📚 業界ノート

株式会社上組

【経済・倉庫・運輸関連業】倉庫・運輸関連業企業バリュエーション分析更新 2026-09-11

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. セグメント別売上構成(FY2026・百万円)
  3. 2. 財務の実力
  4. 3.1 PL 5期時系列(百万円)+ 来期予想
  5. 3.2 BS 5期時系列(百万円)
  6. 3.3 BS詳細主要科目(百万円)
  7. 3.4 CF 5期時系列(百万円)
  8. 3.5 減価償却明細
  9. 3.6 受注
  10. 3.7 運転資本(CCC・FY2026・厳密法)
  11. 3.8 配当推移
  12. 3.9 経営者予想精度
  13. 3.10 健全性チェック(事業会社基準・9項目)
  14. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  15. 3.1 標準NC計算(5期・百万円)
  16. 3.2 広義NCAV計算(5期・百万円)
  17. 3.3 CN-PER
  18. 3.4 EV-EBITDA分析(競合比較・FY2026・百万円)
  19. 3.5 EV-EBITDA感度(NC定義別・上組FY2026)
  20. 3.6 倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)
  21. 3.8 バリュエーション乖離コメント
  22. 4. 同業比較 — 差分の論点
  23. 4.1 競合選定基準
  24. 4.2 最新期比較テーブル(FY2026・百万円)
  25. 4.3 競合3期推移(百万円・営業利益率)
  26. 4.4 CCC競合比較
  27. 5. リスクと論点
  28. 6. バリュエーション統合と論点整理
  29. (a) 乖離の構造分析
  30. (b) 条件分岐シナリオ
  31. (c) 監視ポイント
  32. (d) M&A・出資検討の論点整理
  33. 7. 学びのポイント
  34. 📚 着眼点1: アセットヘビー×高自己資本比率がROEを抑える構造
  35. 📚 着眼点2: 政策保有株式の重さがEV/EBITDA・CN-PERに与える影響
  36. 📚 着眼点3: 株式会社上組の指標ポジショニング(相場観テーブル)
  37. 参考情報
  38. 出典一覧

株式会社上組(9364)銘柄分析レポート

SUMMARY
指標 値
現在株価 4,826円
現値時価総額 473,665百万円
予想PER(FY2027予想EPS基準) 17.3倍
PBR(FY2026 BPS基準) 1.20倍
EV/EBITDA(標準NCベース) 9.1倍
配当利回り(予想DPS基準) 4.25%
標準NC比率(対現値時価総額) 3.3%
広義NCAV比率(対現値時価総額) 21.0%
健全性スコア 83/100(rating S)

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 倉庫・運輸関連業業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは株式会社上組固有の事業構造に絞る。

上組は1867年、神戸港の港湾荷役業として創業した総合物流企業である。
港湾運送を祖業に、倉庫・自動車運送・国際輸送へと事業を広げ、現在も東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・福岡の国内6大港でコンテナターミナルを運営するターミナルオペレーターとして、港湾運送業界で高いシェアを持つ(出典: 会社IR)。

FP&Aの4カードで整理すると、上組の稼ぎ方の骨格が見えてくる。収益ドライバーは港湾運送・国際コンテナ物流・重量物輸送で、特殊貨物や重量建設機工など案件ごとに単価が積み上がる付加価値型の料金体系を取る。コスト構造は倉庫・岸壁設備・荷役機械への設備投資と、港湾労働者・オペレーターの人件費が両輪で、労働集約×アセット集約の二面性を持つビジネスである。運転資本はCCC30.4日(売上債権回転60.6日+棚卸1.8日−仕入債務32.0日)と物流業としては標準的な水準で、港湾荷役の入出金サイクルが比較的短いことを示す。資本集約度は自己資本比率73.5%という同業内でも突出した財務健全性に表れており、倉庫・土地・荷役機械を自己保有で積み上げてきた蓄積の結果と読める。

セグメント別売上構成(FY2026・百万円)

セグメント 売上高 構成比 営業利益 営業利益率 前年比(売上)
物流事業 260,849 88.5% 31,536 12.1% +7.4%
その他事業 33,908 11.5% 4,978 14.7% -6.4%

