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半導体業界基礎ガイド_詳細版

【経済・電気機器】電気機器業界基礎ガイド

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目次
  1. 1. 半導体の立ち位置 ― なぜ「産業の米」と呼ばれるのか
  2. そもそも半導体とは
  3. どこに使われているか
  4. 2. 半導体はどうやって作られるのか ― 3つの工程
  5. 各工程の詳しい解説
  6. 3. ウェーハとは何か
  7. 基本概念
  8. ウェーハのサイズ
  9. ウェーハの薄さの単位
  10. 4. パッケージングとは何か
  11. なぜパッケージングが必要か
  12. パッケージングの工程
  13. 5. ファウンドリとOSATの違い
  14. ファウンドリ(前工程の受託工場)
  15. OSAT(後工程の受託工場)
  16. 比較表
  17. 6. 先端パッケージング ― AIとHBMがなぜ特別なのか
  18. 従来のパッケージング vs 先端パッケージング
  19. AI半導体で使われる先端技術
  20. なぜHBMが重要なのか
  21. 7. SiCパワー半導体とは何か
  22. パワー半導体とは
  23. SiC(炭化ケイ素)が特別な理由
  24. なぜSiCのウェーハ加工が難しいのか
  25. 8. 貼合・剥離(TBDB)装置の役割
  26. TBDBとは
  27. なぜ貼り合わせる必要があるのか
  28. 9. 半導体製造装置のビジネスモデル
  29. シクリカル(景気循環)型ビジネス
  30. 受注生産モデルの特徴
  31. 業界の主要プレイヤー分類
  32. 10. タツモの産業チェーンにおける位置づけ(まとめ)
  33. タツモの3つの成長ドライバー
  34. 11. タツモの「9割シェア」はどれくらいすごいのか ― 先端パッケージングでの本当の立ち位置
  35. 2つの市場で見える「シェアの本当の姿」
  36. TSMCの最先端ラインでの役割分担
  37. Hybrid Bonding ― タツモがまだ入れていない「次世代の主戦場」
  38. 12. ニッチ市場の天井とポートフォリオ転換の現実
  39. 「9割シェア」のパラドックス
  40. 市場規模の壁 ― 数値で見る
  41. ポートフォリオ転換 ― なぜ急務なのか
  42. FY2026の減益予想が意味すること
  43. まとめ ― ニッチ戦略の持続性チェックリスト
  44. 13. 半導体業界の全体相関図 ― 誰が誰に何を売っているか
  45. 産業チェーン全体図
  46. 14. 主要企業カタログ ― 誰が何をしているか
  47. ファブレス(設計専門) ― レシピを考える会社
  48. ファウンドリ(製造受託) — プロの厨房
  49. メモリ — データを記憶する会社
  50. OSAT(後工程受託) — 梱包・配送センター
  51. 半導体製造装置 — 料理の道具を作る会社
  52. パワー半導体 — 電気をコントロールする会社
  53. 半導体材料 — 料理の素材を作る会社
  54. 15. セグメント別の市場規模と成長率(CAGR)
  55. 半導体市場全体の地図
  56. セグメント別 詳細データ
  57. 成長率ランキング ― どのセグメントが一番伸びるか
  58. 16. 用語集
  59. 関連ガイド
  60. 出典

半導体業界の基礎知識 非専門家向けガイド

[図]

半導体とは? スマホ、AI、電気自動車 ― 現代のあらゆるテクノロジーを動かす「頭脳」と「神経」の材料であり、その製造プロセスには驚異的な精密さが求められます。
このガイドでは、半導体がどうやって作られ、どうやってビジネスになっているのかを、日常の比喩で解き明かします。

TIP

このガイドはタツモ(6266)の銘柄分析レポートを読むために必要な業界知識を整理したものです。投資対象の理解を深める一助としてご活用ください。


1. 半導体の立ち位置 ― なぜ「産業の米」と呼ばれるのか

そもそも半導体とは

半導体は、文字通り「導体(電気がよく通るもの)」と「絶縁体(電気が通らないもの)」の中間の性質を持つ材料です。
シリコンという砂の仲間の元素を主原料に使い、電気を「通す / 通さない」を自在にコントロールできるように加工したものが半導体チップ(IC、LSI などとも呼ばれます)です。

💡 たとえるなら: 半導体は「電気の交通信号」

  • 信号機が「赤・青・黄色」で車の流れを制御するように、半導体チップは電気の流れを「ON / OFF」で制御します
  • この ON/OFF の組み合わせで「0と1」のデジタル情報を処理します
  • スマホの中には数十億個の「小さな信号機」が詰まっています

どこに使われているか

分野 身近な例 半導体の役割
スマホ・PC iPhone、ノートPC 頭脳(CPU)、記憶(メモリ)、通信
AI・データセンター ChatGPT、クラウド AI計算の高速処理(GPU)
自動車 エンジン制御、自動ブレーキ 車の「神経網」(1台に1,000〜3,000個)
家電 テレビ、冷蔵庫、洗濯機 省エネ制御、便利機能
産業機器 工場のロボット、医療機器 精密な制御とセンシング

2. 半導体はどうやって作られるのか ― 3つの工程

半導体の製造は大きく前工程・中工程・後工程の3つに分かれます。

💡 たとえるなら: 料理の工程

  • 前工程 = 食材を切って下味をつける「仕込み」
  • 中工程 = フライパンでひっくり返す「調理」
  • 後工程 = 器に盛り付けてラップをかける「盛り付け・配達」
graph LR
    subgraph 前工程_フロントエンド
        A1["🧑‍🍳 ウェーハ製造<br/>(生地作り)"] --> A2["📸 フォトリソグラフィ<br/>(レシピ通りに焼き付け)"]
        A2 --> A3["⚡ エッチング<br/>(不要部分を削る)"]
        A3 --> A4["🔧 不純物注入<br/>(味付け)"]
        A4 --> A5["🎨 成膜<br/>(コーティング)"]
    end

    subgraph 中工程_ミドルエンド
        B1["研磨で薄くする"] --> B2["貼合<br/>(養生テープで固定)"]
        B2 --> B3["バックグラインド<br/>(裏面を削る)"]
        B3 --> B4["剥離<br/>(テープを慎重に剥がす)"]
    end

    subgraph 後工程_バックエンド
        C1["✂️ ダイシング<br/>(1個ずつカット)"] --> C2["📦 パッケージング<br/>(容器に入れる)"]
        C2 --> C3["🔍 テスト<br/>(品質検査)"]
    end

