📚 業界ノート

大阪瓦斯株式会社

【経済・電気・ガス業】電気・ガス業企業バリュエーション分析更新 2026-10-20

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 販売量・単価・調達コストが利益を動かす
  3. 国内電源と蓄電池、海外ガス開発
  4. 2. 財務の実力
  5. 5期の損益・資産・キャッシュ
  6. 収益性、安全性、運転資本
  7. 9項目の財務健全性チェック
  8. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  9. 4. 同業比較 — 差分の論点
  10. 5. リスクと論点
  11. 6. バリュエーション統合と論点整理
  12. 乖離の構造
  13. 条件別シナリオ
  14. 監視ポイント
  15. M&A・出資の検討軸
  16. 7. 学びのポイント
  17. 📚 着眼点1: 売上と利益を分解する
  18. 📚 着眼点2: 有利子負債を含めて事業価値を見る
  19. 📚 着眼点3: 売上構成と利益構成は別のもの
  20. 相場観と倍率感応度
  21. 参考情報
  22. ガバナンスと資本政策
  23. データ時点
  24. 出典一覧

大阪瓦斯株式会社(9532)銘柄分析レポート

SUMMARY
  • 何で稼ぐか:FY2026/3の売上の約81%を国内エネルギーが占める一方、海外エネルギーとLBSが利益の伸びを支える。
  • 財務の要点:FY2026/3は営業利益率8.6%、自己資本比率54.4%、営業CF3,407億円。標準NCは▲8,119億円で、現預金より有利子負債が大きい。
  • 最大論点:FY2027/3 Q1の利益減少と会社計画の営業減益を、海外・LBSの成長がどこまで補えるか。市場倍率は2026-03-31のEDINET期末スナップショットであり、2026-10-20の現値は取得できていない。

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界構造は電気・ガス業業界基礎ガイドを参照し、本章では当社の事業構成と収益を扱う。

FY2026/3の連結売上高は2兆303億円。
外部売上の約81%を国内エネルギーが占め、家庭・業務・産業向けの都市ガス、電力小売・卸、発電、LNG調達・トレーディングを組み合わせる。
海外エネルギーは売上構成比6.3%だが、米国のLNG液化・上流事業などが連結利益の成長を押し上げた。
LBSは材料、情報、都市開発などを含み、売上と利益の双方が増えた。
(FY2026/3有価証券報告書、統合報告書2026・事業概要)

セグメント FY2026/3外部売上(百万円) 構成比 売上高のFY2025/3比 営業利益(百万円) 営業利益率 営業利益のFY2025/3比 FY2026/3設備投資(百万円)
国内エネルギー 1,639,494 80.75% −5.44% 68,749 4.19% −8.19% 124,553
ライフ&ビジネス ソリューション(LBS) 263,847 13.00% +16.41% 37,447 14.19% +30.17% 41,673
海外エネルギー 126,960 6.25% +16.90% 67,650 53.28% +25.39% 90,731

外部売上計2,030,301百万円と連結値との差1百万円は丸め。
セグメント営業利益173,846百万円と連結値との差963百万円は調整等。
統合報告書の「セグメント利益」(持分法損益等を含む)とは区分した。
(セグメント別開示、統合報告書2026・事業戦略)

販売量・単価・調達コストが利益を動かす

FY2026/3の売上原価は1兆5,928億円、売上高の78.4%であった。
粗利益4,375億円から販管費2,627億円を差し引き、営業利益1,748億円となった。
国内ガスではLNG価格や為替の変化が原料費調整制度を通じて販売単価へ移るまで時間差が生じる。
FY2027/3 Q1は売上高がFY2026/3 Q1比1.5%増えた一方、営業利益は34.3%減った。
会社は燃料価格変動が料金へ反映されるまでの時間差を減益要因として説明している。売上の増減だけでは粗利の方向を判断できない。(FY2027/3 Q1決算短信)

FY2027/3 Q1のガス供給件数は517.4万件、ガス販売量はFY2026/3 Q1比2.3%減だった。
電力販売量は合計で7.7%増えたが、低圧小売は3.1%減、卸等は15.5%増である。
販売先には家庭、業務、工場等が含まれる。
上位顧客別売上の順位は開示されていない。
有報はJFEグループと日本電気硝子を、大口のガス販売先の一つとして株式保有理由に記載しているが、顧客集中度を示す情報ではない。
(FY2026/3有価証券報告書)

