📚 業界ノート

日東電工

【経済・化学】化学企業バリュエーション分析更新 2026-11-05

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 2. 財務の実力
  3. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  4. 4. 同業比較 — 差分の論点
  5. 5. リスクと論点
  6. 財務余力が評価へ直結しない場合
  7. 6. バリュエーション統合と論点整理
  8. 市場が置く評価軸
  9. 条件が変わる場合の評価軸
  10. 監視ポイント
  11. M&A・出資を評価する視点
  12. 7. 学びのポイント
  13. 📚 着眼点1: 利益率はセグメント構成と価格決定力で読む
  14. 📚 着眼点2: 現金の厚さと資本効率は別の問い
  15. 📚 着眼点3: 日東電工の指標ポジショニング
  16. 参考情報
  17. ガバナンス・企業情報
  18. 大株主(2026-03-31現在)
  19. データ時点と出典

日東電工(6988)銘柄分析レポート

SUMMARY
  • 何で稼ぐ会社か: 接合・保護材料、光学フィルム・回路材料、核酸CDMOなどを顧客工程へ供給し、材料設計と加工技術で収益を得る機能化学企業である。
  • 財務の要点: FY2026/3は売上収益10,282億円、営業利益率17.9%、ROE12.2%。5期連続で営業CFが正で、現預金3,598億円を保有する(FY2026/3有報)。
  • 分析上の最大論点: FY2027/3 2Qはテープ・ヒューマンライフが伸びる一方、オプトロニクス利益はFY2026/3 2Q比で減少した(FY2027/3 2Q決算短信)。複数用途の成長がFY2029/3(2028年度)の営業利益率20%目標へつながるかが焦点である。

注: 報告日(2026-11-05)の現値を取得できず、時価総額・倍率・NC比率・利回りはFY2026/3末EDINETスナップショット(株価取得日: 2026-03-31)を使用。
以後の市場変動は未反映。


1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

日東電工は、機能性材料を顧客の工程に組み込み、接着・保護・分離・光学・回路形成の機能を提供する企業である。
汎用品の数量だけで競う構造とは異なり、顧客の工程認定、製品仕様、加工条件に入った材料が収益を支える。
事業全体の市場構造は化学業界基礎ガイド、素材業態別の採算・資本効率は化学セグメント分析_3_FP&A断面と投資視点を参照。

事業 FY2027/3 2Q累計売上
(億円)
対FY2026/3 2Q FY2027/3 2Q累計営業利益
(億円)
営業利益率 FY2026/3通期売上構成比
オプトロニクス 2,692.58 +0.4% 739.50 27.5% 51.0%
インダストリアルテープ 2,073.09 +16.3% 358.32 17.3% 35.5%
ヒューマンライフ 810.97 +21.9% 10.20 1.3% 13.4%
その他 0.04 −50.0% ▲41.02 — —

出典: FY2027/3 2Q決算資料・EDINET DBセグメント集計、FY2026/3有価証券報告書。
2Q値は2026-04-01から2026-09-30までの累計である。
セグメント売上はセグメント間取引を除いた値であり、連結売上とは一致しない。
セグメント営業利益にも全社調整があり、連結営業利益とは一致しない。
構成比はFY2026/3通期の外部売上ベース。

FY2027/3 2Q累計の連結売上は5,583.63億円(+8.7%)、営業利益1,058.41億円(+12.0%)、親会社利益765.02億円(+11.0%)で、通期計画に対し50.3%、52.9%、53.9%の進捗。
インダストリアルテープは売上・利益の両方を伸ばし、ヒューマンライフも赤字から小幅黒字へ移った。
一方、最大セグメントのオプトロニクスは利益率を維持しつつ営業利益がFY2026/3 2Q比4.1%減った。連結増益を一つの成長率にまとめると、用途・製品ミックスの違いが消える。

