📚 業界ノート

飯野海運株式会社

【経済・海運業】海運業企業バリュエーション分析更新 2026-09-22

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 海運の変動と都心不動産の安定を重ねるポートフォリオ
  3. FP&Aの観点:収益、費用、運転資本、資本集約度
  4. 飯野海運の事業構成(FY2026/3実績)
  5. 固有事象・資本関係
  6. 2. 財務の実力
  7. 5期財務とFY2027/3会社予想
  8. 運転資本と資本集約度
  9. 健全性チェック
  10. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  11. 時価総額・株価の基準
  12. NC 2軸とCN-PER
  13. EV/EBITDA 分析
  14. 倍率ベース感応度(適用 PER レンジ・円換算なし)
  15. 4. 同業比較 — 差分の論点
  16. FY2026/3実績・2026-09-18市場データ比較
  17. 5. リスクと論点
  18. リスクマトリクス
  19. 6. バリュエーション統合と論点整理
  20. 乖離の構造分析
  21. 条件分岐シナリオ
  22. 監視ポイント
  23. M&A・出資検討の論点整理
  24. 7. 学びのポイント
  25. 📚 着眼点1: マイナスNCの海運会社は、負債を除くのではなく投下資本の稼働で読む
  26. 📚 着眼点2: 不動産は海運リスクを消す装置ではなく、異なる時計で動く収益源である
  27. 📚 着眼点3: 飯野海運の指標ポジショニング(相場観テーブル)
  28. 参考情報
  29. ガバナンス要点
  30. 大株主参考(大量保有・変更報告書ベースの5者)
  31. データ基準日の違い
  32. 出典一覧

飯野海運株式会社(9119)銘柄分析レポート

SUMMARY

FY2026/3実績は売上高127,295百万円、営業利益13,439百万円、営業利益率10.6%で、自己資本比率は45.6%である(EDINET DB、FY2026/3)。
2026-09-18時点の時価総額は1,854.7億円、FY2027/3会社予想に対する予想PERは13.2倍、FY2026/3実績EBITDAベースのEV/EBITDAは11.6倍、予想配当利回りは3.02%である(市場データ、EDINET DB、TDNet決算短信)。
有利子負債が現預金を上回るため、標準NCは▲1,276.7億円(時価総額比▲68.8%)、広義NCAVは▲1,230.8億円(同▲66.4%)である(EDINET DB、FY2026/3)。

指標 値 評価
時価総額 1,854.7億円 中型
予想 PER 13.2倍 適正
EV/EBITDA(FY2026/3実績) 11.6倍 適正
配当利回り 3.02% 中位
標準 NC 比率 ▲68.8% マイナス
広義 NCAV 比率 ▲66.4% マイナス
健全性スコア 78/100 中位

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は海運業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは飯野海運株式会社固有の事業構造に絞る。

海運の変動と都心不動産の安定を重ねるポートフォリオ

飯野海運は外航、内航・近海、不動産を併営する。
FY2026/3の売上は外航が中心だが、不動産の利益率が高い。
荷動き・運賃・為替で変動する海運と、都心オフィス賃料を軸とする不動産を組み合わせ、単一市況への連動を抑える設計である。
出典: 飯野海運FAQ、買収への対応方針。

外航はケミカルタンカーを主力にVLCC、ガス船、ドライバルク船を運航する。
FY2026/3末の92隻は、ケミカル33、VLCC4、大型ガス9、中小型ガス23、ドライバルク23隻。
貨物分散の一方、需給、荷主設備の稼働、地政学の影響を受ける。
出典: 海運業・フリートリスト。

内航・近海はLPG、VCM、プロピレン等のガス輸送が中心で、石化需要と船舶更新の影響を受ける。
不動産はIINO BUILDING等の都心オフィス賃貸・管理が基盤で、空室率、賃料、テナント解約が固有リスクである(有価証券報告書、FY2026/3)。

FP&Aの観点:収益、費用、運転資本、資本集約度

収益ドライバーは、船種別の稼働船腹、契約運賃・貸船料、スポット運航比率、ドル円、荷主の荷動きである。
会社は中長期契約とスポット契約を船種ごとに組み合わせ、価格変動への露出を調整している。
賃貸不動産では稼働率・賃料・契約更新が収益の軸となる。
主要顧客名・個別契約の比率は公開情報で未確認であるが、輸送、貸船、借船、テナントという複数の契約相手を持つ構造は有報で確認できる。

