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日本電気硝子

【経済・ガラス・土石製品】ガラス・土石製品銘柄レポート更新 2026-07-31

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. FP&Aカード(収益ドライバー / コスト構造 / 運転資本 / 資本集約度)
  3. 日本電気硝子の事業構成
  4. 主要取引先
  5. 競争優位性
  6. 日本電気硝子の固有事象・資本関係の詳細分析
  7. 2. 財務の実力
  8. PL — 5期+予想(百万円 / 円 / %)
  9. BS — 5期(百万円 / 円 / %)
  10. BS詳細主要科目(百万円) — 5期
  11. CF — 5期(百万円)
  12. 減価償却費明細(百万円) — 5期
  13. 受注高・受注残高
  14. 運転資本分析(CCC)
  15. 配当推移 — 5期+予想
  16. 経営者予想精度
  17. 健全性チェック(事業会社基準)
  18. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  19. 時価総額・株価の基準
  20. 標準NC(Net Cash)計算 — 5期推移
  21. 広義NCAV計算 — 5期推移
  22. CN-PER(キャッシュニュートラルPER)
  23. EV/EBITDA分析(単位: 億円)
  24. EV/EBITDA感度テーブル(NC定義別)
  25. 倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)
  26. バリュエーション乖離コメント
  27. 4. 同業比較 — 差分の論点
  28. 競合選定基準
  29. 最新期比較テーブル(現値ベース・億円換算は÷100)
  30. 競合3期推移(売上高・営業利益率)
  31. 運転資本効率(CCC)— 競合比較
  32. 5. リスクと論点
  33. リスクマトリクス
  34. 6. バリュエーション統合と論点整理
  35. 乖離の構造分析
  36. 条件分岐シナリオ
  37. 監視ポイント
  38. M&A・出資検討の論点整理
  39. 7. 学びのポイント
  40. 📚 着眼点1: 装置産業の操業度レバレッジ
  41. 📚 着眼点2: ネットキャッシュの「薄さ」とNCAVの「厚さ」の差が意味するもの
  42. 📚 着眼点3: 日本電気硝子の指標ポジショニング
  43. 参考情報
  44. ガバナンス要点
  45. 大株主構成
  46. データソースの時点差
  47. 出典一覧

日本電気硝子(5214)銘柄分析レポート

SUMMARY

現値(2026-07-30 終値 5,130円)ベースで時価総額 3,780億円、予想PER 16.4倍、 予想EV/EBITDA(標準NCベース)6.1倍、配当利回り(FY2026予想)3.12%
標準NC比率は6.1%、広義NCAV比率は28.6%とバランスシートに厚みがあり、 健全性スコアは83/100と高水準。
自己資本比率70.2%・D/Eレシオ0.196と財務基盤は堅い。

指標 評価
時価総額 3,780億円 中型
予PER 16.4倍 適正
予EV/EBITDA 6.1倍 割安
配当利回り 3.12% 高利回り
標準NC比率 6.1% 中程度
広義NCAV比率 28.6% やや高い
健全性スコア 83/100 高い

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は ガラス・土石製品業界基礎ガイド(および同業界のセグメント分析・プレイヤー比較)を参照。本レポートは日本電気硝子固有の事業構造に絞る。

日本電気硝子は「ガラス事業」という単一セグメントのなかに、性格の異なる二つの部門を抱える特殊ガラス専業メーカーである。
FY2025/12の売上高は3,114.0億円(FY2024/12比+4.1%)、営業利益は341.3億円(同+457.6%、営業利益率11.0%)で、FY2024/12の営業利益率2.0%から9.0ポイント改善した。
この振れ幅の大きさこそが、この会社が何で稼いでいるかを最も端的に示している。

FP&Aカード(収益ドライバー / コスト構造 / 運転資本 / 資本集約度)

収益ドライバーは基本的に見込み生産による単価×数量である。
FY2025の増益は、ディスプレイ用ガラスの需要が年間を通じて堅調に推移するなかで販売価格を引き上げたことが最大の牽引役となった。
加えて電子デバイス事業では半導体向け・データセンター向け製品の需要が好調に推移し増収に寄与した。
裏を返せば、この会社の増収増益は「数量拡大」よりも「価格改定が通る局面かどうか」に強く依存する構造だといえる。

コスト構造はガラス溶融炉というエネルギー多消費の固定費型である。
FY2023/12の営業損失(-104.2億円、営業利益率-3.7%)とFY2025/12の営業利益341.3億円(同11.0%)は、ほぼ同じ売上規模帯(FY2023売上2,799.7億円・FY2025売上3,114.0億円)で発生しており、操業度レバレッジの大きさを裏付ける。
溶融炉は一度火を入れると稼働率を落としても固定費が減りにくいため、需要の谷では利益が急減し、需要の山では利益が急伸する。
この構造改善の鍵として、同社は全電気溶融技術(燃焼を用いずガラスに直接通電して溶かす技術)の導入を進めており、2025年12月末時点の導入比率は7割弱に達している。
全電気溶融炉はエネルギー利用効率に優れ燃焼ガスによる排熱ロスも小さいため、化石燃料価格の変動に対する感応度を構造的に下げる効果を持つ(出典: 世界初となる全電気溶融炉による医薬品容器用管ガラスの量産を開始酸素燃焼で先駆けた日本電気硝子、カーボンニュートラル技術をガラス産業に提供開始)。

運転資本はCCC154.73日(売上債権72.50日+棚卸資産143.71日−仕入債務61.48日)で、棚卸資産回転の長さが突出している。
同業のAGC(117.32日)・太平洋セメント(94.48日)と比べても長く、見込み生産という生産形態(受注残高の開示がない)が在庫を厚めに持たせている可能性がある。

資本集約度は有形固定資産3,606.6億円(総資産の51.4%)、減価償却費242.1億円、設備投資343.1億円、総資産回転率0.444回という数字に表れている。
有報のリスク開示にも「生産設備の新設には多額の資金と相当の期間を要する」と明記されており、増産判断から実際の供給能力立ち上がりまでのタイムラグが大きい事業であることを示す。
研究開発費(88.1億円)の売上高比は約2.8%で、装置産業としては相応の技術投資水準である。