    A5 --> B1
    B4 --> C1

    style B2 fill:#e74c3c,color:#fff
    style B4 fill:#e74c3c,color:#fff

各工程の詳しい解説

工程 別名 何をしているか たとえ
前工程 フロントエンド ウェーハ上に回路のパターンを焼き付ける ピザ生地にトッピングを載せて焼く
中工程 ミドルエンド ウェーハを薄くし、加工しやすくする クレープ生地を薄く伸ばしてひっくり返す
後工程 バックエンド チップを切り出し、容器(パッケージ)に入れる 焼けたピザを一切れずつカットして箱に入れる
NOTE

赤くハイライトした「貼合」と「剥離」が、タツモ(6266)が世界シェア9割を握る領域です。中工程で最も繊細な工程であり、髪の毛の1/100以下の薄さのウェーハを壊さずに扱う必要があります。


3. ウェーハとは何か

基本概念

ウェーハとは、シリコン(砂の仲間)を円盤状に切り出した薄い板のことです。この板の上に回路を描き込んでいきます。

💡 たとえるなら: ウェーハは「ビニールレコードの円盤」

  • 直径30cm(12インチ)の丸い板に、何十億もの回路パターンが刻まれます
  • 1枚のウェーハから数百〜数千個のチップが作れます
  • ウェーハが大きいほど1回の工程でたくさんのチップが作れる = コストが下がる

ウェーハのサイズ

サイズ 直径 主な用途
150mm(6インチ) 約6インチ 古い規格、電源管理チップ等
200mm(8インチ) 約8インチ アナログチップ、センサー、パワー半導体
300mm(12インチ) 約12インチ 最新のCPU、GPU、メモリ(主流)

ウェーハの薄さの単位

単位 厚さ 身近な比較
1mm 1,000μm 爪の厚さ
100μm 100μm コピー用紙1枚分
30μm以下 タツモの対応領域 サランラップより薄い
TIP

タツモの貼合・剥離技術は、30μm以下の極薄ウェーハを扱います。
これはサランラップ(約10μm)とコピー用紙(約100μm)の間の薄さです。
これを割らずに貼ったり剥がしたりする技術が、タツモの最大の強みです。


4. パッケージングとは何か

なぜパッケージングが必要か

前工程が終わったウェーハは、まだ「むき出しのチップ」の状態です。
このままでは指で触っただけで壊れてしまいます。パッケージングは、むき出しのチップを丈夫な容器に入れ、外の世界(基板)と電気的に繋ぐ作業です。

💡 たとえるなら: パッケージングは「引っ越しの梱包」

  • 割れやすい陶器(むき出しチップ)をプチプチと段ボール(パッケージ)で包む
  • 段ボールの外には「宛先ラベル」(端子)を貼って、どこに配るか分かるようにする
  • 丈夫な箱に入っているから、安心して運べる

パッケージングの工程

graph LR
    A["ウェーハ<br/>(完成品)"] --> B["ダイシング<br/>(チップを切り出す)"]
    B --> C["ダイボンディング<br/>(基板に貼る)"]
    C --> D["ワイヤーボンディング<br/>(電気を繋ぐ)"]
    D --> E["モールド<br/>(樹脂で覆う)"]
    E --> F["完成したIC<br/>(製品)"]

    style A fill:#3498db,color:#fff
    style F fill:#27ae60,color:#fff
工程 詳細 たとえ
ダイシング ウェーハを1個ずつカット ピザをピースに切る
ダイボンディング カットしたチップを基板に固定 陶器を箱の底にテープで固定
ワイヤーボンディング チップと基板を金線で繋ぐ 箱の外に電源コードを出す
モールド 樹脂で全体を覆う 段ボールを閉じてテープで封印

5. ファウンドリとOSATの違い

半導体の製造には、大きく2つのタイプの企業が関わっています。

ファウンドリ(前工程の受託工場)

💡 たとえるなら: ファウンドリは「Kitchen(プロの厨房)」

  • 料理(チップ設計)のレシピを持っているが、自宅に立派なキッチンがないレストランが、プロの厨房を借りて料理する仕組み
  • 設計だけをする会社(フェイバレス)と、製造だけをする会社(ファウンドリ)に分業化している

OSAT(後工程の受託工場)

💡 たとえるなら: OSATは「デリバリーサービス(出前)」

  • 厨房で作られた料理(前工程済みウェーハ)を受け取り、綺麗に盛り付けて箱に入れ、お客さんに届ける
  • ファウンドリが料理を作るのに集中できるよう、梱包と配送(パッケージング)を専門に請け負う

比較表

観点 ファウンドリ OSAT
正式名称 Foundry Outsourced Semiconductor Assembly and Test
担当工程 前工程(回路をウェーハに描く) 後工程(チップを切り出して箱に入れる)
たとえ プロの厨房 出前・デリバリー
代表企業 TSMC(台湾)、Samsung(韓国)、Intel(米国) ASE(台湾)、Amkor(米国)、JCET(中国)
設備投資額 超巨大(1工場で1兆円超) 中規模(数百億円規模)
技術のキーワード ナノメートル(回路の細かさ) パッケージの多層化・小型化
NOTE

最近ではファウンドリからOSATへ生産を委託する「OSATシフト」が進んでおり、タツモのような後工程装置メーカーにとっては新規顧客の増加という追い風になっています。


6. 先端パッケージング ― AIとHBMがなぜ特別なのか

従来のパッケージング vs 先端パッケージング

AI(ChatGPTなど)を動かすには、膨大な計算能力が必要です。そのため、複数のチップを1つのパッケージに高密度に詰め込む「先端パッケージング」技術が急速に発展しています。

💡 たとえるなら:

  • 従来: 1人暮らしのアパート(チップ1個を箱に入れる)
  • 先端パッケージング: タワーマンション(複数のチップを1つの箱に高密度に詰める)

AI半導体で使われる先端技術

graph TB
    subgraph 先端パッケージング技術
        direction TB
        A["CoW<br/>Chip-on-Wafer<br/>チップをウェーハに載せる"]
        B["WoW<br/>Wafer-on-Wafer<br/>ウェーハ同士を貼り合わせる"]
        C["Hybrid Bonding<br/>次世代接合<br/>銅で直接くっつける"]
    end

    subgraph 応用先
        D["AI半導体<br/>(NVIDIA等)"]
        E["HBM<br/>(高速メモリ)"]
    end

    A --> D
    B --> E
    C --> D
    C --> E
技術 読み方 何をするか タツモとの関係
CoW チップ・オン・ウェーハ チップを別のウェーハの上に精密に並べる 薄型ウェーハの貼合・剥離が必須
WoW ウェーハ・オン・ウェーハ ウェーハ同士をそのまま貼り合わせる 貼合技術が直結
HBM エイチビーエム(High Bandwidth Memory) メモリチップを縦に積み重ねる 各層の薄型化に貼合・剥離が必要
Hybrid Bonding ハイブリッド・ボンディング 銅の接点でチップ同士を直接くっつける 次世代技術。市場は急成長中

