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コクヨ

【経済・その他製品】その他製品銘柄レポート更新 2026-08-07

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. FP&Aカード
  3. コクヨの事業構成(FY2025/12)
  4. 主要取引先
  5. 競争優位性の比喩的説明
  6. コクヨの固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 2. 財務の実力
  8. PL — 5期+予想(百万円)
  9. BS — 5期(百万円)
  10. BS 詳細主要科目 — 5期(百万円)
  11. CF — 5期(百万円)
  12. 減価償却費明細 — 5期(百万円)
  13. 受注高・受注残高(ファニチャー事業のみ・百万円)
  14. 運転資本分析(CCC)— 5期
  15. 配当推移 — 5期+予想
  16. TDNet 決算短信(FY2026/12 中間期・2026年1-6月)
  17. 経営者予想精度(3期分・期初予想 vs 実績、百万円)
  18. 健全性チェック(事業会社基準)
  19. 自己株式・資本政策(百万円・株)
  20. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  21. 現値マーケットデータ
  22. 標準NC(現預金+短期有価証券−有利子負債)5期(百万円)
  23. 広義NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計)5期(百万円)
  24. CN-PER
  25. EV/EBITDA 競合比較(現値ベース・百万円)
  26. EV/EBITDA 感度(NC 定義別)
  27. 倍率ベース感応度(適用 PER レンジ)
  28. バリュエーション乖離コメント
  29. 4. 同業比較 — 差分の論点
  30. 競合選定基準
  31. 最新期比較テーブル(現値マーケットデータ・2026-08-06 終値)
  32. 競合3期推移(売上・営業利益率)
  33. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  34. 5. リスクと論点
  35. リスクマトリクス
  36. ファニチャー事業への収益集中とオフィス需要サイクル
  37. バリュートラップリスクの構造
  38. 6. バリュエーション統合と論点整理
  39. (a) 乖離の構造分析
  40. (b) 条件分岐シナリオ
  41. (c) 監視ポイント
  42. (d) M&A・出資検討の論点整理
  43. 7. 学びのポイント
  44. 📚 着眼点1: PERとEV/EBITDAが逆方向を指すとき — ネットキャッシュ37.3%の読み方
  45. 📚 着眼点2: アクティビストの保有目的欄は「何を読む欄」か
  46. 📚 着眼点3: コクヨの指標ポジショニング(相場観テーブル)
  47. 参考情報
  48. ガバナンス要点
  49. 大株主構成
  50. データソースの時点差
  51. 出典一覧

コクヨ(7984)銘柄分析レポート

SUMMARY

コクヨの現値時価総額は 3,679.6 億円(自己株控除後発行済 421,054,543 株 × 873.9 円)。
予想 PER 18.1 倍・予想 EV/EBITDA 6.7 倍と、同業3社(オカムラ・イトーキ・パイロット)レンジの中位〜上位に位置する。
配当利回りは会社予想ベースで 2.80%、標準 NC 比率 37.3%・広義 NCAV 比率 42.4% と保有資産が時価総額に対して厚い。
健全性スコアは 88/100(格付 S)で財務基盤は堅固。

指標 評価
時価総額 3,679.6 億円 中型
予 PER 18.1倍 適正
予 EV/EBITDA 6.7倍 割安
配当利回り 2.80% 中位
標準 NC 比率 37.3% 高い
広義 NCAV 比率 42.4% 高い
健全性スコア 88/100 高い

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は その他製品業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートはコクヨ固有の事業構造に絞る。

コクヨはファニチャー・ビジネスサプライ流通・ステーショナリー・インテリアリテールの4事業からなる複合体である。
FY2025/12の外部売上高構成比はファニチャー事業47.4%、ビジネスサプライ流通事業28.5%、ステーショナリー事業17.4%、インテリアリテール事業6.6%であり、稼ぐ力の中心はオフィス家具にある。
セグメント営業利益で見るとこの偏りはさらに強く、ファニチャー事業単体の営業利益261.8億円は連結営業利益262.5億円とほぼ同額であり、他3事業の営業利益合計と全社費用・消去(調整額)-127.4億円が概ね相殺し合う構造になっている。

FP&Aカード

収益ドライバー: 4事業でドライバーの性質が異なる。
ファニチャー事業は日本国内の新築オフィス移転・リニューアル案件の獲得に連動するフロー型(案件型)で、旺盛な移転需要がFY2025の増収(+6.3%)・増益(+11.6%)を牽引した。
ビジネスサプライ流通事業はプラットフォーム型購買管理システム「べんりねっと」経由の反復購買に支えられたストック型に近く、大規模顧客向けソリューション導入の進捗が収益基盤を積み上げている。
ステーショナリー事業は売価改定の浸透とCampusブランドのリブランディング、中国・インドでの店舗開拓が軸。
インテリアリテール事業(アクタス)は店舗・EC・法人案件の組み合わせで、4事業中最も営業利益率が低い(3.0%)一方、FY2025の営業利益成長率は+37.8%と最も高い。

コスト構造: FY2025の売上総利益率は40.1%(前期比+0.8pt)、販管費率は32.9%。
原材料は原紙・樹脂・鋼材が中心で、売価改定の浸透が粗利率を押し上げた一方、事業領域拡大のための戦略的経費支出で販管費が増加している。
4事業のセグメント営業利益合計389.9億円に対し全社費用・消去が-127.4億円と重く、連結営業利益262.5億円まで目減りする構造は、コクヨの実力を評価する際に見落とされやすい。

運転資本: CCCは54.6日で、同業のオカムラ(91.0日)・イトーキ(97.6日)・パイロット(238.7日)と比べて最も短い。
売上債権回転日数83.3日を仕入債務回転日数98.8日が上回っており、仕入先への支払サイトの長さが運転資本を圧縮する構造になっている。

資本集約度: FY2025の設備投資134.3億円(前期比+42.8%)に対し減価償却費は81.0億円。
総資産回転率1.01回、有形固定資産655.7億円。
設備投資の伸び幅が大きい背景に本社移転や基幹システム刷新が重なっている可能性があるが、内訳は要調査。

コクヨの事業構成(FY2025/12)

FY2025(直近期・百万円)

