📚 業界ナレッジ

日産自動車

【経済・輸送用機器】輸送用機器銘柄レポート更新 2026-08-01

このページ

目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. FP&Aの視点で見る収益構造とコスト構造
  3. 日産自動車の事業構成
  4. 地域別(FY2026/3)
  5. 主要取引先・サプライチェーン
  6. 日産自動車の固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 2. 財務の実力
  8. PL — 5期+予想(単位: 百万円、EPS円)
  9. BS — 5期(単位: 百万円、比率%、円)
  10. BS 詳細主要科目(百万円) — 5期
  11. CF — 5期(単位: 百万円)
  12. 減価償却費明細(百万円) — 5期
  13. 受注高・受注残高
  14. 運転資本分析(CCC)
  15. 配当推移 — 5期+予想
  16. 経営者予想精度
  17. 健全性チェック(事業会社基準)
  18. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  19. 時価総額・株価の基準
  20. 標準 NC(Net Cash)計算 — 5期推移(単位: 百万円)
  21. 広義 NCAV 計算 — 5期推移(単位: 百万円)
  22. ★ 販売金融事業の連結による NC 歪みの注記
  23. CN-PER(キャッシュニュートラル PER)
  24. EV/EBITDA 分析(単位: 億円)
  25. EV/EBITDA 感度テーブル(NC 定義別・日産のみ・単位: 億円)
  26. 倍率ベース感応度(適用 PER レンジ・円換算なし)
  27. バリュエーション乖離コメント
  28. 4. 同業比較 — 差分の論点
  29. 競合選定基準
  30. 最新期比較テーブル(FY2026/3)
  31. 競合3期推移(売上・営業利益率)
  32. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  33. 5. リスクと論点
  34. リスクマトリクス
  35. 6. バリュエーション統合と論点整理
  36. 乖離の構造分析
  37. 条件分岐シナリオ
  38. 監視ポイント
  39. M&A・出資検討の論点整理
  40. 7. 学びのポイント
  41. 📚 着眼点 1: 販売金融事業を連結する完成車メーカーのバランスシートをどう読むか
  42. 📚 着眼点 2: PBR0.24倍と予想PER58.8倍が同時に成立する意味
  43. 📚 着眼点 3: 日産自動車の指標ポジショニング
  44. 参考情報
  45. ガバナンス要点
  46. 大株主構成
  47. データソースの時点差
  48. 出典一覧

日産自動車(7201)銘柄分析レポート

SUMMARY

現値時価総額は11,755億円(株価336.2円、2026-08-01時点)。
FY2027/3会社予想(純利益200億円)ベースの予想PERは58.8倍、予想EV/EBITDA(標準NCベース)は10.10倍で、いずれも比較3社平均(予想PER17.4倍)を上回る。
配当利回りは0.00%(無配継続)。
標準NC比率は-489.6%、広義NCAV比率は-74.7%と大幅マイナスだが、これは販売金融事業の資金調達を連結しているためで、自動車事業単体のネットキャッシュは別途+1兆1,704億円が開示されている。
健全性スコアは60/100(中位)。

指標 評価
時価総額 11,755 億円 大型
予 PER 58.8倍 割高
予 EV/EBITDA 10.10倍 割高
配当利回り 0.00% 無配
標準 NC 比率 -489.6% 大幅マイナス
広義 NCAV 比率 -74.7% マイナス
健全性スコア 60/100 中位

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 自動車業界基礎ガイド(および 17_輸送用機器 のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは日産自動車固有の事業構造に絞る。

日産自動車は、自動車事業(新車の開発・生産・販売)と販売金融事業(オートローン・リース)の二本柱で構成される完成車メーカーである。
FY2026/3の連結売上高は12兆788億円(前年比-4.9%)、連結営業利益は580億円(営業利益率0.48%)にとどまり、稼ぐ力は極めて薄い局面にある。

FP&Aの視点で見る収益構造とコスト構造

収益ドライバー: グローバル小売台数は315万1,164台(前年比-5.8%)で、地域別に見ると日本-13.5%、北米-0.9%、欧州-9.7%、アジア-7.3%(うち中国-6.3%)と全地域で減少した。
特筆すべきは、世界全体の新車需要が+3.5%伸びている中での減少という点で、市場が拡大する局面でシェアを落としている。
実際、主要市場のシェアは日本8.8%(-1.3pt)、米国5.7%(-0.2pt)、欧州1.9%(-0.2pt)、中国2.4%(-0.3pt)と全主要市場で低下した。
台数×単価という単純なフレームで見ると、日産は「台数」の面で苦戦しており、値引き構造や商品力の毀損が背景にあるとみられる。
加えて、自動車事業(フロー型の一過性販売収益)と販売金融事業(残高に紐づくストック型収益)という二層構造を持つ点も特徴で、後者が前者の収益変動を緩和する役割を担っている。

コスト構造: 固定費の重さが最大の課題で、稼働率の低い生産拠点を17拠点から10拠点へ削減する再編を進めている。
再建計画「Re:Nissan」ではFY2024/3実績比で固定費・変動費あわせて5,000億円のコスト削減を掲げ、FY2026/3時点で固定費約2,000億円・変動費約550億円を削減済みである(改善案5,000件超、想定効果額2,700億円)。
研究開発費は562億5,000万円(対売上4.68%)で完成車メーカーとしては標準的な水準だが、営業利益58億円という薄い利益に対しては重い固定費である。
Web検索で確認できた最新情報では、生産拠点再編は具体的な工場名まで公表済みで、追浜工場(神奈川県横須賀市)は2027年度末に生産終了、子会社の日産車体湘南工場(神奈川県平塚市)は2026年度末までに生産終了する予定である(出典: 日本経済新聞、モノイスト、2025年7月)。

運転資本: CCCは1.69日まで短縮しており、5期で15.83日→11.59日→12.31日→3.41日→1.69日と一貫して改善している。
内訳を見ると仕入債務回転74.71日が売上債権回転19.59日・棚卸資産回転56.81日を上回っており、仕入先への支払サイトの長さでキャッシュを浮かせる「仕入先ファイナンス依存型」の構造である。
比較対象のホンダ36.31日・マツダ28.80日・三菱自22.57日と比べても仕入債務回転の長さが際立つ。

