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ANAホールディングス

【経済・空運業】空運業銘柄レポート更新 2026-08-10

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. ANAホールディングスの事業構成
  3. セグメント別売上構成(FY2026/3)
  4. 主要取引先
  5. 競争優位性の比喩的説明
  6. ANAホールディングスの固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 2. 財務の実力
  8. PL — 5期+予想(百万円、EPS/DPSは円)
  9. BS — 5期(百万円)
  10. BS詳細主要科目(百万円)— 5期
  11. 有利子負債内訳(百万円)— 5期
  12. CF — 5期(百万円、FCFは2定義併記)
  13. 減価償却費明細(百万円)— 5期
  14. オペレーティング指標(輸送実績・イールド)
  15. 受注高・受注残高
  16. 運転資本分析(CCC)
  17. 配当推移 — 5期+予想(円)
  18. 経営者予想精度
  19. 健全性チェック(事業会社基準・9項目)
  20. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  21. 時価総額・株価の基準
  22. 標準NC(Net Cash)計算 — 5期推移(簡易法・百万円)
  23. 広義NCAV計算 — 5期推移(流動資産+投資有価証券×0.7-負債合計・百万円)
  24. CN-PER(キャッシュニュートラルPER)
  25. EV/EBITDA分析
  26. EV/EBITDA感度テーブル(NC定義別・FY2026/3実績EBITDA 386,449百万円基準)
  27. 倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)
  28. バリュエーション乖離コメント
  29. 4. 同業比較 — 差分の論点
  30. 競合選定基準
  31. 最新期比較テーブル(現値ベース・2026-08-07)
  32. 競合3期推移(売上高営業利益率)
  33. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  34. 5. リスクと論点
  35. リスクマトリクス
  36. 燃油・地政学リスクの前提と進捗の乖離
  37. 対JALの収益性逆転という構造要因
  38. バリュートラップの論点 — 「NC過剰蓄積」型ではなく「巨額投資と資本コスト」型
  39. 6. バリュエーション統合と論点整理
  40. 乖離の構造分析
  41. 条件分岐シナリオ
  42. 監視ポイント
  43. M&A・出資検討の論点整理
  44. 7. 学びのポイント
  45. 📚 着眼点1: 実績PER8.76倍と予想PER15.01倍が同時に成立する意味
  46. 📚 着眼点2: 種類株式と転換社債が「1株利益」を静かに削る構造
  47. 📚 着眼点3: ANAホールディングスの指標ポジショニング
  48. 参考情報
  49. 大株主構成(大量保有報告書ベース・5%以上)
  50. データソースの時点差
  51. 出典一覧

ANAホールディングス(9202)銘柄分析レポート

SUMMARY

現値ベース時価総額 1兆3,587億円
予想PER 15.0倍(会社予想EPS 209.26円=普通株主帰属ベース)は自社5期実績PERレンジ(7.8〜15.1倍)の上限近辺。
EV/EBITDA(主系列・純有利子負債ベース)は約4.6倍。
標準NC比率は有報開示ベースで +6.3%(簡易法では重複計上あり)、広義NCAV比率は -33.0% とマイナス。
配当利回り(FY2027/3会社予想60円ベース)は 1.91%
健全性スコアは 73/100(rating A)。

指標 評価
時価総額 13,587億円 大型
実績PER 8.76倍 自社レンジ下限寄り
予想PER 15.01倍 自社レンジ上限近辺
予想EV/EBITDA(推計) 5.44倍
配当利回り(予想) 1.91% 中位
標準NC比率(有報開示ベース) +6.3% 低い
広義NCAV比率 -33.0% マイナス
健全性スコア 73/100 中位

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 空運業業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは ANAホールディングス固有の事業構造に絞る。

ANAホールディングスは持株会社体制の下、航空事業を中核に商社事業・航空関連事業・旅行事業を束ねる複合企業である。
稼ぎの源泉は圧倒的に「空を飛ばすこと」そのものにあり、航空事業がFY2026/3の外部売上の89.66%、営業利益の大半を占める。

収益ドライバーは旅客キロ×イールドの掛け算で理解するのが早い。
国際線はFY2026/3の旅客キロが51,307,355千人キロ(約513億人キロ)、単価17.13円/人キロで構成され、FY2025/3の17.61円から-2.7%とイールドが下がった一方、数量(旅客キロ)は+12.2%伸びた。
数を稼いで単価を犠牲にした構図である。
国内線は逆に、座席キロを-1.2%絞り込みながら旅客キロを+4.3%増やし、利用率を79.2%(+4.2pt)へ引き上げた。
供給を削って需給を締める「量から質」への転換が国内線のFY2026/3の実態である。
マイレージ附帯・機内販売・整備受託等の「その他」収入189,566百万円は、輸送量の増減に直接連動しないストック的な収入源として下支えしている。

コスト構造は燃油費・人件費・空港使用料という固定費比重の高い装置産業型である。
従業員数は1年で+3,807名増え47,826名となり、人件費インフレが進行している。
減価償却費は169,012百万円で、機材投資の重さがそのままコストに跳ね返る。
利用率と燃油市況への感応度が高く、座席が埋まらない・燃料が上がるという2つの外部要因だけで損益分岐点が動く業態である。

運転資本はCCC -27.22日(FY2026/3。FY2025/3は-28.67日)とマイナスを維持しており、契約負債(前受金)596,820百万円という「先にチケット代を受け取り、あとでサービスを提供する」前受モデルが源泉になっている。
なお同業JALのCCC+11.29日との単純比較は、両社の売上債権計上科目の違いによりXBRLタグ上の見かけの乖離が大きく、絶対水準の比較としては成立しない。
ANA単体の時系列変化として読むべき指標である。