インダストリアルテープは接合、保護、工程用、自動車材料を扱う。
FY2026/3は半導体メモリーやMLCCの工程材料、電池固定に使う電気剥離テープの採用が伸びた。
電気剥離テープは固定時に保持力を持ち、電流などの刺激で剥がしやすくする材料であり、部品の薄型化・工程自動化と相性がよい。
自動車材料は中国における日系自動車生産の減少が響き、電子材料の伸長が全用途に波及しているわけではない。

オプトロニクスは液晶・有機EL向け光学フィルム、回路材料CIS、高精度基板を含む。
FY2026/3の営業利益はFY2025/3から13.4%減少した。
ハイエンドのノートPC・タブレットや高級スマートフォンが支えたが、スマートフォンLCDフィルムの戦略的な縮小、工程の合理化、価格競争が利益を押した。
CISはHDD関連、データセンターの保存容量需要、先端スマートフォンの高精度化に接点がある。
光学フィルムの採算低下を回路材料の成長で補えるかが、売上構成比の大きい本事業を読む鍵となる。

ヒューマンライフは核酸CDMO・合成材料、分離膜、衛生材料向けフィルムを束ねる。
FY2026/3は大型核酸案件が臨床段階から商用生産へ移り採算が改善した。
FY2027/3 2Q累計は営業利益10.20億円へ転じたものの、売上比利益率は1.3%であり、赤字解消と安定収益化は分けて見る必要がある。
核酸医薬関連は規制適合、品質保証、顧客の開発・承認日程、設備稼働率が利益の振れを左右する。

原価は材料費、加工・製造費、物流、人件費から成り、製品ごとの歩留まりや稼働率が利益率に影響する。
石油由来原料と為替は複数事業を横断するコスト要因である。
FY2026/3の研究開発費は480億円、売上比4.7%だった。
FY2026/3平均為替は1ドル150.2円で、円高方向の変化が営業利益を約81億円押し下げたと会社は説明する。
海外売上比率は80%超で、輸出管理、関税、物流、顧客の海外稼働も連結業績に伝わりやすい。

FY2026/3の棚卸資産は1,579億円とFY2025/3比10.4%増え、売上収益の伸び1.4%を上回った。
半導体・光学・CDMOなど納期や顧客認定が異なる製品を抱えるため、在庫増が将来販売の準備なのか、需要鈍化による滞留なのかは次の開示で照合したい。
顧客別売上が10%を超える販売先はFY2026/3有報に記載されておらず、単一顧客への売上集中は限定的である。

豊橋事業所では電気剥離テープや折りたたみOLED関連の供給能力を増やす工場計画があり、最大390億円を投じ、2028年1月の完成を予定する。
需要に先回りする設備は顧客認定後の供給制約を軽くする一方、量産立ち上がりが遅れると減価償却と固定費が先行する。
設備の進捗だけでなく、対象品目の採用、稼働率、歩留まりを追う必要がある。
工場計画は会社発表。


2. 財務の実力

**FY2026/3は利益率がFY2025/3の高水準からやや低下した一方、厚い親会社持分と継続した営業キャッシュ創出を保った。
**以下はIFRS連結実績で、金額は億円。
FCFは営業CF+投資CFで計算した。

指標 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上収益 8,534 9,290 9,151 10,139 10,282
売上成長率 — +8.9% −1.5% +10.8% +1.4%
営業利益 1,323 1,472 1,391 1,857 1,836
営業利益率 15.5% 15.8% 15.2% 18.3% 17.9%
親会社帰属利益 971 1,092 1,027 1,372 1,335
総資産 10,945 11,536 12,511 13,219 14,418
親会社持分比率 75.0% 78.2% 78.7% 79.0% 79.6%
営業CF 1,445 1,817 1,555 2,179 1,922
投資CF ▲576 ▲1,599 ▲679 ▲1,151 ▲1,074
FCF(営業CF+投資CF) 869 218 876 1,028 847
設備投資支出 565 508 834 930 868
EPS/DPS(円、分割調整後) 131/44 148/48 144/52 196/56 197/60

