📚 業界ノート

マクニカホールディングス株式会社

【経済・卸売業】卸売業企業バリュエーション分析更新 2026-09-23

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 収益ドライバーとコスト構造
  3. 運転資本と資本集約度
  4. 取引基盤、参入障壁、成長投資
  5. 2. 財務の実力
  6. 5期のPL・BS・CF
  7. 収益性・安全性・効率性
  8. 財務健全性チェック
  9. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  10. 現値とNC 2軸
  11. 倍率ベース感応度
  12. 4. 同業比較 — 差分の論点
  13. 5. リスクと論点
  14. 6. バリュエーション統合と論点整理
  15. 評価差の構造
  16. 条件分岐シナリオ
  17. 監視ポイント
  18. M&A・出資検討の論点
  19. 7. 学びのポイント
  20. 📚 着眼点1: 広義NCAVと標準NCを分けて流通モデルを読む
  21. 📚 着眼点2: 売上成長を利益率と運転資本から分解する
  22. 📚 着眼点3: 指標ポジショニング
  23. 参考情報
  24. ガバナンス要点
  25. 大株主・大量保有報告ベースの構成
  26. データ時点
  27. 出典一覧

マクニカホールディングス株式会社(3132)銘柄分析レポート

SUMMARY

マクニカHDは、先端半導体・電子デバイスとサイバーセキュリティ/ITソリューションを扱う技術商社であり、FY2026/3売上高の85.66%を電子デバイス事業が占める(EDINET有価証券報告書)。
FY2026/3は売上高1兆2,141.96億円、営業利益419.50億円、FCF174.68億円、CCC93.6日であり、増収と運転資本効率の改善が並存した(EDINET DB、FY2026/3)。
2026年9月23日の現値4,088円とFY2027/3会社予想EPS179.21円から予想PERは22.81倍。
時価総額は7,299.66億円で、標準NCは▲214.16億円、広義NCAVは2,617.85億円である。
流動資産の質とサービス化による利益率改善が最大の分析論点である。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 卸売業業界基礎ガイド を参照。ここではマクニカHD固有の収益構造に絞る。

マクニカHDは、連結子会社マクニカを中心に、半導体・電子デバイスとサイバーセキュリティ/ITソリューションを提供する。
単なる物流ではなく、設計開発、品質保証、安定供給、導入・運用支援を重ねる高付加価ディストリビューション(VAD)が収益の中核である。
その上に、自社開発を含むサービス・ソリューション(SS)を積み上げる戦略を掲げている。

収益ドライバーとコスト構造

収益ドライバーは、電子デバイスの取扱数量、採用製品の世代、顧客ごとの商流獲得、AIサーバー・半導体製造装置・車載向け需要、そしてセキュリティ製品の導入・更新・運用支援である。
FY2026/3の集積回路及び電子デバイスその他事業は売上高1兆400.45億円、営業利益247.35億円、利益率2.38%。
サイバーセキュリティ及びその他ITソリューション事業は売上高1,741.50億円、営業利益172.13億円、利益率9.88%である(EDINETセグメントデータ、FY2026/3)。
後者の売上構成は14.34%にとどまるが、連結利益率への寄与は大きい。

コスト構造は取扱製品の仕入原価が大部分を占め、在庫・物流・為替・与信と、技術営業・FAE・運用支援人材が利益率を左右する。
FY2026/3は電子デバイス事業の海外売上比率の上昇と新規事業投資が利益率を抑えた一方、ITソリューション事業は技術・運用サービスの付加価を反映した。
売上規模だけでなく、海外商流の構成、SS比率、技術人材の稼働効率が損益分岐を変える。

運転資本と資本集約度

運転資本はこの会社の資金構造の中心である。
FY2026/3のCCCは93.6日で、FY2025/3の107.2日から13.6日短縮したが、FY2026/3末の売上債権2,681.39億円、棚卸資産2,639.12億円は依然として大きい。
海外仕入先への支払と顧客からの回収のサイト差、納期に対応する在庫の保有が資金需要を生む。

資本集約度は製造設備より、在庫、売掛金、仕入先・顧客との信用、技術人材と海外拠点に偏る。
FY2026/3の減価償却費は45.79億円であるのに対し、流動資産は6,678.72億円である。
設備投資よりも、需要変動時の在庫評価、債権回収、為替、資金繰りの管理が資本効率を規定する。