なぜHBMが重要なのか

HBM(High Bandwidth Memory)は、AIの計算に不可欠な「超高速メモリ」です。
従来のメモリは横に並べて配置していましたが、HBMは縦に積み重ねることで、データの通り道を劇的に太くしています。

💡 たとえるなら:

  • 従来のメモリ: 1車線の道路(データが渋滞する)
  • HBM: 10車線の高速道路(データがスイスイ流れる)
  • AIが大量のデータを処理するには、太い道路が必要

HBMの製造では、メモリチップを1枚ずつ薄くして(30μm以下)縦に積み重ねます。この「薄くする→貼る→剥がす」工程でタツモの装置が使われます。


7. SiCパワー半導体とは何か

パワー半導体とは

パワー半導体は、電気の「強さ」を変換・制御するチップです。電圧を上げ下げしたり、直流(DC)と交流(AC)を変換したりする役割を持ちます。

💡 たとえるなら: パワー半導体は「電気の変電所・蛇口」

  • 発電所からの高圧電気を、家庭で使える100Vに変換する変電所のような役割
  • 蛇口をひねって水の勢いを調整するように、電気の量をコントロールする

SiC(炭化ケイ素)が特別な理由

従来のパワー半導体はシリコン(Si)という材料で作られていましたが、SiC(炭化ケイ素) は次世代材料として注目されています。

比較項目 従来のシリコン(Si) 次世代 SiC どう違うか
エネルギー損失 普通 約50%削減 電気の無駄が半分になる
耐熱性 150°C程度 200°C以上 過酷な環境でも壊れない
小型化 普通 同じ性能で小型化可能 装置が小さく軽くなる
主な用途 家電、一般的な電子機器 EV、太陽光発電、産業機器 省エネが重要な場所
製造コスト 安い 高い(まだ普及過渡期) 量産が進めばコストダウン期待
TIP

SiCパワー半導体の市場は、EV(電気自動車)の普及とともに急成長しています。
タツモはこのSiCウェーハの貼合・剥離装置で世界シェア約9割を握っています。
「替えが利かない存在」だからこそ、SiC市場の成長がそのままタツモの売上増につながる構造です。

なぜSiCのウェーハ加工が難しいのか

SiCはシリコンより硬い材料です(ダイヤモンドに次ぐ硬さ)。そのため:


8. 貼合・剥離(TBDB)装置の役割

TBDBとは

TBDB(Temporary Bonding and DeBonding)は、「一時的に貼り付けて、加工後に剥がす」という2つの工程のことです。

💡 たとえるなら: TBDBは「手術中の固定と解除」

  • 骨折手術で、細い骨をプレートで一時的に固定する(=貼合 = Bonding
  • 骨がくっついたら、プレートを慎重に外す(=剥離 = DeBonding
  • 細くて脆い骨(極薄ウェーハ)を壊さないように扱うのが、この装置の仕事

なぜ貼り合わせる必要があるのか

graph LR
    A["完成したウェーハ<br/>(厚さ約700μm)"] --> B["研磨で薄くする<br/>(30μm以下に)"]
    B --> C["問題発生!<br/>薄すぎて自力で持てない"]
    C --> D["💡 支持台に貼り付ける<br/>(= 貼合/Bonding)"]
    D --> E["安全に裏面加工"]
    E --> F["加工完了<br/>支持台から剥がす<br/>(= 剥離/DeBonding)"]
    F --> G["極薄ウェーハ完成"]

    style C fill:#e74c3c,color:#fff
    style D fill:#27ae60,color:#fff
    style F fill:#3498db,color:#fff
工程 英語 何をするか 難しさ
貼合 Temporary Bonding 極薄ウェーハを支持台に接着剤で貼る 均一に貼らないと歪む
剥離 DeBonding 加工後に支持台からウェーハを剥がす 30μmの薄さのウェーハを割らずに剥がす
差圧技術 Differential Pressure タツモ独自の剥離方法 接着剤に特殊な光を当てて脆くしてから剥がす
NOTE

タツモの差圧(差圧)技術は、接着剤にUV光や熱を当てて接着力を弱めてから、微妙な圧力差で剥がすという方法です。
これにより、サランラップより薄いウェーハを割らずに剥がすことができます。
この技術で世界シェア9割を握っているため、簡単に代替品が見つかりません(=参入障壁が高い)。


9. 半導体製造装置のビジネスモデル

シクリカル(景気循環)型ビジネス

半導体製造装置のビジネスは、シクリカル(景気循環に大きく波がある)という特徴を持っています。

💡 たとえるなら: 半導体装置の売上は「農業の収穫」

  • 天候(景気)が良ければ豊作(売上増)
  • 天候が悪ければ不作(売上減)
  • でも長期で見れば、人口増(デジタル化)に伴って需要は右肩上がり
graph LR
    subgraph 景気拡大期
        A1["半導体需要増"] --> A2["工場の増設ラッシュ"]
        A2 --> A3["装置メーカー<br/>受注急増"]
        A3 --> A4["売上・利益急増"]
    end

    subgraph 景気縮小期
        B1["半導体需要減"] --> B2["工場の増設ストップ"]
        B2 --> B3["装置メーカー<br/>受注急減"]
        B3 --> B4["売上・利益急減"]
    end

    A4 --> B1
    B4 --> A1

受注生産モデルの特徴

半導体装置は受注生産(注文が来てから作る)方式が主流です。

特徴 詳細 たとえ
受注→納品まで長い 6〜18か月 オーダーメイドスーツの採寸→完成
仕掛品が膨らむ 作業中の在庫が増える レストランで大量の注文が入り、厨房に仕込み中の食材が溢れる
キャッシュフローが変動 作っている間はお金が出ていくのみ 材料費は先に払うが、売上は納品後
納品時に一気に回収 納品・検収後に代金が入る 着物が完成して初めて代金が入る
TIP

タツモの2021〜2023期に営業CFが赤字だったのは、大型案件の「仕掛品」が膨らんでいたためです。
2024〜2025期に黒字に転換したのは、その仕掛品の納品・回収が完了したからです。
つまり**「棚卸資産が増えている時期は一時的なCF悪化を許容し、減り始めたら回復を期待する」**という読み方ができます。

業界の主要プレイヤー分類

分類 代表企業 たとえ
大手総合型 東京エレクトロン、SCREEN HD 大型総合スーパー(何でも揃う)
後工程専業型 TOWA、ディスコ 専門店(一つの分野に特化)
ニッチプロセス型 タツモ、芝浦メカトロニクス 町の名店(大手がやらない繊細な仕事を独占)
検査・計測型 レーザーテック、アドバンテスト 品質検査センター(出来栄えをチェック)
NOTE