FY2026/3設備投資は2,555億円、減価償却費は1,351億円。

国内電源と蓄電池、海外ガス開発

姫路天然ガス発電所1号機は2026年1月5日、2号機は4月30日に営業運転を開始した。
発電能力の追加は供給基盤になる一方、稼働率が整う前から固定費と減価償却費が発生する。
会社はFY2030までに運転開始する蓄電池容量100万kWを計画している。
確認点は案件の接続状況、収入契約、運転開始時期、投下資本利益率である。
(FY2027/3事業計画)

2026年9月18日、同社は西豪州Browseガス田の5%権益を取得する契約を締結した。
規制当局とJVパートナーの承認が条件で、計画はPre-FEED段階にある。
プロジェクト全体では年約1,100万トンのLNG生産を想定し、大阪ガスは年約55万トンの引取を見込む。
CCSを組み合わせた低炭素LNGを掲げるが、投資額、最終投資決定、工程、CCS費用、ガス価格の前提はまだ確定していない。
海外供給力の補強と、長期資本負担・承認・工事リスクを同時に見る必要がある。
(Browse権益取得の発表)

FY2026/3の海外エネルギーは売上の6.25%に対してセグメント営業利益676億円、LBSは売上の13.0%に対して374億円だった。
FY2026/3の営業利益増加を支えたこれらの領域は、国内販売量だけを見ていると見落とす。
一方、海外比率の利益寄与が高いほど、商品市況、為替、投資先操業、JV条件に連結利益が振られる。
(EDINETセグメント開示)


2. 財務の実力

5期の損益・資産・キャッシュ

金額は百万円。
利益率は売上高比、簡易FCFは営業CF+投資CF(設備投資以外も含む)。
FY2023/3は売上高が43.0%増えて営業利益率が2.6%へ低下。
FY2024/3以降は戻り、FY2026/3は売上高が1.9%減るなか営業利益が8.8%増えた。
(FY2026/3決算短信、EDINET財務諸表)

指標 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高(百万円・対前年度比) 1,591,120・— 2,275,113・+43.0% 2,083,050・−8.4% 2,069,019・−0.7% 2,030,302・−1.9%
営業利益(百万円・利益率) 99,201・6.2% 60,001・2.6% 172,553・8.3% 160,731・7.8% 174,809・8.6%
経常利益(百万円) 113,525 75,649 226,563 189,647 204,522
親会社株主に帰属する純利益(百万円・利益率) 130,421・8.2% 57,110・2.5% 132,679・6.4% 134,414・6.5% 152,751・7.5%
EPS(円) 313.69 137.39 320.60 333.31 391.15
1株配当(円) 57.5 60.0 82.5 95.0 120.0
配当性向 18.3% 43.7% 25.7% 28.5% 30.7%
配当利回り(期末値) 2.75% 2.75% 2.43% 2.81% 1.88%
総資産(百万円) 2,588,086 2,819,589 2,980,127 3,200,525 3,321,405
自己資本(百万円) 1,271,617 1,391,421 1,577,513 1,688,794 1,806,043
自己資本比率 49.1% 49.3% 52.9% 52.8% 54.4%
営業CF(百万円) 145,350 33,572 312,609 283,681 340,740
投資CF(百万円) −152,163 −203,938 −215,944 −255,626 −241,852
財務CF(百万円) −30,479 119,617 −110,123 −34,085 −129,177
簡易FCF:営業CF+投資CF(百万円) −6,813 −170,366 96,665 28,055 98,888
減価償却費(百万円) 108,902 119,823 123,565 127,549 135,138
設備投資(百万円) 189,317 195,330 198,421 221,735 255,499

FY2022/3〜FY2025/3の配当利回りは1株配当÷(EPS×期末PER)で概算し、丸められたPERを使う。
FY2026/3はEDINET開示値。
FY2027/3計画利回り2.04%はFY2026/3市場スナップショットと会社計画の混合時点。

