📚 業界ノート

東急不動産ホールディングス株式会社

【経済・不動産業】不動産業企業バリュエーション分析更新 2026-10-23

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. FY2026/3のセグメント構成
  3. 収益ドライバー、コスト、運転資本
  4. グループ接点が生む優位性
  5. 2. 財務の実力
  6. 5期のPL・BS・CF推移
  7. 収益性・安全性・効率性と健全性チェック
  8. 運転資本と投資回収
  9. FY2027/3の会社予想と第1四半期
  10. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  11. NC二軸とキャッシュニュートラルPER
  12. 倍率ベース感応度
  13. 4. 同業比較 — 差分の論点
  14. 5. リスクと論点
  15. 最大論点:投資回収より先に借入が増える局面
  16. 低倍率が長く続く可能性
  17. 6. バリュエーション統合と論点整理
  18. (a) 倍率差の構造
  19. (b) 条件分岐シナリオ
  20. (c) 監視ポイント
  21. (d) M&A・出資検討の論点
  22. 7. 学びのポイント
  23. 📚 着眼点1: PERと純有利子負債は別の問いに答える
  24. 📚 着眼点2: 資産投資期は利益とFCFが逆方向に動く
  25. 📚 着眼点3: 利益率・ROE・ROAが示す階層
  26. 相場観テーブル
  27. 参考情報
  28. 大株主上位5位
  29. データ時点
  30. 出典一覧

東急不動産ホールディングス株式会社(3289)銘柄分析レポート

SUMMARY
  • 都市開発・戦略投資で資産を開発・保有・売却し、管理運営・不動産流通で継続的な賃料・管理料・仲介手数料を得る4事業構成です。
  • FY2026/3は売上高1兆2,460億円、営業利益1,669億円、営業利益率13.4%でしたが、営業CF1,295億円に対して投資CFはマイナス1,645億円でした。
  • 10月23日終値1,237円で時価総額は約8,904億円、FY2027/3会社予想純利益に対するPERは8.90倍です。最大の論点は、利益成長の持続力と約1.83兆円の有利子負債を両立できるかです。
指標(時点) 値 算定・出典
時価総額(2026-10-23) 8,904億円 終値1,237円 × 発行済株式719,830,974株
予想PER(FY2027/3) 8.90倍 時価総額 ÷ 会社予想純利益1,000億円
EV/EBITDA(FY2026/3実績) 10.66倍 EV2兆5,108億円 ÷ EBITDA2,355億円
予想配当利回り(FY2027/3) 4.04% 会社予想配当50円 ÷ 1,237円
標準NC(FY2025/3 → FY2026/3) △1兆5,691億円 → △1兆6,204億円 現預金+短期有価証券-有利子負債。FY2026/3比率は△182.0%
広義NCAV(FY2025/3 → FY2026/3) △7,896億円 → △7,474億円 流動資産+投資有価証券×70%-負債合計。FY2026/3比率は△83.9%
健全性スコア 68/100 財務データによる外部スコア。独立した分析画面の値63とは算定モデルが異なる

出典: 東急不動産HD FY2026/3有価証券報告書、FY2027/3第1四半期決算短信、株価時系列、EDINET DB。
時価総額は市場価格と株式数から再計算。
予想PERは時価総額ベースで、株価÷会社予想EPS(8.83倍)との差は0.8%であり、加重平均株式数と発行済株式数の差を含みます。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 不動産業業界基礎ガイド と、不動産業のセグメント分析・プレイヤー比較を参照。本章は東急不動産ホールディングス固有の収益構造に絞ります。

グループは都市開発・戦略投資という「資産活用型」と、管理運営・不動産流通という「人財活躍型」の4事業で収益を得ます。
前者は賃料・運営収益と資産売却益、後者は建物管理・仲介・運営受託の手数料が軸です。
保有収益、売却益、仲介・管理フィーを一体で持つ構成です。資産の開発・売却益と継続フィーを組み合わせ、収益源を分散する点が事業構造の要です。

FY2026/3のセグメント構成

セグメント 売上高(億円)・構成比 営業利益(億円)・利益率 FY2025/3比の売上 / 営業利益
都市開発 3,974・31.9% 752・18.9% +14.8% / +6.7%
不動産流通 3,568・28.6% 644・18.0% +3.8% / +26.8%
管理運営 3,506・28.1% 272・7.8% △0.3% / +8.6%
戦略投資 1,413・11.3% 132・9.4% +29.7% / +156.9%
連結合計 12,460・100.0% 1,669・13.4% +8.3% / +18.6%

