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大成建設株式会社

【経済・建設業】建設業企業バリュエーション分析更新 2026-08-30

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 大成建設の事業構成
  3. 2. 財務の実力
  4. 2.1 損益計算書(PL)5期+来期予想(百万円・EPS円)
  5. 2.2 貸借対照表(BS)5期(百万円・BPS円)
  6. 2.3 BS詳細主要科目(百万円)
  7. 2.4 キャッシュフロー(CF)5期(百万円)
  8. 2.5 受注高・受注残高(有報MD&A・連結・百万円)
  9. 2.6 運転資本CCC(厳密法・FY2026/3のみ算出可)
  10. 2.7 配当推移(円・%)
  11. 2.8 予想精度(会社予想 vs 実績)
  12. 2.9 健全性チェック9項目(事業会社基準・FY2026/3)
  13. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  14. 3.1 時価総額・株価の基準
  15. 3.2 標準NC 5期推移(現預金+短期有価証券−有利子負債・百万円)
  16. 3.3 広義NCAV 5期推移(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計・百万円)
  17. 3.4 CN-PER(標準NCがマイナスのケース)
  18. 3.5 EV/EBITDA分析(自社現値ベース+競合3社)
  19. 3.6 EV/EBITDA感度テーブル(純有利子負債定義の違いによる)
  20. 3.7 倍率ベース感応度(適用PERレンジ)
  21. 3.9 バリュエーション乖離コメント(事実並置)
  22. 4. 同業比較 — 差分の論点
  23. 4.1 競合選定基準
  24. 4.2 最新期比較テーブル(自社=現値ベース/競合=期末基準)
  25. 4.3 競合3期推移(来期予想含む・百万円/円)
  26. 4.4 運転資本CCC競合比較
  27. 5. リスクと論点
  28. リスクマトリクス
  29. 6. バリュエーション統合と論点整理
  30. (a) 乖離の構造分析
  31. (b) 条件分岐シナリオ
  32. (c) 監視ポイント
  33. (d) M&A・出資検討の論点整理
  34. 7. 学びのポイント
  35. 参考情報
  36. 大株主構成(上位5位)
  37. データ基準日の違い
  38. 出典一覧

大成建設株式会社(1801)銘柄分析レポート

エグゼクティブサマリー

現値ベース(2026-08-30・株価¥12,690)で時価総額は 20,686億円。
FY2026/3 は東洋建設連結子会社化を経て売上2,089,091百万円・営業利益187,973百万円(営利率9.0%)、来期FY2027/3会社予想は増収減益(純利益−11.2%)。
現預金・短期有価証券より有利子負債が上回るため標準NCはマイナスで、NCAV型の割安株ではなく投資拡大局面の大型ゼネコンという定量的特徴が出ている。
健全性スコアは 68/100(格付B)で競合大林組(83)を下回る。

指標 値
時価総額(現値) 20,686億円
予PER(FY2027/3予想EPS基準) 13.70倍
予EV/EBITDA(現値ベース) 10.81倍
配当利回り(予想DPS/現在株価) 2.99%
標準NC比率(現値時価総額比) −6.98%(マイナス=ネット有利子負債超過)
広義NCAV比率(現値時価総額比) 11.58%
健全性スコア 68/100(格付B)

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

業界全体の構造は 建設業業界基礎ガイド を参照。本レポートは大成建設固有の事業構造に絞る。

大成建設は鹿島・清水建設・大林組と並ぶスーパーゼネコン4社の一角であり、連結売上2,089,091百万円(FY2026/3)を建築・土木・開発の3セグメントで稼ぐ受注産業型企業である。
建設業の収益ドライバーは「受注→設計・施工→完成引渡」で売上を計上する工事進行基準にあり、単体次期繰越高(手持工事高)は3,357,947百万円に達する。
この手持工事の厚みが翌期以降の売上原資を規定しており、連結受注高は2,436,248百万円(前期2,437,591百万円とほぼ横ばい)で、急拡大でも急減速でもない安定推移を示す。
コスト構造は資材費・労務費が主体で、請負代金の物価スライド条項による価格転嫁の可否が採算を左右する。
運転資本面では、CCC 66.3日(売上債権回転168.0日+棚卸2.3日−仕入債務104.0日)と、完成引渡までの立替期間の長さが特徴であり、大型工事が進行するほど運転資本負担は重くなる。
資本集約度は東洋建設の連結子会社化に伴う投資CF−195,895百万円(FY2026/3)に象徴されるように、単なる労働集約型ではなく大型投資を伴う段階に入っている。