FY2026/3の営業CFは3,407億円、設備投資は2,555億円で、営業CFは設備投資の1.33倍。
投資CFには設備購入以外の支出・回収も含むため、営業CF+投資CFの簡易FCFと営業CF−設備投資の852億円を区別する。
(FY2026/3有価証券報告書)

収益性、安全性、運転資本

FY2026/3 ROEは8.7%、自己資本比率は54.4%。
自己資本は純資産から非支配株主持分を除いた値で、有報の参考自己資本と一致する。
流動比率は184.1%(流動資産828,882百万円÷流動負債450,212百万円)だが、標準NCはマイナスで、流動資産の厚みと現預金だけの資金余力は異なる。
(FY2027/3 Q1決算短信)

FY2026/3のCCCは82.7日(売上債権53.3日+在庫51.0日−仕入債務21.7日)、FY2025/3は78.3日。
売上債権は売上高、棚卸資産と仕入債務は売上原価で割った期末残高ベースで、FY2026/3は在庫日数が伸びた一方、売上債権日数は短縮した。
(EDINET財務諸表)

9項目の財務健全性チェック

項目 FY2026/3の事実 判定基準 判定
自己資本比率 54.4% 40%超 ✅
有利子負債と現預金 負債870,402百万円、現預金+短期証券58,543百万円 負債が現預金未満 ❌
流動比率 184.1% 150%超 ✅
利益剰余金 1,262,276百万円 正 ✅
営業CF FY2024/3〜FY2026/3の3期連続黒字 3期連続黒字 ✅
配当 FY2024/3 ¥82.5、FY2025/3 ¥95、FY2026/3 ¥120 3期連続支払 ✅
EPS FY2026/3 ¥391.15、FY2025/3 ¥333.31から17.4%増 FY2026/3がFY2025/3を上回る ✅
ROE 8.7% 8%超 ✅
営業利益率 8.6% ガス大手の参考域5〜8%を上回る ✅

EDINET健全性スコア83/100は上表8勝1敗とは別指標。
有利子負債が現預金等を上回るため、利益・投資回収・満期を合わせて見る。
ガス大手の営業利益率参考域5〜8%は電気・ガス業主要プレイヤー比較(FY2025/3データ)の業態典型値。
EV/EBITDAの参考域7〜10倍は電気・ガス業主要プレイヤー比較_FP&Aと投資視点(2026-06-14更新、FY2025/3基準)のガイド値で、いずれも中央値や目標値ではない。

FY2027/3 Q1(4〜6月)は売上4,780億円(+1.5%)、営業利益313億円(−34.3%)、経常利益502億円(−15.3%)、純利益356億円(−26.5%)。

FY2027/3計画は売上2兆1,700億円、営業利益1,500億円、経常利益1,900億円、純利益1,450億円、EPS380.73円、配当130円。
売上予想は前回から上方修正、利益予想は据え置き。
Q1は3か月累計、計画は通期値。
(FY2027/3 Q1決算短信)

会社予想精度の構造化データは1期分のみ。
2026-02-02時点のFY2026/3予想→実績は、売上2兆500億円→2兆303億円(−1.0%)、営業利益1,600億円→1,748億円(+9.3%)、経常利益1,860億円→2,045億円(+10.0%)、純利益1,420億円→1,528億円(+7.6%)。
恒常的な精度は推定しない。
(FY2026/3 Q3決算短信、FY2026/3決算短信)


3. 市場評価を読む — バリュエーション

2026-10-20の現値は未取得で、倍率は2026-03-31 EDINET期末スナップショット。
PER×EPSとPBR×BPSは丸め範囲で整合する。
FY2027/3予想PER・利回りは市場データと2026-07-30会社予想の混合時点である。
(EDINET有価証券報告書、FY2027/3 Q1決算短信)