物流事業=港湾運送・倉庫・自動車運送・国際輸送。その他事業=重量建設機工・不動産賃貸・酒類製造販売・金融・太陽光発電等。

セグメント3期推移(物流事業・営業利益率): FY2024 11.4% → FY2025 11.8% → FY2026 12.1%

事業構成では、物流事業が売上構成比88.5%(営業利益率12.1%)、その他事業が構成比11.5%(営業利益率14.7%)を占める。
物流事業の内訳は港湾運送・倉庫・自動車運送・国際輸送で、その他事業は重量建設機工・不動産賃貸・酒類製造販売・金融・太陽光発電等の多角化事業群である。
市場分野別に見ると、港湾運送は堅調に推移し、国際物流はM&Aを通じた拡大局面にある一方、重量建設機工はプラント新設投資の波に左右されやすく市況感応度がやや高い。
決算説明では穀物・飼料・青果物といった輸入バルク貨物やコンテナ荷動きの増加が物流事業の収益拡大を牽引したと説明されている。

主要取引先は特定の荷主に集中しておらず、有価証券報告書では「営業収益総額の10%以上の相手先」が存在しない旨が記載されている。
輸入貨物では飼料・穀物・青果物、国内では自動車運送スポット輸送やコンテナ物流が主軸で、顧客分散が構造的な収益の安定性につながっている。

港湾運送業の参入障壁: 港湾運送事業は港湾運送事業法に基づき国土交通大臣の免許制が敷かれており、事業の種類・港湾ごとに免許を要する。
加えて上組は岸壁使用権や自社保有の倉庫用地・重機設備を長年かけて積み上げており、新規参入者が同水準の拠点網とオペレーション実績を短期間で再現するのは事実上難しい。
免許制と資産の厚みが二重の参入障壁として機能している(出典: 港湾運送事業法・会社IR)。

FY2026は上組にとって対外成長を明確に加速させた年度となった。
インド・ムンドラ港を拠点とするSAURASHTRA FREIGHT PVT.LTD.(コンテナ・フレート・ステーション運営とNVOCC事業)の株式87.75%を取得し連結子会社化したほか(2025年9月取締役会決議・同年12月株式譲渡実行)、国内では連結子会社の日本ポート産業を完全子会社化し低温領域の取扱いを強化、さらに米国では現地法人Kamigumi USAがロサンゼルス近郊カーソン市に自社運営倉庫「Kamigumi USA LA Logistics Center」(土地面積約23,233㎡)の稼働を2025年8月に開始した。
3件はいずれも「国内基盤の強靭化」と「グローバル事業の確立」という中期経営計画2030の基本方針に沿った布石で、2025年5月に策定した長期ビジョン2035「日本と世界で物流の未来をデザインする総合物流カンパニー」の実現に向け、海外拠点網(香港・上海・深圳・台湾・ベトナム・シンガポール・インド・米国等)を軸にグローバル展開を段階的に加速させる意図が読み取れる(出典: 会社IR・M&A開示)。


2. 財務の実力

3.1 PL 5期時系列(百万円)+ 来期予想

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026 FY2027予想
売上高(営業収益) 261,681 274,139 266,785 279,182 294,758 305,000
営業利益 28,524 31,580 30,592 33,095 36,544 34,300
経常利益 30,875 35,064 34,185 36,655 40,685 37,500
当期純利益 20,861 24,620 25,035 26,935 31,262 27,340
EPS(円) 180.14 220.69 232.97 257.88 311.26 276.94
売上総利益 47,944 51,352 51,011 55,536 62,130 —
減価償却費 13,082 13,589 13,651 13,191 13,839 —

FY2026純利益は賃貸不動産物件・政策保有株式の売却益(特別利益6,096百万円)を含む。FY2027予想の減益は当該一過性売却益の反動によるもので、営業収益(本業)は増収予想。

FY2027 Q1実績(2026-08-13開示・累計3ヶ月・百万円): 営業収益74,919/営業利益8,712/経常利益10,356/純利益7,113/EPS72.05円