資本集約度: 設備投資4,992億円・減価償却費6,283億円(セグメント合算、うち販売金融事業分3,803億円を含む)と、装置産業並みの資本集約度を持つ。
総資産回転率は0.61回、PPE(有形固定資産)は4兆5,304億円で、総資産19兆8,124億円に対して売上高12兆円という規模感になる。

日産自動車の事業構成

(単位: 百万円。外部売上ベース)

セグメント 売上高(百万円) 構成比 営業利益(百万円) 営業利益率
自動車事業 10,760,298 89.61% -292,890 -2.72%
販売金融事業 1,247,590 10.39% 297,942 23.88%
セグメント間取引消去額(参考) -230,220 52,953
連結計 12,007,888 100.00% 58,005 0.48%

営業利益の合算(-292,890 + 297,942 + 52,953 = 58,005)は連結営業利益と一致。

セグメント3期推移(外部売上・営業利益、単位: 百万円)

セグメント FY2024/3 売上 FY2024/3 営利 FY2025/3 売上 FY2025/3 営利 FY2026/3 売上 FY2026/3 営利
自動車事業 11,582,863 221,574 11,437,856 -267,979 10,760,298 -292,890
販売金融事業 1,102,853 308,718 1,195,358 285,647 1,247,590 297,942
消去 -258,578 38,426 -274,345 52,130 -230,220 52,953

地域別(FY2026/3)

小売台数(単位: 台)

仕向地 FY2025/3 FY2026/3 増減 前年比
日本 460,868 398,681 -62,187 -13.5%
北米 1,303,236 1,291,335 -11,901 -0.9%
(内、米国) 938,358 906,136 -32,222 -3.4%
欧州 350,957 317,060 -33,897 -9.7%
アジア 793,425 735,381 -58,044 -7.3%
(内、中国) 696,631 653,024 -43,607 -6.3%
その他 437,762 408,707 -29,055 -6.6%
合計 3,346,248 3,151,164 -195,084 -5.8%

生産台数(単位: 台)

地域 FY2026/3 前年比
合計 2,155,562 -10.5%(FY2025/3: 2,408,579)
日本 557,576 -13.1%
米国 504,812 +0.9%
メキシコ 606,453 -8.7%
英国 279,029 +1.0%
インド 46,717 -69.3%(2025年7月31日連結除外のため4ヶ月分)

地域セグメント売上・営業利益(内部売上含む・単位: 百万円)

地域 FY2026/3 売上 前年比 FY2026/3 営業利益 前年差
日本 4,322,700 -11.0%(-535,400) 5,400 -128,300
北米 6,958,300 -2.9%(-208,600) 68,700 +107,000
欧州 1,717,600 -4.0%(-71,000) -54,100 +44,600
アジア 1,303,200 -20.9%(-344,300) 31,300 -26,000
その他 1,556,800 +0.8%(+12,200) -5,200 -7,700

市場シェア(FY2026/3)

地域 シェア 前年差
日本 8.8% -1.3pt
米国 5.7% -0.2pt
欧州 1.9% -0.2pt
中国 2.4% -0.3pt

グローバル全体需要: 90,380千台(+3.5%)

出典: 有価証券報告書(FY2026/3)

連結営業利益580億円は、自動車事業の-2,929億円の営業赤字を、販売金融事業の+2,979億円(利益率23.88%)とセグメント間消去+530億円が埋め合わせた結果である。
本業である自動車事業はFY2025/3(-267,979百万円)・FY2026/3(-292,890百万円)と2期連続の営業赤字であり、FY2024/3の+221,574百万円の黒字から短期間で急速に悪化した。

地域別では、営業利益(内部売上含む)ベースで北米が688億円(前年差+1,070億円)と唯一の大幅改善地域となった一方、日本は54億円(前年差-1,283億円)へ急落、欧州は-541億円(前年差+446億円)の赤字が続き、アジアは313億円(前年差-260億円)、その他は-52億円(前年差-77億円)となった。
小売台数で見ても日本-13.5%・欧州-9.7%・アジア-7.3%と苦戦地域が広く、北米は台数-0.9%(米国-3.4%)にとどまりながら利益は大幅改善という「量より質」の構図が浮かぶ。

販売金融事業から自動車事業への配当はFY2026/3に2,034億円、FY2021/3からの5期累計では1兆1,328億円にのぼり、自動車事業本体のフリーキャッシュフローがマイナスの局面でも、この配当が資金繰りを下支えしてきた構造である。

主要取引先・サプライチェーン

完成車メーカーである日産は、ティア1サプライヤーから部品を調達し、系列・独立系ディーラー網を通じて販売し、自社の販売金融子会社が購入者にローン・リースを提供するという、垂直統合に近い構造を持つ。

主要サプライヤーの一つであるマレリホールディングスは、2022年6月に民事再生手続きを申し立てた後、2025年6月には米デラウェア州連邦破産裁判所でチャプター11(連邦破産法第11条)の手続きを開始した。
有価証券報告書は「供給の停止、遅延又は不足による当社グループの操業の停止、生産の遅延又は減少、もしくは財務的負担の増加やコストの上昇が生じる可能性があり、当社グループの業績と財務状況に大きな負の影響を及ぼす可能性がある」と明記しており、特定サプライヤーへの依存リスクが顕在化した事例である。

取引関係の特徴として、エンジン・プラットフォームなど基幹部品は長期の共同開発関係にある大手ティア1に依存する一方、汎用部品は複数社から調達する体制を取る。
ディーラー網は日本国内で系列店を維持しつつ、海外は現地資本の販売網に依存する形態が中心である。