日本電気硝子の事業構成

当社は「ガラス事業」の単一セグメントであり、セグメント別営業利益の開示はない。以下は有価証券報告書の経営者による分析に記載された部門別売上構成である。

部門 FY2024売上高(百万円) 構成比 FY2025売上高(百万円) 構成比 増減率
電子・情報 157,580 52.7% 173,751 55.8% +10.3%
機能材料 141,657 47.3% 137,651 44.2% -2.8%
合計 299,237 100.0% 311,402 100.0% +4.1%

部門内訳(有報記載)は次のとおりである。
電子・情報部門は①ディスプレイ事業(液晶・有機ELディスプレイ用ガラス、超薄板ガラスG-Leaf®、化学強化専用超薄板ガラスDinorex UTG®等)と②電子デバイス事業(半導体プロセス用ガラス=半導体用サポートガラス、LTCC製品、機能性粉末ガラス、イメージセンサ用板ガラス、無機コア基板GCコア®=開発中等)からなる。
機能材料部門は①複合材事業(機能樹脂強化用チョップドストランド、電子材料用低誘電ガラスファイバD2ファイバ等)②医療事業(医薬用管ガラス、放射線遮蔽用ガラス)③耐熱事業(超耐熱結晶化ガラスネオセラム®)④建築事業(防火設備用ガラスファイアライト®)⑤その他で構成される。

市場分野別の成長動向(有報MD&Aおよび外部情報を踏まえた整理)は次のとおりである。

分野 動向 根拠
電子デバイス(半導体・データセンター向け) ◎ 好調 FY2025は半導体向け・データセンター向け需要が好調に推移し増収。FY2026はプローブカード用基板・データセンター向け等の販売拡大が全体を押し上げる見通し
ディスプレイ ○ 堅調 FY2025は年間を通じて堅調な需要が継続し価格引き上げで増収。FY2026も堅調な需要を見込むが、全電気溶融設備の水平展開・生産性改善費用の増加を計上する見通し
複合材(機能樹脂強化) △ 競争激化 FY2025は厳しい競争環境が続き販売が低迷、加えて英国子会社(エレクトリック・グラス・ファイバ・UK, Ltd.)の事業活動停止も響き部門計-2.8%。FY2026も厳しい競争環境が継続する見通し
医療・耐熱・建築 ○ 安定 FY2025/12はFY2024/12並み。FY2026/12も安定した需要を見込む

なお電子デバイス事業が中長期的に取り組む無機コア基板(GCコア®)は、AI半導体の高性能化に伴いパッケージ基板が大型化するなかで、既存の有機基板が抱える反りの課題を解消しうる素材として注目されている領域である。
同社は2026年にも高性能半導体向け大型ガラス基板のサンプル出荷を計画していると報じられており(出典: 日本電気硝子、AI半導体にガラス基板 26年サンプル出荷次世代半導体を支えるNEGのガラス基板)、海外ではインテル・サムスン・SKグループもガラスコア基板の量産準備を進めていると報じられている(出典: 現実味増す半導体向け「ガラス基板」量産インテル前進、ガラスコア基板量産へ)。
この分野はまだ開発段階であり、電子・情報部門の現在の主収益源は既存のディスプレイ用ガラス・半導体用サポートガラスであることには留意が必要である。

主要取引先

有報「販売実績」の注記によれば、連結全体では販売比率100分の10未満の相手先しか存在せず記載が省略されている。
すなわち連結ベースでは特定顧客への依存は分散している。
一方で有報のリスク開示「一部製品の販売に関するリスク」には「一部製品の販売については特定の主要顧客に依存している」との記載があり、全社レベルでは分散していても製品単位(例えばディスプレイ用ガラスなど)では顧客集中が生じている可能性を示している。
ディスプレイ用ガラスの需要家は液晶・有機ELパネルを製造するパネルメーカーであり、当該パネル産業自体が中国・韓国・台湾の少数プレイヤーに集約されている構造も間接的な集中要因となりうる。
関連会社のサンゴバン・ティーエムからは耐火物(ガラス溶融炉の内張り材料)を調達しており、原材料面では逆方向の取引関係も持つ。

競争優位性

非専門家向けに参入障壁を比喩で説明すると、ガラス溶融炉は「一度築いた窯を簡単には作り替えられない大型パン工房」に近い。
炉を新設・改修するには多額の資金と長い期間を要し、稼働を止めれば固定費だけが残る。
加えてオーバーフロー法など成形技術の蓄積は長年の操業データに支えられており、一朝一夕には模倣できない。
さらに顧客の量産ラインに組み込まれた材料は、品質仕様・厚み公差が製品設計に密接に紐づくため、いったん採用されると切り替えコストが高く、競合への乗り換えが起きにくい。
この三つ(設備投資の巨額性・製造ノウハウの蓄積・顧客側の切り替えコスト)が、液晶用ガラス基板市場で米コーニングを筆頭に少数社が世界シェアを占める寡占構造(出典: ガラス業界のシェア・ランキング|業界動向サーチ)の背景にある参入障壁である。

日本電気硝子の固有事象・資本関係の詳細分析

大株主の一角を占めるニプロ株式会社(保有比率4.40%)は、「硝子事業における発行会社との取引関係等維持向上の観点から、昭和48年(1973年)以来同社株式を保有」と明記しており、半世紀を超える事業関係に基づく政策保有株主である。

財務戦略面では、EGP2028のもとで政策保有株式の縮減が実際に進んでいる。
この2年間で6銘柄を全数売却し、1銘柄も継続売却中で、連結純資産に占める政策保有株式の割合は7.3%まで低下した。
藤沢事業場跡地の売却などノンコア資産の圧縮も並行して進んでいる。
株主還元では、2023年11月〜2028年12月末までの約5年間で総額1,000億円の自己株式取得を計画しており、2025年12月末時点で約600億円を実施済み、うち1,000万株をFY2025に消却した。
継続的な配当拡大(目標DOE3%)も財務戦略の柱に据えられている。

事業面の構造改革としては、日本電気硝子(韓国)・東陽電子硝子・電気硝子(Korea)が2023年に解散・清算手続きに入り、滋賀日万は2025年5月に清算結了、英国子会社エレクトリック・グラス・ファイバ・UK, Ltd.は2025年6月に生産活動を停止した。
これらはいずれも機能材料(複合材)領域の非中核・低収益拠点の整理にあたる。
成長投資の原資としては戦略的投資枠5年間で500億円が設定されており、M&A・戦略的提携・事業投資に充当する計画である。