出典: 日東電工FY2026/3有価証券報告書・EDINET DB財務データ、会社配当履歴。
FY2024/3までは2024-10-01発効の1株を5株とする株式分割前のEPSを5で除して比較可能にした。
FY2025/3配当は会社公表の調整後56円を採用。
EDINETの一部分割前フィールドをそのまま並べていない。
売上成長率はFY2023/3がFY2022/3比、FY2024/3がFY2023/3比、FY2025/3がFY2024/3比、FY2026/3がFY2025/3比である。

売上はFY2024/3に1.5%減、FY2025/3に10.8%、FY2026/3に1.4%増。
営業利益率は15.2〜18.3%。
FY2026/3営業利益が1.1%減る一方、EPSは親会社利益÷加重平均株式数で197.20円(+0.7%)。
配当はEPSに含まれず、利益と株数が影響する。

財務・資本効率指標 日東電工 FY2026/3 化学業種中央値 読み取りと健全性確認
売上成長率 +1.4% +1.9% ○ 5年では拡大、FY2026/3は緩やか
営業利益率 17.9% 7.0% ◎ 高いが、セグメント差が大きい
ROE 12.2% 6.6% ○ FY2026/3会社目標15%に未達
親会社持分比率 79.6% 65.2% ◎ 財務余力が厚い
流動比率 3.53倍 2.28倍 ◎ 短期債務に対する流動資産余力
営業CF 1,922億円 — ◎ 5期連続プラス
FCF 847億円 — ○ 設備投資後もプラス
棚卸資産の伸び +10.4% — △ 売上増+1.4%を上回る
配当性向 30.4% 35.1% ○ FY2026/3実績。FY2027/3配当72円を予想

業種中央値はEDINET DB FY2026/3「化学」156社の中央値である。
指標定義や対象企業の差があるため単純な優劣ではない。
営業CFは有報、FCFは営業CF+投資CF、配当性向は会社のFY2026/3実績値。
純利益率・ROE・持分比率は会社値。
健全性スコアはEDINET DB分析値95/100を記載したが、会社詳細表示100/100との不一致がある。
算定基準が開示されていないため、スコアを財務指標より上位の結論としては扱わない。

財務健全性の9項目を整理すると、売上規模の拡大、利益率、自己資本、営業CF、短期流動性、設備投資後FCF、配当余力、研究開発の継続性には支えがある。
相対的な点検項目は在庫増加とROE目標の未達である。
FY2026/3総資産1兆4,418億円に対し親会社持分1兆1,480億円、親会社持分比率79.6%。
期末現金は3,598億円で、借入金はFY2025/3末の4.55億円からFY2026/3末にかけてなくなったと有報は説明する。

FY2026/3の営業CFは1,922億円、投資CFは▲1,074億円でFCF847億円となった。
投資CFには有形固定資産・無形資産取得の支出だけでなく、定期預金や投資有価証券の増減も含まれる。
設備投資868億円を減価償却707億円が下回り、工場新設・更新を続ける局面にある。
**簡便FCFは営業CFに符号付き投資CFを加えて算出し、資金創出の方向を見る値である。
**自由に還元へ使える金額を直接表すものではない。

運転資本の比較資産ではFY2025/3のCCCは92日、棚卸日数84日、売上債権日数39日、仕入債務日数31日。
対象社の製品は受注生産だけでなく、顧客の認定・供給計画に備える在庫も必要となる。
FY2026/3棚卸資産の増加がFY2027/3上期売上の伸びに対応しているか、在庫回転や滞留評価で確認する。
CCCの最新FY2026/3値は同じ比較定義で取得できていないため、FY2025/3値を繰り越していない。

会社予想と実績は、FY2023/3が売上8,800億円・営業利益1,400億円に対し9,290.36億円・1,471.73億円(+5.6%・+5.1%)、FY2024/3が9,350億円・1,500億円に対し9,151.39億円・1,391.32億円(−2.1%・−7.2%)だった。
FY2025/3の予想値は未確認。
FY2027/3改定予想(2026年10月27日)は売上11,100億円、営業利益2,000億円、親会社利益1,420億円、EPS216.29円、年間配当72円。
下期の製品ミックスを追う。

