📚 業界ノート

テルモ株式会社

【経済・精密機器】精密機器企業バリュエーション分析更新 2026-10-18

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 2. 財務の実力 — 成長と現金化の両面を見る
  3. 配当と会社予想のずれ
  4. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  5. 4. 同業比較 — 差分の論点
  6. 5. リスクと論点
  7. 6. バリュエーション統合と論点整理
  8. 乖離の構造分析
  9. 条件分岐シナリオ
  10. 監視ポイント
  11. M&A・出資検討の論点
  12. 7. 学びのポイント
  13. 📚 着眼点1: IFRS営業利益と調整後利益の橋渡し
  14. 📚 着眼点2: CCCは利益率の裏にある現金拘束を示す
  15. 📚 着眼点3: 買収成長は資本回収の経路で検証する
  16. 指標ポジショニング
  17. 参考情報
  18. 大株主(2026-03-31時点)
  19. データ時点
  20. 固有事象と未解決事項
  21. 数値定義の留保
  22. 主な一次資料

テルモ株式会社(4543)銘柄レポート | 2026-10-18

要点
  • 何で稼ぐ会社か:心臓血管、血液・細胞テクノロジー、メディカルケアを軸に医療機器と関連製品を世界160か国以上へ供給し、FY2026/3売上の59.8%を心臓血管事業が占める。[有価証券報告書][terumo-report]
  • 財務の要点:FY2026/3営業利益率は15.6%だった。[有価証券報告書][terumo-report]
  • 分析上の最大論点:CSL Plasmaとの契約終了に伴い2026-10-08にFY2027/3会社予想が修正され、IFRS営業利益は2,575億円から1,600億円へ減額されたため、減損・移行費用と継続的な利益減少を分けて見る必要がある。[会社発表][terumo-oct08]

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の市場・バリューチェーンは精密機器業界基礎ガイドを参照。本章はテルモ固有の製品構成、顧客接点、収益要因に絞る。

テルモは機器を病院・医療従事者へ供給し、導入後の消耗品、関連製品、保守・運用支援も収益化する。
FY2026/3売上は1兆1,319億円、連結従業員31,185人、供給先は160か国以上。
導入施設数、手技・採取・検査量、消耗品の継続使用、製品・地域構成、為替が売上を動かす。
償還・入札・承認があるため、数量増が価格や利益率の上昇に直結するとは限らない。会社概要

FY2026/3セグメント 売上高 構成比 セグメント利益* 利益率 売上YoY / 利益YoY
心臓血管カンパニー 6,764億円 59.8% 1,640億円 24.2% +8.3% / +6.0%
血液・細胞テクノロジーカンパニー 2,310億円 20.4% 336億円 14.6% +15.4% / +27.0%
メディカルケアソリューションズカンパニー 2,161億円 19.1% 216億円 10.0% +2.0% / -6.2%
オーガンテクノロジーカンパニー 80億円 0.7% 17億円 20.9% 比較なし

*セグメント利益は有価証券報告書記載の調整後営業利益。
セグメント売上合計1兆1,316億円と連結売上1兆1,319億円の差296百万円は調整等による。
セグメント利益合計を連結IFRS営業利益と同じ定義として扱わない。テルモFY2026/3有報

**心臓血管事業はFY2026/3売上の約6割を占める最大事業である。
**心臓・血管内治療にかかわるカテーテル、人工心肺、血管内治療関連製品などを含み、開発・品質管理・医師へのトレーニング、病院内ワークフローとの適合が導入と継続使用に関係する。
Blood & Cell Technologies(BCT)は血液成分分離や血漿採取装置などを扱い、装置導入後に専用消耗品や運用支援が結び付く。
メディカルケアソリューションズには輸液・注射、透析関連等の製品群が含まれ、日常的な医療需要の中で数量を積み上げる。

主なコストは材料・精密部材、製造・品質保証、販売支援、研究開発、買収後の償却。
FY2026/3の売上原価率47.5%、粗利率52.5%、販管費率36.2%、研究開発費率6.8%。
材料・物流費・為替に加え製品・顧客構成が採算を動かす。
固定費と変動費は開示値から分けられず、損益分岐点は推計しない。