2. 財務の実力

PL — 5期+予想(百万円 / 円 / %)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025(直近実績) FY2026(来期会社予想)
売上高 292,033 324,634 279,974 299,237 311,402 320,000
売上原価 209,781 239,065 246,764 244,914 231,392
売上総利益 82,252 85,569 33,210 54,322 80,010
販管費 49,472 59,384 43,631 48,202 45,879
営業利益 32,779 26,184 -10,420 6,120 34,131 33,000
経常利益 44,979 34,058 -9,480 12,417 37,740 33,000
当期純利益 27,904 28,167 -26,188 12,091 29,616 23,000
EPS(円) 290.98 302.76 -282.90 141.67 382.33 307.69
営業利益率 11.2% 8.1% -3.7% 2.0% 11.0% 10.3%
前年比(売上) +11.2% -13.8% +6.9% +4.1% +2.8%
前年比(営利) -20.1% 赤字転落 黒字転換 +457.6% -3.3%
研究開発費 6,598 7,266 8,094 7,881 8,810

(FY2021の前年比はFY2020データ未取得のため「—」)

BS — 5期(百万円 / 円 / %)

自己資本 = 純資産 − 非支配株主持分(EDINETのequityRatioOfficialと全期一致・検証済)。shareholdersEquity(FY2025=416,463)は株主資本であり自己資本とは別定義のため使用しない。

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
総資産 698,129 747,907 703,917 695,163 701,413
流動資産 264,512 271,680 253,104 285,495 283,783
固定資産 433,617 476,227 450,812 409,668 417,630
流動負債 117,934 131,665 109,042 123,007 117,793
固定負債 80,451 87,329 104,744 84,597 87,437
負債合計 198,387 218,995 213,787 207,604 205,232
純資産 499,742 528,912 490,130 487,559 496,181
非支配株主持分 4,672 4,567 3,084 3,539 3,810
自己資本(純資産−NCI) 495,070 524,345 487,046 484,020 492,371
自己資本比率 70.9% 70.1% 69.2% 69.6% 70.2%
BPS(円) 5,321.77 5,635.52 5,463.53 5,996.61 6,545.03
流動比率 224.3% 206.3% 232.1% 232.1% 240.9%
利益剰余金 429,354 446,359 409,910 411,024 398,474
自己株式 -20,120 -20,072 -31,932 -60,007 -48,068
発行済株式数(期末) 99,523,246 99,523,246 99,523,246 89,523,246 89,523,246

BS詳細主要科目(百万円) — 5期

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
投資有価証券 44,957 40,806 43,405 43,132 42,045
現預金 134,723 106,862 75,083 123,582 120,313
短期有価証券
有利子負債 94,821 103,525 118,343 111,265 97,394
売上債権 59,579 52,438 58,165 58,732 61,853
棚卸資産 62,099 102,370 107,501 95,243 91,107
仕入債務 42,539 52,102 43,169 39,444 38,974
有形固定資産 380,280 425,629 392,968 353,854 360,655
政策保有株式(簿価) 40,501 35,838 38,083 37,285 35,975

(政策保有株式は有報の主要銘柄合算ベース。有報記載ではFY2025時点で連結純資産に占める割合7.3%まで低下)

CF — 5期(百万円)

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
営業CF 69,881 31,563 -1,360 52,200 52,029
投資CF -31,754 -57,155 -20,777 42,601 -10,397
財務CF -29,178 -5,874 -11,572 -48,832 -45,273
FCF(営業CF+投資CF) 38,127 -25,592 -22,137 94,801 41,632
設備投資(capex) 44,894 68,024 36,951 34,309

(FY2024の投資CFプラスは、EGP2028に沿ったノンコア資産・政策保有株式の売却によるもの。有報記載)

減価償却費明細(百万円) — 5期

FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
26,721 28,962 37,185 28,937 24,206

受注高・受注残高

有報「生産、受注及び販売の実績」に「基本的に見込み生産を行っています。なお、当連結会計年度において特記すべき事項はありません」と明記されており、該当なし(非受注産業)

参考: 生産実績FY2025=312,390百万円(前年同期比111.4%)/販売実績FY2025=311,402百万円(同104.1%)。
主要相手先別販売実績は「いずれも10%未満のため記載省略」(=単一顧客依存10%未満)。

運転資本分析(CCC)

分母定義: 売上債権回転日数 = 売上債権 ÷ 売上高 × 365/棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365/仕入債務回転日数 = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365。

指標(日) FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
売上債権回転日数 74.47 58.96 75.83 71.64 72.50
棚卸資産回転日数 108.05 156.30 159.01 141.94 143.71
仕入債務回転日数 74.01 79.55 63.85 58.78 61.48
CCC 108.50 135.71 170.99 154.80 154.73

配当推移 — 5期+予想

配当利回りの基準: FY2021・FY2022・FY2024は各期末株価ベース、FY2025と FY2026予想は現在株価5,130円ベース(FY2023は期末時価総額欠測のため「—」)。

項目 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025(直近実績) FY2026(来期予想)
1株配当(円) 110.00 120.00 120.00 130.00 150.00 160.00
配当利回り 3.74% 5.15% 3.86% 2.92% 3.12%
配当性向 37.8% 39.6% —(赤字) 91.8% 39.2% 52.0%
DOE(純資産配当率) 2.10% 2.13% 2.24% 2.25% 2.32%

参考: 中期経営計画EGP2028の株主還元方針は目標DOE 3%、および2023年11月〜2028年12月末の間で総額1,000億円の自己株式取得計画(2023年11月〜2025年12月で約600億円実施済・FY2025に1,000万株を消却)。

経営者予想精度

「期初予想」とは、各年2月上旬に公表される直前通期の決算短信に記載された、その年度の通期予想を指す(例: FY2025/12の期初予想はFY2024/12決算短信〔2025-02-05開示〕に記載された値)。

予想時点 予想売上 実績売上 乖離率 予想営利 実績営利 乖離率 予想純利益 実績純利益 乖離率
FY2024 期初(2024-02-05) 310,000 299,237 -3.5% 16,000 6,120 -61.8% 27,000 12,091 -55.2%
FY2025 期初(2025-02-05) 310,000 311,402 +0.5% 20,000 34,131 +70.7% 15,000 29,616 +97.4%
FY2025 3Q修正後(2025-10-31) 310,000 311,402 +0.5% 32,000 34,131 +6.7% 23,000 29,616 +28.8%