資本集約度は設備投資262,300百万円(売上比10.3%)、建設仮勘定281,132百万円(航空機の前渡金の積み上がり)、総資産回転率0.642回という数字に表れている。
中期経営戦略ではさらに5年間で2.7兆円の成長投資を計画しており、投資配分は国際旅客・貨物事業に約50%、DXに約10%(2,700億円)が振り向けられる(ANAグループ中期経営戦略)。
装置産業としての資本集約度は今後さらに強まる方向にある。

データが取れない項目(機材リース比率の詳細内訳等)は要調査とする。

ANAホールディングスの事業構成

セグメント別売上構成(FY2026/3)

⚠️ 外部売上はセグメント間取引控除後(合計が連結売上高2,539,233と一致)。有報MD&A記載のセグメント別売上(セグメント間を含む)とは定義が異なる。両者を混在させないこと。

セグメント 外部売上 構成比 セグメント間売上 営業利益 営業利益率 売上YoY 営利YoY 減価償却 設備投資
航空事業 2,276,718 89.66% 36,501 221,920 9.75% +12.72% +11.45% 161,918 248,451
商社事業 132,933 5.24% 21,316 7,557 5.68% +18.74% +65.61% 1,174 3,509
航空関連事業 60,219 2.37% 301,400 1,456 2.42% +8.55% -63.92% 4,385 4,856
旅行事業 50,154 1.98% 15,178 -146 -0.29% -10.27% -175.65% 1,204 1,495
その他 19,209 0.76% 30,519 2,276 11.85% +2.96% +97.74% 331 1,390
合計 2,539,233 100.0% 233,063 169,012 259,701

セグメント営業利益合計233,063と連結営業利益217,437の差-15,626は全社費用・消去。

セグメント営業利益率の3期推移

セグメント FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
航空事業 11.37% 9.86% 9.75%
商社事業 4.51% 4.08% 5.68%
航空関連事業 13.84% 7.27% 2.42%
旅行事業 2.28% 0.35% -0.29%

航空事業の収入内訳(有報MD&A・セグメント間含むベース・百万円)

収入区分 FY2025/3 構成比 FY2026/3 構成比
国際線 旅客 805,530 30.4% 878,977 29.9%
国際線 貨物 187,332 7.1% 184,125 6.3%
国内線 旅客 703,991 26.6% 738,013 25.0%
国内線 貨物 23,032 0.9% 22,834 0.8%
その他(マイレージ附帯・機内販売・整備受託等) 180,307 6.8% 189,566 6.4%
NCA(日本貨物航空・2025年7月連結化) 135,664 4.6%
Peach 139,321 5.3% 143,320 4.9%
AirJapan 11,710 0.4% 13,935 0.5%
航空関連事業 337,270 12.8% 361,619 12.3%
旅行事業 73,571 2.8% 65,332 2.2%
商社事業 129,999 4.9% 154,249 5.2%
その他 45,517 1.7% 49,728 1.7%
合計(セグメント間含む) 2,645,136 100.0% 2,944,147 100.0%
セグメント間取引 -383,280 -404,914
連結売上高 2,261,856 2,539,233
セグメント 外部売上(FY2026/3・百万円) 構成比 営業利益(FY2026/3・百万円) 営業利益率
航空事業 2,276,718 89.66% 221,920 9.75%
商社事業 132,933 5.24% 7,557 5.68%
航空関連事業 60,219 2.37% 1,456 2.42%
旅行事業 50,154 1.98% -146 -0.29%
その他 19,209 0.76% 2,276 11.85%
合計 2,539,233 100.0% 233,063(消去前)

セグメント営業利益合計233,063百万円と連結営業利益217,437百万円の差-15,626百万円は全社費用・消去。

航空事業の収入内訳(FY2026/3・セグメント間取引を含むベース)は、国際線旅客878,977百万円(29.9%)、国内線旅客738,013百万円(25.0%)、国際線貨物184,125百万円(6.3%)、国内線貨物22,834百万円(0.8%)、NCA(日本貨物航空・2025年7月連結化)135,664百万円(4.6%)、Peach143,320百万円(4.9%)、AirJapan13,935百万円(0.5%)と続く。

事業分野別の成長動向(FY2026/3の営業利益率3期推移を踏まえた定性判定):

事業分野 FY2024/3→FY2026/3 動向 評価
国際線旅客 数量+12.2%だがイールド-2.7% ◎数量成長・単価下落
貨物(含NCA) NCA連結化・2027年4月に事業会社統合予定 ◎再編中
国内線旅客 供給削減で利用率改善もセグメント利益率9.75%まで低下 △収益性課題
旅行事業 利益率2.28%→0.35%→-0.29%と赤字転落 ✕赤字転落
航空関連事業 利益率13.84%→7.27%→2.42%と急落 ✕利益率急落

主要取引先

機材面ではボーイング・エアバス・エンブラエルといった航空機メーカー、燃油面では石油元売り各社が主要な調達先となる。
空港会社(成田国際空港・東京国際空港ターミナル等)との使用料契約、旅行代理店・GDS(グローバル流通システム)を通じた販売網、貨物フォワーダーとの取引も収益に直結する。

提携面ではスターアライアンスの一員として国際線ネットワークを補完し、シンガポール航空とは2026年5月から共同運賃の発売を開始した。
国内では地域航空会社(アイベックス、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤー、オリエンタルエアブリッジ、天草エアライン、日本エアコミューター)とのコードシェアで地方路線網を維持し、空港ハンドリング領域では中期経営戦略で日本航空との協業が明記されている。
これらの取引関係は長期継続型で、発着枠という代替不可能な資源を軸にした、ミッションクリティカルな性格を持つ。

競争優位性の比喩的説明

TIP

空港の発着枠は、駅前一等地の店舗区画に似ている。
新規参入者がいくら資金を積んでも、その場所自体が物理的に増えない限り出店できない。
ANAとJALの2社で羽田・成田の主要な発着枠の大半を握る構造は、この「区画の希少性」に支えられている。
加えてSKYTRAX 5スター評価の13年連続獲得や、マイレージという顧客を囲い込む「経済圏」が、価格以外の面での乗り換えにくさを作り出している。