コスト構造は、船費、運航費、借船料、燃料費、修繕・入渠、船員・管理費に加え、保有不動産の管理費・営繕費で構成される。
燃料油は荷主との価格変動調整条項を用いる場合があるが、急変時の転嫁時差は残る。
船腹を自社保有と用船に分け、用船期間も短・中・長期に分散する方針は、固定費と市況感応度の双方を管理する手段である(有価証券報告書、FY2026/3)。

運転資本はFY2026/3のCCCが9.3日とFY2025/3の17.5日から短縮した。資本集約度は高く、FY2026/3の投資CF▲421億円、減価償却費135億円に対し、新中計はFY2027/3〜FY2031/3に約2,000億円を配分する。
船隊・不動産投資がFCFと負債を左右する。
出典: 中期経営計画、EDINET DB(FY2026/3)。

飯野海運の事業構成(FY2026/3実績)

セグメント 売上高(百万円) 構成比 営業利益(百万円) 営業利益率
外航海運 102,459 80.5% 8,786 8.6%
不動産 14,072 11.1% 4,350 30.9%
内航・近海海運 10,764 8.5% 303 2.8%
合計(セグメント単純合計) 127,295 100.0% 13,439 10.6%

FY2027/3会社予想期以降は、ケミカル・ガス船の契約更新、VLCCの中東航路、ドライバルクの船腹需給、都心オフィスの稼働率・賃料更改が主要な確認軸となる。
主要取引先の実名と取引額は非開示だが、化学・エネルギー・資源の荷主と都心オフィスのテナントが重要な契約相手である。

競争優位は、貨物ごとに船型、乗組員、安全手順、契約期間を組み替える運航網にある。
ケミカルタンカーの多槽・ステンレスタンク運用は、条件の異なる荷物を扱う専門配送網に近く、船隊、荷主監査、安全実績を同時に整える必要があるため短期で代替しにくい。
出典: 海運業・フリートリスト。

固有事象・資本関係

FY2027/3〜FY2031/3の中計は事業・財務資本・脱炭素化を柱とし、2030年度に事業コア利益225億円、ROIC 5%、ROE 10%、新リース会計適用後D/Eレシオ1.3〜1.8倍を掲げる。
船舶・不動産・新規事業を同じ資本配分の枠で選別する計画である。
出典: 中期経営計画。


2. 財務の実力

5期財務とFY2027/3会社予想

項目 FY2022/3実績 FY2023/3実績 FY2024/3実績 FY2025/3実績 FY2026/3実績 FY2027/3会社予想
売上高(百万円) 104,100 141,324 137,950 141,866 127,295 136,000
営業利益(百万円) 7,524 20,017 19,063 17,100 13,439 12,000
経常利益(百万円) 9,431 20,858 21,800 17,368 16,885 9,600
親会社株主帰属純利益(百万円) 12,526 23,378 19,745 18,367 15,391 14,000
EPS(円) 118.39 220.96 186.61 173.60 145.47 132.32
営業利益率 7.2% 14.2% 13.8% 12.1% 10.6% 8.8%
総資産(百万円) 247,130 265,453 293,228 306,431 346,684 —
純資産(百万円) 91,333 110,587 132,126 145,645 158,290 —
自己資本比率 36.9% 41.6% 45.0% 47.5% 45.6% —
現預金(百万円) 11,654 15,521 19,853 11,593 14,050 —
有利子負債(百万円) 115,928 109,684 118,764 120,654 141,720 —
営業CF(百万円) 15,782 35,268 29,448 30,729 29,858 —
投資CF(百万円) ▲3,115 ▲18,488 ▲22,007 ▲30,786 ▲42,116 —
FCF(百万円) 12,667 16,780 7,441 ▲57 ▲12,258 —
BPS(円) 863.00 1,045.99 1,248.25 1,375.24 1,495.46 —
1株配当(円) 36 65 56 58 59 53

(出典: EDINET DB — FY2022/3〜FY2026/3実績、TDNet決算短信 — FY2027/3会社予想。FY2026/3が有報実績の末尾であり、FY2027/3は予想のみ。FCF=営業CF+投資CF。)

運転資本と資本集約度

売上債権は売上高、棚卸資産と仕入債務は売上原価を分母とする。売上原価は売上高−売上総利益で逆算した。非受注産業のため受注残高は該当せず、FY2026/3の減価償却費は13,542百万円である。