FY2027/3の資本配分では、2026年10月27日に上限1,700万株・500億円(自己株式を除く発行済株式の2.58%)の自己株式取得が公表された。
取得期間は2026年11月4日〜2027年3月24日で、上限は実取得数を示さない。
2026年10月20日には自己株式1,547万2,050株を消却した。
これらは1株指標や資本構成に影響しうるが、営業利益の増加とは区別する。
会社の資金配分優先順位は設備投資、配当、M&A、自己株取得である。

Nitto RISE 2028(2026〜2028年度)はFY2029/3(2028年度)に営業利益2,200億円・利益率20%・ROE14%、FY2031/3(2030年度)に2,400億円以上・利益率20%以上・ROE15%を目標とする。
FY2026/3 ROE12.2%からの改善は利益成長、投資効率、株主還元が鍵となる。


3. 市場評価を読む — バリュエーション

市場倍率はFY2026/3期末スナップショットであり、2026-11-05時点の現値は未取得である。

評価項目 FY2026/3期末 FY2025/3期末 定義・留保
時価総額 20,743.9億円 19,367.8億円 EDINET期末スナップ
実績PER 15.5倍 14.0倍 期末PER。FY2026/3 EPS197.20円
PBR 1.79倍 1.82倍 FY2026/3 BPS1,704.17円
FY2027/3予想PER(同じ時価総額を使用) 約14.6倍 — 20,743.9億円÷親会社利益予想1,420億円
FY2026/3実績配当利回り 1.96% 約1.96% 調整後DPS60円。FY2025/3 DPS56円
FY2027/3予想配当利回り 約2.36% — 予想DPS72円を期末スナップ換算値に適用
標準NC(現金ベース代理値) 3,598.1億円 3,628.9億円 短期有価証券は区分欠測。FY2025/3は借入4.55億円控除
標準NC代理比率 17.3% 18.7% 時価総額に対する比率
広義NCAV下限値 5,046.4億円 4,734.0億円 流動資産−総負債。有価証券を未加算
広義NCAV下限比率 24.3% 24.4% 完全な投資有価証券内訳を含まない
CN-PER(現金代理値控除) 約12.1倍 — FY2027/3予想純利益を使用
CN-PER(広義NCAV下限控除) 約11.1倍 — 有価証券を未加算の下限値に基づく
FY2026/3 EV/EBITDA 6.74倍 6.26倍 期末時価総額−現預金、EBITDA=営業利益+減価償却

FY2026/3末時価総額20,743.9123902億円÷発行済株式数678,659,700株は約3,056.6円。
これは観測株価でなく算術照合値で、EPS197.20円×PER15.5倍、BPS1,704.17円×PBR1.7936004と整合する。
FY2027/3予想EPS216.29円は会社開示値で、期末とは決算期・株式数基準が異なる。

標準NCの定義は現預金+短期有価証券−有利子負債、広義NCAVの定義は流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計である。
IFRS抽出値では有価証券の独立項目が欠測するため、標準NCは現金ベースの代理値、広義NCAVは有価証券を加えない下限値である。
厳密な値は有報注記の金融資産を流動・非流動に再分類しなければ確定しない。

標準NC代理値3,598億円を時価総額から控除するとCN-PERは約12.1倍となる。
広義NCAV下限値を使うと約11.1倍である。
いずれもFY2026/3スナップショットの時価総額とFY2027/3会社予想純利益1,420億円を組み合わせた計算で、現値時点の倍率ではない。
短期証券の追加や負債分類の精査が必要なことから、CN-PERは一桁精度までの仮説として読むのが適切である。

FY2026/3 EBITDAは営業利益1,836億円と減価償却707億円の合計2,543億円。
期末時価総額から現預金を差し引いたEVは1兆7,146億円で、EV/EBITDAは6.74倍となる。
広義NCAV下限を控除した場合は約6.17倍。
後者は現金以外の資産も含むため、流動資産のすべてを同じ確度で換金できるという意味ではない。
DCFはWACC、永久成長率、5期分のFCF前提がそろわないため、掲載しない。