ANAホールディングスの固有事象・資本関係の詳細分析

FY2026/3の最大の資本イベントは、2026年12月に払込・上場した第1回社債型種類株式(公募総額2,000億円、4,000万株、1株5,000円、年率3.50%の固定配当を2031年9月末まで支払う設計)である。
調達資金は航空機投資と自己株式取得資金にほぼ半分ずつ充当された(日本経済新聞ANAグループ 社債型種類株式の概要)。
この発行により発行済株式総数は484,293,561株から524,293,561株へ+40,000,000株増加し、資本剰余金は394,800百万円から585,171百万円へ+190,371百万円増え、自己資本比率は31.2%から37.7%へ急改善した。
社債型種類株式は議決権も普通株式への転換権も持たない一方、有報は「普通株式に係るROE 13.8%」を連結ROE12.9%とは別枠で開示しており、優先配当分を控除した後の普通株主取り分を意識した表示になっている。

もう一つの潜在的な希薄化要因が、ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債1,500億円(無利子)である。
基本EPS358.37円に対し希薄化後EPS321.17円と10.4%のギャップが生じているのはこの潜在株式による。
自己株式は2025年3月期末13,832,653株→2026年3月期末24,282,100株→2027年3月期第1四半期末48,307,550株と急増しており、2025年11月の取締役会決議に基づく上限1,500億円・6,750万株の自社株買いが2026年12月15日まで進行中である。
2026年6月単月だけで5,257,900株・約151億円を取得し、累計取得数は32,499,300株(約956億円)に達している(TRAICY)。

事業面では、日本貨物航空(NCA)が2025年8月1日付で完全子会社化され2025年7月から連結対象となった。
ANAグループは2027年4月1日を目途にANA Cargo・NCA・NCA Japanの貨物事業3社を1社に統合する計画を2026年3月に公表しており、統合により約300億円規模のシナジー効果の創出を見込む(ANAグループ貨物事業会社の統合について)。
統合後は本邦最大のコンビネーションキャリアとして世界14位級の貨物輸送重量規模を持つグループへ拡大する。
LCCブランドでは、AirJapanを2026年3月で休止し、ANA本体とPeachのデュアルブランド体制へ再構築する方針が取られた。


2. 財務の実力

PL — 5期+予想(百万円、EPS/DPSは円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3予想
売上高 1,020,324 1,707,484 2,055,928 2,261,856 2,539,233 2,770,000
売上高YoY +67.35% +20.41% +10.02% +12.26% +9.1%
売上原価 1,049,414 1,403,567 1,642,263 1,843,542 2,074,758
売上総利益 -29,090 303,917 413,665 418,314 464,475
販管費 144,037 183,887 205,754 221,675 247,038
営業利益 -173,127 120,030 207,911 196,639 217,437 150,000
営業利益YoY 黒字転換 +73.22% -5.42% +10.58% -31.0%
経常利益 -184,935 111,810 207,656 200,086 219,651 137,000
税引前利益 -175,374 114,342 204,838 196,566 223,501
当期純利益(親会社株主帰属) -143,628 89,477 157,097 153,027 169,075 96,000
EPS(円) -305.37 190.24 335.09 325.58 358.37 209.26(普通株主帰属)
希薄化後EPS(円) 290.72 321.17

⚠️ FY2027/3予想EPS 209.26円は普通株主帰属ベース(種類株式配当控除後)。
時価総額1,358,690 ÷ 予想純利益96,000=14.15倍は種類株主帰属分を含むため過小評価になる(表注参照)。

BS — 5期(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
総資産 3,218,433 3,366,724 3,569,530 3,620,297 3,955,128
流動資産 1,293,921 1,550,820 1,701,190 1,693,726 1,890,505
固定資産 1,922,885 1,814,907 1,867,807 1,926,140 2,063,336
流動負債 687,889 883,401 1,035,428 1,276,542 1,231,487
固定負債 1,727,129 1,612,932 1,481,475 1,203,660 1,221,008
負債合計 2,415,018 2,496,333 2,516,903 2,480,202 2,452,495
純資産 803,415 870,391 1,052,627 1,140,095 1,502,633
非支配株主持分 6,166 7,972 8,119 9,778 10,634
自己資本(純資産−NCI) 797,249 862,419 1,044,508 1,130,317 1,491,999
BPS(円) 1,695.06 1,833.64 2,222.03 2,405.12 2,853.60
自己資本比率 24.8% 25.6% 29.3% 31.2% 37.7%

(有報MD&A記載値と一致。FY2026/3の急改善は種類株式発行による資本剰余金増加が要因)

BS詳細主要科目(百万円)— 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現金及び現金同等物 621,037 1,113,481 1,002,512 862,718 736,385
短期有価証券 498,310 580,037 656,913 761,709 704,174
投資有価証券 140,746 149,952 156,425 150,654 162,094
売上債権 17,149 17,177 17,408 18,233 18,803
棚卸資産 44,074 44,655 53,961 75,844 89,946
仕入債務 125,001 162,969 229,273 235,512 260,042

有利子負債内訳(百万円)— 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
短期借入金 100,070 92,170 84,170 76,919 68,950
1年内返済予定長期借入金 62,775 84,633 73,777 267,166 77,368
1年内償還予定社債 30,000 30,000 40,000
リース債務(流動) 4,057 3,047 2,051 2,232 2,131
長期借入金 1,102,218 1,017,585 943,808 691,910 743,336
社債 185,000 155,000 155,000 125,000 85,000
リース債務(固定) 5,988 5,483 5,230 5,831 4,946
転換社債型新株予約権付社債(無利子) 220,000 220,000 150,000 150,000 150,000
有利子負債合計 1,680,108 1,607,918 1,414,036 1,349,058 1,171,731