タツモは「ニッチプロセス型」に位置します。
大手総合スーパー(東京エレクトロン等)が巨大な装置ラインを手がける中、タツモは「最も繊細な一手(貼合・剥離)」に特化することで、大手が参入しにくい隙間市場を支配しています。


10. タツモの産業チェーンにおける位置づけ(まとめ)

これまでの知識をまとめると、タツモのビジネスがどこに位置するかが見えてきます。

graph TB
    subgraph 上流_材料と部品
        S1["Brewer Science<br/>(接着剤)"]
        S2["日東電工<br/>(UVテープ)"]
        S3["東京応化工業<br/>(レジスト材料)"]
        S4["三菱電機/安川電機<br/>(モーター)"]
    end

    subgraph タツモの領域
        T1["貼合・剥離装置<br/>(世界シェア9割)"]
        T2["搬送ロボット"]
        T3["コーター/現像装置"]
    end

    subgraph 下流_顧客
        C1["TSMC/Samsung/Intel<br/>(ファウンドリ)"]
        C2["ASE/Amkor<br/>(OSAT)"]
        C3["ローム/Infineon<br/>(パワー半導体)"]
    end

    S1 --> T1
    S2 --> T1
    S3 --> T3
    S4 --> T2

    T1 --> C1
    T1 --> C2
    T1 --> C3
    T2 --> C1
    T2 --> C2

    style T1 fill:#e74c3c,color:#fff
    style T2 fill:#3498db,color:#fff
    style T3 fill:#27ae60,color:#fff

タツモの3つの成長ドライバー

ドライバー どう成長しているか タツモへの影響
AI/先端パッケージング AI需要がHBM・CoW/WoWの生産拡大を牽引 半導体装置部門の売上増(+39.7%)
SiCパワー半導体 EV普及でSiCチップの需要が急増 世界シェア9割の装置が直接恩恵
OSATシフト ファウンドリから後工程専門業者への委託拡大 新規顧客の増加

11. タツモの「9割シェア」はどれくらいすごいのか ― 先端パッケージングでの本当の立ち位置

ここまで読んできた方の中には、「タツモは世界シェア9割だから最強では?」と思った方もいるでしょう。しかし、その9割が何の9割かを知ることが、投資判断で最も重要なポイントの一つです。

WARNING

ここが最も注意すべきポイントです。
「世界シェア9割」という言葉は、対象となる市場の範囲によって全く意味が変わります。 パワー半導体向けで9割でも、先端パッケージング(AI/HBM向け)では立場が大きく異なります。

2つの市場で見える「シェアの本当の姿」

タツモのTBDB(貼合・剥離)装置は、大きく2つの市場にまたがっています。

💡 たとえるなら: 自動車部品メーカーの例

  • ある部品メーカーが「軽自動車用の特殊ワイパーで世界シェア9割」だとします
  • でも「F1レーシングカー用の高性能ワイパー」という別の市場では、別のメーカーがリーダー
  • 「ワイパーで9割」は事実でも、どの市場のワイパーかで評価が全く変わる
  • タツモも同じで、「パワー半導体用の貼合・剥離で9割」と「AI向けの貼合・剥離」は別の市場
graph TB
    subgraph "パワー半導体向け TBDB(タツモの庭)"
        A1["タツモ<br/>シェア ≈ 90%<br/>← ここは圧倒的"]
        A2["その他<br/>シェア ≈ 10%"]
    end

    subgraph "先端パッケージング向け TBDB(激戦区)"
        B1["SUSS MicroTec(独)<br/>Temporary Bonding ≈ 65%"]
        B2["EV Group(墺)<br/>Hybrid Bonding ≈ 82%"]
        B3["タツモ<br/>CoWoS Debonder のみ"]
        B4["TEL / Applied Materials 等"]
    end

    style A1 fill:#27ae60,color:#fff
    style B1 fill:#e74c3c,color:#fff
    style B2 fill:#e74c3c,color:#fff
    style B3 fill:#f39c12,color:#fff
市場 タツモの立ち位置 シェア リーダーは誰か
パワー半導体向けTBDB 圧倒的リーダー ≈90% タツモ
先端PKG Temporary Bonding 部分参入(Debonderのみ) 小規模 SUSS MicroTec(≈65%)
先端PKG Hybrid Bonding 未参入 0% EV Group(≈82%)

TSMCの最先端ラインでの役割分担

世界最先端の半導体を作っているTSMC(台湾)のAI向けチップ製造ライン「CoWoS」では、ボンディング装置が工程ごとに別のメーカーを使い分けています。

💡 たとえるなら: 高級レストランの厨房

  • 魚をさばくのはAシェフ(SUSS MicroTec)
  • 肉を焼くのはBシェフ(AIメカテック)
  • 皿から盛り付けを外すのはCシェフ(タツモ
  • タツモは厨房に入っているが、「皿盛りを外す」1工程のみの担当
TSMC CoWoSの工程 担当装置メーカー やっていること
RDL層の Temporary Bonder(貼合) SUSS MicroTec(独) 回路を繋ぐ配線層を作るための貼合
Siインターポーザの Temporary Bonder AIメカテック(日) チップ間を繋ぐ基板の貼合
CoWoS Debonder(剥離) タツモ 加工後に仮止めを剥がす
NOTE

タツモはTSMCの最先端ラインに入っていることは事実です。
ただし、担当するのは「剥離(Debonder)」の1工程で、より付加価値の高い「貼合(Bonder)」や次世代の「Hybrid Bonding」は欧州のSUSS・EVGが握っています。

Hybrid Bonding ― タツモがまだ入れていない「次世代の主戦場」

Hybrid Bonding(ハイブリッド・ボンディング) は、銅の接点を使ってチップ同士を直接くっつける次世代技術です。
従来の「接着剤で仮止めして剥がす(TBDB)」とは全く異なるアプローチで、AI半導体のさらに次の進化に不可欠な技術と言われています。

💡 たとえるなら:

  • 従来のTBDB = セロハンテープで貼って剥がす(接着剤を介在させる)
  • Hybrid Bonding = マグネット同士がカチッとくっつくような直接接合(接着剤不要)
  • 接着剤不要だから、より薄く、より精密に、より高速に繋げる
指標 従来TBDB(タツモの得意領域) Hybrid Bonding(次世代)
接合方法 接着剤で仮止め → 加工 → 剥がす 銅の表面を直接くっつける
たとえ セロハンテープ マグネットのカチッ
タツモの立ち位置 世界シェア ≈ 90%(パワー半導体) 未参入
市場のリーダー EV Group ≈ 82%
市場成長率 ≈ 5〜9%/年 ≈ 28%/年(急成長)
TIP