FY2023の期初予想は取得データ範囲外のため記載しない。

参考: FY2026はQ1(2026-04-30開示)時点で通期予想を据え置き(売上320,000/営利33,000/経常33,000/純利益23,000/配当160円)。
Q1累計実績は売上75,101(前年同期比+0.3%)、営業利益6,481(同-17.9%)、経常利益8,968(同+47.0%)、純利益8,333(同+66.4%)。
Q1累計実績と通期予想は期間スコープが異なるため、通期予想に対する進捗率として扱う(売上23.5%/営業利益19.6%/純利益36.2%。線形ペースの目安はQ1=25%)。

健全性チェック(事業会社基準)

対象は事業会社(ガラス・土石製品)であり金融業ではないため、事業会社基準を適用する。

No. 項目 基準 判定
1 自己資本比率 70.2% > 40%
2 有利子負債 vs 現預金 有利子負債97,394 < 現預金120,313 有利子負債 < 現預金
3 流動比率 240.9% > 150%
4 利益剰余金 398,474百万円 > 0
5 営業CF 3期連続黒字 FY2023 -1,360/FY2024 +52,200/FY2025 +52,029 3期連続黒字
6 配当3期連続支払い FY2023 120円/FY2024 130円/FY2025 150円 3期連続支払い
7 EPS前年比 141.67円→382.33円(+169.9%) プラス
8 ROE 6.02%(official 6.1%) > 8%
9 営業利益率 vs 同業 11.0%(AGC6.2%/日本板硝子3.3%/太平洋セメント8.3%) 業界平均超

参考(判定基準なし): D/Eレシオ0.196/格付(JCR)シングルAプラス/健全性スコア83/100(信用スコア78・レーティングA)。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

時価総額・株価の基準

本セクションのバリュエーションはすべて market_data_as_of(2026-07-30)時点の現値ベース(株価5,130円・時価総額377,997百万円)で算出している。
EDINETの期末時価総額(551,062百万円)を使用すると現値比+45.8%の過大評価となるため、本レポートでは採用していない。
PER・PBR・配当利回り・NC比率・EV/EBITDAはすべて現値時価総額377,997百万円を基準とする。

標準NC(Net Cash)計算 — 5期推移

有利子負債 = 短期借入金 + 長期借入金 + 社債 + 1年内償還予定社債。短期有価証券はEDINET DBに独立フィールドがなく有報BSにも計上なし(全期「—」)。

項目(百万円) FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
現預金 134,723 106,862 75,083 123,582 120,313
短期有価証券
有利子負債 94,821 103,525 118,343 111,265 97,394
標準NC 39,902 3,337 -43,260 12,317 22,919
標準NC比率 13.6% 1.4% 4.1% 6.1%

表注: 標準NC比率の分母は各期末時価総額(FY2021=292,489/FY2022=232,014/FY2023=期末時価総額欠測/FY2024=301,850百万円)。FY2025のみ現値時価総額377,997百万円を使用。

広義NCAV計算 — 5期推移

項目(百万円) FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 FY2025
流動資産 264,512 271,680 253,104 285,495 283,783
投資有価証券×0.7 31,470 28,564 30,384 30,192 29,432
負債合計 198,387 218,995 213,787 207,604 205,232
広義NCAV 97,595 81,249 69,701 108,083 107,983
広義NCAV比率 33.4% 35.0% 35.8% 28.6%

表注: 分母は標準NC比率と同一定義(FY2025のみ現値時価総額)。

CN-PER(キャッシュニュートラルPER)

指標
予想PER 16.4倍
標準NC比率(現値ベース) 6.1%
CN-PER(標準NCベース) 15.4倍
CN-PER(広義NCAVベース) 11.7倍

EV/EBITDA分析(単位: 億円)

項目
現値時価総額 3,780.0
(−)標準NC 229.2
EV(標準NCベース) 3,550.8
営業利益(FY2025) 341.3
(+)減価償却費(FY2025) 242.1
EBITDA(FY2025) 583.4
EV/EBITDA(標準NCベース) 6.1倍

競合3社との比較(億円):

企業 EV EBITDA EV/EBITDA
日本電気硝子(5214) 3,550.8 583.4 6.1倍
AGC(5201) 17,024.3 3,072.6 5.5倍
日本板硝子(5202) 5,606.6 —(減価償却費非開示)
太平洋セメント(5233) 8,083.2 1,451.4 5.6倍

EV/EBITDA感度テーブル(NC定義別)

NC定義 EV(億円) EBITDA(億円) EV/EBITDA
標準NCベース 3,550.8 583.4 6.1倍
広義NCAVベース 2,700.1 583.4 4.6倍

倍率ベース感応度(適用PERレンジ・円換算なし)

適用PER水準 倍率 位置づけ
レンジ下限(保守的) 8倍 過去5期レンジ下限(FY2022実績7.7倍)近辺。市況調整局面で付いた水準
中央(現状据え置き) 16倍 現値予想PER16.4倍・FY2025期末実績PER16.1倍
レンジ上限(楽観的) 20倍 同業内で最もROEが高い水準の銘柄が付ける倍率帯
参考: 同業3社平均 予想PER 16.3倍 AGC16.5/日本板硝子22.9/太平洋セメント9.5の単純平均(参考値)
参考: 自社5期実績PERレンジ 7.7〜23.8倍 FY2024の23.8倍は利益ボトム期の分母縮小による見かけ上の高倍率

バリュエーション乖離コメント

NC考慮EV/EBITDA法では、標準NCベースのEV/EBITDAが6.1倍となり、同業のAGC(5.5倍)・太平洋セメント(5.6倍)とほぼ同水準にある。
一方、CN-PER法では、予想PER16.4倍から標準NC比率6.1%を控除したCN-PER(標準NCベース)が15.4倍となり、控除前の予想PERからの低下幅は限定的である。
これは、日本電気硝子の標準NC比率(6.1%)が広義NCAV比率(28.6%)や、ネット有利子負債超過にある同業のネットキャッシュ比率(AGC -34.2%・太平洋セメント -77.7%)と比べて小さいことによる。
倍率ベース感応度でみると、現状の予想PER16.4倍は自社5期実績レンジ(7.7〜23.8倍)の中央寄りに位置し、同業3社平均予想PER(16.3倍・参考値)ともほぼ一致する水準にある。