3.2 BS 5期時系列(百万円)

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
総資産 434,734 456,038 483,921 491,092 538,407
流動資産 111,904 132,587 143,101 156,362 149,534
固定資産 322,829 323,451 340,819 334,729 388,872
負債合計 66,817 83,033 96,631 106,574 140,548
純資産 367,917 373,005 387,290 384,518 397,859
自己資本(株主資本+その他包括利益・非支配除く) 355,390 358,055 361,153 359,976 361,297
自己資本比率(公式) 84.2% 81.4% 79.7% 78.0% 73.5%
BPS(円) 3,193.03 3,372.82 3,622.81 3,780.59 4,006.48
流動負債 46,631 42,906 44,957 46,660 63,654
利益剰余金 321,928 313,851 317,355 317,009 331,210

3.3 BS詳細主要科目(百万円)

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
現預金 46,364 66,147 80,098 95,509 69,189
短期有価証券 10,500 10,600 10,800 26,790 17,095
投資有価証券 75,101 78,441 102,129 96,863 129,088
有利子負債(借入金+社債+1年内返済) 0(開示なし) 20,000 30,000 40,486 70,591
売上債権 45,861 46,995 46,925 46,933 48,897
棚卸資産 764 816 893 1,046 1,177
仕入債務 27,107 25,831 24,718 26,152 20,417

有利子負債内訳注記: FY2023 長期借入20,000/FY2024 長期借入30,000/FY2025 短期486+長期40,000=40,486/FY2026 長期借入50,422+1年内返済20,169=70,591。
FY2022は借入金・社債の開示なし(実質無借金)。

3.4 CF 5期時系列(百万円)

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
営業CF 37,036 35,564 42,471 40,409 35,717
投資CF -3,804 -13,720 -16,423 -7,467 -60,608
財務CF -9,779 -2,224 -12,216 -17,894 -1,613
FCF(営業+投資) 33,232 21,844 26,048 32,942 -24,891
設備投資(capex) 14,485 16,959 10,068 5,706 14,852

FY2026投資CF -60,608の主因: 定期預金純増200億、関係会社株式取得192.61億、子会社株式取得(連結範囲変更)193.90億(インドSAURASHTRA FREIGHT・日本ポート産業等のM&A)。
のれん11,081百万・顧客関連資産7,403百万を新規計上。

3.5 減価償却明細

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
減価償却費(PL計上) 13,082 13,589 13,651 13,191 13,839
設備投資(capex) 14,485 16,959 10,068 5,706 14,852
capex/減価償却費 倍率 1.11 1.25 0.74 0.43 1.07

3.6 受注

該当なし(非受注産業。物流サービス業のため有報でも生産・受注の状況は記載省略)。

3.7 運転資本(CCC・FY2026・厳密法)

3.8 配当推移

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026 FY2027予想
1株配当(円) 73 90 100 130 205 205
配当性向 40.5% 40.8% 42.9% 50.4% 65.9% 74.0%(予想EPS276.94基準)

8期連続増配。

3.9 経営者予想精度

本レポートの入力データには、複数期にわたる「期初会社予想 vs 実績」の数値系列が揃っていないため、定量的な予想精度テーブルは算出不可(データ不足)。判明している範囲のみ記載する。

項目 値
FY2027会社予想(2026-05-14公表) 営業収益 305,000百万円
FY2027会社予想 純利益 27,340百万円
FY2027会社予想 EPS 276.94円
FY2027 Q1実績(累計3ヶ月・EPS) 72.05円

※過去複数期の期初予想値データが本レポートに無く、予想対比の傾向(例: 保守的/強気)を定量化することはできない。

3.10 健全性チェック(事業会社基準・9項目)

項目 基準 実績 判定
自己資本比率 > 40% 73.5% ✅
有利子負債 vs 現預金 現預金が上回る 有利子負債70,591 / 現預金69,189 ⚠️(僅差・FY2026にM&A借入で逆転)
流動比率 > 150% 149,534÷63,654=235% ✅
利益剰余金 > 0 331,210百万円 ✅
営業CF 3期連続黒字 35,717/40,409/42,471(FY2026/25/24) ✅
配当 継続支払・増配傾向 8期連続増配 ✅
EPS前年比 プラス 311.26円(FY2026) vs 257.88円(FY2025) ✅
ROE ≒8%以上 8.0% ✅(僅かに達成)
営業利益率 業界平均超 12.4%(三菱5.8%・三井7.4%) ✅

3. 市場評価を読む — バリュエーション

3.1 標準NC計算(5期・百万円)