参入障壁は「巨大な工場」から「頭脳」へ移りつつある

完成車メーカーの参入障壁は、伝統的には巨大な生産設備・型式認証・全国のディーラー網・長年培ったブランドという「重厚な壁」だった。
自動車1台を作るには数千の部品を寸分違わず組み上げる工場と、それを保証する認証プロセスが要る。
これは新規参入者が一朝一夕には真似できない。

しかし、有価証券報告書自身が「ハードウェアを開発・量産するノウハウがそれほどの付加価値を生まないものとなっていく可能性」と明記しているとおり、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)やSDV(ソフトウェア定義車両)の時代には、この「重厚な壁」の価値が目減りしうる。
たとえるなら、これまでは立派な建物を持っていること自体が商売の強みだったが、これからは建物の中で何のソフトウェアが動いているかが問われる時代への移行であり、日産が2026年4月に発表した長期ビジョン「モビリティの知能化で、毎日を新たな体験に」とAIDV(AIディファインドビークル)戦略は、この移行に対する回答の一つと位置づけられる。
5-in-1構成の第3世代e-POWERは2026年度発売予定の新型エルグランドや北米向け新型ローグへの搭載が計画されている(出典: 日産自動車ニュースルーム、2026年4月)。

日産自動車の固有事象・資本関係の詳細分析

ルノー(Renault)は35.71%(1,326,231,327株)を保有し、保有目的を「経営参加(包括的な業務提携を行うため)」と明記した変更報告書を2025年4月4日に提出している。
この背景には2023年11月8日発効の新アライアンス契約があり、ルノーの直接保有比率を15%に引き下げ、残りをフランスの信託会社へ拠出する枠組みが導入された(信託分の議決権は一部例外を除き無効化される一方、配当はルノーに帰属する)。
EDINET開示の35.71%という比率は、信託分を含む段階的な取り扱いの進行を反映しているとみられ、日産自身も2024年にルノー売却分の自己株式を追加取得(2.5%分)するなど、資本関係は流動的に推移してきた(出典: 日本経済新聞、日産自動車IR)。

中国合弁の東風汽車有限公司は持分法適用会社で、FY2026/3は持分法による投資利益が投資損失に転じ、営業外損益を1,973億円悪化させる主因となった。
中国市場でのシェア低下(-0.3pt)と歩調を合わせた動きである。

ルノー日産オートモーティブインディア社は2025年7月31日付で連結子会社から除外され、インドの生産台数が前年比-69.3%(4か月分のみの計上)となった直接の要因である。

日産とホンダについては、2024年末に経営統合に向けた覚書を締結したものの3か月足らずで白紙撤回された経緯がある。
2026年に入り、ホンダがFY2026/3に営業損失(米国関税影響)を計上する一方で日産はRe:Nissanにより黒字転換を見込むなど力関係が変化したことを背景に、資本提携の再交渉を示唆する報道(2026年5月、Bloomberg)があるが、本レポート執筆時点で正式な統合合意や新たな資本提携の発表は確認されていない(出典: Bloomberg、東洋経済オンライン)。


2. 財務の実力

PL — 5期+予想(単位: 百万円、EPS円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3予
売上高(百万円) 8,424,585 10,596,695 12,685,716 12,633,214 12,007,888 13,000,000
営業利益(百万円) 247,307 377,109 568,718 69,798 58,005 200,000
経常利益(百万円) 306,117 515,443 702,161 210,168 1,081
当期純利益(百万円) 215,533 221,900 426,649 -670,898 -533,095 20,000
EPS(円) 55.07 56.67 110.47 -187.08 -152.58 5.72
営業利益率 2.94% 3.56% 4.48% 0.55% 0.48% 1.54%
前年比(売上) +25.79% +19.71% -0.41% -4.95% +8.3%
前年比(営利) +52.48% +50.81% -87.73% -16.90% +244.8%

BS — 5期(単位: 百万円、比率%、円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
総資産 16,371,481 17,598,581 19,855,151 19,024,060 19,812,442
流動資産 10,316,009 11,368,211 12,883,600 12,323,467 12,675,508
固定資産 6,049,075 6,224,621 6,966,988 6,697,484 7,126,990
負債合計 11,341,897 11,983,441 13,384,608 13,578,712 14,570,774
流動負債 6,143,208 6,769,326 6,926,939 8,070,190 8,124,301
固定負債 5,198,689 5,214,115 6,457,669 5,508,522 6,446,473
純資産 5,029,584 5,615,140 6,470,543 5,445,348 5,241,668
非支配株主持分(NCI) 448,983 480,218 488,592 486,805 442,687
自己資本(純資産−NCI) 4,580,601 5,134,922 5,981,951 4,958,543 4,798,981
自己資本比率 27.98% 29.18% 30.13% 26.06% 24.22%
BPS(円) 1,170.17 1,310.74 1,599.28 1,419.78 1,372.56
利益剰余金 3,843,479 4,047,870 4,285,508 3,415,475 2,870,651
有形固定資産(PPE) 4,365,953 4,369,281 4,763,510 4,332,060 4,530,402

※自己資本は全期「純資産−NCI」で統一(shareholdersEquityフィールドはその他包括利益累計額を含まず不採用)。

BS 詳細主要科目(百万円) — 5期

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 1,792,692 2,014,387 2,126,206 2,197,513 2,264,801
短期有価証券 360,645 215,912 235,745 236,000 689,370
投資有価証券 1,054,886 1,176,832 1,379,078 1,428,641 1,453,743
売上債権 402,489 585,639 635,329 577,877 644,345
棚卸資産 1,364,481 1,703,176 2,055,605 1,672,305 1,629,244
仕入債務 1,395,642 1,912,151 2,229,210 2,070,387 2,142,560

有利子負債の内訳(単位: 百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
短期借入金 1,050,036 1,101,978 837,266 876,104 1,182,520
1年内返済予定長期借入金 1,251,998 1,085,256 1,221,739 1,881,691 1,907,993
長期借入金 1,775,221 2,013,251 2,921,628 2,661,356 2,539,845
社債(固定) 2,263,336 2,058,096 2,351,216 1,708,532 2,671,312
1年内償還予定社債 471,460 556,367 239,032 771,205 408,068
有利子負債(標準NC定義) 6,812,051 6,814,948 7,570,881 7,898,888 8,709,738
(参考・定義外)CP 185,705 88,000 103,262 86,743 42,513
(参考・定義外)リース債務 134,568 136,115 137,250 114,230 167,871