指標 FY2025/3 FY2026/3 定義・時点
時価総額(百万円) 1,346,073 2,444,534 各年度末のEDINETスナップショット
実績PER 10.15倍 16.31倍 各年度末の市場指標
PBR 0.795倍 1.356倍 各年度末の市場指標
DPS・実績配当利回り ¥95・2.81% ¥120・1.88% FY2025/3利回りはEPS×PERで推定、FY2026/3はEDINET値
FY2027/3会社計画PER — 16.86倍 2,444,534百万円 ÷ FY2027/3純利益計画145,000百万円。時点混在
FY2027/3予想DPS・参考利回り — ¥130・2.04% 3/31スナップショット価格に対する参考値
標準NC(百万円) −864,066 −811,859 現金及び現金同等物+短期有価証券−有利子負債
標準NC比率 −64.2% −33.2% 各年度の標準NC÷同年度末時価総額
広義NCAV(百万円) −249,979 −254,592 流動資産+投資有価証券×70%−負債合計
広義NCAV比率 −18.6% −10.4% 各年度の広義NCAV÷同年度末時価総額
EV/EBITDA 7.67倍 10.51倍 EV=時価総額−標準NC、EBITDA=営業利益+減価償却費
CN-PER — 21.32倍 (時価総額−標準NC)÷FY2026/3純利益

PER(FY2022/3→FY2026/3)は6.67→15.87→10.58→10.15→16.31倍、PBRは0.684→0.651→0.879→0.795→1.356倍。
各年度末のEDINET値で、2026-10-20の市場値ではない。

FY2026/3の標準NCは現預金584億9,200万円と短期証券5,100万円から、有報の返済予定表も含む有利子負債8,704億200万円を控除した。
1年以内返済予定の借入金・社債761億8,300万円がEDINET財務フィードから漏れているため、EV/EBITDAは満期調整後10.51倍(未調整10.26倍)。
FY2025/3の有利子負債は9,464億4,200万円。

FY2022/3〜FY2024/3は短期債務・短期証券項目が欠測のため標準NCを算出せず、ゼロ補完していない。
広義NCAVはFY2022/3から順に▲3,329億円、▲3,128億円、▲2,355億円、▲2,500億円、▲2,546億円で、5期連続マイナス。
(FY2026/3有価証券報告書・借入金等)

標準NCは現預金に対して借入・社債が大きいことを示す。
広義NCAVもマイナスであり、流動資産と投資有価証券の一部を足しても総負債を下回る。
投資有価証券に70%の価値を置く計算は換金可能価値を保証するものではない。
CN-PERは純有利子負債を時価総額へ戻すため、表面PER16.31倍より高い21.32倍となる。利益の持続性と設備投資後の現金創出が評価の軸となる。

FY2026/3 PER16.31倍は5期の期末レンジ上端。
FY2027/3会社計画は営業利益1,500億円(−14.2%)、純利益1,450億円(−5.1%)で、予想PER16.86倍は市場データとの混合時点の参考値である。

DCFはWACC、永久成長率、5期FCFのセットを裏付ける会社資料がないため掲載しない。


4. 同業比較 — 差分の論点

比較対象は同じ都市ガス大手で、FY2026/3を最新通期とする東京瓦斯・東邦瓦斯。
時価総額と倍率は3社ともEDINETの2026-03-31スナップショット。
東邦瓦斯は4:1株式分割後のEPS・BPS・配当へ換算し、FY2026/3 DPSは22.5円としている。
大阪瓦斯のEV/EBITDAのみ有報の短期満期借入を補正した。
(東京瓦斯FY2026/3有価証券報告書、東邦瓦斯FY2026/3有価証券報告書)

指標 大阪瓦斯 9532 東京瓦斯 9531 東邦瓦斯 9533
時価総額(百万円) 2,444,534 2,478,293 460,178
売上高推移(FY2024/3→FY2025/3→FY2026/3、百万円) 2,083,050→2,069,019→2,030,302 2,662,420→2,636,809→2,834,749 632,985→656,010→651,085
営業利益率推移(FY2024/3→FY2025/3→FY2026/3) 8.28%→7.77%→8.61% 8.16%→5.05%→6.97% 5.31%→4.71%→4.88%
実績PER 16.31倍 11.30倍 15.00倍
PBR 1.356倍 1.436倍 0.958倍
ROE 8.7% 13.2% 6.8%
営業利益率 8.61% 6.97% 4.88%
自己資本比率 54.4% 44.1% 59.0%
FY2026/3配当利回り(スナップショット基準) 1.88% 1.49% 1.79%
EV/EBITDA 10.51倍(満期補正) 7.58倍 8.13倍
標準NC比率 −33.2% −41.3% −24.0%
CCC推移(日、FY2024/3→FY2025/3→FY2026/3) 75.5→78.3→82.7 66.8→67.0→62.9 38.7→39.3→40.1