取引基盤、参入障壁、成長投資

主要取引先にはアイシン、アドバンテスト、デンソー、日立製作所、富士通、ソニー、村田製作所、安川電機などがある。
設計・品質保証・供給・導入支援を顧客の開発工程に結びつけることが切替コストを生む。
参入障壁は、製品棚よりも、顧客の設計図・供給計画・障害対応に接続された「技術通訳と物流管制室」に近い。

会社は2025〜2027年度(FY2026/3〜FY2028/3)の累計で500〜800億円の成長投資を計画し、VADとSSにおおむね半分ずつ配分する方針である。
成長国での半導体事業、サイバーセキュリティ、CPSソリューション、M&Aが対象となる。
2027年度(FY2028/3)目標は売上高1.4兆円、営業利益800億円、営業利益率5.7%、ROE15.0%である。
投資の効果は売上高だけでなく、利益率、運転資本、のれん、統合費用で確認する必要がある。中期経営計画

規制・産業政策との接点では、経済産業省が2026年3月に公表したSCS評価制度の制度構築方針が、顧客の調達基準と運用支援需要に影響しうる。
診断、導入、運用、教育へ接続できるかがSSの収益化に関わる。経済産業省 SCS評価制度


2. 財務の実力

5期のPL・BS・CF

EDINET有価証券報告書に基づく実績はFY2026/3までである。以下の最終列は 財務データ基準日: 2026-03-31 と一致する。

項目(百万円) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高 761,823 1,029,263 1,028,718 1,034,180 1,214,196
営業利益 36,707 61,646 63,733 39,649 41,950
営業利益率 4.82% 5.99% 6.20% 3.83% 3.45%
経常利益 35,487 56,832 61,966 37,318 37,392
親会社株主に帰属する純利益 25,798 41,030 48,069 25,279 27,765
総資産 362,584 517,620 552,244 556,438 700,887
純資産 179,764 207,762 256,420 261,477 289,115
営業CF ▲15,534 38,896 39,949 24,232 18,774
投資CF ▲1,653 ▲869 ▲18,457 ▲9,573 ▲1,306
FCF ▲17,187 38,027 21,492 14,659 17,468

(出典: EDINET DB 5期連結財務。FCF = 営業CF + 投資CF。)

FY2026/3の売上高はFY2025/3比17.4%増、営業利益は5.8%増である。
ただし営業利益率は3.45%へ低下し、増収がそのまま収益性の向上を意味しない。
営業CFはFY2024/3の399.49億円からFY2026/3の187.74億円へ減少しており、損益と現金創出を分けて読む必要がある。

収益性・安全性・効率性

指標 FY2025/3 FY2026/3 同業・目安 読み方
営業利益率 3.83% 3.45% 同業3社3.50% 海外商流と新規投資の掁益影響を含む
ROE 10.2% 10.5% 同業3社9.9% 2027年度(FY2028/3)目標15.0%への進捗が論点
自己資本比率 45.4% 39.8% 同業3社37.9% FY2026/3は40%をわずかに下回る
流動比率 179.1% 163.1% 150%以上 短期支払能力は目安を上回る
インタレスト・カバレッジ 20.9倍 17.5倍 1倍超 営業利益の利払い余力はある
CCC 107.2日 93.6日 同業3社112.0日 資金滞留日数は13.6日改善
現預金(百万円) 48,452 54,370 — 流動性の中核
有利子負債(百万円) 74,728 75,786 — 運転資本を支える調達
標準NC(百万円) ▲26,276 ▲21,416 — 現預金が有利子負債を下回る
広義NCAV(百万円) 235,546 261,785 — 在庫・債権を含むため質の確認が必要
BPS(円) 1,414.76 1,562.10 — 親会社株主持分を基礎とする
1株配当(円、分割調整後) 70.68 70.00 — FY2027/3会社予想は80.00円

(出典: EDINET DB FY2025/3・FY2026/3。同業は東京エレクトロンデバイス、レスター、リョーサン菱洋HDのFY2026/3単純平均。)

CCCは売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数である。
FY2026/3はそれぞれ80.6日、88.9日、75.9日で、棚卸資産の回転改善と仕入債務の増加がCCCを短縮した。
売上債権は売上高、棚卸資産と仕入債務は売上原価を分母とする。