検証済み: FY2026/3の1,171,731は有報MD&A記載の「有利子負債1兆1,717億円」と完全一致。

CF — 5期(百万円、FCFは2定義併記)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
営業CF -76,413 449,822 420,622 373,034 443,459
投資CF 230,019 -78,300 -399,525 -343,656 -415,221
財務CF 93,646 -142,909 -136,045 -170,154 -159,360
設備投資(capex) 133,364 116,892 240,469 255,930 262,300
FCF(営業CF+投資CF・有報開示定義) 153,606 371,522 21,097 29,378 28,238
FCF(営業CF-capex定義) -209,777 332,930 180,153 117,104 181,159

⚠️ 有報記載のFY2026/3フリー・キャッシュ・フロー(営業CF+投資CF)= 28,238百万円(282億円)。
営業CF-capexベースのFCFは181,159百万円。
両定義は算出根拠が異なるため必ず併記する。

減価償却費明細(百万円)— 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
減価償却費 157,505 148,270 142,315 148,659 169,012

オペレーティング指標(輸送実績・イールド)

項目 FY2025/3 FY2026/3 前年比
国際線 旅客数(人) 8,072,715 9,023,150 +11.8%
国際線 座席キロ(千席キロ) 57,746,182 61,835,497 +7.1%
国際線 旅客キロ(千人キロ) 45,738,339 51,307,355 +12.2%
国際線 利用率 79.2% 83.0% +3.8pt
国内線 旅客数(人) 44,054,508 45,635,143 +3.6%
国内線 座席キロ(千席キロ) 47,037,025 46,469,213 -1.2%
国内線 旅客キロ(千人キロ) 35,274,415 36,780,474 +4.3%
国内線 利用率 75.0% 79.2% +4.2pt
Peach 旅客数(人) 9,100,553 9,456,675 +3.9%
Peach 利用率 84.4% 84.3% -0.1pt

イールド換算(参考値): 国際線旅客単価 = 878,977百万円 ÷ 51,307,355千人キロ = 17.13円/人キロ(FY2025/3: 17.61円/人キロ、-2.7%)。
国内線 = 738,013 ÷ 36,780,474 = 20.07円/人キロ(FY2025/3: 19.96円/人キロ、+0.5%)。

受注高・受注残高

該当なし(非受注産業)。

運転資本分析(CCC)

算出式(厳密法・分母統一ルール):

指標(日数) ANA FY2025/3 ANA FY2026/3
売上債権回転日数 2.94 2.70
棚卸資産回転日数 15.02 15.82
仕入債務回転日数 46.63 45.75
CCC -28.67 -27.22

⚠️ ANAの売上債権18,803百万円(売上高2.5兆円に対し2.7日分)はJALの46.2日(後述4章)と大きく乖離しており、両社のXBRLタグ付け差(ANAは営業未収入金を売上債権とは別科目で計上している可能性)に起因する可能性が高い。
CCCの絶対水準の2社比較は成立しない。
ANA単体の時系列比較(-28.67→-27.22日)は有効。
業界中央値はデータなし。

配当推移 — 5期+予想(円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3予想
1株配当 0(無配) 0(無配) 50 60 65 60
配当性向 14.9% 18.4% 18.1% 28.7%

有報MD&Aに「2023年度の復配以降、安定継続配当を実施しながら、大規模な自己株式取得も開始」と記載。
自己株式はFY2025/3期末13,832,653株→FY2026/3期末24,282,100株→FY2027/3 Q1 48,307,550株と急増(自社株買い進行中)。

経営者予想精度

FY2026/3の期中改定履歴のみ取得可能。「FY2025/3以前の会社予想データは取得できていない」ため、3期分の予想改定推移は捏造せず本期分のみ記載する。

開示時点 予想売上 予想営利 予想純利益 予想EPS
Q1(2025-07-29) 2,370,000 185,000 122,000 259.62
Q2(2025-10-30) 2,480,000 200,000 145,000 309.57
Q3(2026-01-30) 2,480,000 200,000 145,000 306.96
実績(2026-04-30) 2,539,233 217,437 169,075 358.37
Q1予想 vs 実績 乖離 +7.1% +17.5% +38.6%
Q3予想 vs 実績 乖離 +2.4% +8.7% +16.6%

健全性チェック(事業会社基準・9項目)

チェック項目 基準 実績 判定
自己資本比率 > 40% 37.7%
有利子負債 < 手元流動性 有利子負債 < 手元流動性 1,171,731 < 1,256,900(有報開示ベース。現金及び現金同等物736,385単独では❌)
流動比率 > 150% 1,890,505 ÷ 1,231,487 = 153.5%
利益剰余金 > 0 407,584
営業CF 3期連続黒字 3期連続黒字 420,622 / 373,034 / 443,459
配当3期連続支払い 3期連続 50 / 60 / 65円
EPS前年比プラス プラス 325.58 → 358.37
ROE > 8% 12.9%(普通株式ベース13.8%)
営業利益率 > 業界水準 8.56% vs JAL 10.30%
合計 7/9

3. 市場評価を読む — バリュエーション

時価総額・株価の基準

バリュエーション指標は全て現値(2026-08-07終値 3,140円/時価総額 1,358,690百万円)ベースで統一する。
EDINETの期末固定marketCap(1,465,550百万円)は使用しない(現値比 -7.3%乖離のため)。

標準NC(Net Cash)計算 — 5期推移(簡易法・百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現金及び現金同等物+短期有価証券 − 有利子負債(簡易法) -560,761 +85,600 +245,389 +275,369 +268,828