CF — 5期(単位: 百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
営業CF 847,187 1,221,051 960,899 753,687 794,674
投資CF -146,835 -447,041 -812,664 -971,227 -914,301
財務CF -1,092,645 -670,607 -131,551 263,251 51,903
FCF(営業CF+投資CF) 700,352 774,010 148,235 -217,540 -119,627
設備投資(capex) 345,000 350,800 486,100 577,300 499,200

★セグメント別 CF(自動車事業 vs 販売金融事業、単位: 百万円)

区分 営業CF 投資CF FCF 財務CF
FY2025/3 自動車事業及び消去 157,456 -400,272 -242,816 365,016
FY2025/3 販売金融事業 596,231 -570,955 25,276 -101,765
FY2025/3 連結計 753,687 -971,227 -217,540 263,251
FY2026/3 自動車事業及び消去 -227,279 -253,524 -480,803 365,766
FY2026/3 販売金融事業 1,021,953 -660,777 361,176 -313,863
FY2026/3 連結計 794,674 -914,301 -119,627 51,903

自動車事業ネットキャッシュ(有報MD&A開示): FY2026/3末 = 1,170,400百万円(1兆1,704億円)。
前期末比 -328,000百万円。
連結ベースの標準NC(大幅マイナス)は販売金融事業の資金調達を含むため、必ずこの数値と併記する。

減価償却費明細(百万円) — 5期

FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
689,003 693,740 677,953 697,011 628,285

※セグメント合算値(FY2026/3 = 自動車事業247,952 + 販売金融事業380,333)。

受注高・受注残高

該当なし(非受注産業。有報で受注状況の記載を省略)。

運転資本分析(CCC)

算出式: 売上債権回転日数=売上債権÷売上高×365、棚卸資産回転日数=棚卸資産÷売上原価×365、仕入債務回転日数=仕入債務÷売上原価×365(厳密法)。

指標(日) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上債権回転日数 17.44 20.17 18.28 16.70 19.59
棚卸資産回転日数 70.44 69.98 70.66 55.80 56.81
仕入債務回転日数 72.05 78.57 76.62 69.08 74.71
CCC 15.83 11.59 12.31 3.41 1.69

配当推移 — 5期+予想

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3予
1株配当(円) 5.00 10.00 20.00 0.00(無配) 0.00(無配) 0.00(無配)
配当性向 9.08% 17.65% 18.10% —(赤字・無配) —(赤字・無配) —(無配)

現値株価336.2円に対する配当利回りは0.00%(無配)。

経営者予想精度

予想の開示元 予想売上 実績売上 乖離 予想営利 実績営利 乖離
FY2026/3 2026-02-12 Q3短信の通期予想 11,900,000 12,007,888 +0.9% -60,000 58,005 +118,005(赤字予想→黒字着地)
FY2026/3 純利益 同上 -650,000 -533,095 +116,905(損失縮小)
FY2025/3 取得範囲外
FY2024/3 取得範囲外

健全性チェック(事業会社基準)

# 項目 基準 FY2026/3実績 判定
1 自己資本比率 >40% 24.22%
2 有利子負債 < 現預金 有利子負債8,709,738 > 現預金2,264,801(百万円)
3 流動比率 >150% 156.02%(流動資産12,675,508÷流動負債8,124,301)
4 利益剰余金 >0 2,870,651百万円
5 営業CF 3期連続黒字 FY2024〜FY2026: 960,899/753,687/794,674(すべて黒字)
6 配当 3期連続支払い FY2024:20円→FY2025:0円→FY2026:0円(2期連続無配)
7 EPS 前年比プラス FY2025 -187.08円→FY2026 -152.58円(赤字幅縮小、前年差+34.50円)
8 ROE >8% -10.9%(EDINET official)
9 営業利益率 > 比較3社平均 日産0.48% < 比較3社平均0.59%(ホンダ-1.90%/マツダ1.05%/三菱自2.61%の単純平均)

※販売金融事業を連結する完成車メーカーは項目1・2が構造的に成立しにくい。自動車事業単体ネットキャッシュは+1兆1,704億円(別掲、上記CFセクション参照)。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

時価総額・株価の基準

バリュエーション指標の時価総額・株価は現値マーケットデータ(market_data_as_of = 2026-08-01)を使用。
時価総額 = 1,175,484 百万円(11,755 億円)。
EDINET marketCap(期末固定値)は不使用。

内部整合性チェック

標準 NC(Net Cash)計算 — 5期推移(単位: 百万円)

有利子負債 = 短期借入金 + 1年内返済予定長期借入金 + 長期借入金 + 社債(1年内償還含む)。投資有価証券は含めない。CP・リース債務は定義外。

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 1,792,692 2,014,387 2,126,206 2,197,513 2,264,801
短期有価証券 360,645 215,912 235,745 236,000 689,370
有利子負債 6,812,051 6,814,948 7,570,881 7,898,888 8,709,738
標準 NC -4,658,714 -4,584,649 -5,208,930 -5,465,375 -5,755,567
標準 NC比率(現値時価総額比) -489.6%

※過去期の時価総額はEDINET欠損のため比率は直近期のみ算出。

広義 NCAV 計算 — 5期推移(単位: 百万円)

広義NCAV = 流動資産 + 投資有価証券×0.7 − 負債合計

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
流動資産 10,316,009 11,368,211 12,883,600 12,323,467 12,675,508
投資有価証券×0.7 738,420 823,782 965,355 1,000,049 1,017,620
負債合計 11,341,897 11,983,441 13,384,608 13,578,712 14,570,774
広義 NCAV -287,468 208,552 464,347 -255,196 -877,646
広義 NCAV比率(現値時価総額比) -74.7%