財務健全性チェック

確認項目 FY2026/3値 判定基準 判定
自己資本比率 39.8% 40%超 ❌
現預金と有利子負債 54,370 / 75,786百万円 現預金が負債を上回る ❌
流動比率 163.1% 150%超 ✅
利益剰余金 197,678百万円 0超 ✅
営業CF FY2024/3〜FY2026/3で黒字 3期連続プラス ✅
配当 FY2024/3〜FY2026/3で実施 3期連続 ✅
EPS成長 FY2026/3は155.54円、FY2025/3比10.4%増 成長 ✅
ROE 10.5% 8%超 ✅
営業利益率 3.45% 同業3社3.50%超 ❌
インタレスト・カバレッジ 17.5倍 1倍超 ✅
D/Eレシオ 31.4% 100%未満 ✅

2026年7月27日開示のFY2027/3第1四半期は、売上高3,934.43億円、営業利益165.09億円、親会社株主に帰属する純利益109.28億円である。
FY2027/3通期の会社予想は売上高1兆3,000億円、営業利益520億円、親会社株主に帰属する純利益320億円、EPS179.21円、DPS80円である。
これらは 最新開示基準日: 2027-03-31 と一致する。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

現値とNC 2軸

株価と時価総額は2026年9月23日の現値、BSは2026年3月31日の有価証券報告書値、利益予想は2026年7月27日開示のFY2027/3会社予想である。
標準NCは 現預金 + 短期有価証券 − 有利子負債、広義NCAVは 流動資産 + 投資有価証券×0.7 − 負債合計 と定義する。

項目 値 基準・算式
株価 4,088円 2026-09-23
発行済株式数 178,563,057株 現値データ
時価総額 729,965,789,184円(7,299.66億円) 2026-09-23
FY2027/3予想EPS 179.21円 TDNet決算短信
予想PER 22.81倍 4,088 ÷ 179.21
FY2026/3 BPS 1,562.10円 EDINET有価証券報告書
PBR 2.62倍 4,088 ÷ 1,562.10
FY2027/3予想DPS・配当利回り 80円・1.96% 80 ÷ 4,088
FY2025/3標準NC ▲26,276百万円 48,452 − 74,728
FY2026/3標準NC ▲21,416百万円 54,370 − 75,786
FY2026/3標準NC比率 ▲2.93% FY2026/3標準NC ÷ 現値時価総額
FY2025/3広義NCAV 235,546百万円 524,936 + 7,958×0.7 − 294,961
FY2026/3広義NCAV 261,785百万円 667,872 + 8,121×0.7 − 411,772
FY2026/3広義NCAV比率 35.86% FY2026/3広義NCAV ÷ 現値時価総額
CN-PER(標準NC) 23.48倍 (729,965.789 + 21,416)÷ 32,000
CN-PER(広義NCAV) 14.63倍 (729,965.789 − 261,785)÷ 32,000

(出典: 現値データ、EDINET DB FY2025/3・FY2026/3、TDNet FY2027/3会社予想。金額式の時価総額と予想純利益は百万円単位。)

数値整合を確認すると、4,088円×178,563,057株 = 729,965,777,016円で、取得時価総額との差は12,168円(0.000002%未満)である。
22.81倍×179.21円 = 約4,088円、2.62倍×1,562.10円 = 約4,092.7円で、どちらも丸め誤差の範囲に収まる。

標準NCはネット有利子負債の状態を示し、現金を控除した収益倍率は予想PERより高くなる。
広義NCAVは、棚卸資産や売上債権を含む流動資産を基礎とするため、自由に使える現預金と同じ経済的確度ではない。
その差がCN-PERの23.48倍と14.63倍という幅を生む。

FY2027/3予想営業利益520.00億円にFY2026/3減価償却費45.79億円を加えたEBITDAは565.79億円。
標準NCによるEVは7,513.82億円、EV/EBITDAは13.28倍である。
広義NCAVを補助的に控除した場合はEV4,681.81億円、EV/EBITDA8.27倍となるが、在庫と債権の換金性を同時に点検する必要がある。

倍率ベース感応度

評価軸 倍率 位置づけ
同業FY2026/3実績PER下限 9.61倍 レスター
同業FY2026/3実績PER平均 12.28倍 3社単純平均
同業FY2026/3実績PER上限 16.10倍 リョーサン菱洋HD
マクニカHD現値予想PER 22.81倍 2026-09-23株価とFY2027/3予想EPS
マクニカHD現値予想EV/EBITDA 13.28倍 同業の標準NC基準は6.81〜11.81倍

(出典: EDINET DB、現値データ、TDNet FY2027/3会社予想。同業とマクニカHDは市場データの時点と実績/予想の分母が異なる。)