表注: 簡易法は「現金及び現金同等物 + 短期有価証券 − 有利子負債」で機械的に算出しており、現金及び現金同等物(CF基準・満期3ヶ月以内の有価証券を含む)とBSの短期有価証券が一部重複しているため、流動性を過大に表示している。
有報開示ベースのFY2026/3手元流動性は1,256,900百万円(現金及び預金+有価証券)。

ヘッドライン標準NC(サマリー・CN-PER・EVに使用する値・有報開示ベース)

項目 値(百万円)
手元流動性(有報開示) 1,256,900
有利子負債合計(FY2026/3) 1,171,731
標準NC +85,169(+852億円)
標準NC比率(÷現値時価総額1,358,690) +6.3%

参考: EDINETがEV計算に用いるネットデット(現金及び現金同等物のみ − 有利子負債)= -435,346百万円(純有利子負債4,353億円)。EV/EBITDAの主系列はこちらを使用。

広義NCAV計算 — 5期推移(流動資産+投資有価証券×0.7-負債合計・百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
流動資産 1,293,921 1,550,820 1,701,190 1,693,726 1,890,505
投資有価証券×0.7 98,522 104,966 109,498 105,458 113,466
負債合計 2,415,018 2,496,333 2,516,903 2,480,202 2,452,495
広義NCAV -1,022,575 -840,547 -706,215 -681,018 -448,524

広義NCAV比率(FY2026/3・現値時価総額ベース)= -448,524 ÷ 1,358,690 = -33.0%

CN-PER(キャッシュニュートラルPER)

普通株主帰属予想純利益 = 予想EPS 209.26円 × 発行済(自己株控除後)432,703,817株 ≈ 90,548百万円(推計)

定義 計算式
CN-PER(標準NC・有報開示ベース) (1,358,690 − 85,169) ÷ 90,548 14.06倍
CN-PER(広義NCAVベース・参考) (1,358,690 − (-448,524)) ÷ 90,548 19.96倍

EV/EBITDA分析

EV/EBITDA感度テーブル(NC定義別・FY2026/3実績EBITDA 386,449百万円基準)

NC定義 NC値(百万円) EV(百万円) EV/EBITDA
標準NC(有報開示ベース) +85,169 1,273,521 3.30倍
純有利子負債(EDINET簡易法・主系列) -435,346 1,794,036 4.64倍
広義NCAV -448,524 1,807,214 4.68倍

倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)

適用PER水準 倍率 位置づけ
下限 8倍 自社5期レンジ下限(FY2026/3実績水準に近い)
中央 10倍
上限 15倍 自社5期レンジ上限近辺

参考: JAL予想PER11.92倍・実績PER9.94倍/スカイマーク予想PER31.20倍/ANA自社5期実績PERレンジ(赤字期除く)7.8〜15.1倍。

自社PERレンジ(実績ベース・EDINET期末株価基準)

実績PER 備考
FY2022/3 44.8倍 純損失期のため意味を持たない
FY2023/3 15.1倍
FY2024/3 9.6倍
FY2025/3 8.5倍
FY2026/3 7.8倍

現値ベースの実績PER8.76倍は自社レンジ下限(7.8倍)寄り、予想PER15.01倍は自社レンジ上限(15.1倍)にほぼ達している水準。

バリュエーション乖離コメント


4. 同業比較 — 差分の論点

競合選定基準

基準 内容
業種 EDINET DB業種分類「空運業」(上場4社が該当)
時価総額レンジ ANA 13,587億円に対しJAL 13,110億円(0.96倍)=直接比較適格。スカイマーク250億円(0.02倍)・スターフライヤー73億円(0.005倍)はレンジ外だが、業種内の上場社が4社しかないため規模差を明示した上で参考掲載
選定理由 JAL=日本のフルサービスキャリア(FSC)2社体制の直接競合で、国際線・国内線・貨物の事業構成が最も近い。スカイマーク=国内線特化の中堅キャリアで、ANAの国内線事業の収益性を相対評価する参照点。スターフライヤー=ANAとコードシェア関係にある小型キャリアで規模感の下限

最新期比較テーブル(現値ベース・2026-08-07)

項目 ANA(9202) JAL(9201) スカイマーク(9204) スターフライヤー(9206)
会計基準 JP GAAP(連結) IFRS JP GAAP(非連結) 参考値のみ
現在株価(円) 3,140 3,050 415 1,935
時価総額(百万円) 1,358,690 1,310,975 24,965 7,321
実績PER 8.76倍 9.94倍 15.25倍 データなし
予想PER 15.01倍 11.92倍 31.20倍 データなし
PBR 1.10倍 1.18倍 0.74倍 データなし
配当利回り(予想) 1.91% 3.15% データなし データなし
ROE 12.9%(普通株式13.8%) 12.2% 5.36% 7.5%
自己資本比率 37.7% 40.3% 28.0% データなし
標準NC比率 +6.3% +10.2% データなし(BS詳細未取得) データなし
広義NCAV比率 -33.0% -35.4% データなし(BS詳細未取得) データなし
EV/EBITDA 4.64倍(主系列) 算出不可(減価償却費非開示。EV/営業利益5.89倍) 6.52倍(参考・期末株価基準) データなし
CCC(日数) -27.22(FY2026/3) 算出不可(FY2026/3、売上原価非開示。FY2025/3実績+11.29) データなし データなし

⚠️ ANAはJP GAAP、JALはIFRS。営業利益の定義が異なる(JALの営業利益にはJP GAAPの営業外項目の一部が含まれ得る)ため単純比較には留意すること。

参考:

競合3期推移(売上高営業利益率)

企業 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
ANA 10.11% 8.69% 8.56%
JAL 8.53% 9.14% 10.30%