Hybrid Bonding市場は2024年〜2029年にかけてCAGR 28%で急成長すると予測されています。
この「最も成長している市場」にタツモが入れていないことは、中長期的な成長の上限を考える上で重要な視点です。


12. ニッチ市場の天井とポートフォリオ転換の現実

「9割シェア」のパラドックス

タツモの「ニッチトップ戦略」には、一つの根本的なジレンマがあります。

💡 たとえるなら: 小さな島のパン屋さん

  • 人口500人の島で、パン屋は1軒だけ。シェア100%
  • でも島の人口が増えない限り、パン屋の売上は天井にぶつかる
  • 「隣の大きな島(先端PKG市場)」にも出店したいが、そこには大型チェーン(SUSS、EVG)が既にいる
  • 自分の島(パワー半導体)が豊かになれば売上は増えるが、それは「パイが大きくなる」受動的な成長

市場規模の壁 ― 数値で見る

シナリオ 市場規模 タツモの理論上限 現状売上 あとどれくらい伸びるか
パワー半導体TBDB限定(9割シェア) 350〜600億円 300〜540億円 ≈90億円 3〜6倍の余地あり
先端PKG向け(部分参入) 数百億円規模 ≈60〜80億円 SUSS/EVGと競合
Hybrid Bonding(未参入) 急成長中 0 参入障壁が高い

ポイント: パワー半導体市場自体(SiC)は年率26%で急成長しています。
つまり市場のパイが大きくなれば、タツモも9割を維持したまま売上を伸ばせる構造です。
ただし「シェアを拡大して成長する」のではなく「市場が成長するから成長する」という受動的な成長に過ぎません。

ポートフォリオ転換 ― なぜ急務なのか

タツモの売上構成は現在、大きく変化しています。

graph LR
    subgraph "2024年12月期(1年前)"
        A1["半導体装置 123億<br/>(35%)"]
        A2["搬送装置 83億<br/>(23%)"]
        A3["洗浄装置 56億<br/>(16%)"]
        A4["コーター 25億<br/>(7%)"]
        A5["表面処理 65億<br/>(18%)"]
    end

    subgraph "2025年12月期(現在)"
        B1["半導体装置 172億<br/>(49%)↑+40%"]
        B2["搬送装置 77億<br/>(22%)"]
        B3["洗浄装置 18億<br/>(5%)↓-69%"]
        B4["コーター 8億<br/>(2%)↓-66%"]
        B5["表面処理 68億<br/>(19%)"]
    end

    style A1 fill:#3498db,color:#fff
    style B1 fill:#27ae60,color:#fff
    style A3 fill:#e67e22,color:#fff
    style A4 fill:#e67e22,color:#fff
    style B3 fill:#e74c3c,color:#fff
    style B4 fill:#e74c3c,color:#fff
ポートフォリオ転換のタイムリミット

2025年12月期の実績を見ると:

  • 成長部門(半導体装置): +49億円増
  • 縮小部門(洗浄+コーター): -55億円減
  • 結果: 連結売上は -1.2% の微減

半導体装置部門の急成長(+39.7%)が、縮小部門の落ち込みをかろうじてカバーした状態です。もし来期以降、半導体装置部門の成長が鈍化した場合、連結売上は即座に減収に転じます。

FY2026の減益予想が意味すること

タツモは2026年12月期の会社予想として、営業利益 -24.5%(36億円)を発表しています。

指標 2025年12月期(実績) 2026年12月期(予想) 変化
売上高 354億円 355億円 +0.2%
営業利益 48億円 36億円 -24.5%
営業利益率 13.5% 10.1% -3.4pt

💡 たとえるなら:

  • 売上はほぼ横ばい(収入は変わらない)
  • でも利益が24%も減る(手取りが減る)
  • これは「不採算事業を抱えたまま、成長事業の伸びが鈍った」状態の典型的な兆候

減益の主な要因は:

  1. 半導体装置部門の成長ペースが鈍化(前年+39.7%の反動)
  2. 洗浄・コーター部門の縮小が継続(回復の兆しなし)
  3. 固定費の負担増(売上横ばいでも経費は増える)

まとめ ― ニッチ戦略の持続性チェックリスト

チェック項目 現状 評価
パワー半導体市場の成長に乗れるか SiC市場CAGR 26%に乗る構造 :white_check_mark:
9割シェアを維持できるか 技術的参入障壁は高い :white_check_mark:
先端PKG市場でシェア拡大できるか Debonderのみ、BonderはSUSSが握る :warning:
Hybrid Bondingに参入できるか 未参入、EVGが82%独占 :x:
縮小部門の穴埋めができるか 半導体装置部門の成長次第 :warning:
新たな成長柱を育てられるか 搬送ロボットは安定、新規は不明 :warning:
投資上の着目点

短期的: 2026年12月期は減益確実。営業利益36億円で予想PER 15倍台は割安とは言い難い。上方修正(通常8月の2Q決算時)が最大のカタリスト。

中期: パワー半導体(SiC)の成長トレンドに乗れるかが鍵。
市場がCAGR 26%で拡大すれば、タツモも9割シェアを維持したまま売上を伸ばせる。
ただし「市場成長に引っ張られる受動的成長」である点に注意。

長期: 先端パッケージング(Hybrid Bonding等)市場への参入ができなければ、ニッチ市場の天井に直面する。
EVG・SUSSが支配する市場への参入障壁は高く、M&Aや技術提携が必要になる可能性がある。


13. 半導体業界の全体相関図 ― 誰が誰に何を売っているか

産業チェーン全体図

半導体業界は、ざっくり6つの層に分かれています。上から順に「材料 → 装置 → 製造 → 設計 → 後工程 → 最終製品」という流れです。

💡 たとえるなら: 食品スーパーのサプライチェーン

  • 材料メーカー = 農家・牧場(素材を作る)
  • 装置メーカー = 農機具・厨房機器メーカー(道具を作る)
  • ファウンドリ = 食品工場(素材を加工して製品にする)
  • ファブレス = レシピ開発会社(メニューを考えるだけ)
  • OSAT = デリバリー・梱包センター(箱に入れて届ける)
  • 最終製品 = スーパーの棚(消費者が買う場所)
graph TB
    subgraph "第1層: 材料"
        M1["信越化学<br/>シリコンウェーハ世界シェア42%"]
        M2["SUMCO<br/>ウェーハ世界2位"]
        M3["東京応化工業<br/>フォトレジスト世界トップ"]
        M4["JSR<br/>EUVレジスト"]
    end

