナム、英国、中国・上海、フィリピンなどで展開します。
許認可、為替、現地パートナー、回収・売却時期が国内と異なるリスクで、FY2027/3第2四半期の会社説明にも販売時期のずれが示されています。

野村ホールディングスはその他の関係会社で、FY2026/3末の議決権比率は37.14%です。
金融グループとの関係は顧客接点、資産運用、仲介などの協業余地を持つ一方、関連当事者取引、少数株主保護、資本配分の透明性を継続して確認する必要があります。

2. 財務の実力

5期の損益・財政状態・キャッシュフロー

FY2022/3〜FY2026/3の連結値です。金額は百万円、EPS・BPSのみ円。2025年4月1日効力発生の1株5株の株式分割を反映した株当たり指標です。

指標 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高 645,049 654,735 734,715 757,638 942,505
営業利益 91,210 99,598 112,114 118,958 138,242
経常利益 82,557 94,121 98,248 106,740 124,807
純利益 55,312 64,520 68,164 74,835 82,880
EPS(円) 61.56 73.05 78.46 86.77 96.69
営業利益率 14.1% 15.2% 15.3% 15.7% 14.7%
総資産 2,040,506 2,110,693 2,251,456 2,686,569 2,811,989
流動資産 1,126,802 1,182,306 1,256,777 1,484,563 1,647,512
固定資産 913,704 928,387 994,679 1,202,006 1,164,477
流動負債 357,980 327,829 331,064 600,622 457,202
負債合計 1,419,108 1,454,956 1,559,016 1,935,130 2,009,260
純資産 621,398 655,737 692,440 751,439 802,729
自己資本比率 30.3% 31.0% 30.7% 27.9% 28.5%
ROE 9.2% 10.1% 10.1% 10.4% 10.7%
BPS(円) 695.63 751.26 800.56 873.40 938.08
現金同等物 67,793 27,770 53,811 35,894 36,842
有利子負債 1,022,735 1,121,548 1,192,728 1,545,304 1,599,364
投資有価証券 101,155 142,031 178,949 189,916 246,296
営業CF 52,793 △42,809 70,878 △133,793 44,906
投資CF △46,277 △62,896 △83,638 △203,364 △59,067
財務CF △9,619 65,675 39,921 318,459 15,643
簡便FCF(営業CF+投資CF) 6,516 △105,705 △12,760 △337,157 △14,161
減価償却費 19,089 20,593 20,445 20,888 29,366
設備投資 50,706 35,140 66,059 174,419 63,438
標準NC(百万円) △954,942 △1,093,778 △1,138,917 △1,509,410 △1,562,522
標準NC比率(2026-11-04時価総額基準) △124.3% △142.3% △148.2% △196.4% △203.3%
広義NCAV(百万円) △221,498 △173,228 △176,975 △317,626 △189,341
広義NCAV比率(2026-11-04時価総額基準) △28.8% △22.5% △23.0% △41.3% △24.6%

FY2022/3〜FY2026/3の売上高・営業利益CAGRは約9.9%、約11.0%です。
FY2024/3〜FY2026/3の売上CAGRは約13.3%。
FY2026/3営業利益率はFY2025/3比1.0ポイント低下しましたが、営業利益額は増加しました。

借入構成と流動性

FY2026/3末の有利子負債内訳は、短期借入金1,426億円、長期借入金1兆2,137億円、社債1,670億円、コマーシャル・ペーパー760億円です。
現金同等物368億円を差し引いても、標準NCはマイナス1兆5,625億円です。
FY2022/3の有利子負債1兆227億円からFY2026/3には1兆5,994億円に増えています。

流動比率はFY2026/3で360.3%ですが、流動資産には換金に時間を要する不動産在庫が含まれます。
現金同等物は短期借入金やCPを下回るため、比率だけで短期資金余裕を判断できません。
満期、金利構成、ヘッジ、案件別調達条件は未確認の範囲を推定していません。

営業キャッシュと不動産在庫

FY2026/3は営業CF449億円、投資CFマイナス591億円、簡便FCFマイナス142億円でした。
FY2025/3の簡便FCFもマイナス3,372億円で、利益の成長と開発投資後の現金回収は分けて確認する必要があります。

期末時点の在庫・運転資本指標 FY2025/3 FY2026/3
販売用不動産(百万円) 527,417 661,595
仕掛販売用不動産(百万円) 370,730 376,640
開発用不動産(百万円) 264,096 272,873
棚卸資産合計(百万円) 1,162,243 1,311,108
売上原価(百万円) 491,037 639,923
売上債権(百万円) 32,432 38,199
仕入債務(百万円) 94,382 87,759
DSO(日) 15.6 14.8
在庫日数(日) 863.9 747.8
DPO(日) 70.2 50.1
CCC(日) 809.4 712.6

CCCは期末残高による簡便計算です。
DSO=売上債権÷売上高×365、在庫日数=棚卸資産÷売上原価×365、DPO=仕入債務÷売上原価×365、CCC=在庫日数+DSO−DPOです。
年度末の引渡し・取得時期に左右され、開発在庫を製造業CCCと直接比較できません。

CCC短縮と在庫残高は併せて見る

FY2026/3は簡便CCCが809日から713日に短縮した一方、棚卸資産は1兆1,622億円から1兆3,111億円に増加しました。
CCCは回収可能性や物件別の引渡し予定を示さないため、契約・完成状況と営業CFも確認します。

FY2027/3会社予想と進捗

2026年10月29日のFY2027/3第2四半期開示で、会社は通期予想を修正しました。

指標 FY2027/3修正予想 FY2027/3第2四半期累計実績 FY2026/3第2四半期累計比
売上高 1,085,000百万円 378,470百万円 △4.8%
営業利益 146,000百万円 46,500百万円 △18.7%
経常利益 127,000百万円 — —
純利益 86,000百万円 27,325百万円 △12.9%
EPS 100.35円 31.92円 —
年間配当 44円 — —

改定前予想は売上高1兆800億円、営業利益1,400億円、経常利益1,250億円、純利益860億円でした。
FY2027/3下期に必要な営業利益は通期予想と第2四半期累計実績の差額995億円です。
FY2026/3下期実績810億円を約22.8%上回ります。
この単純差額は会社が個別に公表した下期予想ではありません。

会社説明では、住宅の粗利益率、管理受託、海外販売時期などが進捗要因として示されています。通期予想の引き上げが売上や利益だけでなく、引渡し後の営業キャッシュに結びつくかを確認する必要があります。

FY2027/3第2四半期累計の会社定義セグメント売上高・事業利益は第1章の比較表に示しました。連結営業利益465億円とは定義が異なるため、合算・混同しません。

定量的な健全性の確認

3. 市場評価を読む — バリュエーション

株価と時価総額の基準

市場データは2026年11月4日終値895.7円です。
会社が開示した2026年9月30日時点の発行済株式数917,942,685株から自己株式59,960,720株を控除した857,981,965株を用いると、時価総額は約7,685億円になります。
発行済株式数と自己株式控除後株数の差を明示し、時価総額には後者を使いました。

FY2027/3会社予想EPS100.35円に対するPERは8.93倍です。
丸め後のPER×EPSは約896.1円、FY2026/3 BPS938.08円×PBR0.955倍は約895.9円となり、株価895.7円との差は倍率の丸め範囲です。

NCとNCAVの2軸

標準NCは現金同等物・独立識別できる短期有価証券から有利子負債を控除します。
短期有価証券は個別に確認できず、長期投資有価証券を代用せず現金同等物のみを使いました。
広義NCAVは流動資産+投資有価証券×70%−負債合計の参考値です。

NC比率の分母は比較を揃えるため各年度とも2026年11月4日の時価総額7,685億円です。
各年度末の株価評価を示す時系列ではありません。
標準NC比率はFY2022/3の△124.3%からFY2026/3の△203.3%へ低下し、広義NCAV比率はFY2025/3の△41.3%からFY2026/3の△24.6%へ改善しました。
広義NCAVは在庫の換金価格・期間、費用、契約義務を評価しない参考値です。

予想利益倍率と企業価値倍率

FY2027/3予想純利益860億円を分母に置いた標準NCベースのCN-PERは27.1倍です。
計算式は(時価総額7,685億円−標準NC△15,625億円)÷予想純利益860億円です。
広義NCAVベースでは(時価総額7,685億円−広義NCAV△1,893億円)÷860億円=11.1倍となります。
差の大半は、現預金以外の流動資産を価値としてどこまで認めるかにあります。

FY2026/3のEBITDAは営業利益1,382億円+減価償却費294億円=1,676億円です。
EVは時価総額7,685億円から標準NC△1兆5,625億円を控除するため2兆3,310億円となり、EV/EBITDAは13.91倍です。
広義NCAVを機械的に使った感度値はEV9,578億円、EV/EBITDA5.71倍ですが、標準的なEVの定義とは異なる比較値です。
いずれの倍率も分子の調整方法が結果を左右します。

FY2027/3予想PER8.93倍はFY2022/3〜FY2026/3の実績レンジ8.0〜11.2倍にあり、不動産業PER中央値約9.8倍(130社、2026年11月2日)に近い水準です。
会社予想と集計値の対象・利益基準は一致するとは限りません。

適用PERの参照点 倍率 位置づけ
保守側の履歴参照 8.0倍 FY2023/3実績PER。過去5期レンジの下端
中央の現状参照 8.93倍 FY2027/3会社予想利益に対する市場倍率
上側の業界参照 約9.8倍 不動産業PER集計中央値。対象・利益基準の違いに留意

この表は評価倍率の比較に限り、円換算はしていません。EV/EBITDAの比較軸は対象会社13.91倍、東急不動産HD10.61倍、住友不動産17.96倍です。

4. 同業比較 — 差分の論点

時価総額レンジを揃えた2社

時価総額が対象会社の0.3〜5倍の範囲にある不動産会社から東急不動産ホールディングスと住友不動産を選びました。
財務値は各社FY2026/3連結、株価は2026年11月4日の表示値です。
東急不動産HDの価格表示は15:30、住友不動産は11:30で、住友不動産だけ同日終値との時刻差があります。
倍率は会社予想利益、時価総額は自己株控除後株数を使っています。

指標 野村不動産HD 東急不動産HD 住友不動産 2社平均
時価総額(億円) 7,685 8,780 30,028 19,404
FY2026/3売上高(億円) 9,425 12,460 10,578 11,519
FY2026/3営業利益(億円) 1,382 1,669 2,992 2,331
FY2026/3営業利益率 14.7% 13.4% 28.3% 20.8%
FY2026/3 ROE 10.7% 11.2% 9.2% 10.2%
FY2026/3自己資本比率 28.5% 26.3% 34.4% 30.4%
FY2027/3予想PER 8.93倍 8.79倍 13.56倍 11.18倍
FY2026/3 BPS基準PBR 0.955倍 0.977倍 1.215倍 1.096倍
FY2027/3予想配当利回り 4.91% 4.06% 1.60% 2.83%
FY2026/3 EV/EBITDA 13.91倍 10.61倍 17.96倍 14.29倍
標準NC比率 △203.3% △184.6% △124.6% △154.6%
FY2026/3営業CF(億円) 449 1,295 1,273 1,284
FY2026/3簡便FCF(億円) △142 △350 △271 △311

**野村不動産HDは2社平均を上回るROEと高い配当利回りを示す一方、営業利益率・自己資本比率は住友不動産を下回ります。**3社ともFY2026/3簡便FCFはマイナスでした。

業界・市場の参照値

EDINET DBの不動産業ベンチマークはFY2025/3、136社の中央値です。
全上場中央値は同一期間・定義で照合できない指標が多いため、数値を補っていません。
2社平均も比較対象を限定した値で、業界全体の中央値ではありません。

指標 野村不動産HD 同業2社平均 不動産業中央値 全上場中央値 読み方
ROE 10.7% 10.2% 11.36% — 業界中央値を小幅下回る
営業利益率 14.7% 20.8% 9.29% — 業界中央値を上回る
純利益率 8.8% — 5.83% — FY2026/3対象会社は業界中央値を上回る
ROA 5.4%(会社定義) — 3.23% — 会社と業界ベンチマークの定義差に留意
ROIC — — 7.92% — 対象会社の比較値なし
自己資本比率 28.5% 30.4% 33.75% — 目標30%と業界中央値を下回る
D/E — — 1.47倍 — 対象会社の定義整合値なし
流動比率 360.3% — 240.7% — 在庫構成を併せて見る
総資産回転率 — — 0.68倍 — 対象会社の同一定義比較値なし
売上成長率 24.4% — 9.37% — FY2026/3の単年度成長
FY2022/3-FY2026/3売上CAGR 9.9% — 9.48%(3年) — 算定期間が異なる参考比較
配当利回り 4.91% 2.83% 3.37% — 対象株価は2026-11-04
総還元性向 41.4% — — — 業界中央値の配当性向32.0%とは定義が異なる
DOE 4.5% — 3.15% — 会社実績と業界中央値
PER 8.93倍 11.18倍 約9.8倍 — 予想/実績の基準差あり

業界値はFY2025/3、対象会社はFY2026/3で時点が異なります。
ROAの定義も会社とベンチマークで異なり、PERは予想・実績基準が揃いません。
全上場中央値は一貫した値を確認できないため「—」としています。

5. リスクと論点

金利・借入と不動産評価

FY2026/3末の有利子負債は1兆5,994億円、現金同等物は368億円、標準NCはマイナス1兆5,625億円です。
開発型不動産は借入で土地・建物を保有するため負債額だけで返済力を断定できませんが、借換金利の上昇や調達期間の短期化は利益とキャッシュフローを圧迫し、要求利回り上昇は保有資産の評価にも影響します。

固定・変動金利、満期分散、ヘッジ、案件別ノンリコース調達を一律に確認できる数値はありません。連結負債から個別案件の金利感応度を推計せず、借入条件・満期開示と営業キャッシュを併せて見ます。

在庫の質と現金化

棚卸資産の増加とCCCの短縮だけでは回収の進捗を判断できません。完成済み販売在庫、建設中案件、開発用地を分け、契約、竣工時期、追加工事費、入金を案件単位で追います。

開発期間は物件タイプ、法規制、建設条件で異なります。CCCは物件別の回収可能性や販売価格を示さないため、在庫と営業CFがともに改善するかを確認します。

建築費・人材・工程

資材・労務費、施工人材、工程管理は原価と竣工・引渡しを通じて採算に影響します。価格転嫁できても販売が遅れれば回収は後ずれし、施工品質や不具合対応は費用とブランドの両面に関わります。

FY2027/3の引渡し計画、契約済み住戸の竣工、完成在庫、原価見積り、工期遅延が通期予想と営業キャッシュを左右します。

海外案件の売却時期と回収

海外セグメントはFY2026/3売上37億円、事業利益28億円で、特定案件の出口が利益率を左右します。
FY2027/3第2四半期の会社説明でも販売時期のずれが示されました。
為替、現地金利、許認可、パートナー信用、回収条件に加え、案件ごとの出資・保証・追加資金を確認します。

資本配分と株主還元の持続性

会社の経営指標はROA5%以上、ROE10%以上、事業利益の年平均成長率8%、自己資本比率30%、総還元性向40〜50%、DOE4%以上です。
FY2026/3実績は会社定義ROA5.4%、ROE10.7%、自己資本比率28.5%、DOE4.5%、総還元性向41.4%。
ROEと還元指標は目標レンジに達する一方、自己資本比率は30%を下回りました。

配当と自己株式取得による株主還元を続けながら、土地・物件への投資と自己資本の充実をどう両立するかが資本配分の論点です。
FY2027/3予想配当44円から計算した利回りは4.91%ですが、これは会社予想と2026年11月4日の株価による計算値で、将来の配当を保証しません。

災害・環境・規制・品質

不動産は地震・風水害・気候変動、建築・省エネ・都市計画規制、土壌・設備問題にさらされます。物件の用途・地域ごとに損害、保険、修繕、稼働停止を確認し、有報の一般記載だけで耐性を判断しません。

6. バリュエーション統合と論点整理

(a) 倍率差を生む要因

2026年11月4日時点の予想PER・PBRは同業に近い一方、予想配当利回りは高めです。
標準NC比率△203.3%、自己資本比率28.5%、FY2025/3・FY2026/3の簡便FCFは負で、低倍率・高利回りだけでは開発在庫と負債を抱える資本負荷を捉えられません。

標準NCを控除したCN-PER27.1倍と広義NCAVを基準にした11.1倍の差は、販売用不動産を含む流動資産をどこまで回収可能な価値とみなすかに依存します。
広義NCAVは棚卸資産の個別価値、売却コスト、売却期間、契約債務を評価していません。
したがって、PERの低さだけで市場評価を割安放置と決めることも、資産回収の不確実性だけでバリュートラップと断定することもできません。

**市場評価の焦点は、FY2027/3下期の利益増加が引渡しと現金回収を伴うかです。**開発在庫、借換条件、自己資本比率、継続収益が開発販売の振れを補うかも確認します。

(b) 条件分岐シナリオ

回復条件 — 利益の現金化まで進む場合
住宅粗利益率と管理受託が下期に改善し、引渡しと営業キャッシュ回収が進めば、評価の焦点は利益の継続性、FCF、在庫回転へ移ります。
通期予想の達成に加え、利益の現金化が条件です。

維持条件 — 予想と高い資金需要が続く場合
FY2027/3通期予想を維持し、開発在庫と借入が高止まりする場合、住宅・都市開発の案件サイクル、継続収益、還元方針が評価の軸です。
低PERと高利回りは負債と回収リスクを含めて比較します。

下振れ条件 — 引渡し遅延と費用増が重なる場合
住宅の引渡し遅延、建築費上昇、海外販売の遅れでFY2027/3営業利益予想を下回れば、利益倍率だけでは資金余力を捉えにくくなります。
在庫、営業CF、借換金利、自己資本比率への波及を確認します。

(c) 監視ポイント

時期 イベント 開示で確認する点
2026-11-10 日本銀行「主な意見」公表 金融政策・金利見通しに関する金融環境
2026-12-17〜18 日本銀行金融政策決定会合 政策金利、長期金利、不動産融資環境
2026-12-31 FY2027/3第3四半期の期末 棚卸資産、借入、契約・引渡し進捗。発表日は別途確認
2027-01-21〜22 日本銀行金融政策決定会合 金利・信用環境と資金調達条件
2027-02-01 日本銀行「主な意見」公表 委員の見通しと長期金利環境
2027-03-17〜18 日本銀行金融政策決定会合 FY2027/3末の金利・信用環境
2027-03-29 FY2027/3末配当の権利付き最終日見込み 会社予想配当、総還元性向、DOE方針
2027-03-31 FY2027/3期末 棚卸資産の内訳、営業CF、借入、自己資本比率
2027-04-27〜28 日本銀行金融政策決定会合 FY2028/3の金利環境、物価、金融システム

2027年3月29日は3月31日権利確定に対する営業日計算上の見込みで、取引所日程と配当基準日は要照合です。
FY2027/3第3四半期の期末は2026年12月31日。
決算公表日は未確認で、期末日とは区別しています。

(d) M&A・企業取得・出資を検討する側の論点

不動産会社や開発案件の取得側は売上・EBITDA倍率だけで価値を決めません。
ネット有利子負債、リース・保証、SPC・ノンリコースローン、運転資本、開発コミットメントから実質負債と資金需要を確定します。

販売用不動産・仕掛案件は契約、追加費用、引渡し、出口価格を確認し、帳簿価額との差を見積もります。海外では為替、規制、共同出資者、追加資金、回収条件も対象です。

シナジーは顧客送客、運営、資産運用、用地取得、調達に分け、責任者・費用・時期を置ける項目だけ評価します。
共同事業の出資比率、意思決定、分配、保証、損失負担に加え、野村ホールディングスとの関係、少数株主保護、キーパーソン、ブランドも確認します。

平準化EBITDA、賃貸資産の収益還元、開発在庫の純実現価値、維持更新投資を照合します。一時利益を恒常収益に混ぜず、負債控除後の回収と統合後の資本需要を含めて取得側のEV許容水準を設定します。

7. 学びのポイント

着眼点1 — 不動産在庫は資産と資金拘束の両面で見る

FY2026/3末棚卸資産1兆3,111億円は将来売上の基礎であり、現金化前の投下資金です。内訳・契約・引渡し・営業CFを併せて見ます。CCC短縮と在庫増加は同時に起きました。

着眼点2 — セグメント利益と連結営業利益の定義を揃える

会社定義の事業利益

FY2026/3のセグメント合計事業利益は1,474億円、連結営業利益は1,382億円です。
事業利益には持分法投資損益等が反映されます。
比較目的に応じて指標を選び、名称が似ていても同じものとして扱いません。

着眼点3 — 高配当利回りと資本余力を同時に読む

高い予想利回りだけでは還元の持続性を示せません。在庫投資・負債・自己資本比率との両立を確認します。

参考情報 — 株主構成とガバナンス

FY2026/3末の大株主上位5名は以下の通りです。野村ホールディングスの議決権比率37.14%と保有比率37.08%は算定基準が異なります。

順位 株主名 保有比率 区分
1 野村ホールディングス株式会社 37.08% その他の関係会社
2 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 11.07% 信託銀行
3 株式会社日本カストディ銀行(信託口) 6.53% 信託銀行
4 JPM Securities plc 2.87% 外国金融機関
5 野村不動産グループ従業員持株会 1.83% 従業員持株会

上位5名の保有比率合計は59.38%です。
親会社に該当しないその他の関係会社との協業、関連当事者取引、取締役会の独立性、少数株主との利益相反に対する統制と説明が、ガバナンスを見るポイントです。
主力取引銀行は確認した有価証券報告書・会社概要から特定できず、推定で補っていません。

経営目標とデータの時点

会社はROA5%以上、ROE10%以上、事業利益の年平均成長率8%、自己資本比率30%、総還元性向40〜50%、DOE4%以上を経営指標としています。
FY2026/3実績は会社定義ROA5.4%、ROE10.7%、DOE4.5%、総還元性向41.4%。
FY2028/3の事業利益目標は1,600億円です。
賃貸住宅、ホテル、シニア、物流、投資家資本の活用、野村グループ連携、海外事業、M&A、バランスシート運営が戦略領域として示されています。

財務推移・株主構成はFY2026/3末、決算情報はFY2027/3第2四半期(2026-09-30現在、10月29日公表)、株価は2026年11月4日終値です。
住友不動産の表示時刻11:30は、他社15:30と差があります。

出典一覧

  1. 野村不動産ホールディングス「会社概要」 https://www.nomura-re-hd.co.jp/company/outline.html
  2. 野村不動産ホールディングス「中期経営計画」 https://www.nomura-re-hd.co.jp/ir/management/plan.html
  3. 野村不動産ホールディングス「FY2027/3 第2四半期決算短信」 https://www.nomura-re-hd.co.jp/ir/pdf/2027/2Q/20261029_renketsu.pdf
  4. 野村不動産ホールディングス「FY2027/3 第2四半期決算説明資料」 https://www.nomura-re-hd.co.jp/ir/pdf/2027/2Q/20261029_kessan.pdf
  5. 野村不動産ホールディングス「第22期有価証券報告書」 https://www.nomura-re-hd.co.jp/ir/pdf/hokoku_2606.pdf
  6. 野村證券「3231 株価」 https://quote.nomura.co.jp/nomura/cgi-bin/parser.pl?MKTN=T&QCODE=3231&TEMPLATE=nomura_tp_kabu_01
  7. 東急不動産ホールディングス「IR情報」 https://www.tokyu-land.co.jp/ir/
  8. 住友不動産「FY2027/3 第1四半期決算短信(2026-08-06)」 https://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/8830_FY2026_1Q.pdf
  9. EDINET DB「企業財務データ E04060」 https://edinetdb.jp/company/E04060
  10. KabuBase「不動産業PER」 https://www.kabubase.jp/sectors/real-estate
  11. 日本銀行「金融システムレポート 2026年4月」 https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr260421a.pdf
  12. 日本銀行「金融政策決定会合等の日程」 https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/index.htm

不動産業の基礎構造は不動産業業界基礎ガイドも参照できます。