倍率感応度は企業固有の過去PERと比較会社のEV/EBITDAを幅として並べる。円換算や将来の到達水準は置かない。

比較ケース 倍率 根拠と読み方
PERレンジ下側 11.6倍 FY2023/3期末の観測値。過去の観測下限
PER中心 15.5倍 FY2026/3期末の実績PER
PERレンジ上側 19.2倍 FY2024/3期末の観測値
EV/EBITDA比較下側 6.3〜6.7倍 日東電工FY2025/3、旭化成FY2025/3の既存比較資産
EV/EBITDA比較上側 7.7倍 信越化学FY2025/3。高収益の半導体材料構成を含む

この比較は「正しい倍率」を断定するものではない。
機能材料の収益持続性、オプトロニクスの価格下落、CDMO案件の利益率、投資後のROICが異なるため、単一の同業平均へ収束させにくい。
化学業種内の競争構造は化学主要プレイヤー比較_FP&Aと投資視点に詳しい。


4. 同業比較 — 差分の論点

以下はFY2025/3の検証済み化学プレイヤー比較からの転記である。
株価基準は同資産に記載された2026-06-21。
比較資産に同じ基準日のPER・PBR・時価総額・配当利回り・NC比率がないため、欠測のまま示す。

指標 日東電工 信越化学工業 旭化成
時価総額 — — —
売上(億円) 10,139 25,612 30,373
PER — — —
PBR — — —
ROE 13.1% 11.5% 7.3%
営業利益率 18.3% 29.0% 7.0%
自己資本比率 79.0% 82.7% 46.3%
配当利回り — — —
EV/EBITDA 6.3倍 7.7倍 6.7倍
標準NC比率 — — —

出典: 化学主要プレイヤー比較 FY2025/3。評価倍率は同資産の転記値。未掲載の市場価値指標は推定していない。

日東電工は売上規模では信越化学・旭化成より小さい。
営業利益率18.3%は旭化成7.0%を上回るが信越化学29.0%を下回り、ROE13.1%は両社の11.5%・7.3%を上回る。
自己資本比率79.0%は信越化学82.7%に近い。3社の単純平均は営業利益率18.1%、ROE10.6%、自己資本比率69.3%であり、選定企業だけの平均で業界全体の中央値ではない。

この差は規模より事業構成に表れている。
信越化学は半導体ウェハ・塩化ビニル樹脂等を大規模に展開する。
日東電工は光学、工程用テープ、回路、核酸CDMOなどの機能製品を組み合わせる。
旭化成はマテリアル・住宅・ヘルスケアを持ち、製品群の広さと収益の分散度が異なる。
各社の固定費、製品サイクル、資本集約度も異なるため、EV/EBITDAのみで品質差を説明できない。

FY2026/3の日東電工の営業利益率17.9%はFY2025/3から0.4ポイント低下し、FY2027/3 2Qもセグメント別に増減が分かれた。
2026年の最新化学業種中央値では営業利益率7.0%、ROE6.6%であり、日東電工の採算・資本効率は業種水準を上回る。
一方で、ROEはFY2026/3の15%目標に届かず、自己資本の積み上がりと利益成長の速度を引き続き照合する。
比較の詳細は化学主要プレイヤー比較を参照。


5. リスクと論点

リスクの大きさは会社の発生確率ではなく、開示内容と利益構成に基づく分析者の相対評価である。複数の需要産業を持つ一方、電子材料、為替、大型案件、固定資産投資が同時に動く可能性がある。

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的な影響シナリオ 確認できる対応
電子機器・光学フィルムの需要、価格 高 中 スマートフォン機種構成やLCD縮小、価格競争が続き、オプトロニクスの利益率が低下 高付加価値製品への移行、工程合理化、用途別開発
核酸CDMO案件の切替・品質・規制 高 中 大型案件の商用化が遅れ、設備稼働と利益改善が止まる 品質保証・規制対応、案件拡大、製造体制整備
為替、関税、原材料、物流 高 中 円高と輸出制限、石油由来原料高、海上輸送遅延が収益と供給を圧迫 為替ヘッジ、調達先分散、在庫管理、BCP
顧客の生産計画・在庫循環 中〜高 中 半導体・HDD・自動車の発注が減り、棚卸資産増加と稼働率低下が重なる 用途・顧客分散、需要監視、工程別在庫管理
新規事業・工場投資 中〜高 中 量産採用の遅れで減価償却と固定費が先行し、設備や技術の減損が発生 段階的投資、顧客評価、事業ポートフォリオ管理