セグメント 外部売上高 構成比 営業利益 営業利益率 売上前年比 営利前年比 減価償却 設備投資
ファニチャー事業 170,635 47.4% 26,175 15.3% +6.3% +11.6% 3,183 3,997
ビジネスサプライ流通事業 102,618 28.5% 5,463 5.3% +10.2% +22.2% 1,804 3,214
ステーショナリー事業 62,770 17.4% 7,092 11.3% −1.5% +18.3% 1,952 1,829
インテリアリテール事業 23,609 6.6% 718 3.0% +11.5% +37.8% 309 423
その他 242 0.1% −457 0.0% 90 147
セグメント計 359,876 100.0% 38,991 7,338 9,610
全社費用・消去(調整額) −12,744
連結営業利益 26,247 7.3% 8,104 13,434

FY2024(比較・百万円)

セグメント 外部売上高 構成比 営業利益 営業利益率
ファニチャー事業 160,506 47.4% 23,459 14.6%
ビジネスサプライ流通事業 93,157 27.5% 4,471 4.8%
ステーショナリー事業 63,752 18.8% 5,993 9.4%
インテリアリテール事業 21,178 6.3% 521 2.5%
その他 242 0.1% −479

※ FY2023 以前は「ワークスタイル領域 / ライフスタイル領域」という上位区分が併存する別定義のため、5期のセグメント時系列は作成せず FY2024・FY2025 の2期比較のみとする。

セグメント内部売上(参考・百万円、FY2025): ファニチャー 1,560 / ビジネスサプライ流通 5,750 / ステーショナリー 20,802 / インテリアリテール 69。
ステーショナリー事業は内部売上が外部売上の 33% に相当する。

事業 外部売上高(億円) 営業利益(億円) 営業利益率 構成比 売上前期比 営業利益前期比
ファニチャー事業 1,706.4 261.8 15.3% 47.4% +6.3% +11.6%
ビジネスサプライ流通事業 1,026.2 54.6 5.3% 28.5% +10.2% +22.2%
ステーショナリー事業 627.7 70.9 11.3% 17.4% −1.5% +18.3%
インテリアリテール事業 236.1 7.2 3.0% 6.6% +11.5% +37.8%
その他 2.4 −4.6
全社費用・消去(調整額) −127.4
連結計(FY2025/12) 3,598.8 262.5 7.3% 100.0% +6.2% +16.5%

主要取引先

有報は「主な相手先別の販売実績について、総販売実績に対する割合が100分の10以上の相手先がないため記載を省略」としている。
特定顧客への依存がない分散型の顧客基盤と読める。
持分法適用関連会社にはコクヨ北海道販売・東北販売・北関東販売・北陸新潟販売・東海販売・山陽四国販売、中部キスパ、ニッカンといった地域販売会社が並び、全国を面で押さえる販売網が事業構成の背骨になっている。

競争優位性の比喩的説明

コクヨの参入障壁は、単一のヒット商品というより「面」で構築されている。
例えるなら、コクヨの強さは一本の太い川ではなく、支流(4事業)と無数の小さな水路(地域販売会社・べんりねっと・法人向け空間デザイン)が合流する水系に近い。
一つの支流が細っても他が補うため水系全体としての流量(売上)は保たれやすいが、後述の通りこの構造は主流である一本(ファニチャー)が細った場合の脆さも同時に抱えている。

コクヨの固有事象・資本関係の詳細分析

Oasis Management Company Ltd.のコクヨ株保有は、2024年11月に5%を超えて以降、段階的に取得比率を引き上げてきた。
大量保有報告書の系列では2025年4月時点で5.02%から6.04%へ、2026年2月には6.04%から9.91%(議決権ベースで10.52%、reference_dataの2026年5月13日変更報告書時点)へと積み上がっており(日本経済新聞株探・変更報告書No.2)、約1年半をかけた段階的な取得は短期の材料的な動きというより腰を据えたエンゲージメントであることを示唆する。

保有目的として大量保有報告書に列挙された項目のうち、「一部事業からの撤退を含む事業ポートフォリオ全体の見直し」「一部事業のベストオーナーの探索」「上場を維持することの是非に関する検討」「バランスシートの最適化」「ROEの向上」は、増配要求を超えて事業構造そのものに切り込む内容である。
中期経営計画「Unite for Growth 2027」のキャピタルアロケーション(3年累計で成長投資700億円・株主還元640億円、コクヨ公式・中期経営計画)と重なる部分は、配当性向50%目安・自己株式取得350億円という還元強化の方向性であり、Oasisの「株主還元の強化」「ROEの向上」という要求と表面上は一致する。
一方で乖離しうるのは成長投資700億円(M&Aを含む)の使途である。
Oasisが「一部事業のベストオーナーの探索」を掲げる以上、会社側が4事業を維持したまま成長投資を続ける前提と、収益性の低い事業の切り離しを求める前提とは方向性が一致しない可能性がある。

本社移転(現本社の土地・建屋の売却方針)と政策保有株式の圧縮(FY2021の309.3億円から3年で66%圧縮し105.5億円)は、いずれも「バランスシートの最適化」の文脈で位置づけられる。
新本社は最先端の耐震機能を備え東日本有事の代替ヘッドクオーター機能を想定しているとされ(コクヨ公式リリース「2026年4月、90年ぶりの本社移転」)、単なる資産圧縮ではなく事業継続計画の強化という側面も併せ持つ。


2. 財務の実力

PL — 5期+予想(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026会社予想
売上高 320,170 300,929 328,753 338,837 359,876 390,000
売上原価 204,462 184,258 201,360 205,413 215,407
売上総利益 115,707 116,671 127,392 133,424 144,469
販管費 95,703 97,543 103,561 110,892 118,222
営業利益 20,004 19,128 23,830 22,531 26,247 27,000
経常利益 16,415 21,161 25,989 24,410 27,222 26,800
当期純利益 13,703 18,237 19,069 21,787 21,473 20,300
特別利益 6,467 2,487 2,042 15,231 4,776
特別損失 1,082 477 238 5,511 782
減損損失 5 30 112 5,229 236
研究開発費 1,621 1,684 1,748 1,699 1,540