4. 同業比較 — 差分の論点

比較対象は、電子デバイス流通の事業重なりを持つ東京エレクトロンデバイス、レスター、リョーサン菱洋HDである。
マクニカHDの市場指標だけは2026年9月23日の現値とFY2027/3予想、比較先はFY2026/3有価証券報告書の年度データである。
時点差があるため、絶対水準より差を生む構造に重心を置く。

指標 マクニカHD 東京エレクトロンデバイス レスター リョーサン菱洋HD
時価総額(億円) 7,299.7 926.6 790.6 1,494.0
売上高(億円) 12,142.0 2,037.5 6,309.1 3,599.5
営業利益率 3.45% 5.03% 2.65% 2.81%
自己資本比率 39.8% 32.6% 26.6% 54.6%
PER 22.81倍(FY2027/3予想) 11.12倍 9.61倍 16.10倍
PBR 2.62倍 1.65倍 0.79倍 0.88倍
ROE 10.5% 15.6% 8.6% 5.5%
配当利回り 1.96%(FY2027/3予想) 3.62% 4.87% 4.69%
標準NC(億円) ▲214.2 ▲98.1 ▲586.8 105.4
標準NC比率 ▲2.93% ▲10.59% ▲74.22% 7.06%
EV/EBITDA 13.28倍(FY2027/3予想) 9.04倍 6.81倍 11.81倍

(出典: マクニカHDは2026-09-23現値とFY2026/3財務・FY2027/3予想、比較先はEDINET DB FY2026/3。標準NCの有利子負債は短期借入金と長期借入金を含む。EV/EBITDAは時価総額 − 標準NCを分子、営業利益 + 減価償却費を分母とする。)

マクニカHDは売上高と時価総額で比較先を大きく上回り、現値予想PERとEV/EBITDAも高い。
一方、FY2026/3の営業利益率は比較先3社平均をわずかに下回る。
この差は、AI関連とサイバーセキュリティへの成長期待、規模、サービス化の進展と、流通事業の低利益率・運転資本負担のどちらが強く表れるかを問う。


5. リスクと論点

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的シナリオ 対応状況・確認点
半導体需給・顧客在庫 高 中 AI関連以外の産業・車載需要が鈍化すると、販売数量、在庫回転、評価損に波及 用途・地域・商流を拡大。製品別の在庫年齢が重要
仕入先政策・地政学・輸出管理 高 中 メーカーの直販化、配分変更、輸出規制が供給と販売地域を制約 成長国展開と仕入先開拓。技術・地域別集中度は要確認
運転資本・為替・信用 高 中 在庫確保と売上債権が先行すると、営業CFと借入需要が悪化 FY2026/3のCCCは93.6日。Net DER上限0.5倍を資本規律に掲げる
サイバー攻撃・品質・供給責任 中 中 自社または取引網のインシデントでサービス停止、信用低下、対応費用が発生 セキュリティ知見を事業化。サプライチェーン全体の管理が必要
SS・M&Aの実行 中 中 開発・統合費用が先行し、継続契約化が進まなければ利益率改善が遅延 案件別採算、のれん、解約・更新率の開示が論点

(出典: FY2026/3有価証券報告書、中期経営計画、経済産業省 SCS評価制度。)

最大の定性リスクは、電子デバイス事業の売上集中と運転資本負担が、需給反転時に同時に表れることである。
需要が弱まれば在庫滞留と評価損、供給制約が強まれば商流の変更、海外構成が上がれば為替と低い利益率が論点となる。
売上成長と利益・営業CFを同じ方向の指標として扱うと、この負担を見落とす。

バリュートラップの論点は、広義NCAV2,617.85億円と標準NC▲214.16億円の差に表れる。
広義NCAVは流動資産の下支えを示すが、在庫と債権は商流を維持するために必要で、自由に再配分できる資金とは限らない。
DOE5%、総還元性向40〜50%、Net DER上限0.5倍の方針が、成長投資と資本効率の両方にどう表れるかを確認する必要がある。


6. バリュエーション統合と論点整理

評価差の構造

標準NC基準ではCN-PER23.48倍、広義NCAVを補助的に控除した場合は14.63倍である。
この差は、市場が見落とした現預金ではなく、売上債権・棚卸資産・投資有価証券と負債をどう評価するかの差である。
電子デバイス事業がFY2026/3売上高の85.66%を占める以上、流動資産は事業継続に必要な在庫と債権でもある。