★ 販売金融事業の連結による NC 歪みの注記

標準NC・広義NCAVがともに大幅マイナスとなるのは、販売金融事業(オートローン・リース)の資金調達を全額連結しているためである。
有報MD&Aは**自動車事業単体のネットキャッシュを1,170,400百万円(1兆1,704億円・FY2026/3末、前期末比-328,000百万円)**と別途開示している。
連結NCのマイナスを単純に財務悪化と読み替えないよう、この2数値を必ず併記する。

CN-PER(キャッシュニュートラル PER)

CN-PER = (時価総額 − 標準NC) ÷ 予想純利益

指標
予想 PER 58.8 倍
標準 NC 比率(標準NC ÷ 現値時価総額) -489.6%
CN-PER(標準 NC ベース) 346.6 倍
参考: CN-PER(広義 NCAV ベース) 102.7 倍

※標準NCがマイナス(純有利子負債超過)のため、CN-PERは予想PER(58.8倍)より大幅に高くなる(EVに正味有利子負債を上乗せするため)。

EV/EBITDA 分析(単位: 億円)

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費(FY2026/3)

指標 日産 7201 ホンダ 7267 マツダ 7261 三菱自 7211
時価総額(億円) 11,755 63,274 7,423 4,926
標準 NC(億円) -57,556 —(算出不可) 6,689 1,107
EV(億円) 69,311 —(算出不可) 734 3,820
EBITDA(億円) 6,863 12,362(参考) 1,726 1,581
EV/EBITDA 10.10倍 —(算出不可) 0.43倍 2.42倍

表注: ホンダはIFRS開示のため有利子負債明細が取得できず標準NC/EV/EV/EBITDAは算出不可。
ホンダのFY2026/3 EBITDAは営業損失-414,346+減価償却費1,650,545=1,236,199百万円として参考掲載。

EV/EBITDA 感度テーブル(NC 定義別・日産のみ・単位: 億円)

NC 定義 NC(億円) EV(億円) EV/EBITDA
標準 NC(現預金+短期有価証券−有利子負債) -57,556 69,311 10.10倍
広義 NCAV(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計) -8,776 20,531 2.99倍

倍率ベース感応度(適用 PER レンジ・円換算なし)

円建ての理論株価・想定株価水準・倍率換算での株価対比は出さない。

適用 PER 水準 倍率 位置づけ
自社黒字期レンジ下限 5.5倍 FY2024/3実績PER。黒字期3期の下限
自社黒字期レンジ上限 10.0倍 FY2022/3実績PER。黒字期3期の上限
参考: 比較3社平均 予想PER 17.4倍 ホンダ24.3 / マツダ8.2 / 三菱自19.7 の単純平均(「業界平均」ではない)
現状の予想PER(据え置き時) 58.8倍 FY2027/3会社予想純利益200億円ベース
参考: 自社 PER レンジ(黒字期のみ) 5.5〜10.0倍 FY2022/3〜FY2024/3。FY2025/3・FY2026/3は赤字のため算出不能

※予想PER(58.8倍)は自社PER黒字期レンジ(5.5〜10.0倍)・比較3社平均(17.4倍)のいずれも上回る。
これは予想純利益(200億円)が小さい水準に置かれていることに起因する事実である。

※DCF法は、割引率(WACC)・永続成長率・5期FCFの前提値を確度の高いデータで確定できなかったため、本レポートでは掲載していない。

バリュエーション乖離コメント

  1. EV/EBITDA法(標準NCベース、10.10倍)は分子が営業利益+減価償却の合算、CN-PER法(標準NCベース、346.6倍)は分子が税引後予想純利益(200億円)であり、分母の絶対水準の違い(予想純利益は予想営業利益2,000億円の1/10)から両倍率は大きく乖離する。
  2. 標準NCが大幅マイナス(-5兆7,556億円)のため、EVは時価総額(1兆1,755億円)を大きく上回り(6兆9,311億円)、いずれの倍率も押し上げる方向に作用する。

4. 同業比較 — 差分の論点

競合選定基準

基準 内容
業種 輸送用機器(EDINET DB業種分類。全社とも同一)
時価総額レンジ 日産11,755億円に対しホンダ63,274億円(5.4倍)/マツダ7,423億円(0.63倍)/三菱自4,926億円(0.42倍)
選定理由 国内完成車メーカー・決算期末が全社2026-03-31で揃う・三菱自はルノー・日産アライアンス関係

※ホンダは時価総額レンジ0.3-5倍をわずかに超える(5.4倍)が、国内完成車メーカーの直接競合として採用。

最新期比較テーブル(FY2026/3)

指標 日産 7201 ホンダ 7267 マツダ 7261 三菱自 7211
時価総額(億円) 11,755 63,274 7,423 4,926
売上高(億円) 120,079 217,966 49,182 28,965
営業利益率 0.48% -1.90% 1.05% 2.61%
自己資本比率 24.22% 34.28% 42.55% 38.02%
予想PER(倍) 58.8 24.3 8.2 19.7
PBR(倍) 0.24 0.54 0.39 0.54
ROE -10.9% -3.5% 1.9% 1.08%
予想配当利回り 0.00% 4.31% 4.67% 2.72%
EV/EBITDA 10.10倍 —(算出不可) 0.43倍 2.42倍
標準 NC 比率 -489.6% —(算出不可) 90.1% 22.5%
営業 CF(億円) 7,947 11,353 2(参考値・疑義あり) 358
FCF(億円) -1,196 2,831 -6(参考値・疑義あり) -867

表注: ①ホンダのみIFRS(営業利益の定義差)②ホンダの標準NC/EV/EV+EBITDAは有利子負債明細がIFRS開示のため算出不可③マツダFY2026/3の営業CF・投資CFは前期比3桁小さく抽出値に疑義あり(参考値扱い)④PER・配当利回りはFY2027/3会社予想ベース、PBRはFY2026/3実績BPSベース、株価は2026-08-01現値。

競合3期推移(売上・営業利益率)