指標(日数) FY2024/3実績 FY2025/3実績 FY2026/3実績
売上債権回転日数 34.0 31.8 29.8
棚卸資産回転日数 18.4 14.5 22.3
仕入債務回転日数 31.1 28.8 42.8
CCC 21.3 17.5 9.3

(出典: EDINET DB。FY2024/3〜FY2026/3の売上原価は108,667、113,341、103,463百万円。)

健全性チェック

チェック項目 FY2026/3値 判定
自己資本比率 > 40% 45.6% ✅
有利子負債 < 現預金 141,720百万円 > 14,050百万円 ❌
流動比率 > 150% 84.6% ❌
利益剰余金 > 0 120,336百万円 ✅
営業CF 3期連続黒字 FY2024/3〜FY2026/3で黒字 ✅
配当 3期連続支払い FY2024/3〜FY2026/3で支払い ✅
EPS 前年比プラス ▲16.2% ❌
ROE > 8% 10.1% ✅
営業利益率 > 同業3社平均 10.6% > 7.7% ✅
FCF 黒字 ▲12,258百万円 ❌

(出典: EDINET DB — FY2026/3、同業3社のFY2026/3。流動比率=流動資産÷流動負債。過去3期の会社予想と実績を対応付ける履歴は未収録。)


3. 市場評価を読む — バリュエーション

時価総額・株価の基準

株価と倍率は2026-09-18の市場データを基準とする。
1,753円×105,802,797株=185,472,303,141円で、取得時価総額185,472,303,104円との差は37円にすぎない。
13.2倍×FY2027/3会社予想EPS132.32円=1,746.62円(株価との差0.36%)、1.17倍×FY2026/3 BPS1,495.46円=1,749.69円(同0.19%)で、表示倍率の丸めを考慮していずれも±5%以内である。

NC 2軸とCN-PER

標準NCは現預金+短期有価証券−有利子負債、広義NCAVは流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計である。比率の分母は2026-09-18時価総額185,472百万円に統一した。

項目(百万円、比率を除く) FY2025/3実績 FY2026/3実績
現預金 11,593 14,050
短期有価証券 — —
有利子負債 120,654 141,720
標準NC ▲109,061 ▲127,670
標準NC比率 ▲58.8% ▲68.8%
流動資産 41,139 41,261
投資有価証券×0.7 17,962 24,049
負債合計 160,786 188,394
広義NCAV ▲101,685 ▲123,084
広義NCAV比率 ▲54.8% ▲66.4%

FY2027/3会社予想純利益14,000百万円に対し、CN-PER=(時価総額−NC)÷予想純利益は標準NCベース22.4倍、広義NCAVベース22.0倍である。
(出典: EDINET DB FY2025/3〜FY2026/3、TDNet決算短信 FY2027/3会社予想、市場データ 2026-09-18。)

EV/EBITDA 分析

EV=時価総額−標準NC、EBITDA=営業利益+減価償却費。競合の時価総額も2026-09-18の市場データで統一した。

指標(億円、倍率を除く) 飯野海運 NSユナイテッド海運 明海グループ 共栄タンカー
時価総額 1,854.7 2,476.7 371.2 137.6
標準 NC ▲1,276.7 260.0 ▲1,014.0 ▲372.1
EV 3,131.4 2,216.8 1,385.2 509.7
EBITDA 269.8 367.4 193.4 62.0
EV/EBITDA 11.6倍 6.0倍 7.2倍 8.2倍

(出典: 市場データ 2026-09-18、EDINET DB FY2026/3。広義NCAVベースではEV3,085.6億円、EV/EBITDA11.4倍。明海グループは自己資本定義差に留意。)

倍率ベース感応度(適用 PER レンジ・円換算なし)

適用 PER 水準 倍率 位置づけ
レンジ下限(保守的) 8.6倍 同業3社の現値EPSベースPERの下限(明海グループ)
中央(現状据え置き) 13.2倍 飯野海運のFY2027/3会社予想EPSに対する現値PER
レンジ上限(楽観的) 33.2倍 同業3社の現値EPSベースPERの上限(共栄タンカー)
参考: 同業3社平均 PER 17.4倍 NSユナイテッド海運10.3倍、明海グループ8.6倍、共栄タンカー33.2倍
参考: 自社5期 PER レンジ データなし 期末時価総額の時系列が未収録