大成建設の事業構成

セグメント別売上構成(FY2026/3・百万円・セグメント間取引含む)

セグメント 売上高 構成比 営業利益 営業利益率 売上YoY
建築 1,248,588 59.8% 78,370 6.28% −9.0%
土木 679,740 32.5% 95,557 14.06% +7.8%
開発 144,174 6.9% 23,952 16.61% +4.8%
その他 16,588 0.8% 2,360 14.23% +23.4%

3セグメントはそれぞれ異なる役割を担う。
建築セグメントは都市再開発・オフィスビル・半導体工場やデータセンターなどの産業施設を担い、売上構成比59.8%と稼ぎ頭でありながら営業利益率6.28%と相対的に低採算である。
これは大型工事の初期段階での先行費用計上や、資材・労務費高騰の価格転嫁タイミングのズレが影響しやすい構造による。
一方、土木セグメントはトンネル・ダム(南摩ダム等)・鉄道インフラなど公共性の高いインフラ工事を担い、売上構成比32.5%でありながら営業利益率14.06%と高採算であり、営業利益額では建築(78,370百万円)を上回る95,557百万円を稼ぐ主力収益源となっている。
開発セグメントは大成有楽不動産等を通じた不動産事業で、売上構成比6.9%と小さいながら営業利益率16.61%と最も高く、都市再開発の川下部分(保有・運営)を担う。
つまり大成建設は「低採算だが規模の大きい建築」と「高採算のインフラ・開発」という二本柱構造にあり、セグメント間の収益貢献度と売上貢献度が逆転している点が特徴である。

主要案件としては、新宿駅西口地区開発、八重洲一丁目北地区、常盤橋街区再開発、東京外環道路、南摩ダム、東京エレクトロン宮城の第3開発棟などが有価証券報告書の完成・手持工事に記載されている。
特定顧客への売上依存度は低く、完成工事高の10%以上を占める単一相手先は存在しない。
海外は限定的で完成工事の海外比率は4.3%にとどまり、国内の都市再開発とインフラが収益基盤の中心である。

スーパーゼネコンの参入障壁は、単発の技術力だけでなく「施工実績の蓄積」「発注者からの与信」「手持工事の厚みが生む次期売上の可視性」の三位一体で形成される。
新規参入者はこの3つを同時に満たせないため、上位4社の寡占構造が長期にわたり維持されてきた。

固有事象として、2025年に発表された東洋建設(海洋土木大手)のTOBによる完全子会社化がある。
大成建設は陸上工事に強い一方で海洋土木は手薄であり、東洋建設の洋上風力・海洋インフラ領域を取り込むことで陸海の事業補完が進んだ。
この結果、のれん75,945百万円(無形資産合計116,200百万円の一部)が計上され、土木・建築両セグメントへの寄与が期待される戦略的布石となっている。
統合後の売上規模は業界2位の大林組に接近する水準に達するとの報道もあり、業界再編の一事例として位置づけられる(The社史、M&A Online)。


2. 財務の実力

2.1 損益計算書(PL)5期+来期予想(百万円・EPS円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 来期予想FY2027/3
売上高 1,543,240 1,642,712 1,765,023 2,154,223 2,089,091 2,420,000
営業利益 96,077 54,740 26,480 120,160 187,973 188,000
経常利益 103,247 63,125 38,910 134,505 195,777 187,000
当期純利益 71,436 47,124 40,272 123,824 170,004 151,000
EPS(円) 350.88 241.24 215.75 682.78 1,025.53 926.33