    subgraph "第2層: 製造装置"
        E1["ASML<br/>EUV露光装置<br/>世界唯一"]
        E2["Applied Materials<br/>装置総合<br/>世界1位"]
        E3["東京エレクトロン<br/>装置日本1位"]
        E4["ラムリサーチ<br/>エッチング"]
        E5["KLA<br/>検査・計測"]
        E6["SCREEN HD<br/>洗浄装置"]
        E7["ディスコ<br/>ダイシング・研削"]
        E8["アドバンテスト<br/>テスト装置"]
        E9["レーザーテック<br/>EUVマスク検査"]
        E10["SUSS MicroTec<br/>Temporary Bonder"]
        E11["EV Group<br/>Hybrid Bonding"]
        E12["TOWA<br/>モールド装置"]
        E13["タツモ<br/>貼合・剥離装置"]
    end

    subgraph "第3層: ファウンドリ(製造)"
        F1["TSMC<br/>世界シェア72%"]
        F2["Samsung Foundry"]
        F3["Intel Foundry"]
        F4["GlobalFoundries"]
        F5["Rapidus<br/>(2027年量産予定)"]
    end

    subgraph "第3.5層: ファブレス(設計)"
        D1["NVIDIA<br/>AI GPU世界トップ"]
        D2["AMD<br/>CPU/GPU"]
        D3["Qualcomm<br/>スマホ向け"]
        D4["Broadcom<br/>通信・AIチップ"]
        D5["Apple<br/>自社チップ設計"]
    end

    subgraph "第3.5層: メモリ"
        N1["SK Hynix<br/>HBM世界トップ"]
        N2["Samsung Memory<br/>メモリ総合1位"]
        N3["Micron"]
        N4["キオクシア<br/>NAND"]
    end

    subgraph "第4層: OSAT(後工程)"
        O1["ASE Group<br/>OSAT世界1位"]
        O2["Amkor"]
        O3["JCET<br/>(中国)"]
        O4["PTI<br/>Powertech"]
    end

    subgraph "第4.5層: パワー半導体"
        P1["Infineon<br/>パワー世界1位"]
        P2["STMicroelectronics"]
        P3["ローム<br/>SiC第5世代"]
        P4["Wolfspeed<br/>SiC基板"]
        P5["ON Semiconductor"]
        P6["三菱電機"]
    end

    subgraph "第5層: 最終製品"
        R1["AIサーバー<br/>(NVIDIA GPU搭載)"]
        R2["スマホ<br/>(Qualcomm/Apple)"]
        R3["EV・自動車<br/>(パワー半導体)"]
        R4["PC・クラウド"]
    end

    %% 材料 → 装置(材料は装置で使われる)
    M1 -.->|ウェーハ供給| F1
    M3 -.->|レジスト供給| F1

    %% 装置 → ファウンドリ
    E1 -->|露光装置| F1
    E1 -->|露光装置| F2
    E2 -->|各種装置| F1
    E3 -->|コーター・エッチング| F1
    E4 -->|エッチング| F1
    E5 -->|検査| F1
    E6 -->|洗浄| F1
    E10 -->|Temporary Bonder| F1
    E11 -->|Hybrid Bonding| F1
    E12 -->|モールド| O1
    E13 -->|貼合・剥離| F1
    E13 -->|貼合・剥離| P1

    %% ファブレス → ファウンドリ(製造を委託)
    D1 -->|製造委託| F1
    D2 -->|製造委託| F1
    D3 -->|製造委託| F2
    D5 -->|製造委託| F1

    %% ファウンドリ → OSAT
    F1 -->|後工程委託| O1
    F1 -->|後工程委託| O2
    F2 -->|後工程委託| O1

    %% OSAT → 最終製品
    O1 --> R1
    O2 --> R2

    %% メモリ → 最終製品
    N1 -->|HBM供給| R1

    %% パワー半導体 → 最終製品
    P1 --> R3
    P3 --> R3
    P6 --> R3

    %% ファウンドリ → 最終製品
    F1 --> R4

    style F1 fill:#0066cc,color:#fff,stroke:#333
    style D1 fill:#76b900,color:#fff,stroke:#333
    style E13 fill:#e74c3c,color:#fff,stroke:#333
    style N1 fill:#e67e22,color:#fff,stroke:#333
この図の読み方
  • 上から下への矢印 = 「素材・道具 → 製造 → 完成品」の流れ
  • 左から右の点線 = 原材料の供給
  • **タツモ(赤)**は、ファウンドリ(TSMC等)とパワー半導体メーカー(Infineon等)の両方に装置を納入している中間ポジション

14. 主要企業カタログ ― 誰が何をしているか

ファブレス(設計専門) ― レシピを考える会社

💡 たとえるなら: ファブレスは「レシピ開発会社」 自分ではキッチンを持たず、ファウンドリ(工場)に料理を作ってもらう

企業 何をしているか 売上規模
NVIDIA AI向けGPU「H100」「Blackwell」を設計。AIブームの中心企業 ≈2,000億ドル
AMD CPU「EPYC」「Ryzen」とAI向けGPU「MI300」を設計 ≈300億ドル
Qualcomm スマホ向けチップ「Snapdragon」シリーズ。5G通信に強み ≈400億ドル
Broadcom 通信チップとAIアクセラレータ。GoogleのAIチップも製造委託 ≈600億ドル
Apple 自社チップ「Aシリーズ」「Mシリーズ」を設計(製造はTSMCに委託) 非開示

ファウンドリ(製造受託) — プロの厨房

💡 たとえるなら: ファブレスからレシピを受け取り、自社工場で調理する

企業 何をしているか 売上規模 シェア
TSMC 台湾 世界最大の半導体製造受託。最先端プロセスで圧倒的 ≈900億ドル 72%
Samsung Foundry 韓国 世界2位。メモリも手がける総合半導体メーカー ≈200億ドル ≈10%
Intel Foundry 元々は自社製造のみ。2025年から外部受託を本格化 ≈190億ドル 拡大中
GlobalFoundries 最先端から撤退し、特殊プロセス(車・産業用)に特化 ≈75億ドル ≈5%
Rapidus 日本の新興ファウンドリ。2027年からの2nm量産を目指す 試作段階

メモリ — データを記憶する会社

💡 たとえるなら: メモリは「本棚」と「引き出し」

  • DRAM = 机の上の引き出し(すぐ出し入れできるが、電源を切ると空になる)
  • NAND = 本棚(たくさん入るが、取り出しに時間がかかる)
  • HBM = 引き出しを縦に10段積み上げた超高速版
企業 何をしているか 売上規模
SK Hynix 韓国 HBM(AI向け超高速メモリ)でNVIDIAに独占供給。AI受益株 ≈400億ドル
Samsung Memory 韓国 DRAM・NANDとも世界1位。HBMでもSK Hynixを追う ≈500億ドル
Micron 米国最大のメモリメーカー。HBM供給拡大中 ≈250億ドル
キオクシア 旧東芝メモリ。NANDフラッシュ世界3位 ≈120億ドル

