📚 業界ノート

今日の学習テーマ「IPO後、買収実績が乏しい会社はM&A資金をどう選ぶか?」

IPO実務 · · 執筆: KID

このコーナーについて

CFO・経営企画デイリーの『実務家の視点』と『IPO実務』は、ニュースではありません。経営・CFO・経営企画・ファイナンス・M&A・IPO など、企業を動かす仕事をしている人のための学習コンテンツです。毎回ひとつの学習テーマを決め、実務家が公開している記事や公的な資料を読み比べて、ルールの上でどう考え、どう工夫しているかを整理します。最後に、明日から自社で確かめることをまとめます(実務家の視点では、編集部が創作した架空のケースで知恵の使い方も練習します)。

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概要

このテーマを選んだ理由: 上場したら買収資金を集めやすくなる、と思っていませんか。買収実績が乏しい会社が主幹事に何を相談し、資金の入る時期をどう見極めるかを考えます。

この記事で学べること:

  • 読み終えると、制度の確認事項と引受実務の判断の違いが分かる。
  • 読み終えると、買収の支払期限に合わせて調達手法を比べる条件を判断できる。

前提: 公募増資は、証券会社を通じて広く投資家に新株を募る方法です。M&A向けの引受けでは、成長戦略や実施体制、資金繰りの合理性が確認事項になります。

ひとことで言うと: 買収計画の説明と、支払日までの入金条件をそろえてから手法を選びましょう。

詳細

たとえば、買収の候補先を探し始めたところで、先に資金を集める案が出たとしましょう。実績が少ないから公募は無理なのか、それとも説明を詰めれば相談できるのか。まず、ルールと現場の判断を分けてみます。

制度で求められること

この疑問の出発点になるのが、鹿島幸裕氏のnote『上場企業のファイナンス手法』です。鹿島氏は、ルールが柔軟になっても、引受証券会社は過去実績からM&A計画を慎重に審査する傾向がある、と説明しています。これは実務家の見解です。

一方、日本証券業協会の『M&Aを資金使途とする募集の引受けに係る引受規則等の改正に関するQ&A』は、対象がまだ定まっていない場合も扱っています。買収分野・規模・時期に加え、人材や専門家の支援、候補先の検討方法などを確認する説明です。過去実績は「ある場合」の確認材料であり、実績の存在を一律の条件にはしていません。

金融庁の『事務局説明資料(成長資金の円滑な供給、市場インフラの機能向上等)』にも、M&A目的の公募増資の見直しが、日本証券業協会の検討として載っています。こちらは見直しの経緯を示す公的資料です。協会のQ&Aが説明する自主規制と、官庁が定める法令は分けて扱います。

現場での進め方

では、実際には何を詰めて調達方法を決めたのでしょうか。金融ナビの『インタビュー記事』で、freee株式会社(以下、freee)の原昌大氏は、証券会社と開示文案を議論し、潜在的なM&Aに向けた海外公募増資を実行したと話しています。海外投資家の株主基盤と、国内募集の追加準備も選択に影響しました。

違う進め方が、note株式会社の『資本業務提携と資金調達のお知らせ』です。同社は株式会社KADOKAWAへの第三者割当を決め、既存のM&A等向け資金が未充当の段階で、待機資金の追加を説明しました。未充当の理由は対象企業の探索中で、対象規模の拡大や複数案件への対応を狙う説明です。

入金の仕組みを分けたのが、株式会社TMH(以下、TMH)の『成長資金調達に関する補足説明資料』です。TMHは、CBの7億円は払込日に確定し、ワラントの約3.6億円は行使時に順次払い込まれる設計だと説明しています。CBは株式への転換ができる社債、ワラントは新株予約権で、権利を使う際に資金が入ります。

ただ、権利が行使されなければ資金は入りません。燦キャピタルマネージメント株式会社の『新株予約権の発行に関するお知らせ』では、株価低迷で既発行の新株予約権の行使が進まず、予定した投資資金の確保が難しくなったと説明しています。運転資金の確保も難しい状況で、追加調達を決議しました。

各社の説明を、調達時点の条件と結果・設計で並べるとこうなります。

当事者 条件 判断・工夫 結果・設計
freee 海外投資家の株主基盤がある 証券会社と開示を協議 海外公募増資を実行
note株式会社 既存の投資資金が探索中で未充当 提携先への第三者割当を決定 買収機会に備える待機資金を追加する計画
TMH 成長戦略の実行資金を用意する 固定価額のCBと新株予約権を組み合わせ 払込時と行使時で入金を分ける設計
燦キャピタルマネージメント株式会社 既発行の権利の行使が停滞 新たな新株予約権の発行を決議 投資資金不足に加え運転資金も課題

ここから、共通点と違いを押さえます。

比べて見えたこと

  • 資金を先に持つ狙いは似ていても、投資家との関係や資金繰りの状態は違います。
  • 払込時に入る資金と、行使を待つ資金では、買収代金の支払計画への組み込み方が変わります。

記事の本質はここ

上手いやり方・解釈のコツ

この違いを、自社の判断に使ってみましょう。編集部は「支払日からの逆算」と呼ぶ進め方を提案します。実績の少なさだけで手法を絞らず、買収を説明する材料と入金条件を一緒に確認する考え方です。

  • 候補探索の段階では、協会Q&Aの確認事項を使い、分野・規模・時期と実施体制を主幹事に示す。難しいと言われたら、どの説明が不足するかを聞きます。
  • 支払期限が見えたら、TMHの設計にならい、払込時に入る部分と行使待ちの部分を分ける。未行使でも支払えるかを確かめます。
  • 調達を先行させるなら、note株式会社の説明を手がかりに、未使用資金を追加する理由と探索の進み方を示す。freeeの経験からは、資金の出し手への説明も先に詰めます。

鵜呑みにしない点

ただし、この型だけで引受けや入金が決まるわけではありません。次の条件はまとめて留保します。

  • freeeの経験は協会の改正前で、海外投資家の基盤がある事例です。買収実績の乏しさが手法変更に直結した複数社の経験は、公開されている情報からは分かりませんでした。
  • 協会Q&Aだけでは現行規則の全改正や未使用資金の手続を確定できません。金融庁資料も現行の法令上の義務を示すものではありません。
  • 各社で実際の入金日、手数料、希薄化の比較条件はそろっていません。TMHの設計やnote株式会社の決定を、全額入金の実績には置き換えられません。
  • 燦キャピタルマネージメント株式会社は運転資金にも課題があります。また、freeeは成長段階で一定規模以上の銀行融資を期待しにくいと説明しており、借入れが代わりになるとも限りません。

自社に置き換えると

そこで、明日の会議では「公募ができるか」だけでなく、「支払日に使える資金は何か」を議題にしてみましょう。以下は編集部からの提案です。

  • 明日からの一歩は、買収の支払期限と調達資金の入金条件を同じ表に置くことです。
  • 主幹事には、計画の合理性、実施体制、引受採算のどこが論点かを確かめます。
  • 行使が進まない場合と探索が長引く場合を分け、借入れ・手元資金で補えるか、追加調達や計画の見直しを誰が判断するかを決めます。

買収資金の選択は、調達できる見込額と、支払日に使える資金を結び付ける仕事です。

まとめ

  • 買収実績の乏しさを、一律に公募増資ができない条件と決めつけない。
  • 買収計画の合理性と、引受証券会社が判断する論点を分けて確かめる。
  • 払込時の資金と行使待ちの資金を分け、支払期限から逆算する。
  • 資金が余る場合と足りない場合の判断担当を先に決める。

出典

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