ANAは3期連続で低下、JALは3期連続で上昇と方向性が逆行している。

運転資本効率(CCC)— 競合比較

指標(日数) ANA FY2025/3 ANA FY2026/3 JAL FY2025/3 JAL FY2026/3
売上債権回転日数 2.94 2.70 41.61 46.17
棚卸資産回転日数 15.02 15.82 11.64 算出不可(売上原価非開示)
仕入債務回転日数 46.63 45.75 41.96 算出不可(売上原価非開示)
CCC -28.67 -27.22 +11.29 算出不可

業界中央値はEDINET DBに提供なし(データなし)。スカイマーク・スターフライヤーはBS詳細未取得のため「データなし」。


5. リスクと論点

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
システム障害 非常に大 予約・運航管理システムの停止で欠航・遅延が連鎖し、複数路線で同時に旅客対応コストが発生する 残存リスク「中」に低減する対策を継続中(有報記載)
情報セキュリティ 非常に大 非常に高 マイレージ会員・決済情報の漏えいが発生した場合、信頼毀損とブランド価値の低下、規制対応コストが同時発生する 残存リスク「中」・継続的な監視体制を有報に明記
自然災害(首都圏集中) 羽田・成田に事業基盤が集中しているため、首都圏直下型地震等が発生すると同時多発的に運航に影響が及ぶ 残存リスク「中」
環境/SAF調達 大(影響度) SAFが高価格・供給不足のまま推移すると、排出権購入費の増加や運賃転嫁による鉄道等への競争力低下を招く 解消の目処が立っていないと有報に明記
政治社会情勢(中東情勢等) 戦略リスク 燃油費・地政学リスクの顕在化が、通期会社予想の前提(中東情勢の収束)を崩す FY2027/3会社予想は営業利益-31.0%・純利益-43.2%の減益を織り込み済み

燃油・地政学リスクの前提と進捗の乖離

**会社は「中東情勢がFY2027/3第1四半期末までに収束し段階的に正常化する」ことを前提に通期計画を組んでいる。
**この前提の成否が、通期見通しの信頼度を左右する最大の変数である。
IATA(国際航空運送協会)は2026年の業界全体の純利益見通しを2025年比でほぼ半減させ、ジェット燃料価格は2025年平均1バレル90ドルから152ドルへと約70%急騰したと報告している(BigGo Finance)。
ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約2割が通過する経路であり、同海峡周辺の緊張がそのまま燃油市況に波及する構造にある。
FY2027/3第1四半期の営業利益は20,782百万円で、通期会社予想150,000百万円に対する進捗率は13.9%にとどまる。
線形ペースの基準は四半期=25%であり、会社が前提とする「Q1末までの収束」がどこまで実現しているかは、この進捗率と今後の燃油市況の推移を照らし合わせて評価する必要がある。

対JALの収益性逆転という構造要因

**ANAの営業利益率は10.11%(FY2024/3)→8.69%(FY2025/3)→8.56%(FY2026/3)と一貫して低下する一方、JALは8.53%→9.14%→10.30%と改善しており、3期の間に両社の位置が入れ替わった。
**日本基準(ANA)とIFRS(JAL)で営業利益の定義が異なる点には注意が必要だが、それを割り引いてもトレンドの方向自体は明確である。
ANAは国際線の規模拡大とコード拡張を先行させる一方、国内線旅客事業の収益性課題(セグメント利益率9.75%)を抱えており、会社自身も有報MD&Aで「多額の資産を投下しながら収益性が低迷している国内線旅客事業を安定収益基盤へ復元」することを課題として明記している。

バリュートラップの論点 — 「NC過剰蓄積」型ではなく「巨額投資と資本コスト」型

**本件を割安の放置と見るか構造的な収益性劣後の反映と見るかを分ける最大の論点は、キャッシュリッチな安全域ではなく、巨額の成長投資と資本構成の複雑化そのものにある。
**標準NC比率は+6.3%と薄く、広義NCAV比率は-33.0%であり、装置産業ゆえキャッシュリッチ銘柄としての割安論はそもそも成立しにくい。
5年2.7兆円の成長投資はFCFを圧迫する構造にあり、FY2026/3の営業CF+投資CFベースのFCFは既に28,238百万円まで縮小している。
TSR(累積・FY2026/3)は1.156に対しTOPIX配当込指数は1.750であり、直近5年は市場を大きくアンダーパフォームしてきた。
東証が求める「資本コスト・株価を意識した経営」の文脈では、会社はROE12%以上・EPS CAGR約10%を掲げ、社債型種類株式の発行と自社株買いによって資本構成に積極的に手を入れている。
ただし社債型種類株式(約2,000億円・年率3.50%)の優先配当は普通株主に帰属する利益を毎期一定額削る構造であり、この点は資本政策の効果を評価するうえで無視できない。


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造分析

本件の核心は、実績PER8.76倍予想PER15.01倍が同一株価で同時に成立している点にある。
分母となるEPSが、FY2026/3実績358.37円からFY2027/3会社予想209.26円へ-43.2%と大きく変わるため、どちらの期の利益を基準に評価するかで倍率がほぼ2倍違って見える。
この乖離を市場がどこまで織り込み、どこまで一時的なショックとして扱うかが、現在の値付けの根本にある争点である。

EV/EBITDAで見ると実績4.64倍・予想推計5.44倍であり、PERの実績・予想ギャップほど極端な差にはならない。
EBITDAは減価償却費を通じて利益変動の一部を吸収するため、純利益ベースの落ち込みよりも緩やかな倍率変化にとどまっている。
またCN-PER(標準NCベース)14.06倍は予想PER15.01倍とほぼ変わらない水準であり、これは同社がネットキャッシュに乏しく、キャッシュ調整を効かせて割安度を語れる資本構造ではないことを示している。
PBR1.10倍とROE12.9%(普通株式ベース13.8%)の組み合わせは、資本収益性は二桁を維持しつつも、簿価に対してわずかなプレミアムしか市場が付けていないことを意味する。