4. 同業比較 — 差分の論点

比較対象は同じ海運業で、FY2026/3実績と2026-09-18市場データを同じ定義で確認できるNSユナイテッド海運、明海グループ、共栄タンカーとした。

FY2026/3実績・2026-09-18市場データ比較

指標 飯野海運 NSユナイテッド海運 明海グループ 共栄タンカー
時価総額(億円) 1,854.7 2,476.7 371.2 137.6
売上高(億円) 1,273.0 2,297.8 612.7 155.1
営業利益率 10.6% 8.9% 6.1% 8.0%
自己資本比率 45.6% 63.2% 18.2% 33.7%
PER 13.2倍 10.3倍 8.6倍 33.2倍
PBR 1.17倍 1.32倍 0.70倍 0.53倍
ROE 10.1% 13.8% 4.6% 1.6%
配当利回り 3.02% 2.95% 0.46% 2.22%
EV/EBITDA 11.6倍 6.0倍 7.2倍 8.2倍
標準 NC 比率 ▲68.8% 10.5% ▲273.1% ▲270.4%

(出典: 市場データ 2026-09-18、EDINET DB FY2026/3。PER・PBR・配当利回りは市場データ基準。)

飯野海運は営業利益率と自己資本比率が同業3社平均を上回る一方、マイナスNCのためEV/EBITDAは4社で最も高い。
FY2024/3からFY2026/3に売上と営業利益率が低下した点も倍率差の解釈に必要である。
FY2026/3のCCCは9.3日だが、競合は売上債権や売上原価の開示不足で同一定義の横比較ができない。


5. リスクと論点

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
中東・紅海を含む地政学 高 中 通航制限、迂回、保険・燃料・傭船コスト増、荷動き減少が同時発生 情報収集と運航対応。長短の契約・船腹調達を分散
海運市況・契約更改 高 中 船腹過剰又は荷動き減少により運賃・貸船料が低下 中長期契約を主体にし、スポット比率を船種別に管理
船隊投資と金利・為替 高 中 新造船・不動産投資で借入が増え、金利上昇又は円高が収益・資金負担を圧迫 金利固定化、ドル建費用化、為替予約・スワップを活用
脱炭素・環境規制 中 高 ETS・FuelEU・IMO対応で燃料、設備、測定・報告のコストが上昇 環境対応による競争力強化を中計に組込み
都心オフィス稼働 中 中 テナント解約・空室・環境性能劣後で賃料、資産価値が低下 長い解約予告、管理・改修、保険で影響を緩和

地政学は物流量、航行日数、燃料・保険、荷主生産を同時に動かす。
有報はホルムズ海峡・紅海、ロシア・ウクライナ、米国関税政策をリスクに挙げる。
迂回が船腹需給を締めても、減産や需要後退が重なれば契約採算は悪化し得る。
出典: 有価証券報告書(FY2026/3、EDINET閲覧)。

資本効率の論点は余剰現金の滞留ではない。
標準NC▲1,276.7億円、有利子負債1,417億円(FY2026/3)の資本集約型であり、投下資本が利益・FCFを生むか、配当・自己株式取得がD/E規律と整合するかが焦点となる。
配当は配当性向40%基準と1株30円の下限を持ち、FY2027/3会社予想は53円である。
出典: 配当・株主優待、EDINET DB、TDNet決算短信。


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造分析

標準NC▲1,276.7億円を反映したEV/EBITDAは11.6倍で、予想PER13.2倍より負債の影響が強く現れる。
広義NCAVでもEV/EBITDAは11.4倍であり、流動資産・投資有価証券を加えても負債合計が大きい。
船舶・不動産の資産と借入を一体で読む必要がある。

評価を左右するのは、外航市況・為替・燃料・地政学による利益変動、FY2026/3の投資CF▲421億円と今後約2,000億円の投資、不動産の空室・賃料・環境性能である。
FY2026/3の収益を持続利益として扱えるか、構造的な資本効率ディスカウントかを分ける指標はROIC、D/E、契約構成、投資後の稼働・利益貢献である。

条件分岐シナリオ

好転シナリオ:投資の収益化と安定収益の厚み

前提:中計の成長投資が計画どおりに稼働し、ケミカル・ガス輸送の中長期契約と都心不動産の安定収益が、資本コストを上回る利益を継続して生む場合。
市場評価の変化:負債増加を単なるレバレッジではなく収益化済みの投下資本として読めるようになり、PERは同業3社平均17.4倍との比較、EV/EBITDAは船隊・不動産の安定性を加味する評価軸で検討され得る。