OSAT(後工程受託) — 梱包・配送センター

💡 たとえるなら: ファウンドリで作った「むき出しのチップ」を箱に入れて届ける

企業 何をしているか 売上規模 シェア
ASE Group 台湾 世界最大のOSAT。パッケージング・テストの総合企業 ≈200億ドル 20%+
Amkor 米国拠点のOSAT大手。TSMCと提携関係 ≈150億ドル ≈16%
JCET 中国 中国最大手。政府支援で急成長 ≈100億ドル ≈11%
PTI(Powertech) 台湾 高機能製品パッケージングに強み ≈50億ドル ≈6%

半導体製造装置 — 料理の道具を作る会社

💡 たとえるなら: プロの厨房で使うフライパン、オーブン、包丁を作る会社

前工程装置(回路をウェーハに描く道具)

企業 何をしているか 売上規模
ASML EUV露光装置で世界唯一の供給元。最先端半導体に不可欠 ≈300億ドル
Applied Materials 装置総合メーカー。成膜・エッチング・検査など幅広い ≈270億ドル
東京エレクトロン(TEL) 装置日本1位。コーター・エッチング装置で世界3位 ≈200億ドル
ラムリサーチ エッチング・成膜装置に強み。NVIDIA関連で急成長 ≈180億ドル
SCREEN HD 半導体洗浄装置で世界首位。累計出荷15,000台超 ≈45億ドル
KLA 検査・測定装置で世界トップ。歩留まり管理に不可欠 ≈100億ドル

後工程・ニッチ装置(チップを切り出し、箱に入れる道具)

企業 何をしているか 売上規模 タツモとの関係
ディスコ ダイシング(切断)・研削装置で世界トップ ≈30億ドル 同じ後工程の別工程
アドバンテスト 半導体テスト装置で世界首位。AIチップ検査に恩恵 ≈40億ドル 同じ後工程の別工程
TOWA モールド(樹脂封止)装置のリーダー ≈4億ドル タツモ貼合→TOWAモールドの工程順
レーザーテック EUVマスク検査で事実上独占 ≈10億ドル 前工程の検査領域
SUSS MicroTec Temporary Bonderでシェア≈65%。先端PKGのリーダー ≈7億ドル 直接競合(先端PKG領域)
EV Group(EVG) Hybrid Bondingでシェア≈82%。次世代技術の覇者 ≈7億ドル 直接競合(次世代領域)
タツモ パワー半導体貼合・剥離で世界シェア9割 ≈3億ドル

パワー半導体 — 電気をコントロールする会社

💡 たとえるなら: 電気の「変電所」と「蛇口」。電圧を上げ下げしたり、直流・交流を変換したりする

企業 何をしているか 売上規模
Infineon パワー半導体世界1位。車・産業用で強み ≈160億ユーロ
STMicro SiCデバイスでテスラ等に供給。車載に強み ≈180億ドル
ローム SiC MOSFET第5世代を開発。日本のSiC筆頭 ≈45億ドル
三菱電機 パワー半導体大手。ローム・東芝との統合検討中 ≈50億ドル
Wolfspeed SiC基板(材料)で唯一の米国ベンダー ≈10億ドル
ON Semi パワー半導体・イメージセンサー ≈80億ドル

半導体材料 — 料理の素材を作る会社

💡 たとえるなら: 小麦粉、塩、油を作る会社。素材が良くないと料理も良くならない

企業 何をしているか 売上規模 シェア
信越化学 シリコンウェーハ世界シェア42%。半導体の「生地」を作る ≈2.5兆円(材料部門) 42%
SUMCO ウェーハ世界2位。信越化学と合わせて世界60% ≈45億ドル ≈18%
東京応化工業(TOK) フォトレジスト(回路を描くための感光材)世界トップ ≈25億ドル ≈25%
JSR EUVレジストでシェア40%超を目指す ≈15億ドル

15. セグメント別の市場規模と成長率(CAGR)

💡 CAGR(シーエージーアール)とは? 年平均成長率のことです。「毎年このペースで成長し続けたら」を示す指標。 例:CAGR 25%なら、4年で市場規模が約2.5倍になります。

半導体市場全体の地図

graph LR
    subgraph "半導体市場 2025年 ≈7,900億ドル"
        A["AIチップ<br/>≈530億ドル<br/>CAGR 33%"]
        B["メモリ(DRAM/NAND)<br/>≈1,600億ドル<br/>CAGR 14%"]
        C["ロジック(CPU等)<br/>≈2,000儀ドル<br/>CAGR 8%"]
        D["アナログ・パワー<br/>≈900儀ドル<br/>CAGR 10%"]
        E["その他<br/>≈2,870億ドル"]
    end

    style A fill:#e74c3c,color:#fff
    style B fill:#e67e22,color:#fff
    style C fill:#3498db,color:#fff
    style D fill:#27ae60,color:#fff

セグメント別 詳細データ

① 半導体市場全体

指標
2025年市場規模 ≈7,900億ドル(約120兆円)
2030年予測 ≈12,900億ドル(約195兆円)
CAGR 10.2%
成長の牽引役 AI、データセンター、EV

② ファウンドリ市場

指標
2025年市場規模 ≈1,600億ドル
2030年予測 ≈4,300億ドル
CAGR 5〜12%
リーダー TSMC(シェア72%)
たとえ プロの厨房市場

③ OSAT(後工程受託)市場

指標
2025年市場規模 ≈462億ドル
2030年予測 ≈799億ドル
CAGR 11.6%
リーダー ASE Group(シェア20%+)
たとえ デリバリー・梱包市場

④ 半導体製造装置(WFE)市場

セグメント 2025年規模 2030年予測 CAGR 主要企業
装置市場全体 ≈1,100億ドル ≈1,500億ドル 8.7% Applied Materials、TEL、ASML
リソグラフィ(露光) ≈286億ドル ≈430億ドル 6.5% ASML(独占)
エッチング ≈254億ドル ≈368億ドル 7.7% ラムリサーチ、TEL
成膜(CVD) ≈57億ドル ≈82億ドル 7.6% Applied Materials
CMP(研磨) ≈64億ドル ≈97億ドル 7.2% Applied Materials、荏原
検査・計測 ≈130億ドル ≈170億ドル 5.4% KLA
後工程装置 ≈205億ドル ≈312億ドル 8.8% ディスコ、TOWA、タツモ
ボンディング装置 ≈53億ドル ≈90億ドル 10%+ SUSS、EVG、タツモ
Hybrid Bonding ≈1.5億ドル ≈4億ドル 21% EVG(82%シェア)
NOTE