大阪瓦斯はFY2026/3の営業利益率・自己資本比率が3社中高い側だが、ROEは東京瓦斯未満、EV/EBITDAは高い。
海外の高利益率が連結利益率を押し上げる一方、東京瓦斯は規模・海外電力、東邦瓦斯は自己資本比率など構成が異なり、**倍率だけで優劣は決められない。
**CCCは期末在庫や商品市況にも左右される。
競合NC比率は短期満期債務を完全統一できず、大阪瓦斯は有報満期表で補正した。


5. リスクと論点

有報が挙げる主要リスクから、財務と事業への経路が明確な項目を整理した。影響度・発生可能性は定性的な区分である。(FY2026/3有価証券報告書・事業等のリスク)

リスク 影響度 発生可能性 具体的な経路 会社の対応
LNG・為替・料金調整の時間差 高 中〜高 原料コストが料金へ移るまで粗利が低下。FY2027/3 Q1に時間差影響 LNG調達先・価格指標の分散、ヘッジ、原料費調整制度、トレーディング
国内需要・小売競争 高 中 気温、人口、効率化、他社切替で販売量や単価が縮小 顧客サービス、電力・周辺事業、パートナー連携
海外案件・市況・カントリーリスク 高 中 Browseや米国案件の許認可、工程、投資費用、商品市況、JV運営が利益を振らす 投資評価、現地パートナーとの運営、事業分散
脱炭素移行・災害・供給設備・サイバー 高 低〜中 規制・技術変化や事故、基幹システム停止で追加費用・操業支障 再エネ・e-メタン・CCS開発、設備点検、BCP、情報セキュリティ
資本配分と評価の長期化 中〜高 中 借入と設備投資が続き、投資後CFやROEが低下すれば評価改善が止まる ROIC5%、ROE8%、自己資本比率45%以上、D/E0.8以下を計画指標に置く

バリュートラップは借入を含めた資金余力の誤読にある。
FY2026/3標準NCは▲8,119億円、広義NCAVは▲2,546億円。
PER16.31倍だけで資産余剰や利益安定性を仮定せず、投資後CF、借入満期、海外利益の継続、還元実行を確認する。
倍率は期末スナップショットである。


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造

2026-03-31の期末指標で大阪瓦斯のPER16.31倍は東京瓦斯11.30倍・東邦瓦斯15.00倍を上回り、EV/EBITDAも補正後10.51倍と2社より高い。
PBR1.36倍は東京瓦斯を下回るが東邦瓦斯を上回る。
少なくともこの期末スナップショットでは、同業内で一律に低い評価とは言えない。
一方、FY2026/3の営業増益、海外とLBSの利益寄与、配当増加がプラス材料となる。

反対側には、FY2027/3営業利益計画の14.2%減、FY2027/3 Q1営業利益の34.3%減、設備投資の増加、Browseの初期開発段階がある。
市場が海外高利益を継続収益とみるか、投資・市況リスクを伴う変動利益とみるかで適用倍率は変わる。
標準NCを調整するとCN-PERは21.32倍で、表面PER16.31倍より利益の見かけ上の安さが縮む。価値評価の核心は、売上規模ではなく国内価格転嫁、投資後キャッシュフロー、海外案件の資本効率である。

条件別シナリオ

強気:海外・LBSの利益が定着

Browseの承認と工程、姫路発電所の稼働が計画に沿い、海外・LBSの収益が現金化され、ROIC・ROEが経営計画水準を保つ場合、規制公益事業だけでなく複合ポートフォリオの評価軸が強まりうる。
PER16〜18倍、EV/EBITDA8〜12倍の上側を支えるには、会計利益だけでなく投資後CFと案件別採算の開示が必要となる。

基準:FY2027/3会社計画に沿う

会社計画が概ね実現し、国内料金調整の時間差が平準化、海外・LBSの収益も意味のある規模を保つ場合、PER12〜16倍、EV/EBITDA8〜10.5倍が公益事業の安定性と海外投資リスクの双方を含む参照帯となる。
FY2026/3の利益水準がそのまま続くと仮定しない。