1株指標(分割調整後・円) ※コクヨは 2025年7月1日効力で 1株→4株の株式分割を実施。FY2024→FY2025 は分割調整後の値を使用。

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026予
EPS 分割調整後(円) 30.65 41.73 43.47 50.43 48.30 47.90
(参考)EPS 調整前(円) 116.76 158.97 165.60 192.15 48.30
BPS 分割調整後(円) 516.44 540.48 579.88 603.53 584.97
1株配当 分割調整後(円) 12.34 14.96 17.45 20.21 24.50 24.50

売上総利益率 / 営業利益率(%)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026予
売上総利益率 36.1 38.8 38.8 39.4 40.1
販管費率 29.9 32.4 31.5 32.7 32.9
営業利益率 6.2 6.4 7.2 6.6 7.3 6.9
純利益率 4.3 6.1 5.8 6.4 6.0 5.2

前年比(%)

項目 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026予
売上高 前年比 −6.0 +9.2 +3.1 +6.2 +8.4
営業利益 前年比 −4.4 +24.6 −5.5 +16.5 +2.9
純利益 前年比 +33.1 +4.6 +14.3 −1.4 −5.5

BS — 5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
総資産 324,576 337,538 358,412 362,959 355,048
流動資産 203,154 215,001 230,157 252,884 242,888
固定資産 121,421 122,537 128,254 110,075 112,160
流動負債 77,487 79,494 91,281 87,742 89,112
固定負債 16,983 18,426 13,704 11,154 10,478
負債合計 94,471 97,921 104,986 98,897 99,591
純資産 230,105 239,617 253,426 264,062 255,457
非支配株主持分 1,635 1,873 1,585 3,509 3,778
自己資本(純資産−NCI) 228,470 237,744 251,841 260,553 251,679
利益剰余金 195,747 207,772 210,677 216,230 211,871
自己資本比率(%) 70.4 70.4 70.3 71.8 70.9
流動比率(%) 262.2 270.5 252.1 288.2 272.6
ROE(%) 6.0 7.8 7.8 8.5 8.4

※ 自己資本 = 純資産 − 非支配株主持分(vault規約)。
FY2025 の 251,679 百万円は TDNet 短信 ownersEquity 251,678 と一致(株主資本 238,148 とは別物)。

BS 詳細主要科目 — 5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
現預金 100,575 98,351 115,161 132,080 110,606
短期有価証券 30,604 29,996 30,086 30,106 29,959
投資有価証券 45,040 35,574 40,112 22,362 18,022
有利子負債(合計) 9,320 9,467 9,238 4,176 3,470
売上債権 63,913 68,997 68,551 75,383 82,116
棚卸資産 33,246 40,005 39,717 38,852 41,420
仕入債務 52,475 53,971 55,157 54,357 58,334
有形固定資産 59,577 61,105 61,542 63,241 65,572
無形固定資産 7,260 16,505 16,614 12,961 15,082
のれん 86 5,316 5,416 471 373
政策保有株式(簿価) 30,931 28,269 31,080 14,793 10,550

有利子負債の内訳(百万円): FY2025 = 短期借入金 3,369 + 1年内返済長期借入 85 + 長期借入金 16。
社債なし。
(FY2021: 4,081+120+5,119 / FY2022: 4,329+138+5,000 / FY2023: 4,238+5,000+0 / FY2024: 3,955+120+101)

CF — 5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
営業CF 21,789 9,577 34,739 16,377 14,369
投資CF +2,563 −3,320 −3,798 +12,254 −4,606
財務CF −15,059 −8,991 −14,442 −15,624 −31,649
FCF(営業CF+投資CF) 24,352 6,257 30,941 28,631 9,763
配当支払額 4,820 6,181 7,078 8,195 9,547

FY2025 財務CF −31,649 の主因: 自己株式取得 −20,000、配当 −9,547、リース債務返済 −1,200 程度。
FY2024 投資CF が +12,254 とプラスなのは政策保有株式・固定資産の売却によるもの(特別利益 15,231 と対応)。

減価償却費明細 — 5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
減価償却費 6,898 6,926 7,485 7,811 8,104
設備投資(capex) 7,434 6,677 7,288 9,409 13,434

受注高・受注残高(ファニチャー事業のみ・百万円)

項目 FY2025 前期比
受注高(ファニチャー事業) 21,965 +22.2%
受注残高(ファニチャー事業) 4,688 +51.9%

該当なし(非受注産業。コクヨは主に見込生産で、ファニチャー事業の一部のみ受注生産。受注残高 4,688 百万円は連結売上高の 1.3% にすぎない)。

生産実績(製造原価ベース・百万円、FY2025): ファニチャー 28,658(前期比 +7.6%)/ ステーショナリー 31,182(−3.5%)/ 合計 59,840(+1.5%)

運転資本分析(CCC)— 5期

分母ルール(厳密法): 売上債権回転日数 = 売上債権 ÷ 売上高 × 365 / 棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365 / 仕入債務回転日数 = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365

項目(日) FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
売上債権回転日数 72.9 83.7 76.1 81.2 83.3
棚卸資産回転日数 59.3 79.2 72.0 69.0 70.2
仕入債務回転日数 93.7 106.9 100.0 96.6 98.8
CCC 38.5 56.0 48.1 53.7 54.6

配当推移 — 5期+予想

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025 FY2026予
1株配当 分割調整後(円) 12.34 14.96 17.45 20.21 24.50 24.50
配当性向(%) 40.3 35.9 40.2 40.1 50.7 51.1
連続増配年数 1 2 3 4 5

配当利回り(現在株価 873.9 円ベース): FY2025 実績 24.50 ÷ 873.9 = 2.80% / FY2026 会社予想 24.50 ÷ 873.9 = 2.80%

会社の株主還元方針(第4次中計「Unite for Growth 2027」)は「連結配当性向 50% を目安・累進配当(年間配当が前年を下回らない)」。実績 50.7% は当該方針と整合する。

TDNet 決算短信(FY2026/12 中間期・2026年1-6月)

項目 中間実績(百万円) 前年同期比
売上高 202,070 +9.1%
営業利益 19,035 +7.6%
経常利益 20,427 +17.1%
中間純利益 14,695 +6.4%
総資産 346,194
自己資本 239,752
自己資本比率 73.6%
BPS 604.91 円
営業CF / 投資CF / 財務CF 11,831 / −8,538 / −16,134
中間配当 12.25 円