同業JALとの相対では、JALの予想PER11.92倍・予想配当利回り3.15%・自己資本比率40.3%に対し、ANAの予想配当利回りは1.91%にとどまり、FY2027/3は65円から60円への減配予想である一方、JALは96円据え置きの予想を出している。
ANAの営業利益率がJALに逆転された局面で配当方針にも差が生じていることは、市場が両社を評価する際の材料になりうる。
この値付けが「割安の放置」なのか「対JAL営業利益率逆転という構造的な収益性劣後と、巨額投資フェーズ入りを反映した結果」なのかは、今後の四半期進捗と中期経営戦略の実行度合いによって判断が変わりうる構造判断の対象である。

条件分岐シナリオ

SUCCESS

上方シナリオ: 中東情勢が会社の前提どおりFY2027/3第1四半期末までに収束し燃油市況が落ち着く、NCA統合による約300億円のシナジーが2027年4月の統合を待たず前倒しで顕在化する、成田空港拡張(2029年供用開始予定)を織り込んだ国際線1.3倍計画への信頼が積み上がる——これらが揃った場合、市場は実績PERにより近い評価軸を採用しやすくなり、EV/EBITDA倍率のディスカウントも縮小しうる。

INFO

ベースシナリオ: FY2027/3が会社予想(営業利益150,000百万円)並みに着地した場合、予想PER15.01倍という水準がそのまま評価軸として定着するか、あるいは減益が一時的なショックとして扱われ実績PERに近い評価軸へ回帰するかは、着地時点での燃油市況・中東情勢の収束度合いによって分かれる。

WARNING

下方シナリオ: 燃油市況の高止まり、訪日外国人需要の反落、SAF調達コストの増加が重なり、さらに2.7兆円の成長投資の回収が計画より遅れた場合、PBRは簿価に対する評価をより厳しく見直す方向に、EV/EBITDA倍率もディスカウント方向に働きうる。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年8月 ボーイング787-9型機(新シート装備)受領 国際線プロダクト刷新の進捗
2026年9月28日 FY2027/3中間配当の権利付き最終日(権利確定日9月30日の2営業日前) 中間配当額の据え置き・変更有無
2026年10月下旬(予定) FY2027/3第2四半期(中間期)決算短信 通期予想の修正有無、中東情勢前提の検証
2027年1月下旬(予定) FY2027/3第3四半期決算短信 燃油市況・進捗率の推移
2027年3月29日 FY2027/3期末配当の権利付き最終日(権利確定日3月31日の2営業日前) 期末配当60円予想の実現有無
2027年4月 ANA Cargo・NCA・NCA Japanの貨物事業3社統合 統合シナジー約300億円の実現ペース
2027年4月下旬(予定) FY2027/3通期決算短信+FY2028/3会社予想 中期経営戦略の営業利益2,500億円(FY2028/3目標)への軌道
2029年3月(予定) 成田空港C滑走路供用開始 発着枠拡大による国際線1.3倍計画の実現度
毎月 ANA輸送実績(旅客数・利用率・イールド)月次開示 国際線イールド・国内線利用率の推移
随時 燃油市況・為替の推移 FY2027/3第1四半期進捗率13.9%(線形基準25%)の巻き返し状況

M&A・出資検討の論点整理

企業価値の許容水準を規定する要因としては、有利子負債1,171,731百万円(1兆1,717億円)の引き受け、社債型種類株式(約2,000億円・年率3.50%)とユーロ円建転換社債(1,500億円)による資本構造の複雑さ、のれん11,997百万円という小ささ、航空機資産の担保価値が挙げられる。
シナジー面では、発着枠には譲渡制限があり買収によっても移転しない点、独占禁止法・航空法上の外国人議決権比率制限といった構造的な規制が完全買収を阻む点が特徴的である。
なお2026年5月の「国内航空のあり方に関する有識者会議」報告書により、大手航空会社による特定既存航空会社への出資規制の廃止と、路線特性に応じた航空会社間協調に関する独占禁止法適用除外ガイドラインが整備された(国土交通省)。
これは中小地域航空会社との資本提携・協調の余地を広げる政策変化として注視に値する。

デューデリジェンスで確認すべき事項としては、航空機発注残(建設仮勘定281,132百万円)とオペレーティングリース契約の条件、退職給付債務144,560百万円、マイレージ引当を含む契約負債596,820百万円の内訳、SAF調達契約の価格条項、政策保有株式98,060百万円の含み損益と売却方針が挙げられる。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 実績PER8.76倍と予想PER15.01倍が同時に成立する意味

ANAでの具体例: 同じ株価3,140円に対して、FY2026/3実績EPS358.37円で割ると8.76倍、FY2027/3会社予想EPS209.26円で割ると15.01倍になる。
分子(株価)は同じでも分母(EPS)が-43.2%違うだけで、倍率の印象はほぼ2倍変わる。

背景と比喩: これは同じ人の体重を「今日測った値」と「来月ダイエット目標達成後の予想値」の両方で語るようなものである。
今日の体重で計算したBMIと、目標達成後の体重で計算したBMIは大きく違って当然だが、どちらも「その人のBMI」として同時に語られると混乱が生じる。

分析上の含意: 「PERが低いから割安」という単純化は、どの期のEPSを使っているかを確認しない限り危険である。
ANAの実績PER8.76倍だけを見て自社レンジ下限寄りと判断するのではなく、予想PER15.01倍が自社レンジ上限にほぼ到達していることまで踏まえて、両方の倍率が意味する前提の違いを理解する型が必要になる。

📚 着眼点2: 種類株式と転換社債が「1株利益」を静かに削る構造

ANAでの具体例: 連結ROE12.9%に対し有報が別掲する「普通株式に係るROE」は13.8%であり、両者の差は社債型種類株式への優先配当を控除する前後の違いに由来する。
基本EPS358.37円と希薄化後EPS321.17円のギャップ10.4%はユーロ円建転換社債型新株予約権付社債1,500億円による潜在株式の存在を反映している。

