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株式会社ニコン

【経済・精密機器】精密機器銘柄レポート更新 2026-07-04

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目次
  1. 1. 事業概要
  2. 業界の系統分解
  3. 株式会社ニコンの事業構成
  4. 主要取引先
  5. 競争優位性の比喩的説明
  6. 株式会社ニコンの固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 業界のビジネスモデルと着目点
  8. 2. バリュエーション分析
  9. 現値マーケットデータ(market_data_as_of: 2026-07-04)
  10. 基準・算出根拠
  11. 標準NC(現預金 + 短期有価証券 − 有利子負債)— 5期推移(百万円)
  12. 広義NCAV(流動資産 + 投資有価証券×0.7 − 負債合計)— 5期推移(百万円)
  13. EV/EBITDA分析
  14. バリュエーション乖離コメント(事実並置のみ)
  15. 3. 財務分析
  16. PL — 5期推移(百万円)
  17. BS — 5期推移(百万円)
  18. BS詳細主要科目 — 5期推移(百万円)
  19. CF — 5期推移(百万円)
  20. 受注残高(精機事業のみ開示・受注型、百万円)
  21. 配当(実績・予想)
  22. 経営者予想精度(直近期)
  23. 健全性チェック(事業会社基準)
  24. 運転資本分析(CCC)
  25. 4. 同業他社比較
  26. 競合選定基準
  27. 最新期比較テーブル(現値基準、2026-07-04)
  28. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  29. 5. リスク評価
  30. リスクマトリクステーブル
  31. リスク因果関係のmermaid図
  32. 最大リスクの深掘り
  33. バリュートラップリスクの深掘り
  34. 6. 投資判断
  35. バリュエーション乖離コメントの補強
  36. バリュエーション手法別の目標株価
  37. シナリオ別の詳細根拠
  38. 推奨アクションの構造化
  39. カタリスト・タイムライン
  40. 7. 学習コーナー
  41. 📚 着眼点1: 「多角化ディスカウント」— 5事業ポートフォリオが黒字事業の足を引っ張る構造
  42. 📚 着眼点2: のれん・無形資産の減損(991億円)— M&Aの代償とIFRSの仕組み
  43. 📚 着眼点3: 標準NCマイナス転落の意味 — 「ネットキャッシュ潤沢株」から「ネットデット企業」へ
  44. 📚 着眼点4: エシロールルックスオティカ・シルチェスターの存在 — 資本構成に潜む二つの圧力
  45. 📚 着眼点5: ニコンの指標ポジショニング
  46. 🤔 自分への問い
  47. 参考情報
  48. 基本情報
  49. ガバナンス情報テーブル
  50. 大株主構成テーブル(上位10名)
  51. 社外取締役の視点
  52. 免責事項
  53. データソースの時点差テーブル
  54. 出典一覧

株式会社ニコン(7731)銘柄分析レポート

SUMMARY

株式会社ニコンは FY2026/3 に売上収益 677,163百万円(前期比-5.3%)・営業損失-112,448百万円・純損失-86,088百万円を計上し、デジタルマニュファクチャリング事業(旧SLM・金属AM関連)で のれん・無形資産の減損99,141百万円を計上した赤字決算となった。
現値(2026-07-04・株価2,271円)時価総額 7,481億円 は大型株。
来期(FY2027/3)会社予想は売上740,000・営業利益10,000・純利益10,000への黒字回復を見込むが、予想PER 74.8倍 は同業(Canon 11.0倍・Olympus 19.7倍・HOYA 34.9倍)に対し突出して高い。
標準NC比率は -8.3%(ネットデット) に転落しており、FY2025/3以降「ネットキャッシュ潤沢な割安株」という論法は成立しない。
配当は来期予想20円(実績40円から半減)で配当利回り 0.88%(trailing 1.76%)。
広義NCAV比率は約25.2%
健全性スコア 50/100(credit rating C・score40)。

指標 評価
時価総額 7,481 億円 大型
予 PER 74.8倍 割高(赤字回復初年度)
予 EV/EBITDA 実績算出不能(EBITDAマイナス)/参考:予想≒15.3倍
配当利回り 0.88%(予20円) 低位(減配)
標準 NC 比率 -8.3% ネットデット
広義 NCAV 比率 約25.2% 中程度
健全性スコア 50/100(credit C・score40) 中位以下

1. 事業概要

業界の系統分解

光学・精密機器業界は大きく3つの系統に整理できる。

第一に「総合光学メーカー」系統である。
ニコンとキヤノン(7751)が代表格で、両社ともカメラ・映像機器と半導体/FPD露光装置という技術的に離れた複数事業を一つの企業体で抱える点に特徴がある。
露光装置は超精密な光学設計・加工技術の応用であり、カメラのレンズ設計・製造能力と技術基盤を共有する。
ただしこの総合性は諸刃の剣であり、各分野で「勝ち切れていない」場合、多角化がむしろ収益の重荷になる。

第二に「医療光学特化」系統である。
オリンパス(7733)は内視鏡分野で世界首位級のシェアを握り、HOYA(7741)は眼鏡レンズとEUVマスクブランクスという高収益ニッチに経営資源を集中してきた。
両社に共通するのは「選択と集中」による高い資本効率で、定量分析で示した通りオリンパスのROE8.7%・HOYAのROE25.2%はニコンの-14.1%と対照的である。

第三に「露光装置専業」系統である。
ASMLはEUV露光装置を事実上独占し、半導体製造装置全体でも別格の存在感を持つ。
ニコン・キヤノンはこの土俵で長年後退を強いられてきた。
実際、露光装置の出荷台数ベースの市場シェアはASMLが約94.1%を占め、ニコン・キヤノンはそれぞれ数%台にとどまるとされる。

株式会社ニコンはこの三系統の狭間に位置する。
露光装置ではASMLに遠く及ばず、医療光学ではオリンパス・HOYAのような特化型の収益効率を持たない。
カメラでも市場縮小の逆風下でキヤノンと並ぶ二強の一角ではあるが、単体で利益の柱になり切れていない。「総合光学だが各分野でトップシェアを取り切れていない中位プレイヤー」という構造的立ち位置が、後述するセグメント別の明暗(映像・コンポーネントの黒字と精機・デジタルマニュファクチャリングの赤字の併存)を生む根本要因である。

株式会社ニコンの事業構成

セグメント 売上高 構成比 営業利益 営業利益率 売上YoY
映像事業 290,053 42.8% 16,715 5.8% -1.8%
精機事業 167,258 24.7% -4,565 -2.7% -17.2%
ヘルスケア事業 111,922 16.5% 1,561 1.4% -3.9%
コンポーネント事業 76,176 11.3% 9,553 12.5% +2.8%
デジタルマニュファクチャリング事業 28,090 4.2% -106,282 -378.4% +20.3%
その他 3,664 0.5% -8.7%