4. 同業比較 — 差分の論点

競合選定基準

企業 コード EDINET 業種 決算期 選定理由
AGC 5201 E01122 ガラス・土石製品 12月期 国内最大手のガラスメーカー。ディスプレイ用ガラス・電子部材で直接競合。時価総額は対象の3.4倍でレンジ内
日本板硝子 5202 E01121 ガラス・土石製品 3月期 建築・自動車ガラス中心の国内大手ガラス専業。ガラス溶融という同一の資本集約型プロセスを持つ。時価総額は対象の0.18倍でレンジ下限を下回るが、ガラス専業として財務構造の対極例(高レバレッジ)として不可欠
太平洋セメント 5233 E01130 ガラス・土石製品 3月期 同一業種(ガラス・土石製品)の大型窯業銘柄。エネルギー多消費・装置産業という共通構造を持つ規模参照。時価総額は対象の1.2倍でレンジ内

決算期が異なる(対象・AGC=12月期/日本板硝子・太平洋セメント=3月期)ため、比較テーブルには各社の最新通期を並べ、FY表記を必ず併記する。

最新期比較テーブル(現値ベース・億円換算は÷100)

market_data_as_ofは全社2026-07-30終値。

指標 日本電気硝子(5214) AGC(5201) 日本板硝子(5202) 太平洋セメント(5233)
最新通期 FY2025/12 FY2025/12 FY2026/3 FY2026/3
会計基準 JP IFRS IFRS JP
現在株価(円) 5,130 5,975 482 4,174
時価総額(億円) 3,780.0 12,690.5 685.9 4,547.9
売上高(億円) 3,114.0 20,588.3 8,794.6 8,984.4
営業利益(億円) 341.3 1,274.7 288.2 746.2
営業利益率 11.0% 6.2% 3.3% 8.3%
自己資本比率 70.2% 50.3% 13.5% 46.0%
実績PER(現値) 13.4倍 18.3倍 10.8倍 18.3倍
予想PER(現値) 16.4倍 16.5倍 22.9倍 9.5倍
PBR(現値) 0.78倍 0.85倍 0.45倍 0.68倍
ROE 6.0% 4.7% 3.4% 3.7%
配当利回り(来期予想) 3.12% 3.51% 0.00% 2.87%
純有利子負債(億円) -229.2(ネットキャッシュ) 4,333.8 4,920.7 3,535.3
EV(億円・現値) 3,550.8 17,024.3 5,606.6 8,083.2
EBITDA(億円) 583.4 3,072.6 —(減価償却費非開示) 1,451.4
EV/EBITDA(現値) 6.1倍 5.5倍 5.6倍
標準NC比率(現値) +6.1% -34.2% -717.4% -77.7%
営業CF(億円) 520.3 2,744.8 336.2 1,142.1
FCF(営業CF+投資CF・億円) 416.3 960.7 10.6 155.6

日本板硝子は減価償却費がEDINET DBに収録されていないためEBITDA/EV/EBITDAは「—」とする。
実績PERは全社「現在株価÷直近通期実績EPS」で統一(日本電気硝子5,130÷382.33/AGC5,975÷326.20/日本板硝子482÷44.51/太平洋セメント4,174÷227.86)。
予想PERは全社「現値時価総額÷来期会社予想純利益」で統一。
日本板硝子は来期(FY2027/3)会社予想純利益が3,000百万円まで落ち込む前提のため予想PERが22.9倍と高く、無配(配当利回り0.00%)である。

競合3期推移(売上高・営業利益率)

企業 3期前 売上(億円) 2期前 売上(億円) 直近 売上(億円) 3期前 営利率 2期前 営利率 直近 営利率
日本電気硝子(12月期) 2,799.7(FY2023) 2,992.4(FY2024) 3,114.0(FY2025) -3.7% 2.0% 11.0%
AGC(12月期) 20,192.5(FY2023) 20,676.0(FY2024) 20,588.3(FY2025) 6.4% 6.1% 6.2%
日本板硝子(3月期) 8,325.4(FY2024) 8,404.0(FY2025) 8,794.6(FY2026) 4.3% 2.0% 3.3%
太平洋セメント(3月期) 8,862.8(FY2024) 8,963.0(FY2025) 8,984.4(FY2026) 6.4% 8.7% 8.3%

運転資本効率(CCC)— 競合比較

分母は本テンプレ標準(売上債権=売上高ベース、棚卸資産・仕入債務=売上原価ベース)に統一。

指標(日数) 日本電気硝子(FY2025/12) AGC(FY2025/12) 日本板硝子(FY2026/3) 太平洋セメント(FY2026/3) 業界中央値
売上債権回転日数 72.50 57.51 6.82 60.11 データなし
棚卸資産回転日数 143.71 109.01 99.06 74.19 データなし
仕入債務回転日数 61.48 49.19 7.61 39.82 データなし
CCC 154.73 117.32 98.27 94.48 データなし

日本板硝子の売上債権・仕入債務回転日数が極端に短いのは、EDINET DB収録のtrade receivables/payablesがIFRS開示上の限定的な科目に留まるためとみられ、他社と単純比較できない。
業界中央値は業界ベンチマークに収録がないため全項目「データなし」とする。