現値予想PER22.81倍、標準NC基準EV/EBITDA13.28倍が同業のFY2026/3実績倍率を上回る背景には、予想と実績の分母差に加え、AI、サイバーセキュリティ、SSへの成長期待と事業規模がある。
一方でFY2026/3営業利益率3.45%は同業平均並みであり、評価の持続性は利益率、ROE、営業CF、CCCの同時改善に依存する。

条件分岐シナリオ

上方シナリオ: サービス化と利益率改善が同時に進む場合

前提: FY2027/3会社予想に沿ってAIサーバー、産業機器、セキュリティ需要が進み、電子デバイスの海外商流でも利益率が改善する。
SSで運用・更新型の収益が拡大する。
市場評価の変化: 在庫循環だけではなく、技術・運用支援の継続性を重視する評価軸が強まる。
高いPERやEV/EBITDAの説明力は、利益率・ROE・営業CFの改善で高まる。

基準シナリオ: FY2027/3会社予想と資本規律が両立する場合

前提: 半導体需要は用途別に濃淡を残しつつ、FY2027/3会社予想の売上高、営業利益、配当方針に沿って進む。
CCCを大きく悪化させず、Net DER上限の運用を続ける。
市場評価の変化: 現値予想PER22.81倍と標準NC基準EV/EBITDA13.28倍に対し、利益成長の持続性と在庫・債権の質を確認する評価が続く。
広義NCAVは補助的な評価軸となる。

下方シナリオ: 需給反転と運転資本の滞留が重なる場合

前提: AI関連以外の産業・車載需要が弱まり、顧客在庫の調整、供給条件の変化、為替・地政学要因が重なる。
売上債権・棚卸資産の増加に仕入債務が追いつかず、営業CFと利益率が弱まる。
市場評価の変化: 成長性より在庫回転、信用コスト、資金調達、評価損を重視する軸へ移る。
PERとEV/EBITDAは、循環性のある商流と資本負担に近い倍率で比較されやすくなる。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年9月28日 FY2027/3中間配当の権利付き最終日 中間DPS40円予想と還元方針の整合
2026年9月30日 FY2027/3第2四半期末 AIサーバー、産業機器、車載、セキュリティの需要差と棚卸資産
2026年12月31日 FY2027/3第3四半期末 海外商流の利益率、為替影響、売上債権と在庫の連動
2027年3月29日 FY2027/3期末配当の権利付き最終日 年間DPS80円予想、DOE5%、総還元性向40〜50%の運用
2027年3月31日 FY2027/3通期末 在庫、売上債権、仕入債務、標準NC、Net DER、成長投資残高
2027年6月30日 FY2027/3有価証券報告書の提出期限 セグメント利益率、M&A・投資ののれん、資本配分実績
2027年6月30日 FY2027/3ガバナンス更新の確認 取締役会の独立性、報酬、サクセッション、資本コストを意識した施策
2028年3月31日 2027年度(FY2028/3)中期目標の対象期末 売上高1.4兆円、営業利益800億円、利益率5.7%、ROE15.0%の進捗

M&A・出資検討の論点

企業結合の取得主体にとって許容EVを規定するのは、標準NCが▲214.16億円である資金実態、広義NCAV2,617.85億円に含まれる在庫・債権の換金性、FY2027/3営業利益予想520億円の再現性である。
シナジー候補は仕入先ラインカード、顧客基盤、技術営業、海外拠点、セキュリティ運用、CPS実装能力の接続にある。

ディスシナジーは代理店権の重複、顧客情報と技術人材の流出、在庫評価基準・与信基準の差、SS案件の個別カスタマイズ過多である。
DDでは主要仕入先契約の変更条項、顧客別・製品別集中度、在庫年齢、売掛金回収、輸出管理、為替ヘッジ、のれん・無形資産、サイバーインシデント、キーマンの定着を確認する。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 広義NCAVと標準NCを分けて流通モデルを読む

マクニカHDのFY2026/3末は、標準NCが▲214.16億円である一方、広義NCAVは2,617.85億円である。
この差は、現預金と有利子負債だけを見るか、売上債権・棚卸資産・投資有価証券と負債全体を見るかの定義差から生じる。
広義NCAVを金庫の現金とみなすと、商品、輸送中の在庫、未回収の請求書を含む「稼働中の配送網」であることを見落とす。
標準NCで借入依存を、広義NCAVで流動資産の下支えを分け、CCCと回収可能性に結びつけるのが分析の型である。