2.2 貸借対照表(BS)5期(百万円・BPS円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
総資産 1,956,200 2,016,717 2,583,641 2,428,837 2,714,550
流動資産 1,296,356 1,353,485 1,631,175 1,599,698 1,637,711
固定資産 659,844 663,232 952,466 829,139 1,076,838
負債合計 1,083,365 1,182,773 1,622,641 1,528,138 1,724,619
純資産 872,835 833,944 961,000 900,699 989,931
自己資本比率(official) 44.4% 41.1% 36.0% 35.7% 34.9%
BPS(円) 4,335.78 4,402.01 5,039.98 5,041.43 5,816.09

2.3 BS詳細主要科目(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
投資有価証券 380,271 386,906 478,191 428,326 466,292
現預金 496,760 415,863 430,754 295,963 272,974
短期有価証券 — — — 60,000 —
売上債権 575,600 688,768 864,694 939,160 961,838
棚卸資産 3,389 4,003 6,841 6,992 10,900
仕入債務 423,349 476,115 597,704 553,376 501,553

有利子負債内訳(短期借入金+1年内返済社債+長期借入金+社債・百万円):

内訳 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
短期借入金 97,901 81,965 110,530 115,212 161,986
1年内返済社債 20,000 — — 10,000 10,000
長期借入金 66,279 79,606 142,787 127,799 205,428
社債 40,000 40,000 50,000 50,000 40,000
有利子負債合計 224,180 201,571 303,317 303,011 417,414

※参考: FY2026/3有報の「資金調達に係る有利子負債残高」は463,400百万円(リース・その他含む。うちノンリコース債務46,000百万円)。
標準NC算出には上記4科目合計417,414を使用する。

2.4 キャッシュフロー(CF)5期(百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
営業CF 80,507 30,101 40,611 −13,841 147,287
投資CF −37,680 −14,058 −138,747 10,531 −195,895
財務CF −41,863 −98,668 109,392 −133,769 24,397
FCF(営業+投資) 42,827 16,043 −98,136 −3,310 −48,608
減価償却費 10,907 11,478 13,110 16,391 16,766

2.5 受注高・受注残高(有報MD&A・連結・百万円)

受注実績(連結):

セグメント FY2025/3 FY2026/3
土木 700,226 720,036
建築 1,573,187 1,553,868
開発 150,729 145,755
その他 13,448 16,588
合計受注高 2,437,591 2,436,248

2.6 運転資本CCC(厳密法・FY2026/3のみ算出可)

2.7 配当推移(円・%)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 来期予想
1株配当 130 130 130 210 310 380
配当性向 37.0% 53.9% 60.3% 30.8% 30.2% 41.0%

2.8 予想精度(会社予想 vs 実績)

2.9 健全性チェック9項目(事業会社基準・FY2026/3)

# 項目 値 備考
1 自己資本比率(official) 34.9% 5期連続で低下傾向(44.4%→34.9%)
2 流動比率 要追加データ 流動負債の内訳が本パックのデータセットに含まれず算出不可
3 D/Eレシオ 0.42 有利子負債417,414 ÷ 純資産989,931
4 ROE 17.98%(official 18.7%)
5 ROA 6.26% 当期純利益170,004 ÷ 総資産2,714,550
6 インタレストカバレッジ 公開情報で未確認 支払利息が本パックのデータセットに含まれず算出不可
7 営業CF/有利子負債 35.3% 147,287 ÷ 417,414
8 配当性向 30.2%
9 売上高成長率(YoY) −3.0% (2,089,091−2,154,223)÷2,154,223

3. 市場評価を読む — バリュエーション

3.1 時価総額・株価の基準

3.2 標準NC 5期推移(現預金+短期有価証券−有利子負債・百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
現預金 496,760 415,863 430,754 295,963 272,974
短期有価証券 0 0 0 60,000 0
有利子負債合計 224,180 201,571 303,317 303,011 417,414
標準NC 272,580 214,292 127,437 52,952 −144,440

3.3 広義NCAV 5期推移(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計・百万円)