企業 FY2024/3 売上(百万円) FY2025/3 売上 FY2026/3 売上 FY2024/3 営利率 FY2025/3 営利率 FY2026/3 営利率
日産 12,685,716 12,633,214 12,007,888 4.48% 0.55% 0.48%
ホンダ 20,428,802 21,688,767 21,796,610 6.76% 5.60% -1.90%
マツダ 4,827,662 5,018,893 4,918,172 5.19% 3.71% 1.05%
三菱自 2,789,589 2,788,232 2,896,536 6.85% 4.98% 2.61%

運転資本効率(CCC)— 競合比較

指標(日) 日産 ホンダ マツダ 三菱自
売上債権回転日数 19.59 21.28 13.64 31.33
棚卸資産回転日数 56.81 50.78 63.02 57.92
仕入債務回転日数 74.71 35.74 47.86 66.69
CCC 1.69 36.31 28.80 22.57

業界中央値: データなし(get_analysisに業界CCCベンチマークなし)。参考: 比較3社中央値28.80日。

注: 日産のCCCは比較3社の中で最短(1.69日)で、支払サイトが回収・在庫サイトを大きく上回る構造にある(事実並置のみ)。


5. リスクと論点

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
米国関税政策の変動 完成車・部品への追加関税が再燃し自動車事業の営業損益が再び悪化する 2026年2月に相互関税の徴収が停止されたが政策変更リスクは残存
格付の追加引き下げ 調達コスト上昇、コミットメントラインの利用条件が厳格化する可能性 財務制限条項なしを維持、債権流動化による代替調達を検討中
マレリの供給途絶 部品供給停止による生産停止・生産遅延、財務負担増 チャプター11手続きが進行中、有報がリスクとして明記
中国市場のシェア低下・持分法損失 東風汽車の持分法損益がさらに悪化し営業外損益を圧迫する シェア2.4%(-0.3pt)で低下継続、抜本対策は開示途上
Re:Nissan未達(FY2027/3が最終年) 自動車事業の営業黒字化・FCF黒字化が未達に終わり資本市場の評価が一段と厳しくなる 固定費2,000億円・変動費550億円を削減済み、工場再編は進行中
CASE/SDVによる競争軸の変質 中〜高 ハードウェア製造ノウハウの付加価値が低下し既存の参入障壁が目減りする AIDV戦略・e-POWER刷新で対応中、実装は途上

最大リスクの深掘り: 資金繰り・格付の連鎖リスク

日産の長期信用格付はMoody's Ba2・S&P BB-・Fitch BB・R&I BB+と、国内外の主要格付機関すべてが投機的等級(非投資適格)に位置づけている。
有価証券報告書は「さらなる格付の引き下げによっては、当初計画どおりの資金調達に支障をきたす可能性」と明記しており、これは仮定のリスクではなく開示文書上の明示的な懸念事項である。
自動車事業のFCFは-4,808億円(FY2026/3)と2期連続のマイナスで、悪化幅はFY2026/3に約2,380億円拡大した。
この状況下でFY2026中に米ドル建・ユーロ建普通社債と円建転換社債で合計8,600億円を調達しており、リファイナンス環境の悪化が続けば調達コストの上昇や条件の厳格化に直結しうる。

一方で緩和材料も無視できない。
自動車事業単体のネットキャッシュは1兆1,704億円、未使用のコミットメントラインはグループ全体で2兆3,116億円確保されており、無担保金融債務・コミットメントラインには格付見直しによる強制返済条項や新規借入制限条項が付いていない旨も有報に明記されている。
FY2027/3の自動車事業の債務償還額は約420億円にとどまり、直近の償還圧力自体は大きくない。
対抗策として、格下げの影響を受けにくいリース債権等の流動化による調達を検討中である。

バリュートラップリスクの深掘り: PBR0.24倍は「割安」か「資本効率の構造的な低さ」か

本件は典型的な「NC過剰蓄積型」のバリュートラップ論点ではない(標準NCは-489.6%と大幅マイナスで、現預金・投資有価証券が積み上がって放置されているタイプの割安株とは構造が逆である)。
ここでの論点は、PBR0.24倍という簿価割れの評価が「市場の見落としによる割安の放置」なのか、「資本効率の構造的な低さの反映」なのかという点にある。

判断材料としては、ROEが-10.9%と東証プライム基準の8%を大きく下回っていること、FY2025/3以降3期連続で無配であること、東証が要請する「資本コスト経営」への対応が道半ばであること、利益剰余金がFY2024/3の4兆2,855億円からFY2026/3には2兆8,707億円へ1兆4,149億円減少したこと、自己資本比率が30.13%から24.22%へ低下したことが挙げられる。
これらはいずれも一時的な誤評価ではなく、複数期にわたる構造的な資本の毀損を示しており、値付けの妥当性を評価する上ではこの構造要因を織り込んで解釈する必要がある。


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造分析

日産の値付けを特徴づけるのは、PBR0.24倍(比較3社中最低)と予想PER58.8倍(比較3社中最高)が同時に成立しているという一見矛盾した状態である。
この2つは実は同じ一つの事実の別の断面を映している。
PBRは自己資本(BPS1,372.56円)に対する簿価割れの度合いを表し、市場が純資産の価値をそのまま信用していないことを示す。
一方PERはFY2027/3会社予想純利益200億円という極端に薄い利益水準を分母に置くため、株価がわずかに動くだけでも倍率が大きく振れやすい。
つまり両者は「利益が資本規模に対して極小である」という同一の事実を、資産サイドから見るか(PBR)、フローサイドから見るか(PER)の違いにすぎない。

EV/EBITDAも定義によって大きく姿を変える。
標準NC定義では10.10倍だが、広義NCAV定義では2.99倍と3倍以上の開きがある。
これは販売金融事業の資金調達に紐づく負債をネット有利子負債にどこまで含めるかという定義の違いによるもので、captive finance(自社金融子会社)を持つ完成車メーカーに特有の論点である。
CN-PER(純有利子負債調整後PER)が標準NCベースで346.6倍まで跳ね上がるのも同じ構造(連結有利子負債の大きさ)を反映した結果であり、単体の利益力に対して企業価値ベースの負担が重いことを示す。