出典: FY2026/3有価証券報告書・決算短信。
セグメント売上の合計と連結売上には300万円の差があります。
セグメント営業利益の合計は1,720億円で、連結調整△51.5億円を反映すると連結営業利益1,669億円になります。

都市開発はオフィス・商業施設・住宅の開発、賃貸、運営、分譲、売却を担います。
FY2026/3の売上構成は31.9%、営業利益率は18.9%でした。
会社開示の期末空室率は0.7%、分譲マンション契約進捗率は76%です。
稼働・販売が堅調でも、土地価格と建築費の上昇は案件採算を圧迫します。

戦略投資は再生可能エネルギー、物流施設、不動産ファンド運用、海外開発などを担います。
発電施設の稼働済み・開発中の容量は持分考慮前2,693MWです。
2025年1月にリニューアブル・ジャパンを連結子会社化し、2026年4月にリエネ・エナジーへ社名変更しました。
FY2026/3の営業利益は大きく伸びましたが、継続運転収益と資産売却益の内訳は決算説明資料で追う必要があります。

管理運営はマンション・ビル管理や改修、ホテル・リゾート・シニア住宅の運営受託を含みます。
FY2026/3営業利益率は7.8%で、労務費・修繕費・稼働率が採算を左右します。
不動産流通は仲介、販売代理、買取再販、賃貸・学生マンション管理などを行い、取引件数・価格、仕入れと販売期間が収益ドライバーです。
FY2026/3の流通営業利益率は18.0%、売上成長3.8%に対して営業利益は26.8%増でした。

収益ドライバー、コスト、運転資本

収益ドライバーは賃貸面積・賃料、販売戸数・価格、仲介件数・手数料、管理戸数・受託単価、発電量、資産売却時期です。
FY2026/3はキャピタルゲイン構成比が上がる一方、賃料と仲介も伸びたと会社は説明しています。
主要コストは土地・建築・改修、人件費、維持管理、販売、資金調達です。
工事費と金利は複数事業へ波及し、会社も建築費・金利上昇を主要リスクとして管理しています。

FY2026/3末の売上債権591億円、仕入債務564億円、一般棚卸資産21億円だけでは開発在庫を捉えきれません。
FY2027/3第1四半期末の販売用不動産6,723億円、仕掛販売用不動産4,661億円、未成工事支出金68億円は合計約1兆1,452億円でした。
仕入・販売時期がCFを動かすため、一般的なCCCは実態を表しにくく、未算定です。

グループ接点が生む優位性

FY2026/3末の連結子会社は321社、連結従業員は21,036人、臨時雇用者は6,746人です。
東急コミュニティーの管理・改修、東急リバブルの仲介、東急リゾーツ&ステイの宿泊運営までグループにあり、開発後の運営・入居者サービス・売却・管理受託をつなげられます。
多くの会社・資産を束ねる調整力も必要です。

TIP

土地の企画から賃貸・運営・仲介・管理へつなぐ形は、顧客接点を増やす駅の乗換網に似ています。路線ごとの採算と投資額の点検も欠かせません。

中期経営計画2030は2025〜2030年度にネット投資1兆円、グロス投資3.8兆円を計画し、3.5兆円を都市開発・戦略投資へ配分します。
保有型のNOI利回り約5%、回転型のIRR約8%は案件管理上の期待収益水準です。
企業比較は不動産業プレイヤー比較資料を参照してください。


2. 財務の実力

FY2022/3〜FY2026/3の売上高は年平均5.9%、営業利益は18.8%成長し、営業利益率は8.5%から13.4%へ上昇しました。
営業CFには物件引渡し・投資回収時期による年次変動があります。

5期のPL・BS・CF推移

指標(億円、率) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高(前年比) 9,890(—) 10,058(+1.7%) 11,030(+9.7%) 11,503(+4.3%) 12,460(+8.3%)
営業利益(利益率) 838(8.5%) 1,104(11.0%) 1,202(10.9%) 1,408(12.2%) 1,669(13.4%)
親会社株主に帰属する純利益(利益率) 351(3.6%) 482(4.8%) 685(6.2%) 776(6.7%) 967(7.8%)
総資産(自己資本比率) 26,343(24.0%) 27,385(25.0%) 30,308(24.8%) 32,547(25.3%) 34,191(26.3%)
現預金+短期有価証券 1,775 1,857 2,628 1,788 2,066
有利子負債 14,217 14,829 15,901 17,478 18,269
営業CF 765 947 1,565 474 1,295
投資CF(営業CF+投資CF) △318(447) △1,201(△253) △1,782(△217) △1,400(△926) △1,645(△350)