項目 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
流動資産 1,296,356 1,353,485 1,631,175 1,599,698 1,637,711
投資有価証券×0.7 266,190 270,834 334,734 299,828 326,404
負債合計 1,083,365 1,182,773 1,622,641 1,528,138 1,724,619
広義NCAV 479,181 441,546 343,268 371,388 239,496

3.4 CN-PER(標準NCがマイナスのケース)

3.5 EV/EBITDA分析(自社現値ベース+競合3社)

会社 EV/EBITDA
大成建設(自社・現値ベース) 10.81
大林組(期末基準) 10.75
清水建設(期末基準) 14.27
鹿島建設(期末基準) 13.03

3.6 EV/EBITDA感度テーブル(純有利子負債定義の違いによる)

定義 差引項目(百万円) EV(百万円) EV/EBITDA
標準NC定義(現預金+短期有価証券−有利子負債を差引) 標準NC=−144,440 2,068,586−(−144,440)=2,213,026 10.81倍
広義NCAV定義(流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計を差引) 広義NCAV=239,496 2,068,586−239,496=1,829,090 8.93倍

3.7 倍率ベース感応度(適用PERレンジ)

来期予想EPS 926.33円に対し、想定PERレンジのみを列挙する(円換算・株価水準の算出は行わない)。

PER水準 備考
10.0倍 保守的レンジ下限(競合3社の期末PERレンジ14.9〜15.6倍を下回る水準)
12.0倍 やや保守的
13.70倍 現値ベース予想PER(実績値)
15.0倍 競合3社レンジ内(14.9〜15.6倍)に近似
17.0倍 競合3社レンジ上限超

3.9 バリュエーション乖離コメント(事実並置)


4. 同業比較 — 差分の論点

4.1 競合選定基準

4.2 最新期比較テーブル(自社=現値ベース/競合=期末基準)

項目 大成建設(自社・現値) 大林組 清水建設 鹿島建設
時価総額(百万円) 2,068,586 2,623,761(PER×純利益で近似) 1,886,593(同) 2,766,410(同)
PER 13.70倍 15.1倍 14.9倍 15.6倍
PBR 2.18倍 2.06倍(推定) 1.93倍(推定) 1.95倍(推定)
EV/EBITDA 10.81倍 10.75倍 14.27倍 13.03倍
ROE 18.0%(official 18.7%) 13.75% 13.15% 13.07%
ROIC 16.5% 16.3% 10.07% 12.83%
自己資本比率 34.9% 41.88% 37.72% 39.63%
D/E 0.42 0.223 0.532 0.580
配当利回り 2.99% 2.34% 2.59% 2.46%
営業利益率 9.0% 7.53% 5.77% 7.85%
健全性スコア 68/100 83 73 78

※大林組・清水建設・鹿島建設のPBRは「PER×EPS」で推定した株価をBPSで除して算出した推定値(実際の期末株価とは差異がありうる)。

4.3 競合3期推移(来期予想含む・百万円/円)

会社 FY2026/3売上 FY2026/3営業利益 FY2026/3純利益 来期予想売上 来期予想営業利益 来期予想純利益 来期予想EPS 来期予想DPS
大成建設 2,089,091 187,973 170,004 2,420,000 188,000 151,000 926.33 380
大林組 2,586,258 194,678 173,759 2,945,000 180,000 157,000 228.39 94
清水建設 2,057,802 118,669 126,617 2,310,000 153,000 165,500 243.72 77
鹿島建設 3,067,275 240,780 177,334 2,900,000 200,000 170,000 368.2 146