弱気:国内採算と海外投資が同時に弱含む

ガス・電力の販売量や調達差益が縮小し、海外案件の工程遅延・採算悪化が重なる場合、利益計画の信頼性と資本効率が下がりうる。
評価軸はPER10〜12倍、EV/EBITDA7〜9倍、PBR1.0〜1.2倍に近づく可能性がある。
これは倍率の参照範囲である。
下側は会社のFY2024/3〜FY2025/3期末PERと競合EV倍率を参考にした。

監視ポイント

日付・時期 イベント 開示で確認する点
2026-10-29 FY2027/3 Q2決算(IRカレンダー記載) Q1減益の継続性、調整タイムラグ、ガス・電力販売量、通期計画の変更
2026-10-31 政府支援の料金値引き終了対象月 10月検針分以降の顧客料金、需要・販売量、価格と数量の組合せ
2026-12-31 FY2027/3 Q3対象期間の期末 在庫、売上債権、設備投資、借入、海外案件のコミットメント
2027-01-05 姫路発電所1号機の営業運転開始から1年 稼働、保守費、発電収益、減価償却の寄与
2027-02-02(過去の発表日を参考にした目安) FY2027/3 Q3決算発表の想定時期 通期計画との整合、Q4季節性、借入と投資の進捗
2027-03-29(計算値、公式日程は要確認) FY2027/3期末配当の権利付最終日見込み 3月31日基準日とT+2決済を仮定した日程。最終配当と基準日公表を確認
2027-03-31 FY2027/3期末・期末配当基準日の想定 現金、総有利子負債、標準NC、投資CF、配当実績
2027-04-30 姫路発電所2号機の営業運転開始から1年 2基の稼働率、固定費吸収、国内電力採算
2027-05-08(過去の発表日を参考にした目安) FY2027/3通期決算・FY2028/3計画の想定時期 営業利益1,500億円計画との実績差、利益構成、設備投資・還元

IRカレンダーにあるFY2027/3 Q2以外の予定日は過去の開示時期・会計期間・稼働日・決済日程からの目安である。(IRカレンダー、政府支援終了の案内)

M&A・出資の検討軸

買い手のEV上限は正常化後の燃料差益、料金転嫁、維持更新投資、借入満期、撤去費用・将来負担で制約される。
LNG調達・販売・発電・導管には相乗効果がありうるが、規制分離や海外市況連動性は残る。
BrowseはPre-FEED、引取権、建設費超過負担、JV決議権、承認、CCS費用、為替ヘッジ、閉山義務、JOGMEC支援が論点。
対価・資金調達・最終投資決定は未開示であり、分配可能CF、減損、環境・年金債務、保証・担保、関連当事者負担を検証する。
(Browse権益取得の発表)


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 売上と利益を分解する

FY2023/3は売上高が43.0%増えた一方、営業利益は600億円、営業利益率は2.6%に低下した。
FY2027/3 Q1も売上高+1.5%と営業利益−34.3%が併存する。
燃料費、為替、料金調整の時間差が売上を利益へ変える速度を左右するため、売上高だけで業績の質を判断しない。
数量、販売単価、原料費、電力市場価格、顧客区分を分けて読む。

📚 着眼点2: 有利子負債を含めて事業価値を見る

FY2026/3は時価総額2兆4,445億円、標準NC▲8,119億円からEV3兆2,564億円、EBITDA3,099億円、EV/EBITDA10.51倍となる。
CN-PER21.32倍はPER16.31倍を上回り、負債を含む取得コストの確認が要る。

📚 着眼点3: 売上構成と利益構成は別のもの

売上構成と利益構成を分ける

FY2026/3は国内エネルギーが売上の80.75%・営業利益率4.19%、海外は売上6.25%でも営業利益676億円。
投資後CFと案件リスクを合わせ、EDINET営業利益と統合報告書のセグメント利益を混同しない。