出典: EDINET E27633、FY2022/3〜FY2026/3有価証券報告書。金額は百万円単位の開示値を億円へ換算し、億円未満を丸めています。営業CF+投資CFをFCFとして表示。

営業CFはFY2024/3の1,565億円からFY2025/3の474億円へ下がり、FY2026/3は1,295億円でした。
投資CFは5期すべてマイナスで、FY2026/3のFCFは△350億円です。
有形固定資産取得分だけを営業CFから引くと約63億円のプラスですが、投資CFには不動産取得や有価証券投資も含まれます。
**不動産取得まで含むFCFは5期中4期が赤字で、成長投資は営業CFだけでは賄い切れていません。
**営業CF単独を配当余力・返済力とはみなせません。

収益性・安全性・効率性と健全性チェック

区分 指標・チェック項目 FY2026/3の値・事実 比較基準 / 判定
収益性 ROE(有報記載値) 11.2% 不動産業中央値9.35%、計画2030年度10%
収益性 営業利益率 13.4% 不動産業中央値9.19%
収益性 純利益率 / ROA 7.8% / 2.8% 不動産業中央値ROA2.96%
安全性 自己資本比率 26.3% 不動産業中央値33.54%、5期で上昇
安全性 有利子負債 / EBITDA 1兆8,269億円 / 2,355億円=7.76倍 会社の2030年度目標は8.0倍以下
安全性 現預金+短期有価証券-有利子負債 △1兆6,204億円 標準NCはマイナス
効率性 総資産回転率 0.36回 不動産業中央値0.60回
キャッシュ 営業CF / FCF 1,295億円 / △350億円 営業CFは黒字、投資を含むFCFは赤字
健全性1 自己資本比率40%超 26.3% ❌ 不動産業は負債活用が大きいが基準未達
健全性2 有利子負債<現預金 1兆8,269億円 > 1,805億円 ❌
健全性3 流動比率150%超 281% ✅ 流動資産1兆4,760億円 ÷ 流動負債5,255億円
健全性4 利益剰余金が正 5,604億円 ✅
健全性5 営業CFが3期連続黒字 FY2024/3〜FY2026/3で3期連続黒字 ✅ 5期すべて黒字
健全性6 配当を3期連続支払い FY2024/3〜FY2026/3で継続 ✅
健全性7 EPSが前年比プラス 135.45円、FY2025/3比+24.6% ✅
健全性8 ROE 8%超 11.2% ✅ 有報記載値
健全性9 営業利益率が業界中央値超 13.4% > 9.19% ✅

業界ベンチマークはEDINET DBのFY2026/3・不動産業の中央値(対象79社)。
ROE・比率は開示値または表示した定義に従う。
流動比率が高く見える一因は開発物件の販売用不動産を流動資産に含むことです。
健全性スコア68/100と9項目チェックは別の枠組みです。

FY2026/3の純有利子負債は1兆6,204億円、自己資本比率は26.3%です。
会社は成長投資に伴って有利子負債を2兆円程度まで拡大する想定です。
SPC借入を除く長期比率95.8%、固定金利比率94.4%は金利上昇を緩衝しますが、借換金利と不動産評価の変動は残ります。

運転資本と投資回収

FY2026/3総資産回転率は0.36回で不動産業中央値0.60回を下回ります。土地・開発資産を持つ業態のため、取得から賃料化・売却までの期間、工事費超過、売却後にも残る継続収益と合わせて読みます。

FY2027/3の会社予想と第1四半期

FY2027/3会社予想は売上高1兆4,000億円、営業利益1,900億円、純利益1,000億円、EPS140.02円、配当50円です。
第1四半期実績は2,858億円、466億円、255億円で、単純進捗率は20.4%、24.5%、25.5%でした。
季節性を調整していない進捗で、8月6日時点の会社予想は据え置き。
営業利益は前年同期比12.7%増、純利益は16.8%減でした。