4.4 運転資本CCC競合比較


5. リスクと論点

リスクマトリクス

リスク要因 影響度 発生可能性 具体的影響シナリオ 対応状況
建築事業の採算変動 大 中 大型工事の初期段階集中や価格転嫁の遅れで建築セグメント利益率が再び圧縮される 物価スライド条項の活用・受注選別の強化を有報で言及
資材・労務費高騰の転嫁遅れ 大 中〜高 円安・地政学リスクによる資材調達コスト上昇と技能労働者の高齢化・人手不足による労務費上昇が同時進行し、価格転嫁が追いつかない期間に採算が悪化 発注者との価格転嫁交渉・BIM/CIM等の生産性投資
担い手不足・時間外労働規制 中 高 2024年4月施行の時間外労働上限規制(月45時間・年360時間)により工程が延びコストが増加 ロボット施工・DX投資の加速(業界共通課題)
大型投資(東洋建設のれん)の減損 中 低〜中 シナジー実現が遅延しのれん75,945百万円の減損リスクが顕在化 統合後のPMIの進捗を今後の開示で確認
金利上昇による調達コスト増 中 中 標準NCがマイナス転落しており、金利上昇局面では有利子負債の調達コスト増が利益を圧迫 財務政策でハードルレート・リスク資産残高の総量規制枠を設定済み
WARNING

建築事業の採算ボラティリティ: 大成建設の建築セグメントはFY2024に営業赤字−56,143百万円を計上した実績があり、FY2026では+78,370百万円へ急回復している。
この振れ幅の大きさは、大型工事の初期段階での先行費用計上と、資材・労務インフレの価格転嫁タイミングのズレに起因する構造的な特徴である。
現在の建築事業の高採算化は、価格転嫁が奏功した局面と見ることもできるが、資材・労務インフレが再燃した場合には同様の採算悪化が再発するリスクを内包している。

WARNING

自己資本比率低下と資本効率の論点: 自己資本比率は5期で44.4%→34.9%へ低下し、標準NCも272,580百万円から−144,440百万円へとマイナス転落した。
これは東証が求める資本コストを意識した経営の要請と対をなす形で、投資拡大(東洋建設連結子会社化等)と株主還元のバランスをどう取るかという論点を提起する。
大量保有報告書上、シルチェスター・インターナショナルが保有目的に「増配、自己株式の買入の頻度または総量、金庫株消却その他資本政策の変更」を明記しており(株式新聞Web)、資本配分の方向性は今後の開示で継続的に確認すべき論点である。


6. バリュエーション統合と論点整理

(a) 乖離の構造分析

大成建設の予EV/EBITDA10.81倍は大林組の10.75倍とほぼ並ぶ水準にある一方、清水建設14.27倍・鹿島13.03倍と比べると明確に低い。
予PER13.70倍も競合3社の14.9〜15.6倍レンジを下回っており、市場は大成建設をスーパーゼネコン4社の中で相対的に低い倍率で評価している構造にある。
標準NCがマイナスに転落しているため、キャッシュニュートラルPER(CN-PER)はPERを上回る計算構造となり、単純なPER比較よりも実質的な評価はさらに割安寄りに見える面がある。

この構造的な低評価には複数の要因が重なっている。
第一に、来期FY2027/3予想が増収減益(純利益−11.2%)であり、FY2026の特別利益(投資有価証券売却益等)剥落を織り込んでいる点が市場に警戒感を与えやすい。
第二に、建築セグメントの採算ボラティリティ(前述のFY2024赤字→FY2026黒字回復という振れ幅)が、利益の質に対する不透明感として残る。
第三に、自己資本比率の低下傾向(44.4%→34.9%)は財務健全性スコアにも反映されており(68/100・競合大林組83を下回る)、格付面での相対劣位が倍率に織り込まれている可能性がある。
第四に、東洋建設連結子会社化に伴う積極投資でFCFがマイナス−48,608百万円となっており、投資先行フェーズにある企業に対して市場が慎重な評価を下しやすい局面にある。

これらを踏まえると、現在の倍率格差は「見過ごされた割安」というよりも、増益率の鈍化予想・採算ボラティリティ・財務健全性の相対劣位・投資先行によるFCF圧迫という複数の構造要因が織り込まれた結果と解釈するのが妥当である。
ただし、東洋建設のシナジーが顕在化し建築セグメントの採算改善が持続すれば、この評価ギャップが縮小する余地も残されている。

(b) 条件分岐シナリオ

SUCCESS

上方シナリオ: 建築セグメントの採算改善が持続し、東洋建設とのシナジー(陸海一体の受注獲得・海洋土木領域の拡大)が業績に明確に表れ、あわせて株主還元方針(配当性向40%への引き上げ方針が公表済み)が強化されれば、業界平均PERレンジ(14.9〜15.6倍)への収斂が正当化されうる評価環境となる。