背景と比喩: これは会社の利益という一枚のピザを切り分ける際、まず社債型種類株主が固定の一切れ(年率3.50%相当)を取り、残りを普通株主で分ける構造に似ている。
ピザ全体(純利益)が同じでも、先に取り分を持っていく人がいれば、残りを分け合う人数(潜在株式込みの株数)が多いほど一人当たりの取り分は薄くなる。

分析上の含意: 純利益の総額だけでなく、「その利益が普通株主に届くまでに誰がどれだけ取り分を持っていくか」を読む型が必要になる。
時価総額÷予想純利益(約14.15倍)と予想PER15.01倍にわずかな差があるのも、この資本構造の複雑さが影響している可能性がある。

📚 着眼点3: ANAホールディングスの指標ポジショニング

指標 ANAの値 同業(JAL) 参考水準 評価コメント
実績PER 8.76倍 9.94倍 自社5期レンジ7.8〜15.1倍 自社レンジ下限寄りだが減益予想を織り込むと単純比較は危険
予想PER 15.01倍 11.92倍 自社レンジ上限(15.1倍)にほぼ到達 JALより減益幅が大きいため予想PERが相対的に高い
PBR 1.10倍 1.18倍 データなし(全上場中央値) 簿価に対する評価はJALよりやや低いがROEは高い
ROE 12.9%(普通株式ベース13.8%) 12.2% 中計目標「安定的に12%以上」 目標水準は満たすが種類株式控除前後で差がある点に注意
自己資本比率 37.7% 40.3% 健全性チェック基準40% 種類株式発行で急改善したが基準未達のため要監視
営業利益率 8.56% 10.30% 3期前はANAが優位(10.11%) 対JALで逆転しており構造要因の分析が必要
予想配当利回り 1.91% 3.15% ANAは60円へ減配予想、JALは96円据え置き予想
配当性向 18.1%(実績) 31.3%(実績) ANAは自社株買いも並行しており総還元で見る必要がある
EV/EBITDA(実績) 4.64倍 算出不可(減価償却費非開示) JALとの直接比較ができない点に注意
標準NC比率 +6.3% +10.2% 両社ともキャッシュリッチとは言えない水準
CCC -27.22日 +11.29日 XBRLタグ差の可能性が高くANA単体の時系列比較のみ有効
TSR(5年累積) 1.156 データなし TOPIX配当込指数1.750 市場を大きくアンダーパフォーム

参考情報

ANAホールディングス株式会社は持株会社体制の下、連結従業員数47,826名(平均年齢46.2歳、平均年間給与7,709千円)を抱える。
取締役会は15名(男性11名・女性4名、女性比率26.7%)で構成され、役員報酬総額は529百万円(9名)である。
政策保有株式は主要銘柄合計で簿価98,060百万円・1,307,134,053株を保有しており、他社の政策保有先としてだけでなく保有する側でもある。
健康経営銘柄には4年連続で選定され、CDP気候変動の「Aリスト」にも4年連続で選定されている。

大株主構成(大量保有報告書ベース・5%以上)

順位 株主名 保有比率 区分
1 野村證券グループ 7.31% 野村アセットマネジメント(信託運用)・野村證券(商品在庫・累積投資)・ノムラインターナショナル
2 三井住友信託銀行グループ 4.80% 三井住友トラスト・アセットマネジメント・日興アセットマネジメント
3 みずほ銀行グループ 4.11% アセットマネジメントOne・みずほ証券・みずほ銀行

有価証券報告書の大株主一覧は本データセットに含まれないため、大量保有報告書(5%以上)ベースで記載している。
事業会社による安定株主・親会社の開示はなく、アクティビストファンドの大量保有報告も現時点で確認されていない。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
財務数値(PL/BS/CF・セグメント) 2026-03-31 有価証券報告書(2026-06-25提出)
最新四半期実績・通期会社予想 2026-06-30(第1四半期末) 決算短信(2026-07-29開示)
株価・時価総額 2026-08-07(終値) 市場データ
大株主 2026-05-21ほか 大量保有報告書
中期経営計画 2026-01-30開示 会社IR

出典一覧

  1. EDINET DB — 企業基本情報・健全性スコア・最新決算(EDINET有価証券報告書ベース)
  2. EDINET DB — 5期財務時系列(FY2022/3〜FY2026/3)
  3. EDINET DB — セグメント別売上
  4. EDINET DB — 業界ベンチマーク
  5. TDNet決算短信 — 速報値・会社予想(FY2027/3第1四半期・2026-07-29開示)
  6. EDINET DB — 大株主構成(大量保有報告書)
  7. EDINET有価証券報告書(2026年3月期・2026-06-25提出)— 経営方針・MD&A・輸送実績
  8. 株価・時価総額 — 市場データ(2026-08-07終値時点)
  9. 競合データ(日本航空・スカイマーク・スターフライヤー)— EDINET DB
  10. ANAグループ中期経営戦略(2026-01-30開示)— https://www.anahd.co.jp/group/pr/202601/20260130-2.html
  11. ANAグループ 社債型種類株式の概要 — https://www.ana.co.jp/group/investors/stock/bond-type-class-shares/
  12. ANAグループ貨物事業会社の統合について(2026-03-27)— https://www.anahd.co.jp/group/pr/202603/20260327-2.html
  13. 国土交通省「国内航空のあり方に関する有識者会議」報告書 — https://www.mlit.go.jp/report/press/kouku04_hh_000291.html
  14. 日本経済新聞 — https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG1063M0Q5A111C2000000/
  15. TRAICY — https://www.traicy.com/posts/20251110355935/
  16. BigGo Finance — https://finance.biggo.jp/news/ZkZCo54BNl__-4_Gy2XO