5. リスクと論点

リスクマトリクス

有報「事業等のリスク」に記載された会社自身の発生可能性×影響度の格付けをもとに、具体的な影響シナリオを付す。

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
資材等の調達(原燃料・資材の供給逼迫・価格高騰・物流費高騰) ガラス溶融炉のエネルギー多消費構造ゆえ、燃料・原材料価格の急騰に価格転嫁が追いつかなければ営業利益率が短期間で悪化しうる 調達先・物流ルートの複数化を財務・事業戦略に明記
自然災害・事故災害・感染症(地震・台風・大雨、火災・停電、電力/ガス/水の供給困難) 滋賀県の製造拠点に生産が集中しており、主力拠点が稼働停止すれば見込み生産ゆえの在庫調整余地の乏しさから供給責任に直結しうる 詳細な代替生産体制の開示は限定的(要調査)
需要及び市場構造の急変(技術革新によるデバイス・部品・材料の転換) ディスプレイ・半導体分野で技術転換が起き既存製品需要が急減すると、固定費型のコスト構造ゆえ営業利益率が急速に悪化しうる。FY2023/12の営業利益率-3.7%からFY2025/12の11.0%への振れ幅が、逆方向にも同程度起こりうることを示す 高付加価値品(GCコア®・低誘電ガラスファイバ等)への事業ポートフォリオシフト
設備投資(生産設備新設に多額の資金と長期間を要する) 全電気溶融炉への転換投資が需要予測とずれた場合、投資回収期間の長期化・稼働率低下リスクが生じる 事業収益性の分析徹底による投資・縮小・撤退判断をEGP2028で明記
一部製品の販売(特定の主要顧客への依存) 連結全体では10%以上の相手先はいないが、製品別には特定顧客への依存があり、当該顧客の内製化・調達切替が生じれば当該製品ラインの稼働率が急減しうる 詳細な代替顧客開拓策の開示は限定的(要調査)

会社自身が最も明確に懸念を示しているのは、電子デバイス事業の主力製品である半導体用サポートガラスをめぐる競争環境である。
FY2026会社見通しにおいて「半導体用サポートガラスの競争環境がますます厳しくなる」と明言しており、プローブカード用基板やデータセンター向け等その他製品の拡大でこれを補う方針を示している。
想定される展開としては、①既存の半導体プロセス用途で価格競争が激化し単価が下押しされる、②主要顧客が調達のマルチソース化・内製化を進める、③一方でGCコア®(無機コア基板)等の新領域開発が進めば競争激化の影響を相殺しうる、という複数の分岐がありうる。
ガラスコア基板という隣接領域で海外の半導体大手が量産準備を進めている(出典: インテル前進、ガラスコア基板量産へ)動きは、既存の半導体用サポートガラス事業とは製品セグメントが異なるものの、同社が同じガラス技術基盤を持つ電子デバイス事業内でどちらに軸足を移すかという論点にもつながる。

バリュートラップの論点

PBR0.78倍・ROE6.0%(東証プライム基準8%未達)・DOE2.32%(目標3%未達)という組み合わせは、資本効率をめぐる典型的な論点を提示する。
標準NC229.2億円は時価総額の6.1%にすぎない一方、広義NCAV(政策保有株式・投資有価証券等を含む)は1,079.8億円で時価総額の28.6%に達する。
つまり現預金そのものは薄いが、バランスシート全体の厚みが市場評価に十分に織り込まれていない構図が生じている可能性がある。
1,000億円の自己株式取得計画の残り(約400億円)とDOE3%目標の達成度合いが、この資本効率ギャップをどこまで埋めるかが論点となる。
東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請は2026年で3年目を迎え、プライム市場全体で低PBR・低ROE企業群は減少傾向にあるとされる(出典: 資本コストや株価を意識した経営|JPX東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請から3年|第一生命経済研究所)。
同社株主にアクティビスト的ファンドの大量保有報告書は2026年7月31日時点で確認されておらず、外部からの資本効率改善圧力は現時点では顕在化していない。


6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造分析

予想EV/EBITDA6.1倍は同業のAGC(5.5倍)・太平洋セメント(5.6倍)とほぼ同水準であり、事業価値そのものは横並びで評価されているとみられる。
一方で予想PER16.4倍とCN-PER(標準NCベース)15.4倍の差はわずか1倍程度にとどまる。
これは標準NC比率が6.1%にすぎず、キャッシュ控除の効果が限定的であることを反映している。
PBR0.78倍・ROE6.0%という組み合わせは、純資産は厚いが資本効率が低いという典型パターンに該当する。

もう一つの構造要因は会社予想の方向性である。
FY2026会社予想は営業利益-3.3%・純利益-22.3%の減益を見込んでおり、これが実績PER(13.4倍)よりも予想PERを押し上げている。
会社予想の信頼度という観点では、期初予想の営業利益がFY2024(-61.8%)・FY2025(+70.7%)と2期連続で±60〜70%という大きな乖離を記録しており、市場がFY2026会社予想(営業利益330億円)をそのまま織り込んでいるのか、上振れ・下振れ双方の余地を割り引いて評価しているのかは判然としない。
装置産業特有の操業度レバレッジの大きさ(FY2023/12の営業利益率-3.7%からFY2025/12の11.0%への9pt超の振れ)を踏まえれば、会社予想からの乖離幅そのものが評価の不確実性として市場に織り込まれている可能性がある。

以上を踏まえると、現在の値付けは「割安の放置」と「バリュートラップ(構造的な資本効率の低さゆえの評価据え置き)」のいずれとも解釈しうる。
事業価値(EV/EBITDA)は同業並みであるにもかかわらず、純資産対比(PBR)で相対的に低い評価にとどまっている点は、ネットキャッシュ企業でありながら資本効率(ROE・DOE)が東証プライム基準・自社目標のいずれにも未達であることの反映と整理するのが構造的に一貫している。

条件分岐シナリオ

上方シナリオ

電子デバイス(半導体・データセンター向け)と低誘電ガラスファイバの拡大がEGP2028の目標(営業利益率12.5%・ROE8%)に接近する前提のシナリオである。
低誘電ガラスファイバはAIサーバー基板向けの需要増でガラスクロス(T-Glass)の供給不足が「AIサーバーのボトルネック」とまで指摘される状況にあり(出典: ガラスクロス不足は次の半導体ボトルネック|note)、複合材事業の反転ドライバーになりうる。
仮にROEが東証基準の8%を超える水準まで改善すれば、PBR・適用PERレンジの評価軸そのものが切り上がる可能性がある(現状の適用PERレンジは下限8倍・中央16倍・上限20倍で設定)。

ベースシナリオ

FY2026会社予想(営業利益330億円、純利益230億円)並みの着地を想定するシナリオである。
この場合、評価軸は実績PER(13.4倍)と予想PER(16.4倍)の間のレンジで据え置かれる公算が大きく、EV/EBITDA・PBRとも同業と大きく乖離しない水準で推移すると考えられる。