ベースシナリオ:会社予想と契約管理の継続

前提:FY2027/3会社予想の売上高1,360億円、営業利益120億円に沿い、運賃・為替・燃料の変動を契約構成とヘッジで吸収し、不動産の稼働が維持される場合。
市場評価の変化:予想PER13.2倍とEV/EBITDA11.6倍近辺で、海運市況の循環性、借入、将来投資の実行力を併せて読む評価が続きやすい。
配当40%基準と下限配当は還元の予見可能性を高めるが、投資後のROICが中心論点となる。

下方シナリオ:航路混乱又は市況・資金コストの悪化

前提:中東・紅海の混乱や世界需要の減速で荷動きが停滞し、契約更改条件が悪化する一方、規制対応費・金利・船舶関連費用が増加する場合。
市場評価の変化:PERは同業の循環低位レンジを参照する見方が強まり、EV/EBITDAは有利子負債と投資資産の回収可能性をより厳しく織り込む評価軸へ移り得る。
不動産の賃料・稼働も同時に弱まるかがポートフォリオ耐性の分岐となる。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年9月28日 中間配当の権利付き最終日 9月30日基準日の中間配当、自己株式取得の有無
2026年9月30日 中間配当基準日 株主還元方針と実施条件の整合
2026年9月30日 EU ETSの2025年排出分の提出期限 欧州寄港航路の負担、燃料・運賃への転嫁状況
2026年11月14日まで FY2027/3会社予想対象期・第2四半期決算の法定開示期限 外航・不動産別の利益、契約更改、通期予想の修正有無
2027年2月14日まで FY2027/3会社予想対象期・第3四半期決算の法定開示期限 船腹稼働、為替・燃料感応度、投資進捗
2027年3月29日 期末配当の権利付き最終日 3月31日基準日の期末配当、下限配当の運用
2027年3月31日 FY2027/3会社予想対象期末・期末配当基準日 有利子負債、船舶投資、FCF、資産評価
2027年5月15日まで FY2027/3会社予想対象期・通期決算の法定開示期限 中計初年度のROIC・D/E・事業コア利益の進捗
2027年9月30日 EU ETSの2026年排出分の提出期限 70%段階の対象排出分に対するコスト管理

M&A・出資検討の論点整理

企業価値の許容水準は、契約期間、船齢・規制適合性、借入条件、入渠・更新投資で決まる。
マイナスNCのため負債引受けと資産収益力を一体評価する必要がある。
顧客基盤、安全運航知見、都心不動産の管理基盤はシナジー候補だが、船種・航路の重複、契約上の承諾、組織・安全文化の統合はディスシナジーになり得る。

DDでは、保有船・用船の別、長期契約、オフバランス約定、金利・ヘッジ、船齢・ドック、環境投資、偶発債務、荷主・テナント信用、海外不動産の持分・為替・回収条件を確認する。
不動産の環境性能・テナント集中、保険・BCP、人材確保に加え、新規事業では共同出資者との意思決定、出口・撤退条件、稼働開始時期も検証対象となる。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: マイナスNCの海運会社は、負債を除くのではなく投下資本の稼働で読む

標準NC▲1,276.7億円、広義NCAV▲1,230.8億円、有利子負債1,417億円(FY2026/3)のため、現預金だけで企業価値を測る見方は適合しにくい。
営業CF299億円に対し投資CFは▲421億円であり、EV/EBITDA、ROIC、D/E、船種別契約を併読して、投資が収益基盤の拡張か固定費増かを区別する必要がある。
住宅ローン付き建物を預金だけで評価しないのと同じで、資産が金利・修繕後に生む収益が焦点となる。

📚 着眼点2: 不動産は海運リスクを消す装置ではなく、異なる時計で動く収益源である

FY2026/3の不動産は売上構成11.1%に対し営業利益率30.9%で、外航海運の8.6%を上回る。
ただし、海運不振を必ず補うとは限らず、空室率、賃料、テナント更新、環境性能という別のリスクを持つ。
景気後退や金利上昇時には輸送需要と不動産需要が同時に弱まり得るため、セグメント利益、稼働率、賃料、改修投資で分散効果を測る。

📚 着眼点3: 飯野海運の指標ポジショニング(相場観テーブル)