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
現預金 46,364 66,147 80,098 95,509 69,189
短期有価証券 10,500 10,600 10,800 26,790 17,095
有利子負債 0(開示なし) 20,000 30,000 40,486 70,591
標準NC 56,864 56,747 60,898 81,813 15,693

※過去期の時価総額データが無いため、標準NC比率は現値時価総額(473,665百万円)を用いたFY2026のみ算出(3.3%)。
FY2022の有利子負債は借入金・社債の開示がなく実質無借金として0で計算。

3.2 広義NCAV計算(5期・百万円)

計算式: 流動資産 + 投資有価証券×0.7 − 負債合計

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026
流動資産 111,904 132,587 143,101 156,362 149,534
投資有価証券×0.7 52,571 54,909 71,490 67,804 90,362
負債合計 66,817 83,033 96,631 106,574 140,548
広義NCAV 97,658 104,463 117,960 117,592 99,348

広義NCAV比率(FY2026・対現値時価総額473,665百万円) = 99,348 ÷ 473,665 = 21.0%

3.3 CN-PER

3.4 EV-EBITDA分析(競合比較・FY2026・百万円)

項目 上組(9364) 三菱倉庫(9301) 三井倉庫HD(9302)
時価総額 473,665(現値) 479,699(EDINET) 311,065(EDINET)
標準NC / 簡易NC 15,693 -42,698 -31,992
EV 457,972 522,397 343,057
営業利益 36,544 15,928 22,111
減価償却費 13,839 17,703 11,406
EBITDA 50,383 33,631 33,517
EV/EBITDA 9.1倍 15.5倍 10.2倍

⚠️ 時価総額: 上組のみ現値(2026-09-11時点)、三菱倉庫・三井倉庫HDはEDINET基準値(期末固定値)のため比較には時点差がある。
⚠️ 競合2社は短期有価証券が非開示のため、簡易NC=現預金−有利子負債で代替算出(上組の標準NCとは定義が異なる)。

3.5 EV-EBITDA感度(NC定義別・上組FY2026)

NC定義 控除額(百万円) EV(百万円) EV/EBITDA
標準NC(現預金+短期有価証券−有利子負債) 15,693 457,972 9.1倍
NC控除なし(時価総額そのまま) 0 473,665 9.4倍
広義NCAVを控除 99,348 374,317 7.4倍

3.6 倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)

株価換算は行わず、適用PER倍率のレンジのみを参考値として示す。

適用PER(倍) 現在PER(17.3倍)との差
12.0 -5.3
15.0 -2.3
17.3(現在水準) 0.0
20.0 +2.7
23.0 +5.7

参考: 同業2社の実績PERは三菱倉庫8.5倍・三井倉庫HD26.9倍(三菱・三井とも特別利益計上により純利益が一過性に押し上げられておりPER解釈には留意)。

3.8 バリュエーション乖離コメント


4. 同業比較 — 差分の論点

4.1 競合選定基準

同業(倉庫・運輸関連/港湾物流大手)で売上規模が近い2社を選定: 三菱倉庫(9301・E04283)、三井倉庫ホールディングス(9302・E04284)。

4.2 最新期比較テーブル(FY2026・百万円)

項目 上組(9364) 三菱倉庫(9301) 三井倉庫HD(9302)
売上高 294,758 273,446 299,472
営業利益 36,544 15,928 22,111
営業利益率 12.4% 5.8% 7.4%
経常利益 40,685 21,563 21,284
純利益 31,262 54,773(一過性益含む) 11,151
総資産 538,407 639,786 310,706
自己資本 361,297 316,346 108,756
自己資本比率 73.5% 59.3% 45.7%
BPS(円) 4,006.48 1,103.18 1,849.68
EPS(円) 311.26 155.84 148.27
ROE 8.0% 14.5%(一過性益含み過大) 8.6%
時価総額 473,665(現値2026-09-11) 479,699(EDINET) 311,065(EDINET)
PER 17.3倍(予想) 8.5倍 26.9倍
PBR 1.20倍 1.20倍 2.16倍
配当利回り 4.25% 2.87% 1.23%
DPS(円) 205 38 49
営業CF 35,717 6,531 23,697
設備投資 14,852 24,140 8,917
現預金 69,189 60,548 47,698
減価償却費 13,839 17,703 11,406
有利子負債 70,591 103,246(短期39,693+長期15,553+社債48,000) 79,690(短期550+長期51,070+社債16,000+1年内12,070)
棚卸資産 1,177 null(非開示) 2,219
仕入債務 20,417 26,042 16,904
売上債権 48,897 null(非開示) null(非開示)