FY2028/3中計目標は営業利益1,700億円、純利益920億円、ROE9.5〜10%。
FY2026/3実績は純利益967億円・ROE11.2%が上回り、営業利益1,669億円は未達です。
FY2027/3会社計画のROEは11%程度、FY2025/3〜FY2027/3のEPS平均成長率は13.5%/年で、全目標を1年前倒しで超過達成する見込みです。
FY2031/3(2030年度)目標は営業利益2,200億円以上、純利益1,200億円以上、ROE10%以上、ROA5%以上、EPS約170円、EPS平均成長率8%/年、D/E1.8倍以下、有利子負債/EBITDA8倍以下。
計画は2027年に更新予定です。
出典: 2026年3月期決算説明資料(2026-05-15)、中期経営計画2030。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

2026年10月23日終値1,237円と発行済株式719,830,974株から時価総額は8,904億円です。
FY2026/3実績PERは9.13倍、PBRは0.98倍。
FY2027/3会社予想PERは時価総額ベース8.90倍、株価÷予想EPSでは8.83倍で、差は0.8%です。
発行済株式数と期中平均株式数の違いを含みます。

NC二軸とキャッシュニュートラルPER

標準NCは現預金1,805億円+短期有価証券260億円-有利子負債1兆8,269億円=△1兆6,204億円、時価総額比△182.0%です。
FY2025/3は△1兆5,691億円で、純有利子負債は1年で513億円増加。
現預金を積み上げたネットキャッシュ企業ではありません。

広義NCAVは流動資産1兆4,760億円+投資有価証券3,985億円×70%-負債合計2兆5,025億円=△7,474億円、時価総額比△83.9%です。
FY2025/3は△7,896億円。
流動資産には開発在庫が含まれるため、現金同等物とはみなせません。
投資有価証券の70%評価(30%控除)は、換金価値を保守的に見る仮定です。両方のNC指標がマイナスであり、低い株式倍率を現金余剰だけでは説明できません。

会社予想純利益1,000億円を使うと、キャッシュニュートラルPERは(時価総額8,904億円-標準NC△1兆6,204億円)÷会社予想純利益1,000億円=約25.1倍です。
広義NCAVを使う場合は(時価総額-広義NCAV)÷会社予想純利益=約16.4倍です。
純有利子負債が大きいため、CN-PERは時価総額を分子に置く通常PERより高く、企業の負債負担も反映します。
営業利益と減価償却費を合計したFY2026/3 EBITDAは2,355億円、EVは時価総額+純有利子負債の2兆5,108億円、EV/EBITDAは10.66倍です。
同業の同倍率は4章にまとめました。

倍率ベース感応度

参照位置 PER軸 EV/EBITDA軸 比較根拠
低位 9.2倍 14.19倍 PERは自社5期の期末レンジ下限、EV/EBITDAは比較3社の下限
中央 10.05倍 15.52倍 PERは不動産業中央値、EV/EBITDAは比較3社中央値
高位 13.8倍 18.25倍 PERは自社5期の期末レンジ上限、EV/EBITDAは比較3社の上限

3289は予想PER8.90倍・実績EV/EBITDA10.66倍です。
上表は倍率幅のみで、株価換算はありません。
PER参照値は最新有報ベースで年度・価格日が混在。
EV/EBITDAは8801・8802・3231と比較し、8801・3231は短期有価証券未取得のため現金のみ控除しており、倍率は高めの可能性があります。

純有利子負債の大きさでPERとEV/EBITDAの評価は異なります。
営業利益率13.4%・ROE11.2%は業界中央値超、ROA2.8%は中央値2.96%未満。
利益率が資産効率・CFに結びつくかが焦点です。

DCFは掲載していません。
会社は2030年度の利益・資本効率目標と6年間の投資総額を開示していますが、同じ基準で揃った5期分の将来FCF、割引率、永久成長率の入力が開示されていません。
これらを補ってDCFを作ると仮定が結果を左右するため、実績・会社予想・倍率比較を中心にしました。