INFO

ベースシナリオ: 会社予想どおり増収減益(売上+15.8%・純利益−11.2%)で着地する場合、現状の相対的に低い倍率レンジ(PER13倍台・EV/EBITDA10倍台)がおおむね維持される展開が想定される。

WARNING

下方シナリオ: 資材・労務インフレが再燃して建築セグメントの採算が再び悪化する、あるいは東洋建設ののれん(75,945百万円)に減損が生じる、または公共・民間設備投資が想定より鈍化する場合には、PBR下限レンジへの評価の引き直しが生じる可能性がある。

(c) 監視ポイント

時期 イベント 開示で確認すべき点
2026年11月頃 FY2027/3 Q2短信 建築セグメント営業利益率の推移・着地営業利益が会社予想に対し順調か
2027年2月頃 FY2027/3 Q3短信 通期見通しの修正有無・受注高の進捗
2027年3月30日目安 期末配当権利付き最終日 権利確定3月31日の2営業日前が目安。配当方針(配当性向40%下限化)の実行状況
2027年5月頃 FY2027/3通期決算短信 純利益−11.2%の会社予想に対する着地・特別利益剥落の影響度
2027年6月頃 有価証券報告書 自己資本比率・標準NCの水準変化、のれん減損テストの結果
随時 中期経営計画(2024-2026)最終年度の進捗開示 TAISEI VISION 2030達成計画に対する到達度
随時 東洋建設シナジー・のれん評価に関する開示 PMI進捗、海洋土木領域の受注寄与度
随時 受注高動向 連結受注高が前期比横ばい(2,436,248百万円)から拡大に転じるか
随時 自己株取得・増配の開示 シルチェスターが提言する資本政策変更要求への対応状況

(d) M&A・出資検討の論点整理

買い手目線でのEV許容水準を規定する要因としては、標準NCがマイナス転落している点(ネット有利子負債超過)がまず挙げられ、企業価値評価においてネットデットの重さを踏まえた調整が必要になる。
加えて東洋建設子会社化に伴うのれん75,945百万円の存在は、将来の減損リスクとして評価に織り込むべき論点である。
一方で、単体次期繰越高3,357,947百万円という手持工事の厚みは、翌期以降の売上の可視性を高める資産性を持つ。

シナジー面では、東洋建設の統合で示されたように陸上工事と海洋土木の補完関係が明確な価値創出源となりうる一方、ディスシナジーとしては統合後のガバナンス・PMIコストや、異なる企業文化の摺り合わせに伴う一時的な非効率が想定される。
デューデリジェンス上の確認事項としては、工事損失引当金の妥当性、大型プロジェクトに伴う偶発債務(施工不良・工程遅延に関する訴訟リスク等)、のれんの回収可能性(東洋建設事業の収益性維持)、および技術者・現場責任者へのキーマン依存度が挙げられる。
これらは企業価値の許容水準を左右する要素として整理されるものであり、売買の推奨材料としてではなく、価値評価の前提条件として位置づけられる。


7. 学びのポイント

📚 着眼点1: 受注残高(手持工事高)と売上の関係

建設業は他業種と異なり、当期の売上高そのものよりも「手持工事高(次期繰越高)」が将来の収益力を示す先行指標として機能する。
大成建設の単体次期繰越高は3,357,947百万円に達しており、これは向こう1〜2年程度の売上原資が既に契約という形で確保されていることを意味する。
一方で連結受注高は2,436,248百万円と前期の2,437,591百万円からほぼ横ばいであり、手持工事の水準は高いものの、新規受注の勢いという点では拡大局面には入っていない。
この「ストックは厚いがフローの伸びは平坦」という組み合わせは、当面の売上は安定確保されている一方、中長期の成長ドライバーとしては新規受注の動向を継続的に注視する必要があることを示している。