📚 着眼点2: 売上成長を利益率と運転資本から分解する

FY2026/3の電子デバイス事業の営業利益率は2.38%、ITソリューション事業は9.88%である。
売上高は水槽に流れ込む水量、利益率は水の濃さ、運転資本は水槽の大きさにたとえられる。
流入が増えても、水槽を急拡大させ、薄い利益率の商流が増えれば、利益と現金創出は同じ速度で増えない。
AIサーバーの数量、海外商流の利益率、セキュリティの運用・更新、在庫と債権の回転を一組として読むことが、成長の質を理解するのに有効である。

📚 着眼点3: 指標ポジショニング

指標 マクニカHD 同業3社平均 全上場中央値 評価コメント
予想PER 22.81倍 12.28倍(実績) 資料範囲で未確認 予想と実績の分母差を分ける必要がある
PBR 2.62倍 1.11倍 資料範囲で未確認 SSへの変革期待と運転資本負担の両方を反映
ROE 10.5% 9.9% 資料範囲で未確認 2027年度(FY2028/3)目標15.0%への進捗が重要
営業利益率 3.45% 3.50% 資料範囲で未確認 ITソリューションの構成変化が改善の鍵
予想EV/EBITDA 13.28倍 9.22倍(実績) 資料範囲で未確認 FY2027/3予想利益の実現性とNC定義の確認が必要
配当利回り 1.96% 4.39% 資料範囲で未確認 FY2027/3予想DPS80円とDOE5%方針の関係を見る
標準NC比率 ▲2.93% ▲25.92% 資料範囲で未確認 現預金より有利子負債が大きいが同業平均より負担は軽い
広義NCAV比率 35.86% 資料範囲で未確認 資料範囲で未確認 流動資産の下支えはあるが換金性に依存
CCC 93.6日 112.0日 資料範囲で未確認 同業平均より短いが、需給反転時の継続性が論点
自己資本比率 39.8% 37.9% 資料範囲で未確認 Net DER規律と成長投資の両立を見る

(出典: EDINET DB、現値データ、TDNet FY2027/3会社予想。同業平均はFY2026/3年度データ。)


参考情報

ガバナンス要点

マクニカホールディングスは2015年にマクニカと富士エレクトロニクスの共同株式移転で設立された持株会社である。
代表取締役社長は原一将氏、連結従業員数は5,261名(FY2026/3末)。
2026年6月23日時点の取締役は11名、うち独立社外取締役6名の監査等委員会設置会社で、指名・報酬諮問委員会を置く。
監査法人はEY新日本有限責任監査法人、主要取引銀行は三井住友銀行、三菱UFJ銀行、第四北越銀行、みずほ銀行、横浜銀行である。会社概要

大株主・大量保有報告ベースの構成

以下は株主名簿の同一基準日ランキングではなく、EDINET大量保有報告書の直近または過去の共同保有比率を比率順に並べたものである。日付と共同保有範囲が異なるため、比率を合算しない。

順位 株主・報告者 保有比率 報告日・区分
1 ダルトン・インベストメンツ・インク 9.18% 2026-07-15、海外運用会社
2 三井住友トラストAM/アモーヴァAM 7.04% 2025-09-19、共同保有
3 アセットマネジメントOne 6.36% 2026-09-07、国内運用会社
4 コロンビア・マネジメント等 5.38% 2026-05-21、共同保有
5 みずほ銀行/アセットマネジメントOne等 5.34% 2023-06-22、共同保有

ダルトンの報告比率は2026年3月18日の8.18%から2026年7月15日の9.18%へ増加した。ガバナンスと資本配分を巡る対話の影響は、会社開示と大量保有報告書の両方で確認する必要がある。

データ時点


出典一覧

  1. EDINET DB — マクニカホールディングス FY2022/3〜FY2026/3連結財務、セグメント、健全性指標、大量保有報告
  2. TDNet決算短信 — FY2027/3第1四半期実績・通期会社予想(2026年7月27日開示)
  3. 現値データ — 株価4,088円、時価総額729,965,789,184円、株式数178,563,057株(2026年9月23日)
  4. マクニカHD 中期経営計画 — 事業モデル、成長投資、資本政策、2027年度目標
  5. マクニカ 会社概要 — 取扱分野、主要取引先、従業員、拠点、取引銀行
  6. マクニカHD 有価証券報告書ライブラリ — FY2026/3有価証券報告書への導線
  7. 東京証券取引所 上場会社情報サービス(3132) — 市場区分、業種、決算期
  8. 経済産業省 サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度 — サプライチェーン・セキュリティの政策動向
  9. 経済産業省 サイバーセキュリティ経営ガイドライン — 経営層とサプライチェーンに求められる対策