4. 同業比較 — 差分の論点

比較対象は三井不動産、三菱地所、野村不動産HDです。FY2026/3実績と10月23日終値を組み合わせ、時価総額は直近の開示株式数から算定しました。

指標 東急不動産HD 3289 三井不動産 8801 三菱地所 8802 野村不動産HD 3231
時価総額(億円、2026-10-23) 8,904 43,211 46,942 8,164
売上高(億円、FY2026/3) 12,460 27,097 17,461 9,425
実績PER(倍) 9.13 15.73 21.32 9.20
PBR(倍) 0.98 1.32 1.74 0.95
ROE(有報記載値) 11.2% 8.7% 8.5% 10.7%
営業利益率 13.4% 14.7% 18.9% 14.7%
自己資本比率(有報記載値) 26.3% 32.4% 31.4% 28.5%
配当利回り(FY2026/3実績配当) 3.88% 2.20% 1.19% 4.50%
EV/EBITDA(倍) 10.66 15.52 18.25 14.19
標準NC比率(標準NC÷時価総額) △182.0% △97.1%* △70.2% △191.4%*

FY2026/3有報・EDINET DB値と10月23日終値から算出。3289はInvesting.com、他社は株探。
EV=時価総額+有利子負債-現金-取得できた短期有価証券。
8801・3231は短期有価証券を取得できず現金のみ控除したため、EVとNC比率は暫定値。
株式数は各社直近開示値、配当はFY2026/3実績。

ROE11.2%は比較3社超、営業利益率13.4%も業界中央値9.19%超です。
PER9.13倍は三井・三菱を下回り、野村不動産HDの9.20倍に近く、PBR0.98倍は1倍未満。
純有利子負債は時価総額の1.82倍で広義NCAVもマイナスです。利益率とROEに加え、負債と資産回転も倍率差の論点です。

比較表の利回りはFY2026/3実績配当で統一しました。
FY2027/3予想50円なら3289は4.04%です。
FY2028/3まで配当性向35%以上・累進配当を続ける方針を、投資・利益・負債の推移と併せて確認します。


5. リスクと論点

会社はFY2026/3有価証券報告書で、投資リスク、財務資本リスク、気候変動リスク、IT・デジタル戦略、人材、情報セキュリティ、危機管理、法務・コンプライアンスを重要リスクとして挙げています。
特に現在の財務構造と中期投資計画に関係する項目を整理します。

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的な影響シナリオ 開示されている対応
建築費・土地価格の上昇 高 中〜高 取得後の工事費が増え、賃貸開始や売却時の採算・投資回収が低下する 案件ごとのリスク要因・VaRを設定し継続管理
金利・資金調達 高 中 固定金利借入が満期を迎えた際に調達費が上がり、純有利子負債の大きさを通じて利益と投資余力を圧迫する SPC借入を除く有利子負債の長期比率95.8%、固定比率94.4%
不動産市況・売却益の変動 高 中 投資家需要・キャップレートが変わり、保有資産の評価や開発物件の売却利益が低下する 幅広い事業とフィー収益を通じて市況変動への耐久性を高める方針
災害・気候変動・工期 中〜高 中 建物被害、工事延長、炭素規制、降雪量変化が施設運営や修繕費を通じて収益を削る TCFDに沿った管理、サステナビリティ委員会での審議、BCP整備

最大論点:投資回収より先に借入が増える局面

WARNING

**最大の財務リスクは、工事費・金利上昇の中でネット投資1兆円が先行し、稼働・売却による回収が遅れることです。**固定金利の比率は資金コストの変動を緩衝しますが、投資回収の遅れは補いません。

FY2025〜2030年度のグロス投資計画は3兆8,000億円です。
FY2026/3末の有利子負債1兆8,269億円は、会社想定の2兆円程度に近づいています。
案件稼働や売却が遅れれば、自己資本比率と投資余力に同時に圧力がかかります。

低倍率が長く続く可能性

10月23日終値に対するFY2026/3実績PERは9.13倍、PBRは0.98倍です。
低い数値だけで資産価値の余剰を意味するわけではありません。
標準NCが△1兆6,204億円、広義NCAVが△7,474億円で、事業用資産を売却して負債を返す前提にも不確実性があります。
利益の一部が資産売却のタイミングに左右され、会社目標の利益成長が投資負担や資本コストを上回れない場合、低倍率が構造的な財務・利益変動リスクを反映して長く続く可能性があります。

WARNING

バリュートラップを見分ける鍵は、低PERやPBRだけではありません。
営業CFが投資支出を長期にわたり賄えるか、純有利子負債が利益成長を上回って膨らまないか、売却益を除く賃料・管理料・仲介フィーが増えているかを、複数年度で照合します。