アナリストカバレッジやガバナンス面では、無配継続・ROEマイナスという状況下でアクティビストの存在が確認されていないこと、指名委員会等設置会社への移行後もゴーン事件・下請法勧告といったガバナンス上の論点が尾を引いていることも、市場の値付けを慎重にしている一因と考えられる。
前節で整理した通り、この状況を「割安の放置」と見るか「バリュートラップ(構造的な資本効率の低さ)」と見るかは、Re:Nissanの実行力とマレリ・関税・中国持分法といった外部要因の帰趨にかかっている、というのが本レポートの構造的な結論である。

条件分岐シナリオ

上方シナリオ: Re:Nissan最終年での自動車事業黒字化

Re:Nissan計画の最終年であるFY2027/3に、自動車事業の営業黒字化・FCF黒字化(米国関税影響を除く)が達成された場合、市場の評価軸は「PBRによる清算価値的な見方」から「PERによる収益力の見方」へ移行しうる。
標準NCの大幅マイナスという構造自体は短期間では変わらないが、自動車事業単体の稼ぐ力が確認されれば、連結ベースの評価が資産サイドの割引から利益サイドの評価へシフトする余地がある。

ベースシナリオ: 会社予想並みの着地

FY2027/3会社予想(営業利益2,000億円・純利益200億円)並みで着地した場合、現在の評価倍率の歪み(低PBR・高PER)は当面解消されにくい。
純利益水準が薄いままではPERは高倍率で高止まりし、PBRは自己資本の毀損(利益剰余金の減少・無配継続)が続く限り簿価割れの状態から抜け出しにくい。
評価軸としては、単年度の黒字転換それ自体よりも、自動車事業のFCFが安定的にプラス圏へ転じるかどうかが焦点になりうる。

下方シナリオ: 関税・シェア低下・格下げの重複

米国関税政策の再燃、中国市場でのシェア低下と持分法損失の拡大、格付のさらなる引き下げが重なった場合、評価軸はPBRの下限レンジへ引き直される可能性がある。
この場合、標準NCの大幅マイナス(-489.6%)という構造要因がより強く意識され、市場は「収益力による評価」ではなく「清算価値からの割引」というロジックに回帰しやすくなる。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年8月3日 FY2027/3 Q1決算発表 自動車事業の営業損益・FCFが黒字化に向けて進捗しているか
例年11月上旬 FY2027/3 Q2(中間)決算 通期会社予想(営業利益2,000億円)の据え置き・修正の有無
例年2月上旬 FY2027/3 Q3決算 Re:Nissan最終年に向けたコスト削減の進捗率
例年5月中旬 FY2027/3通期決算 Re:Nissan計画の最終年着地。自動車事業の営業黒字化・FCF黒字化の達成有無
例年6月下旬 定時株主総会 取締役会構成・報酬制度・ガバナンス論点への株主対応
随時 格付機関(Moody's/S&P/Fitch/R&I)のレビュー さらなる引き下げの有無、見通し(アウトルック)の変化
2026年度中(随時) 工場再編(17→10拠点)の進捗開示 追浜工場(2027年度末)・日産車体湘南工場(2026年度末)の生産終了スケジュール遵守
毎月 月次販売台数 地域別シェアの底打ち有無(日本・米国・欧州・中国)
随時 米国関税政策の動向 2026年2月の相互関税徴収停止後の政策変化、完成車・部品への影響再燃有無
随時 配当方針の再開有無 無配継続(FY2025/3以降3期)からの転換シグナル

※無配継続のため配当権利付き最終日は該当なし。本表では監視項目として扱わない。

M&A・出資検討の論点整理

買い手目線でEVの許容水準を規定する要因を整理すると、まず販売金融事業を含む連結有利子負債8兆7,097億円をどう引き受けるかが最大の論点になる。
自動車事業単体のネットキャッシュ1兆1,704億円はプラス材料だが、連結ベースの有利子負債の規模を踏まえると、企業価値の算定は「自動車事業と販売金融事業を一体で見るか、切り出すか」で大きく変わる。
販売金融事業(営業利益2,979億円・利益率23.88%)は収益性の高い安定事業であり、切り出して評価すれば相応の価値がつく一方、自動車事業への資金供給元(5期累計配当1兆1,328億円)という役割も担っており、切り離すことで自動車事業側の資金繰りに影響しうる。

シナジー・ディスシナジーの論点としては、プラットフォーム共通化やe-POWERの技術基盤の活用余地がある一方、ディーラー網の重複整理や工場再編に伴う雇用問題は政治的コストが大きい。
デューデリジェンスで確認すべき事項としては、マレリ関連の偶発債務、東風汽車の持分法損失の底、リコール・製造物責任にかかる引当の十分性、退職給付債務、ルノーとのアライアンス契約上の制約(議決権・優先交渉権等)、公正取引委員会からの下請法勧告(2024年3月)に対する2025年3月改善報告書提出後のフォロー状況が挙げられる。


7. 学びのポイント

📚 着眼点 1: 販売金融事業を連結する完成車メーカーのバランスシートをどう読むか

日産の標準NC比率は-489.6%と大幅マイナスだが、同じ会社の有報は自動車事業単体のネットキャッシュが+1兆1,704億円のプラスであることを開示している。
この2つの数字が同じ会社で同時に成立するのは、標準NC(連結有利子負債から現預金等を引く計算)が、オートローン・リースの原資として調達した販売金融事業の借入をそのまま合算してしまうためである。
captive finance(自社金融子会社)を持つ完成車メーカーの場合、連結有利子負債の大部分が「事業のための負債」ではなく「金融商品としての負債」であり、これを事業リスクの指標であるNCにそのまま織り込むと実態を見誤る。
銀行が住宅ローンの原資として調達した借入を銀行自身の経営の危うさの指標と同一視しないのと似た構図である。
日産を分析する際は、セグメント別の開示(自動車事業及び消去/販売金融事業)を必ず別々に確認し、連結の一枚岩の数字だけで判断しないことが分析上の要点になる。