⚠️ 時価総額: 上組のみ現値(2026-09-11)、三菱倉庫・三井倉庫HDはEDINET基準(期末固定値)のため比較時点が異なる。

4.3 競合3期推移(百万円・営業利益率)

項目 FY2024 FY2025 FY2026
三菱倉庫 売上高 254,507 284,069 273,446
三菱倉庫 営業利益率 7.4% 7.1% 5.8%
三井倉庫HD 売上高 260,593 280,742 299,472
三井倉庫HD 営業利益率 8.0% 6.4% 7.4%
上組(参考) 売上高 266,785 279,182 294,758
上組(参考) 営業利益率 11.5% 11.9% 12.4%

4.4 CCC競合比較

項目 上組(9364) 三菱倉庫(9301) 三井倉庫HD(9302)
CCC 30.4日 売上債権 非開示のため算出不可 売上債権 非開示のため算出不可

5. リスクと論点

有価証券報告書に記載された6項目のリスクを、影響度と発生可能性の観点で具体化するとマトリクスは以下のようになる。

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
輸出入貨物取扱量の変動(天候・感染症・セーフガード・戦争等) 大 中 世界的な物流停滞や地政学リスクでコンテナ荷動きが減速し物流事業の売上・利益率が圧迫される 事業・地域の分散(国内6大港+海外拠点網)で単一港湾依存を回避
環境規制強化(自動車運送のCO2・NOx規制) 中 高 車両代替投資の前倒しでコスト増、規制未対応車両の稼働制限 DXによる業務効率化・車両更新計画で対応方針を明記
事故・自然災害 大 低〜中 台風・地震等による港湾施設の損壊、荷役停止による機会損失 分散拠点・BCP整備
固定資産の減損(倉庫・土地を多く保有) 中 低 地価下落や稼働率低下で保有不動産の減損損失計上 資産の含み益が相応に厚く、直ちに減損トリガーに至る可能性は限定的
投資有価証券の減損(政策保有株多数) 大 中 相場下落局面で評価損計上、自己資本の毀損 政策保有株縮減の方向性は業界共通の潮流として意識されつつある
退職給付債務(割引率変動) 小〜中 中 割引率低下で債務評価額が増加し費用計上が拡大 制度設計の見直しは有報記載なし・継続監視事項

政策保有株式・M&Aのれんの減損リスクを深掘りすると、上組は投資有価証券として129,088百万円という厚い政策保有株を抱えている。
株式相場が全面安となる局面では評価損の計上余地が大きく、自己資本比率73.5%という高い健全性スコアの裏側で、実は評価益が相場動向に依存する構造でもある。
加えてFY2026のインド・国内M&Aによりのれん11,081百万円・顧客関連資産7,403百万円を新規計上しており、買収先の収益計画が計画未達となれば減損テストでのれんの一部または全部を切り下げるシナリオも考えられる。
海外M&A特有の為替・カントリーリスクも複合的に絡む論点である。

バリュートラップの論点もあわせて整理しておく必要がある。
上組は広義NCAV比率21.0%という資産の厚みを持ちながら、ROE8.0%・PBR1.20倍という水準にとどまっている。
これは資産の含みが株価評価に十分に反映されていない、あるいは資本効率の低さが株価の重しになっている可能性を示唆する。
大株主にはシルチェスター・インターナショナル・インベスターズという英国のバリュー系ファンドが3.93%保有しており、大量保有報告書上の保有目的には増配・自己株買入・金庫株消却等の資本政策変更を要求することがある旨が明記されている。
東証が全上場企業に求める「資本コストや株価を意識した経営」の要請とも重なる文脈で、政策保有株の縮減ペースと資本効率改善の進捗が、割安が放置されたままなのか、それとも構造的に評価が是正されていくのかを分ける分水嶺になり得る。