相場観と倍率感応度

全上場中央値は未取得。会社・同業値はFY2026/3期末、参考域はFY2025/3基準。

指標 大阪瓦斯 同業参照値 全上場中央値 参照値・感応度 評価の読み方
実績PER 16.31倍 13.15倍 — 履歴6.67〜16.31倍、感度12/16.3/18倍 期末履歴の上端。18倍は5期レンジ超で成長反復が条件
PBR 1.36倍 1.20倍 — 1倍程度 東京瓦斯未満、東邦瓦斯超
ROE 8.7% 10.0% — 会社計画8%程度 FY2026/3実績は計画水準超、投資採算を継続確認
EV/EBITDA 10.51倍 7.86倍 — 感度8/10.5/12倍 満期補正後は2社より高い。上側は投資後CFが条件
FY2026/3配当利回り 1.88% 1.64% — DOE3.5% 市場利回りとDOEは分母が異なる
自己資本比率 54.4% 51.6% — 会社計画45%以上 高水準だが有利子負債は別途確認
営業利益率 8.61% 5.93% — 参考域5〜8% FY2026/3は上限を少し超えた
標準NC比率 −33.2% −32.6% — 合格線なし ネットデットで、プラスのNCを前提にしない
CCC 82.7日 51.5日 — FY2024/3→FY2026/3:大阪75.5→82.7日、東京66.8→62.9日、東邦38.7→40.1日 大阪は在庫日数増加で伸長

同業値は東京瓦斯・東邦瓦斯の単純平均。感応度は倍率比較で、株価や確率を示さない。


参考情報

ガバナンスと資本政策

大阪瓦斯は1897年設立。
2026-03-31時点の従業員は連結21,835人、単体1,303人。
代表取締役社長は藤原正隆、取締役15人のうち女性は4人(26.7%)、会計監査人は有限責任あずさ監査法人である。
有報の確認範囲では主要取引銀行の順位付き一覧は確認できなかった。
資金源は社債、借入金、自己資金と説明されている。
政策保有株式のFY2026/3末簿価は726億円で、会社は取引貢献と資本コストを基準に保有を見直す方針を示す。
(FY2026/3有価証券報告書)

FY2026/3末の上位株主は次の通り。保有比率はFY2026/3末基準の有報記載値(2026-06-22提出)。

順位 株主 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14.79% 信託・カストディ
2 日本カストディ銀行(信託口) 4.95% 信託・カストディ
3 日本生命保険相互会社 3.51% 生命保険
4 りそな銀行 2.75% 銀行
5 State Street Bank and Trust Company 505001 2.29% カストディ・名義人

会社は2026-05-08に2027-03-31まで最大800億円・2,800万株の自己株取得を決議した。
2026-09-30までの累計取得は630.54万株、351.93億円。
FY2026/3配当は120円、FY2027/3計画は130円。
還元方針は累進配当とDOE3.5%を掲げる。
(2026-10-07自己株取得状況、株主還元方針)

データ時点

データ種別 基準日 出典・注記
連結財務諸表 2026-03-31 FY2026/3有価証券報告書。2026-06-22提出
直近通期決算短信 2026-03-31 FY2026/3決算短信。2026-05-08公表
直近四半期実績・会社計画 2026-06-30 / 2027-03-31計画 FY2027/3 Q1、2026-07-30公表
セグメント 2026-03-31 FY2026/3通期開示。EDINET営業利益ベース
市場データ 2026-03-31 EDINET期末スナップショット。2026-10-20の現値を反映しない
株主構成 2026-03-31 FY2026/3有価証券報告書の上位株主表
事業・戦略開示 2026-10-08まで 2026年統合報告書、事業計画、Browse・自己株取得等の公式発表

出典一覧

  1. FY2026/3決算短信
  2. FY2027/3第1四半期決算短信
  3. FY2026/3有価証券報告書
  4. 統合報告書2026:事業概要
  5. 統合報告書2026:セグメント戦略
  6. FY2027/3事業計画
  7. 西豪州Browseプロジェクト権益取得
  8. 自己株式取得状況(2026-10-07)
  9. IRカレンダー
  10. 株主還元方針
  11. 政府支援による料金値引き終了のお知らせ
  12. FY2026/3 Q3決算短信
  13. 東京瓦斯FY2026/3有価証券報告書
  14. 東邦瓦斯FY2026/3有価証券報告書