📚 着眼点2: 標準NCマイナス化が示す「投資拡大局面のゼネコン」

大成建設の標準NCは5期で272,580→214,292→127,437→52,952→−144,440百万円と一貫して縮小し、FY2026についにマイナスに転落した。
これは現預金に対して有利子負債が上回る状態への転換を意味し、かつてのキャッシュリッチな建設業のイメージとは異なる財務プロファイルへの移行を示している。
この背景には東洋建設連結子会社化という大型投資があり、のれん計上・借入増加を伴う積極投資フェーズに入ったことが読み取れる。
自己資本比率も44.4%から34.9%へ低下しており、財務の安全性を多少犠牲にしてでも事業ポートフォリオの拡張(陸海一体化)を選択した経営判断として整理できる。
標準NCの水準だけを見て「割安な現金余剰株」と短絡的に判断すると、この構造変化を見誤ることになる。

📚 着眼点3: 大成建設の指標ポジショニング

指標 大成の値 同業平均(目安) 全上場中央値(目安) 評価コメント
PER 13.70倍 14.9〜15.6倍程度 14〜15倍程度 同業内では低めだが増収減益予想と特別利益剥落が要因のため単純比較に注意
PBR 2.18倍 建設業平均は1倍台が多いとされる目安 1倍台前半が目安 建設業内では相対的に高いがROE水準の高さが背景であることに留意
ROE 18.7% ゼネコン大手は10%前後が目安 8〜9%程度が目安 高水準に見えるが特別利益剥落後の来期は低下予想である点に注意
ROIC 16.5% 大林16.3%/清水10.1%/鹿島12.8%(目安) 目安レンジ幅広 同業上位水準だが投資先行局面である点に留意
EV/EBITDA 10.81倍 大林組並み・清水鹿島より低め 目安レンジ幅広 大林組並みの低評価だが投資先行によるFCFマイナスが影響している可能性に注意
配当利回り 2.99% 建設業大手は2〜3%台が目安 2%台前半が目安 平均的な水準に見えるが配当性向40%への引き上げ方針の実行度に注意
自己資本比率 34.9% 建設業大手は40%台が目安 40%前後が目安 低下傾向のため財務健全性の目安としては注意を要する
営業利益率 9.0% ゼネコン大手は5.8〜9.0%程度が目安 業種により幅が大きい 業界内では上位水準に見えるが建築セグメント単体は6.28%と低い点に注意
健全性スコア 68/100 大林組83が目安 — 競合対比で見劣りするため財務政策の変化に注意

参考情報

大成建設は東証プライム上場の建設業であり、連結子会社75社・持分法適用会社77社を擁するグループを形成している。
従業員数は連結18,503名(単体9,518名)で、都市再開発・大型産業施設を担う建築と、インフラ・洋上風力領域を含む土木の二本柱で事業を展開する。
海外事業は限定的で完成工事高に占める海外比率は4.3%にとどまり、国内市場への集中度が高い。
取締役会の構成やガバナンス体制については本レポート作成時点で詳細な最新開示の確認ができていないため、有価証券報告書・コーポレートガバナンス報告書での継続的な確認が望ましい。

大株主構成(上位5位)

大量保有報告書ベース(5%以上グループの最新値)であり、有報記載の上位10大株主とは母集団が異なる点に留意されたい。

順位 株主名 保有比率 区分
1 ブラックロック・グループ 7.45% 機関投資家(2026-08-20時点)
2 野村證券グループ 6.00% 証券会社系(2025-12-03時点)
3 三井住友トラストAM 5.33% 信託・資産運用(2025-09-19時点)
4 みずほ銀行グループ 4.34% 銀行系金融機関
5 シルチェスター・インターナショナル 4.02% 海外バリュー系投資家(2024-12-23時点。増配・自己株取得・金庫株消却等の資本政策変更要求を保有目的に明記)

データ基準日の違い

データ種別 基準日 ソース
財務データ基準日 2026-03-31 有価証券報告書
latest_disclosure 2026-03-31(通期短信2026-05-14)/Q1短信2026-08-06 決算短信
株価取得日 2026-08-30 現値(株価・時価総額)

出典一覧