参考(前期FY2025/3セグメント営業利益): 映像41,306 / 精機1,544 / ヘルスケア6,735 / コンポーネント7,185 / デジタルマニュファクチャリング-15,225。
→ 映像は営業利益41,306→16,715(-59.5%)に急減、精機は黒字→赤字転落、デジタルマニュファクチャリングは減損で-106,282に悪化。

2026-2030年度中期経営計画では、この5事業を役割で再定義している。
映像・ヘルスケア・インダストリー(旧コンポーネント事業、2026年度改称)を安定利益創出事業(CFの源泉)とし、デジタルマニュファクチャリング・精機を企業価値最大化に挑戦する事業(積極投資対象)と位置づける。
すなわち現状黒字を稼ぐ事業と、現状赤字だが将来性に賭ける事業を明示的に切り分けた格好であり、前中計(2022-2025年度)で「経営資源分散により強み事業の改善が進まなかった」との反省を踏まえた再編である。
研究開発型企業として配分可能原資の8割以上を成長投資に振り向け、業務用動画機(RED・ニコン統合効果)・精機の次世代露光装置・DMの金属付加加工の3領域に重点配分する方針も示されている。

市場分野別の成長動向を整理すると次のようになる。

市場分野 該当事業 成長期待 背景
防衛・宇宙(金属AM) デジタルマニュファクチャリング JAXA宇宙戦略基金事業採択、Nikon AM Technology Center(米ロングビーチ)開設
半導体後工程(DSP-100) 精機 2025年7月受注開始、データセンター向け先端パッケージング・チップレット需要
ArF液浸露光装置(互換機構想) 精機 △〜○ 2028年度S6xx試作、ASML互換で低価格勝負を狙うが実現は不透明
FPD露光装置 精機 パネル市場の設備投資サイクルに左右され構造的に縮小基調
カメラ(ミラーレス) 映像 台数は縮小均衡だが高付加価値化で単価上昇(後述)
業務用動画(シネマカメラ) 映像 RED統合効果、ZR発売で新規開拓
アイケア・ライフサイエンス・細胞受託生産 ヘルスケア エシロールルックスオティカとの資本関係含め中長期の成長領域

⚠️ 本レポート内のFY表記はfinancials_as_of=2026-03-31・latest_disclosure_as_of=2026-03-31に基づく絶対FY表記(例: FY2026/3、FY2027/3)で統一し、「前期/当期」等の相対表記は用いない。

主要取引先

精機事業の顧客は半導体メーカー・FPD(ディスプレイ)メーカーであり、少数の大口顧客への集中度が高い装置産業特有の構造を持つ。
デジタルマニュファクチャリング事業は防衛・宇宙関連機関(JAXA等)や航空機部品メーカーが主要な引き合い先である。
映像事業は一般消費者に加え、REDブランドを核とした映画・放送等の業務用映像制作会社が新たな取引層として広がりつつある。
ヘルスケア事業は病院・眼科クリニック(アイケア)、大学・研究機関(ライフサイエンス顕微鏡)、製薬会社・バイオベンチャー(細胞受託生産)が顧客となる。

競争優位性の比喩的説明

光学設計という「暗黙知の蓄積」

ニコンの技術的な参入障壁は、レンズ設計・超精密加工のノウハウという「何十年もかけて積み上げた職人の暗黙知」に例えられる。
露光装置の位置合わせ精度はナノメートル単位、カメラのレンズ設計は光学収差を数千枚のレンズ組み合わせで補正する。
これは一朝一夕に模倣できる領域ではなく、新規参入者が容易に追いつけない一方で、技術力があっても事業として「勝ち切れる」保証にはならない点がニコンの難しさである。
ASMLがEUVで独占的地位を築けたのは技術力に加えて巨額投資と垂直統合の戦略判断が重なったためであり、ニコンは同じ土俵で後手に回っている。

株式会社ニコンの固有事象・資本関係の詳細分析

資本構成に見る「事業会社」と「モノ言う機関投資家」の並存

ニコンの株主構成は他社にはない特徴を持つ。
筆頭株主のエシロールルックスオティカ(19.61%、65,400,600株)は世界最大の眼鏡レンズ・アイウェア企業であり、「長期純投資」との位置付けながら、ニコンのヘルスケア(アイケア)事業との戦略的近接性は明白である。
両社は2000年にニコン・エシロール社を50:50の合弁で設立した歴史的経緯もあり、出資比率は取得上限とされる20%に迫っている。
一方、シルチェスター・インターナショナル(7.08%)は大量保有報告書で「増配・自己株買いの頻度または総量、金庫株消却その他資本政策の変更を要求することがある」旨を明記しており、事業シナジーを求める事業会社と、資本効率を求めるアクティビスト的機関投資家が同じ株主構成の中に併存するという緊張関係がガバナンス上の見どころとなる。
またM&A面では、2022年のSLM Solutions買収(取引総額622百万ユーロ)、2024年のRED Digital Cinema買収がいずれも高値掴みと評された経緯があり、資本配分の巧拙に対する市場の視線は厳しい。

業界のビジネスモデルと着目点

露光装置は「装置販売+長期保守サービス」という典型的な資本財ビジネスモデルを取る。
初号機の販売価格は数億円規模だが、稼働後数年〜十数年にわたる保守・部品交換収益がライフタイムバリューの多くを占める。
カメラ事業は「ボディ+交換レンズ」による顧客の囲い込みが本質で、レンズ資産を蓄積したユーザーほど他社製品への乗り換えコストが高くなる(レンズマウントのロックイン効果)。
金属AM(金属3Dプリンター)は「装置+金属粉末材料+造形ソフトウェア」を一体で提供する統合ソリューション型ビジネスであり、単体装置の販売にとどまらず消耗材・ソフトウェアのリカーリング収益を積み上げる設計だが、ニコンの場合はこのリカーリング収益が立ち上がる前に市場成長の鈍化に直面し、巨額減損に至った点が今回の教訓である。

「本体を安く売って消耗品で稼ぐ」モデルとの違い

家庭用プリンターが「本体安・インク高」で稼ぐのに対し、露光装置やカメラは本体価格自体が収益源で、保守サービスやレンズが上乗せの収益源となる。
金属AMは装置・材料・ソフトの三位一体モデルを狙うが、リカーリング収益が積み上がる前に建てた投資回収計画が崩れると、今回のニコンのように大型減損に直結する


2. バリュエーション分析

現値マーケットデータ(market_data_as_of: 2026-07-04)

price_fetcher(yfinance, 7731.T)実行結果。

項目
現在株価 2,271円
発行済株式数(自己株控除後) 329,416,763株
現値時価総額 748,105百万円(¥7,481億)

⚠️ 参考: EDINET get_financials FY2025 marketCap = 494,500百万円(期末固定値)で現値と+51%乖離。
バリュエーションは必ず現値時価総額748,105百万円・株価2,271円を使い、EDINET marketCapは使わない。
検算: 2,271円 × 329,416,763株 = 748,105百万円(一致)。