出典: FY2026/3有価証券報告書の事業等のリスク・MD&A、会社のリスク管理開示。
会社は為替ヘッジ、供給元分散、BCP、顧客・サプライヤー情報の管理を挙げている。
対応策はリスクをなくすものではなく、発生時の影響を減らす仕組みである。

最大の事業変動要因

電子材料需要が強くても、製品構成が価格下落する旧製品へ偏ればセグメント利益は伸びない。
FY2026/3のオプトロニクスでは利益が減り、FY2027/3 2Qも売上微増と利益減が併存した。
事業別の数量・単価・高付加価値比率と、営業利益率を同じ開示期間で追う必要がある。

財務余力が評価へ直結しない場合

現預金はFY2026/3末で3,598億円、親会社持分比率79.6%、借入金は少額である。
現金ベースのNC代理値は時価総額の17.3%に相当するが、分類できない有価証券を含まず、資本配分の自由度を完全に表すものではない。
設備・R&D・成長領域へ資金を使ってもROEが改善しない場合、強い貸借対照表が利益成長の代わりとして評価されるとは限らない。

バリュートラップになりうる経路

現金が厚いままでも、成熟製品の収益縮小と新規投資の立ち上がり遅れが続けば、現預金を除いた利益倍率の低さだけでは企業価値の改善を説明できない。
FY2029/3(2028年度)のROE14%・営業利益率20%に向け、投資後の利益、設備稼働、還元後の資本構成を併せて確認する。


6. バリュエーション統合と論点整理

市場が置く評価軸

FY2026/3末のPER15.5倍、PBR1.79倍、EV/EBITDA6.74倍に対し、同じ時価総額をFY2027/3会社予想に当てたPERは約14.6倍。
現値未取得のため、いずれも報告日現在の市場倍率ではなく、FY2026/3後の成長・リスク評価は捉えていない。

**評価を支えるのは高い利益率、工程に組み込まれる機能材料、海外売上比率、厚い親会社持分であり、慎重な見方を支えるのはオプトロニクス減益、在庫増、大型CDMO案件への依存である。
**市場参加者のカバレッジや需給の内訳は今回の資料で検証できないため、倍率差の原因とは断定しない。

条件が変わる場合の評価軸

高付加価値材料とCDMOの商用案件が伸びる場合

AI関連の回路材料、電気剥離テープ、核酸CDMOが継続的な量産に進み、オプトロニクスの利益率も安定するなら、評価の中心は短期の電子機器サイクルから製品認定後の継続収益性へ移る。FY2029/3(2028年度)に営業利益率20%、ROE14%を達成するには、売上増だけでなく利益ミックスと投下資本効率の改善が必要となる。

FY2027/3計画に沿って利益率を保つ場合

改定会社予想の売上11,100億円、営業利益2,000億円、親会社帰属利益1,420億円へ着地するなら、足元の17〜18%営業利益率とFY2026/3期末倍率を基準に、収益の再現性を確認する構図となる。
2Q累計では通期営業利益計画の52.9%まで進み、残る論点は下期の製品ミックス、オプトロニクスの利益回復、ヒューマンライフの継続受注である。