FY2026/12 通期会社予想(2026年2月13日公表・中間時点で据え置き): 売上高 390,000(+8.4%)/ 営業利益 27,000(+2.9%)/ 経常利益 26,800(−1.6%)/ 純利益 20,300(−5.5%)/ EPS 47.90 円 / 年間配当 24.50 円

通期予想に対する進捗率(中間=リニアペース50%): 売上 51.8% / 営業利益 70.5% / 経常利益 76.2% / 純利益 72.4% ※ これは「進捗率」であり「予想比」「達成率」ではない。
営業利益の進捗が70.5%と高いのは季節性(下期に販管費が集中)を反映している可能性がある。

経営者予想精度(3期分・期初予想 vs 実績、百万円)

期初予想売上 実績売上 乖離 期初予想営利 実績営利 乖離 期初予想純利 実績純利 乖離
FY2023 337,000 328,753 −2.4% 20,000 23,830 +19.2% 15,600 19,069 +22.2%
FY2024 355,000 338,227 −4.7% 24,500 22,028 −10.1% 21,400 21,787 +1.8%
FY2025 366,000 359,876 −1.7% 24,000 26,247 +9.4% 20,100 21,473 +6.8%

(期初予想=前期本決算短信に記載された翌期予想。FY2024 実績売上は当時の短信ベース 338,227。FY2025 有報では表示方法変更後の組替えで 338,837)

売上高は3期連続で会社予想を下回っている(−1.7〜−4.7%)一方、利益はFY2024を除き上振れしている。

健全性チェック(事業会社基準)

コクヨは事業会社(その他製品)であり、金融業ではないため事業会社基準を適用する。

チェック項目 実データ 判定
自己資本比率 > 40% 70.9%
有利子負債 < 現預金 3,470 < 110,606(現預金の 3.1%)
流動比率 > 150% 272.6%(242,888 ÷ 89,112)
利益剰余金 > 0 211,871 百万円
営業CF 3期連続黒字 FY2023 34,739 / FY2024 16,377 / FY2025 14,369
配当 3期連続支払い 5期連続増配(FY2021〜FY2025)
EPS 前年比プラス FY2025 48.30 vs FY2024 50.43(分割調整後)= −4.2%
ROE > 8% 8.4%
営業利益率 > 業界平均 7.3%(同業4社平均 9.2% を下回る)
FCF 5期連続プラス 24,352 / 6,257 / 30,941 / 28,631 / 9,763
健全性スコア 88/100(格付 S)

自己株式・資本政策(百万円・株)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
期末自己株式数(株) 12,614,898 13,214,896 7,428,021 2,303,580 10,223,798
消却株式数(株) 0 0 7,200,000 5,800,000 22,000,000
消却額(百万円) 0 0 10,471 9,793 16,288
期末発行済株式総数(株) 128,742,463 128,742,463 121,542,463 115,742,463 440,969,852

※ FY2025の発行済株式総数の急増は1株→4株の株式分割による(115,742,463 × 4 = 462,969,852、うち22,000,000株を消却して440,969,852)。
2026年6月末時点: 発行済 440,969,852株 / 自己株式 19,934,598株 / 自己株控除後 421,035,254株(中間期に自己株取得が進行)。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

現値マーケットデータ

項目
現在株価 873.9 円
market_data_as_of 2026-08-06(直近営業日終値)
発行済株式数(自己株控除後) 421,054,543 株
発行済株式総数(自己株含む) 440,969,852 株
時価総額(主基準・自己株控除後) 367,960 百万円 = 3,679.6 億円
参考: 総発行済ベース時価総額 385,363 百万円 = 3,853.6 億円

※ 時価総額は自己株控除後ベースを主基準とする。総発行済ベースでは 3,853.6 億円。

標準NC(現預金+短期有価証券−有利子負債)5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
現預金 100,575 98,351 115,161 132,080 110,606
短期有価証券 30,604 29,996 30,086 30,106 29,959
有利子負債 −9,320 −9,467 −9,238 −4,176 −3,470
標準NC 121,859 118,880 136,009 158,010 137,095
標準NC比率(各期末時価総額ベース) 55.1% 49.2% 48.6% 48.7%
標準NC比率(現値時価総額ベース) 37.3%

各期末時価総額(参考・百万円): FY2021 220,970 / FY2022 241,501 / FY2023 279,771 / FY2024 324,703

広義NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計)5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
流動資産 203,154 215,001 230,157 252,884 242,888
投資有価証券×0.7 31,528 24,902 28,078 15,653 12,615
負債合計 −94,471 −97,921 −104,986 −98,897 −99,591
広義NCAV 140,211 141,982 153,249 169,640 155,912
広義NCAV比率(各期末時価総額ベース) 63.5% 58.8% 54.8% 52.2%
広義NCAV比率(現値時価総額ベース) 42.4%

CN-PER

指標
予想PER(367,960 ÷ 20,300) 18.1 倍
標準NC比率 37.3%
CN-PER(標準NCベース)= (367,960 − 137,095) ÷ 20,300 11.4 倍
参考: CN-PER(広義NCAVベース)= (367,960 − 155,912) ÷ 20,300 10.4 倍

EV/EBITDA 競合比較(現値ベース・百万円)

指標 コクヨ オカムラ イトーキ パイロット
時価総額 367,960 217,749 144,601 190,854
現預金+短期有価証券 140,565 31,861 20,820 38,581
有利子負債 3,470 30,025 33,990 4,748
標準NC 137,095 1,836 −13,170 33,833
標準NC比率 37.3% 0.8% −9.1% 17.7%
EV(時価総額−標準NC) 230,865 215,913 157,771 157,021
EBITDA(営業利益+減価償却費) 34,351 31,974 17,721 23,056
EV/EBITDA 6.7 倍 6.8 倍 8.9 倍 6.8 倍
実績PER 17.1 倍 9.7 倍 15.4 倍 15.8 倍
予想PER 18.1 倍 10.3 倍 12.9 倍 データなし
PBR(分割調整後BPS) 1.44 倍※ 1.07 倍 2.55 倍 1.39 倍
ROE 8.4% 11.5% 17.7% 8.5%
自己資本比率 70.9% 67.6% 43.4% 80.8%
配当利回り(会社予想) 2.80% 4.57% 3.08% 2.21%※※
営業CF 14,369 27,218 8,942 16,999
FCF(営業CF+投資CF) 9,763 21,859 5,095 5,874
売上高(億円) 3,598.8 3,290.3 1,536.8 1,263.9
営業利益率 7.3% 7.3% 8.9% 13.2%