基準・算出根拠

内部整合性チェック(±5%以内):

標準NC(現預金 + 短期有価証券 − 有利子負債)— 5期推移(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 370,277 211,337 206,644 163,590 158,036
有利子負債 130,062 134,020 166,705 193,570 219,957
標準NC 240,215 77,317 39,939 -29,980 -61,921
標準NC比率(現値時価総額比) -8.3%

⚠️ 標準NCはFY2025/3でマイナス転落(純有利子負債化)。
FY2026/3標準NC = -61,921百万円(ネットデット¥619億)。
標準NC比率 = -61,921 / 748,105 = -8.3%。
参考: ニコン開示のネットキャッシュ = -81,772百万円(¥818億のネットデット、リース負債含む定義。有報MD&A記載)。
本テンプレ標準NCはリース除外の社債+借入ベースで、定義が異なる点に留意。
→ 「ネットキャッシュ潤沢な割安株」というNC論法はFY2025/3以降成立しない。

広義NCAV(流動資産 + 投資有価証券×0.7 − 負債合計)— 5期推移(百万円)

⚠️ get_financialsに「投資有価証券」独立科目なし。「投資有価証券」は政策保有株式簿価(crossShareholding)をbest-availableプロキシとして使用。

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
流動資産 714,214 617,880 667,340 620,220 646,499
政策保有株式簿価×0.7 39,959 35,833 39,724 30,754 30,520
負債合計 441,885 435,301 463,315 472,537 488,222
広義NCAV 312,288 218,412 243,749 178,437 188,797
広義NCAV比率(現値時価総額比) 25.2%

注: 広義NCAV比率 = 188,797 / 748,105 = 25.2%。

EV/EBITDA分析

指標
FY2026/3 実績営業利益 -112,448百万円
FY2026/3 実績減価償却費 43,087百万円
FY2026/3 実績EBITDA -69,361百万円(マイナス)
EV(現値時価総額 + 純有利子負債61,921) 810,026百万円
実績EV/EBITDA 算出不能(EBITDAマイナスのため不成立)
参考: FY2027予想営業利益 10,000百万円
参考: FY2027予想減価償却費(実績値援用) 約43,000百万円
参考: FY2027予想EBITDA 約53,000百万円
参考: 予想EV/EBITDA ≒15.3倍(前提: 減価償却費が実績並みで推移)

バリュエーション乖離コメント(事実並置のみ)

  1. 予想PER74.8倍は赤字からの回復初年度(予想純利益わずか100億円)ゆえ構造的に高PERになっている。
  2. PBR1.28倍は同業(Canon 1.07倍・Olympus 2.40倍・HOYA 8.53倍)の中では下位。減損で純資産が減少しBPSが低下した点が背景。
  3. 標準NCマイナス転落により「NC割安論」は不成立。EV/EBITDAは実績ベースでEBITDAマイナスのため不成立(予想ベースの参考値≒15.3倍のみ算出可)。

⚠️ 本セクションは事実の並置のみ。投資判断・シナリオ・目標株価は定性分析が担当する。


3. 財務分析

PL — 5期推移(百万円)

IFRSのため「経常利益」概念なし→税引前利益を記載。

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上収益 539,612 628,105 717,245 715,285 677,163
営業利益 49,934 54,908 39,776 2,422 -112,448
税引前利益 57,096 57,058 42,669 4,533 -106,511
当期純利益(親会社帰属) 42,679 44,944 32,570 6,123 -86,088
EPS(円) 116.23 125.46 94.03 17.86 -261.57
売上原価 303,541 338,931 407,198 403,318 399,903
売上総利益 236,070 289,174 310,047 311,968 277,261
販管費 189,465 231,228 268,056 295,155 289,248
研究開発費 61,107 70,090 76,519 80,141 77,195
減価償却費 24,857 29,056 35,666 44,189 43,087
減損損失 449 4,389 2,716 10,816 99,141

注: FY2026/3は減損損失99,141百万円(デジタルマニュファクチャリング事業のれん・無形固定資産)が営業損失の主因。
来期FY2027/3会社予想は売上740,000/営業利益10,000/純利益10,000/EPS30.36。

BS — 5期推移(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
総資産 1,039,566 1,050,267 1,147,110 1,110,514 1,075,007
流動資産 714,214 617,880 667,340 620,220 646,499
固定資産 325,353 432,387 479,771 490,294 428,508
流動負債 313,921 277,303 330,416 305,545 328,298
負債合計 441,885 435,301 463,315 472,537 488,222
純資産(自己資本) 597,681 614,966 683,795 637,977 586,785
自己資本比率 57.5% 58.6% 59.6% 57.4% 54.6%
BPS(円) 1,627.34 1,776.47 1,973.68 1,940.15 1,781.32
利益剰余金 500,912 527,148 548,843 513,115 419,169

注: FY2026/3純資産は非支配持分1,411百万円を含めた純資産合計588,196百万円。上表は自己資本(親会社所有者持分)ベース。

BS詳細主要科目 — 5期推移(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 370,277 211,337 206,644 163,590 158,036
有利子負債(社債+借入合計) 130,062 134,020 166,705 193,570 219,957
├ 1年内(流動) 37,347 26,395 88,313 71,413 97,717
└ 非流動 92,715 107,625 78,392 122,157 122,240
売上債権 47,712 55,240 69,393 45,319 40,884
棚卸資産 238,950 277,281 285,239 307,533 332,872
仕入債務 41,082 43,185 47,949 48,895 44,310
のれん 24,285 73,828 83,680 83,459 29,997
無形資産 49,379 139,476 158,573 165,462 95,614
政策保有株式簿価 57,084 51,190 56,748 43,934 43,600

注: 短期有価証券は非開示(—)。
投資有価証券は独立科目非開示のため政策保有株式簿価をプロキシ使用(広義NCAV算出のみ)。
のれんはFY2025/3 83,459→FY2026/3 29,997(-53,462)、無形資産は165,462→95,614(-69,848)と大幅減少しており、これがデジタルマニュファクチャリング事業(旧SLM・金属AM関連)減損の内訳。

CF — 5期推移(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
営業CF 31,351 15 30,767 48,258 -4,439
投資CF -385 -112,146 -41,405 -69,988 -12,603
財務CF -26,151 -56,210 -8,938 -19,808 858
FCF(営業+投資) 30,966 -112,131 -10,638 -21,730 -17,042

受注残高(精機事業のみ開示・受注型、百万円)

項目 FY2025/3 FY2026/3 前年比
精機事業 受注残高 108,646(推定) 112,882 +3.9%

注: 有報記載「精機事業 受注残高112,882百万円(前期比+3.9%)」。映像・ヘルスケア・コンポーネント・デジタルマニュファクチャリングは見込生産のため受注残非開示。

配当(実績・予想)