価格競争・為替・案件遅延が重なる場合

LCD向けの縮小を新規品が埋められず、円高が進み、大型核酸案件の立ち上がりも遅れる場合は、利益の持続性が低く見積もられやすい。
過去PER11.6倍の観測域や比較企業のEV/EBITDA6〜8倍を参照し、短期利益と正常化利益のどちらが評価の基準となっているかを読み直す。
過去倍率は将来の評価を約束する数値ではない。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年11月27日 FY2027/3中間配当の支払開始 実施された配当とFY2027/3年間配当の会社方針
2026年12月31日 FY2027/3第3四半期の期間末 テープ、光学、核酸の受注・在庫・為替状況
2027年1月26日 FY2027/3第3四半期決算の確認日(発表日未公表。FY2026/3第3四半期の2026年1月26日を参考に置く) 通期計画に対する営業利益進捗、製品ミックス、通期予想修正
2027年3月24日 自己株式取得の期間末 上限に対する取得実績、残余資金、取得後の株数
2027年3月29日 FY2027/3配当基準日の最終取引日(2027年3月31日基準、2営業日前) 配当方針・期末配当予想の変更有無
2027年3月31日 FY2027/3期末 運転資本、設備投資、借入、親会社持分の変化
2027年4月27日 FY2027/3本決算の確認日(発表日未公表。FY2026/3本決算の2026年4月27日を参考に置く) 実績対会社計画、FY2028/3予想、FY2029/3目標への進捗
2028年1月31日 豊橋新工場の完成予定月末の確認日(会社予定は2028年1月。日単位の完成日は未公表) 完成・量産移行・顧客認定・設備稼働率

2027年1月26日と4月27日は発表確定日ではなく、FY2026/3の開示日を参照した確認日である。
2027年3月29日は2027年3月31日の配当基準日に対する2営業日前として置いた。
会社の年間予定が開示された場合は日付を更新する。
配当基準日は2027年3月31日。
取引所営業日はJPX 2027年3月カレンダーを参照した。

M&A・出資を評価する視点

日東電工は資金配分先にM&Aを含め、成長技術や新市場への参入を選択肢としている。
取得対象が既存の顧客認定・工程設計・材料技術と接続すれば、研究開発期間の短縮、販売チャネル共用、設備稼働の向上が見込める。
逆に顧客競合、製品重複、品質基準の差、規制対応、統合費用が大きければ、規模だけ増えて利益率を損なう。

許容EVは、取得後キャッシュフロー、既存NCの用途、追加設備・R&D、のれん・減損耐性を踏まえて決まる。
デューデリジェンスでは、契約済み売上と見込み案件の区別、CDMOの品質監査・規制査察、特許とノウハウの権利範囲、歩留まり、顧客切替コスト、環境債務、運転資本、設備更新額、シナジー達成の担当者と期限を検証する。
公表資料では案件別の投資額・回収計画が確認できないため、推定のシナジー額は設定しない。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 利益率はセグメント構成と価格決定力で読む

日東電工はFY2026/3に売上収益1兆282億円、営業利益1,836億円を計上し、営業利益率は17.9%だった。
化学業種中央値6.99%を上回るが、4事業が均等に稼ぐわけではない。
オプトロニクスはFY2026/3売上の約51%を占め、営業利益の大きな部分を生む一方、FY2027/3 2Qは利益がFY2026/3 2Q比4.1%減った。
最大事業の構成比と利益の方向を並べて見ると、連結増収の質を取り違えにくい。

機能材料では、顧客の工程認定に入ると仕様変更・再評価に時間がかかり、単純な値下げ競争とは異なる継続性が生まれる。
ただし認定は数量や価格を保証しない。
旧世代品の縮小、顧客の製品サイクル、工程合理化が重なると、高い技術障壁の中でも収益は下がりうる。
売上シェアではなく「どの用途の利益率が上がり、どの製品が縮小しているか」を追うのが、機能化学企業を読む型である。

📚 着眼点2: 現金の厚さと資本効率は別の問い

FY2026/3末の日東電工は現預金3,598億円、親会社持分比率79.6%、ROE12.2%。
現金代理の標準NCは時価総額の17.3%に相当するが、短期有価証券の独立区分がなく完全なNCではない。
現金を持つことは財務の耐久性を高める一方、保有資金が利益成長や資本効率に転換されるとは限らない。