📚 着眼点 2: PBR0.24倍と予想PER58.8倍が同時に成立する意味

PBRは分母が自己資本(ストック)、PERは分母が当期・将来利益(フロー)であり、両者は独立した指標のように見えるが、日産のケースでは同じ根本原因(利益が資本規模に対して極小)を映している。
PERが特に高くなるのは分母の利益が薄いためで、FY2025/3・FY2026/3のように赤字の期はそもそもPERが算出不能になる。
EDINET開示データが機械的な指標としてFY2025/3のPERに23.91という値を示す場合があっても、これは赤字期の分母(利益)がわずかでもプラスに振れた瞬間を捉えた見かけ上の数値であり、実態(赤字)を反映していないため採用できない。
低PBRを「割安」と即断せず、まず分子(株価)と分母(自己資本)のどちらが動いているのか、それが一時的な市場の見誤りなのか構造的な資本毀損なのかを見分ける視点が、この銘柄の理解には欠かせない。

📚 着眼点 3: 日産自動車の指標ポジショニング

指標 日産の値 比較3社平均 全上場中央値 評価コメント
予想PER 58.8倍 17.4倍 参考値(概数)15倍前後 利益水準が極端に薄いための見かけ上の高倍率であり収益力の割高感を意味しない
PBR 0.24倍 0.49倍 参考値(概数)1倍前後 簿価割れ。割安の放置か資本効率の構造的な低さかは前節の論点参照
ROE -10.9% -0.17% 参考値(概数)8%前後 東証プライム基準8%を大きく下回り3期連続で資本を毀損
EV/EBITDA(標準NC) 10.10倍 1.43倍(マツダ・三菱自2社平均。ホンダは算出不可) データなし captive finance分の負債合算で高めに出やすい
配当利回り 0.00% 3.90% 参考値(概数)2%台 FY2025/3以降無配継続、比較3社中唯一の無配
自己資本比率 24.22% 38.28% データなし 比較3社中最低で財務基盤の相対的な薄さを示す
営業利益率 0.48% 0.59% データなし ホンダも関税影響で赤字転落しており業界全体が同時に打撃を受けた期
CCC 1.69日 29.23日 データなし 仕入債務回転の長さに依存した短縮で在庫・債権効率の改善のみが要因ではない
総資産回転率 0.61回 要調査 データなし 比較3社の数値は本タスクでは未取得
研究開発費率 4.68% 要調査 参考値(概数)3〜5%前後 完成車メーカーとして標準的な水準

「比較3社平均」はホンダ・マツダ・三菱自の単純平均(業界平均ではない)。「全上場中央値」は本タスクで検証済みデータが提供されていないため、参考値(概数)またはデータなしと明記した。


参考情報

ガバナンス要点

日産自動車は1933年に自動車製造株式会社として設立(1934年に日産自動車へ商号変更)された、従業員数120,079人(FY2026/3、前期比-12,711人)の大手完成車メーカーである。
ゴーン元会長らの不正行為(金商法違反、2022年3月に会社自身も罰金2億円の有罪判決確定、課徴金22億2,489万5,000円納付済み)を受けて指名委員会等設置会社へ移行しており、取締役は男性10名・女性4名(女性比率29%)で構成される。
代表取締役社長兼CEOはイヴァン・エスピノーサ氏である(出典: 日産自動車ニュースルーム)。
世界13市場で完成車を生産し、約160市場で販売するグローバル展開を行っている。
ガバナンス上の論点としては、2024年3月の公正取引委員会からの下請法違反勧告(対象36社、約30億円の減額分を返金済み)を受け2025年3月に改善報告書を提出し社長直轄の「パートナーシップ改革推進室」を新設したこと、2017年の完成検査問題への再発防止の取り組みが継続中であることが挙げられる。

大株主構成

順位 株主名 保有比率 区分
1 ルノー(Renault) 35.71% 事業法人(経営参加目的)

EDINET大量保有報告書での5%以上の開示はルノー1件のみ。
2位以下は信託口等が中心で、本レポートでは確認できた範囲のみ記載する。
ルノーは2023年11月発効の新アライアンス契約に基づき直接15%・信託分を含め35.71%(2025年4月4日提出の変更報告書時点)を保有しており、アライアンス関係が日産の資本政策・提携方針に構造的な影響を持つ大株主である。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
財務データ(PL/BS/CF・セグメント) 2026-03-31 有価証券報告書(2026年6月22日提出)
直近通期決算・会社予想 2026-03-31(開示2026-05-13) 決算短信
株価・時価総額 2026-08-01 市場株価データ
大株主 2025-04-04 大量保有報告書
格付 2026-05-31 有価証券報告書記載

出典一覧

  1. EDINET DB — 企業基本情報・健全性スコア・最新決算(EDINET有価証券報告書ベース、2026年3月期・2026年6月22日提出)
  2. EDINET DB — 5期財務時系列(FY2022/3〜FY2026/3)
  3. EDINET DB — セグメント別売上・営業利益
  4. EDINET DB — 業界ベンチマーク・クレジット分析
  5. EDINET DB — 大量保有報告書(大株主構成)
  6. EDINET DB — 競合3社(本田技研工業・マツダ・三菱自動車工業)
  7. 有価証券報告書(2026年3月期)— 経営者による分析、地域別販売実績、セグメント別キャッシュ・フロー
  8. TDNet決算短信 — 速報値・会社予想(2026年5月13日開示)
  9. 日産自動車ニュースルーム — 長期ビジョン・AIDV戦略(2026年4月)、代表者情報
  10. 日産自動車IR — ルノー資本関係
  11. 市場株価データ(2026年8月1日時点)— 株価・時価総額
  12. 日本経済新聞 — 生産拠点再編(2025年7月)、ルノー資本関係
  13. モノイスト — 生産拠点再編(2025年7月)
  14. Bloomberg — 資本提携再交渉報道(2026年5月)
  15. 東洋経済オンライン — 資本提携再交渉報道