6. バリュエーション統合と論点整理

(a) 乖離の構造分析

定量分析が示すとおり、上組のEV/EBITDA9.1倍(標準NCベース)は競合2社(三菱倉庫・三井倉庫HD)の中で最も低く、PBR1.20倍も同業内で突出して割安というわけではないが、営業利益率12.4%・自己資本比率73.5%という収益性・健全性の高さと比較すると市場評価が控えめに映る。
この乖離の背景には複数の構造要因が重なっていると考えられる。
第一に、保有資産(倉庫・土地・政策保有株)の含みがバランスシート上に厚く積み上がっており、市場は含み資産の実現可能性を割り引いて評価している可能性がある。
第二に、政策保有株129,088百万円という規模自体が資本効率(ROE8.0%)の重しとなっており、資産の量に見合うリターンが出ていないという評価軸が働いている。
第三に、港湾運送・重量物輸送という事業はアナリストカバレッジが相対的に薄く、情報の非対称性が株価形成に影響している可能性もある。
ガバナンス面では取締役会の女性取締役比率33.3%など改善の動きはあるが、資本政策の抜本的な転換(政策保有株の計画的縮減、自己株買いの規模拡大)が市場に十分に認識されるまでには時間を要する。
以上を踏まえると、現状の評価は「割安が放置されている」側面と「資産の重さに対するバリュートラップ的な警戒」の側面が併存していると整理するのが妥当であり、どちらに収斂するかは資本政策の実行速度に依存する。

(b) 条件分岐シナリオ

上方シナリオ

前提: 政策保有株式の計画的な縮減が加速し、中期経営計画2030で掲げる総額650億円規模の自己株式取得が着実に進捗。
インド・国内M&Aのシナジー(低温物流・グローバルネットワーク拡張)が収益貢献として顕在化する。
市場評価の変化: 資本効率改善が数値として確認されることで、EV/EBITDA・PBRのレンジが同業内での相対的な割安幅を縮小させる方向に切り上がる可能性がある。
ROICとWACCの差が意識されやすくなる局面。

ベースシナリオ

前提: FY2027会社予想(営業収益305,000百万円・営業利益34,300百万円・純利益27,340百万円)並みの進捗が続き、中期経営計画2030の各年度目標に沿った緩やかな成長が継続する。
市場評価の変化: 現行のEV/EBITDA・PBRのレンジが概ね維持され、配当利回り4.25%という株主還元の厚みが評価の下支え要因として機能し続ける可能性がある。

下方シナリオ

前提: 世界的な貨物取扱量の減速(地政学リスク・セーフガード発動等)や、政策保有株式・M&Aのれんの減損が顕在化する。
為替変動が海外子会社の収益貢献を目減りさせる。
市場評価の変化: 収益の振れが意識され、評価倍率のディスカウントが拡大する方向に振れる可能性がある。
バリュートラップ的な見方が強まりやすい局面。

(c) 監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年11月頃 FY2027第2四半期決算短信 物流事業(港湾運送・国際輸送)の荷動き動向、インド・国内M&A子会社の収益貢献の進捗
2026年12月末 中間配当権利確定日(9月末が基準の場合は別途要確認) 配当性向70%目安の業績連動型配当の実施状況
2027年2月頃 FY2027第3四半期決算短信 重量建設機工セグメントの受注動向、政策保有株評価損益の四半期推移
2027年3月末 期末配当権利確定日(権利付き最終日は3月末の2営業日前) 年間配当実績と中期経営計画2030の配当性向目安との整合
2027年5月頃 FY2027本決算・FY2028会社予想公表 中期経営計画2030の進捗確認(2027年3月期時点の売上高・営業利益・ROE)
随時 政策保有株式縮減に関する開示(コーポレートガバナンス報告書等) 縮減目標・実績の有無、縮減ペースの加速有無
随時 自己株式取得の実施状況開示 中期経営計画2030で掲げる総額650億円規模の取得の進捗ペース
随時 大量保有報告書の変更報告(野村・三井住友トラスト・シルチェスター等) 主要株主の持分変動、バリュー系ファンドの保有継続・増減の動き