下方シナリオ

ディスプレイ需給の悪化と半導体用サポートガラスの競争激化が同時進行し、FY2023/12〜FY2024/12型の操業度悪化(営業利益率-3.7%→2.0%)が再来する前提のシナリオである。
この場合、自社の過去5期のPBRレンジ(0.41〜0.94倍)の下限に評価が引き直される論点が生じる。
会社自身がFY2026見通しで「競争環境がますます厳しくなる」と明言している点は、このシナリオの現実味を測るうえでの起点となる。

監視ポイント

決算スケジュールは前年実績からの推定であり確定日ではない点に留意されたい。

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年7月下旬〜7月30日頃(前年実績: 2025-07-30) 2026年12月期 中間期(第2四半期累計)決算短信 通期予想(営業利益330億円)に対する上期進捗率、電子デバイス部門の半導体用サポートガラス競争環境に関する記述の変化、中間配当の実施額
2026年10月下旬〜10月31日頃(前年実績: 2025-10-31) 2026年12月期 第3四半期決算短信 通期業績予想の修正有無、ディスプレイ事業の稼働状況とGCコア®開発の進捗言及
2027年2月上旬(2月5〜6日頃、前年実績: 2026-02-06) 2026年12月期 通期決算短信+FY2027会社予想 FY2026会社予想(営業利益330億円・純利益230億円)に対する着地、FY2027会社予想の増減益方向
2027年3月下旬(前年実績: 有報2026-03-26提出・総会2026-03-27) 有価証券報告書提出+定時株主総会 政策保有株式の縮減状況(連結純資産比7.3%からの変化)、全電気溶融炉導入比率(2025年12月末7割弱)の更新値
2026年12月29日(火)(期末配当の権利付き最終日、権利確定日12月31日の2営業日前) 期末配当の権利確定手続き 予想配当160円(DOE目標3%に対する実績2.32%からの接近度)の据え置き有無
各四半期決算のタイミング(随時) 自己株式取得の進捗開示 総額1,000億円計画のうち残り約400億円の消化ペース
決算説明会資料の更新時(随時) EGP2028の進捗アップデート 営業利益率12.5%・ROE8%目標への接近度、DOEの実績値の推移
有報・適時開示の更新時(随時) 海外子会社の構造改革進捗 清算手続き中の韓国関連子会社の完了状況、英国子会社停止後の処理方針

M&A・出資検討の論点整理

買い手目線でこの企業のEVの許容水準を規定する要因を整理すると、まず標準NC229.2億円自体は薄いが、広義NCAV1,079.8億円は政策保有株式(359.8億円)・投資有価証券(420.5億円)を含めれば厚みを持つ。
ただしこれらの換金性は市場流動性や政策保有先との関係維持の観点に左右される。
有形固定資産3,606.6億円はガラス溶融炉という特殊設備が中心であり、再取得価値での評価は炉の残存耐用年数・仕様適合性次第で大きく振れる。

シナジー・ディスシナジーの論点としては、ディスプレイ用ガラスが少数社による寡占構造にあることから、同業間の統合は独占禁止法上の審査論点になりやすい。
また顧客側がマルチソース調達方針を持つ場合、統合によって供給元が集約されることは顧客との関係にディスシナジーを生みうる。
ガラス溶融炉は同一製品を複数拠点で重複生産している場合、統合による炉の統廃合コスト(稼働停止・環境対応費用)が発生しうる。

デューデリジェンスで確認すべき事項としては、①溶融炉の残存耐用年数と大規模修繕サイクル、②環境負債・CO2排出規制対応コスト(全電気溶融炉への転換投資の進捗と残投資額)、③海外子会社(マレーシア・米国・中国・台湾等)の収益性、④清算手続き中の韓国関連子会社の残債務、⑤特殊ガラス製造のノウハウが特定の技術者・拠点に集中していないか(キーマン依存)、が挙げられる。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 装置産業の操業度レバレッジ

日本電気硝子では、ほぼ同じ売上規模帯(FY2023/12売上2,799.7億円・FY2025/12売上3,114.0億円)で、営業利益がFY2023/12の-104.2億円(営業利益率-3.7%)からFY2025/12の341.3億円(同11.0%)まで振れた。
売上高がおよそ1割程度しか変わらないなかで営業利益率が9ポイント超動いている点が、この会社の利益構造の核心である。

これは「固定費の大きい厨房」に例えると分かりやすい。
大型の窯やオーブンを構える店は、客が少なくても火を落とせずガス代・電気代がかかり続ける。
客が増えても厨房の広さは変わらないので、追加の売上のほとんどが利益として積み上がる。
ガラス溶融炉も同様に、稼働を続ける限り燃料費・電力費という固定費が発生し続け、稼働率(数量)や販売価格が少し動くだけで、利益は売上の変動幅を大きく上回って動く。

この着眼点は、期初の会社予想の営業利益がFY2024(実績61.2億円 対 予想160億円、-61.8%)・FY2025(実績341.3億円 対 予想200億円、+70.7%)と2期連続で±60〜70%という大きな乖離を記録した事実の理解に直結する。
装置産業では、会社自身の期初予想であっても操業度の読み違いによって大きく外れうるという前提を持って開示を読む必要がある。

📚 着眼点2: ネットキャッシュの「薄さ」とNCAVの「厚さ」の差が意味するもの

標準NC比率は6.1%にすぎないが、広義NCAV比率は28.6%に達する。
現預金1,203.1億円に対し有利子負債973.9億円が残っているため、単純な「現金から借金を引いた」ネットキャッシュは薄い。
一方、政策保有株式・投資有価証券・その他の資産を含めた広義の見方では、バランスシート全体の厚みは無視できない水準にある。

これは「財布の中の現金は少ないが、家や車といった資産を含めれば純資産はしっかりある」状態に近い。財布(現預金)だけを見れば余裕は限定的だが、資産全体(NCAV)を見れば話は変わる。

この差は、CN-PER(標準NCベース)15.4倍が予想PER16.4倍からほとんど下がらない理由の説明になる。
キャッシュリッチ企業のように「現預金を控除すれば割安度が跳ね上がる」という単純な構図ではなく、資産の厚みは政策保有株式や有形固定資産といった非流動的な項目に分散していることを踏まえて評価する必要がある。
同業4社のうち標準NCがプラス(ネットキャッシュ)なのは日本電気硝子のみであり、他3社(AGC・日本板硝子・太平洋セメント)はいずれもネットデットである点は、業界内での相対的な財務健全性の高さを示す一方、それ自体がバリュエーションの割安さを直接保証するものではないことも合わせて理解しておきたい。