指標 飯野海運の値 同業3社平均 全上場中央値 評価コメント
予想PER 13.2倍 17.4倍 公開情報で未確認 同業平均より低位に見えるが、外航市況と借入を反映する必要がある
PBR 1.17倍 0.85倍 公開情報で未確認 純資産だけでなく船隊・不動産の収益性と負債を併読する
ROE 10.1% 6.7% 公開情報で未確認 同業平均を上回るが、中計の2030年度目標10%の継続性が論点
営業利益率 10.6% 7.7% 公開情報で未確認 不動産の高採算が寄与し、外航海運単独の市況感応度とは分けて読む
自己資本比率 45.6% 38.4% 公開情報で未確認 同業平均を上回る一方、船舶投資に伴うD/Eの推移を確認する
配当利回り 3.02% 1.88% 公開情報で未確認 配当性向40%基準と下限配当が予見可能性を支える
EV/EBITDA 11.6倍 7.1倍 公開情報で未確認 マイナスNCのため、PERより負債の影響が強く表れる
標準NC比率 ▲68.8% ▲177.2% 公開情報で未確認 現金余剰ではなく借入依存度と投下資本の回収を示す
FCF ▲122.6億円 166.2億円 公開情報で未確認 船舶・不動産への投資局面であり、営業CFとの組合せで解釈する

(出典: EDINET DB、TDNet決算短信、市場データ 2026-09-18。全上場中央値は同一基準日・同一定義の一次資料を確認できず公開情報で未確認。)


参考情報

ガバナンス要点

代表取締役社長は大谷祐介氏。
FY2026/3末の連結従業員は688名で、監査役会設置会社として取締役8名中4名、監査役4名中2名が社外である。
会計監査人、主要取引銀行、海外拠点の全一覧は確認資料から確定できず公開情報で未確認。
有報では取締役会が中計進捗、重要投融資、ガバナンスを審議し、資本市場・IRを含むスキルマトリックスを採用している。

大株主参考(大量保有・変更報告書ベースの5者)

比率順(参考) 株主名 保有比率 区分
1 株式会社みずほ銀行 4.54% 銀行・政策保有(2023年10月20日変更報告書)
2 三井住友信託銀行株式会社 2.85% 信託銀行・政策保有(2025年9月19日変更報告書)
3 アセットマネジメントOne株式会社 1.74% 資産運用会社(2023年10月20日変更報告書)
4 三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 1.52% 資産運用会社(2025年9月19日変更報告書)
5 アモーヴァ・アセットマネジメント株式会社 1.03% 資産運用会社(2025年9月19日変更報告書)

(出典: EDINET DB収録の変更報告書。各行の基準日は同一でなく、利用可能な大量保有・変更報告書の保有者5者を参考表示したもの。FY2026/3有報の大株主順位ではなく、同有報上位5名との一致は公開情報で未確認。)

データ基準日の違い

データ種別 基準日 ソース
財務・セグメント・有報リスク 2026-03-31 EDINET DB、有価証券報告書
FY2027/3会社予想 2026-08-04 決算短信
株価・時価総額・倍率 2026-09-18 市場データ
船隊 2026-03-31 飯野海運フリートリスト
中期経営計画 2026-05-08公表 飯野海運
外部規制 2026-09-22確認 欧州委員会、IMO

出典一覧

  1. 飯野海運 中期経営計画(2026年9月22日参照)— 中計、投資、資本・還元方針。
  2. 飯野海運 海運業・フリートリスト(2026年9月22日参照)— 船種、隻数、貨物。
  3. 飯野海運 配当・株主優待(2026年9月22日参照)— 配当性向基準、下限配当。
  4. 飯野海運 FAQ(2026年9月22日参照)— 契約構成、為替・燃料、市況要因。
  5. 飯野海運 買収への対応方針(2026年9月22日参照)— ポートフォリオ、自社保有・用船の分散。
  6. 金融庁 EDINET 有価証券報告書(FY2026/3)— リスク、資金調達、ガバナンス、従業員。
  7. 欧州委員会 海運部門の排出削減(2026年9月22日参照)— EU ETS、FuelEU Maritime。
  8. IMO 2023 GHG Strategy(2026年9月22日参照)— 2030年・2040年・2050年の国際海運脱炭素目標。
  9. EDINET DB — 企業基本情報・健全性スコア・FY2026/3決算(EDINET有価証券報告書ベース)
  10. EDINET DB — 5期財務時系列(飯野海運、FY2022/3〜FY2026/3)
  11. EDINET DB — セグメント別売上(飯野海運、FY2026/3)
  12. EDINET DB — 業界ベンチマーク(海運業)
  13. TDNet決算短信 — FY2027/3第1四半期開示の会社予想(2026-08-04)
  14. 市場データ — 株価・時価総額・発行済株式数(2026-09-18)