(d) M&A・出資検討の論点整理

買い手目線でEV水準を検討する際の参照点として、標準NC15,693百万円(標準NC比率3.3%)と広義NCAV99,348百万円(広義NCAV比率21.0%)の差は、上組が保有する不動産・倉庫用地・政策保有株の含みの大きさを表している。
この差分をどう評価するかが論点の核となる。
シナジー面では、インド・ムンドラ港のコンテナ・フレート・ステーション運営網、国内の低温物流拠点(日本ポート産業)、米国西海岸の自社倉庫という3つの新規拠点が既存の国内港湾運送・国際輸送網とどれだけ相互送客・相互補完できるかが評価の分かれ目になる。
デューデリジェンスの確認事項としては、(1)政策保有株式129,088百万円の時価評価と処分可能性、(2)M&Aで計上したのれん11,081百万円・顧客関連資産7,403百万円の減損リスクとその前提となった事業計画の妥当性、(3)港湾運送事業特有の免許制の下でのキーマン・地元取引関係への依存度、が挙げられる。
これらはあくまで分析上の論点整理である。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: アセットヘビー×高自己資本比率がROEを抑える構造

上組は自己資本比率73.5%という、同業の三菱倉庫(59.3%)・三井倉庫HD(45.7%)を大きく上回る財務健全性を持ちながら、ROEは8.0%にとどまる。
これは「守りの強さ」と「攻めの効率」がトレードオフの関係にあることを示す典型例である。
自己資本を厚く積み上げるほど、その分母(自己資本)に対する利益(分子)の比率は薄まりやすい。
港湾運送業のように倉庫・土地・重機といった長期保有資産への投資が不可欠な業態では、負債活用によるレバレッジを抑える経営判断が財務の安定性を高める一方で、資本効率の指標としてのROEは伸びにくくなる。
中期経営計画2030がROE8.0%を数値目標として明示していること自体、現状のROE水準を維持・改善課題として認識していることの裏返しでもある。
分析上の含意としては、健全性スコアが高い企業ほど「安全だが資本の使い方に伸びしろがある」という見方が成り立ちやすく、自己株買いや政策保有株縮減といった資本政策の実行力が、財務健全性を維持したままROEを引き上げられるかの試金石になる。

📚 着眼点2: 政策保有株式の重さがEV/EBITDA・CN-PERに与える影響

上組の投資有価証券(政策保有株式を含む)は129,088百万円と、時価総額473,665百万円の27%超に相当する規模を持つ。
政策保有株は事業には直接使われていない資産でありながら、企業価値評価の分母(EV=時価総額+有利子負債−現金等)や標準NCの算出過程で無視できない存在感を持つ。
標準NCベースのEV/EBITDA9.1倍・CN-PER16.7倍という指標は、こうした非事業資産を一定程度控除した上で算出されるため、単純なPER(予想PER17.3倍)よりも事業の実力に近い評価倍率を示しているとみることができる。
政策保有株のような非事業資産の重さは、「バランスシート上は資産だが、株主から見ると眠っている資本」という二面性を持つ比喩で捉えると理解しやすい。
分析上の含意としては、政策保有株の縮減が進むほど、EV/EBITDAやCN-PERといった非事業資産を調整した指標と、PER・PBRといった調整前の指標との乖離が縮小していくため、この乖離幅の推移自体が資本効率改善の進捗を測る一つの物差しになり得る。

📚 着眼点3: 株式会社上組の指標ポジショニング(相場観テーブル)

指標 上組の値 同業平均(三菱倉庫・三井倉庫HD) 全上場中央値(目安) 評価コメント
予想PER 17.3倍 約17.7倍 概ね14〜15倍 同業平均並み。三菱倉庫の一過性益による低PERとの単純比較は要注意
PBR 1.20倍 三菱倉庫1.20倍・三井倉庫HD2.16倍 概ね1.0〜1.2倍 三菱倉庫と並ぶ水準。三井倉庫HDの高PBRは低自己資本比率下でのROE押し上げも一因
EV/EBITDA(標準NCベース) 9.1倍 3社中最低水準 — 非事業資産控除後で見ると相対的に割安感がある構造
配当利回り 4.25% 三菱倉庫2.87%・三井倉庫HD1.23% 概ね2%台 3社中最高。高配当性向方針が支える
自己資本比率 73.5% 三菱倉庫59.3%・三井倉庫HD45.7% 概ね40〜50%台 同業内で突出した健全性。守りの強さが際立つ
ROE 8.0% — 概ね8〜9%台 中計2030目標(8.0%)と同水準。資本効率は改善余地の論点
ROIC 9.2% — — ROEを上回りレバレッジ非依存の実力収益力を示す
営業利益率 12.4% 三菱倉庫5.8%・三井倉庫HD7.4% 概ね5〜8%台 同業内で最も高く、規制産業の収益性優位を体現
標準NC比率 3.3% — — 事業に必要な現金水準は薄く、資産の主体は事業用固定資産・投資有価証券
広義NCAV比率 21.0% — — 資産の厚みが大きく、割安放置かバリュートラップかの論点の核