後工程装置市場(205億ドル、CAGR 8.8%)は、AI向け先端パッケージング需要で前工程装置(CAGR 7〜8%)を上回る成長率です。
タツモが属するボンディング装置市場は、その中でもさらに高い10%+の成長が予測されています。

⑤ パワー半導体市場(SiC)

指標
SiCパワー半導体 2025年規模 ≈27億ドル
SiC 2030年予測 ≈84億ドル
CAGR 25.2%
リーダー Infineon、STMicro
成長ドライバー EV、太陽光、産業機器
タツモへの影響 この市場の製造装置で9割シェア

⑥ HBM(AI向け超高速メモリ)市場

指標
2025年市場規模 ≈210億ドル(前年比+70%)
2030年予測 ≈1,000億ドル
CAGR 25〜30%
リーダー SK Hynix(HBM3EでNVIDIA独占供給)
タツモへの影響 HBM製造に薄型ウェーハ処理が必要 → タツモの装置需要増

⑦ AI半導体市場

指標
2024年市場規模 ≈530億ドル
2030年予測 ≈2,956億ドル
CAGR 33.2%
リーダー NVIDIA(シェア≈80%)
たとえ 半導体業界の「ゴールドラッシュ」

⑧ 半導体材料市場

指標
2025年市場規模 ≈808億ドル
2030年予測 ≈1,019億ドル
CAGR 4.8%
リーダー 信越化学(ウェーハ42%)、TOK(レジスト25%)
特徴 他セグメントより安定。装置やチップより変動が小さい

成長率ランキング ― どのセグメントが一番伸びるか

順位 セグメント CAGR キーワード
1 AI半導体 33% ChatGPT、データセンター
2 HBM(AI向けメモリ) 26% AI高速計算に不可欠
3 SiCパワー半導体 25% EV、省エネ
4 Hybrid Bonding装置 21% 次世代パッケージング
5 ボンディング装置 10%+ 先端PKG需要
6 OSAT(後工程受託) 12% PKG需要の拡大
7 半導体装置全体 8.7% 全体的な設備投資拡大
8 ファウンドリ 5〜12% TSMCが牽引
9 半導体材料 4.8% 安定成長
graph LR
    subgraph "成長率(CAGR)の高低"
        direction TB
        A["🏆 AI半導体 33%<br/>🏆 HBM 26%<br/>🏆 SiC 25%"] --> B["🥈 Hybrid Bonding 21%<br/>🥈 OSAT 12%"]
        B --> C["🥉 装置全体 8.7%<br/>🥉 ファウンドリ 5〜12%"]
        C --> D["📦 材料 4.8%"]
    end

    style A fill:#e74c3c,color:#fff
    style B fill:#e67e22,color:#fff
    style C fill:#3498db,color:#fff
    style D fill:#95a5a6,color:#fff
タツモの立ち位置をこのデータで確認すると
  • タツモの強みであるパワー半導体装置は、対象市場(SiC)がCAGR 25%で急成長中。市場のパイが拡大するため、シェアを維持するだけで売上が増える
  • タツモが未参入のHybrid BondingはCAGR 21%で、こちらも巨大な成長機会
  • 半導体装置全体のCAGR 8.7%に対し、ボンディング装置のCAGR 10%+は上位の成長率

16. 用語集

用語 読み方 意味
ウェーハ ウェーハ シリコンを円盤状に切り出した薄い板。チップの「生地」
フォトリソグラフィ フォトリソグラフィ 光を使って回路パターンをウェーハに焼き付ける技術
エッチング エッチング ウェーハの不要な部分を薬品やガスで削り取る工程
ダイシング ダイシング ウェーハを1個ずつのチップに切り分ける工程
パッケージング パッケージング むき出しのチップを保護容器に入れる工程
ファウンドリ ファウンドリ 半導体の前工程(回路描き込み)を請け負う工場
OSAT オーサット 後工程(パッケージング・テスト)を請け負う企業
HBM エイチビーエム High Bandwidth Memory。AI向けの超高速メモリ
SiC エスアイシー 炭化ケイ素。次世代パワー半導体の材料。シリコンより省エネ
GaN ガン 窒化ガリウム。別の次世代材料。高周波通信に強い
TBDB ティービーディービー Temporary Bonding and DeBonding。貼合・剥離
CoW シーオーダブリュー Chip-on-Wafer。チップをウェーハに載せる先端技術
WoW ダブリューオーダブリュー Wafer-on-Wafer。ウェーハ同士を貼り合わせる先端技術
Hybrid Bonding ハイブリッドボンディング 銅の接点でチップ同士を直接くっつける次世代技術
EFEM イーフェム Equipment Front End Module。装置の入り口にある搬送ユニット
シクリカル シクリカル 景気循環に連動して業績が大きく波する性質
フロントエンド フロントエンド 前工程。ウェーハに回路を描き込む工程
バックエンド バックエンド 後工程。チップをパッケージに入れる工程
ミドルエンド ミドルエンド 中工程。ウェーハの薄型化・貼合・剥離など
Nm(ナノメートル) ナノメートル 1mmの100万分の1。回路の細かさを表す単位
μm(マイクロメートル) マイクロメートル 1mmの1000分の1。ウェーハの厚さ等を表す単位
SUSS MicroTec スース・マイクロテック ドイツの半導体装置メーカー。先端パッケージング向けTemporary Bonding市場でシェア約65%のリーダー
EV Group(EVG) イーブイグループ オーストリアの半導体装置メーカー。Hybrid Bonding市場でシェア約82%の圧倒的リーダー
CoWoS シーオーダブリューエス TSMCの先端パッケージング技術。Chip on Wafer on Substrateの略。AI半導体に不可欠
Debonder デボンダー 剥離装置。タツモがTSMC CoWoSラインで担当している工程
TAM タム Total Addressable Market(総addressable市場)。企業が理論上狙える最大の市場規模
CAGR シーエージーアール Compound Annual Growth Rate(年平均成長率)。複利計算での年間成長率
ポートフォリオ転換 ポートフォリオてんかん 事業構成を組み替えること。不採算事業を縮小し、成長事業に経営資源を集中する戦略
受動的成長 じゅどうてきせいちょう 自社のシェア拡大ではなく、市場全体の拡大に伴って売上が増える成長パターン
SIインターポーザ エスアイインターポーザ チップ間を繋ぐ中継基板。高密度な配線を施すことで複数チップを1つにまとめる

関連ガイド


出典