※コクヨの PBR は 2026年6月末 BPS 604.91 円ベース。FY2025 末 BPS 584.97 円ベースなら 1.49 倍 ※※パイロットは FY2026 会社予想が未取得のため FY2025 実績配当 40.00 円(分割調整後)ベース

EV/EBITDA 感度(NC 定義別)

NC 定義 NC(億円) EV(億円) EV/EBITDA
標準NC(現預金+短期有価証券−有利子負債) 1,371.0 2,308.7 6.7 倍
広義NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計) 1,559.1 2,120.5 6.2 倍

EBITDA(FY2025)= 営業利益 26,247 + 減価償却費 8,104 = 34,351 百万円 = 343.5 億円

倍率ベース感応度(適用 PER レンジ)

適用 PER 水準 倍率 位置づけ
レンジ下限(保守的) 9.7 倍 同業レンジ下限(オカムラ実績PER)。国内オフィス家具の低評価水準
中央(現状据え置き) 17.1 倍 コクヨ実績PER。同業4社レンジのほぼ上限に位置
レンジ上限(楽観的) 18.1 倍 コクヨ予想PER。予想減益を織り込んだ水準
参考: 業界平均 PER データなし 業界ベンチマークに PER のピンポイント値が含まれない
参考: 同業3社の実績PERレンジ 9.7〜15.8 倍 オカムラ 9.7 / イトーキ 15.4 / パイロット 15.8
参考: 自社5期 PER レンジ 11.8〜18.1 倍 FY2021 14.7 / FY2022 11.8 / FY2023 13.9 / FY2024 14.6 / FY2025 18.1

バリュエーション乖離コメント

NC考慮 EV/EBITDA 法では 6.7 倍、CN-PER 法では 11.4 倍という結果が並置される。
両者は分子(EV vs 時価総額−標準NC)・分母(EBITDA vs 予想純利益)の定義が異なる別指標であり、優劣を示すものではない。
EV/EBITDA は営業利益+減価償却費という事業キャッシュフロー水準を分母に取るため、金融費用・税負担の影響を受けない。
CN-PER は会社予想純利益(20,300 百万円)を分母に取るため、税負担・特別損益・営業外損益の影響を受ける。
同業比較では、コクヨの標準NC比率(37.3%)はオカムラ(0.8%)・イトーキ(−9.1%)を大きく上回り、パイロット(17.7%)も上回る。
標準NC控除後のEV/EBITDA(6.7倍)はオカムラ(6.8倍)・パイロット(6.8倍)とほぼ同水準に収斂している一方、控除前の実績PER(17.1倍)は同業4社レンジのほぼ上限にあり、NC調整の有無で評価水準の見え方が変わる点が定量的に確認できる。


4. 同業比較 — 差分の論点

競合選定基準

企業 コード EDINETコード 決算期 選定理由
株式会社オカムラ 7994 E02369 FY2026/3 オフィス家具の国内最大手。コクヨ最大セグメント「ファニチャー事業」(売上の47.4%)の直接競合。売上規模もほぼ同等
株式会社イトーキ 7972 E02371 FY2025/12 オフィス家具国内3位。決算期(12月)も一致し比較容易。オフィス需要サイクルの純粋比較対象
株式会社パイロットコーポレーション 7846 E02466 FY2025/12 筆記具最大手。コクヨ「ステーショナリー事業」(売上の17.4%)の競合かつ、高収益・高自己資本という対照的な資本構成の比較軸

時価総額レンジ: コクヨ 3,679.6 億円に対し 1,446〜2,177 億円(0.39〜0.59倍)。

最新期比較テーブル(現値マーケットデータ・2026-08-06 終値)

企業 株価(円) 発行済株式数(自己株控除後) 時価総額(百万円) 時価総額(億円)
コクヨ 873.9 421,054,543 367,960 3,679.6
オカムラ 2,300.0 94,673,559 217,749 2,177.5
イトーキ 2,923.0 49,470,136 144,601 1,446.0
パイロット 1,813.5 105,240,453 190,854 1,908.5

競合3期推移(売上・営業利益率)

オカムラ(7994 / E02369)— 直近3期(百万円)

項目 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高 298,295 314,527 329,031
営業利益 24,036 23,935 24,144
営業利益率(%) 8.1 7.6 7.3
当期純利益 20,280 22,045 22,416
総資産 282,118 289,144 301,877
純資産 174,795 186,795 206,089
非支配株主持分 2,440 1,652 1,960
自己資本比率(%) 61.1 64.0 67.6
ROE(%) 12.6 12.3 11.5
EPS(円) 214.27 232.93 236.80
BPS(円) 1,821.10 1,956.33 2,156.14
1株配当(円) 86.0 94.0 104.0
現預金 38,215 25,410 31,861
有利子負債 30,025※ 35,839 30,025
減価償却費 6,532 6,789 7,830
営業CF 21,351 983 27,218
投資CF −12,248 −14,270 −5,359
従業員数 5,491 5,687 6,082

※FY2026/3 有利子負債 30,025 = 短期借入 3,715 + 1年内返済 1,052 + 長期借入 15,258 + 社債 10,000 FY2026/3 会社予想: 売上 347,000 / 営業利益 26,000 / 純利益 21,100 / EPS 222.87円 / 1株配当 105.0円

イトーキ(7972 / E02371)— 直近3期(百万円)

項目 FY2023/12 FY2024/12 FY2025/12
売上高 132,985 138,460 153,682
営業利益 8,523 10,077 13,685
営業利益率(%) 6.4 7.3 8.9
当期純利益 5,905 7,183 9,382
総資産 117,437 120,521 130,724
純資産 54,999 49,342 56,813
非支配株主持分 39 82 104
自己資本比率(%) 46.8 40.9 43.4
ROE(%) 11.3 13.8 17.7
EPS(円) 130.29 147.02 190.17
BPS(円) 1,210.96 1,001.13 1,147.78
1株配当(円) 42.0 55.0 75.0
現預金 23,664 21,494 20,820
有利子負債 16,283 36,807 33,990
減価償却費 2,641 2,744 4,036
営業CF 6,321 −1,000 8,942
投資CF −4,012 −7,107 −3,847
従業員数 3,892 3,957 4,164