参考情報

上組は1867年の港湾荷役業創業を起点とし、1949年に株式会社として設立された神戸市中央区に本社を置く総合物流企業である。
連結従業員数は4,389人、子会社33社・関連会社18社を擁し、香港・上海・深圳・台湾・ベトナム・シンガポール・インド・米国等に海外拠点を展開している。
取締役会構成では女性取締役比率が33.3%に達しており、ガバナンス面での多様性確保が進みつつある(出典: 会社IR)。
会計監査人・具体的な代表取締役氏名等の詳細はEDINET開示・会社公式サイトで別途確認されたい。

大株主構成(大量保有報告書ベース・断片的開示。確定順位は会社IR・株探等での補足を要する)は以下の通り。

順位 株主名 保有比率 区分
1 野村アセットマネジメント 4.99% 資産運用会社(2024-02-22時点)
2 三井住友トラスト・アセットマネジメントグループ 4.19% 資産運用会社(2025-09-19)
3 野村證券グループ(野村アセットマネジメント等) 4.04% 証券・資産運用グループ(2026-09-07変更報告)
4 シルチェスター・インターナショナル・インベスターズLLP 3.93% 英国バリュー系アクティビストファンド(2022-06-13)
5 かみぐみ共栄会(理事長 谷川龍二) 7.04% 取引先持株会(2025-12-12届出・順位は届出時期ベースで暫定)

※上記は5%以上保有を対象とする大量保有報告書の届出時点データであり、有価証券報告書の主要株主欄(議決権ベースの上位10名等)とは母集団・時点が異なる断片的開示である。
シルチェスター・インターナショナル・インベスターズLLPは大量保有報告書上の保有目的に、増配・自己株買入・金庫株消却等の資本政策変更を要求することがある旨を明記している事実のみここに記載する。

データ基準日の違いは以下の通り。

データ種別 基準日 ソース
財務データ(PL/BS/CF・セグメント等) 2026-03-31 有価証券報告書・決算短信
市場データ(株価・時価総額・PER等) 2026-09-11 市場データ(株価情報)
大株主データ 各届出日(2022-06〜2026-09、個別記載) 大量保有報告書

出典一覧

  1. EDINET DB(EDINETコード E04345・E04283・E04284、有価証券報告書ベースの財務データ)
  2. TDNet 決算短信(株式会社上組 FY2026本決算・FY2027 Q1決算短信)
  3. 現値マーケットデータ(2026-09-11時点の株価・時価総額)
  4. 港湾運送|総合物流サービス|株式会社上組
  5. 上組の事業|上組について|株式会社 上組
  6. 株式会社上組 長期ビジョン2035 中期経営計画2030 2025年5月(PDF)
  7. 長期ビジョン2035・中期経営計画2030|株式会社上組
  8. 株主還元|株主・株式基本情報|株式会社上組
  9. Announcement of the commencement of operations at our local subsidiary, Kamigumi USA's self-operated warehouse | Kamigumi Co., Ltd.
  10. ダラス本社のKamigumi USA Inc.とは — Gephyro Consulting
  11. 国内倉庫・総合物流主要8社の特徴を徹底比較 | Lanes
  12. 上組中計、30年3月期に連結営業収益3500億円 - LogisticsToday
  13. 上組、日本ポート産業完全子会社化で低温領域強化 - LogisticsToday
  14. 上組、ターミナル事業のインドSaurashtra Freightを買収|M&Aニュース
  15. 上組、日本ポート産業の株式を追加取得し、完全子会社化|M&Aニュース
  16. 上組[9364]:利益還元に関する基本方針の変更および剰余金の配当(増配)に関するお知らせ - 日本経済新聞
  17. 港湾運送事業法の一部を改正する法律
  18. III 港湾運送事業の現状と将来像 - 国土交通省