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概要
このテーマを選んだ理由: 上場後も株を持っていてほしい。でも、新しい投資家に渡す株も要る。売出しの協力を頼む前に、この両方を満たす条件を考えるために選びました。
この記事で学べること:
- 読み終えると、上場制度の要件と株主への売却制限の違いが分かる。
- 読み終えると、募集規模を広げる場合と縮める場合の判断材料が分かる。
- 読み終えると、既存株主との交渉に何を持ち込むかを判断できる。
前提: IPOのオファリングには、会社が新しく株を発行する公募と、既存株主が持つ株の売出しがあります。ロックアップは、株主に一定期間の売却制限を約束してもらう話です。ここでは上場制度の要件と、会社ごとの交渉を分けて考えます。
ひとことで言うと: 迎えたい投資家が参加できる量と、残る株の扱いを一緒に決めましょう。
詳細
たとえば、主幹事から売出しの上積みを相談されたとしましょう。既存株主には保有継続をお願いしてきたので、なぜ今は売ってほしいのか、説明に迷う場面です。
制度で求められること
まず、交渉の前に確認したいのが、申請する市場の条件です。株式会社名古屋証券取引所の上場審査基準(プレミア市場・メイン市場)では、メイン市場の形式基準に、流通株式の要件を満たす方法と、公募又は売出しを実施する方法が示されています。「又は」でつながる選択肢です。
これは名証の上場制度の要件です。一方、澤井氏の経験談では、売出し数量の協議と、残る株のロックアップを約束してもらう協議が描かれています。市場の要件を満たす確認と、誰にどれだけ売却制限を頼むかは、別の議題として準備すると話しやすくなります。
現場での進め方
では、その交渉を実際の会社はどう進めたのでしょうか。プレイド Legalチームの澤井 貢介氏の連載の記事では、海外の大口投資家が参加できる規模を作るため、社外のVC株主に保有株の大部分の売出しを依頼しました。残る株にはロックアップを組み合わせ、一部の株主にはさらに長い期間を約束してもらっています。
違う判断をしたのがnote株式会社です。CFOの鹿島幸裕氏の「IPOにおけるプライシングとオファリング」によると、市場環境が厳しい中、海外投資家にも販売する方式から国内向けに変更し、希薄化(新株発行で既存株主の持分割合が下がること)を抑えるため、募集規模を縮めました。そうできた条件として、資本に厚みがあったことを挙げています。
一方、ビジョナル株式会社のAll VisionalのIPOを振り返る記事では、CFO兼CAOの末藤梨紗子氏が、海外の知見と中長期の支援を得るため、国内外で広く募集するグローバルオファリングへ変更したと説明しています。海外投資家の反応を受け、海外配分は当初の想定を超えたといいます。
判断を分けた条件を、同じ軸で並べてみましょう。
| 誰が | 何をしたか | 判断の条件 | 本文で示された結果 |
|---|---|---|---|
| プレイドの澤井氏ら | VCに大きな売出しと残存株の売却制限を依頼 | 海外の大口投資家が参加できる規模を確保したい | 売出しとロックアップへの協力を得た |
| noteの鹿島氏ら | 国内向けへ変更し募集規模を縮小 | 市場環境が厳しく、資本には余裕があった | 希薄化を抑えた募集を実施した |
| ビジョナルの末藤氏ら | グローバルオファリングへ変更 | 海外の知見と中長期の支援を得たい | 想定を超える海外配分になった |
この違いから、次のことが見えてきます。
比べて見えたこと
- プレイドとビジョナルは海外投資家を迎える目的が共通しています。ただ、前者は既存株主からの数量確保、後者は募集方式の選択が説明の中心です。
- noteは募集規模を縮めました。大きな募集が望ましいという考えも、資金の余裕と市場環境によって判断が変わります。
- ロックアップを長くするだけでは、新しい投資家が参加できる株の量の話は解けません。売出しと残存株を同じ表で考える余地があります。
記事の本質はここ
上手いやり方・解釈のコツ
ここで考えたいのは、長く持ってもらうか、多く売ってもらうかの二択を離れることです。編集部では、これらの経験を束ねた判断の順序を「参加条件からの逆算」と呼びます。次の順で、数量と約束の組合せを考える提案です。
- 募集方式を決める前に、迎えたい投資家と、その投資家が参加できる規模を確かめる。プレイドの数量確保とビジョナルの方式変更が手がかりです。
- 数量を頼む前に、会社の資金需要と希薄化を受け入れる範囲を確認する。noteの縮小判断は、資本の余裕とセットで考えます。
- 株主と協議するときは、売出し数量、残存株、売却制限、協力できる条件を並べる。プレイドの経験では、他の株主との公平感や、今回の条件が別案件の前例になることへの懸念も交渉の論点でした。
この順なら、協力が難しいと言われたときも、数量だけを押し問答にせず、投資家層や募集方式を見直す議題につなげられそうです。
鵜呑みにしない点
ただし、この順序を使えば同じ合意が得られるわけではありません。適用する前に、次の限界を押さえておきましょう。
- 名証の基準は、今回の経験談の会社へそのまま当てはめるものではありません。自社が申請する市場の要件を別に確認します。
- ビジョナルは方式変更に費用と実務の負荷がかかると説明しています。noteの縮小には資本の余裕があり、どちらも条件付きの選択です。
- 株主別の売出し割合と残存株、価格による解除条件をそろえた比較や、売却制限の長短による効果の検証はできていません。長期の制限が良い結果を生む、とまでは言えません。
自社に置き換えると
こうした条件を確かめるため、明日の会議には「誰に売ってもらうか」の一覧だけでなく、なぜその量が要るのかも持ち込んでみましょう。以下は編集部からのチェックリストです。
- 明日からの一歩として、主幹事に、想定する投資家層と募集規模の根拠を同じ資料にしてもらう。
- 会社に入る公募の資金と、既存株主の売却代金を分け、募集規模を変えても資金計画が成り立つか確認する。
- 株主ごとに、売出し可能量、残す株、売却制限を受け入れる条件と解除条件を確認する。合意済みの欄と協議中の欄を分ける。
- 必要量が集まらない場合は、募集方式や投資家層を見直す案を議題にする。株主への追加依頼だけを唯一の選択肢にしない。
売出しとロックアップの配分は、迎えたい株主が参加できる条件から組み立てる、と考えてみてはどうでしょうか。
まとめ
- 上場制度の要件と、個々の株主との売却制限の交渉は分けて準備する。
- 投資家が参加できる量と、既存株主が残す株の扱いを一緒に考える。
- 募集規模の拡大も縮小も、資金の余裕や準備体制とセットで判断する。
- 交渉前に、数量の根拠と、条件が変わったときの選択肢を用意する。
出典
- 第7回 資本政策と株主の関係 / プレイドIPOの軌跡(澤井 貢介 / Kosuke Sawai、2021年3月29日)
- IPOにおけるプライシングとオファリング(note(ノート)、2023年11月29日)
- 「DEALWATCH AWARDS 2021」受賞。チームの力で実現した「VisionalらしいIPO」を振り返る。(All Visional、2022年5月26日)
- 上場審査基準(プレミア市場・メイン市場)(株式会社名古屋証券取引所)