FY2025/12 有利子負債 33,990 = 短期借入 12,830 + 1年内返済 6,055 + 長期借入 10,089 + 社債 5,000 + 1年内償還社債 16 FY2026/12 会社予想: 売上 167,500 / 営業利益 16,000 / 純利益 11,200 / EPS 226.68円 / 1株配当 90.0円

パイロットコーポレーション(7846 / E02466)— 直近3期(百万円)

※パイロットは1株→3株の株式分割済。分割調整後の1株指標を使用(調整前EPS 317.02円は誤読の元)。

項目 FY2023/12 FY2024/12 FY2025/12
売上高 118,590 126,168 126,391
営業利益 19,003 17,805 16,649
営業利益率(%) 16.0 14.1 13.2
当期純利益 13,661 15,181 12,064
総資産 166,468 176,701 179,906
純資産 132,345 141,579 146,079
非支配株主持分 1,936 1,727 634
自己資本比率(%) 78.3 79.1 80.8
ROE(%) 11.1 11.2 8.5
EPS 分割調整後(円) 115.44 129.51 105.67
BPS 分割調整後(円) 1,101.91 1,209.58 1,303.30
1株配当 分割調整後(円) 33.33 39.00 40.00
現預金 38,329 39,112 38,581
有利子負債 2,631 855 4,748
減価償却費 4,520 5,090 6,407
営業CF 10,175 22,727 16,999
投資CF −10,707 −11,054 −11,125
従業員数 2,831 2,965 3,175

FY2025/12 有利子負債 4,748 = 短期借入 582 + 1年内返済 166 + 長期借入 4,000

運転資本効率(CCC)— 競合比較

分母ルールは本テンプレ標準(売上債権=売上高ベース、棚卸資産・仕入債務=売上原価ベース)で統一済み。

指標(日) コクヨ オカムラ イトーキ パイロット
売上債権回転日数 83.3 95.5 81.9 76.3
棚卸資産回転日数 70.2 41.0 54.2 225.7
仕入債務回転日数 98.8 45.5 38.5 63.3
CCC 54.6 91.0 97.6 238.7

業界中央値: データなし(業界ベンチマークにCCCが含まれないため)。4社の中央値は 74.8日。


5. リスクと論点

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
オフィス需要サイクルの反転 ファニチャー事業が連結営業利益の大半を実質的に稼ぐ構造下で新築移転・リニューアル需要が失速すると、全社費用-127.4億円を吸収しきれず連結営業利益が想定以上に縮小する 海外売上比率13%→20%への引き上げを中計目標に掲げ国内依存度を下げる方針だが、中国も景気減速下にあり分散効果は限定的
ビジネスサプライ流通の一時需要の反動 有報が明記する通り、2025年度に業界内他社(オフィス通販大手)で発生した不正アクセス事案の代替需要がFY2025第4四半期に一時的に流入しており、その反動で業界内競争が激化すればFY2026以降の同事業の成長率が鈍化する 配送体制確保・在庫拡充で供給責任を果たしたが、反動の規模はまだ定量開示されていない
中国事業の景気減速 主要海外市場のひとつである中国の景気停滞が長引くと、ファニチャー事業のASEAN・中国案件獲得とステーショナリー事業の女子文具戦略の双方に影響し、海外売上比率20%目標の達成が遅れる 女子中高生ターゲットの現地適応戦略は進捗しているが、市場全体の減速は会社のコントロール外
基幹システム刷新に伴う内部統制の不備・追加費用 低〜中 導入から相応の期間が経過した基幹システムの刷新中に、他社事例のような統制不備や想定外の追加費用が発生すれば一時費用計上や開示遅延につながる 有報が他社事例を踏まえ慎重に計画中と明記
原材料(原紙・樹脂・鋼材)価格と物流費の上昇・中東情勢 中東情勢の緊迫化が続くと原材料調達コスト・物流コストが上振れし、粗利率40.1%の押し下げ要因になる FY2026中間期MD&Aは「現時点では不透明な要素が多く精査中」としている

ファニチャー事業への収益集中とオフィス需要サイクル

最大の定性リスク: 「一本足」の連結利益構造

ファニチャー事業のセグメント営業利益261.8億円は連結営業利益262.5億円とほぼ同額であり、他3事業の営業利益合計128.7億円(=54.6+70.9+7.2-4.6)と全社費用・消去-127.4億円がほぼ相殺し合う関係にある。
つまり実質的にファニチャー事業だけが連結の利益水準を規定している。
もしオフィス需要サイクルが反転し(例: 都心オフィス空室率の再上昇や新築移転案件の先送り)、ファニチャー事業の営業利益が二桁%減少する場合、他3事業がその穴を埋める余地は構造上小さい。
逆にファニチャー事業の需要が続けば、他3事業の変動は連結利益への影響が限定的になる。
この非対称性は、コクヨを「4事業の複合企業」ではなく「ファニチャー事業に他3事業がぶら下がる構造」として読む必要があることを意味する。

バリュートラップリスクの構造

標準NC 1,371億円(時価総額の37.3%)・広義NCAV 1,559億円(同42.4%)という現預金の厚みは、分母に効いてROE 8.4%を押し下げている。
中計の還元枠640億円(3年累計)は標準NC 1,371億円の半分に満たず、還元だけでバランスシートの厚みを解消する計画にはなっていない。
東証の「資本コスト経営」要請とOasisの存在は、この割安放置の解消トリガーになりうる一方、事業側の収益力(連結営業利益率7.3%は同業レンジで下位)が改善しなければ、NCを取り崩す株主還元だけではROE目標9%(FY2030は10%以上)に届かない可能性が残る。
すなわち、資本政策の変化(還元強化)と事業の収益力改善のどちらが先行するかによって、「割安の放置が解消される経路」と「バリュートラップが温存される経路」の分かれ目が生まれる。