供給在庫、売上債権の回収、支払条件が運転資本を左右する。
期末残高ベースのCCCはFY2026/3に236.4日と、FY2025/3から18.0日延長。
設備投資971億円、減価償却953.8億円で、製造・研究開発・品質体制への支出が続く。
CCC延長を在庫だけに帰属させず、債権・債務も見る。

事業固有の変化として、テルモは2025-10-29に臓器灌流技術を開発するOrganOxを買収した。
オーガンテクノロジーはFY2026/3売上80億円、連結の0.7%で、買収前のFY2025/3には該当セグメントの実績がなく、増減率比較はできない。
初年度売上だけで取得効果を判断せず、製品承認、導入施設・使用件数、限界利益、取得無形資産の償却、販売網と研究開発の統合費用を追う。

2. 財務の実力 — 成長と現金化の両面を見る

FY2022/3〜FY2026/3に売上高は7,033億円から1兆1,319億円(年率12.6%)、営業利益は1,160億円から1,763億円(年率11.0%)へ伸びた。
営業利益率はFY2023/3の14.3%からFY2026/3の15.6%へ上昇。
FY2027/3予想は2026-10-08改訂後の値で、過去5年の延長とはみなせない。

FY 売上高 / YoY 営業利益 / 率 親会社利益 営業CF FCF 総資産 親会社持分 自己資本比率 ROE
FY2022/3 7,033億円 / — 1,160億円 / 16.5% 888億円 1,415億円 630億円 1兆4,737億円 1兆123億円 68.7% 9.5%
FY2023/3 8,202億円 / +16.6% 1,173億円 / 14.3% 893億円 1,175億円 584億円 1兆6,022億円 1兆1,111億円 69.3% 8.4%
FY2024/3 9,219億円 / +12.4% 1,401億円 / 15.2% 1,064億円 1,463億円 649億円 1兆8,314億円 1兆3,271億円 72.5% 8.7%
FY2025/3 1兆362億円 / +12.4% 1,577億円 / 15.2% 1,170億円 2,108億円 1,283億円 1兆8,284億円 1兆3,685億円 74.8% 8.7%
FY2026/3 1兆1,319億円 / +9.2% 1,763億円 / 15.6% 1,359億円 2,309億円 -1,133億円 2兆3,122億円 1兆5,845億円 68.5% 9.2%

出典: テルモFY2026/3有報。
ROE9.2%はFY2025/3末・FY2026/3末の平均親会社持分1兆4,765億円を分母とする会社開示値(135,914÷1,476,522百万円=9.205%)。
期末持分を分母とする単純計算は8.58%。

**営業利益率と営業CFが高水準の一方、FY2026/3のFCFは買収等を含む投資でマイナスとなった。
**FCFは営業CF+投資CF。
営業CFは5期で最大、投資CFは-3,441億円。
通常設備投資だけの不足とみなさず、借入増とOrganOx買収後の資産構成も見る。

FY2026/3末の現預金2,805億円に対し社債・借入金は3,798億円で、リース負債を除く標準NCは-993億円。
自己資本比率68.5%はFY2025/3から6.3ポイント低下。
利益剰余金1兆1,165億円、営業CFは5期連続プラス、ROE9.2%。
財務安定性と成長投資後の資本回収は分けて見る。

財務指標・健全性チェック FY2026/3実績・期間 判定 目安・比較と留保
自己資本比率 68.5% ✅ 40%超。Olympus52.8%、Sysmex71.4%
有利子負債 / 現預金 3,798億円 / 2,805億円 ❌ 現預金のみでは全額を賄わない
流動比率 159.2% ✅ 目安150%超。流動資産÷流動負債
利益剰余金 1兆1,165億円 ✅ 正。累積黒字
営業CF FY2022/3〜FY2026/3の5期連続プラス ✅ 3期連続を確認
配当 分割調整後DPS17→20→22→26→30円 ✅ 5期連続支払い・増配
EPSの前年比 +16.6% ✅ FY2026/3は92.14円
ROE 9.2% ✅ 目安8%超。Olympus8.7%、Sysmex7.3%
営業利益率 15.6% ✅ Olympus9.6%、Sysmex10.4%。選定2社との比較
CCC 236.4日 ❌ FY2025/3の218.4日から延長。Olympus約215.0日、Sysmex約215.1日
営業CF / 親会社利益 169.9% ✅ 目安100%。2,309億円÷1,359億円