6. バリュエーション統合と論点整理

(a) 倍率差の構造

FY2026/3実績PER9.13倍は自社のFY2022/3〜FY2026/3期末PERレンジ9.2〜13.8倍を少し下回り、不動産業の有報ベースPER中央値10.05倍より低い位置です。
一方、純利益はFY2022/3の351億円からFY2026/3の967億円へ増え、営業利益率とROEも改善しました。
実績成長と現在の低倍率が同時に見えるため、今後の見方は利益の質と投資後の負債に左右されます。

倍率差の候補は、開発・売却益の期ずれ、約1.83兆円の有利子負債、計画投資に伴うFCFのマイナス、キャピタルゲイン比率です。
会社は賃料と仲介に加え、インカム・フィー収益も伸びたと説明しています。
**倍率を支える条件は利益成長だけでなく、継続収益と投資後の純有利子負債の動きです。
**継続収益と投資回収が安定すれば評価軸は資本効率へ広がりますが、利益が売却益に偏れば成長の持続性を評価しにくくなります。

(b) 条件分岐シナリオ

成長投資が収益化する場合

FY2027/3会社予想(営業利益1,900億円・純利益1,000億円)を達成し、賃料・管理料・仲介フィーが伸びることが前提です。
投資後の運営収益と売却益が併存し、D/Eが低下すれば、PERが不動産業中央値へ、EV/EBITDAが比較3社中央値へ近づく評価も成り立ちます。
利益構成と純有利子負債を併せて確認します。

会社予想並みの利益と計画投資が続く場合

会社予想どおりの着地と投資継続が前提です。
PER約8.9倍・EV/EBITDA10.7倍が比較会社より低い状態で、FY2022/3〜FY2026/3の自社PER9.2〜13.8倍と不動産業中央値10.05倍が参照軸になります。
投資負担を超える成長が続くかを見ます。

金利・工事費・売却環境が悪化する場合

借換金利・工事費が上昇し、物件売却が遅れて営業利益が会社予想を下回ることが前提です。
利益低下とEV増加はPER・EV/EBITDAを押し上げます。
資産の換金性に慎重さが増す場合はPBRと資本コスト・ROA・財務耐久性を照合します。

(c) 監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年11月6日 FY2027/3第2四半期決算(会社予定) 売上・営業利益・純利益の通期予想進捗、通期予想の修正有無
2026年11月6日 同じ第2四半期決算のセグメント情報 都市開発・戦略投資の売却益と、管理運営・流通の継続収益の構成
2026年11月6日 同じ第2四半期決算の財務情報 有利子負債、金利費用、自己資本比率、営業CF
2026年11月6日 同じ第2四半期決算の不動産KPI オフィス空室率、住宅契約進捗、販売用・仕掛不動産、物件売却
2026年12月31日 FY2027/3第3四半期の期末 投資計画の累計進捗、開発在庫、長期借入と固定金利の構成
2027年2月5日 FY2027/3第3四半期決算(会社予定) 通期予想の修正、営業利益・純利益・配当予想
2027年2月5日 同じ第3四半期決算の事業別情報 物件売却益、賃貸・管理収入、仲介手数料の増減
2027年3月29日 FY2027/3期末配当の権利付最終日(算定値) 3月31日基準日からT+2の受渡日程で算定。会社の配当予想・基準日は最終開示で再確認
2027年3月31日 FY2027/3期末 通期計画に対する実績、純有利子負債、投資CF、在庫・売却予定の確認

11月6日と2027年2月5日は会社IRカレンダーの決算予定日。
同日を複数行に分けて確認項目を整理しています。
2027年3月29日は3月31日基準日の算定日で、正式日程は会社・取引所の公表で確認します。

(d) M&A・出資検討の論点

買い手が企業価値を評価する際は、時価総額に純有利子負債、SPC負担、修繕・建設コミットメントを加味します。
ネット投資計画は案件を生みますが、稼働までの期間や工事費超過は投下資本の回収年数を延ばします。
物件別のNOI利回り、IRR、CF安定性が評価の前提です。

シナジー候補は東急グループの顧客接点、交通・商業・住宅連携、管理・仲介・宿泊運営です。
重複システム、営業網、保有方針は統合コストになり得ます。
DDではSPC債務・保証、建設契約・土地取得コミットメント、物件稼働率・修繕履歴・含み損益、政策保有株式、主要子会社の人員、売却契約条件を確認します。
東急株式会社の議決権16.06%保有を踏まえ、取引と少数株主への影響も整理します。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: PERと純有利子負債は別の問いに答える

FY2027/3予想PERは8.90倍ですが、標準NCは△1兆6,204億円です。
EVは2兆5,108億円、EV/EBITDAは10.66倍、予想純利益を使った標準NCベースCN-PERは25.1倍です。
**PERは株主利益、EV/EBITDAは負債を含む事業価値を比較します。
**利払い・売却・借換も合わせて読みます。

📚 着眼点2: 資産投資期は利益とFCFが逆方向に動く

FY2026/3は営業利益1,669億円、純利益967億円でも、営業CF+投資CFは△350億円でした。
開発不動産は将来の賃料・売却益を生むため、FCFの赤字だけでは案件価値を測れません。
稼働後の継続収益と純有利子負債の推移を併せて追います。

📚 着眼点3: 利益率・ROE・ROAが示す階層

FY2026/3の営業利益率13.4%とROE11.2%は業界中央値超ですが、ROA2.8%は中央値2.96%と同程度です。
利益率は売上の採算、ROEは自己資本の効率、ROAは総資産の効率を示します。
借入を使う企業では、ROE改善が資産効率を伴うかを分けて見ます。
会社の2030年度目標はROE10%、ROA5%です。

相場観テーブル

指標 当社 全上場中央値* 不動産業中央値* 良い目安・比較線 読み方
PER 9.13倍(実績) 13.77倍 10.05倍 10〜20倍が全社一般値 当社実績は中央値を下回るが成長・負債を併せて確認
PBR 0.98倍 1.17倍 — 1〜2倍を一般比較域とし、業種差を確認 1倍未満は資本コスト・ROE・資産価値の説明が焦点
ROE 11.2% 8.20% 9.35% 8〜15%、当社2030年度目標10% 有報記載ROEと集計サイトの算式に差がある
営業利益率 13.4% 6.33% 9.19% 10〜20%は一般に高い水準 同業中央値を上回る
自己資本比率 26.3% 56.83% 33.54% 不動産では同業比較と改善傾向を重視 全上場中央値より低く、同業中央値も下回る
ROA 2.83% 4.09% 2.96% 5%以上を一般値とし、資産型業種は同業比較 不動産業中央値をわずかに下回る
配当利回り 3.88%実績 / 4.04%予想 2.90% 3.60% 2〜3.5%は一般域、5%超は配当継続性を点検 実績・予想の区分と配当方針を併記
総資産回転率 0.36回 — 0.60回 同業中央値との距離と上昇方向を確認 資産の稼働・売却までに時間を要する
売上高成長率 8.3%(FY2026/3) — 9.08% 黒字成長と利益率の両立 同業中央値をわずかに下回る

出典: EDINET DB。
業界中央値はFY2026/3不動産業79社、全上場中央値は最新有報(FY2024/3〜FY2026/3混在)。
PER・PBRは有報期末株価、ROEは平均純資産方式(当社11.2%は有報値)。
配当利回りは10月20日更新、3289価格は10月23日。
—は比較可能な中央値なし。

年度・価格日・定義を揃え、低倍率と高利益率・低資産効率の併存を事業構成・負債・投資回収から読み解きます。


参考情報

2013年10月設立。
2026年4月時点の代表取締役社長は星野浩明氏です。
東急株式会社はFY2026/3末の議決権16.06%(間接保有を含む)を持つ「その他の関係会社」で、株主名簿上の所有比率は15.90%。
会社は監査役会を置き、会計監査人はEY新日本有限責任監査法人です。

大株主上位5位

順位 株主 所有比率(FY2026/3末)
1 東急株式会社 15.90%
2 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 14.07%
3 株式会社日本カストディ銀行(信託口) 7.19%
4 東急不動産ホールディングス従業員持株会 1.96%
5 第一生命保険株式会社 1.71%

出典: 東急不動産HD「株主の状況」。東急株式会社の有報議決権比率16.06%とは分母・間接保有の定義が異なります。

データ時点

有報は財務データ基準日 2026-03-31(提出2026-06-24)、FY2027/3第1四半期は2026-06-30期末・2026-08-06開示です。
市場価格は2026-10-23終値です。
実績に当日価格を適用した倍率とFY2027/3会社予想の指標を分けました。
未開示の決算日や配当日程は予定・算定値として示しています。

出典一覧