6. バリュエーション統合と論点整理

(a) 乖離の構造分析

定量分析パートでは、EV/EBITDA法(6.7倍)が同業レンジ(6.8〜8.9倍)の下限に位置し割安に見える一方、実績PER 17.1倍・予想PER 18.1倍は同業レンジ(9.7〜15.8倍)の上限を超えていると整理されている。
この逆転は、時価総額の37.3%を占める標準NC 1,371億円がEVから控除される一方、PERにはその効果が反映されないことに起因する。
CN-PER(キャッシュ控除後)は11.4倍まで低下し、同業の実績PERレンジの中位に収まる。
つまり「PERで見ると割高、キャッシュを除いた事業価値で見ると同業並み〜やや割安」という並置が生じている。

この逆転構造をどう読むかは、値付けの構造を理解するうえでの核心的な論点になる。
ひとつの見方は「PERという会計指標だけを見る市場参加者が多数派であれば、コクヨは同業対比で割高に評価され続ける」というものであり、もうひとつの見方は「事業価値(EV/EBITDA)を基準にする視点が広がれば、コクヨの評価は同業並みへ収斂しうる」というものである。
どちらが優勢かは、ガバナンス・資本政策の変化(Oasisの働きかけとその帰結)が市場参加者の見る指標を変えるかどうかに依存する。

比較対象として、オカムラは実績PER9.7倍・PBR1.07倍・標準NC比率0.8%で評価されている。
オカムラの標準NC比率はコクヨの37.3%と比べて極めて小さく、キャッシュの控除効果がほぼ働かない。
それにもかかわらずオカムラのPERが同業内で最も低いのは、営業利益率7.3%(コクヨと同水準)やROE11.5%(コクヨの8.4%を上回る)といった収益性指標がコクヨより高く評価されていないことを示しており、「キャッシュの厚みだけがPERとEV/EBITDAの逆転を説明する変数ではない」ことにも留意が必要である。
この対比は、コクヨの値付けが「割安の放置」と「事業の収益力そのものへの評価の低さ(バリュートラップ的要素)」の両方を内包している可能性を示す。

(b) 条件分岐シナリオ

シナリオA: ガバナンス改善が評価軸の転換につながる経路

前提: Oasisの働きかけを受けて取締役会が資本コスト経営の要請に応じ、政策保有株式のさらなる圧縮・バランスシートの最適化・事業ポートフォリオの見直しが具体的な施策として進む。
この前提が実現した場合、標準NCがEVから控除される効果とROE改善が同時に評価されやすくなり、CN-PER(現状11.4倍)を基準にEV/EBITDA倍率が同業上位レンジへ収斂することが正当化されうる。
ガバナンス割引が解消されれば、PERとEV/EBITDAの逆転という現在の値付けの矛盾が縮む方向に働く。

シナリオB: 現状の並置評価が続く経路

前提: Oasisとの対話は継続するが、事業ポートフォリオの抜本再編や大規模な資本政策変更が具体化しない。
この前提の下では、EV/EBITDA(事業価値ベース)とPER(会計上の純利益ベース)の逆転構造が解消されず、「キャッシュを除けば同業並み、会計指標では同業上位」という並置評価が続く可能性が高い。
市場参加者がCN-PERと実績PERのどちらを重く見るかによって評価が揺れ動く状態が続く。

シナリオC: 事業の収益力改善が伴わない経路

前提: ファニチャー事業への収益依存構造が変わらないまま、オフィス需要サイクルが反転するか、ビジネスサプライ流通の一時需要の反動が想定より大きく出る。
この前提が実現した場合、連結営業利益率(7.3%、同業レンジで下位)がさらに低下し、標準NCを取り崩す株主還元だけではROE目標9%に届かない可能性が高まる。
バランスシートの最適化が資本効率改善に転化せず、キャッシュの厚みが評価されない状態が長期化するリスクがある。

(c) 監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年10月下旬頃 FY2026/12 第3四半期決算短信 通期予想(売上高3,900億円・営業利益270億円)に対する進捗率、ビジネスサプライ流通事業の一時需要反動の顕在化有無
2026年12月末頃 期末配当の権利付き最終日 権利確定日(2026年12月31日)の2営業日前が目安(年末休業日により前後する可能性)
2027年2月中旬頃 FY2026/12 通期決算短信・FY2027/12 会社予想 中期経営計画「Unite for Growth 2027」最終年度目標(売上高4,300億円・EBITDA430億円・ROE9%以上)に対する進捗
2027年3月下旬頃 FY2026/12 有価証券報告書 政策保有株式の残高、内部通報件数、基幹システム刷新の進捗状況
2027年3月頃 定時株主総会招集通知 Oasis Managementからの株主提案の有無、取締役選任議案の内容
随時 Oasis Managementの大量保有・変更報告書 5%超の追加取得予告の履行有無、保有目的の変更有無
随時 自己株式取得の進捗開示 中期経営計画の還元枠350億円の消化ペース
随時 本社移転完了・現本社不動産売却に関する適時開示 売却益の計上時期・金額
随時 M&Aに関する適時開示 中期経営計画の成長投資700億円枠の使途

(d) M&A・出資検討の論点整理

買い手にとってEVの許容水準を規定する要因として、標準NC 1,371億円の厚み、のれん3.7億円と極小である点、含み益のある不動産(現本社の土地・建屋)、政策保有株式105.5億円が挙げられる。
これらは連結決算上の利益指標だけでは捕捉しきれない資産価値であり、企業価値の算定において別枠での評価が必要になる。

シナジー・ディスシナジーの観点では、4事業の顧客基盤の重複度と分離可能性が論点になる。
ファニチャー事業とインテリアリテール事業(アクタス)は法人向け空間提案という点で重なる部分がある一方、ステーショナリー事業とビジネスサプライ流通事業は文具の製造・仕入と物流・販売という機能分業の関係にあり、ステーショナリー事業の内部売上208.0億円(外部売上の33%)がグループ内供給の厚みを示している。
Oasisが「一部事業のベストオーナーの探索」に言及している点は、こうした事業間の機能的なつながりが分離時にどこまで維持できるかという論点をそのまま提起している。

デューデリジェンスで確認すべき事項として、有報が明示する売上計上の前倒し・架空売上の内部統制リスク(内部通報55件)、基幹システム刷新に伴う追加費用リスク、外部パートナー取引の長期担当者による取引関係の歪みリスク、リコール・製造物責任の保険カバー範囲(保険加入だが全額は賄えない可能性)が挙げられる。
いずれも有報の「事業等のリスク」章に会社自身が明示している項目である。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: PERとEV/EBITDAが逆方向を指すとき — ネットキャッシュ37.3%の読み方

コクヨでは実績PER17.1倍・予想PER18.1倍が同業レンジの上限を超える一方、EV/EBITDA 6.7倍は同業レンジの下限に位置する。
両者は逆の結論を示しているように見えるが、原因は単純で、標準NC 1,371億円が時価総額の37.3%を占めているためである。
PERは家計の年収だけを見る物差し、EV/EBITDAは金庫の中の貯金を差し引いたうえで事業そのものの稼ぐ力を測る物差しに例えられる。
コクヨの場合、金庫(標準NC)が家計(時価総額)の37.3%を占めるほど厚いため、年収だけを見る物差し(PER)では割高に映り、貯金を差し引いた物差し(EV/EBITDA・CN-PER)では同業の下限〜中位に収まる。
分析上の含意は、単一の指標だけで割安・割高を判断せず、ネットキャッシュ比率が高い企業ではPERとEV/EBITDA(またはCN-PER)を必ず併読する必要があるという点である。
CN-PER 11.4倍という第3の物差しを持つことで、初めて「会計上は高い、事業価値としては並み」という二層構造が見える。

📚 着眼点2: アクティビストの保有目的欄は「何を読む欄」か

Oasisの大量保有報告書に列挙された保有目的12項目のうち、「取締役会の実効性向上」「株主還元の強化」といった項目は多くのアクティビスト案件で定型的に記載される一方、「一部事業のベストオーナーの探索」「上場を維持することの是非に関する検討」は質的に異なる。
前者が既存の経営体制・事業構成を前提にした改善要求であるのに対し、後者は事業構成そのもの、あるいは上場という選択そのものを問い直す要求だからである。
コクヨの4事業は収益性が大きく異なり、ファニチャー事業の営業利益率15.3%に対しインテリアリテール事業は3.0%にとどまる。
この収益性格差がある状態で「ベストオーナーの探索」という文言が入るということは、収益性の低い事業の切り離しや外部への譲渡が選択肢として意識されていると読むのが自然である。
分析上の含意は、大量保有報告書の保有目的欄を読む際に、定型文言と個別性の高い文言を区別し、後者をセグメント別収益性データと突き合わせることで、アクティビストが具体的にどの事業に照準を合わせている可能性があるかを推定できるという分析の型である。

📚 着眼点3: コクヨの指標ポジショニング(相場観テーブル)

業界平均PERのピンポイント値は取得できていないため、以下は同業3社(オカムラ・イトーキ・パイロット)の単純平均との比較である。

指標 コクヨの値 同業3社平均 評価コメント
実績PER 17.1倍 13.6倍 同業平均を上回るが、標準NC比率の厚みが会計指標を押し上げている可能性に留意
予想PER 18.1倍 11.6倍(パイロット予想PER非開示のため2社平均) 同業比の上振れ幅が最も大きい指標
PBR 1.44倍 1.67倍 同業平均を下回るが、自己資本比率70.9%という保守的な資本構成も併せて見る必要がある
ROE 8.4% 12.6% 同業平均比で見劣りするが、標準NCの厚みがROEの分母を押し上げている構造要因が大きい
EV/EBITDA 6.7倍 7.5倍 事業価値ベースでは同業並み〜やや割安に見えるが、標準NCの控除効果が反映されている点に注意
営業利益率 7.3% 9.8% 同業3社中で最も低く、収益力改善が課題であることを示す
自己資本比率 70.9% 63.9% 同業平均を上回る保守的な財務体質
配当利回り 2.80% 3.3% 同業平均をやや下回るが、5期連続増配・累進配当方針を継続中である点に注意
標準NC比率 37.3% 3.1% 同業3社と比べて突出して厚いネットキャッシュで、値付けの逆転構造の主因
CCC 54.6日 142.4日 同業3社の中で最も短く、運転資本効率は相対的に優位

参考情報

ガバナンス要点

コクヨは1905年創業、2025年に創業120周年を迎えリブランディングを実施した企業で、連結従業員数8,079名(FY2025・平均年齢41.5歳・平均勤続15.4年)を擁する。
会社は2024年3月に監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行しており、代表執行役社長のもとで指名委員会・監査委員会・報酬委員会を置く体制をとっている(コクヨ公式・コーポレートガバナンス)。
取締役会構成はFY2025時点で男性取締役6名・女性取締役2名(女性比率25.0%)。
リスク委員会・全社内部統制委員会・J-SOX委員会を設置し、内部統制システムに関する基本方針を取締役会が定めている。
海外拠点は中国・香港・マレーシア・タイ・ベトナム・インドに広がる。
資金の流動性については取引銀行10行と130億円の貸出コミットメント契約を締結している。
監査法人は今回の取得範囲では確認できていない。

大株主構成

順位 株主名 保有比率 区分
1 Oasis Management Company Ltd. 10.52% 大量保有報告書(5%以上)

注: 5%以上の大量保有報告書に基づく。有報記載の大株主上位5位は本レポートの取得範囲外。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
財務諸表(PL/BS/CF・セグメント) 2025-12-31 EDINET 有価証券報告書
直近開示(中間期実績・通期会社予想) 2026-06-30 TDNet 決算短信
株価・時価総額 2026-08-06 市場データ
大量保有報告書 2026-05-13 EDINET

出典一覧

  1. EDINET DB — 企業基本情報・健全性スコア・最新決算(EDINET 有価証券報告書ベース)
  2. EDINET DB — 5期財務時系列
  3. EDINET DB — セグメント別売上
  4. EDINET DB — 業界ベンチマーク
  5. TDNet 決算短信 — 速報値・会社予想
  6. EDINET DB — 大量保有報告書
  7. 市場データ — 株価・時価総額(2026-08-06 終値)
  8. コクヨ公式・中期経営計画
  9. コクヨ公式リリース「2026年4月、90年ぶりの本社移転」
  10. コクヨ公式・コーポレートガバナンス
  11. 日本経済新聞
  12. 株探・変更報告書No.2