📚 着眼点3: 日本電気硝子の指標ポジショニング

各指標について、日本電気硝子の値・同業他社平均(AGC・日本板硝子・太平洋セメントの単純平均)・全上場中央値の目安(断定的な出典を伴わない一般的な水準感)を並べ、評価コメントを付す。

指標 日本電気硝子 同業他社平均 全上場中央値(目安) 評価コメント
実績PER 13.4倍 約15.8倍 約15倍 同業平均をやや下回るが、FY2025が営業利益+457.6%という急回復年である点を割り引く必要がある
予想PER 16.4倍 16.3倍 約15倍 同業平均とほぼ同水準。FY2026会社予想が減益であることが分母を圧迫している
PBR 0.78倍 約0.66倍 約1.2倍 同業平均は上回るが全上場中央値には届かず、ROEの低さが上値を抑えている構図
ROE 6.0% 約3.9% 約8〜9% 同業内では相対的に高いが、東証プライム基準8%・自社目標8%(EGP2028)にはいずれも未達
ROIC 7.2% 要調査(非開示) 要調査 単独指標としては装置産業として標準的な水準だが同業比較データが取得できていない
EV/EBITDA 6.1倍 約5.55倍(板硝子は非開示) 要調査 事業価値としては同業とほぼ横並びの評価
配当利回り(来期予想) 3.12% 約2.13% 約2.3% 同業平均・全上場中央値をいずれも上回るが、配当性向52.0%(FY2026予想)はDOE目標未達の裏返しでもある
自己資本比率 70.2% 約36.6% 要調査 同業と比べても突出して高く、財務基盤の堅さは業界内でも際立つ
営業利益率 11.0% 約5.9% 要調査 同業平均を大きく上回るが、FY2023の-3.7%を踏まえると持続性の検証が必要
CCC 154.73日 約103.36日(板硝子は開示科目差で単純比較不可) 要調査 棚卸資産回転の長さ(143.71日)が突出しており運転資本効率の論点として残る
DOE 2.32% 要調査(非開示) 要調査 自社目標3%に対して未達。自己株式取得と合わせた総還元での評価が必要

参考情報

ガバナンス要点

日本電気硝子は代表取締役社長を岸本暁、代表取締役取締役会長を松本元春が務め、取締役会は7名(社内3・社外4)で構成される社外取締役過半数の体制をとる。
監査役会設置会社であり監査役4名(うち社外2名)を置き、取締役の任期は1年、執行役員制度(17名)を併用する。
取締役会はFY2025に18回開催され全取締役が全回出席、指名・報酬諮問委員会(社外取締役が過半数、委員長は社外取締役の伊藤好生氏)は4回開催しこちらも全回出席という高い出席率を維持している。
女性取締役比率は18.2%(男性9名・女性2名)である。
連結子会社23社・関連会社3社の計27社を傘下に持ち、従業員数は連結5,218名(単体1,778名、平均年齢43.3歳、平均勤続20.0年、平均年収738万円)。
本社は滋賀県大津市に置かれ琵琶湖周辺に複数の製造拠点を構える。
格付は日本格付研究所(JCR)でシングルAプラスを取得しており、国内金融機関との間に総額250億円のコミットメントラインを設定している。

大株主構成

大量保有報告書ベースの上位4グループを示す。有報の大株主上位10名(基準日・集計方法が異なる)とは基準が異なる点に留意されたい。

順位 株主名(グループ計) 保有比率 区分 提出日
1 三井住友信託銀行グループ(うちアモーヴァ・アセットマネジメント5.55%、三井住友トラスト・アセットマネジメント2.24%、三井住友信託銀行1.07%) 8.86% 信託・運用(一部は政策投資) 2026-04-21
2 野村證券グループ(うち野村アセットマネジメント6.81%) 7.13% 運用・証券在庫 2026-03-05
3 ニプロ株式会社 4.40% 事業会社・政策保有 2025-02-26
4 三菱UFJフィナンシャル・グループ 3.65% 信託・運用 2022-03-22

アクティビスト的ファンドによる大量保有報告書は2026年7月31日時点で確認されていない。

データソースの時点差

データ種別 基準日 ソース
財務諸表(5期時系列) 2025-12-31 EDINET 有価証券報告書(2026年3月26日提出)
直近開示(通期実績・来期予想) 2025-12-31 2025年12月期決算短信(2026年2月6日開示)
四半期実績 2026-03-31 2026年12月期第1四半期決算短信(2026年4月30日開示)
株価・時価総額 2026-07-30 市場データ(直近営業日終値)
大株主 2022-03-22〜2026-04-21 EDINET 大量保有報告書(提出日は保有者ごとに異なる)

出典一覧

  1. EDINET DB — 企業基本情報・健全性スコア・最新決算(EDINET有価証券報告書ベース)
  2. EDINET DB — 5期財務時系列
  3. EDINET DB — 業界ベンチマーク
  4. TDNet決算短信 — 速報値・会社予想
  5. 日本電気硝子 有価証券報告書(2026年3月26日提出・2025年12月期)— 事業の内容/経営者による分析/配当政策/事業等のリスク
  6. EDINET DB — 大株主構成
  7. 株価・時価総額 — 市場データ(2026-07-30終値)
  8. 日本電気硝子 ニュースリリース — 世界初となる全電気溶融炉による医薬品容器用管ガラスの量産を開始
  9. 日本電気硝子 NEGジャーナル — 次世代半導体を支えるNEGのガラス基板
  10. PR TIMES — 酸素燃焼で先駆けた日本電気硝子、カーボンニュートラル技術をガラス産業に提供開始
  11. 日本経済新聞 — 日本電気硝子、AI半導体にガラス基板 26年サンプル出荷
  12. マイナビニュース TECH+ — 現実味増す半導体向け「ガラス基板」量産
  13. 日本経済新聞 — インテル前進、ガラスコア基板量産へ
  14. 業界動向サーチ — ガラス業界のシェア・ランキング
  15. JPX — 資本コストや株価を意識した経営
  16. 第一生命経済研究所 — 東証の「資本コストや株価を意識した経営」要請から3年
  17. note(kumu_works) — ガラスクロス不足は次の半導体ボトルネック