出典: テルモFY2026/3有報、Olympus FY2026有報、Sysmex FY2026有報。ROEは各社開示値。

CCCは売上債権/売上高×365 + 棚卸資産/売上原価×365 − 仕入債務/売上原価×365で算出した期末残高ベース。
FY2026/3は売上債権69.3日、棚卸資産228.0日、仕入債務61.0日。
FY2025/3はそれぞれ62.3日、226.0日、69.9日で、分母は両期で統一した。
比較社との差は製品・地域・販売条件を揃えた統計ではないため、運転資本を見るための参照である。

会社スコアはEDINET DBの会社基本情報欄で95/100、同じデータサービスの別のルールベース信用分析返値で90/100だった。
スコア定義・集計時点の差が未解明のため本稿では95点を便宜的に表示し、財務の説明は個別指標を中心にする。
いずれも信用格付ではない。

配当と会社予想のずれ

テルモは2024-04-01に2分割を実施した。
FY2022/3〜FY2026/3の過去DPSは分割後基準で17、20、22、26、30円。
FY2027/3予想は36円で、修正後EPS81.35円との単純比は44.3%。
FY2024/3のEDINET返値に分割前44円と分割後EPSを混在させた配当性向61.5%があるため、比較には調整後22円÷EPS71.50円=30.8%を使う。

確認できる通期予想と実績を比べると、FY2024/3は2024-02-07公表の売上9,060億円・営業利益1,400億円に対し、実績9,219億円・1,401億円(+1.8%・+0.1%)。
FY2025/3は取得できた2024-05-14数値予想9,800億円・1,650億円に対し、実績1兆362億円・1,577億円(+5.7%・-4.4%)。

FY2026/3は2026-02-13改訂予想1兆1,080億円・1,815億円に対し、実績1兆1,319億円・1,763億円(+2.2%・-2.9%)。
FY2025/3は比較に使える最終四半期の数値予想を取得データで確認できず、3期の精度を単純平均しない。

3. 市場評価を読む — バリュエーション

2026-10-18は日曜日のため、株価基準は直近取引日2026-10-16の2,337円。株価履歴の終値と2026-08-07開示の発行済株式数1,480,559,680株から、時価総額は3兆4,600.7億円(自己株控除後の株数では3兆4,473.1億円、差0.4%)。

**FY2027/3予想PER28.7倍がFY2026/3実績25.4倍を上回る主因は、10月8日の予想EPS引き下げである。
**PBR2.18倍、会社予想DPS36円による利回り1.54%。
予想EPSは130.91円から81.35円に修正され、8月時点の旧予想は使わない。10月8日修正資料

指標 FY2025/3 FY2026/3・市場基準2026-10-16 定義
標準NC +470億円 -993億円 現預金+識別済み流動投資ファンド−社債・借入金
広義NCAV proxy +2,769億円 +1,623億円 流動資産+識別済み有価証券×70%−負債合計
標準NC/時価総額 — -2.87% FY2026/3標準NC÷現在時価総額
広義NCAV/時価総額 +8.00% +4.69% 各期広義NCAV÷現在時価総額
EV — 3兆5,593億円 時価総額−標準NC
EV/EBITDA — 13.10倍 FY2026/3実績EBITDAを使用
CN-PER / 予想CN-PER — 26.19倍 / 29.66倍 (時価総額−標準NC)÷実績/会社予想純利益

出典: テルモFY2026/3有報、2026-10-08業績修正、2026-10-16株価履歴。

標準NCは現金・短期有価証券から社債・借入金を引く資金ポジション。
FY2026/3は現金2,805億円、識別済み流動投資ファンド0.44億円、借入・社債3,798億円で-993億円(流動279,886百万円、非流動99,910百万円、リース負債除外)。

広義NCAVはFY2026/3流動資産8,610億円+識別済み株式・ファンド414億円×70%−負債7,277億円。
残る金融資産を有価証券とみなさず、全資産の換金価値とはしない。
FY2025/3は識別済み189億円を使用。
FY2022/3〜FY2024/3の内訳不明分は加算せず、現預金・流動資産−負債の下限値とした。

EVは時価総額−標準NC=3兆5,593億円。
FY2026/3 EBITDAはIFRS営業利益1,763億円+減価償却954億円=2,717億円、EV/EBITDA13.10倍。
セグメント調整後利益を連結IFRS営業利益と混ぜない。
CN-PERは(時価総額−標準NC)÷利益で、負の標準NCを反映するEVベースの倍率。

DCFは掲載しない。検証可能なWACC、永久成長率、5期間のFCF予測が揃わず、未完成の前提を数値化しない。倍率感応度は円換算せず、FY2027/3改訂EPS81.35円を基準に次の比較帯で示す。

評価軸 倍率・比較帯 条件と参照
PER・低位 20〜24倍 利益減速や一時損失の長期化を重く見る。FY2026/3実績25.4倍を下回る
PER・中位 24〜30倍 FY2026/3実績と比較会社のPER帯に近い。Olympus27.6倍、Sysmex32.6倍
PER・高位 30〜34倍 成長継続と利益率回復が必要。比較会社の倍率をそのまま適用するものではない
EV/EBITDA・選定社実績 11.35〜11.77倍 Olympus・SysmexのFY2026/3実績。業界全体の平均ではない
EV/EBITDA・利益率維持 12〜14倍 テルモの収益性プレミアムが続く場合の比較軸
EV/EBITDA・低位 10倍未満 一時費用に加えて利益率低下が長期化する場合の比較軸

比較帯の参照: Olympus FY2026有報、Sysmex FY2026決算短信、Sysmex FY2026有報。
倍率は絶対株価目標ではなく、FY2027/3改訂EPSとFY2026/3実績EBITDAに対する条件別の比較軸。

自社の過去PERレンジは、株価・利益の同期間系列を揃えられず未算出。全上場中央値も未取得である。

主要な倍率の検算は、2,337円×1,480,559,680株=時価総額3兆4,600.7億円、28.73倍×予想EPS81.35円=2,337円、PBR2.1756倍×FY2026/3 BPS1,074.18円=2,337円。
株価・株数・EPS・BPSの不整合は5%以内である。

4. 同業比較 — 差分の論点

比較対象はOlympus(E02272、内視鏡・手術関連の医療機器)とSysmex(E02015、検査・診断機器)。
両社とも時価総額がテルモの0.3〜5倍に入り、製品と医療機関への販売・導入の点で参考になる。
SysmexはEDINET業種分類が電気機器で事業の利益構造も異なり、精密機器全体の統計代表ではない。
3社ともIFRS、FY2026/3実績、株価は2026-10-16でそろえた。
倍率は株価/実績EPSまたはBPS、EV/EBITDAはIFRS営業利益+減価償却費を使用。

指標 テルモ Olympus Sysmex
時価総額(億円) 34,601 18,835 11,664
売上高(億円) 11,319 10,107 5,000
実績PER 25.4倍 27.6倍 32.6倍
PBR 2.18倍 2.29倍 2.28倍
ROE 9.2% 8.7% 7.3%
営業利益率 15.6% 9.6% 10.4%
自己資本比率 68.5% 52.8% 71.4%
予想配当利回り 1.54% 1.78% 2.16%
EV/EBITDA 13.10倍 11.77倍 11.35倍
標準NC/時価総額 -2.9% -2.7% +4.4%

出典: テルモFY2026/3有報、Olympus FY2026有報、Sysmex FY2026有報、各社の2026-10-16終値。

EV算出はテルモが時価総額−標準NC、OlympusがFY2026有報の現金188,038百万円と借入・社債239,576百万円、Sysmexが現金84,117百万円と長期借入31,646百万円・短期部分1,316百万円。
リース負債は3社とも除外。
各社の発行済株式数は2026-08-07時点の開示株数を用い、2026-10-16終値と乗算した。
EBITDAはテルモ2,717億円、Olympus1,643億円、Sysmex983億円。
出典は各社の有報・決算短信と株価履歴。

FY2026/3の営業利益率はテルモ15.6%で選定2社を上回る一方、EV/EBITDAは約1.3〜1.8倍高い。
これは高い営業利益率と買収後の利益実現を同時に確認する必要を示す。
FY2024/3〜FY2026/3の売上高CAGRはテルモ10.8%、Olympus4.5%、Sysmex4.1%だが、地域、為替、製品構成は同一でない。
OlympusはFY2025/3に営業利益率が高まった後FY2026/3に9.6%へ戻り、SysmexもFY2026/3に10.4%へ低下した。
単年の率を長期の事業構造と同一視しない。

5. リスクと論点

**短期の最大論点は、CSL Plasmaとの契約終了後にBCTの売上を置き換えられるかである。
**テルモは2026-10-08に血漿採取装置供給契約を移行期間後に終了すると公表した。
会社試算の影響は総額6.10億米ドル(約975億円)で、非資金減損4.50億米ドル(約720億円)と移行期間中の事業損失・契約終了・再編費用1.60億米ドル(約255億円)に分かれる。会社発表

会社試算は変わりうる

費用見積額は移行条件や資産評価で変動しうる。減損は非資金だが、移行・契約終了・再編費用の支払時期と再発可能性は分けて追う。

過去3期の利益だけを将来利益の代表値として外挿すると、通常収益と特定契約の損失を混同する。

リスク 影響度 発生可能性の見方 具体的な影響経路 開示済みの対応・確認点
CSL契約終了・供給網費用 高 顕在化済み、残額は移行状況による BCTの出荷・設備稼働・資産回収価値を通じ、売上・減損・費用に影響 FY2027/3予想を修正。移行期間・能力再配置・代替需要を確認
品質・規制・供給継続 高 継続的 不具合・承認遅延・回収が販売停止、補償、信頼毀損につながる 品質監査、規制対応、供給継続計画。回収・行政対応を確認
医療制度・価格・入札 中〜高 国・製品ごとに継続 償還条件・医療費抑制・入札価格が販売単価やミックスを圧迫 制度変更、入札価格、製品構成の影響を分けて確認
M&A評価・統合 中〜高 FY2026/3に買収実施 償却・減損・統合遅延・想定効果未達がROICと利益を低下 OrganOxの導入施設、収益、取得資産、減損前提を確認
為替・部材・サイバー 中〜高 継続的 円高、部材不足、IT停止が原価・生産・病院供給に波及 仕入先連携、BCP、サイバー対策、為替管理の実効性

CSL終了後は他顧客への販売移行、設備・人員の転用を追う。
非資金減損は現金支出を伴わないが、過去投資の回収価値を下げ、将来償却費も変える。
FY2027/3予想は調整後営業利益2,745億円を維持する一方、IFRS営業利益を1,600億円、親会社利益を1,200億円へ修正。
一時費用の帰属と再発性を次回開示で確かめる。

評価の焦点はNCより、設備・買収資本を利益と現金へ変えられるか。
標準NCはマイナス、広義NCAVは資産構成に依存する参考値で、買収等を含むFY2026/3のFCFもマイナス。
利益率維持と資本回収は倍率を支えうるが、減損・CCC延長・買収効果の遅れは自己資本比率の高さだけでは補えない。

6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造分析

FY2027/3予想PER28.7倍はFY2026/3実績25.4倍より高く、主因は10月8日のEPS引き下げ。
EV/EBITDA13.1倍も選定2社の11.4〜11.8倍を上回る。
過去の成長・利益率は上乗せを支えるが、CSL契約終了後の収益と移行費用も評価材料となる。

FY2022/3〜FY2026/3の売上・営業利益CAGRは12.6%・11.0%。
FY2027/3改訂予想は売上+8.6%に対しIFRS営業利益-9.3%、親会社利益-11.7%、調整後営業利益2,745億円。
焦点は一時費用の範囲と契約終了後のBCT収益。

医療機関での採用、品質・規制対応、地域網と高い営業利益率は上乗せ要因。
一方、設備・買収資産の回収と顧客集中を追う。
信託・カストディアン名義から実質受益者や議決権の方向は分からず、アクティビストや市場カバレッジによる割引も確認できない。現時点の倍率には成長・収益の上乗せと契約・買収後の実現性の両方が含まれる。

条件分岐シナリオ

製品・地域の拡大が契約終了を補う

BCTでCSL以外の需要が増え、血液・細胞テクノロジーの15.4%増収と心臓血管の8.3%増収が続く。
IFRS利益が一時項目後に回復し、調整後利益との差が縮めば、持続収益を比較社倍率と照らしやすくなる。

修正後会社予想に沿って推移

FY2027/3売上1兆2,295億円、調整後営業利益2,745億円、IFRS営業利益1,600億円、親会社利益1,200億円の会社予想に沿う。
利益差の費目が説明されればFY2028/3以降を評価しやすく、説明が不十分なら倍率比較の不確実性が残る。

顧客移行と原価上昇が周辺へ広がる

CSL後の需要不足に調達費・価格圧力が重なり、営業利益率がFY2026/3の15.6%を下回る。投資に見合う営業CFが得られず追加減損が出れば、PERだけでなく資本回収とROEを見直す。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認する事項
2026-10-29 OrganOx買収から1年 売上・利益、承認、導入施設・稼働、償却
2026-11-12 FY2027/3上期決算(会社予定) 通期予想との差、CSL費用累計
2026-12-31 FY2027/3第3四半期末 BCT出荷、在庫・債権、契約後の供給
2027年2月上旬 第3四半期決算予定(日付未公表) 通期修正、減損見積り、調整後利益との差
2027-03-29 FY2027/3配当の権利付き最終取引日 DPS36円予想、基準日・株数の前提
2027-03-31 FY2027/3期末 CSL移行、運転資本、資本配分
2027-05-14頃 通期決算の参考時期(2026年実績は5/15、2027年未公表) IFRS/調整後利益差、営業CF、買収回収、FY2028/3予想
2027-06-30 FY2027/3有報の法定提出期限 監査後財務、セグメント、減損・リスク

11月12日はテルモIRイベント予定で公表済み。
第3四半期は「2月上旬」のみ公表のため日付を補わない。
3月29日は3月31日基準日の権利付き最終取引日を算定。
6月30日は金融商品取引法第24条の提出期限。e-Gov法令検索

M&A・出資検討の論点

EV許容水準は継続収益、品質・規制投資、開発資金、取得無形資産・のれん、税後統合費用と回収期間で決まる。テルモは標準NCが負のため、取得対価に加え運転資本と資金調達の負担を見る。

OrganOxは病院顧客網との補完が期待される一方、臓器別の臨床エビデンス、承認国、移植件数、償還、施設稼働率を要確認。CSL終了では顧客集中、専用設備の転用、契約終了条項がDD論点となる。

DDでは(1)契約価格・購入量・終了後移管、(2)承認・製造所認定・品質・回収・責任、(3)部材の二次調達・在庫陳腐化、(4)R&D・臨床費用、(5)取得資産・のれん・償却・減損、(6)人材・知財・販売契約、(7)統合費・税・偶発債務を確認する。
シナジーに加え顧客離脱・規制遅延・追加コストも評価する。

7. 学びのポイント

比較の前に利益指標の定義をそろえる

連結IFRS営業利益、調整後営業利益、EBITDAでは含む費用が異なる。倍率を比べるときは分子・分母の期間と定義を先に確かめる。

📚 着眼点1: IFRS営業利益と調整後利益の橋渡し

**調整後利益とIFRS利益の差は、現金性・再発性・資産回収への影響に分けて読む。
**FY2027/3予想は調整後営業利益2,745億円を維持し、IFRS営業利益を2,575億円から1,600億円、親会社利益を1,931億円から1,200億円へ修正。
契約終了関連約975億円のうち約720億円は非資金減損、約255億円は移行・終了・再編費用。
調整後利益だけでは資産の回収価値や現金費用を見落とす。

差額は現金支出、将来償却、契約終了後の売上損失に分ける。
減損の計上自体は現金支出を伴わないが、投下資本の回収価値を下げる。
移行・終了費用は時期・対象・再発性を追い、FY2026/3とFY2027/3以降で調整項目が一貫するか確認する。

📚 着眼点2: CCCは利益率の裏にある現金拘束を示す

**CCCは利益率とは別に、営業活動に拘束される現金を示す。
**FY2026/3は236.4日で、売上債権69.3日、在庫228.0日、仕入債務61.0日。
FY2025/3の218.4日から18.0日延び、OlympusとSysmexの約215日を上回る。
製品構成・地域・販売条件が異なるので日数だけで企業の効率順位は決められないが、売上債権と在庫の増加、仕入債務日数の低下を同時に見る必要がある。

CCCは在庫・売掛金などに営業資金が拘束される期間を示す。在庫増は安全在庫、需要予測のずれ、販売停滞で意味が異なる。医療供給と資本効率の両面から、欠品・廃棄・製品別需要も見る。

📚 着眼点3: 買収成長は資本回収の経路で検証する

**買収後は売上成長だけでなく、営業利益とキャッシュ回収が投下資本に結び付く経路を確かめる。
**FY2026/3の営業CF2,309億円、投資CF-3,441億円、FCF-1,133億円には設備投資971億円と買収等が含まれ、符号だけで採算は分からない。
経営計画の目安は高シングル成長、営業利益率20%以上、ROIC10%以上。
FY2026/3調整後営業利益率は19.4%。テルモの経営方針

販売・生産・病院対応が営業利益と営業CFにどう表れるか、ROICにのれん・取得無形資産を含めるかを一貫して検証する。
投資年のFCF赤字だけでは成否を判断できず、数年後の利益・現金回収が投下資本に結び付くかが要点。

指標ポジショニング

全上場中央値の同時点・同定義データは取得していないため「未取得」と表示する。選定比較社2社は業界全体の統計を代替しない。

指標 テルモ Olympus / Sysmex 全上場中央値 評価軸と留保
FY2026/3実績PER 25.4倍 27.6 / 32.6倍 未取得 実績利益倍率。予想PERと混ぜない
FY2027/3修正予想PER 28.7倍 参考比較は基準不統一 未取得 EPS81.35円。10月8日修正後
PBR 2.18倍 2.29 / 2.28倍 未取得 FY2026/3末の親会社持分ベース
ROE 9.2% 8.7 / 7.3% 未取得 8%超だがFY2027/3費用の影響に注意
EV/EBITDA 13.10倍 11.77 / 11.35倍 未取得 FY2026/3、連結IFRS営業利益+減価償却
予想配当利回り 1.54% 1.78 / 2.16% 未取得 会社予想DPS36円。予想変更余地あり
自己資本比率 68.5% 52.8 / 71.4% 未取得 資本余力は高いが負債が現預金を上回る
CCC 236.4日 215.0 / 215.1日 未取得 売上債権は売上、在庫・買掛は売上原価を分母
標準NC/時価総額 -2.9% -2.7 / +4.4% 未取得 現預金ベースの純資金。広義NCAVとは別物
売上高CAGR(FY2024/3〜FY2026/3) 10.8% 4.5 / 4.1% 未取得 地域・為替・製品構成の差を含む

参考情報

テルモは1921年設立、東京都渋谷区に本社を置く。
2026年3月末の従業員は連結31,185人・単体5,736人、連結子会社101社、持分法適用会社4社。
監査法人は有限責任あずさ監査法人。
医療機器を世界160か国以上へ供給する。
FY2026/3有価証券報告書では医療制度・供給網・品質・規制・臨床エビデンス・価格・為替・M&A統合・サイバー・訴訟等をリスクとして挙げ、仕入先連携、事業継続計画、品質監査、為替管理、買収DD・統合管理を説明する。

大株主(2026-03-31時点)

順位 株主名 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 22.3% 信託銀行・受託資産
2 日本カストディ銀行(信託口) 9.5% 信託銀行・受託資産
3 第一生命保険 3.5% 国内保険会社
4 State Street Bank and Trust 505223 3.1% 海外カストディアン名義
5 明治安田生命保険 3.0% 国内保険会社

出典: テルモFY2026/3有報。

上位名義には信託・カストディアンが含まれ、実質受益者や個別の議決権行使方針を示さない。持株比率だけから株主の影響力や経営への関与を推定しない。

データ時点

5期財務・セグメント・株主は2026-03-31期末、通期短信は2026-05-15公表、FY2027/3第1四半期は2026-08-07公表の3か月累計、通期予想は2026-10-08修正後、株価は2026-10-16終値。
同業株価は同日、財務は各社FY2026/3実績。

固有事象と未解決事項

未解決事項は会社試算費用の変更、移行期間・契約終了後のBCT顧客構成、減損後の償却、調整後営業利益とIFRS営業利益の差の内訳である。

数値定義の留保

FY2022/3・FY2023/3のEPS・BPS・配当は2024-04-01の2分割後基準に調整。
FY2024/3の配当性向は調整後DPS22円÷EPS71.50円で算定し、分割前DPS混在の返値を使わない。
FY2026/3標準NCと広義NCAVは定義の異なる指標。
CCCは期末残高を用い、年平均残高ではない。
全上場中央値は未取得、円建て理論株価は作成しない。

主な一次資料

テルモFY2026/3有報、テルモ2026-10-08業績修正、テルモ経営方針、Olympus FY2026有報、Sysmex FY2026決算短信、Sysmex FY2026有報、Yahoo!ファイナンス株価履歴、金融商品取引法。