項目 FY2026/3実績 FY2027/3会社予想
1株配当(円) 40.0(中間25+期末15) 20.0
配当利回り(現値2,271円基準) 1.76%(trailing) 0.88%(予想)

注: FY2027予想配当はFY2026実績40円から半減。過去期(FY2022-2025)のDPS時系列は本タスクの埋め込みデータに含まれないため記載しない。

経営者予想精度(直近期)

予想時点 予想売上 予想営業利益 予想純利益 実績売上 実績営業利益 実績純利益
FY2026/3 Q3時点(2026-02) 675,000 -100,000 -85,000 677,163 -112,448 -86,088

注: 期初予想は営業黒字想定だったが、その後の減損計上で営業損失-112,448へ大幅未達。
上表はQ3更新後予想との比較(下方修正後着地)。
FY2025/3実績は売上715,285/営業利益2,422/純利益6,123(比較可能な期初予想値は本タスクの埋め込みデータになし)。

健全性チェック(事業会社基準)

項目 判定 値・根拠
自己資本比率 > 40% 54.6%
有利子負債 < 現預金(ネットキャッシュ) 有利子負債219,957 > 現預金158,036(ネットデット)
利益剰余金 > 0 419,169百万円
営業CF 3期連続黒字 FY2024黒字/FY2025黒字/FY2026赤字(-4,439)
配当 3期連続支払い 継続支払い(ただしFY2027予想は40円→20円へ減配)
EPS 前年比プラス 17.86円→-261.57円
ROE > 8% -14.1%
営業利益率 > 業界平均 -16.6%(同業3社は全て黒字)
FCF プラス FY2026 -17,042百万円

注: 9項目中プラス判定3・マイナス判定6。healthScore 50 / credit rating C(score 40)と整合。金融業ではないため事業会社基準を適用。

運転資本分析(CCC)

⚠️ 分母統一: 売上債権回転日数 = 売上債権/売上高×365、棚卸資産回転日数 = 棚卸資産/売上原価×365、仕入債務回転日数 = 仕入債務/売上原価×365。

指標(日数) FY2025/3 FY2026/3
売上債権回転日数(DSO) 23.1 22.0
棚卸資産回転日数(DIO) 278.3 303.8
仕入債務回転日数(DPO) 44.3 40.4
CCC 257.2 285.4

注: CCCはFY2025/3の257.2日からFY2026/3は285.4日へ+28.2日悪化。
主因は棚卸資産回転日数の増加(278.3日→303.8日)で、仕入債務回転日数の短縮(44.3日→40.4日)もCCC悪化に寄与。


4. 同業他社比較

競合選定基準

企業 選定理由
キヤノン(7751) カメラ・半導体露光装置における直接ライバル
オリンパス(7733) 精密機器・医療機器で隣接(内視鏡首位、ニコンのヘルスケア事業と隣接)
HOYA(7741) 精密光学の最高収益ベンチマーク(EUVマスクブランクス・眼鏡レンズ)

最新期比較テーブル(現値基準、2026-07-04)

指標 株式会社ニコン(7731) キヤノン(7751) オリンパス(7733) HOYA(7741)
会計基準 IFRS USGAAP IFRS IFRS
決算期 FY2026/3 FY2025/12 FY2026/3 FY2026/3
現在株価(円) 2,271 4,260 1,768 25,930
現値時価総額 748,105百万(¥7,481億) 3,639,179百万(¥3.64兆) 1,877,896百万(¥1.88兆) 8,673,961百万(¥8.67兆)
発行済株式数 329,416,763 854,267,427 1,062,158,216 334,514,496
売上高(百万円) 677,163 4,624,727 1,010,676 947,749
営業利益(百万円) -112,448 456,000(予) 97,120 285,241
営業利益率 -16.6% ~9.6%(予) 9.6% 30.1%
純利益(百万円) -86,088 332,053 68,172 251,451
純利益率 -12.7% 7.2% 6.7% 26.5%
総資産(百万円) 1,075,007 6,135,044 1,537,162 1,300,897
自己資本比率 54.6% 56.9% 52.8% 78.4%
ROE -14.1% 9.7% 8.7% 25.2%
EPS(円) -261.57(実)/30.36(予) 367.48(実)/388.42(予) 61.32(実)/89.58(予) 743.93
BPS(円) 1,781.32 3,974.81 737.48 3,041.71
PER(現値) 74.8倍(予EPS30.36) 11.0倍(予EPS388) 19.7倍(予EPS89.58) 34.9倍(EPS743.93)
PBR(現値) 1.28倍 1.07倍 2.40倍 8.53倍
予想1株配当(円) 20 160 30 295
配当利回り(現値) 0.88% 3.76% 1.70% 1.14%
健全性スコア 50 90 88 90
標準NC比率 -8.3% n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得)
営業CF n/a(自社のみ取得, -4,439) n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得)
FCF n/a(自社のみ取得, -17,042) n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得) n/a(本レポートでは未取得)

参考(競合3期推移は未取得、直近期のみ):

運転資本効率(CCC)— 競合比較

⚠️ Canon/Olympus/HOYAは売上・総資産のみ入手のため、CCC内訳データは未取得。

指標(日数) 株式会社ニコン(7731) キヤノン(7751) オリンパス(7733) HOYA(7741)
売上債権回転日数 22.0(FY2026/3) 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし
棚卸資産回転日数 303.8(FY2026/3) 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし
仕入債務回転日数 40.4(FY2026/3) 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし
CCC 285.4(FY2026/3) 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし 詳細内訳データなし

5. リスク評価

リスクマトリクステーブル

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
デジタルマニュファクチャリング事業の追加減損 金属AM市場の成長鈍化が続けば残存無形資産・のれんの評価損が再発し、当期赤字が繰り返される 新経営体制(2026年4月、大村泰弘CEO)下で事業精査中。有報「事業等のリスク」にM&A・戦略出資リスクとして記載
精機(露光装置)の顧客設備投資縮小 半導体メーカーの設備投資サイクル下振れでArF/DSP-100受注が想定未達となり、精機セグメントの赤字が続く 受注残112,882百万(+3.9%)が下支えするが絶対水準は競合比劣位
カメラ市場縮小・価格競争 スマートフォン代替継続で台数縮小が続き、映像事業の営業利益率(FY2026/3実績5.8%、前期比-59.5%)がさらに悪化 ZR・RED統合による高付加価値化・動画シフトで対応中
為替変動(海外売上比率高) 中〜高 円高進行で海外比率の高い映像・精機・ヘルスケアの円換算売上・利益が目減りする 有報記載の一般的な為替感応度開示・ヘッジ運用にとどまる
M&A/のれん減損の再発 RED・SLMに続く高値買収が事後的に減損を再現するパターンが繰り返される 中計では資本配分8,000億円の8割以上を成長投資に振り向ける方針を継続しており、構造的リスクは残存
人材の年齢構成偏り 小〜中 平均年齢41.9歳・平均勤続13.7年の安定層である一方、光学設計等専門人材の技術伝承が遅れると次世代露光装置開発が遅延する 有報「事業等のリスク」で人材確保・育成の課題として類型化
地政学リスク(半導体輸出規制等) 米中対立の先鋭化で半導体製造装置の輸出規制が強化され、精機事業の対中販売等に影響する 有報で地政学リスクとして類型化されるが具体的な緩和策の開示は限定的

リスク因果関係のmermaid図

graph TD
    A[半導体設備投資サイクル下振れ] --> B[精機事業の受注減少]
    C[金属AM市場の成長鈍化] --> D[デジタルマニュファクチャリング追加減損リスク]
    E[スマホ代替の継続] --> F[映像事業のボリューム縮小]
    B --> G[セグメント赤字の継続]
    D --> G
    F --> H[映像事業の利益率悪化]
    G --> I[全社営業利益率悪化・ROEマイナス]
    H --> I
    I --> J[PBR1倍近辺での株価停滞=バリュートラップ]
    K[精機受注残112,882百万・前期比+3.9%] -.緩和.-> B
    L[ZR・RED統合による高付加価値化] -.緩和.-> F
    M[資本配分8,000億円・注力分野への集中] -.緩和.-> D
    N[シルチェスター・エシロールルックスオティカ・東証の資本効率要請] -.緩和.-> J

最大リスクの深掘り

多角化ポートフォリオが自らの首を絞める構造

ニコンの5事業のうち、精機事業(-4,565百万円)とデジタルマニュファクチャリング事業(-106,282百万円)の営業赤字合計は-110,847百万円に達し、映像事業の黒字16,715百万円・コンポーネント事業の黒字9,553百万円・ヘルスケア事業の黒字1,561百万円を合計した27,829百万円を大きく上回る。
結果として全社営業損益は-112,448百万円の赤字となった(確定値)。
これを3段階のシナリオに分解すると次のようになる。

  • シナリオA(継続悪化): DM事業で追加減損が発生し、精機も半導体設備投資の下振れで赤字が続く。全社赤字が再燃し、2030年度目標(営業利益800億円)の実現可能性に疑義が生じる。
  • シナリオB(現状維持): DM・精機とも赤字幅は縮小するが黒字化には至らず、映像・コンポーネントの稼ぎで薄く相殺する状態が続く。会社予想の営業利益100億円(FY2027/3)近辺で推移。
  • シナリオC(反転): DSP-100の受注拡大・金属AMの防衛宇宙需要が想定以上に伸び、精機・DMが黒字転換する。中計の「企業価値最大化に挑戦する事業」という位置づけが実を結ぶ。

バリュートラップリスクの深掘り

標準NCマイナス化がもたらす「バリュートラップ」の性格変化

ニコンは標準NC(ネットデット)が-61,921百万円まで悪化しており(標準NC比率-8.3%、確定値)、FY2025/3以降ネットデット化が進んでいる。
従来型の「潤沢なネットキャッシュが眠ったまま株価が放置される」割安論はもはや成立しない。
むしろ現在のニコンは、赤字・低ROE構造がPBR1.28倍(BPS1,781.32円)近辺に株価を張り付けさせる「収益力不足型」のバリュートラップとして理解すべきである。
カタリスト候補としては、シルチェスター(増配・自己株買い・金庫株消却等の資本政策変更を要求する可能性を大量保有報告書に明記)、エシロールルックスオティカ(19.61%・上限20%に接近する事業会社大株主)、東証のPBR1倍改善要請が挙げられる。
ただしFY2027/3の1株配当は20円と、FY2026/3実績の40円から半減する予定であり、株主還元はむしろ後退している
資本効率改善を求める株主の圧力と、実際の株主還元方針(減配)が矛盾する局面にあることは、投資判断上、看過できない不整合である。


6. 投資判断

バリュエーション乖離コメントの補強

定量分析は以下の3点を指摘している。

  1. 予想PER74.8倍は赤字からの回復初年度であり、予想純利益がわずか100億円という低いベースに起因する構造的な高PERである。
  2. PBR1.28倍は同業(Canon1.07倍/Olympus2.40倍/HOYA8.53倍)の中で下位に位置する。減損による純資産減少・BPS低下が背景にある。
  3. 標準NCがマイナスに転落したことで「NC割安論」は不成立であり、EV/EBITDAも実績ベースはEBITDAマイナスのため不成立(予想ベースのみ≒15.3倍で算出可能)。

これらを定性的に補強すると、予想PER74.8倍という数字だけを見て「割高」と即断するのは誤りである。
回復初年度の低い分母(予想純利益100億円)が指標を歪めているためで、PERよりもPBR1.28倍やEV/売上(≒1.20倍=EV810,026百万÷売上収益677,163百万、確定値の比較として算出)で評価する方が実態に近い。
一方でPBR1.28倍自体も、同業の中では下位でありながら「減損後のBPSに対してもなお1倍を超える」水準であることから、市場が中計の収益回復シナリオを部分的に織り込んでいるとも解釈できる。
総合すると、現状は明確な割安機会とは言い切れず、精機・DM事業の黒字転換が確認できるまではバリュートラップ的な性格が強いという判断が妥当である。

バリュエーション手法別の目標株価

PER法(保守/標準/楽観)

シナリオ 適用EPS 適用PER 理論株価 選定根拠
保守 30.36円(会社予想FY2027/3、確定値) 15倍(Canon11.0倍よりやや上乗せ、回復期待を最低限織込み) 約455円 会社計画通りの低収益が続く前提。現値2,271円を大幅に下回り指標としての説得力は限定的
標準 100円(過去平常期の正常化EPS下限を仮定、精機・映像の回復を想定) 20倍(Olympus19.7倍並み、事業再建を評価) 約2,000円 中計初期(FY2028/3〜FY2029/3頃)の収益回復途上を想定した水準
楽観 125円(過去平常期の正常化EPS上限を仮定、中計後半の収益改善を先取り) 25倍(HOYA34.9倍にはまだ及ばないが収益改善を評価) 約3,125円 精機DSP-100・DM防衛宇宙需要が想定超で進捗し、資本効率改善が評価されるシナリオ

※正常化EPS100-125円は「過去平常期のレンジ」を仮定した参考値であり、定量分析の確定値ではない。

EV/EBITDA法(保守/標準/楽観)

標準NCはマイナス(-61,921百万円、確定値)であるため、理論時価総額=理論EV+標準NC=理論EV-61,921百万円となる点に留意する(NCがマイナスのため理論時価総額は理論EVより小さくなる)。

シナリオ EBITDA前提 適用倍率 理論EV(百万円) 理論時価総額(百万円) 理論株価
保守 約53,000(予想ベース。減価償却約43,000+会社予想営業利益100億) 10倍(DM再減損懸念を織込んだ低位倍率) 530,000 468,079 約1,421円
標準 約83,000(減価償却約43,000+正常化営業利益400億を仮定) 12倍(業界中位水準) 996,000 934,079 約2,836円
楽観 約123,000(減価償却約43,000+2030年度目標営業利益800億、確定値) 14倍(HOYA等の高収益プレイヤーに接近) 1,722,000 1,660,079 約5,039円

※標準・楽観シナリオの正常化営業利益(400億・800億のうち400億は仮置き)は中計の方向性を踏まえた参考値であり、会社予想そのものではない。
2030年度目標営業利益800億円のみ確定値からの引用。

下値メド

PBR1.0倍=BPS1,781.32円(確定値)を理論的下限の目安とする。現値2,271円はPBR1.28倍であり、下値メドまでは約-21.6%の距離がある。

シナリオ別の詳細根拠

ベースケース(50%)

会社予想並みに着地するシナリオ。
FY2027/3営業利益100億円への回復を確認しながら、精機・DM事業の赤字幅縮小ペースを四半期ごとにトレースする。
前提: 精機受注残が112,882百万円近辺を維持し、DM事業が大型減損なしで着地。
確率の根拠: 会社が2026年5月8日に公表した計画であり、中計初年度としては最も蓋然性の高いシナリオ。
投資家の対応: 四半期決算での計画進捗確認を継続し、大きなポジションは取らずに様子見。

上振れケース(25%)

精機(半導体後工程DSP-100)・金属AM(防衛宇宙)が想定を上回り、資本効率改善で市場評価が見直されるシナリオ。
前提: DSP-100の受注が複数の大手顧客に広がり、ArF互換機商談が前進。
DM事業がJAXA宇宙戦略基金等の追加案件を獲得。
確率の根拠: 2025年7月受注開始のDSP-100は市場投入初期段階であり不確実性が高いため、ベースケースより低い確率を割り当てる。
投資家の対応: 精機の受注残・DM事業の損益改善が四半期で確認できた時点で段階的に買い増しを検討。

下振れケース(25%)

DM事業の追加減損、カメラ・露光装置の需要減が重なり、PBR1.0倍(BPS1,781円)が下値メドとなるシナリオ。
前提: 金属AM市場の成長鈍化が想定以上に長引き、残存無形資産・のれんの評価損が再発。
半導体メーカーの設備投資が想定以上に下振れ。
確率の根拠: 直近FY2026/3で99,141百万円の減損を計上したばかりであり、再発リスクは軽視できない。
投資家の対応: PBR1.0倍近辺までの下落は「理論的下限」として許容範囲内と捉えつつ、それを下回る場合は投資判断の再検証が必要。

推奨アクションの構造化

買いの根拠と留意点

買いの根拠: (1) エシロールルックスオティカ19.61%・シルチェスター7.08%という資本効率要請の圧力が中長期のカタリストになりうる、(2) 2030年度に売上1兆円・ROE10%を掲げる中計が実行段階に入り、精機受注残112,882百万円(+3.9%)・コンポーネント事業12.5%の高い利益率など部分的な強みは確認できる、(3) PBR1.0倍(BPS1,781円)が心理的な下値メドとして機能しやすい。
留意点: (1) 標準NCマイナスでNC割安論は成立せず、(2) FY2027/3配当は40円→20円へ半減予定であり株主還元は後退局面、(3) DM事業の追加減損リスクが払拭されていない、(4) 予想PER74.8倍は回復初年度特有の歪みであり単独では判断材料にならない。
総合すると、精機・DM事業の黒字転換が四半期決算で確認できるまでは「様子見〜小口の打診買い」が妥当であり、フルポジションでの投資は時期尚早と考えられる。

カタリスト・タイムライン

時期 イベント 確認すべき数値 株価影響
2026年8月上旬(予定) FY2027/3 Q1決算 精機受注残、DM事業営業損益の改善度合い 進捗が計画線上なら中立〜ポジティブ
2026年9月末 中間配当基準日 配当予想20円(通期)の実行有無 減配継続が確定的なら株価下押し圧力
2026年11月上旬(予定) FY2027/3 Q2(中間)決算 通期計画(営業利益100億円)の上方/下方修正有無 修正方向次第で株価が大きく振れる
2026年内(時期未定) 中期経営計画の進捗説明会・IR Day 資本配分8,000億円の執行ペース、自己株買い発表の有無 資本政策の具体化はカタリストになりうる
2027年2月中旬(予定) FY2027/3 Q3決算 DM事業の黒字化メド、ArF互換機商談の進捗 進捗開示の内容次第でセンチメント変化
2027年3月27日頃 配当権利付き最終日(3月末権利確定の2営業日前) 実際の配当実行額(20円予定) 権利落ち前後で需給が変動
2027年5月上旬(予定) FY2027/3通期決算・FY2028/3期計画発表 営業利益100億円計画の達成有無、次期配当方針 未達なら失望売り、達成なら再評価の可能性
2027年6月(予定) 定時株主総会 シルチェスター等からの株主提案の有無 アクティビスト提案が出れば材料化
随時 エシロールルックスオティカの追加出資動向(上限20%接近) 大量保有報告書の更新有無 資本業務提携深化の思惑で株価材料化

7. 学習コーナー

📚 着眼点1: 「多角化ディスカウント」— 5事業ポートフォリオが黒字事業の足を引っ張る構造

①ニコンでの具体例: FY2026/3、映像事業は営業利益16,715百万円、コンポーネント事業は9,553百万円を稼いだが、精機事業が-4,565百万円、デジタルマニュファクチャリング事業が-106,282百万円の赤字を計上したことで、全社では-112,448百万円の営業損失に転落した(確定値)。
黒字事業の利益合計27,829百万円を、赤字事業の損失合計-110,847百万円が4倍近く上回っている。

「1人の稼ぎ頭より、5人の平均点」が低いと会社は沈む

5つの事業部を「5人の営業担当」に例えると分かりやすい。
うち2人(映像・コンポーネント)は堅実に契約を取ってくるが、残り2人(精機・DM)が大きな損失(値引き・不良在庫)を出し続ければ、チーム全体の成績は赤字になる。
多角化は「複数の柱でリスクを分散する」利点がある一方、柱の一部が構造的に弱いままだと、強い柱の実力が財務諸表上見えなくなるという副作用を持つ。

②背景と比喩: 中計が精機・DMを「企業価値最大化に挑戦する事業」と位置づけたのは、この構造問題への正面からの回答である。
裏を返せば、経営陣自身が「この2事業はまだ挑戦段階で稼ぎ頭ではない」と認めていることも意味する。

③投資家への示唆: セグメント別の営業利益率(映像5.8%、コンポーネント12.5%)を見れば、ニコンの「地力」は決して低くない。
問題は精機・DMという挑戦的事業への資源配分と、そこからのリターンが見合っていない点にある。
今後数年でこの2事業が黒字転換できるかが最大の観察点になる。

📚 着眼点2: のれん・無形資産の減損(991億円)— M&Aの代償とIFRSの仕組み

①ニコンでの具体例: FY2026/3にデジタルマニュファクチャリング事業(旧SLM Solutions、独・金属積層造形メーカー)関連で99,141百万円の減損損失を計上した(確定値)。
会社が2026年2月5日付で開示した内容によれば内訳はのれん605億円・無形資産262億円・有形固定資産等38億円(合計905億円)とされる(開示のタイミング・集計範囲の違いにより、確定値991億円とは若干の差がある)。
SLM Solutionsは2022年に取引総額622百万ユーロ(当時レートで約840億円)で買収された企業であり、金属AM市場の成長率が買収時の想定を下回り、中国企業との競争激化も重なったことが減損の直接要因とされる。

のれんは「将来の稼ぎへの前払い」、減損は「期待外れの精算」

M&Aで相手企業を時価で取得すると、買収先の純資産を上回る支払い分が「のれん」として資産計上される。
これは「この会社は将来これだけ稼いでくれるはずだ」という期待値の前払いに等しい。
ところがその期待が外れ、事業計画を下回る業績が続くと、IFRS(国際財務報告基準)では定期的な減損テストにより一気に損失として認識しなければならない。日本基準ののれん(規則的償却)と異なり、IFRSは「減損が出るまで資産を抱え続け、出るときに一括計上する」ため、業績インパクトが一度に集中しやすい

③投資家への示唆: EV/EBITDA(予想ベース≒15.3倍)を見る際は、のれん・無形資産の残高が今後も減損リスクを内包している点を踏まえる必要がある。
今回の減損で残存簿価は大きく圧縮されたため「次の減損の火種」は小さくなったとも解釈できるが、DM事業の収益性自体が改善しない限り、資産の質に対する市場の警戒は残る。

📚 着眼点3: 標準NCマイナス転落の意味 — 「ネットキャッシュ潤沢株」から「ネットデット企業」へ

①ニコンでの具体例: 確定値によれば、ニコンの標準NCは-61,921百万円(標準NC比率-8.3%)であり、FY2025/3以降ネットデット化が進んでいる。
会社開示ベースのネットキャッシュ(リース負債を含む定義)は-81,772百万円とさらに悪化した数字が示されている。

貯金箱がいつの間にか借金の袋に変わっていた

かつてのニコンは、現預金や有価証券が有利子負債を上回る「ネットキャッシュ企業」として、一部の投資家からは資産効率の悪さ(現金を寝かせすぎている)を指摘される立場にあった。
ところが自己株買い・M&A(RED、SLM)・営業キャッシュフローの赤字転落(-4,439百万円、確定値)が積み重なった結果、貯金箱の中身が空になり、逆に借金袋へと変わってしまった。

EV算出への影響 — NCがマイナスだとEVは時価総額より大きくなる

EV(企業価値)=時価総額+有利子負債-現預金等で計算されるため、ネットキャッシュ企業ではEVが時価総額を下回るのが通常だが、ネットデット企業では逆にEVが時価総額を上回る。
ニコンのEV810,026百万円(確定値)は現値時価総額748,105百万円を上回っており、これは同社がすでにネットキャッシュ企業ではなくネットデット企業に転じたことの裏返しである。

③投資家への示唆: 「ネットキャッシュが潤沢だから割安」という伝統的な小型株投資の物差しは、もはやニコンには適用できない。
今後の投資判断は、ネットキャッシュの多寡ではなく、精機・DM事業の収益改善という「本業の稼ぐ力」の回復に集約される。

📚 着眼点4: エシロールルックスオティカ・シルチェスターの存在 — 資本構成に潜む二つの圧力

①ニコンでの具体例: 筆頭株主エシロールルックスオティカ(19.61%)は事業会社としての戦略的関与(アイケア領域との近接性)を持ちながら「長期純投資」と位置づけられており、一方シルチェスター(7.08%)は大量保有報告書上で増配・自己株買い・金庫株消却等の資本政策変更を求める可能性を明記している。

「同居人」と「大家」が同じ株主構成にいる状態

エシロールルックスオティカを事業提携を模索する「同居人」に例えるなら、シルチェスターは家賃(配当・自己株買い)の引き上げを求める「大家」に近い。
両者の要求は必ずしも一致しない。事業会社は長期的なシナジー実現を重視し、機関投資家は短中期の資本効率改善を重視するため、経営陣はこの二つの異なる時間軸の要求に同時に応える必要がある。

③投資家への示唆: エシロールルックスオティカの持株比率が取得上限とされる20%に接近していることは、将来的な資本業務提携の深化を示唆する材料として注目される。
一方でシルチェスターの要求が実現するかどうかは、FY2027/3の1株配当が40円から20円へ半減する予定であることを踏まえると、当面は実現していないとみるべきである。

📚 着眼点5: ニコンの指標ポジショニング

指標 ニコン値 同業平均(Canon/Olympus/HOYA) 全上場中央値(目安) 評価コメント
PER(予想) 74.8倍 21.9倍 14〜15倍程度 赤字回復初年度の低ベース利益ゆえ見かけ上高い。指標としての説得力は限定的
PBR 1.28倍 4.00倍 1.0〜1.2倍程度 同業4社中で最下位水準。減損による純資産・BPS目減りが背景
ROE -14.1% 14.5% 8〜9%程度 減損主因の赤字でマイナス。2030年度目標10%との差は大きい
EV/EBITDA(予想) ≒15.3倍(実績は算出不能) データなし(本パック対象外) 8〜10倍程度 実績ベースがEBITDAマイナスで評価不能という異例事態
配当利回り 0.88%(予)・1.76%(実績) 2.20% 2.3〜2.5%程度 40円→20円の減配で見劣り。株主還元は後退局面
自己資本比率 54.6% 78.4%(HOYAのみ参考、他2社は本パック対象外) 50%前後 財務健全性自体は市場平均並みを維持
営業利益率 -16.6% 9.6%(Olympusのみ参考) 5〜6%程度 精機・DMの赤字が響き、本業収益力も同業比で弱い
時価総額規模 7,481億円 Canon3.64兆円/Olympus1.88兆円/HOYA8.67兆円 - 4社中で最小規模。スケールメリットで劣後
健全性スコア 50/100 89.3/100 - 信用力面でも同業4社中で明確に劣後
CCC(運転資本) 285.4日 データなし(本パック対象外) - 棚卸資産回転303.8日が突出して長く、資金効率の課題

※「全上場中央値」は東証プライム市場全体の一般的な傾向値としての目安であり、定量分析で検証された確定値ではない。

相対指標は「同じ土俵で比べているか」を必ず確認する

PER・PBR等の相対指標は業界内の位置づけを直感的に把握できる便利な物差しだが、分母となる利益がゼロに近い、あるいは特殊要因(減損等)で歪んでいる局面では、数字の大小だけで優劣を判断すると誤る
ニコンのPER74.8倍はその典型であり、複数指標(PBR・EV/売上等)を併用して初めて実態に近づける。

🤔 自分への問い

問1: ニコンの最大の強みは何か? 5年後も強みであり続ける条件は?

(自分の答え)

問2: 自分ならニコンに投資するか? 根拠を3行で。

(自分の答え)

問3: この分析で一番難しかった概念は? 自分の言葉で1段落。

(自分の答え)

関連: 演習フォーマット §C-3 / 演習・チェックリスト index


参考情報

基本情報

項目
企業名 株式会社ニコン
ティッカー 7731
EDINETコード E02271
業種 精密機器
決算期 3月期(FY2026/3=2026-03-31期末)
会計基準 IFRS
従業員数(連結, FY2026/3) 19,928名
平均年齢 41.9歳
平均勤続年数 13.7年
平均年収 7,989,362円
healthScore 50/100
credit rating C(score 40)
主要同業(EDINET peers) テルモ(4543)・オリンパス(7733)・HOYA(7741)

ガバナンス情報テーブル

項目 内容
代表取締役会長 徳成旨亮(2026年4月1日就任、前社長執行役員COO)
代表取締役社長執行役員CEO 大村泰弘(2026年4月1日就任、前専務執行役員)
設立 1917年(日本光学工業株式会社として設立)
従業員数 19,928名(連結、FY2026/3、確定値)
会計監査人 有限責任監査法人トーマツ
主要取引銀行 みずほ銀行・三菱UFJ銀行等(有報開示ベース、メインバンク制的な系列色は薄い)
海外拠点 Nikon Precision Inc./Nikon Americas Inc./Nikon Europe B.V./Nikon Hong Kong Ltd./Nikon Instruments Inc.等

大株主構成テーブル(上位10名)

順位 株主名 保有比率 区分
1 エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica) 19.61% 事業会社(長期純投資、アイケア領域との戦略的近接性)
2 M&Gインベストメント 8.44% 純投資機関投資家
3 シルチェスター・インターナショナル 7.08% アクティビスト的機関投資家(増配・自己株買い等の資本政策変更を要求する可能性を明記)
4 MUFGグループ 5.34% 機関投資家(純投資)
5 野村アセットマネジメント 約5.2% 機関投資家(純投資)
6 ブラックロック・ジャパン 5.09% 機関投資家(純投資)
7 明治安田生命 4.65% 機関投資家(生命保険、純投資)
8 三井住友トラストAM 4.57% 機関投資家(純投資)
9 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 参考値(名義株主) 名義株主(信託銀行、多数の実質保有者の合算)
10 日本カストディ銀行(信託口) 参考値(名義株主) 名義株主(信託銀行、多数の実質保有者の合算)

※9・10位の信託銀行2行は有価証券報告書「大株主の状況」欄に基づく名義ベースの株主であり、上記1-8位の大量保有報告書ベース(実質保有者)とは集計軸が異なるため比率の単純合算はできない。
WebSearchで取得した該当パーセンテージは出典間で相違があったため、本レポートでは具体的な数値を明記せず参考記載にとどめる。

社外取締役の視点

経営陣に問うべき3つの質問

Q1: 精機・デジタルマニュファクチャリングという赤字事業について、何年で黒字化させるコミットができるか。
中計終了(2030年度)まで赤字が続く場合の資本配分見直しの基準は何か。
Q2: FY2027/3の配当を40円から20円へ半減させる一方で、資本配分計画では最大8,000億円を成長投資に振り向けるとしている。
株主還元の後退と積極投資の整合性をどう説明するか。
Q3: 2030年度ROE10%目標の実現に向けて、自己株式取得をどのように位置づけているか。
シルチェスターが求める資本政策変更に対する現時点での経営陣の見解は何か。

免責事項

免責事項

本レポートは定量分析からの引き継ぎデータとWeb検索による定性情報を基に作成した分析資料であり、投資助言や特定銘柄の売買を推奨するものではない。
将来の業績・株価を保証するものでもない。
投資判断は自己責任で行うこと。
本レポート中のシナリオ別目標株価・確率は分析者による仮定に基づく参考値であり、断定的な予測ではない。

データソースの時点差テーブル

データ種別 基準日 ソース
財務実績(FY2026/3) 2026-03-31 EDINET有価証券報告書
業績予想・配当予想(FY2027/3) 2026-05-08 TDNet決算短信
中期経営計画(2026-2030年度) 2026-05-08発表 Nikon IR(中期経営計画資料)
現在株価・時価総額 2026-07-04 現値マーケットデータ
経営体制(会長・CEO) 2026-04-01付 Nikon企業情報(役員一覧)・日本経済新聞報道
大量保有報告書(株主構成) 各社提出時点(直近) EDINET大量保有報告書

出典一覧

  1. EDINET DB MCP get_company(E02271) — 基本情報・健全性・最新決算
  2. EDINET DB MCP get_financials(E02271, years=5) — 5期財務時系列
  3. EDINET DB MCP get_segments(E02271) — セグメント別
  4. EDINET DB MCP get_analysis(E02271) — 業界ベンチマーク・信用スコア
  5. EDINET DB MCP get_earnings(E02271) — TDNet決算短信・会社予想
  6. EDINET DB MCP get_shareholders(E02271) — 大量保有報告
  7. price_fetcher(yfinance)7731.T/7751.T/7733.T/7741.T — 現値株価・時価総額(market_data_as_of 2026-07-04)
  8. 競合 EDINET DB get_company: E02274(キヤノン)/E02272(オリンパス)/E01124(HOYA)
  9. デジタル露光装置「DSP-100」の受注開始
  10. ニコンとREDのシナジー「Z CINEMA」ZR発売
  11. 中期経営計画 | Nikon 企業情報
  12. ヘルスケア事業概要 | Nikon ヘルスケア事業部
  13. 金属3Dプリンターで、宇宙産業を変革する
  14. 役員一覧 | Nikon 企業情報
  15. ニコン初の半導体デバイス製造後工程向け露光装置
  16. 半導体露光機3社の決算まとめ(2026年5月)
  17. 「他社製との互換性追求」ArF液浸露光装置、ニコンが28年度に
  18. 決算:ニコン一転最大の赤字 850億円、金属3Dプリンター減損
  19. Nikonの巨額減損で露呈した金属3Dプリンティング市場の現実
  20. ニコン 2026-2030年度中期経営計画解説
  21. エシロールルックスオティカがニコンの筆頭株主に
  22. 「レイバン」の仏エシロール、ニコン株保有19.61%に
  23. シルチェスター大量保有報告書
  24. ニコン社長CEOに大村泰弘取締役 徳成旨亮氏は会長に
  25. デジタルカメラ市場 | 業界シェア 市場規模 成長性