FY2029/3(2028年度)の目標は営業利益2,200億円、利益率20%、ROE14%。
**設備投資後FCF、研究開発の売上化、自己株取得後のROEを追い、現金が利益成長・資本効率へ結びつくかを見る。
**FY2026/3 ROE12.2%は旧計画15%を下回った。

📚 着眼点3: 日東電工の指標ポジショニング

以下の化学業種中央値はFY2026/3の156社集計。
全上場中央値は同一定義・同一基準日のデータがない指標を空欄にした。
会社の業種分類、利益構成、負債定義、期末スナップとの違いを踏まえ、中央値だけで価値判断しない。

指標 日東電工 化学業種中央値・選定比較 全上場中央値 良い目安 読み方
PER(FY2026/3実績) 15.5倍 比較資産はなし — 利益成長・事業リスクに依存 期末スナップで、2026-11-05現値ではない
PBR(FY2026/3) 1.79倍 比較資産はなし — ROEと資本コストを併読 親会社持分比率が高くても成長期待は別
ROE 12.2% 6.6% — 10%超は効率の一目安 業種中央値超だが会社目標15%未達
営業利益率 17.9% 7.0% — 業態差が大きく一律基準なし 光学・テープ・CDMOで差がある
純利益率 13.0% 5.4% — 税・特別損益を含め複数年で見る FY2026/3利益率は業種中央値超
親会社持分比率 79.6% 65.2% — 業種・投資負担に応じて判断 負債耐性は高い
流動比率 3.53倍 2.28倍 — 1.5倍超は参考目安 現金以外の流動資産の質も点検
3年売上CAGR 3.4% 2.5% — 成長率と利益率を併読 拡大は緩やか
配当利回り(FY2026/3実績) 1.96% 3.07% — 配当性向・成長投資と併読 FY2027/3配当72円とは基準が異なる
配当性向 30.4% 35.1% — 事業投資後の余力を見る DOE4%・総還元性向60%方針も確認
EV/EBITDA 6.74倍 日東6.3、信越7.7、旭化成6.7(FY2025/3) — 事業構成・景気循環で異なる 時価基準日が一致しない比較

化学中央値はEDINET DB業種ベンチマーク。
業種中央値はFY2026/3、選定比較のEV/EBITDAはFY2025/3で株価基準2026-06-21。
PER・PBR・利回り・EV/EBITDAの全市場中央値は確認できないため補わない。
財務比率を比べる際は、実績期間・市場価値時点・連結持分の定義をそろえることが前提となる。


参考情報

ガバナンス・企業情報

FY2026/3有報によると、日東電工は1918年設立、大阪本社、社長は赤木達哉、連結従業員26,477人。
子会社87社、関連会社1社、海外売上比率80%超。
IFRS適用、監査法人は有限責任あずさ。
FY2026/3末借入は小さく、有報で主要取引銀行は確認できない。
取締役会・監査役会の監督と全社リスク管理体制も開示している。

大株主(2026-03-31現在)

順位 株主名 持株比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 25.31% 信託銀行
2 株式会社日本カストディ銀行(信託口) 10.23% 信託銀行
3 Chase Manhattan Bank N.A. LondonSecs Lending Omnibus Account 2.09% カストディ名義
4 State Street Bank and Trust Company 505223 2.01% カストディ名義
5 JPモルガン証券株式会社 1.95% 証券会社

出典: 日東電工 株式の状況、FY2026/3有価証券報告書。信託・カストディ口座名義であり、最終受益者や議決権行使主体と同一とは限らない。

データ時点と出典

財務実績はFY2026/3末、最新開示はFY2027/3 2Q累計(2026-09-30)、市場倍率はFY2026/3期末スナップショットである。
2026-11-05の現値データを取得できなかったため、期末倍率を現況値として表示していない。
FY2026/3総負債は有価証券報告書の292,653百万円を優先し、構造化財務データとの差1,075百万円を検証記録に残した。
標準NC・広義NCAVはIFRS金融資産分類の欠測があり、現金ベース代理値・有価証券を含めない下限値と明記した。
健全性スコアは分析表示95/100を採用したが、会社詳細表示100/100と不一致で、算定定義は未確認である。

主な出典: